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No.31382の一覧
[0] 『この賭けに、自分の忍道を賭けてみよう』[サバ煮停職](2012/01/30 00:07)
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[31382] 『この賭けに、自分の忍道を賭けてみよう』
Name: サバ煮停職◆60022337 ID:c87a6218
Date: 2012/01/30 00:07
「……螺旋丸!!」

巨木が一撃でなぎ倒された。

チャクラを形状変化で乱回転させて、さらに掌の上で球形に圧縮して相手を破壊する超上級忍術である。

師匠であるエロ仙人が取材旅行に出かけてから、一人で修業を繰り返し、ようやくここまで形にした。

「……よっしゃぁ!」

まだ十三歳の少年であるナルトは、予想以上の修業の成果にガッツポーズをした。

徹夜の修業で全身傷だらけだったが、頬は思わずにやけてしまう。

「これで、明日の試験も楽ショ―でクリアだってばよ」

そう、明日は念願の下忍になれるかが懸かった試験があるのだ。

誰もが認める忍者『火影』になることは、ナルトの子供のころからの夢なのだった。

……お前みてぇなガキに、火影なんか無理に決まってるだろう。

里の人間はいつもナルトを馬鹿にする。それでも……

「いつか里を救った英雄、四代目火影を超える火影になってやるってばよ」

誰もいない修行場で、少年は天を指さしながら宣言した。

……ぐぅううう。

折角、決めポーズまでとったのに台無しである。

「はは、んじゃあ、今日も一楽のラーメンするってば」

ナルトが印を組むと周囲の景色が鬱蒼とした山林から、見慣れた自宅へと変わる。

知っている者なら、『飛雷神(ひらいしん)の術』という言葉が頭を過ったかもしれない。

本来なら下忍ですらないナルトが扱える術ではないのだが、自身のチャクラと妙に相性が良いのだ。

……なんでだってばよ?

エロ仙人も寂しそうな顔して黙っちまうし、なんでって聞きづらいよな。

ナルトは金庫からガマ口財布を取りだすと、ラーメン一杯分のお金だけもって再び鍵をかけた。

忍には三禁というものがあり、お金、女、お酒のことだと言う。

他人の振り見て我が振り直せ…ではないが、師匠のだらしなさは折り紙つきだ。

弟子である自分だけはしっかり者でいようと固く決意するのだった。



「よお、ナルト。なんだお前ぇ。また来たのか」

「テウチのおっちゃん。今日はチャーシュー大盛りで頼むってばよ」

「あいよ。明日は下忍選抜試験。今日はサービスだ」

ナルトの前に置かれたラーメンはいつもの倍以上のボリュームだった。

気さくな店長がラーメン以上に、ナルトは大好きだった。

……おまけに他のヤツらと違って、俺のこと馬鹿にしねぇし。

こんな人が一人でもいてくれる里なら、ナルトは下忍としてこの里を守るのに何ら迷いなどないのである。

……ズズズズー。

勢いよくラーメンを啜っていると、ナルトの隣に誰かが座って来た。

「ほほ、ナルト、相変わらず元気そうじゃの」

「うげぇ、火影のじいちゃん」

三代目火影。プロフェッサーとよばれた伝説的な忍で、今の里の最高指導者だ。

「ああ、これは火影。今日はナンにしますかね?」

「そうじゃの。じゃあ味噌ラーメンでも貰おうか」

「へい、味噌一丁」

里中から慕われている忍なんだけど、ちょっと口うるさい。

「ところでナルト、お前、また立ち入り禁止の場所で修業をしとったそうだな」

「……ギクッ」

「修業をするなとは言わん。しかし、場合によっては子供のイタズラで済まないことも……」

なんか長くなりそうだな。

「コラ、ナルト、聞いとるのか!」

「………………」

三代目が見た先にあったのは、ナルトそっくりの変わり身であった。



「全く、火影のじっちゃんてば、毎度毎度うっせーんだってばよ。この前は、みんなに迷惑がかからないように修業しろとか言ってたくせに」

急いでラーメンを完食したナルトは、代金をテーブルに置いて早々に立ち去ったのだった。



ナルトが夜の繁華街を家まで向かって歩いていると。

…………。
……。
………………。

こちらを向きながら、ひそひそ話をする里の人がいることに気が付いた。

ここからでは聞き取れないが、大方の想像はつく。

「……またか」

いい加減、うんざりだった。

少なくとも人の癇に触るようなことをした覚えはない。

何が気に食わないのかは知らないが、言いたいことがあるなら面と向かって行いというのだ。

「けっ、化け物め」

ナルトは勢いよく後ろを振り向いた。

しかし、夜の喧騒に紛れたのか、声の主は誰だかわからなかった。

……くそぅ。

意味のわからない罵倒。さすがに腹の下が熱くなった。

誰でも良いから、殴り飛ばしてやりたい衝動に駆られた。

おそらく中忍ぐらいなら、ナルトの敵ではない。

しかし、ナルトはグッと堪えた。

里の人間はあんなヤツだけではないからだ。

師匠やテウチのおっちゃん、あと口うるさいが火影のじっちゃんみたいな良い人もいる。

自分を認めてくれる人を自分から遠ざけるような真似だけはしたくなかった。

ナルトは逃げるようにその場を後にする。



「たしかあの路地を曲がれば裏道に出るはず、そこなら人通りもすくないってばよ」

しかし、道を曲がる直前に、誰かが俺の手を掴んだ。

「おい、ナルト」

「……イルカ先生」

くそッ、いつも俺を怒ってくる先生だ。

「こんな遅い時間に何をしているんだ」

はあ、またかよ。この人だって俺のことが嫌いなんだな。まあ、陰険じゃあない分だけマシか。

「む、なんだ。その態度は」

はッ、逆らったら試験を落とすとか言うんだろ、どおせ。

「い、今、家に帰るところだったんだってばよ」

それだけ言うと、俺はイルカ先生の手を振り払って一目散に逃げ出す。

こんなヤツの顔など見たくもなかった。

「あ、コラ、ナルト!」



翌日、ついに下忍試験の時刻になった。

担当は、イルカ先生とミズキ先生だった。

イルカ先生は、いつも俺をぶすッと睨んでくる。

ちょっと苦手な先生だ。

ミズキ先生は、いつもニコニコ顔の優しい人だ。

生徒みんなが大好きな先生だ。

イルカ先生が大きな半紙を、黒板に張りつけた。

そこには『分身の術』と大きく書かれている。

「今日の試験は、『分身の術』とする」

周囲から、嬉しそうな声が響いた。

『分身の術』はアカデミーの生徒が一番最初に習う忍術のひとつだった。

しかし、ナルトは一人だけ頭を抱えた。

……最悪だってばよ。

「ぷぷ、ナルトのやつ、まだ分身も満足にできないんだぜ」

「それで火影だもんな。恐れ入るよ」

今回ばかりは、反論の余地がなかった。

ナルトが使える忍術は『螺旋丸』と『変化の術』以外は、ほとんどが『封印術』や『時空間忍術』なのだ。

アカデミーの教科書にも載ってないすごい忍術なのだが、残念なことに『分身の術』にはへの役にも立たない。

……いや、術式の応用でなんとか。って後数分じゃあ無理だってばよ。

俺だって、別に修業サボってたわけじゃあないんだってばよ。

だけど分身だけは~。

ああ、夢が遠ざかって行く~。

下忍試験に落ちるものは滅多にいないという話だが、これじゃあ少数派の方になってしまいそうだった。

「……せっかく、初めての試験なのに」

「おい、次、お前の番だってよ」

うぎゃ~。き、来たぁ。

ナルトは勢いよく試験官室のドアをあけた。

「たのも~だってばよ」

ナルトは威風堂々とした姿で歩く。しかし、背中は汗でベッタリと張り付いていた。

「それじゃあ、試験開始!」

い、いきなり。……く、こうなりゃ、なるようになれってばよ。

ナルトは『分身の術』の印を結んだ。

レモンを絞るが如く、全身からものすごい量の蒼いチャクラが溢れ出す。

あれ、火事場の馬鹿力というヤツか?

ナルトは驚嘆している先生たちを見て、『……ふ、今さら、驚いても遅いってばよ』なんて思ってしまった。

しかし、先生たちは必死にナルトを制止しようとしていたのだった。

「よし、『分身の……うぎゃあ」

ナルトは爆発した。放出したチャクラが分身の中に納まりきらず、ナルトの中で分身になる前に大爆発を引き起こしたのだった。

「……ぶはッ」

黒煙の中から真っ黒焦げになりながら、ナルトはなんとか這い出す。

そこには阿鼻叫喚の地獄絵図を背景にした、地獄の鬼が立っていた。

「ナルト、失格!!」

……ですよね~。



全ての試験が終わるまでの間、ナルトは校舎内への立ち入りを禁じられた。

一人寂しくブランコに腰をかけていると、先に合格した者たちが嬉しそうにナルトの側を通り過ぎていく。

「ホント、あんたはヤレばできる子よ」
「はは、今日は母さんがご馳走を用意してるぞ」
「お前ならヤレると思っていた」

「……さすが俺の息子だ」

どこの家庭にもありそうな光景だが、両親がいないナルトには一生手に入らないモノだった。

「はあ、下忍になりたかったてばよ」

あまりに幸せそうな光景だと、なんだか逆にムカムカしてくるな。

嫉妬してると、お腹が奇妙に疼くような感じがした。

…………。
……。
………………。

ああ、はいはい。俺が見てんのが気に要らねぇんだろ。

嫌われ者は、とっととどこかに行くってばよ。

……熱い熱い熱い。

あの視線を向けられるほど、古傷が痛むように腹が疼くのだった。

得体の知れない何かが、腹の中で暴れまわるのだ。



ナルトは知っていた。

これが『憎しみ』なのだ。

ナルトは知っていた。

この感情に身を任せた結果に何が待っているのかを。

ナルトは知っていた。

だから必死に、この感情を抑え込む必要があるのだと。



イルカ先生にはアカデミーの外で待っているように言われたが、今はそんなところではない。

ナルトは取りあえず一人になれるところを探そうと思った。

ブランコから降りて校門に向かおうとしたとき、ナルトを呼びとめる人物がいた。

「……ミズキ先生?」

「やあ、ナルト君。今日はすごかったね」

「はは、今日はごめんだってば」

大好きな先生が話かけてくれたこともあって、思わず足を止めてしまう。

「うん、実は…君に良いことを教えようと思って探してたんだ」

何故だろう?

ミズキ先生と話しているときは穏やかなはずなのに、今日はヤケに腹が疼いた。

まさか所謂女の子の日が俺にも……って、そんなわけねえか。

「ええっと、俺ってば…今は」

今はそれどころではないと言おうとした。

「ナルト君」

先んじられた?

「……なんだってばよ。先生」

「…………」

なんだ。ヤケに……勿体つけてる?

「先生、俺、ちょっと忙しいんだってばよ」

「ああ、ごめんね。実は、もしかしたらナルト君も下忍になれるかもしれないんだ」

「え、マジ!? マジだってばよ!?」

「う、うん。……実はね」

飛びついて来たナルトに少し驚いたようだが、ミズキは微笑みながら話し始めた。



ナルトはミズキ先生に言われたように火影邸へと侵入した。

なんでも凄んごい術を記した巻物があって、それを会得したら下忍にして貰えるようだ。

火影邸には、何度か訪れたことがあるので巻物の保管されている場所はすぐに分かった。

「こら、ナルト。わしの家で何をしとる」

やば、見つかった。

ナルトは巻物を背中に隠したが、これだけ大きいとナルトの体では隠しきれなかった。

「な、ナルト、まさか?」

「悪りぃ、じっちゃん。封印術・酔天堂」

ナルトは足の巻物ケースに入れた封印術を発動する。酔夢の世界へと対象を飛ばすことができる呪印がそこには刻まれていた。

チャクラの総量から飛ばせるのは数十分だが、速度はエロ仙人から教わったものの中では一番早い。

避けることはできなく、足止めにも十分な時間が稼げるだろう。

すぐに火影のじっちゃんは眠りに落ち……。

「は、はっくしゅん」

「ええ、嘘。クシャミだけで封印術を解きやがったてばよ」

本当は『呼吸法』と『チャクラの練り方』を応用した高等解印術をクシャミでカモフラージュする火影クラスの術なのだ。

しかし、高度すぎて今のナルトにそんなこと理解できるはずなかった。

「こりゃあ、ナルト。仮にも火影邸に侵入した上に、初代様が記した禁術の巻物まで。……修業もよいが…ナルト…そもそも…この書には…」

あのう、なんか凄んげぇ、怒ってんだってばよ。そして、また長話かよ。

イマイチ、火影の言っていることが理解できないナルトには『下忍合格が貰える術が書かれた巻物』という認識しかない。

……話に夢中になってる隙にと。

ナルトは火影邸に来る前に、ミズキ先生が絶対に安全だと教えてくれた場所に『飛雷神の術』に使う術式マーキングを施しておいたのだ。

未熟な『飛雷神の術』では、印を結んでから飛びまでの間にタイムラグがある。

上忍クラスなら止められてしまうが、なぜか火影のじっちゃんの隙をつくことだけは天才的だった。

「待たんか、ナルト」

「俺は火影になる」

「Vサインしとる場合か。それは本当に危険な……」

火影の制止も空しく。ナルトの姿は火影邸から何もなかったかのように消えてしまった。

「……はあ」

火影はちいさなため息を吐く。

「……あんの馬鹿者が」

無鉄砲さは母親譲りのようだ。

「術の才は、しっかり父親のを受けつでいるようだがのう」

どうせなら性格も真面目なアイツの方を継いで欲しかったと思わないでもない。

顎髭を触る老人の顔に、いつもの穏和な笑みはなかった。あるのはプロフェッサーと恐れた伝説の忍の顔だ。

火影は暗部を呼ぶと、これからの事をこと細かく指示した。



「ふう、じいちゃんには後で謝んないとな」

周囲には、結界が張られていた。

ここの場所を知る人間以外、ここに近付けなくする結界だ。

無論どこにでも結界が張れるわけではない。

偶然、ミズキ先生が指定した場所が自分の修業場所の一つと重なっていたのだ。

ここは火影のじっちゃんも知らない穴場なので、たっぷり修業することができる。

「よーし、それじゃあ、巻物は」

巻物には『封』と書かれた札が貼ってあった。

封印されている証拠だ。

かなり重要な代物のようだな。

「……解!!」

一言唱えると、札から『封』の文字が消え、地面に落ちた。

「あれ、意外と簡単だってばよ」

あっさり解けてしまったので、肩透かしをくらった気分だ。

ナルトが巻物を捲ると、そこには見たこともないような術がびっちりと書きこまれている。

「ええ、何々、うげぇ、難しそうな術ばっかだってばよ」

術式を描くには相応の知識が必要だ。ナルトとて術の習得難度ぐらいは分かっている。

「だけど、俺には、もうこれしかねえんだってばよ」

意地でも『火影』になってやる。周囲から認められ、大切な人を守ることができる『火影』に。



その頃、火影はイルカと会っていた。

「え? ナルトが勝手に『封印の書』を持ちだした!?」

食べていた団子を吐き出してしまった。

「もう少し落ち着いて食わんか、イルカよ」

「これが落ち着いていられますか!!」

机をバンッと叩ききながら立ち上がった。

今すぐ飛び出していきそうな勢いだ。

「……あんの馬鹿。寄りにも寄って『封印の書』を盗むとは」

かなり焦っていた。

「のう、イルカ」

火影は子供をあやすような声色だ。

「火影さま。ナルトの馬鹿は、オレが捕まえて、しっかり説教くれてやりますから」

「だから罰を軽くしろ…と」

「………………」

「別に、隠さんでも良かろう。だからこそ、ナルトを二学期にお前の担当にしたんじゃからな」

「…………」

「里の大人たちの中で、お前の向ける視線だけが違った。ナルトの中にあるもののことを知っておりながらのう」

「……」

「のう、イルカよ。お前もナルトが憎いと思うか」

「火影さま。自分は別に」

「それとも、ナルトは里を救った英雄…と思うか」

「え?」

「それは人それぞれじゃが、少なくともアレをナルトの中に封印した男は、後者じゃったろう」

火影さまは自分にではなく、遠い向こうの誰かに話しているように見えた。

「あの事件を経験した里の人間なら、ナルトを煙たがるのは当然です。俺だって、アレの所為で両親を失いました」

そう、例えそれが謂れのない憎しみであっても、感情とは扱いが難しいのだ。

「……それで…お前さんはどうしたい」

「あ、あいつは」

イルカには、ナルトの秘めている想いがよくわかった。

なぜならイルカも両親を失い、ひとり寂しい子供時代を過ごしてきたからだ。

瞳を閉じると、今でも、両親の最後の姿が目に浮かぶ。

あの頃は、孤独で、どうしていいのかさえ分からなかった。

きっとナルトも自分と同じ気持ちを感じているに違いない。

「ナルトは、俺とは違います」

イルカはきっぱりとそう言った。

「あいつは、あの頃の俺よりずっと大人です。あいつには、もうデッカイ夢がありますから」

陰湿で、さもそれが当然だという態度の大人たちに、ナルトが囲まれていたことがあった。

そう…ナルトはかつて里の者たちから迫害を受けていたのだ。

ナルトは気づいていないかもしれないが、イルカは陰からナルトの姿を見ていたのだ。

例え、地に伏しても何度でも立ち上がる少年の姿をだ。

「俺はナルトを恨みません。恨む理由もありません」

あの小さな少年は気がつけば自分が教えるアカデミーの生徒になっていた。

なら大人として、教師として、すでにヤルことは決まっているのだ。

「あいつは、ナルトは、木の葉隠れのうずまきナルトです」

火影さまは瞳を細めると、メモが書かれたちいさな紙を渡してくる。

「イルカよ。それではお前に任務を与える。その目で、お前が言ったことが本当かどうか確かめてこい」



「ああ、くっそぉ。全然上手くいかねぇってばよ」

修業を始めてから数時間が経過していた。

しかし。ナルトはいくら頑張っても完成しそうにない忍術に四苦八苦していた。

「おっかしいな。身体エネルギーと精神エネルギーの配分は完璧なはず。別に、性質変化を必要とする術じゃあねぇし」

もしかしたら陰と陽のパワーバランスがとも考えたが、そこまでとなるとナルトにはお手上げだ。

「いや、単純にチャクラコントロールの問題のはずなんだってよ」

巻物には、印の結び方のほかにも必要なチャクラの総量や扱い方が詳細に記されている。

『変化の術』を応用したチャクラ皮膜の作り方から、精神エネルギーのコントロールによる仮想人格の形成法など。

まさに忍術の教科書のような巻物だった。

しかし、手順は巻物どおりなのだが何故だか術が上手く発動しないのである。

「う~ん、そう言えば、『分身の術』のときにも似たようなことがあったような」

何故、自分の分身は爆発するのだろう。

ふッ、と試験のときの失敗が頭を過った。

アレは緊張のあまり、分身に強度以上のチャクラを込めてしまったことが原因だった。

それは風船に空気を大量に詰めるのと同じだ。

アカデミーで見習いが通る最初の道である。

「……強度以上のチャクラを込めたら爆発した」

だけどナルトの場合はチャクラ量が少なくても何度も爆発してる。

「う~~~、わかんねぇってばよ~」

まるで、別のチャクラがどこからか流れ込んでこないと、こんな現象なんか起きるはずがない。

ナルトは自分のトンデモ発想に、ガクリと膝を折った。

アカデミーで教えてくれる忍術をまともに使えた試しがないナルトは、周囲からドベ男くんとか呼ばれている。

決まって、アカデミーで忍術を使うと失敗するのだ。

「はは、これからはトンデモ野郎って呼んでもらった方がいいかもしんねぇ」

「このトンデモ野郎が」

「は、はい。……って、イルカ先生か」

……つい返事をしちまってばよ。

「イルカで悪かったな」

「……で、何? 火影のじっちゃんが俺を捕まえて来いって言ったのかよ」

どうせ小言だ。たしかに巻物盗んだのは悪いとは思うけど、俺だって、俺だってなあ。

「な、ナルト。お前、泣いてんのか?」

「え、いや、なんか孤独だなって思って」

「…………ッ」

いきなり核心を突かれて、イルカは言葉を失ってしまった。

もっともナルトからすれば、それほど重たい意味を込めたわけではなかったのだが。

それでもナルトにとって、『火影』になって周りから認めてもらえない限り、孤独なのは一生だ。

「はあ、後もうちょいだったんだってばよ」

「う、あ、ああ、何がだ」

「あと一歩で、凄んげぇ忍術が完成とこだったの」

「なんだ。そんなことか」

「な、そんことかって。こっちは下忍になりたくて仕方ないってのに」

「ああ、そうだな」

「あのねぇ、。こっちは本気なんだってばよ……イルカ先生」

イルカは何でもないことのようにナルトにあるモノを差し出した。

「俺が悪かった。失敗は誰にもあるよな。だから、もう一度だけお前にチャンスをやれるように火影さまにお願いしてきた」

そこには『再試験許可状』と墨で書かれていた。

「せ、先生、俺ってば、先生のこと勘違いして……」

ナルトが『許可状』に手を伸ばそうとすると、再び腹が疼いた。

……シュッ。

風を切るような音。頬から熱い液体が流れ出た。

よく見れば、イルカの手にはクナイが握られていた。

切られた?

思考が、現実になかなか追いつこうとしない。

「ナルト、お前の持ってる巻物を俺によこせ。そうすりゃあ、命だけは助けてやる」

イルカの顔は醜悪に歪んでいた。こんな先生の顔は初めて見た。

いつもの憎たらしい顔の方が数倍マシだ。

「あ、ああア亜阿ぁー」

怖かった。イルカの顔には本当の殺意がこもっていた。

ただ死ぬことよりも、身近な人間が殺しに迫ってくることにナルトは恐怖した。

巻物を抱えたナルトは、無様に背を向けてイルカから逃げ出した。

火影になることを誓ったものとして、これだけは渡してはならないと思った。

「チッ、面倒くせぇ、ガキだぜ」

イルカはクナイを逃げるナルトの脚に向けて、投擲する。

普段なら容易にかわすことができるクナイも、今のナルトはパニック状態で避けることはできなかった。

その場で、ナルトは派手に転倒した。

頭を打ったのか意識が朦朧とした。

巻物はナルトの前方へと転がる。

「ククッ、これが『禁術の書』。他国の忍に売りゃあ、幾らぐらいの値がつくんだろうな」

値? 金のことか? 金のために里を売るのかよ。イルカ先生。

「……ん?」

足元に変な加重を感じて、イルカは足元を見た。

そこには、額から血を流したナルトが必死に自分の足を掴んでいた。

「チッ、話せ、この糞ガキが」

乱暴に振り解こうとするも、意外に強い力で離れない。

もし、こんなところで手間取れば、追手が来る危険性が高まる。

「オラぁ!!」

イルカはナルトの顔面を蹴って、無理矢理、ナルトを引っぺがす。

「く……そぉ」

「じゃあな、クソ狐」

……キツネ? なんのことだってばよ。

そこで、ナルトの意識は途切れる。



「おい、ナルト、ナルト!」

イルカがナルトの側に着いたとき、ナルトは額から血を流し倒れていた。

急いで応急処置を施し、ナルトに必死に呼びかける。

「……誰…だってばよ」

「ナルト、俺だ。イルカだ。一体何があった」

「え、イルカせんせ……うわあああ、こ、殺さないで」

ナルトは急いでイルカから離れると、遠くで蹲ってしまった。

「殺す? おい、ナルト、どうしたんだ」

「く、来るなってばよ。この悪辣悪漢非道野郎が」

「はあ?」

まさかパニック状態になっているのか。

よし、試してみよう。

「殺さないで殺さないで殺さないで」

「ナルト、落ち着いてくれたら、後で一楽のラーメンを奢ってやるぞ」

「え、マジ!?」

「………………」

「…………えーと。てへ?」

舌を出して見るが、かわりに怒鳴り声が飛んできた。

「全く、この馬鹿が、心配ばかり掛けやがって」

「ごめん、ごめんなさいだってばよ~」

目覚めたとき、不思議と痛みはなかったのである。

「……んで、イルカ先生は巻物を奪いに戻って来たのかよ」

「だから、さっきと言い、何のことだって」

忍者の鉄則に『見た目に騙されるべからず』というのがある。

どうやらさっきのイルカ先生は誰かの変装と言う案で間違いなさそうだ。

イルカ先生が怒髪天を突きそうだったので、ナルトはさっきの経緯できるだけ詳細簡潔に話した。

「じゃあミズキ先生がお前を襲って、『封印の書』を盗んだって言うのか」

「うん、まあ偽物だけどね」

「なんでミズキ先生だって分かるんだ?」

「カンかな」

「カンってなあ、お前」

「俺ってば、上手く説明できねーけど。悪いこと考えてるヤツが近付くと、お腹のこの辺がギュっと熱くなんだってばよ」

ナルトは自分の服を捲って見せる。

「……それがアカデミーで会ったときのミズキ先生と同じだったから、たぶん犯人はミズキ先生だってばよ」

イルカは、ナルトの考えがあながち嘘ではないと思った。

ナルトの臍には、とある妖魔が封印されていることを知っていたからだ。

「なんでアカデミーで俺に言わなかったんだ」

「ヘッ、どうせ言っても信じてくれなかったってばよ」

それにミズキ先生が悪いことをする筈がないと、ナルトは思っていたのだ。

「よし。大体の事情は分かった。じゃあ巻物を俺に渡せ。急いで火影さまにお返しするんだ」

イルカは手を差し出そうとするが、ナルトはそれを払いのけた。

「イルカ先生が、ミズキ先生の仲間じゃあないって保証はないだろ」

「…………」

イルカは黙ってしまった。呆れたのではない。この歳で、もう一人前の考え方ができるのかと感心したのだ。

ナルトも落ち着いていれば、並みの下忍以上の考えができるのだった。

「どうなのさ」

「ふふ、じゃあお前のお腹に聞いてみろ」

真面目な顔だ。

人の感情に敏感なナルトにはわかった。イルカ先生が、ナルトの言ったことを本当に信じている証拠だった。

たしかにイルカ先生からは、暗いオーラは出てはいない。

「わかったてばよ。だけど巻物は渡せない。これは俺しか取りだせない場所にあるんだってばよ。じっちゃんには俺が直接渡す」

「わかった。お前を信じるよ。ナルト」

中忍として、イルカは自分の判断が間違っている分かっていた。

だが、戦場では信頼がなによりもモノを言うことを、イルカは経験から知っていた。

ナルトから巻物を取り上げるのは『忍』であるイルカには間違った判断なのだ。


『この賭けに、自分の忍道を賭けてみよう』

イルカはそう決意するのだった。



ナルトとイルカは並ぶように木々の間を移動していた。

最初は、『飛雷神の術』で飛ぼうとしたのだが修業のやりすぎでチャクラを消耗したのか、上手く飛ぶことができなかったのだ。

……いつもなら、大丈夫なんだけど。お腹がひどく疼いた後は、得意忍術も上手く使えねえんだってばよ。

集団行動は、アカデミーの演習で散々習ったことだった。

だから足場の悪い場所でも、二人は隊列を乱さず行動できた。

ナルトが先頭で、イルカが後方。

これはイルカが足の遅い生徒側にスピードを合わせるのと、難しい後方側を守るためである。

つまり、いざという時の足止めなのだ。

「……ねえねえ、先生ってば」

「あん? どうしたナルト」

「なんで先生ってば俺のことを信じてくれんだ。いつも鬼みたいな顔なのに」

ナルトには自分の顔がそう映っているのか。

生徒に信頼がないんじゃあ、教師失格だな。

「ねえってばよ」

「ああ、それは……!!」

空中で火花が散った。

突然、イルカが後ろに向かってクナイを投擲したものだ。

思わず、ナルトの足も止まってしまった。

「くそ、引き返してくるのが早いな。ミズキのヤツめ。止まるな、ナルト」

イルカは呆然とするナルトに喝を入れる。

「お、応だってば」

ナルトが走り出す間にも、後ろから何度も金属同士の甲高い音が木霊した。

相手は中忍。俺なら勝てるかもしれない。

たしかにチャクラが乱れているが、イルカ先生の応援があれば間違いなく勝てるはずだ

……馬鹿だってばよ。

忍なら、任務が最優先だ。『はずだ』などという曖昧な可能性に賭けるわけにはいかない。

だけど、クソクソクソぉ。

一歩進むたびに響く鉄色の音は、まさに命の合唱だろう。

殺し合いをしたことがないナルトには、それがひどく不気味な物としか理解できない。

「……ぐぁ!」

「イルカ先生!!」

今のは、イルカ先生の悲鳴だった。

負けたのか、音も光も伝わってこなくなったぞ。

ナルトの前には、ただ濃い闇だけが広がっている。



「クククッ、イルカかぁ、まさかお前が化け狐のために囮になるなんてな」

「くそ、ミズキ。貴様、なんでこんなことを」

「あ? これから死ぬお前に話しても仕方ねぇ」

ミズキは背負っていた封魔手裏剣を高速回転させる。

中忍の投げる封魔手裏剣は、練習用の丸太をなぎ払うほど強力だった。

足の腱を切られていた。体は動きそうにない。

イルカは自分の胸に飛び込んでくる刃を見ながら、ふッとナルトのことを考えていた。

ああ、ナルトのやつ。しっかり逃げられたんだろうか。

イルカが死を覚悟したとき、奇跡は起こった。

「な……にィ」

血を吐いたのは、攻撃したミズキの方だった。

朦朧とする意識の中、ミズキは不思議な事に気がついた

なぜかイルカと自分の位置が逆転しているのだ。

「ば、馬鹿な」

ミズキはその言葉を最後に後ろに大きく倒れた。

なんだ。なにが起きたんだ。

困惑するイルカの前に、ナルトがゆっくりと降り立った。

月光に透ける金髪は、どこか少年を大人びて見せいていた。

「な、ナルト。お前がミズキを殺ッたのか」

「殺ッてねえってばよ。ちゃんと生きてる。」

「でも、どうやって」

ナルトは自身の掌にクナイと手裏剣を置く。

印を組むと、見事に二つの位置が入れ替わった。

イルカにもかなり高度な時空間忍術であることがわかった。

「イルカ先生には介抱されているとき、ミズキにはズボンの裾を掴んだときに、マーキングをしておいたんでっばよ」

言うは易しだが、行うは難しい。

なによりナルトはチャクラが乱れて上手くコントロールできなかったはずだ。

「わかんねえ。ただ、イルカ先生がピンチだと思ったら、いつもとは違うなにかが腹んなかに溜まってきて」

そして術を発動できていたのだ。

理屈じゃあなかった。

「はは、ナルト。お前は俺が思ってるよりも大した忍だよ」

「へ? でも俺ってば」

ナルトは下忍試験を落ちて、『忍』になれなかったのだ。

そんなナルトに、イルカは自分の額当を投げる。

「下忍選抜試験、合格おめでとう。ナルト」

「………………」

「なんだ。嬉しくないのか。下忍になれて」

「……は、はは、俺ってば、新しいのが良かった」

「はは、台無しだよ。ナルト」

ナルトは恥ずかしそうに鼻頭をかく。

いきなり欲しかった言葉が二つもやってきたのだ。

……むっちゃ嬉しいってばよ。

ナルトはついに念願の忍への切符を手にいれたのだ。


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