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No.31419の一覧
[0] 【真・恋姫無双】韓浩ポジの一刀さん ~ 私は如何にして悩むのをやめ、覇王を愛するに至ったか[アハト・アハト](2016/04/19 00:28)
[1] 立身編[アハト・アハト](2012/03/02 22:06)
[2] その2[アハト・アハト](2012/03/08 23:56)
[3] その3[アハト・アハト](2012/03/09 00:00)
[4] その4[アハト・アハト](2012/03/09 00:02)
[5] その5[アハト・アハト](2012/03/09 00:08)
[6] その6[アハト・アハト](2012/03/19 21:10)
[7] その7[アハト・アハト](2012/03/02 22:06)
[8] その8[アハト・アハト](2012/03/04 01:04)
[10] その9[アハト・アハト](2012/03/04 01:05)
[11] その10[アハト・アハト](2012/03/12 18:18)
[13] その11[アハト・アハト](2012/03/19 21:02)
[14] その12[アハト・アハト](2012/03/26 17:37)
[15] その13[アハト・アハト](2012/05/08 02:18)
[16] その14[アハト・アハト](2012/05/08 02:19)
[17] その15[アハト・アハト](2012/09/26 19:05)
[18] その16[アハト・アハト](2015/02/08 22:42)
[19] その17[アハト・アハト](2016/04/19 00:26)
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[31419] その6
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/19 21:10
 
 夜の帳に包まれた陳留。大多数の人間が寝静まり静かになった刺史府で、蝋燭立てを手に歩いている人影が1つ。
 その主、曹孟徳である。
 今、漸くもって仕事を終えたのだ。
 元譲などの活躍で陳留周辺の賊の討伐はほぼ終わったが、刺史である曹孟徳の仕事は賊退治だけで終わるものではなく、兗州全体を統治する為に仕事は山積しているのが現実だった。
 とはいえ、この時間まで仕事をしているのは、統治する側の人間としては極めて珍しいだろう。
 だが、それが曹孟徳なのだ。
 人に才を求め、有能である事を能力を発揮する事を好むが、それ以上に、自分自身を厳しく律し、努力することを自分に課するのだ。

 そんな曹孟徳は、常に顔に浮かんでいる鋭さを鈍らせて、小さくあくびをする。
 その様は可愛らしくあり、見るものに年相応なる感慨を与えるものであった。
 否。
 だからこそ、誰も居ない時間だからこそ、曹孟徳は己を緩めていたのだった。

 と、その曹孟徳が行く道の脇に、明かりの灯った部屋があった。
 まだ仕事をしている人間が居たのかと、小さく驚き、そしてその部屋の主を考えた時、驚きは少しだけ大きくなった。
 何故なら、その部屋は夏候元譲隊の執務室だったからだ。


「どうしたのかしら?」


 兵を要する火急なる事でもあったかと考える曹孟徳だが、何も思い出せない。

 陳留周辺の賊討伐は終了し、その影響もあってか兗州全域で賊の跳梁は低調になりつつあるからだ。
 近日中に遠征し討伐する予定も1つ、あるにはあったが、討伐する賊の、拠点や規模に関する情報収集が終わっていない事もあって、まだ先の話とされていた。
 無論、賊による被害を低減させる為に、兗州各郡の太守に官軍を出す事は命じていたが、曹孟徳は、それに余り期待していなかった。
 官軍はその大多数の兵が、兵役として集められた人間である為に大集団であれば別だが、小規模で運用される場合には、その質の低さから期待出来るものではなかった。
 更に言えば、指揮する者にも問題があった。
 野に優才の士ありて義勇軍などの指揮官に光る者はあれど、官軍の指揮官となれば、家柄などで選ばれた者も多い為、期待し辛いのだ。
 特に、この曹孟徳が要求する水準に達する人間は。
 故に官軍も何時かは抜本的に改革してやろう、などと考えていた。
 その為には偉くならねば、とも。

 と、そこまで考えた所で、曹孟徳は気付いた。
 自分の考えが変な方向へと転がって居た事に。
 考えが煮詰まっていたのかしら、等と考えた曹孟徳は、自分も少しゆっくりと休むべきかも知れないなどと考えながら、夏候元譲隊の執務室の扉を開けた。




「誰が起きているのかしら?」


 机に向かっていた一刀は、突然に掛けられた声に驚いていた。
 静まり返った刺史府で仕事をしているのは自分だけだろうと考えていたからだ。


「何方で?」


 振り向いた一刀が見たのは、胡乱な目つきで自分を見る曹孟徳であった。
 慌てて立ち上がって礼をしようとする、が、それを止められた。
 仕事をしているのであれば、邪魔をした私が悪いと言って。
 虚礼を好まぬ、曹孟徳らしい態度であった。


「で北元嗣、こんな時間まで貴方は何をしているの?」


 夜の帳も降り切った時間だ。
 仕事に熱心なのも大事だが、火急に類される仕事が無ければ、武官● ●は休むことも仕事の内だろうと、曹孟徳は労わる様に言う。
 この最近、一刀の仕事ぶりを元譲から聞いていた曹孟徳は、一刀への評価を上方修正していたのだ。
 だからこそ、必要が無ければ無理をするな、と言うのだ。
 その事に気付いた一刀、照れた様に頭をかいた。


「常の業務であれば終わったのですが、先ほどまでは夏候元譲殿が、朝議で曹孟徳様が近日には遠征を行うと仰られたと言ってましたので、その準備をしておりました」


 今まで行われた遠征などの資料を把握し、手配すべきものの確認をしていたのだと言う。
 目標に対して、自分はどう動くべきか、何を準備すべきかの確認をしていたのだと。


「いざ、その場で命令されて動けないと、困りますから」


 一刀の、ある意味で実に日本人らしい気構えである。
 それに曹孟徳は深く感心した。


「ふむ。春蘭は得がたいものを手にしていたようね」


 だが、と続ける。
 していたという事は、終ったのであればもう寝なさい、と。
 仕事はだらだらとするものではない、とも。
 だが、それには一刀が拒否をする。
 もう少しだけ、と。


「あら、下準備は終ったのではなくて?」


「そちらは滞りなくなのですが、少しだけ、自分の用向きがありまして」


 余り綺麗な話では無いですが、そう前置きをして一刀は机に置いた木簡を差し示した。
 それは司隷河内郡の寒村、この陳留へ来る前に一刀の居た村からのものであった。
 内容は前置きに違わぬもの、一刀が村を離れる前に手掛けていた事、下水の処理と屎尿の肥料化に関して、上手く行かずに困っていると云う事だった。


「そう」


 曹孟徳は微妙な表情で頷いた。
 為政者としては中々に興味をそそられる内容であるが、うら若き乙女としては、楽しい話題とは言い難かったのだ。
 表情で、その事を理解した一刀は、困ったように笑う。
 流石に謝罪は、曹孟徳の矜持を思って口にはしなかったが。
 だから、誤魔化す様に言葉を連ねた。


「畜糞の堆肥化は上手く行ったんですけどね」


 元々、この時代でも畜糞を肥料として使われてはいた。
 一刀はそれに発酵の手順などを導入し、進化させたのだ。
 高度化と言っても良い。
 とはいっても、本当の意味で高度であるかと言えば、否と評すべきものではあった。
 学校で習った事や雑学から得た半可通染みた知識を元にくみ上げたものだから。

 だがそれでも、この時代の農業に対して劇的な影響を、収穫量の大幅な向上を達成していた。


「そんなに?」


 収穫量の増大、そのが前年比で1.3倍に達したと一刀が告げた時、曹孟徳の目の色が変わった。
 猛禽の様な目つきに、だ。
 それに気付かぬままに、一刀は竹簡を眺めていた。


「はい。ですがこれも発酵がまだ不十分なものを試験的に使用してみての成果ですから、最終的には、2倍まで狙えるかもしれません」


「それだけの事を、貴方はその村でした、と」


「努力しただけです。成果は、皆の協力のお陰です。それにまだ不十分みたいで………」


 ご覧になります? と示した竹簡には、屎尿処理設備は予定通りに完成したが上手く動かず、肥料化も何がしの問題があると書かれていた。
 故に、助けて欲しいという内容であったのだ。
 とはいえ、簡単にはいかない。
 竹簡に書かれた情報だけでは問題点が把握しきれず、指示を出す事は出来ない。
 かといって実際に見に行くにはチト、遠い ―― 片道で1日程度ではあるが、今の仕事を考えると、往復だけで2日、しかも問題解決に複数日を必要とする様な事を出来る身では無いのだ。
 拾ってもらった恩義のある村だ。
 何とかしたいとは思うが、何ともし辛い状況なのだ。
 有給休暇なんて無いしと、一刀は内心で嘆いた。

 が、その状況を覆す一言があった。


「面白いわね」


 曹孟徳は非常に楽しげに、竹簡を覗き込んでいた。





 面白い。
 そう言った後の、決断した後の曹孟徳の動きは素早かった。
 先ずは一刀に、であればと告げた。


「村に行って見てくればいいわ」


「しかし仕事が……」


「公務にするわ」


「は?」





 そして翌日、厩舎にて旅支度を纏めている一刀の姿があった。
 もちろん目的地は、司隷河内郡の寒村だ。
 片道1日の旅程なので、荷物は大層なものは無く、ちょっとした雨具と予備の衣類。それに携帯食である。
 量が少ないので、鞍の後ろにくくり付ければ簡単である。
 と、まだ余裕があったので、竹水筒と一緒に茶具を載せる。
 小さな薬缶とこしき、それに大麦の種を煎じたものを。
 鉄の棒を組み合わせる、足の長い組み立て式の五徳も忘れない。
 後は交通手形などもあるが、其方は剣と一緒に腰に佩いておく。

 準備やよし、そう頷いた一刀に、後ろから元譲が怒ったような泣いたような、何とも言い難い声で話しかける。


「いいか元嗣、絶対にお護りするのだぞ!!」


「努力します」


「努力では駄目だっ! 身命を賭せっ!!」


 命を賭けても、命を失っても全うしろ。
 そんな無茶を言う元譲に、一刀は困ったように笑うしかなかった。
 否、実際に困っていた。
 気楽な1人旅であれば、男であれば問題は無かった。
 簡単だとも言えるだろう。
 だが、これは1人旅では無いのだ。
 男だけでも無かった。


「では秋蘭、刺史府の業務、後は任せたわよ」


「お任せ下さい華琳様」


 そう、兗州刺史である曹孟徳が居なければ。

 旅装を整えた曹孟徳は、その腹心である夏候妙才に、事後を託す旨、告げている。
 と、そこへ元譲が縋るように泣きつく。


「やっぱり私も参る訳には行かないでしょうか!」


「駄目よ春蘭、軍の指揮官が2人とも抜ける訳にはいかないわ」


「であれば、いっそ元嗣と私が交代すればっ!」


「これは元嗣の目的が最初にあったのよ? それでは意味が無いわ」


「であればせめて、護衛を!」


「お忍びの視察に、その様なものを付けるのは無粋だわ」


「華琳様ぁーっ!!」


 愁嘆場と評するほか無い空気を作る元譲と、苦笑している曹孟徳。
 そして一刀は、そんな2人の様を生暖かく見ているのだった。

 と、ふと一刀は自分と同じような、否、より優しい視線で元譲を見ている夏候妙才に気付いた。
 それはまるで、愛子を見るかの如き目だ。
 その様に夏候の姉妹は、まるで逆だよななどと考えながら、一刀は声を掛けた。
 いいのですか、と。
 対する夏候妙才の返事は振るっていた。


「ああ、姐者は可愛いなぁ」


 聞いてはならぬものを聞いた様な気分を味わった一刀は、深いため息をついた。
 それからもう一度、尋ねた。
 少しだけ力を込めて。


「問題は無いのですか?」


 と、今度は声は通った。
 だが、その返事の方向性は少しだけ予定とは違っていた。


「うむ、華琳様の不在は問題ではあるが、所詮は数日の事。その程度で刺史府の仕事が滞るような事は無い」

 夏候妙才は出来る女の風格で断言する。
 が、その視線はまだ元譲と曹孟徳を見たままであった。


「それに華琳様は最近、働きづめであった。なのでここで少し羽を休まれても罰はあたらぬ」


「そうですか」


 幼子染みた風になった元譲への不安は無いのかと問いたかったのだが、そこへの反応は無い。
 どうやら、夏候妙才的には、この元譲の状態に何の不満や問題を感じるのだ、といった按配なのだろう。
 きっと。

 そして、ふと、視線が外から浴びせられているのに気付いた。
 振り返って見れば、厩舎の外から、以前に兵を面罵していた具足糧秣の管理監督官の荀家の何とかさんが見ていた。
 視線は、曹孟徳に固定されている。
 何とも言えない幸せそうな表情をしている。
 詳細は判らないが、中々に特徴的な性格をしていそうである。
 否、特徴的なのは、この荀何とかさんだけではなく、曹孟徳から夏候姉妹まで色々と居る。
 三国志の悪役配置だと思っていた曹魏は、別の意味で個性的であり、特徴的な人間の集団であった。


 ため息を小さくついた一刀。
 少しだけ、ほんの少しだけ、この曹魏へ参加した事を早まったかなと、一刀は思っていた。






真・恋姫無双
 韓浩ポジの一刀さん ~ 私は如何にして悩むのをやめ、覇王を愛するに至ったか

 【立身編】 その6






 さて、旅立ちこそ波乱万丈の気があったが、蓋を開ければ何のことは無い小旅行となった。
 行きの道は簡単であり、村についてからも ―― かの有名な兗州刺史がお忍びで来たという事で一騒動になったが、それだけ。
 村の問題に関しても、屎尿処理に関しては一刀の残していた設計図の誤読が原因であり、簡単な指摘で、解決した。
 堆肥作りに関しては発酵させる際に、高温化した事が問題であった。
 否、発酵する上で高温化する事は普通であるのだが、この際に発生した水蒸気に村人が、すわ火事かと過剰に反応し、水を掛けてしまった事が問題であったのだ。
 水を掛けた事で発酵が進まなくなり、堆肥化しなかったのだ。
 此方に関しては、問題が無い事を説明し、又、今後の人糞の発酵が始まれば更に高温を発する事も告げる。
 基本的に畜糞や人糞に藁を混ぜ込んで発酵させるという雑な堆肥作りは、一刀の持っていた知識が極めて大雑把、学校の体験学習で知った知識であった事が原因であった。
 だが、発酵させるだけ、糞尿をそのまま使用するよりは安全であり、であるからこそ、一刀は村長に強く言って提案したのだった。

 他にも上下水道に代表される公衆衛生や、植林に関するものなど、一刀が未来から持ち込んだ、この世界には無かった知恵、或いは知の蓄積● ● ● ●は、この村を他所とは一線を画すものとしていた。


「河内の賢人、か」


 賢人と謳われた意味を、曹孟徳は肌身で理解したのだった。
 組み上げられた浄水や汚水処理の設備という比較的大規模なインフラを見て、そしてその意味を、何故に手間を掛けて汚水処理をするのかと尋ねれば、その意図を判りやすく説明してくる、出来る事に驚きを覚えたのだ。
 知恵を知識を、道具として扱いこなしている、と。


 判らぬ事を聞いてくる村人に、根気良く、そして丁寧に返す一刀の姿を、曹孟徳は楽しげに見ていた。
 掘り出し物を得た気分であった。
 どうやってこの知見を養ったのかと疑問にも思うが。それは別として無性に、元譲を褒めてやりたいと思った。
 よくぞ、この才が他所の人間に渡る前に確保した、と。

 この才をどう使うか、どう使えば良いか。
 そんな事を考えると、曹孟徳は楽しくて仕方が無かったが、同時に、少しだけ不満を感じた。
 一刀に対してではない。
 己の立場に、である。
 曹孟徳は兗州刺史の身分であるので、兗州全域に対する指揮権はあるが、同時に、太守如く、確たる拠点は無い。
 故に、この一刀の持つ知見を使うには、少しだけ問題があったのだ。
 陳留太守の地位も得ようかしら ―― そんな事を考えたりもする。
 或いは、身内でそれなりの才のある者を、それこそ傀儡として陳留太守に置いてやろうかしら。


 割りに物騒な事まで考えていた曹孟徳。
 その姿を村人達は遠くから見守った。
 不思議そうに、或いは、触らぬ神に祟りなし、とも。
 そして、中でも子供達は至極素直な感想を漏らしていた。


「北先生って、美人には縁があるけど、何か、色気の気って無いよね」


「だね、喰われる側の人間だよね」


 一般的に言って、曹孟徳は美人である。
 だが、一刀を見る目は女性としてのものでは無く、そこを見抜いた子供に、容赦と云うものは無かった。





 寒村での時間は2日で終わった。
 複雑な問題でも無かったかので、解決自体は至極簡単であったのだ。
 又、一刀もだが曹孟徳は暇の立場から離れた人間であるで、用事が終れば急いで戻らねばならないというもの大きかった。

 そして帰り道。
 少し前に一刀が元譲と共に歩んだ道を、今度は曹孟徳と馬で往く。
 中華文明を育んだ、黄河の畔をゆくのは、極めて心地よいものであった。
 雄大にして壮大である様は、一刀の脳裏に1つの言葉を思い出させていた。


「国破れて山河在り、か」


 国家は儚くとも、この山河は確かに、不変であろうと感じ入っていた。
 尤も、その言葉に曹孟徳は別の反応をした。


「貴方、詩も出来るの?」


「残念ながら出来ません。これは伝聞、その頭だけですよ」


「この私が知らぬ詩があったなんてね。全部を諳んじられないの?」


 過去に詠われた詩の多くを諳んじる曹孟徳は、それ故に興味津々という顔を見せた。
 それは年齢相応の可愛らしさを漂わせているのだが、残念ながらもそれに一刀が応える事は無かった。
 出来なかった。


「残念ですけど」


 ごく普通の高校生でしかなかった一刀だ、真面目に漢文の授業を受けていた訳ではないのだから、それも当然だろう。
 自分にとっては過去、この時代よりは未来の詩を、ただ音の響きの美しさからこの1節だけを覚えていただけなのだから。
 そして趣味で云えば、やはり俳句の方が好みなのだ。
 侘び寂をと殊更に強調する積もりは無かったが、それでも、松尾芭蕉の方が好きだった。
 だから代わりに、それを口にする。


「夏草や、兵どもが、夢のあと ―― と」


 その根底に流れる無常観が好きだったのだ。
 無常観に関しては、平家物語の出だしを愛する一刀であったが、此方は此方で長い長い作品の最初の部分である為、曹孟徳の要求には応えられないだろうとの読みであった。


「簡素ね、だけど悪くないわ」


「夏に、古戦場を前にしたものだそうです」


「そう、面白いわね」


 そう評した所で、遠雷が響いた。
 2人して空を見上げれば、いつの間にか雨雲が出てきていた。


「あら、一雨来そうね………」


 曹孟徳は詰まらなそうな顔をみせた。
 もう少しで黄河を渡す船着場だというのに、この様な場所では雨宿りも面倒だと。
 或いは、自分の知らなかった面白い詩を聞いている途中で、それこそ水を差されたのが気に入らなかったというのも大きかった。

 対して一刀は、手早く雨宿りの出来る場所を探し、そこへ曹孟徳を誘うのだった。






 深々と降る雨。
 比較的小降りの木の下で、2人は雨宿りをする。

 まだ昼前であったが、薄暗いそらは、肌寒さを感じるものがあった。
 だからと云う訳では無いが、一刀は火を起こした。
 暖房目的ではない。
 五徳を置いてその下に携帯していた竹の屑 ―― 字の練習で出た竹簡の削りカスを集めて火をつけ、薬缶をかけるのだ。
 そう、麦湯の用意だ。

 パチパチと燃える音。
 シャンシャンと湯の沸く音。

 雨によって薄暗く、灰色となった世界に、火の赤が映える。
 その幻想的な様を、曹孟徳は楽しげに見ていた。
 そして面白いと。
 実に面白い、と。
 この絵が、この場を作った北元嗣という人間が、面白かった。

 曹家の陣営に、夏候元譲の副官として加わって、はや半月、その間に文武の両面でなかなかの結果を見せていたが、この数日の、間近に見た北元嗣という人間は、実に多才であり面白かった。
 だからだ、尋ねたのは。


「北元嗣、貴方は何者なの」


 面白い、そう思ったが故に曹孟徳は、北元嗣の本質へと切り込む事を選んだのだった。
 


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