久遠寺家の一室そこで、大佐と南斗星と錬の三人は手当てを受けていた。「・・・おい、大丈夫かよ?無理するなよ大佐。」「無理などしておらん、私とてヤワな鍛え方はしていないからな。」そう言って、大佐は包帯で覆われた腹部を擦る。「・・・しかし、恐ろしい男だった。常人ならば最後の一撃で内臓破裂を起こしていたぞ・・・」「マジか!・・・でも・・・まさか、大佐と南斗星さんが負けるなんて・・・」「下男なんて、一発でKOされてたしね。」からかう様な朱子の言葉に、レンは顔を顰める。「む、だがなベニ公、俺はアイツの顔面に一発叩き込んだぞ。」「煙に紛れての不意打ちで、でしょうが。」「静かにしなさい、ここには怪我人もいるのよ。」未有が一喝すると、錬と朱子はバツの悪そうな表情をして押し黙る。二人のすぐ傍では南斗星が手当てを受けていた。本来ならば、女である南斗星は別室で手当てを受ける筈だったが、救急箱が一つしかなかった為、みんなでまとめて手当てをする事にしたのだ。「・・・南斗星さん、大丈夫?お腹は痛くない?気分悪くない?」「大丈夫だよ夢、心配させてゴメンね。」「ううん、そんな事ないよ!」一通りの手当てを受けて、南斗星は夢に微笑む。「ですが、森羅様・・・一つお聞きしたい事が・・・」「・・・む?何だ、レン?」森羅がレンの呼びかけに応えると、森羅はレンに視線を移す。「何で、あの侵入者をこの屋敷で寝かせてるんですか?」第二話「似た者同士」「お~い、アイツの診察終わったぜ!」別室から、デニーロが戻ってくる「あら、意外と早いわね・・・で、何か分かった?」「身分証明書の類はもってなかったな・・・まあアイツが倒れた理由は分かったけどな原因は極度の過労と睡眠不足、いわゆる疲労困憊だな。ズイブンとボロボロの格好をしていたが、他に目立った点は無いな。」「・・・何、疲労困憊だと?」デニーロの発言を聞いて、森羅は目を丸くする。それに続いて、そこにいた皆はその意味を悟る。「ちょっと待ったあぁぁ!じゃあ何!そいつはへばりにへばった状態で大佐と南斗星に勝っちゃった訳!!!」「・・・有り得ねえ・・・」「そ、そんな!信じられません!!」朱子とレンとハルが声を上げて驚く、他の面子も、声にこそは出さないが同じ感想の様だ。そして朱子は森羅に進言する。「森羅様、そんな危険人物をこの屋敷に置いとく理由なんて有りません!警察に突き出しちゃいましょうよ!!」「森羅様。俺も、今回はベニ公と同意見です。だってコイツ、屋敷に侵入したばかりか問答無用で大佐と南斗星さんに襲いかかったんですよ!しかも、二人に怪我を負わせて・・・」「私も、基本的には二人と同じ意見だ。・・・だがな・・・」森羅はそこで一旦言葉を切る。そして、大佐へと視線を移す。「・・・なあ、大佐・・・コイツは俺の邪魔をするな、と言ったんだな?」「はい、確かにその様な事を口にしていました。」「だったら、その理由を聞いてから判断しても遅くはあるまい。」頭の上に、疑問符を浮べながら錬が尋ねる。「?・・・どういう事ですか?」「人が非行や犯罪に走るのには、それなりに理由があるという訳だ。金に困っての犯行だったかもしれないし、飢えにやまれぬ為の犯行だったかもしれないだろう?」「・・・う、」そう言って、森羅は朱子に視線を送る。朱子は困った様に視線を逸らした。どうやら、朱子にも思う所がありそうだった。「なんにせよ、理由を聞いてやらねば何も分からん。もしもこいつが本当に腐ったヤツなら直ぐにでも警察に引き渡すし、もしもそうでなかったら・・・まあ、それなりの対応はしてやるつもりだ。」溜息を付きながらも、森羅は言う。「それに・・・我が家の家訓は『困った者には手を差し伸べよ』、コレを無視する訳にはいかんさ。」森羅のその言葉で、それ以上の反対の意見は出てこなかった。そして、このおよそ54時間後イタチは意識を取り戻した。・・・そうか、やはり『うちは』はクーデターを・・・・・・木の葉・警務部隊の第一分隊が反乱を起こすとなれば、他国は必ず攻め込んでくるだろう・・・・・・いや、そればかりか・・・『うちは』の一部は暗部にも所属しておる・・・・・・非同盟国に里の情報を売り渡し・・・他国との衝突で消耗しきった時に攻めてくる事も有り得る・・・・・・最悪の場合は、第四次忍界対戦が現実のものに・・・・・・出る杭は、今の内に叩くべきだ・・・・・・『うちは』の過激派の頭、うちはフガクは我々との和解の意思は無いとの事です・・・・・・三代目が提唱する妥協案も、ヤツらは受け入れる事は無いだろう・・・・・・止むを得まい・・・・・・木の葉・暗殺戦術特殊部隊・分隊長・うちはイタチ・・・・・・貴様に、次の任務を与える・・・・・・心して聞け・・・「・・・・!!!」深い眠りから一転して、イタチの意識は覚醒した。「・・・はあ、はあ・・・ゆ、め・・・?」荒くなった呼吸を必死で沈める。ボヤけた視界で、周囲の状況を確認する。「・・・どこだ?」自分は、ベッドで寝かされていた。今居る場所は簡素な作りだが、どこかした気品さと高級感を感じさせるモノとなっている。そして部屋の一角、口髭を生やしたスーツを着た男がそこにいた。「・・・・!!」しかし、男は椅子に座ったまま動かない。どうやら、転寝をしている様だ。そして、再び記憶がフラッシュバックする。見慣れぬ庭園サスケの不在二人の敵との戦闘現状を把握するには、十分な材料だ。体を起こす。骨が歪む様な感覚を覚えるが、上半身を起き上がらせる。それだけでも、かなりの重労働だどうやら・・・長い間、睡眠をとっていた様だかなり肉体は衰弱しているが、回復はしてきているただ一つ、問題があるとするならば・・・チャクラが・・・練れん・・・軽く印を結び、意識を集中させてチャクラを練る。しかし、その瞬間脳髄が裂かれる様な痛みを覚え体中の力が抜ける。「・・・ぐ!・・・はあ、はあ・・・」・・・無様、だな・・・如何にサスケとの戦闘で消耗していたとは言え、数回の写輪眼の使用でこの様だ。下手にチャクラを練り上げれば、再び意識を失うだろうそして男を起こさない様に、ベッドから降りる。そこで初めて気付く自分の体には、何かしらの手当てが施されていた。そして、窓を開けて窓枠に足を掛けて跳躍する。屋敷の屋根に着地して、風景を一望する。「・・・やはり、知らない場所だ・・・」見渡す光景に、自分の記憶と一致するものは存在しない。この屋敷に至ってもそうだ。この規模の屋敷なら、どんなに低く見積もって一国の高位士官クラスの資産の持ち主だ。そして、自分の居る場所から見て取れる幾多の灯りボヤけた視界でも、闇夜に存在する光は良く映った。その数から、今居る場所は小国や田舎などでなく、かなりの先進国である事が分かる。自分が知るなかで、これほど発展しているのは火の国か風の国くらいだ。だが、その二つの国とはあまりに似ても似つかない。そして、新たに沸き起こる疑問「・・・なぜ、俺は生きている・・・」今更ながらの疑問であり、イタチにとっては最大の疑問だった。その理由は、自分を蝕んでいた病サスケと闘う為に、禁薬まがいの薬を過剰摂取してまで延命し、死を先送りしてきた。そして、服用時間が僅かにでも遅れれば病は急速に侵攻し、肉体を死へと誘う。サスケとの戦闘自分はそこで発作を起こした。胃がせり上がり、鉄の匂いが口と鼻に充満する感覚は今でも覚えている。文字どうり、自分は精も根も尽き果てていたのだ。そして、その状態で自分は最後のチャクラを振り絞りサスケに天照を譲渡した。そこで、意識は完全に途絶えたのだ。「・・・夢、ではない・・・」今の状態では使用こそは不可能だが、片目には奇妙な違和感がある。体中に染み付いたチャクラが、その部分だけ「薄い」のだ。その事から、少なくとも今の自分には天照が宿っていない事が分かる。矛盾する事実この様な事態は、イタチの20年ばかりの人生において初めてだった。「・・・冥府の入り口にしては、華やか過ぎるな・・・」しかし・・・ここでふと、思い付く。自分が患った病は、死へと誘うモノだ。あらゆる手を尽くしても、延命にしかならず遅かれ早かれ「死」は絶対の結果だった。ならば、既に死んだ体に対してはどうだ?病とはあくまで「過程」、死は「結果」。仮に、自分が「死」という「結果」を迎えたとして、「病」という「過程」は肉体に残るのか?これが、違うものだったら、もしも、「爆発」という「過程」で、「破壊」という「結果」が残った時、「爆発」はいつまでもそこに存在するだろうか?もしも、「斬る」という「過程」で、「切断」という「結果」が残った時、「斬る」はいつまでもそこに存在するだろうか?答えは、否。それならば、もしこの体が「死」という「結果」を迎えたとして・・・・・・「過程」の「病」は・・・「・・・馬鹿馬鹿しい・・・」自分の下らない仮定を一蹴する。今考える事は、これから自分がやるべき事まずは、ここの地理を確認する事そして移動手段を確保し、二人の接触をなんとしても阻止する事。当面の行いは、情報収集と体力の回復・・・ならば・・・「何が馬鹿馬鹿しいんですか?」「・・・!!?」突然の背後からの声に振り返る。そこには、奇妙なデザインの服の上にやたら裾の長い白いエプロンを纏った栗色のロングヘアーの女性久遠寺家のメイド・上杉美鳩がいた。「女・・・いつからココに居た?」イタチは視線を移して美鳩に尋ねる。しかし、美鳩は飄々とした態度で「・・・そうですね、貴方がここに来たより後・・・とだけ言っておきましょうか・・・」「・・・なんだと?」「何を驚いているんですか?私はずっと貴方が寝ていた部屋にいたんですよ?」「・・・!!」「てへ、これでも気配断ちには自身があるんですよ。心源流師範代のお墨付きですから、まあ、流石にメイド服で屋根に上るのは骨が折れましたけどね。」イタチは驚く。この女に、自分はずっと後ろを取られていただと?「だって、如何に森羅様のご命令があったとは言え・・・レンちゃんを傷つけた人間を 野放しになんか出来る訳ないじゃないですか?」目つきを僅かに鋭くして、美鳩はイタチを見る。「・・・レン?」「貴方が殴り飛ばした、男の子の事ですよー。」その言葉を聞いて、イタチは「ああ」と納得する。・・・姉弟・・・か?・・・「まあ、そんな私の可愛らしくて愛らしい、心の底から愛しく思っている大切な弟を傷付けた貴方を許せない訳ですよ。ですが、大佐と南斗星さんを倒すほどの人に真っ向から挑む程、鳩は愚かではありません・・・森羅様のお言葉も無視できないし、さてどうしようかな?と悩んでいたんですよ・・・。」よよよ、目元を手で覆い泣き真似をしてイタチに向き直る。「最初は寝ている貴方に治療という名目で、鍼を打ち込んだり、虫が貴方に飛んで来たらわざと貴方の顔に一撃を入れたりと色々楽しんでいたのですが・・・何もリアクションが無いから飽きちゃったんですよー。」しかし、そんな表情から一転美鳩は輝かんばかりの笑顔をイタチに向けて「でも、ついにチャンスが来ました!目覚めた貴方はフラフラで、しかも私の存在に気付かないで、何故か屋根に移動!これはチャンスです!!神様が私にレンちゃんの仇を討つをチャンスを与えたてくれたんですよ、やはり日頃の行いの良さ、もとい弟への愛が呼んだ奇跡ですよー、クルックー!」そのまま、スカートの両端を抓んでクルクル回る。その様子を見て、イタチは尋ねる。「それで、俺をどうするつもりだ?」「ここから突き落とす。」ピシャリと言い放ち一瞬で、目つきを鷹の様に鋭くして美鳩はイタチ向き合う。「・・・ほう。」その言葉にイタチは、僅かに身構える。今まで自分の背後を取っていた女、自分に気圧されない事からそれなりの度胸と力量が窺える。先の二人と比べれば、明らかに実力は劣るであろうが・・・この女には不気味な「何か」がある。「でも、止めちゃいました。」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」一転して、再びの笑顔。その有り得ぬ表情の落差に、イタチは唖然とした。「屋根の上で、一人で佇んでいる貴方を突き落とそうと近づきました。後ほんの数歩近づいて、手で押せば・・・多分、貴方を突き落とせました。」「・・・なら、どうしてしなかった?」「貴方から、私と同じ『匂い』を感じたからです。」「・・・・?」「私、ブラコンなんですよー」クスクスと笑いながら、美鳩はイタチを見る。イタチは、未だ要領を掴めずに居た。「私にとってレンちゃんが大切な様に、レンちゃんにとっても私は大切な存在です。 レンちゃんに何かあれば、私が悲しむ様に・・・私に何かがあれば、レンちゃんは悲しみます。」「・・・・」「・・・貴方からは、そんな私達と同じ匂いを感じました。貴方をここで突き落とせば、貴方は怪我をしたかもしれない、場合によっては死んでしまったかも知れない・・・・そして貴方が死ねば・・・それによって貴方を大切に思っている誰かが、悲しむかもしれない・・・」目を伏せながらも、美鳩はイタチに自分の気持ちを語る。「私がレンちゃんに何かがあったら私が悲しむよう・・・その人も、貴方に何かがあったら悲しむかもしれない・・・」目にほんのりと憂いの影を宿し、僅かに言葉を区切り、「そこまで考えたら・・・貴方を突き落とせなくなっちゃいました。」てへっと笑い、イタチに言う。その言葉を聞いて、イタチは何を思っただろう・・・何を感じただろう・・・それは、誰にも分からない事であった。「・・・余計な気遣いだったな。」「・・・?」「・・・・仮にお前が俺をこの程度の高さから突き落としたとしても、俺は死なんしカスリ傷一つ負わん・・・そして、お前は何より前提を間違えている。」ふう、と溜息を吐いてイタチは言う。「俺が死んで悲しむ人間などいない。」ハッキリと、イタチは宣言する。写輪眼が完全に解け、どこまでも黒いイタチの瞳その瞳は、今の言葉は紛れも無い事実だと言う事を美鳩に語っていた。「・・・・・」「だから、余計な気遣いだったな。」「せめて、もっと早く言って欲しかったですー。せっかく啄ばんだ豆を、口からこぼしてしまった気分ですー。」イタチの言葉への当て付けだろうか拗ねた様に美鳩は呟く。そんな美鳩を見て、イタチは思わず夜空を仰ぎ見る。・・・大切な、存在か・・・思う事は、ただ一人の弟の安否再び、イタチは美鳩に向き合った。「・・・おい、女・・・」「・・・はい?」「俺の質問に答えろ。」続く後書き 似た者同士という事で、美鳩との会話で今回はお送りしました!! 次回は、改めてイタチと久遠寺家のやり取りを描きたいと思ってます!! 沢山の感想&閲覧、ありがとうございます!!皆さんの応援を糧に頑張りたいと思います!!。