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No.31526の一覧
[0] フラン「聖杯戦争?なにそれすごい!」 東方×Fate/Zero[にわか](2012/03/23 23:38)
[1] ようじょパンツ[にわか](2012/03/31 23:15)
[2] ありがとうございます!ありがとうございます![にわか](2012/06/10 02:40)
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[31526] フラン「聖杯戦争?なにそれすごい!」 東方×Fate/Zero
Name: にわか◆99394fd8 ID:041d868a 次を表示する
Date: 2012/03/23 23:38









「なぁ桜ちゃん。おじさんのお仕事が終わったら、また皆で一緒に遊びに行かないか?お母さんやお姉ちゃんも連れて」



 彼は少女に向けて笑顔を出そうと、火傷のようにただれた表情を、なるだけ取り繕う。



「お母さんや、お姉ちゃん、は…そんな風に呼べる人は、いないの。いなかったんだって思いなさいって、そう、おじいさまに言われたの」



 少女はそう言いながら困惑した。
 言いつけを守る人形のように、心を殺して従順に。



「そうか……」



 彼は膝をつくと壊れかけた少女を抱きしめて、壊れかけた自分を温める。



「じゃあ、遠坂さんちの葵さんと凜ちゃんを連れて、おじさんと桜ちゃんと四人でどこか遠くへ行こう。また昔みたいに一緒に遊ぼう」



 彼は少女を諦めない。
 諦めてしまえば、一縷より細い希望はそこで完全に潰えてしまうから。



「―――あの人達と、また、会えるの?」

「ああ、きっと会える。それはおじさんが約束してあげる」



 彼は、できもしない約束を口にして決意する。
 そう言い訳しないと、心が折れてしまうから。



「じゃあ、おじさんはそろそろ、行くね」



 彼は自分を戒めるように少女から手を離すと、少女を見つめる。



「…うん。ばいばい、雁夜おじさん」



 少女は別れの言葉を呟くと、彼に小さい背中を見せて去っていく。






 少女は気づいているのだろうか? 
 これが最後かも知れないということに。
 いや。気づきながら、気づかない振りをしているのか…

 彼は少女の情けない背中を見送ると、暗い暗い穴蔵へ、自らの意思で降りていった。

















                ◇















 …運命の結果なんてものは、ありはしない。
 あるのは、揺るがぬ意思で掴んだ結果だけだ。
 些細な分岐点で変わってしまう未来なんてものは、運命でも何でもない。

 ただの偶然だ。

 人間に揺るがぬ意思さえあれば、運命は強固になり、変えることなんて出来はしない。
 目の前の彼は、暗い暗い地下へと降りている。
 あたしはこれこそが、運命だと断言したい。
 強固な意思を行動に起こす事こそ、揺るがぬ運命。

 うん、かっこいい響きね。

 まぁ彼みたいに意思はあっても、浅はかで貧相な想像力じゃ、結局、バッドエンドの運命一直線だけど。
 まあとにかく何が言いたいのかと言うと、偶然で変わってしまう未来なんて結局、誰かが本気で挑んでいなかっただけなのだ。
 だから確たる意思のない奴の偶然ほど、いじりやすいものはない。



 …あぁ、言い忘れてた。
 私は『運命を操る程度の能力』を持っている。
 聞こえはでかいけど、実際はそんな凄い能力ではない。些細な偶然をいじくって、結果を変えてしまう能力だ。
 十分すごい?いやいや。ホントにそんな事はない。
 先ほど言ったように、確たる意思を持つ人間の運命を変える事なんて、できはしない。

 目の前の例を上げると、蟲蔵に降りる彼の運命を私の能力で止める事はできない。
 彼には揺るがぬ意思があるからだ。
 要するに実際は『運命を操る程度の能力』なんて大それた能力ではなく、正しくは『偶然を操る程度の能力』って事。
 偶然を使って本人も気づいていない、やる気の種を小さく芽吹かせるだけ。

 だからといって、あまりにやる気がない奴の芽を芽吹かせても、芽は育たない。
 意思という本人が作り出す養分がなければ、変わるハズだった運命は枯れるのだ。
 要は運命はやる気次第ってことね。
 彼女に成長するだけのやる気が有ることを、切に祈るだけ。

 種が育つか枯れるかは本人次第。
 だから、これから何かが変わる事実があるとすれば、それは偶然。




 決して、運命じゃないわよ?
















                ◇


















 間桐桜は振り返った。

 理由はない。
 ただ偶然に、ただなんとなく気になったから。

 雁夜は背中を向けてよたよたと引きずりながら、あの苦しい蟲蔵へと向かっていた。

 その壊れそうな雁夜の背中を見て、桜は無意識にお腹を押さえた。
 無性に重く、もやもやを抱えながら、底へと沈む雁夜を見えなくなるまで見送った。
 桜はしばらく雁夜が降りた先を無表情で見つめると、再び前を向き、自分の部屋を目指して歩き出す。
 足取りは何故だか早い。廊下の絨毯を踏みしめる感触は、いつもより軽い感触だった。

「…今夜はムシグラへ行かなくてもいいの…」

 先ほど雁夜に話した喜びを、早足で歩きながら、呟くように確認する。

「…大事なギシキがあるからって…」

 今日のように、痛く、苦しい蟲蔵に行かなくてすむ事は、めったにない出来事なのだ。
 雁夜に話したことは子供として、至極当然の自慢だった。

 そのままあっという間に自分の部屋の前までたどり着くと、桜は自分の部屋のドアを無表情のまま見つめて固まった。



『ああ、知ってる。だから今夜は代わりにおじさんが地下に行くんだ』



 雁夜が抱きしめてくれた事を桜は思い起こした。抱きしめられた暖かさは、今もまだ肩に残っている。
 自分の足取りは何故こんなにも軽いのか。蟲蔵へ降りる雁夜を見て、何故こんなにもほっとするのか。

 桜は答えに気づいている。
 目をそらし、聞こえない振りをていただけだ。

「…わたし…よろこんでるの?」

 ゴンと、ドアにおでこを付けて寄りかかる。

「雁夜おじさんが、代わりに…ムシグラ…行くの…」

 それはこの家に来て、初めて感じた感情だった。



 罪悪感。



 その一つの感情が目覚めると、潰し、殺しきったハズの心の鎧が、がしゃがしゃと音を立てて剥がれ落ちていた。

 感情と共に、桜はその場でズルズルおでこを引きずってしゃがみ込むと、うずくまる。

 なんであんな苦しい所に行くのに、あんなに笑顔なの?
 なんであんな痛いことされるのに、あんなに優しいの?
 なんでこんなに気持ち悪いのに、抱きしめてくれるの?
 なんで死んじゃいそうなのに、話してくれるの?
 なんで?ナンで?ナんデ?ナンデ?

 桜の頭をぐるぐる回る。

「…っう゛!?」

 口を両手で抑えると、両手から溢れさせて嘔吐した。
 体が現実を拒絶するかのように、胃から全ての内容物を吐き出さす。
 出す中身がなくなっても、さらにげぇげぇ廊下に吐き出そうとする桜は、声だけを永遠に吐き出していた。

 鎧のない小さい心は、地獄の現実には耐えられない。

 しばらくして収まると、現実を見つめる瞳は、視線を定めず虚空を見つめていた。

 振り向かなければ気づけなかった、雁夜の小さい背中を思い起こして。

「…いか…なきゃ…」

 桜は、汚れた服も気にせずに、よろよろ壁づたいに立ち上がる。
 しかしその足はがくがくと震え、足取りはおぼつかない。

「雁夜…おじさん…」

 しかし、気付いたからには引き返せない。引き返せる訳がない。
 彼女は一歩一歩確かに歩き、少しずつ歩調を早めて蟲蔵へと引き返す。

 暖かい肩を無意識に掴んでいた。















                ○















 おじいさまに許してもらう?
 代わりにわたしがムシグラに入る?
 痛い痛い痛い痛いおしおきを受ける?

 蟲蔵の入り口にたどり着くまでに、考えられたのはその程度のこと。
 とにかく何でも良かった。雁夜が死なずにすむのなら。

 桜は震える足と冷たい床に足をとられないよう、ゆっくり階段を降りる。
 一段一段、両手を冷たい壁に付けながら石段を降りると、真下に広がる蟲蔵の最深が見えた。
 それは桜にとって、初めて見る蟲蔵だった。

「…ムシがいない」

 その眼下は桜にとって、安心で腰を抜かすには十分だった。
 蠢くものがいない広い蟲蔵に、雁夜の人影を確認できたのも拍車だった。

 その高い位置からのしゃがんだ位置は、偶然にも二人の死角。
 バレれば臓硯が蟲を使って叩き出すのは間違いない。それがないということは、桜は気づかれていない証拠である。
 桜が臓硯に見つからなかったのは、儀式のために屋敷の結界以外の蟲だけを残し、引かせていた為だった。
 桜はそれほど深く考えてる訳では無いが、あるべくして起こった偶然が重なって、幼い彼女はそのまま隠れた。

 いけない事をのぞき見する子供。
 その胸中は同じ境遇の人間の身を、ただただ案じているだけだった。

 蟲蔵の最深で二人は何かを話しているが、桜は耳を澄ましても聞き取れなかった。
 二人の足元に何か丸い絵が描かれている事だけが見て取れるだけ。
 桜がされてきた事に比べて、ささいな魔法陣一つだけという儀式。

 大丈夫かもしれない――そう、桜が安堵しかけた時、

「告げる―――」

 雁夜の声が蟲蔵に響いた。




「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」




 その徐々に大きくなる声と魔力の渦に、桜は震えた。




「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者!」




 それでも桜はその光景から目を離さなかった。
 一言一言、発する言葉からは苦しみが乗せられていることに、桜は気づく。



「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」




 激しい魔力の渦の中で、雁夜の瞳から血が溢れるのを見た時、桜の胸は締め付けられた。
 小さい両手は拳を作り、歯を強く噛み締める。




「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」



 強烈な光だった。蟲蔵の闇が無くなるほどの光に、桜は目を瞑った。
 地下にもかかわらず、荒れ狂う風に恐れて身を縮こませる。
 目の前で行われてる儀式は、安堵を吹き飛ばすには十分だった。
 代わりに想像を絶する恐怖が、桜を覆う。

 肌で感じる黒い魔力に、体は逃げ出そうとするが、留まった。
 それは抱きしめてくれた人の為か。恐怖の為か。
 うつむいた顔をゆっくり上げて、恐る恐る瞼を開けたのは、自分の為でなかったのは確かだ。

 しかしそこまで。
 彼女は瞼を開けるまでの勇気だけが精一杯だった。

 瞳がどす黒い騎士を捉えた瞬間、桜は出口に向かって駆け出した。
 黒い騎士の目の前で膝をつく雁夜を無視して、必死で駆けた。

 心は恐怖だけで塗りつぶされていた。



















                ◇

















 部屋に飛び込んで鍵をかけると、汚れた服のままベットの布団にくるまった。
 歯をカチカチと鳴らして、目からはとめどなく涙が流れる。

 恐怖。

 この感情を封印するために、彼女は心を殺した。殺しきったハズだった。
 それが今になって噴き上がる。これまで殺してた分が、堰を切ってわき上がるかのように。

 恐怖を具現化したような存在を直視し、この家に来てから芽生えた根源の感情が、腹の中で暴れまわる。
 震えは止どまる事を知らず、寒さで打ち震える。

 だがそれも永遠ではない。

 次第に収まっていき、そうして訪れる安堵感。



 『バレていない』



 そう思いながら、自分の部屋に立てかけてある鏡を見ると、無機質な表情が涙を流して笑っていた。

「死んじゃった…」

 桜は鏡を見ながら、つぶやき続ける。

「うれしいの?あなた…?」

 毛布にくるまったままベットから落ちる。
 そのままゆっくり鏡の前まで這って、自分を見つめていた。
 鏡の中の自分の顔を撫でて、それが本当に自分の顔なのか確認する。

「そっか…死んじゃったから、うれしいんだ」

 桜は何故自分が涙を流しているのか、笑っているのか、その感情には気付けなかった。



















               ◇


















「あんたの嫌がらせには反吐がでそうだ」

 雁夜は荒い呼吸をしながら、血の涙を拭い、愚痴ひとつをこぼしていた。
 弱い英霊を強化する為のクラスに、最強の英霊を充てられたのだ。
 およそ、バーサーカーのクラスに相応しくない英霊なのは、一目瞭然だった

「なんじゃ?ワシからの最初で最後の祝儀は気に食わんかったか?ならば令呪ごと、放棄してもかまわんさ」

「ふざけろ。ありがたく利用させてもらうさ。糞爺」

 雁夜はバーサーカーへの魔力供給を切り、無理やり霊体化させた。
 強い英霊ほど、魔力供給は莫大となっていく。そこにバーサーカーのクラスの供給量も加算されれば、自身の負担と苦しみは臓硯思いつく限りで最大供給という訳だ。

「分かってるとは思うが、お前に植付けている刻印虫が死滅すれば、数秒でお前の魔力は空となる。夢夢、忘れるでないぞ?」

「そんなに恐れずとも、歯向かいはしないさ。その為のバーサーカーなんだろ?」

 その発言に臓硯はニヤリと笑う。

 雁夜は自身とバーサーカーの繋がりを初めて実感していた。
 刻印虫の擬似回路が死滅すれば、雁夜は一瞬で空い尽くされる。
 即ち、臓硯を殺せば植えつけた刻印虫が死滅し、雁夜の敗退は確定するという算段だ。
 それは魔力の供給バルブを握られたも同然だった。

 雁夜の残された勝算はおよそバーサーカーらしくない、自身の手に負えない強力なサーヴァントということだけだ。
 雁夜はそうと分かっててもかまわない。むしろ感謝したいくらいだと拳を握る。
 どうせ尽きる命なら、勝ち残る為に派手に燃やし尽くす。決意を拳に立ち上がると、蟲蔵の出口へと向かった。

「早速、敵情視察かの?召喚だけで満身創痍のおぬしでは、サーヴァントが揃った瞬間に終わるかものう?」

 そんな分かりきった忠告を聞きながら、雁夜は蟲蔵を後にした。






















                ◇


















 桜の滅多にない休日は無くなった。
 鶴野に髪を引きずられて叩き起こされると、まず自分の粗相の後始末をした。

 言われるがままに、それが終わり鶴野の部屋へ報告しに行く。
 酔っているのが相まってるのか、相当に機嫌が悪い。
 桜はいつも通りの死んだ表情で、何一つ変わらぬ態度で従順に従った。
 だから蟲蔵へ行くのも、いつもと何一つ変わらぬ表情でついて行く。

 だが、その内心は渦が巻いていた。

 雁夜の死に涙を流している自分に、笑っていた自分。
 いままでは感じなかったハズの恐怖。蟲蔵に向かう一歩一歩が、重く胸に沈む。
 自分がこれからされる事よりも、その先に何があるのかという恐怖。

 蟲蔵へ行けるという事は、雁夜の儀式が終わったことを桜は理解していた。
 潰されそうな心で蟲蔵に再び入ると、そこにはいつもと変わらぬ風景がひしめいている。
 それは桜の予想通りの光景であり、絶望するには十分だった。

 鶴野にとっとと脱げと言われ、桜は身につけている物をすべて石段の上に置く。
 全てを脱ぎ終わると、鶴野に言われずとも桜は石段を降りていった。
 いつも通りの自主的な態度に鶴野は舌打ちすると、酒瓶片手に石段に座った。




 桜は蠢く虫を前に、最後の一段を降りる手前で止まる。

 恐怖と保身。至極人間らしい感情で、一瞬躊躇した。

 だがそれ以上に勝る何かの感情で、桜は一歩を踏み出し、蟲の中に身を沈める。

 足元から、激痛と快楽が体を貫き襲う感覚は、いつもと変わらない。

 その中で桜は雁夜に抱きしめられた暖かさを思い起こして、心は引き裂かれる。

 全てを終わらせたい。その一心で、先ほどここで起こった儀式を思い出していた。

 幼い桜にとっては、どす黒い闇そのものだった黒い騎士。



「雁夜おじさん…なんて言ってたっけ…」



 黒い蟲達に飲まれて、激痛と恍惚の中で呟いていた。

 数分もすればそんな事も言えないほどの、苦痛になる。



「…つげる…?……なんじ………わが……運命…」



 儀式で雁夜が叫んでいた言葉を桜は呟いていた。

 だがそんな全文を全て覚えているハズもなく、その後二、三言つぶやいたら止まってしまう。

 雁夜はあの呪文を叫んだら全てを終われた。しっかり覚えておけばよかっと、桜は今更に後悔していた。

 ぐずぐずと黒い蟲達が桜の体を完全に覆い、見えなくなる。

 痛みと快楽が完全に桜に根を下ろし、思考を手放そうとした…その時、







 強烈な紅い光が輝いた。







 その光と、その風は、蟲蔵にいた蟲達を引かせる程の魔力だった。

 桜は突然起こった風に、痛みから解放され目を覚ます。

 石畳の上で手放そうとした意識を必死に起こして、それを見ると、蟲で埋もれていた魔法陣が紅く輝いていた。

 それは、雁夜がバーサーカーを召喚するために使った召喚陣。

 群がっていた蟲達は魔法陣を中心に、羽虫が吹き飛ぶかのように端へ端へと吹き飛ばされていく。

 光の渦は紅く輝き、魔力の渦を巻いて天井までぶつかり、風は蔵中を暴れまわっている。

 爆発するかのように光が蟲蔵を照らすと、桜は先ほどと同じ体制で目を瞑る。

 肌で感じる魔力は、全身を突き刺すかのような暴力的なものだった。

 だがそれは、雁夜の時とは全く違う色の魔力。

 雁夜の時のどす黒い恐怖とは違い、例えるなら暴力の真っ赤な紅。

 暴力を体に教え込まれた桜だからなのか、その魔力は桜にとっては恐怖なり得なかった。

 だからすんなりと上半身だけ起き上がって、乾いた目を擦り、それがなんなのか確認できた。




 赤い煙霧の中、魔法陣の中心に立つその子は、桜より2,3年上に見える少女。
 最初に目に付くのは、輝くような黄色い金髪。次いで真っ赤な瞳。
 ツバのない白い布の帽子。赤いリボン。赤い服。赤いスカート。赤い靴。
 手に持つのは、独特の装飾がされたゆがんだ黒い槍。
 極めつけは、背中に羽のように輝く、色とりどりの巨大な宝石だった。

 暗闇で光るその鮮やかな色々に、桜は見蕩れた。
 そんな眩しい視線を受ける赤い少女は、桜を奇異な視線で見返した。
 その燃える瞳は赤々と、桜にあるはずのない色が宿っていた。

「…聞きたいんだけど」

 紅い彼女が口をひらくと、桜はペタンと石畳に座ったまま、びくりと反応する。
 赤い少女の見下ろす表情は、侮蔑の色が混じっていた。
 見た目は人形のようなイメージだっただけに、桜はその剥き出しの感情に、変わらぬ表情で驚いていた。

「あなたがあたしのマスターな訳?」

 赤い少女の問いかけに首をかしげた桜の左顔面には、赤い刺青が刻まれていた。
 額から目をまたいで頬に刻まれる令呪が禍々しく、聖杯に選ばれた事を主張している。
 赤い少女は桜から目を離して、石段の上で恐怖に腰を抜かしている鶴野を睨む。
 睨まれた本人はうわずった声を上げて、転げ回りながら蟲蔵の出口に走って逃げだした。
 少女は特に追うこともなく、桜に向き直る。

「っま…いっか。それで?家畜のあなたが聖杯に何を望むの?」

「…せいはい?」

 何も知らないという桜の答えに赤い少女が舌打ちしたら、しわ枯れた声が後方から響いた。

「家畜とは失礼な。教育的育成と言って欲しいの。そ奴はなかなか聞き分けの良い子で助かっとるよ」

 赤い少女が声のする方に視線を向けると、その先に無数の蟲がワラワラと固まり、一つの小さい人を作り出していた。
 臓硯は杖をつき、いつもと変わらぬ、ぬめりつくような笑顔をしているが内心は驚愕、それと同時にどう対応するかを巡らせていた。

「貴方かしら?この子にあたしを呼び出させたのは?」

「まあ…の。そ奴の実力では呼び出すのは不可能かと思っておったが…。いやはや、なかなかもって優秀な子のようでワシも鼻が高い」

 赤い少女はそれを聞くと、握っていた黒い槍を石の床に突き刺して、両手を開いて片手を腰におき、楽な姿勢をとる。

「一応お礼を言っとくわ。あなたのおかげで出れたみたいだし」

「なあに。英霊というものに出会えて僥倖、僥倖。このまま満を持して、ワシも聖杯戦争に参加できるというものよ」

 赤い少女は困惑の表情を出すと、羽を鳴らして首を傾げる。

「あたしはこの子に召喚されたと思ったけど…?」

「…正直のう。未熟なこ奴が、サーヴァントを召喚できるとは思わなかったのでの。
 此度の聖杯戦争、こ奴に参加できる実力がないのは見ての通り。魔術の事はまだ何も教えておらん」

「ど素人がよく召喚できたわね」

 赤い少女は会話を尻目に桜を見ると、自身にじっと視線を向けていた。

「…うむ。ワシが召喚するハズだった貴君を、こ奴が召喚してしまった。ただそれだけなら、令呪の移動で事足りる」

 臓硯は内心で値踏みするように、赤い少女を見た。
 当然、この話は臓硯の嘘の申し出である。この時点で何の準備もできてない桜を参加させて、むざむざ失う選択肢もない。
 あくまでも臓硯の狙いは次々回の聖杯戦争。早急に令呪を入手し、このサーヴァントを自害に追い込む魂胆だった。
 英雄格の英霊が出ていたら、この程度の提案は問題外だったろう。だが幸い、目の前の少女はそんな格には見えない。

「貴君には申し分ない話かと思うが。…それともマスターとして、ワシは不服かの?キャスター」

 赤い少女は感心して頷く。
 その観察眼、操る魔術。魔術師としての実力は目の前の少女より遥かに格上なのが頷ける。

「…なるほどなるほど。私に損はない話ね」

 赤い少女は少女らしい笑顔で、尖った八重歯を見せて笑う。
 臓硯の目論見は成功していた。
 赤い少女は臓硯の話を一点の疑いも持たずに聞いている。


 唯一誤算があるとすれば…


「あとはあなたの意思次第ね?」

 赤い少女はいままでずっと足元に、ぺたんとしゃがみ込んでいる裸の桜に問いかける。
 当の桜は今までの話を理解してないのか、令呪が刻まれた表情は動かさず、変化はない。

「心配せずとも、そ奴は聖杯戦争のルールをしらん。命令を下せば―――」



「うるさい」



 その赤い少女の一言だけで、臓硯を形造る蟲がざわめ蠢き一瞬形を崩す。

 魔力ではない。魔術でもない。



 ―――――殺気



 ただ純粋な殺気だけで、生物として単純な蟲達が逃げ出そうとする。
 臓硯は魔力でそれを押さえ、かろうじて形を留めて、言葉通りに口を噤む。

 赤い少女の瞳は、全てを鋭く抉る。
 殺気は蔵全体、生きる者全てに刺すようなプレッシャーを与え、蟲蔵の隅に隠れる蟲は、耐えきれずワラワラのたうち回る。

 その経験のない殺気に臓硯に焦りが回る中、桜は赤い少女を見つめ続けていた。
 当然桜にもこの重圧はかかっている。

 赤い少女はつり上がる目のまま、桜に向き直る。桜の表情を見ると、八重歯を出してニヤリと笑った。

「へぇ…?家畜以下とも思ったけど…中々かわいい顔ね?」

 桜の無表情の瞳から、涙が流れていた。

 いや。

 口元は微かに上がっている。
 涙も微笑みも、それは恐怖からではない。
 赤い少女は膝を抱えてしゃがみ込むと、桜と視線の高さを同じにする。

「あなたの叶えたい願いは何?」

「ね…がい?」

 その問いかけは、桜が考えた事もない質問だった。

「っそ。あなたには願いがある。聖杯に魅入られた人間だもの。笑うほど、うれしい願いがあるんでしょ?」

 桜は涙の跡が残る表情で、赤い少女を見ながら考えるが、答えられない。
 今まで全部従ってさえいれば良かったから。
 桜はいままで自分の道を強いた蟲使いに答えを求め、視線を移す。

 見つめられた臓硯の表情は歪む。

「…あいつが憎いの?殺したいのがあなたの望み?」

 赤い少女は臓硯を見ながら聞いた。
 その言葉に、桜は臓硯を見ながら首を横に振る。



「あいつ好きなんだ?」

「…嫌い」

「でもいつもしてるんでしょ?なんでいつも自分から進んでやるの?」

「もっと怖いのが来るから…」

「怖いのが怖いから怖いのを受け入れるって…。あなた怖いの好きなの?」

「嫌い…」

「嫌いなものばっかりだね」

「………」

 桜は俯くと、自身の体を見下ろし、確認する。

「…そっか。私、全部、きらいなんだ…」

 赤い少女は口を尖らすと、不思議そうな顔をする。

「ふーん?人間一個くらい、好きなものはありそうだけど?」

「好きなもの…?好きなひと…?」

「あはは!中々ロマンチックね!」



 ―――――なぁ桜ちゃん。おじさんのお仕事が終わったら、また皆で一緒に遊びに行かないか?お母さんやお姉ちゃんも連れて

 それが桜が唯一思い起こせる、希望ある願いだった。



「…もう、だれも…いないみたい」

「…っそ?なら、願いは決まったんじゃない?」

「………」



 うつむく桜の前髪を掴むと、赤い少女は無理やり桜の顔を無理やり上げる。
 桜は特に抗議することもなく、赤い少女と目を合わせた。
 瞳からは雫がポロポロ溢れ落ちている。


「あなたに壊れて困るものは無いのでしょ?なら、その願いを口に出しなよ。
 できないのなら、あたしはあんたと契約しない。…何も求めない家畜はいらないわ」



 今、自分にあるのは目の前の赤い少女だけなのだと、理解する。

 自分の願いを叶えてくれるのは、目の前の少女だけだと理解する。

 嫌われたくなかった。

 見捨てられたくなかった。

 叶えて欲しかった。



 だから、桜は目の前の少女に願う。



「…痛いのも、…苦しいのも、…悲しいのも、…気持ち悪いのも、…全部…全部、きらい」



 そうして桜は、赤い少女に懇願する。



「全部なくしてほしいの。わたしも、わたしのまわりにあるもの、全て、全部」








 赤い少女は願いを聞いて手を放すと、ゆっくりと立ち上がり、臓硯にカクリと顔を向ける。
 見開かれた目は紅く染まっている。

「…っだ、そうだよ?蟲のおじいさん」

 その笑顔の宣言は、破滅へのカウントダウンだった。
 臓硯はそこから動かず二人を睨む。

「正直よく考えて、キモ蟲じじいと比べたら多少実力無くても、かわいい女の子がいいよね?」

 何の前触れもなく桜と赤い少女の四方から、大量の蟲が蛇を形造って突入する。
 しかしそれも虚しく、二人の数メートル手前で蛇は頭から爆ぜてミンチとなった。
 頭からしっぽの先まで一匹一匹全て吹き飛ぶと、蟲の体液がそこら中に飛び散り舞う。
 赤い少女は左手の小指を曲げて、軽く拳を作っていた。

「あはっ!あははははは!?怖い?怖い?怖い?心配しないで!とっておきで爆発させてあげるよ!
 とっても痛いから安心して!気持ち悪い蟲のおじいさん!」

 それは狂気だった。
 瞳はらんらんと燃えて、緑の暗闇の中で猫のように光る。
 口は最高に楽しむかのように歪みきる。
 赤い少女はずっと広げたままの右手を天井に高く上げ、反対の手で桜が足元から離れないよう、そのまま寄せる。

「おじいさんさっきから逃げようとしてるでしょー?ダメダメ。一匹も逃がさないよ?私の蝙蝠は蟲が大好物だしさ!
 隙間から逃げるのガツガツ食って美味しいってさ!」

「ぐあああああああああああああ!!!」

 臓硯が吠えると、部屋中に隠れて行き場を失った蟲たちが、少女二人に向かって突入する。
 赤い少女が高く掲げた側と反対の左手を、前に差し出して、先ほどより強くぎゅっと握る。
 臓硯を形造る蟲以外、全ての蟲が弾け舞った。
 周りのいたる所に体液の泉がびちゃびちゃ出来上がった。

「さっきからありったけ!そこら中、目を集めてあげてるからも少し待ってって!
 はははははははっ!!こんなに沢山目を掴むのは初めてだよ!ホントにすごい楽しみ!!」

 尋常じゃない赤い少女の魔力が蔵中に蔓延り、右手のひらに集まる。
 赤い少女は召喚されてから、すぐにそこら中の‘目’を手のひらに集め始めていた。
 今までの会話中、ずっとずっと、長い時間。それは彼女の手にいくつの目を集められた時間なのか。
 すでに見える範囲に掴める‘目’はないほど、手のひらに集まっていた。

「お祭り開幕には、文句なしの花火だからさぁ!!!」

 赤い少女の魔力が、上げられた小さい手のひら一点に集中し、蔵中の‘目’を集約する。
 そのまま足元の桜と目を合わすと、赤い少女は左手で耳を指すジェスチャーをしてウインクする。
 それを見ていた桜は、素直に自分の両耳を塞いだ。
 目の前にいるかつての老人の笑顔よりも凶悪に歪んだ笑顔で、赤い少女は絶望を愛でている。
 膝をついている老人は、自分の庭同然の蟲蔵に入った時点で既に詰だった。


 最高の笑顔で。

 最高の高揚で。

 赤い少女は掲げた右手を躊躇なく、ぎゅっと、握った。




 ――――同時










 全てのものが、形崩れてせり上がる。

 大気が。

 地面が。

 壁が。

 蟲が。

 目に見えるもの全てが。

 それは少女二人だけが全てのものを置き去りにして、最高速で落下しているようだった。

 それは真逆。

 少女二人だけを残して、全てのものが最高速で上昇していた。

 行き場を失ったエネルギーは、全て上へ上へと立ち上る。

 岩は砂に。鉄は砕け。木材はパウダー状の木屑に。

 まるで火山の噴火の中心にいる感覚。

 桜は耳を塞いでいても、続く爆音は骨に響いて否が応でも心拍数を上げている。

 それは赤い少女も同じ事。

 破壊の快感は残骸と共に、天へと昇る。

 破壊の目を唯一掴まれ無かった臓硯は、周りの残骸と一緒に、ミキサーをかけられた具のように吹き上がって行った。

 圧倒的暴力だった。

 圧倒的破壊だった。

 形ある事を許さないと言わんばかりの、力だった。






 それは、ありとあらゆる物を破壊する程度の能力だった。












          ◇











 赤い少女はぞくぞくと余韻が残る中で、手を下ろす。
 頬を赤くし、身震いを抑えるように自身の体を抱きしめて、震える白い息を吐き出した。

「…はああぁ……さい…っこ…」

 快感に浸る赤い少女を見てる桜は、耳から手を放した。
 息を白くして視線をさらに上へとあげる。

「…きれい…」

 赤い少女はしばらく余韻に浸ってから大きく息をつくと、夜空を見上げる桜に続いた。

「…この星のない空が?」

「…うん…」

「変わってるね。あなた」

 語る二人は地下より広がった穴の中にいた。建物の名残は、少女二人の半径一メートルほどの足場しか残っていない。
 それ以外は全て抉れていた。まるで地下にあった満杯の火薬が爆発したような有り様だ。
 およそこの敷地を初めて見る人に、家があったと思う者はだれもいないだろう。

「…それで?あなたの願いは叶った?」

 桜は高い夜空から少しだけ視線を下ろす。
 そのまま赤い少女を見つめて、首を横に振った。

 赤い少女はやれやれと大げさにポーズすると、幼い笑顔で桜を見た。
 その仕草は幼い外見ゆえに、可愛らしく見える。自身の外見を遺憾なく発揮した仕草だった。

「ここまでサービスしたんだから、あとの願いは聖杯に頼んでよ」

 桜は少女をじっと見る。
 よく分からなかったが、こくりと頷いた。

「うんうん。…まぁ。やっとくことやっとこうか?」

 桜を見て、赤い少女はコホンと咳払いする。
 そうして月を背にして桜の正面に、狭い足場で向き直る。

「サーヴァントはキャスター。名はフランドール・スカーレット。
 あなたの願いに呼ばれ、ここに来た。…良ければ名前を教えてくれない?お姫様?」

 フランは幼い笑顔で手を差し出した。
 桜はその手を一見すると、掴まって立ち上がる。

「桜…間桐桜です」

「…桜…桜かぁ。花の名に見合う名前になるかしら?あたしのかわいいマスターさん?」

 桜は首をかしげる間もなく、くちゅんと震えた。










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