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No.31478の一覧
[0] 【dear】新米監査員の討伐隊観察ファイル【短編】[新](2012/02/08 23:54)
[1] その1[新](2012/02/15 00:28)
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[31478] 【dear】新米監査員の討伐隊観察ファイル【短編】
Name: 新◆292e060e ID:ebf219b0 次を表示する
Date: 2012/02/08 23:54
FILE-0 着任当日

「ミリア・クーネル監査員、現時刻を以て着任いたしました」
 品良く整えられたその部屋で、席に付いているこの島の討伐隊の隊長、ケイン・クレバート氏に向けて挨拶を行う。
 最初は討伐隊の隊舎で会うのかと思ったが、ここは島の名士でもあるクレバート隊長の邸宅だ。まあ、ここに隊員を住まわせていた事もあるとのことなので、彼からすればここも仕事場の延長という感覚なのかもしれない。
「うん、ようこそ監査員」
 クレバート隊長はそう言うと、私の目を見つめてにっこりと笑って見せた。
「いやあ、君のように若くて麗しい女性が監査員とは、実に素晴らしいね。眼鏡の奥に覗く切れ長の眼、神秘的な印象をかもし出す黒髪、実に美しい! 私も仕事に身が入るというものだよ」


 前任のアベル・ウィンスレット監査員から聞かされてはいたが、聞きしに勝る歯の浮く台詞だ。しかもマメにポーズを変えているのが微妙に鬱陶しい。
「はあ。ありがとうございます」
 着任早々に邪険にするわけにもいかず、さりとてまともに取り合う気も起きないので適当にあしらう。どう聞いても投げやりな返答だったはずだが、クレバート隊長は微塵も堪えた様子はない。このタフさは賞賛に値するのではないだろうか。


◆◆◆


 我々の住む大陸は、丁度砂時計を横倒しにしたような形をしている。
 東側には魔力を持たない人間が、西側には魔力を持つ魔者が住み、丁度真ん中、砂時計のくびれの部分にある魔王城で双方の文明圏は分かたれていた。
 ここは、人間側の大陸の、最南端、から更に南。とある小さな島だ。
 冬だというのにコートが必要ないくらいの温暖な気候で、大陸の北の方からやってきた私からすれば、その違いに驚くばかり。
 私はこの島の討伐隊――ああ、討伐隊とは、その名の通り、魔物を討伐し、その被害を防ぐ組織だ。
 魔物は主に人型と獣型の二つに別れ、どちらも人間にはない魔力を駆使する事が可能なため、一般人ではまず手も足も出ない。そこで武装集団である討伐隊の出番となるのだ。
 その討伐隊の監査を行うための監査員である。
 今日はその着任当日。なのでこうして責任者に挨拶をしているわけである。


◆◆◆


「失礼しまーす……」
 こんこん、と控えめにドアがノックされ、シックなメイド服を身に着けた少女が部屋の中に入ってきた。黒髪の小柄なメイドは、トレイにコーヒーカップを載せている。
「隊長さん、コーヒー持ってきたんよ。あれ、お客さん……?」
 彼女はクレバート隊長の前にソーサーとカップを置くと、トレイを胸元に抱えてこちらを向き、小首を傾げる。
「ああ、散葉君、ありがとう。こちらの麗しい女性はミリア・クーネル監査員さ。先日アベル監査員が異動になっただろう? その後釜としてきたというわけだよ。ミリア監査官、こちらは散葉君、当家でメイドをしてくれている。野に咲く花のようにキュートな女性だろう?」
「アベルさん、よその討伐隊に監査のお仕事に行ったんやっけ……? 私、散葉っていいますっ」
 人懐っこい笑顔を浮かべて、彼女、散葉さんがぺこりと頭を下げる。
「ミリア・クーネルです。宜しく」
 私が軽く会釈すると、彼女はさらに顔を輝かせて嬉しそうにしている。クレバート隊長は彼女を野に咲く花と喩えたが、それよりは小動物の方が適切な比喩なのではないだろうか。小型犬とか。
「さて散葉くん、ミリア監査員を客室まで案内してあげてくれるかい? しばらくは彼女もそちらで寝泊まりしてもらうことになるからね」
「はーい。ほな行こ、ミリアさん……!」


◆◆◆


 むやみに広いクレバート邸の中を、散葉さんに案内されて歩く。前を歩く彼女は、何やらとても楽しそうだ。あ、鼻歌が始まった。
「こないだまでね、ここんちにはコモちゃんとかプリちゃんがおったんやけど、今はちょう遠くへ行ってしもてさみしいなー、思っとったんよ。やけ、ミリアさんがここに来てくれて、私嬉しいなー、って……」
 にぱー、という感じでそう言う散葉さん。私はここまで一言も喋らずに、無愛想な表情で彼女の後をついて歩くだけだったのだが、何故こんなに喜ばれているのだろう。なんだか申し訳ない気分にすらなってしまう。
「ほんでね、あのね、ミリアさん……っ」
 散葉さんが唐突に振り返り、じっとこちらを見上げる(私は女としては身長が高い方であるし、逆に彼女は小柄だ)。
 気分を落ち着かせるように、あるいは力を溜めるように深呼吸してから、散葉さんが口を開く。
「私とお友達になって下さい……!!」
「……はい?」
「……ダメ……?」
 悲しげな表情の上目遣いが私を射抜く。ここでダメだ、と言える人間は相当の強心臓の持ち主しかあるまい、と思った。
「いえ。ダメではありませんよ」
 ぱあっと花が咲くように散葉さんが笑顔になった。ああ、確かにこういう場面を見ていれば、クレバート隊長の比喩もそう的を外したものではないと思える。
「じゃあ、ミリちゃん、って呼んでもいい……?」
 いきなり難易度高めの要求が来た。
 そんな期待に満ちた目で見ないで欲しい。ほんの子供の頃ならともかく、こんな風に硬めに性格が出来上がってからはそんな呼び方をされたことはないというのに。
「え、ええ、どうぞ」
 無垢な視線の圧力に負けてつい頷いてしまった私を笑えるものはいないと思う。滑稽だと思うのなら、あの視線の矢面に立ってみるがいい。尋常ではない抗い難さなのだ。
 わあい、と無邪気に喜んでいる散葉さん。大変可愛らしいとは思うが、私を部屋に案内することについて意識から飛んでいるのではあるまいか。


「チルハ。メイド長が呼んで……」
 すぐ側の廊下の曲がり角から、一人の青年が姿を現した。金髪碧眼、非常に容姿の整ったひとだ。一瞬だけちらりとこちらに向けた視線は、無関心の中に警戒を一滴ブレンドしたもので、しかし散葉さんに目を向けた途端、優しげに目許をゆるませる。分かりやすいといえば、非常に分かりやすい表情の変化だった。
「あ、きーちゃん……!」
 散葉さんの笑顔の輝度が二段階くらい上がる。こちらも分かりやすい。
「この人は、ミリちゃんて言うんよ。アベルさんの代わりの監査員さん……!」
「ミリア・クーネルです」
 散葉さんの紹介を受け、青年に向けて会釈する。
「ここの隊長の秘書をやっている、妃杈きさら・スメラギだ」
 いくらなんでもちょっとどうだろう、というくらいの無表情で、それでも一応は会釈をする妃杈さん。これで秘書をやっていけているのだろうかと他人事ながら心配になるほどだ。


「きーちゃんはね、ちょっと無愛想さんやけど、ほんとはすっごく優しいんよ……っ。それで、私にとってはすごく大切な人やの……っ」
「チルハ……」
 え、なにこれ。唐突に何か始まった。そっと寄り添い、見詰め合う二人。背景に花が散っているというか、空気が甘いというか。
 完全に二人の世界が構築されていた。私はどうしたらいいんだろうか。邪魔するのも悪い気が……。
 いやいや。散葉さんも妃杈さんも今は仕事中のはずだ。一言苦言を呈するのになんら遠慮する事はないはずなのだ。
「……こほん、あのう、お二人とも? すいませんが、部屋へ案内をお願いしたいのですが……」
 おずおずと声を掛けると、はっとしたように散葉さんがこちらに顔を向ける。妃杈さんはそんな散葉さんを熱っぽく目で追っているが、こちらはもういいだろう。というか疲れてきた。
「あ、ご、ごめんねミリちゃん……!」
 わたわたとした様子で散葉さんが大きく頭を下げる。ふむ。こういう素直なところは彼女の美点なのだろう。この際だから、気になったことをもう一つ告げておく。
「仲がよろしいのは良い事だと思いますが、お仕事中は控えたほうがいいでしょう。……そうですね、勤務時間中は呼び方を改めてみてはどうですか?」
「呼び方……?」
 散葉さんがこくんと首を傾げる。視界の端で妃杈さんから何か鋭い視線が送られているが、とりあえずこの場は気にしない。
「仕事中はけじめが必要ですから。愛称で呼ぶのは考え物ですね」
「うーん、そしたら……」
 散葉さんは何ごとか考え込む。真剣な表情でしばらくそうしたかと思うと、妃杈さんに向き直り、
「じゃあ、その……き、き、……妃杈……とか……?」
 耳まで赤くなって上目遣いで彼を見つめ、蚊の鳴くような声でその名を呼ぶ。
「な、なんか照れくさいねえ……っ。きー……妃杈は、どう思う……?」
「チルハになら、どんな風に呼ばれても私は嬉しいよ」
 しまった。別のスイッチを押してしまったようだ。
 再び展開される二人の世界。もうどうしたらいいのだろう。
 誰か助けて欲しい。切実に。


◆◆◆


 結局あのあと、いつまでも戻ってこない散葉さんと妃杈さんを心配してきたメイド長のアンネさんによって私は無事に部屋にたどり着くことが出来た。
 アンネさんが二人の世界を構築している散葉さんと妃杈さんを見ても僅かに苦笑を漏らすだけの反応だったところからして、あの二人はあれで通常運転のようだった。
 曰く、さらわれた散葉さんを大冒険の末に妃杈さんが取り戻し、ようやく結ばれる事になったばかりなのだとか。
 しばらくすれば落ち着くと思うので、それまでは温かく見守ってあげるべきかと思うんですよ、とアンネさんは笑っていた。
 小説やドラマでも最近なかなかないような直球のラブストーリーだが、確かにそんなことが最近あったばかりならあんな風に熱々になるものかもしれないな、と思う。
 流石に一人身には目の毒なので、できるだけ自重して欲しいとも思うが。


「それにしても、こうも豪華だと少し落ち着きませんね」
 私にあてがわれたクレバート邸の客間は、高級ホテルもかくやという様相だ。私は庶民の出であるので、流石に気後れする部分がある。
「ともあれ、明日からの仕事の準備をしましょうか」
 殊更に口に出して自身の緊張をほぐし、備え付けのテーブルの上に書類を広げる。
 つい先日までこの討伐隊で前任を務めていた、アベル・ウィンスレット監査員から引き継いだ報告書である。
 伝説の監査と呼ばれた彼と並ぶだけの仕事が自分に出来るとは思っていないが、それでもそこに至ろうとする意思は必要だ。そのためにも、彼がこの地で見聞きした事をまとめた書類に目を通すのは必須事項といっていいだろう。


 そう思いながら、報告書の束から取り出した書類に記されているのは、
「散葉さん?」
 『散葉隊員についての調査書』と記されている。
 はて、彼女はクレバート邸のメイドでは、と疑問を抱きながら、私はまずはその調査書から目を通す事にしたのだった。












~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがきというか言い訳

理想郷的に明らかに需要の少なそうなところを選んで書いてしまいました。元ネタを知ってる人がいればいいんですが。

なんで今更dearなの? と言われると、

妖狐X僕SSのアニメを見る。

「わたしの狼さん。」を本棚から取り出す。

「dear」最終巻まで一気読み。

なんかムラムラしてきた。

気がついたら衝動のままに書き殴ってた。

こんな感じです。完全に勢い任せで書いてるもので、短い上に原作未読者は思い切り置いてけぼりにしてると思います。でも反省も後悔もしてません。

あんまり先のことは考えてませんが、このキャラのこういう話し書け、みたいのがあれば出来る範囲で実現したいなあ、と。

あと、きーちゃんの名前が機種依存文字っぽいのですが、見えてますでしょうか。文字化けしてるよ、というのがあれば……まあ、その時何か考えますです。


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