その日、私は穢された本当は、その日は楽しい日になる筈だった大切な家族と、南の島で楽しい一時を過ごせる筈だったいつも私に欲望のままに襲い掛かってくるあの獣も、その日は大人しくしている様に見えたからだでも、それは一瞬で壊されたそう、私は油断していたあの獣は、虎視眈々と私の油断と隙を狙っていたのだそして、そのツケが私に回ってきた私は、衣服を奪われてあられもない格好にされて獣は下卑た欲望に塗れた目で、私を見るその目は欲望に身を任せて、快楽を求める目私は、それに抵抗する術を持っていなかった文字道理、為されるがままの状態私は、唇を噛み締めて・・・その辱めに耐えるしかなかったそして、獣は息を荒げて叫ぶ「あーっはっは!!! 最高だ!最高だぞミューたん!!! 次はこっちだ!こっちのセーラー服をスク水の上から羽織って猫耳だぁー!!」獣・・・もとい姉さんは、興奮しながらデジカメのシャッターを切っていた第九話「久遠寺家、南へ・その2」「ううぅ、どうして私がこんな辱めを・・・」「ファイトですよ、ミューちゃん。ほら、舐めているとシュワシュワする飴ですよ。」「そんな子供だまし・・・あら、本当ね。」美鳩から渡された飴を上機嫌で舐める未有だったが「じゃなくて! もういい加減にしなさい姉さん!十分楽しんだでしょ!?」「ふふん、何を言っているミューたん?賭けの効果は今日一日の筈だろう?それにこんなチャンスは滅多にないからな、私はまだまだミューたんで楽しみたいのだよ。」「・・・ううぅ。」再び、未有は力なく項垂れる確かに、これは姉の一方的な我侭ではなく賭けによって森羅が得た正当な権利姉の言っている事は概ね正しいのだだからこそ、自分はこうして為されるが儘になっているのだ「おや、未有殿? なにやら随分愉快な格好をしてなさるな?」「ですね。」そこに、水着を着た揚羽と小十郎がやってきた揚羽は薄紫のビキニ、小十郎は灰色の布地に黒のラインが入ったトランクスタイプだそして、その目は未有に釘付けになっているどうやら状況が良く分かっていない様だ「・・・ううう、もう見ないで・・・」「森羅殿、これは何かの催しものであるか?」「うむ、これは『万国ビックリ・ミューたん博覧会』だ。」「ふざけた名前をつけないで姉さん。」せめてもの抵抗で、ふざけた事を言う姉を睨みつけるすると森羅はヤレヤレと肩を竦めて「さっきお前等がイタチと再戦をしただろう? 実は私とミューたんもそれに便乗して賭けを行っていたのだ。」「賭け、ですか?」小十郎が不思議そうに尋ねて、森羅は「うむ」と頷くそして更に言葉を続ける「賭けの内容はお前等の再戦の勝者を予想し当てるというもの。そして、私はイタチに賭け、ミューたんはお前等に賭けた。そしてミューたんは賭けに負けたから今日一日は私の玩具という訳だ。」「・・・な、なんと!!!」「そういう事であったか!!?」森羅の説明を聞いて、小十郎と揚羽は目を見開くそして、次の瞬間「「申し訳ございません、未有殿!!!」」「・・・はあ?」揚羽と小十郎が砂浜に額を擦り付けて土下座し、森羅はそんな揚羽たちの行動に呆然とする。「未有殿は、我等の勝利を信じてくれていたにも関わらず、我等が力及ばずこの様な辱めを・・・!!! それも我等は今の今まで気付かず、ただ自分の事しか考えていなかった!!・・・誠に申し訳ありません、未有殿!!!」「森羅殿おおぉぉ!我等を信じた未有殿が辱めを受けるというのであれば・・・戦いに敗れた私も辱めを受けるのが道理!! 森羅殿!どうかこの小十郎にも、未有殿と同じ辱めをお与え下さい!!!」「小十郎の言うとおりである。そして小十郎が辱めを受けるというのなら、我も小十郎の主として辱めを受けるのが道理! さあ森羅殿、どうか我々にも同じ辱めを!!!」「・・・お前等に・・・未有と同じ?」森羅は何気なく想像する。スクール水着の上にセーラー服をきて猫耳を装着させた揚羽と小十郎の姿を「・・・う、(自主規制)!!!!」「どうなさいました森羅どのおぉぉ!!!」自分の想像で、つい森羅は吐き気を催すそして気分を落ち着けた後・・・(・・・揚羽はともかく・・・小十郎はない!!!・・・)ダラダラと流れる嫌な汗を拭きながら、森羅は思ったそして、その時森羅はふと思った「おい、美鳩。」「なんでしょうか森羅様?」森羅はグルリと視線を回転させた後に「もう一人の当事者はどこだ?」丁度その頃、イタチは森羅たちとは離れた浜辺にいた「・・・よし、こんな所か。」イタチはやや裾の長い黒のトランクスタイプの水着を着て、薄青色のパーカーを羽織り、周りに生い茂る木々に己のチャクラを込めた術式を刻んで、己のいる場所をグルリと囲むそして、両手で印を組み、チャクラを練り上げて、(・・・随分と、久しぶりだが・・・出来るか?)チャクラを練り上げた両手を地面に叩きつけて、術を発動させる「幻術・狐狸心中の術!!!」イタチが術を発動させると、チャクラは地面を伝い、術式を刻み込んだ木々に伝染するそして、木々全体に自分のチャクラは浸透した「・・・よし、この程度は回復しているか。」安堵した様に呟く元々、自分は幻術に秀でた忍だったからこの程度なら・・・と思って試したが、どうやら無事成功の様だ。狐狸心中の術、相手に周囲の情報を誤認させて周囲を延々と彷徨わせる術である並みの森なら複雑怪奇な迷宮に変身するが、この程度の木々なら行く事は出来なくても戻る事は可能となる。なぜこの様な事を行うかと言うと、これから行う事を他人に見られたら少々面倒くさい事になるからだそして、今日の様な絶好の機会をイタチは逃したくなかった。水が豊富にあり、衣服が濡れていても不自然でなく、多少の大きな波や音が起きても気にされない状況水遁系の術を試し撃つには、これ以上適した環境はない「さて、どの程度の術なら耐えられるか?」そして、再びチャクラを練り上げるこの世界に来た初日では、写輪眼発動だけで頭が割れそうだったが、今はそれが見えない「水遁」そして両手で印を組んで、チャクラをコントロールして、術を組み上げるすると、海水はまるで自分の意志に同調するかの様に、渦巻き、形作り、唸って猛るそしてイタチは、練り上げたチャクラを一気に解放する「水牙弾!!!」「イタチのヤツが見かけないな。」森羅は浜辺を見渡して呟く朱子は自分の傍で控えているし夢は南斗星と一緒に泳ぐ練習をしているし、未有はそれを傍でコーチしている錬と美鳩は揚羽と小十郎を交えて、ビーチバレーに興じているしハルはゴミ一つない浜辺を見て、恍惚の表情を浮べていた「森羅様、どうなさいました?」「大佐か。いや、イタチの奴を知らないか?」「イタチの奴ですか?確か一度別荘で水着に着替えて、そちらに戻った姿を確認しておりますが・・・」「滝業にでも行ってるんじゃないですか? あいつ、どことなく揚羽に近いタイプですし。」変に感の鋭い朱子が満更外れでもない答えを口にし、森羅は「ふむ」と考えるイタチを雇ってから今日まで、随分とイタチも久遠寺家に馴染んできたが、イタチはどことなく距離を取っているのを森羅は感じていた元々これは錬、美鳩、そしてイタチの為に用意した親睦会なのだイタチがこの場に居なくては、その意味が半減してしまうだろう「誰か、イタチのヤツを知らないか?」「あ、それなら僕知ってますよ。」森羅の問いに、ハルが答えるどうやら、他にイタチの事を知っているのはハルだけのようである「そうか、ならちょっとイタチのヤツを呼んできてくれないか? 折角の旅行なんだ、皆と一緒に過ごさなくては意味がないだろ?」「はい、分かりました森羅さま。」そう言って、ハルはイタチが消えた木々が生い茂る樹林へ足を運んだ「はぁ!はぁ!・・・はぁ、はっ・・・ふぅ」イタチは手を膝に置いて、額に汗を浮べて、息を荒げて浜辺に立っていたそして一息ついて、汗を拭う「流石に、水龍弾クラスは無理があったか・・・」そして、イタチの眼前の海には未だその爪あとが色濃く残っている周囲に被害を出さないようにコントロールはしたが、流石に全てをコントロールするのは難しかったそれになんとか発動はしたが、鬼鮫のものと比べると明らかにパワーが足りていないもともと、この術はチャクラを多大に消費する術だ流石に勇み足が過ぎたかもしれないだが、これで大まかな自分の回復具合は確認できた「次は、水分身あたりをやってみるか。」水分身は水を媒介として自らの実体ある分身を作り上げる術同じ実体を持った分身を作り上げる影分身と比べて、使用するチャクラの量は少なく、その生成度合いで自分の回復具合をより正確に図れるとイタチは考えていた早速試そうと、両手を組んだところで「うううぅ、イタチさーん!どこですかー!」「・・・ん?」自分を呼ぶ声を聞いて、イタチは術を止めた「・・・この声は、千春か?」若干涙交じりの声だが、間違いない大方、森羅たちに言われて自分を探しに来たのだろうが・・・「・・・一体どうした?」あの涙声が少々気になり、声の発信源に歩みを進めるすると木々の間に、泣きながら徘徊するハルを見つけた「何をしている?」「!!? い、イダヂざあああぁぁん!!!」イタチの姿を確認すると、ハルは突然イタチに抱きついてきた「・・・何故、抱きつく?」「だっで、だっで、イダヂざんがごごに行くのが見えだのに、ちっとも見づがらないじ・・・何時の間に、おなじどごろをグルグル回って、道に迷って、帰り道も全然わかんなくって・・・どんどん恐くなって、このまま遭難して、影薄いキャラが災いしてこのまま誰も僕に気付かず、ずっと一人だったらどうじようって考えたら・・・もうどうじだらいいが分がんなぐなっで・・・」「・・・あ、」気まずそうに、イタチは呟くそういえば、幻術をかけたままだった気がする「・・・すまん。」あくまで自分基準で考えていたが、この程度の樹林でも一般人からみたら樹海レベルになっていたかもしれない少々罪悪感を覚えながら、イタチは幻術を解いてハルと共に皆の所に戻った。「ふ~、遊んだ遊んだ。」「ですね、錬ちゃん。」陽も落ちかけて、バスタオルで体を拭きながら錬と美鳩は呟くあの後、イタチとハルが戻ってきた後久遠寺家は延々浜辺で遊んでいた錬も美鳩も初めての海外という事で、年甲斐もなくハシャギすぎてしまったまた、ハシャいでいたのは自分達だけではないここに来た面子を二チームに分けて、時期外れのスイカを用意していた森羅が「第五回・久遠寺家西瓜早割り対決」(未有曰く、一から四はやった記憶はないらしい)なる物を開き、例によって、森羅と未有は対立してチームを組んだちなみに、結果はドロー森羅チームはトップバッターの揚羽が、未有チームはトップバッターの南斗星が、それぞれ一発でスイカを叩き割り、他の人間が一切楽しむ事が出来ず閉幕したちなみに割ったスイカは久遠寺家で美味しく頂きましたその後、ドローという結果に満足しなかった森羅と未有は延長戦「久遠寺家水泳リレー対決」を行ったゲームの終盤、僅差で森羅チームがリードをして、アンカーの揚羽にバトンを渡し「秘技・アメンボ走り!!!」などと言って、水面を全力疾走しそれを見て、チームの敗北を悟った未有だったが、自分のチームのアンカーのイタチが「・・・なるほど、こっちでも水面を歩ける人間はいるのか。」その後、同じ様にイタチが水面を疾走して揚羽をブッチぎって逆転勝利を収めたりと異様なテンションで久遠寺家は遊び尽くした訳である。そして夕食「おらぁ野郎共!夕飯はバーベキューだ!たらふく喰らいやがれ!!!」「「「「「「おぉー!!!」」」」」」別荘の前に簡単なキッチンセットを用意して、大きな肉と野菜を豪快に串刺しにして、鉄板の上でジュウジュウと焼く一同は夕飯のバーベキューに舌鼓を打ち、食事を楽しんだまた調理班も朱子、美鳩、イタチの三人がローテーションを組み、それぞれが食事を楽しみ旅行でテンションが上がり、やや「量を作りすぎたか?」と思われたバーベキューだったが、皆が満腹になった後も揚羽、南斗星、錬、小十郎の四人がペロリと平らげて食事は終始楽しく終わった「ふー、随分食べたわね。」「私ももうお腹いっぱいだよー。」未有と夢が感慨深く呟き朱子が片付けに入った「そんじゃ、テキパキ片付けますか。」「我等も手伝おう、馳走になった礼だ。」「はい、お任せ下さい揚羽さま!」昼間は遊びつくし、食事も美味しく頂き、片付けが終わった後はそれぞれ割り当てられた部屋に皆は戻ったそして、イタチもまた自分の部屋に戻ろうとした時、未有がイタチに話しかけてきた「ちょっと良いかしらイタチ?」「・・・何でしょうか?」何の用かと、使用人として身構えるが未有はクスリと微笑んで「そんなに身構えなくて良いわよ、ちょっとお酒に付き合ってくれない?」夜の浜辺、そこで錬と大佐は対峙していた互いの表情には先ほどまでの旅行を楽しんでいた空気はなく、両者の間に流れる空気は緊迫感をもったものとなり、抜き身の刀の様な緊張感を持っていた錬は大佐に敗れて以来、仕事の終わりには毎日鍛錬を欠かさず、大佐に挑んでいるそして大佐も、仕事が終わればいつでも相手にすると錬に約束していて、こうして相手をしているだが未だ勝ち星を上げられず、いつかリベンジを果たす為にこうして大佐に挑み続けている「いくぜぇ大佐ぁ!!」「来い、小僧!!」錬は大地を蹴って大佐に飛び掛るそして、腕を振りかぶって渾身の一撃を繰り出すが「なっちゃいない!なっちゃいないぞ小僧!!!」錬の一撃一撃を、大佐は悉く捌いて叩き落すだが、それでも錬の猛攻は続く「クソ!それなら・・・」「甘い!!」一瞬の隙を突いて、大佐は即座に距離を詰めて錬の鳩尾にボディーブローを決める「ぐっはぁ!」冷気を伴った苦痛が内臓に浸透し、錬は思わず膝を着くが「ふん、大口を叩いていた癖にもう終わりか小僧?」「・・・ぐ、まだまだあぁ!!!」しかし、歯を食い縛って錬は立ち上がるダメージが色濃く残り、重くなった体を必死に支えながら立ち上がるその目に、闘志の光は未だ輝いていた「・・・ふ、その意気だ小僧!!」「行くぜええぇぇ!!!」大佐は満足気に笑い、錬は再び大佐に飛び掛るが数分後、錬は力尽きて仰向けになって倒れていた「・・・ちっくしょう・・・またやられちまった。」目を開けると、そこには満天の星空があった体に走る痛みに耐えながら、ゆっくり体を起こす「あまり無理はせん方がいいぞ? わしの攻撃をあれだけ喰らったのだ、今しばらくは休んでおけ。」上から掛けられた声に反応すると、大佐は自分の隣に腰を下ろして髭を手入れしていた「くそ、まだ大佐に敵わねえか・・・まだまだだな、俺。」ポツリと、錬は呟くそれを聞くと大佐は薄く微笑み「そう卑下するものでもないぞ?お前の腕は着実に上がってきている、初めてお前と手合わせした時とはまるで別人だぞ。」「・・・自分じゃ分かんねえや。」軽く拳を握って、自重気味に微笑むそして錬は大佐に向き合い「なあ大佐・・・」「何だ小僧?」「あんた・・・強くなってねえ?」「・・・ほう。」錬の言葉を聞いて、大佐は僅かに驚いた表情をし「なぜそう思った?」「何となく・・・ただ、最近っていうか・・・正確には、イタチが久遠寺に来てからだな。なんつーか、あんたの拳がやたら重いっつーか、内部に響くっつーか、いつもよりも攻撃の一発一発を意識している風に見えた。」「・・・中々目聡いな、小僧。」そう言うと、大佐は満足気に笑うやはり、この男にも見所はある純粋に、嬉しさから来る笑みだった「仮にも久遠寺の護衛を任された身だ。それをただ一人の侵入者・・・それも南斗星の二人掛かりで打ち負かされてはな。まあ、わしも言ってみれば男の子だ・・・お前と同じで負けっぱなしではいられん口だ。」「・・・イタチ、か。」大佐が強くなった理由であろう名前を、錬は呟く錬にとって、大佐は己の目標であり、憧れでもあった錬は父親に愛情という物を殆ど与えられた記憶はないそして父親との生活が我慢出来なくなり、父親から逃げて、久遠寺家にやって来て大佐と勝負して、完膚なきまでに敗北しそして、久遠寺家の執事になって大佐に挑み続けて・・・最初は、ただのキザなナルシストのオヤジだと思っていただが、大佐のその圧倒的な実力そして温厚な人柄、年長者としての包容力、厳しくも優しいその在り方いつの頃からか、錬の中で大佐はいけ好かないオヤジから頼れる大人に・・・そして尊敬し、憧れる存在になっていたそして、錬は大佐の事を・・・いつの間にか父親の様に思っていたしかし、その大佐を更に圧倒的実力で打ち負かす男がいた「うちは・・・イタチ。」自分の目標であった大佐、そしてその大佐と同等以上の実力を持つ南斗星その二人を、あの男は疲労困憊の身でありながら同時に相手にしてそして・・・打ち勝った信じられなかった錬の中で、絶対的な強さの象徴の二人が敗れた事がそんな二人を超える、更なる強さを持った存在がいる事が錬には、信じられなかった「なあ、今のあんたとイタチが勝負したら・・・どっちが勝つ?」「100%わしの負けだな。」間髪入れず大佐が答える錬も特に驚きはしなかった「・・・絶対、負けか?」「もって十五秒だな・・・今日のイタチが、あいつの全力ならな。」「・・・マジ?」「大マジだ。言ってしまえば・・・実力の次元が違う。」「そう、か。」錬は再び大の字になって地面に寝そべるそして、改めて考える「・・・世界は、広いんだな・・・」「ああ、わしもこの年で・・・改めて実感したわい。」「・・・俺、あいつより強くなれるかな?」「さあな。だが、お前は何と言ってもまだ若い。わしよりは遥かに可能性はあると思うぞ。」「・・・そっか。」可能性はある気休めかもしれないが、その言葉は錬の中に強く響いていた全ては、自分次第そして、自分は着実に成長している「・・・やっぱ、もっともっと鍛えるしかねえな。」「そうだな、修行あるのみだ。」目標は、遠いだからこそ、やり甲斐がある錬は心の中に、新たな目標と誓いを立てた「それじゃあ、乾杯。」「・・・乾杯。」リビングにて、未有とイタチは向かい合ってテーブルに着き、グラスを手にしていた未有は自分で作ったカクテル、そしてイタチはアイスティーだそして互いのグラスをキンと鳴らす「本当にお酒じゃなくていいの?今日くらいは無礼講でいいのよ?」「酒は精神力と集中力を鈍らせますから・・・。」あくまで自分は使用人、そして護衛でもある元々病に伏せていた身でもあったから、イタチはあまり飲酒をする事はなかったのだむしろ苦手な部類に入る「真面目ね。まあ私はそこが気に入ってるんだけど。」「恐縮です。」そして、互いに一杯口につけるやがてどちらからともなく世間話を進めて「そういえば、貴方って本当に強いのね。あの揚羽と小十郎を相手にあれだけの事が出来るんですもの、正直言って驚いちゃった。」「別に大した事ではありません。」「謙遜しなくても良いわよ。」未有が賛辞の言葉を言うが、軽く流す謙遜でも遠慮でもなく、事実をそのまま口にした「・・・確かに、あの二人は才能があります。天性のものと言っても良いでしょう、そしてその才に驕れる事なく鍛錬している・・・だが、それだけです。」イタチの言葉に、未有が不思議そうな表情を浮べる「・・・それだけ?」「あの二人に限っての事ではありません。レンにナトセ・・・この二人も同じです、いずれも発展途上でありますが、いずれ伸びしろを残して成長を止めるでしょう・・・。」「・・・よく分からないわね。」イタチはグラスを一口飲むと「・・・人間、鍛錬を重ねている内に必ずどこかで壁にぶつかります。その時にありがちなのが、己の力のみにしか目が行かず、物の見方・視野が極端に狭くなる事です。」「まあ、よく聞く話ね。」「例えば、目的までの道のりで間違って袋小路に入った時、少し後ろに下がれば容易く道は見つかります。ですが、視野が狭くなっていると目の前の壁しか目に入らない。後ろに下がる事すら考えず、ただ壁に突っ込んで無理に進もうとする・・・揚羽、小十郎、レン、ナトセはこの典型と言えるでしょう・・・勢いに任せてただ前進するのみ、それでは壁を壊せない、道も見つからない・・・結果、潰れます。」ゆっくり息を吐いて、イタチの言葉は続く「だから、潰れる前に考えるんです・・・このままで良いのか?このままではいけないのか?・・・このまま、壁に向かって突き進むか?それとも一歩引いて道を見つけるか?」「・・・なるほど、それで貴方はどっちが正解だと思っている訳?」未有は僅かに微笑んでイタチに尋ねるどうやら、未有には正解が分かった様だ「両方とも正解であり、」「不正解、でしょ。」イタチの言葉を繋げて、未有はフフンと笑うやはりこの主は聡明だと、イタチは思うそしてイタチは、ある二人の男の事を思い出す嘗て、イタチがいた世界ではマイト・ガイという忍がいた忍術、幻術の才能が全くなく、忍として落ちこぼれ、不適合者、様々な不名誉な烙印を押されていただから、彼は残された可能性に縋った忍術も幻術も出来ないのなら、体術を極めようと体術を極めて、極めつくして、立派な忍になろうと、例え忍術も幻術も才能が無くても、努力すれば鍛錬すれば、誰でも立派な忍になれるのだと彼は考え、それを証明した血の滲む様な、骨を砕く様な、内臓を潰す様な努力を経て、それを証明したのだ彼は我武者羅に壁に突き進み、それを壊したのだ力が無ければ、身に付ければいいこれは、イタチの言った前者の正解例と言えるそして嘗てイタチの「暁」の同士・飛段を倒した忍、奈良シカマル不死身であり、S級犯罪者である飛段を倒した男がどんなものかと聞いてみれば・・・それはあまりにも凡庸な忍だった確かに、奈良シカマルには素質があった並外れた頭脳を持ち、奈良家の秘術を持つ男だが、一つの戦闘力として見れば彼は明らかに物足りない、平均的な中忍クラスだ自分の様な刺せば死ぬ、斬れば死ぬ、焼けば死ぬ、沈めば死ぬ、普通の人間を相手にするなら、それでも十分だっただろう如何に実力があろうと、所詮この身は人の身なのだからだが、飛段は違う飛段は、不死身だそして、ただの不死身ではなく、優れた戦闘能力と必殺の呪いを併せ持つ実力者現に飛段は木の葉守護忍十二士の地陸と猿飛アスマ、そして尾獣「二尾」を討ち取っている木の葉でも優れた戦闘能力を持つこの二人でさえ、最強クラスのチャクラを持つ尾獣でさえ、飛段には勝てなかったのだ少々頭が切れるだけのネタを仕込んだ忍程度では、その勝率は微塵もなかった筈しかし、奈良シカマルは単身で飛段と闘い、討ち取った奈良シカマルは自分の持つ頭脳と情報と術を最大限に利用して、己の戦闘力を補ったのだ奈良シカマルには、自分が持っている物と持っていない物が分かっていた分かっていたからこそ、無いものねだりをせず、自分の持つ全ての物をフル活用する道を選んだのだ力が全てではない、力がないなら別のもので補えば良いこれはイタチの言った後者の成功例と言える「どちらの道でも良い、重要なのは己の選択を信じる事・・・だが、分かっていてもこれは存外に難しい。」「特に天才と言われた人間ほど、それが顕著な訳ね。今まで壁らしい壁にぶつかった事がないから、己を信じきれず・・・結果、潰されてしまう。」「だから、そこが自分の限界だと・・・所詮自分はその程度だと、成長を止めてしまう。」「揚羽やレンもそうなると?」「・・・それは、まだ分かりませんが・・・」だが、今のままではそうなるだろう現に、今日の揚羽と小十郎の顔には明らかな影が見え始めている努力・鍛錬したにも関わらず、その結果は報われる事なく更には、自分が更なる力を隠し持っている事を知ってしまったからあの二人は、着実に力をつけているだが、その事を信じきれていないただ、自分との力の差があまりにも大きいから・・・自分達は全く成長していないと思ってしまっているのだそして、自分とあの二人の差は・・・これからも広がる自分の体力が回復しきるまで、チャクラを完全に使えるまで、二人との実力の差は広がり続ける仮に、自分が「お前等は成長している」と言っても、あの二人の心には届かないだろうあの二人は、ガイと同じタイプだ挫折や苦渋、辛酸を味わって、それを克服し大成したガイの様な男の言葉でなければ、あの二人には届かない恐らく、そう遠くない内にあの二人は壁にぶつかるだろうその結果、あの二人はどうなるかは・・・それこそ、あの二人次第だだが・・・「だが、それさえ乗り越えれば・・・一回りも二回りも成長するでしょうね。」「中々含蓄のある言葉ね。イタチにもそういう経験があったのかしら?」「・・・人並みには。」もっとも、それは主に戦闘以外での事であったがとイタチは飲み物と一緒に、言葉を飲み込んだ「・・・なんとなく、貴方が強い訳が分かったわ。肉体的にも精神的にも強いのなら、向かうところ敵なしという訳ね。」「・・・そうでしょうか?」「あら、違うの?」イタチの言葉に、未有は意外な表情で返す「・・・確かに、人よりも少々優れているとは思っていますが・・・自分が強いと思った事はないです。」「また謙遜?・・・そこまで来ると嫌味の領域に入るわよ。」「事実ですから。」未有はクスクスと微笑んで返すが、イタチは至って正直な気持ちだった(・・・確かに、嘗てはそう思っていた時期はあった・・・)(・・・だが、今は違う・・・本当に、自分が強いと思ったことは無い・・・)思い出すのは、あの忌まわしい光景(・・・もし、「本当」に自分が強ければ・・・俺が、優秀だったのなら・・・)「・・・あんな事を、する必要はなかった・・・」「何か言った?」「いえ、何も・・・」どうやら、旅行で舞い上がっていたのは・・・自分も同じらしい知らず知らずの内に、口が軽くなっている「随分とネガティブな意見ね。やっぱり、貴方でも敵に回したく人間っているの?」「ええ、居ますよ。」「ふ~ん、ひょっとして我が久遠寺家にもそういう人間は居る訳?」薄い微笑みと共に放った未有の言葉それは未有にとって冗談交じりの言葉イタチの後ろ向きな発言を聞いて、ふと思い付いた言葉であったイタチは肉体だけでなく、精神的にも秀でている大佐や姉の森羅とのやり取りを見ていれば、その事が良く分かる未有としては少しイタチをからかうつもりで言ったのだだから「ええ、居ますよ。」この、イタチの言葉は未有にとって、予想外であった「・・・へ?」「貴方の言うとおり、俺は久遠寺家の人間で一人・・・敵に回したくない人間がいます。」未有が呆然とするが、イタチの言葉は続く「それは家長の森羅さまでもなければ・・・執事長の大佐でも、護衛のナトセでもありません。」「・・・中々、興味深いわね。それで、一体それは誰の事かしら?」未有が驚いた様にイタチに尋ねる「・・・・・・」そして、僅かな沈黙を置いてイタチはポツリと、その人物の名を言った「上杉美鳩です。」続く後書き 少々更新の日が空いてしまいました、これからはもう少し気をつけたいと思います。 前半は書きたかった小ネタを一気に出してみて、後半はイタチと未有の会話を書いてみました。 本編の後半、イタチが長々と言っていますが・・・言いたい事はただ一つ 鳩ねえ最強、ただそれだけです(笑)。 それでは、次回に続きます!!