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No.31419の一覧
[0] 【真・恋姫無双】韓浩ポジの一刀さん ~ 私は如何にして悩むのをやめ、覇王を愛するに至ったか[アハト・アハト](2016/04/19 00:28)
[1] 立身編[アハト・アハト](2012/03/02 22:06)
[2] その2[アハト・アハト](2012/03/08 23:56)
[3] その3[アハト・アハト](2012/03/09 00:00)
[4] その4[アハト・アハト](2012/03/09 00:02)
[5] その5[アハト・アハト](2012/03/09 00:08)
[6] その6[アハト・アハト](2012/03/19 21:10)
[7] その7[アハト・アハト](2012/03/02 22:06)
[8] その8[アハト・アハト](2012/03/04 01:04)
[10] その9[アハト・アハト](2012/03/04 01:05)
[11] その10[アハト・アハト](2012/03/12 18:18)
[13] その11[アハト・アハト](2012/03/19 21:02)
[14] その12[アハト・アハト](2012/03/26 17:37)
[15] その13[アハト・アハト](2012/05/08 02:18)
[16] その14[アハト・アハト](2012/05/08 02:19)
[17] その15[アハト・アハト](2012/09/26 19:05)
[18] その16[アハト・アハト](2015/02/08 22:42)
[19] その17[アハト・アハト](2016/04/19 00:26)
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[31419] その2
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/08 23:56
 
 
 なし崩し的に夏候元譲の下で働くことになった一刀。
 本人としては、働きたくないとまでは言わないまでも、勇名よりも悪名を良く聞く曹魏、曹操の陣営に参加する事に一抹以上の不安 を感じてはいたが、保護者というか後見人であった村長がその気になっては、是非もなし。
 そんな気分で身の回りのものを始末し、旅立つ準備をする。
 生活雑貨から衣類まで、諸々を竹で編んだ行李に詰め込んでいく。
 
 
「ふむ、北元嗣殿の私物はその程度か?」
 
 
 行李1つに入りきった私物の量に、夏候元譲は呆れた声を上げた。
 とはいえ、仕方の無い話であるのだ。
 家財の多くは村から、村長から借りたものであり、純粋に一刀の私物と呼べるのは現代から持ち込んだ衣類や小物類の他は、自前で 作った水筒や衣類程度なのだから当然だろう。
 
 確かに女性から見れば、この私物の少なさは驚きかもしれないと、一刀は思った。
 だがそれ以上に気になったのは、夏候元譲からの声掛けであった。
 
 
「夏候元譲殿、私はもう貴女の配下です。なので、元嗣とお呼び下さい」
 
 
「あっ、うん、すまんな元嗣。なら私の事も元譲で良い。それも2人っきりであれば砕けて構わん。年も近いのだ、殿もいらん」
 
 
「有難う、あー元譲。では改めて宜しく頼む」
 
 
「こちらこそ、です」
 
 
 共に破顔する元譲と一刀。
 一刀はこの夏候元譲という女性を気に入りつつあった。
 快活な雰囲気を持ち、竹を割ったような風なので、実に話しやすいのだ。
 その意味では、この仕官も悪い物ではなかったと思えてきていた。
 
 対して元譲も、賢人と噂されていた一刀が、偉ぶった所の無い人間であったので、至極気に入っていた。
 と、ふと、一刀を見る元譲の目つきが変わった。
 一刀の身のこなしに、武の匂いを感じたのだ。
 
 
「元嗣、君は武を嗜んでいるのか?」
 
 
 脚捌きや重心の動きが、素人のものでは無いと見えたが故の発言だった。
 その、元譲の推測は正しく、一刀は剣術を嗜んでいた。
 剣道ではなく、剣術だ。
 それは、父方の祖父が鹿児島の人間であり、薬丸自顕流の師範代であったが故にであった。
 習えと言われたからではない。
 子供の時に見た修練、立ち木打ちの狂的にも見える暴力性に、一刀が惹かれての事だった。
 以来ずっと、刀を振るっていた。
 この世界に来てからも、暇があれば立ち木を打っていた。
 
 
「夏候元譲に認められるなんて光栄の至りと言いたい所ですけど、実際は、貴方から見れば児戯みたいなものですよ、きっと」
 
 
 一刀は、謙遜ではなく本気で、そう口にしていた。
 後に “魏武の大剣” と歴史に謳われる事となる武人に褒められた事は嬉しくあっても、山賊退治での経験から、それを素直には受け入れられないのだ。
 山賊と対峙した際に剣を振るう機会はあったが、人を傷つけ殺す事への躊躇から、一刀は戦えなかったのだ。
 だから疑問に思っているのだ。
 次に実戦があったとして、自分は戦えるのか、剣を振れるのか、と。
 元譲の下へと就く事になったので、今後、間違いなく戦いに身を投じる事になる。
 その時に迷う事無く戦えるのか、正直な話、自信は無かった。

 だが同時に、山賊に対する憎悪があった。
 殲滅した山賊のねぐらを捜索した際に見た、捕まって陵辱の限りを尽くされた女性や、或いは面白半分に殺された人達の亡骸を見て、戦えなかった自分を恥じる気持ちが。
 命の重さに貴賎は無い。
 だが、赦されない人間は居る。
 そうも思えたのだった。
 
 屈折した思い。
 平成の、平和な日本で生きてきた一刀にとって、まだ武器とは、戦とは割り切れるものではなかった。
 
 
「そうか? しっかりとした修練を積んでいる様に見えるぞ」
 
 
「なら何れ、見せますよ」
 
 
 今は剣も無いと笑う一刀に、元譲は何れとは言わぬと答える。
 陳留には剣はたくさんあるのだ、と。
 
 
「それに練兵所がある。そこで見せてもらおうかな」
 
 
「強引ですね。判りました。ですが、余り期待しないでいて下さいね」
 
 
「うむ、私は武ではなく軍の才を元嗣に求めてはいるのだ。が、楽しみにする程度は許してくれ」
 
 
「そう言われては、逃げ場がありませんね」
 
 
「はっはっはっ! 当然だ、この私からは逃げられんのだ」
 
 
 元譲は楽しげに笑った。
 その快活な様に、何時しか一刀も乗せられて笑っていた。
 
 
 
 
 
 陳留への旅支度をすませ、それから家を掃き清めた一刀は、村長以下、村の主だった人達や、子供たちに別れの挨拶をする。
 大人達は心地よく 、子供達は些か残念そうに。
 そして女性陣は寂しげに挨拶を交わしていた。
 道中にと、食べきれぬ量の保存食をも持たしてくれた。
 別段に、彼女らと一刀は情を交わした訳では無いが、何がしの好かれるものがあったのであろう。
 その事を元譲は、村から旅立ってからからかった。
 
 
「後ろ髪はひかれぬか、元嗣は」
 
 
 干し柿を齧りながら笑う元譲に、一刀は有難くはありますけどと返した。
 共に歩きである。
 一刀の荷物を元譲が乗ってきた馬に載せたのだ。
 当初は背負う積もりであったが、それでは大変だろうと、元譲が提案しての事だった。
 
 
「子供が言うていたでは無いか “女子好き” と」
 
 
「それは勘弁してください。女子が好きというよりも、好かれていただけですし」
 
 
 そう言って一刀も干し柿を取って齧る。
 優しい甘みが口の中に広がった。
 この干し柿をくれた人もだが、確かに女性にはよくして貰った。
 が、色々と何でモテたのか判らんというのが、一刀の正直な気持ちであった。
 
 
「それに今は、陳留に気が向いてますから」
 
 
「そうか、良い街だぞ陳留は。何と言っても ――」
 
 
「曹孟徳殿が居るから」
 
 
 元譲の決め台詞を先に、しれっと一刀は言った。
 それに、元譲は胸を張って返した。
 
 
「そういう事だ」
 
 
 嬉しそうな元譲の姿に、一刀は、如何に元譲が曹孟徳を敬愛しているか判ると云うものだと頷いていた。
 
 
 
 
 
 2人の旅路は一昼夜であった。
 先ずは陸路で南へ下り、それから黄河を渡る船に乗って官渡へ渡り、そして陳留へと至る。
 その道は、先ず先ずもって平穏なものであった。
 
 
「この陳留近郊は、大分治安が落ち着いてますね」
 
 
 官渡から上陸しての街道は、それまでにも増して行き交う人の数が多かった。
 それは、この一帯の治安が保たれている証拠であった。
 
 
「有無。曹の御旗の下でわれ等が賊を討っているのだ。民草の安寧を乱す者に容赦はしないのだ!!」
 
 
「ご立派です」
 
 
「だろーだろー 我が華琳様が刺史として活躍しておいでだからな!!」
 
 
 鼻高々とする元譲の姿は、実に乙女でもあった。
 というか、思わず曹孟徳の真名を口にしてしまう辺り元譲も実に嬉しいのかもしれないと、一刀はほほえましく見ていた。
 と、前をみれば道の先に城壁らしきものが姿を見えたのに気づいた。
 
 
「元譲?」
 
 
「うむ、あれが我が陳留だ!」
 
 
「あれが陳留………」
 
 
 それは遠くから見ても尚、活気付いているのが見える街であった。
 この世界で始めてみる大都市に、一刀は少なからず興奮して見ていた。
 
 
 
 
 

真・恋姫無双
 韓浩ポジの一刀さん ~ 私は如何にして悩むのをやめ、覇王を愛するに至ったか

  その2

 
 
 
 
 
 さて、陳留に着いてからの一刀は、陳留刺史曹孟徳の臣、夏候元譲の私兵部隊の副官という立場に立つ事となった。
 ある意味で軍師にも似た立場である。
 但し軍師とは違うのは、非常時であれば部隊を率いて前線に立たねばならないと云う事だろうか。
 要するに、一刀は武官であるのだ。
 その事を一刀は、少し早まったかなと思っていた。

 陳留に着いての翌日、元譲が部下に紹介すると連れられて来た練兵所には、良く鍛えられたと思しき男達が居た。
 夏候元譲隊。
 400余名の男達である。
 400対を越える視線の持つ圧力に、一刀は腰が引けぬように注意しながら対峙した。
 自警隊での賊討伐の経験から、この手の男達は、弱気弱腰の男を断じて認めないと理解していたからだ。
 命を賭ける場に赴く時に、腰抜けに率いられたくは無い。
 そういう思いだ。
 勝敗は兵家の常である以上、退く勇気は大事だが、それとは別の、胆力が要求されるのだ。
 その事を理解するが故に一刀は、視線を逆に圧倒しようという気迫を込めて立つ。
 
 
「私は北元嗣だ。姓は北、名は郷。字は元嗣だ。諸君と共に夏候元譲殿と曹孟徳殿を盛り立てていきたいと思う。宜しく頼む」
 
 
 胸を張って、堂々と言う。
 20を越えていない一刀にとって、400の兵の大半は年上である。
 であるにも関わらず、上からの目線で言葉を発するのは、かなりの苦痛であった。
 だが同時に、いざともなれば彼らを指揮せねばならぬのだ。
 であればこそ、兵卒の信頼を態度からも得ていかねばならない、そう思っての事だった。
 
 肩肘を張るつもりも無ければ、威張り散らす積もりも無い。
 というか、この北郷一刀という人間は、平成の日本生まれの人間の大多数がそうであるように、本質的にお人よしであり、偉ぶる事を好まない人間だ。
 だか、人を率いるという事は、人柄が良いだけでは勤まらないのだ。
 正論だけでも、人は動かないのだ。
 
 その事を一刀は約1年近い河内の寒村での日々で、自警隊を率いての山賊討伐や、村の農業改善、というには原始的ではあったが、平成の日本で受けていた教育を応用した事を実行する際に、学んでいたのだった。
 
 
 
 
「なかなかに堂に入った自己紹介だったじゃないか、元嗣」
 
 
 練兵所の脇、木陰の下で笑っている元譲に、一刀は頭を掻きながら返す。
 共に、口調からは格式ばった部分は消えていた。
 この数日の付き合いで、余人の無い場所での2人は、貴様俺の関係となったのだ。
 
 
「頑張ったんだよ。舐められる訳にもいかないし、私を連れてきた元譲の顔を潰す訳にもいかないし」
 
 
「ほう、色々と考えているのだな」
 
 
「そりゃ、ね」
 
 
「なら次は格好を整えないとな」
 
 
「やっぱり駄目か?」
 
 
 今、一刀が着ているものは、村で古着を仕立て直してもらったものだ。
 聖フランチェスカ学園の制服もあるにはあったが、こちらはポリエステル製であり、この時代の衣服とは異なり過ぎていた。
 目立ちすぎるのだ。
 とは言え、今着ている服は古着ゆえに色あせて古びていて、陳留の様な街では、別の意味で目立つ格好であった。
 
 
「うむ、一応は私の副官ともなるのだからな」
 
 
「とはいえ、今は元手が無いぞ」
 
 
 そう言えば生活費とか、給料の話もしなかったなぁと一刀は思い出した。
 勢いで契約金ロハで幻影騎士団入りした腕利きさんを思い出して、自分の境遇に少しだけ重なるなとも、思っていた。
 
 
「安心しろ。そこはこの夏候元譲に任せろ。私は副官の衣装も揃えられない甲斐性無しではないのだ」
 
 
「それは有難い」
 
 
「後、生活に必要なものがあれば、買い足しておこう」
 
 
「生活必需品なら、今は大丈夫かな」
 
 
 兗州刺史の配下という事で、夏候元譲隊は陳留の官舎に入っている。
 そこで食と住は手配されているのだから。
 
 
「では、武器も考えないとな」
 
 
「憶えていたのか、元譲」
 
 
「当然だ!」
 
 
 胸を張って答えられると、一刀も苦笑するしかない。
 幼少の頃より剣術を嗜んできてはいたが、流石に歴史に名を残す本物の武人の前で披露するには、少なからぬ躊躇があったのだが、 相手がそれを強く望んでは是非もなしでった。
 この後で武器を見繕って、武を見せ、そして買い物に行くという話となった。
 
 だが、予定は思いもかけない形で、断念される事となる。
 
 
「夏候隊長!!」
 
 
 伝令であった。
 それは、賊による襲撃が、この陳留の近くで発生した事を伝えるものであった。
 相手は隊商との事であった。
 
 
「おのれ、この陳留の傍で舐めた真似をしおって!!」
 
 
 激発した元譲、その様は正に武人であった。
 すぐさま兵に武装を持っての集合を命じると、自身も鎧を着込んでいく。
 兵卒の着ている実用本位の鎧に比べ、元譲のものは実用性もだが女性らしさ、或いは女性的な魅力を前面に出した鎧となっていた。
 その事に一刀は、カルチャーショック的なものを感じつつも確認をする。
 
 
「出撃は良いとして、刺史である曹孟徳殿か、或いは陳留郡太守殿の許可はいらないのか?」
 
 
 それは、元譲の副官として居るという意識からの言葉だった。
 民の為の出陣であっても、手順を踏まねば後々で厄介になるかもしれない。
 元譲の身分は曹孟徳の私臣であり、夏候元譲隊は曹家の私兵でしかないのだ。
 それが、刺史ないし郡太守の指示か許可も無く動いては、後日に非難される恐れがあるのではと、危惧しての発言だった。
 が、それに対する元譲の反応は、快笑だった。
 
 
「我が主、曹孟徳は慧眼なのだ。昨今の賊の跳梁もあって、この様な場合には自らの判断で出ても良いとの許可を受けているのだ」

 
 自信満々か、或いは鼻高々かかと言う風に、元譲は曹孟徳を称える。
 それに、一刀は驚きを覚えた。
 確かに曹孟徳の判断は合理的であり、賊対処の様な火急の事態に対しては極めて正しい判断である。
 そして同時に、権力者としては異例であった。
 権威権限、或いは許認可権というものこそが、権力者の権力の源であるのに、それを合理性で手放せるというのは、並みの人間に出来るものではないのだ。
 にも拘らず、曹孟徳はそれを成せたのだ。
 一刀が驚いたのも当然であった。

 そして同時に一刀は、元譲が本当に曹孟徳を敬愛しているのだなと理解した。
 元譲がそれほどに敬愛する曹孟徳とまだ顔を合わせてはいないのが 残念だとも思った。
 曹孟徳は刺史としての急な仕事で、昨夜から夏候妙才をを連れて陳留を離れていたのだ。
 
 乱世の奸臣と呼ばれた曹操と、この世界の曹操、曹孟徳は別の人間なのかもしれない。
 或いは、史書が真実をありのままに伝えていないのかもしれない。
 そんな風にも思っていた。
 
 
「そういう訳で納得したな? なら行くぞ元嗣!」
 
 
「ああ、了解だ」
 
 
 既に一刀は防具を装着していた。
 一般的な鎧は流石に止め具留め紐の調整が居るので、服の上に軽い胸甲と手足の小具足を纏っただけであったが。
 手には剣を、一般的な直刀諸刃の中華式の剣を持つ。
 
 
「それで良いのか?」
 
 
「何とかする」
 
 
 元譲の問いかけに、一刀は苦笑と共に返事をしていた。
 抜剣してはみたが、しっかりと振るってみた訳では無いので、具合が判らないのだ。
 そもそも、日本刀とは違う中華式の剣である。
 薬丸自顕流との相性など、実戦の場でどうなるか判らないのが正直な話である。
 一応は夏候元譲隊で一般的に使われている剣の予備という事で、問題は無いだろう、としか言えないのだ。
 
 一刀としては、柄の短さに、少し困っていた。
 片手用の剣として作られているので、日本刀の如く両手で持ちづらいのだ。
 柄頭に大きめの装飾があるのも邪魔だった。
 
 だが、今も罪無き人が賊に襲われていると考えれば、そんな事は瑣事であった。
 そう思える一刀であった。
 
 
 
 
 
「さぁ出陣だ!!」
 
 
 声を上げた元譲に、その配下の男たちは、それぞれの武器を掲げて吼えていた。
 400余名、それは軍としては小さいだろう。少ないだろう。
 だがその気迫は、大地を震わす様に一刀には感じられた。
 
 
「これが夏候元譲、魏武の大剣」
 
 
 眩しい者を見るように、一刀は元譲を見ていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 山賊の親分は上機嫌で手下や隊商を睥睨していた。
 最近では滅多に得られなかった大きな獲物、馬車が10台を越える隊商を襲えたのだから、当然だろう。
 既に護衛は討ち払い、商人どもとその家族は1まとめにして監視している。
 金銀財宝とは言わないものの織物や香辛料などといった、売り捌けば高い値のつきそうな物が山と積まれているのだ。
 商人にも器量の良い年頃の娘が幾人か居るので、楽しめるし売れるだろう。
 正に宝の山である。
 親分は、これで喜ばぬ人間は山賊ではないと、重ねた悪行から悪相となった顔を綻ばせている。
 
 曹孟徳が兗州刺史の地位に就いてからは、特にその活動拠点を陳留に置いてからは、黄河南側で大きな物流の要衝となっている陳留周辺での “商売” が出来ない日々が続いていた。
 それまでの戦意に乏しい官軍ではなく、狂的な戦意を有する曹家の私兵を相手にするのは、山賊にとっては荷が重過ぎていた。
 
 故に、多くの山賊団が討たれていく中にあって、この山賊達は陳留から離れた小さな村などを襲って稼いでいた。
 とはいえ、この山賊団も40人からの人数がおり、小さな村々から収奪出来る量では満足に生活する事もままならないでいた。
 貧民が、貧困がいやで賊に身を落としたにも関わらず、困窮する日々だったのだ。
 それが、今日は違う。
 山ほどの獲物を得たのだ。
 これを元手に、陳留から離れて南皮辺りに移動しても良いなと山賊の親分は考えていた。
 
 
「しかし大丈夫ですかね。こんな陳留の傍で仕事なんて、曹操の奴が出てきたら事ですぜ?」
 
 
 曹操と、侮蔑の意味を込めて曹孟徳の姓名を呼ぶ手下であったが、その声には紛れも無い恐れがあった。
 兗州で賊働きをした多くが、曹の牙門旗によって打ち滅ぼされているのだ。
 その意味で、恐れない方が珍しいだろう。
 だが、親分はそれを笑い飛ばした。
 
 
「馬鹿が、今、陳留に残っているのは猪夏候の惇助だ。奴の手下は徒歩だから、手筈通りにすりゃぁ、問題なく、このお宝は俺たちのものよ」
 
 
 山賊の親分にも、策があった。
 そもそも、陳留に貼り付けていた部下から曹と夏候、夏候妙才の牙門旗が僅かな供回りと出立した事を知らされてから、この賊働きを決めたのだ。
 その意味で、この山賊の親分は兗州は陳留、刺史曹孟徳のお膝元で賊働きをしつつ生き残っているだけの知恵があった。
 
 
「流石は頭だ!」
 
 
「そう褒めるな、照れるじゃないか」
 
 
 酒で潰れた声で笑う親分と、阿諛追従する部下たち。
 商人と家族は、その様を怯えて見ている。
 
 と、そこへ下っ端が駆け寄ってきた。
 
 
「親分、来やした! 夏候惇の牙門旗です!!」
 
 
「数はなんぼじゃ!」
 
 
「沢山です」
 
 
「猪らしく全部で来たか!? よし、手筈通りに対応しろ。失敗した奴は後で殺ぞ!!」
 
 
「へい、頭!!!」
 
 
 親分の示していた事前の策に従って、山賊たちは動き出す。
 
 


 
 自分に与えられた400余名の兵、その全てを持ってきた夏候元譲。
 その姿勢を指して油断が無いと言えば聞こえは良いが、その実として判断力が硬直していると評しても間違ってないだろう。
 そう、20人からの山賊の群れを見つけた途端に、突撃の怒声と共に駆け出したのだから。
 
 
「華琳様のお膝元で、賊などの跳梁を赦すな!!!」
 
 
「おぉぉぉぉぉっ!」
 
 
 剣を振りかざして叫ぶ元譲に、400余名の兵達は皆が皆、声を張り上げて応じた。
 その迫力に負けてか、山賊たちは1当りしたら慌てて逃げ出した。
 隊商を放っての、気持ちが良い位の大遁走である。
 
 それに気を良くした元譲は更に命令を下した。
 
 
「よし、追撃するぞ!!」
 
 
 それに驚いたのは一刀である。
 見敵必戦は間違いではないが、最良の解では無いのだから。
 特に、今回は賊の討伐よりも隊商の保護が主目的な筈にも関わらず、隊商を放って追いかけては本末転倒だと思ったのだ。
 後、山賊の逃げる姿が余りにも鮮やか過ぎる事も気になった。
 
 だから元譲に、慌てて提案した。
 
 
「夏候隊長、隊商に人を残しましょう、けが人の手当ては事情聴取が必要です」
 
 
「そうか? なら ――」
 
 
 深く考える事も無く、一刀の進言を受け入れた元譲は、近くに居た10人程の兵士を集めて一刀へと預ける旨を口にした。
 まだ一刀と会って短い時間しか経ていない元譲だが、その才覚を疑ってはいなかった。
 否。
 それどころか、そもそも自分の気付かない所の判断を頼ろうと思っていたので、この進言を嬉しく受け入れていた。
 その意味では、夏候元譲とは将の器を持っていた。
 
 
「元嗣、此方はお前に任せた!」
 
 
 但し、猪突猛進型ではあったが。
 
 
 走っていく元譲と男たちを、呆れにも似た気持ちで見送った一刀は、それから気分を入れ替えて声を出す。
 
 
「では、此方も仕事を始めましょう」
 
 
 一刀としては、この場に残すのは自分以外の予定であった。
 兵卒と共にある事で、男たちからの信頼を得なければならないという面もあったからだ。
 だが、こうなってしまっては是非も無い。
 そもそも、呆けている暇は無いのだから。
 隊商の人たちの保護と怪我などの対処、状況の確認など、すべき事は沢山あるのだからと、気分を入れ替えいた。
 


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