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No.31405の一覧
[0] 少年と正義[Justin](2012/02/02 00:23)
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[31405] 少年と正義
Name: Justin◆622cdc40 ID:969c68c8
Date: 2012/02/02 00:23
人生の「正しい」生き方とはなんだろうか。
人間の行動原理に「正義」というものが存在する以上、「正義」のもとに全ての行動を決定するという形での「正しい」生き方というものは確かに存在するはずである。
少年は、自らの生き方が「正しい」生き方であることを望んだ。
正しいことが、彼の唯一の存在証明だったから――。

少年はいつも正しかった。
正論のみを言う彼を敬遠する人間も多かった。彼の周りからは次第に人が減っていった。しかし彼は自分が正しいと確信していたから、逆に離れていく周りを見下してやった。彼はいつでも正しかった。
少年は町の不良に目をつけられてぼこぼこにされた。しかし彼は不良が殴るのをやめるまでついに膝を屈しなかった。彼は必ず正しかった。
少年は孤独になった。孤独の中でも彼は、正しさとは何かという思索を止めなかった。彼は確かに、正しさなどかけらも掲げずに日々を無為に生きる周りを軽蔑していたが、彼らが笑うのを見て自分が笑っていないことに気付いた。しかし彼にとって、そんなことは小さなことでしかなかった。彼は絶対に正しかった。
少年は「正しくなかった」過去を恥じた。正しいことが唯一の自慢だった彼にとって、正しくない過去は消されるべきものであった。彼は偽の日記を書き始めた。彼は自分で自分の過去を見放した。彼は究極的に正しかった。
少年は過去を書き換えた。過去も正しく、現在も正しく、未来も永劫正しい。彼は永遠の正しさを手に入れた。彼は神になったのだ。少年は神になってもなお正しかった。

神になった少年ははじめて、周りにきちんと目を向けた。
神の目から見える景色は、どこまでも笑い合う人々だった。
神はその笑顔を見て、しかし微笑むことができなかった。
神は鏡に自らを映した。神になったと思ったその姿は、しかし、醜悪な悪魔のそれだった。
神はいつも正しかった。神はいつでも正しかった。神は必ず正しかった。神は絶対に正しかった。神は究極的に正しかった。はずなのに――。

神は自らの存在に、はじめて疑問をもった。
自分は正しいのか?しかしその点について、疑う余地はなかった。
しかしそのことが神を苦しめた。全ての苦しみを超越したはずの神が苦しんでいた。
神は苦しみ、苦しみ、苦しみぬいた揚句、自らにとってもっとも重要なものを捨てる決意をした。
神は正しさを捨てる決意をした。
神は正しくなくなったが、悲しいかな、神の選択は全くもって正しかった。

神は正しさを失い、神格を失い、少年へと戻った。
少年はもはや正しくなかった。
正しくない少年は、周りにひとこと声をかけた。
周りの皆が、笑って彼を迎えてくれた。
少年は正しくなくなったが、しかし少年は笑っていた。

曰く、正しくあろうとする者は、自らの正しさに押しつぶされる。
正しさとは、正義とはすなわち力である。正しいことが正しいのは、正しさを目に見える形で表現できる限りにおいてである。
曰く、楽しくあろうとすることは、誰にでも与えられた普遍の権利である。
楽しさとは、すなわち弱さである。強くあることは難しいが、弱さなら誰もが抱えている。人と弱さを共有することによってしか、人は自らの弱さを克服できないのである。


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