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No.31224の一覧
[0] 逃亡人生【ダンジョンもの】[クク](2012/01/17 15:01)
[1] プロローグ・こうして彼は迷宮へと逃げる[クク](2012/01/17 15:12)
[2] 夢絶えた落人と夢見る愚者[クク](2012/01/17 15:26)
[3] 初心者と逃亡者[クク](2012/01/26 22:33)
[4] 彼女の理由と彼の夢[クク](2012/01/23 19:54)
[5] 儚い夢と赤い幻[クク](2012/01/24 19:12)
[6] 白銀と暗影[クク](2012/02/14 20:21)
[7] 受難と希望[クク](2012/03/02 20:25)
[8] 囚われのお姫様と最後の休息[クク](2012/05/07 20:55)
[9] 一つの夢と全ての始まり[クク](2012/06/01 22:03)
[10] 哀れな魔術師と初めての刺客[クク](2012/06/10 23:21)
[11] 四面楚歌[クク](2014/01/30 02:32)
[12] 逃げ出した真夜中[クク](2014/07/07 01:02)
[13] 駆け出した白昼[クク](2014/08/24 22:12)
[14] 呪われた姫君[クク](2016/01/01 17:44)
[15] 愚かな賢者[クク](2016/01/01 17:44)
[16] エピローグ・そうして彼と彼女は迷宮へと逃げる[クク](2016/01/02 18:06)
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[31224] プロローグ・こうして彼は迷宮へと逃げる
Name: クク◆0c3027e3 ID:66e45698 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/17 15:12
 第一章 “呪われた姫君と愚かな賢者”

 

 世界は狭かった。

 前を見ても後を見ても、そこには過去しか打ち捨てられていない。

 右を見ても左を見ても、そこには執念しか無為に漂っていない。

 世界は――狭かった。

 だけど、空は高かった。

 上を見上げると、そこには蒼穹があった。決して届かない、悠久の空があった。

 だから彼は、悟った。

 自分は、自分たちは、飛ぶしかないのだと。飛ぶことでしか、澱みきったこの世界から抜け出せないのだと。

 だけど、どれだけ高く飛ぼうと――世界は狭かった。


*   *   *


 夢を見ていた。

 小さな世界しか知らなかった、あの頃の夢。

 自分が捨てた、あの狭かった世界の夢。

 外に広がる世界を知ってしまったが故に、彼は空を飛べなくなった。

 それでもよかった。惨めに地を這うことになっても、それでもよかった。

 そのお陰で、あの世界から逃げ出せたのだから。

 ベッドから起き上がり、のろのろと部屋を出る。

 この酒場で美味くも不味くもない夕飯を食べるのも、今日で五十日目になるのかと考えると少し嫌になってきた。

 部屋に戻って今日は自主休業にしようかと真剣に悩んだが、日が暮れた今からが一番騒がしくなるこの宿屋兼酒場では、まともに寝れる自信がない。

  古くなって黒ずんできてる階段を下りて、まだほとんど客が入っていない酒場のカウンターの一番端に座る。五十人を収容できるこの広くも狭くもない酒場は、あと一時間もすれば客で一杯になるが、この時間帯なら何の心配もいらない。

 何時もの如く無難に今日の店主のオススメを注文して、出てきた料理をもくもくと口に運ぶ。

「あー……、今日も普通の味だ」

 中庸な宿で平凡な夕食。この迷宮都市に迷い込んでからちょうど五十日目である今日は、何時もと同じくこうして夜を迎えたのだった。


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