*今回の話は、一部原作のやり取りをそのまま流用しています。========================================「うむ、こちらはこの位で良いだろう。」「お疲れ様です、イタチさん。」昼下がりの久遠寺家・正門そこでイタチとハルは箒を持って掃き掃除をしていた。「いや~、しかし今日はポカポカ暖かくて良い気持ちですね。」「…そうだな、もう四月だ。今日に限らずこれからどんどん暖かくなっていくだろうな。」「そういえば、イタチさんって春物の服とかって持っているんですか?」互いに箒を動かしながら、ハルが尋ねる「……いや、服は最低限の物しか持っていないな。」僅かに考えて、イタチは答える。元々イタチは衣服の類は持っていなかったし、この屋敷での給金は服を初めとする生活用品に当てていたため最低限の物しか持っていなかったのである。それにイタチは今までの生活上、衣服にあまり拘る事は無かった為いたってシンプルな白や黒のYシャツや、スラックス防寒用のセーターやベスト、手袋運動用のジャージやシャツ、ズボンなどの物しか持っていないこれらも別に春を迎える上では問題がないが、少々季節感が感じにくいであろう自分個人としては問題なくとも、世間の目という物もある自分個人の評価=職場の評価、という事だって珍しくないまあ簡単に言うなら、自分の評価で久遠寺家の評価が決まる事だってあるから服装もそれなりに気をつけろ、という事である。「それなら、今度の休みに一緒に服を買いに行きませんか? 朱子さん行きつけの服屋が駅前にありまして、 安くて良い服が沢山揃っているお店があるんですよ。」「ほう、そういう店があるのか? それなら一度行って見る価値はありそうだな。」そう言って、二人は軽い雑談をしながら掃除に精を出すイタチとミナトの手合わせから早数日多少の驚きが有ったものの、久遠寺家は日常の光景を取り戻していた。イタチとミナトの戦闘によって荒れた久遠寺家の中庭も、イタチとミナトの土遁の術で簡単な修復を施しあとは軽く掃除、整備をする事によって中庭はほぼ完全修復できた。また久遠寺家の皆も、今まで知らなかったイタチの事を多少なりとも知る事ができ心情的にイタチとの距離を縮める事が出来たと、小さな前進を感じ取り、両者にとって価値のあるものとなった。そして、以前と変わった点が一つそれは「そういえば、最近揚羽さんと小十郎さんの姿が見えませんね。」先日の一件以来、揚羽と小十郎がパッタリと姿を見せなくなった事だ「そうだな。まあ今は学生は『春休み』という春季長期休暇なのだろ? 家族で旅行にでも行っているのだろ。」「かもしれませんね。まあ、最近は少々賑やかな日々が続いたので少し静か過ぎるかな? と思いまして…。」「自分としては、あの二人はエネルギーが余り過ぎだ。偶にこういう日が無くてはこっちの身がもたん。」「ははは、確かにそうかもしれませんね。」ハルは軽く笑いながら、軽く集めたゴミを掃き集める雑談しながらも淀みなく掃除を行える手腕は流石というべきだろう。……やはり、あの二人もそれなりに衝撃は受けた様だな……先日のミナトとの手合わせその時のあの二人の表情を思い出して、イタチは考える……錬や南斗星もそれなりに影響されたみたいだが、あの二人はそろそろ壁に当たる頃だろう……今の揚羽の実力は、大佐や南斗星と比べて頭が一つ飛び出ているそして、小十郎もその実力をグングンと伸ばしている更に言えば今のイタチの見立てでは、状況と条件さえ揃えば小十郎が揚羽に勝つ事もそう難しくないと考えているあの二人は、今が伸び盛りの時期だそして、伸び進んだ先には壁が待っている多少の事では越えられない、大きな壁あの二人は、これから多少の困難と苦悩を味わうだろうだが、人は壁を乗り越えた時…爆発的な成長を遂げる今まで精神的な迷いや悩みで扱い切れなかった肉体が、なんの障害も無しに扱える様になる同じ刀でも、その持ち手によってその真価が大きく変わる様に……あの二人も、壁を越えれば大きく成長するだろうそうなれば………流石に、今までよりは少しあの二人の相手はキツくなるかもな……ふう、とイタチはゆっくりと息を吐く「まあ、今はこちらも骨休みさせてもらうか。」ゆっくりと呟くあの二人の問題は、一朝一夕で解決するものではない。これを機に、じっくり体を休めよう…と、イタチが思った所で「イタチくーん、俺と一緒にM-1に出なーい?」イタチの平穏を、思いっきりぶち壊す言葉が響いた。第十八話「NARUTOのアニメのギャグパートって、何気にレベルが高いよね?」「ミナトさん。どうもこんにちはです。」「やっ、いつもお仕事ご苦労さまですハルさんにイタチくん。」「どうも……それで、貴方はいきなり何を言っているのですか?」イタチは溜息を吐いて、自分を訪問してきた嘗ての四代目火影・波風…改め鉄ミナトに尋ねた。「だから、俺と一緒にコンビを組んでM-1出よう!」「…それで、何ですか? そのM-1というものは?」M-1グランプリ…毎年年末にある日本中のお笑い芸人が漫才の腕を競い合うコンテスト、優勝コンビには凄い賞金が出る。「という物です。」「説明ご苦労、千春。」イタチの質問に、ハルが答えてイタチは再びミナトを見る「物は分かりましたが、なぜ貴方がそういう結論に至ったのか甚だ疑問です。」「え? だって面白そうじゃん。」あっけらかんと、ミナトは言い切る鉄ミナト……過去に色々あって、偶に情緒不安定になってしまう苦労人である。「いやー昔からお笑い番組は結構見ててさ、俺も自分で出たくなった訳なんだよ。」「お断りします。」「えー!! 何でだよイタッチ!! 俺たちなら第二の雨○がり決死隊になれるって!」「……誰がイタッチですか……。」グっと親指を立てて、ミナトは爽やかスマイルを浮べる。何故だろう、イタチは本気で頭が痛くなってきた「要は二人組で行う漫談みたいなものでしょう? 自分の様な人間には不向きだと思いますし、何より自分は素人です。」「大丈夫だって、いざとなればちょろっと審査員に幻術を掛けちゃえば楽勝だって!!」「止めてください、とりあえずこの国の全ての芸人に謝ってください。」とりあえず、ミナトを軽くたしなめておく。イタチは軽く頭痛を覚えて額に手を置きながら、現状について考えていた「あの~、気のせいかもしれませんが…何だかミナトさんのイメージが最初と大分違うような…?」「安心しろ、俺も同じ事を考えていた。」ハルの言葉に、イタチは同意を示す。「あ、自分偶にこういう感じになっているので、そこの所はよろしくお願いします。」「は、はあ…。」ミナトが呆然とするハルの肩をポンポンと叩き、片目でウィンクをするそのやり取りを見て、イタチは考えた。曰く、里の英雄曰く、木の葉の黄色い閃光曰く、木の葉隠れ最強の忍曰く、四代目火影里のあらゆる尊敬と憧憬を集める存在波風ミナト、改め鉄ミナトそんな人間が……「それでもし優勝したら、賞金は全部「うめえ棒」につぎ込んでうめえ棒パーティやろうよー! もちろん味は全部めんたい味にね!」……一体、どうしてこうなってしまったのだろう?……「……あれ、どうしたのイタチくん?」「いえ、貴方が本当にあの四代目かと思うと…色々と考える事が多くて…。」「ははは、あまり難しい事を考えているとハゲちゃうぞ。」そんなミナトを見て、イタチは更なる頭痛を覚える。どう考えても、平時のミナトとは異なる完全に、『スイッチ』が入った方のミナトである。「…一つお聞きしますが、最近なにか嫌な事ありました?」何気なく、ミナトに尋ねるしかしミナトは不思議そうな表情をした後「あはは、分かる? 実は昨日、俺の好きな漫画の実写版を見たんだけど……それでちょっとイラっときちゃったんだよねー。」口元を「ククク」と歪めながら、ミナトは言い「…そうですか。」(…何故だ? それなら寧ろ機嫌が良くなる筈では?)ミナトの言葉にイタチの疑問は深まり「……ああ、なるほど。」ハルはどこか納得した笑みを浮べていた。鉄ミナト……しつこい様だが、様々な事情により少し情緒不安定になってしまった苦労人である。●久遠寺家・夢の私室「大体出来てきたね、夢。」「うん、そうだね南斗星さん。でも本番まではまだ時間があるから、一回通しでやってみてダメな所は直していかないとね。」「今年こそは、隠し芸大会で優勝したいもんね。」「うん! 春の一大イベントだもん、そして今年こそは優勝の脚光を浴びるぞー!」二人は毎年恒例である久遠寺家・隠し芸大会に備えて漫才のネタを考えていた。四月の下旬にあるお花見と共に行われるこのイベントには、久遠寺家の人間だけでなく付近の住人も多数見物に来るほどの催しである去年、優勝を逃した夢と南斗星はそのリベンジに燃えていた。そして、二人は台本を持って作ったネタを一旦通してやってみるそして、粗方の通しを終えて「……う~ん、一通りやってみたけど…やっぱり夢達だけだと不安かも。」「うん、そうかも。夢が作ったネタだから、私もこのネタには感情移入しすぎちゃってる部分があるからね。やっぱり、他の人の意見も欲しい所だよね。」「他の人か~、でもおケイもミィも隠し芸大会は楽しみにしているし…お姉ちゃん達には見せる訳にはいかないし…ハルくんも夢達と同じチームだから、どうしても夢達寄りの意見になっちゃうからな~。」「……難しい所だね。」そう言って、二人は考え込む。やはり折角作ったのだから、第三者の意見も聞いておきたい所なのだが…どうにも適任者がいないさて、どうしようかと考えた所で「ふう、やっと落ち着いて帰ったな。」「あはは、まあ僕としてはあっちのミナトさんの方が親しみが持てますけどね。 話をしてて面白いですし。」「……まあ、賛同は出来るが…普段とのギャップが、な。」不意に、廊下から何やら話し声が聞こえてきた声から察するに、声の主はイタチとハルだろう。そしてその声を聞いた夢が、突如閃いた。「そうだ! イタチさんに夢達のネタを見て貰おうよ!」「イタチくんに?」夢の突然の提案に、南斗星は首を傾げた「イタチさんってまだ誰の専属にもなっていないし、口も硬そうじゃない? 気付いた事とかもズバズバ指摘してくれそうだし、何よりあのイタチさんがクスリとでも笑ったら、本番はきっと大ウケだと思わない?」「……なるほど、確かにそれはあるかも。」夢の意見に、南斗星も賛同する確かに、夢の意見には同意できる点はあったし何より、あの普段から表情を崩さないイタチの表情を少しでも崩す事が出来れば、本番でも良い成績を残せるだろうと南斗星は考えた。「うん、確かに…私も賛成。」「よし決定! それじゃあ早速呼んで来るね! ねーえ、イタチさーん!」そう言って、夢は部屋から出て行った。●「…と、言う訳でイタチさんとハル君に夢が作った漫才を見てもらいたいの。」「へー、面白そうですね。」「…しかし、漫才…ですか。」「あれ? 何か問題があるイタチくん?」あまり乗り気でない様子のイタチに、南斗星はふと尋ねる「いやそういう訳ではない。まあ多少の不安はあるが、主様の頼みなら自分に出来る限りの事はしよう。」「本当? それなら早速準備を始めるね!」顎に手を置きながら、イタチは言う。そして二人の了承を得て、夢と南斗星は二人の前で漫才を始めた。「どうも、サザンクロスドリーム・夢です」「南斗星です。よろしくお願いしまーす」部屋をステージに見立てて、二人は中央に歩み寄る「見事な桜、春爛漫ですね」「春と言えば、出会いの季節ですよ。」「出会いか~、私はないなー…南斗星はある?」「あまり興味ないかな。」「じゃあ何でそのネタふったのー!」夢が過剰にリアクションをとって、南斗星につっこむ。ハルはコレが受けたらしく、クスリと口元を緩ませた。「春と言えば、やっぱり就職シーズンですよ!」「南斗星は切り替え早いなー、最近は面接も色々奇抜な事をやってるらしいね?」「柔軟に対応出来る様に、練習しときたいなー。」「あ、それならやってみる?」 夢が提案すると、南斗星はサッと構えをとって「じゃあ、サーブは私からね。」「面接をやるの! この流れでいきなりテニスとかありえないでしょう!」再び夢のツッコミが入り、二人は改めて続行する。「夢が面接する人で、私が面接を受ける人ね。それじゃあ始めよう!」「こんこん」「はい、どうぞー。」「失礼します、宜しくお願いします。」今度は部屋を面接室に見立てて、夢が面接官、南斗星が面接生のポジションについたそして早速、面接官役の夢が南斗星に質問をした。「それでは面接を始めます。まず、貴方が弊社を希望した理由は何ですか?」「何だと思いますか?」「答えてよ! 面接官にいきなり質問しないでよ!!」笑顔のまま夢の質問に南斗星が切り返す「希望する理由は、御社が家から近いからです。」「正直な理由ですね、他には?」「通いやすいと思ったので」「さっきと理由かぶっちゃってるよ! もう、そんな態度だと面接に落とされますよ!」夢がやや怒った表情で南斗星を見るが、南斗星はここでキリっと表情を引き締めて「ありのままの、裸の自分を見て欲しいので…正直に。」「…ソウデスカ。それじゃあ貴方の趣味を教えて下さい。」「それは言えません。」「裸の自分を見て欲しいんじゃなかったの!! 貴方は本当にこの会社に入りたいんですか!?」再び夢が声が響くが、南斗星は真剣な表情を崩さず「…では、貴方はこの会社で良かったんですか?」「ほ?」逆に南斗星が質問をして、夢の表情が呆気に取られたものになる。「貴方は、本当は何になりたかったんですか?」「……私は、本当はミリオン連発の歌手になりたかった。そしてそのお金でドリームランドを建設して、美男子ハーレムを作ってそのハーレムでリアルメリーゴーランドを作りたかった……って! 違うでしょ! 質問に答えてよ!!」そして、二人は仕切りなおしをして再び向き合い「こほん、それでは好きなスポーツは何ですか?」「…テニスが好きです。」「やけにテニスに拘るなー。まあ良いや、貴方は面白いので合格です。」「貴方はつまらないので、こちらからお断りさせて頂きます。」「私が面接されてたの!! ええい、悔しいからもう一度やるよ!」ここで、南斗星は再び構えを取って…「サーブは私からですね。」「だからテニスは関係ないでしょ! もうええわ!」「「ありがとうございましたー。」」二人の声が同時に響き、漫才のリハーサルは終了した。二人は不安げにハルとイタチを見るハルは笑顔でパチパチと拍手をしているが、「………」イタチはいたって無表情「……あ、はは。イタチさん、ひょっとして…面白くなかった?」夢が不安気に尋ねるが、イタチは表情を崩さずに何かを考えて…「……夢様、質問いいですか?」「…う、うん。何でもどうぞ。」夢がそう言うと、イタチはゆっくりと夢に向き合って…「いつ、笑えば良いんですか?」「いきなりバッサリ切られたああぁぁぁ!!!」一刀両断思わぬ攻撃にバッサリと切られて、夢はガックリと項垂れる自分でも覚悟はしていた事だったが、まさかここまでズバっと言われると堪えるものである。しかし、夢の本当の苦しみはここからだった「しかし、何故面接でテニス…庭球が出てくるのだ? そこが疑問で途中から漫才に集中できなかったのですが?」さらっと、イタチは漫才で感じた疑問を尋ねる。その質問に、主の変わりに南斗星が答えた「ああ、面接関係ない事を絡ませていけば『おいおい、何だよそれは~』っていう感じで面白いって夢が言ってたよ。」(……ハウ!)「なるほど、だから面接とは関連性が極めて薄い庭球が出れば面白いと夢様は思ったのだな。」(……ハウ!ハウ!!)「でも、僕は結構面白かったですよ夢お嬢様の考えたネタ。」(……ウウー、こ、これは…思ったよりもキツイかも……!!)何となく、全身がムズ痒くなる様な感覚に襲われる夢結構目の前で談義されると予想以上にキツい、夢はその事を存分に噛み締めるが…「ふむ、なるほど。確かに今こうして考えてみれば……確かに、目を引くものがあるな。」「お! これは思わぬ所からの好感触が!」イタチの言葉に、夢はパアっと顔を輝かせるが、「人間の笑うという行動に関しては、その発生源の理由の一つに『構図のズレの認識』という物がある。」「……あり?」何やら予期せぬ高尚な単語を耳にして、夢は思わず呆気に取られるが…イタチの言葉は続く「俺が昔聞いた話なのだが、『一国の英雄がある日、石に躓いて転んだ。それを見た子供達は笑ったが、大人達は笑わなかった。』という話がある。なぜこの話の子供は笑ったのか? それは子供の持つ「英雄とは格好良い。どんな苦難にも決して挫けず、倒れる事無く立ち向かう。」等のイメージのズレ、つまり構図のズレがあったから、子供は面白いと思って笑った。なぜこの話の大人は笑わなかったのか?それは大人は「英雄だって自分達と同じ人間。偶然道端で転ぶ事だってある。」そういう常識的思考を持っていたから構図のズレは起きなかった、だから大人は笑わなかった。つまりは、これが笑いにおける構図のズレだ。」「…え? ほえ?」急なイタチの説明に、夢は咄嗟に反応出来ずにいる自分が考えた漫才のネタから、なにやらイタチの笑いの構図の談義にまでなっているからだ。「おおーなるほど、分かり易い例えですね。」「うんうん、私にも良く分かった。 でも、それが夢のネタにどう繋がるの?」イタチの説明を聞いて、ハルと南斗星は理解したかの様に頷くそして、イタチの説明は続く。「世間一般でいう面接のイメージとは主に『就職試験や受験において、対象の人物の書類では知る事の出来ない人物像、性格、雰囲気、思想、その他諸々を実際に会って見極める。』等のものだ。しかしこれに対して先の面接のやり取り、面接という大切な試験においては受ける側の人間もその態度はそれ相応な態度で受けて然るべきものだ。だが、夢様の考案なされた受験生の役柄はそんな受験生とは大きく離れ、更には面接官に試験とは大凡関係ない面接官の心情面において奥深い部分にまで踏み込んだ質問までされている。これもいわゆる「構図のズレ」、本来一般的な面接のイメージを持つ人間には確かにこの手のやり取りは心理的に笑いを誘うものだ。」「……あ、あのイタチさん…流石に、そこまで言われると…夢もキツイものが……」ここで、夢が頬を引き攣らせながら宣言するが「更には関連性の薄い庭球を頭に持ってくる事で一度見る人間の意識を面接から離す事によって、後の面接のやり取りを際立たせている。一度意識が離れるから、後の面接のやり取りが活きるという訳だ。」「…いや、あの……本当に、そんな大層なものじゃないんで…」「そして、何より特筆すべきはこれすらも締めの伏線という事。面接のやり取りで見ている人間の意識が完全にそこに向いた所で、先の庭球を持ってくる。反復効果も相まって、更にこの庭球のネタが活きてくる。「……あ、あの、すいませ……も、もう、その辺で、勘弁して……」「『構図のズレ』『意識の強弱』『反復効果』この三つをバランスをよく使い、笑いを誘う…なるほど、改めて考えるとこれは良く出来ている。心理的な笑いの発生要素を刺激する「もういい!!! もういいよおおぉぉ!!! もうこれ以上私のネタを解剖しないでえええええぇぇぇ!!!」分かりました。」お笑い芸人が最も嫌う行動の一つに、自分のネタを解剖されるというものがある。第三者の手によって理論と因果関係を持って冷静にネタを分析されると、とてつもなく恥ずかしい気持ちに陥るらしい。効果は絶大だった涙目になりながら懇願する夢を見て、イタチはその言葉を止めた。(……ううう、流石にこの流れはキツい……何か、何かして場の流れを変えないと!!……)なんとかして場の空気をリセットすべく、夢は咄嗟に声を上げた。「そうだ! 参考までに、イタチさんが今まで経験した仕事の事とか聞いてもいい!? やっぱり、実際に体験した人の話が聞ければネタも補強されると思うんだ!!」「自分が体験した、仕事ですか?」「そうそう、イタチさんって人生経験豊富そうだし! 参考までに何か聞かせて欲しいかな、って思ったの!」「……そうですね。」夢の言葉を聞いて、イタチは「ふむ」と顎に手を置いて考える。ちなみに夢は、なんとか場の空気の流れを変える事が出来て、ほっとしていた。「自分は、一時期はいわゆる『何でも屋』の様な組織に属していた事もあったので…それなりに体験した仕事の数はありますね。要人警護、護衛に警備、潜入捜査、遺失物調査、盗難物奪還……一般的な仕事でもペット探しや商店の手伝いや老人介護等もしていましたね。」「おおー、なにやら凄い経歴だね。」「要人警護か、確かにイタチくんはそういう雰囲気あるね。」「確かに、ボディーガードとかイタチさんはしっくり来ますね。」あの反則的なまでの強さに、真面目で実直な性格言われて見れば、確かにイタチの雰囲気とその手の仕事はマッチしていると、夢達は思った。「じゃあさ、一番最近までイタチさんがやってた仕事の職場ってどういう感じだった?」「……一番、最近ですか?…そうですね……」思い出すのは、ある組織で過ごした日々イタチはここに来るまでの自分の生活を思い出し、ある程度に考察を重ねた所で…「普通に丸三日は完徹で仕事をさせられたりする職場でしたね。」「「「はあ!!!」」そのイタチの返答に、三人は思わず声を上げた「み、三日間徹夜!!?」「キツいってレベルじゃないですよ!!」「っていうかそれブラックだよね! 真っ黒クロスケ並みのブラック企業だよね!!」「ブラック? まあ良くは分かりませんが、三日程度でしたら自分は普通に活動できるので…それほどキツいという訳ではなかったですよ。」え? そういうものなの?自分達の認識が甘いだけ?などと夢達は一瞬考えるが……「まあ、流石に六日間完全不眠不休での徹夜作業をさせられた時はキツかったが……」「「「ダウトオオオオオオオォォォォ!!!」」」一斉に、三人はイタチを指差して叫んだ。「それブラックだよ!! 絶対ブラック企業だよ!!」「非人道的にも程がありますよ!!」「私だってそこまでハードな仕事経験した事ないよ!!」夢、ハル、南斗星はそれぞれイタチに詰め寄るが、イタチは表情を変えずに一考して「ああ、元々九人しかいない組織だったからな。ある程度キツいのは仕方が無かった。」「そうなの?…っていうか、他の人は文句言わなかったの?」「まあ、多少の文句はあったが…キツいのは皆同じだったからな、受け入れていた。」「そ、そうなんだ…。」夢が恐る恐る尋ね、イタチは答える。まあ、当人達が納得していたならそれで良いかな?と、思った所で…「まあ、なんだかんだで四人死んだがな。」「「「はいアウトオオオオオォォォ!!!」」」再び、三人は一斉にイタチを指さして絶叫した「過労死だよ! 死んだ人それ絶対過労死だよ!!」「っていうか、もはやブラックって言葉すら生温いですよ!!」「本当に、それ裁判ものだよ!」と、三人がそれぞれ声高に叫ぶが「ああ、正確に言うと元々十人の組織だったが、一人辞めたヤツがいて、九人になった後、そいつが死んで三人が死んで一人が生き埋めになった。」「「「恐いよ!!!」」」更なる三人の声が響く「イタチさん!! それ何のフォローにもなってないよ!! 寧ろ恐いよ!!」「一人生き埋めってなんですか!! もはやホラーですよ!!」「何で辞めた人まで亡くなってるの!! 絶対何かに呪われてるよ!!」もう、今日だけで何回突っ込みを入れただろう。三人は声高に盛大にイタチにツッコミを入れちなみに夢はこの時「あれ? ひょっとして今の夢、ツッコミキャラとして輝いてる?」と、軽く悦に入っていた。ちなみに、この話を聞いて夢は新たに新ネタを思い付いたのはまた別の話である。同日・川神市・川神院九鬼揚羽と小十郎の二人はそこにいた。「ここに来るのも久しぶりよの。」「そうですね、年初めの挨拶に来た時以来ですね。」そして、二人は目の前の寺院に一歩踏み込むその中に踏み込んだ瞬間、一人の老人が姿を現した。「ほっほっほ、久しぶりじゃの揚羽に小十郎。」「お久しぶりです。鉄心殿もお変わりなく。」「元気そうでなによりです。お久しぶりです、鉄心殿。」二人は目の前の老人、川神鉄心に笑みを浮べながら軽く挨拶をし鉄心は、その二人を一瞬目を鋭くして見て「……ほう、どうやったかは知らんが…二人共、かなり腕を上げた様じゃな。」愉快気に口元を綻ばせ、鉄心は楽しげに笑ったそんな鉄心の言葉に、二人は目を丸くした。「…む、そうでしょうか?」「あまり、自覚はありませんね。」「フォッフォッフォ、まあこういうものは得てして本人は気付かないものじゃ まあこうして若い世代が育っていく様を見るのも、この老いぼれの数少ない楽しみじゃ。」「鉄心殿には百代と一子がいるではありませぬか。」揚羽がそう言うと、鉄心は肩を竦めて溜息を吐いて「一子はともかく、百代はのー…実力では申し分ないのじゃが、あれは心に問題ある。 一言目は「戦い」二言目は「闘い」、全く困ったもんじゃわい……わしの育て方が拙かったのかのー?」「ははは、そう悲観なさらずとも百代はあれで健やかに育っているではありませぬか。」「ほほ、そう言って貰えるとこっちも少しは気が楽になるのー。」揚羽の言葉を聞いて鉄心は再び笑い、改めて二人に向かい合った。「さて、ではそろそろ本題に入ろうかの? 先日の電話の件……あれは、本当に良いのかな?」「はい、何も問題ありません。ですから今日はその為に、我が直々に川神院に足を運びました。」そう言って、揚羽は表情を引き締める。鉄心と小十郎も先程までの笑みは消えて、辺りの空気は張り詰めた様な緊張感が支配する。そして、その緊張感を切って揚羽は口を開いた。「この九鬼揚羽、本日をもって『武道四天王』の座を返上する。」続く後書き ヤバイ、ミナトがフリーダムすぎる……(汗) 今回は日常パートメインに描かせてもらいました。夢と南斗星のコントは原作のやり取りを一部編集したものを使わせていただきました。 ……流石に、自分で漫才のネタは作れなかったので(笑) ちなみに、今回の話でまじ恋クロスのための「種まき」は終わりました。 揚羽が四天王入りした時期が分からなかったので、とりあえず本編では既に四天王入りしているという設定です。 多分近い内に、本格的にクロスをさせた物を載せられると思います。追伸 先日友人の一人と「まじ恋」に関して会話したのですが…作者「お前さー、『まじ恋』のキャラで誰が一番かわいいと思う?」友人「師岡卓代ちゃん。」……コイツ、分かってやがる、と思いました。