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No.31107の一覧
[0] ボルテックスエヴォル[johnny](2012/02/14 01:38)
[1] ボルテックスエヴォル2[johnny](2012/02/14 01:40)
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[31107] ボルテックスエヴォル
Name: johnny◆563198b3 ID:ded65664 次を表示する
Date: 2012/02/14 01:38
「ハァ・・・ハァ・・・」
とある都会の路地裏そこを走る一人の青年がいた
彼の名は高崎誠一郎、ごく普通の大学生である。
身長は165センチ程度黒髪に顔つきはあまり特徴的ではなく、どこにでも居そうな普通の好青年といった感じだ。
だが彼が置かれてる状況はとても普通とは言えなかった。
追われているのだ。
それも普通の男や女などではなく異形の生命体に。
”ソレ”は肌色の皮膚ではなく緑色の甲殻を持つ生命体だった。
しかも頭からは触覚が生えており、さらに腕からは巨大な鎌が生えていた。
そして空中から誠一郎を狙っていた。
正に”ソレ”は蟷螂といった見た目だった
何故彼はそんな異形なモノに追われているのか?
それは本人にもわかってない。
「ハァ・・・ハァ・・・」
彼はただ逃げる。その異形から逃れるために
(なんで俺がこんな目に・・・)
(さっきまで普通の日常だったのに)
(そもそもなんでこんな奴が普通に存在してる?)
(そして何故俺を狙う?)
(わからないことだらけだ)
そしてその状況ををとあるビルの最上階の一室から見つめる者がいた。
もちろん彼が直接見ている訳ではない
その異形の怪物の視点からその状況を見ているのだ
「彼がターゲットの高崎誠一郎のようです」
異形の怪物が喋るもちろん直接喋ってる訳ではなく、そのビルの人物とテレパシーで会話してるのであった
「ああよく”視えて”いるよ」
「正しく彼だね」
そのビルの人物は満足気に喋る
「しかし、どう見ても一般人にしか見えませんよ?」
「確かに君からすれば普通にしか見えないだろうね」
「だが私には”視える”」
「彼の遺伝子がほどよく適合してるところがね」
ビルの人物は愉快に喋っていた。まるでこの世にこれ以上の至福がないかのように
「嬉しそうですね」
「それほど彼が凄いってことですか?」
「ああ、彼ほどの適合者は見たことがない」
「彼こそが原石、究極の遺伝子の持ち主だよ」
「なるほど」
「要は彼を捕らえればいいんですよね?会長?」
「ああもちろんだ」
「しかし、私を出してくるからもっとヤバそうな奴かと思ったら」
「まさか”まだ”普通の人間とは」
「これなら特殊部隊でよかったんじゃないですか?」
異形の怪物は少し呆れたように喋る
「この仕事、少し簡単過ぎますよ」
「フフッ」
会長と呼ばれた人物がまた笑う
「それは驕りが過ぎるというものだよ鎌田君」
異形の怪物・・・鎌田と呼ばれた男が不満そうに言う
「そうですかね?」
「私はこう見えてもエヴォルウィルスの適合率は50%近い優良個体ですよ」
「フフッ」
会長がまた笑う
「確かに君は50%近い優良個体だ」
「だが高崎君はエヴォルウィルスとの適合率が99%を超える異常個体なのだよ」
「わかってますよ」
鎌田が退屈そうに言う
「でも、目の前にいる男は・・・」
「どう見ても普通ですよ?」
鎌田・・・誠一郎から言えば日常から外れた異形から見れば目の前を息せき切らせて走る男はどう考えても”普通”にしか見えなかった
「私が本気を出せば一瞬で殺せますよ?」
「それは困るねぇ~」
会長はニヤ付きながら喋るそれはありえないと言わんばかりに
「随分彼を買っているんですね。」
「それはもちろんだとも」
「まあわかりますけど・・・」
「加減するのも難しいんですよ?」
「わかっているとも」
「だからこそ全力で彼に攻撃して欲しい。」
「正気ですか?」
「もちろんだとも」
「本気で攻撃したら、下手したら後も残らないですよ?」
「かまわんさ」
「それならばそれでね・・・」
鎌田は溜め息を付いた。まさかこんな無抵抗な一般人一人を殺すのが今回の仕事とは・・・
(会長は私の力をまだ認めてはいないということか・・・)
鎌田はそのことに不満を感じるも、仕方ないと割り切り、
(まあ一瞬だ。)
(せいぜい苦しまずに逝けよ。)
鎌田は腕の巨大な鎌を素早く振り下ろす。もちろん常人には見えないスピードでだ。
だが当の本人からしてみれば、ただ上下に腕を振り下ろしているだけに過ぎない。力などほとんど入れていない。
それでも空を裂き、力強い衝撃波を放てるのは、彼がエヴォルの中でも優秀な部類に属する存在だからだろう。
シュっと言う風が凪ぐような音を立てながら進む衝撃波。
「う・・・うあ~~~~~~~~!!」
誠一郎はギリギリの所でそれをよけるも、右腕上腕部に当たってしまう。
「ッ~~~~~~~~~!!」
誠一郎はあまりの激痛に声が出ず、顔を歪めながらこのあまりに酷すぎる笑えない状況を悔やんでいた。
(糞・・・)
先程大根のようにあっさり切り捨てられ、今は無残にも地面を転がっている自分の右腕を見ながら。
(なんで・・・さっきまでは・・・)
約数時間前までは日常にいた自分を懐かしんでいた。
もし数時間前の自分に会えるならこういってやりたい。今日は大人しく家にいろと。


数時間前、彼は普通に大学に通い、退屈な講義を終わらせ、帰路につこうとしていた。
だがその帰り”奴”は突然現れた。
それはコートを着た怪しい男だった。
最初は何も感じなかったが、その後どう考えても尾行しているような気配を感じたのだ。
(おかしい・・・)
誠一郎はとっさに感じたこの男はおかしい・・・普通とは明らかに何かが違う
もちろん誠一郎にとって何がおかしいかはよくは分かっていなかった。
だがそいつは明らかに違う・・・単純に言えば常識や日常に外れた範囲にいると。
(とにかく撒いてみるか)
誠一郎は人混みやビルなど、なるべく人の多いややこしい場所に行き、そいつを撒こうとした。
しかしそいつはピッタリとくっついてきた。距離を一ミリも離さず、律儀に。
(なんなんだこいつ・・・)
正に異常としか言えなかった
ただの常人が明らかに怪しい男に尾行されている・・・
ありえるのか?こんなことが?
(いやありえないな)
もちろん常識というもので考えればそうだ。だが今の状況は常識が完全に通じない状況になっている。
(どうすれば・・・)
撒けないとなれば警察に行くしかないかと考えたが、明確な証拠がない。
ただつけられているみたいだだけでは何の証拠にもならない。向こうから危害は加えられてはいない。
(それに何故俺を付ける必要がある?)
最大の疑問はそこだ。何故自分なのか?
女にストーキングされるならまだわからないでもない。だが相手は男だ。しかもコートと帽子をかぶった明らかに怪しい男。
(そんな奴に付けられる憶えはない。)
一番肝心なことはこれからどうするかだ。
奴のストーキングの目的がわかない以上どうすることも出来ない。
なまじ家が目的だとすれば家に帰るのはどう考えても危険だ。
(だが”奴”の目的は俺の家なんだろうか?)
そんな物調べてもどうしようもない気がする。
地方から出てきて一人暮らししてる大学生の家の場所なんてなんの価値もないと思うが・・・
しかも家は金持ちでもなんでもないただのサラリーマンの子のだ。
(思いきってこちらから仕掛けてみるとか?)
逆にこちらから攻めれば、相手に意表を付けるし、目的もわかる。
(そうだ!!そうすれば・・・)
そう考えたその時・・・
「やあ」
いきなり誰かに声をかけられた。
だがその声は知り合いの声などではなく、
「少し話いいかな?」
自分をストーキングしていたコートの男のしゃがれた声だった。


その男に連れられ近所のコーヒースタンドに足を運ぶ形になった誠一郎。
(なんなんだ?こいつ・・・)
まるで自分の思考を読んだかのように突然表れたコートの男
コートの男は帽子を脱ぎ、自分が頼んだブラックコーヒーを優雅に飲んでいた。
コートの男は見た目は40代前半といった感じの男で、身長は180を超える大男で白髪が少し見え始めた髪を整髪料で整えたいたって普通の男だった。
少なくとも見た目から異常は感じられない。
「ところで・・・」
いきなり喋り始めビクッとなった誠一郎。
「いや、そんなに怖がらなくていいから」
コートの男はそういうと、名刺を出した。
「私は五道グループ遺伝子進化研究調査局に勤める鎌田というものだ」
名刺には五道グループ遺伝子進化研究調査局調査員、鎌田壮介と書かれていた。
「それで何の用なんですか?」
おずおずと聞く誠一郎、
「それと何故自分を尾行なんかしてたんですか?」
そういうと鎌田は笑いながら、
「ハハハ、気付かれていたか。」
「まあわざとバレるように尾行していたから気付いてもらわなきゃ困るんだが・・・」
何?わざとわかるように?誠一郎は目の前の男の意味の解らない言動に苛立ちを覚えつつ自分が頼んだカフェオレを飲む。
まるで今の自分の気分のようなほろ苦い味がした。
「何故そんなことを?」
「何故?」
そういうと鎌田はさも当然であるかのようにこういった
「それはもちろん試すためだよ。」
「君の注意力や観察眼、どういった人間かをね。」
注意力?観察力?そんな物何故試す?まるで自分に何か価値があるような言い方するなこいつは
誠一郎は苛立ちをさらに募らせていた。とにかく目的だけでも聞いてこの場を去りたい。そんな気分だった。
「だからそんなことする必要性が何故あるのかと」
「何故?」
もう一度鎌田がいう。
「君が特別だからだよ。」
鎌田は何の億面もなくそう言った。
「ハア?」
誠一郎は思いっ切り意味のわからないことを言われ、面食らったような顔をした。
(特別?何を言っているんだこいつは?)
生まれて此の方一回も特別なんて言葉を人に言われたことがない誠一郎にとってそれは衝撃的な話だった。
「わからないかい?君は特別なんだよ。」
「だから意味がわかりませんよ。」
語気を粗めながらそう言うと誠一郎は立ち上がり、
「くだらないこと言うなら帰らせて頂きます。」
こいつの余田話はもう聞いてられない。何が特別だ馬鹿にしてるのか?
「ちょっと待ってくれよ何も帰ることないだろ。」
鎌田はその態度に驚き、引き止めようとする。
「何か気に触ったかね?」
「当たり前ですよ。いきなりストーカーされた挙句、」
「その理由を聞いてみたら君が特別だからなんてふざけてるとしか思えませんね。」
怒りに語気を激しく粗めながらそう言い切った。すると鎌田は少し驚いたように言った
「何?君は自分が特別じゃないと思ってるのかい?」
「そいつは驚きだ。」
「何が驚きなんですか。」
鎌田はまだこんなことを言っている。さっきからなんなんだこいつは特別特別て・・・
「まあ私も君を特別とはここ数日尾行して思わなかったね。」
「じゃなんで・・・」
もう一度鎌田を問いただそうとした瞬間ある単語が引っ掛かった。数日尾行?何を言ってるんだこいつは?
こいつに尾行されたのは今日が初めてのはずだぞ?
「今数日尾行て・・・」
「ああそうだ。」
鎌田はさも当然かのようにそう言った。
「やはり気付いてなかったか。」
少し残念そうに鎌田が言う
「なんでそんなことを・・・」
「さっきから言ってるだろ?君は特別だ。」
そう言い切ると鎌田はこんな質問をしてきた。
「なあ君は最近体に異常を感じたことはあるかい?」
「いや」
誠一郎はここ最近どころか生まれて此の方大きな病気もしたことがない健康な人間だった。
「病気とかも特に」
「だろうね観察してた限りじゃ異常は見られなかったしね。」
鎌田は残念そうにそう言った。
「何か俺に異常があった方が言いような言い方ですね。」
鎌田の残念そうな物言いにまた苛立ちが募る。コイツ年上じゃなかったら殴ってるところだ。
「そうすれば君は楽園の使徒になれたのにな。」
ハア?楽園の使徒?さっきからコイツはおかしい奴だと思っていたがいよいよ確信が持てた。コイツは異常だ。
そうでなければ俺みたいな普通の人間を特別だなんて言って数日尾行したりなんかしない。
何か怪しいクスリでもやってるんじゃないか?コイツは?
「やはりあなたの話は聞くだけ無駄のようですね。」
「帰ります。」
そのまま歩きだし、コーヒースタンドから出ていこうとする。
すると鎌田は慌てて追ってきて、
「ま、待ってくれ。」
「ッ痛!!」
そういうと手首を強く握ってきた鎌田。だがその力は常人とは思えないほど強かった。
「痛い!!止めて下さい!!」
痛みから大声を上げて叫びながら、鎌田の腕を振りほどこうとする。だが鎌田の腕から逃れることは出来なかった。
「やはりこの程度の力で握っても振り解けないとは・・・」
落胆の声を上げる鎌田。心底残念そうだった。
「あなたは何故俺が特別であって欲しいと願うんだ?」
腕に激しい痛みを感じながら誠一郎はさっきから感じているどうしても解けない疑問を投げかけた。
「それはだね誠一郎君」
そういうと怪しい笑みを浮かべながら、鎌田はこういった。
「我らが主がそれを望んでいるからだよ。」
「あ・・・主・・・」
「そうだ。いずれ世界の全てを変えるであろう我らが主だ。」
主、その言葉を聞いてこいつはやはり頭がおかしいと感じた。
だがそれと同時に頭に激しい違和感を憶えた。
(何かコイツ普通とは明らかに違う何かを持ってる・・・)
そうこの腕の強い握り方から雰囲気まで何かが普通とは違う、さっきから拭えない疑問の本質はそこだ。
「最後に聞かせて下さいよ。」
「最後?」
「おいおいまだ話は始まったばかりだろ。」
(まだこんなことを言うのかこいつは・・・)
最早苛立ちも限界に近かったが、どうしてもこれだけは聞いておきたかった。
「あなたはさっきから俺のこと特別特別いいますけど・・・」
「あなたはどうなんですか?特別なんですか?」
「その楽園の使徒とかいう存在なんですか?」
そうそこだ。こいつがさっきからやたら強調して言ってくる言葉。
特別。
何故こいつがそこにこだわるのか。それは自分が特別であり、それゆえに自分と同等の存在を探しているからではないだろうか?
そう聞くと、鎌田は不敵な笑みを浮かべた。口元を吊り上げニヤリと笑っているのだ。
それは今まで憶えていた違和感以上におぞましい雰囲気を誠一郎に与えた。
「もちろんさ。」
鎌田は嬉しそうに答えた。それが自分にとってかけがえのない誇りのようだった。
だが鎌田が嬉しそうだからといって、回りに与える雰囲気がそうとは限らない。
誠一郎にとってそれはあまりに恐ろしい光景だった。
気持ち悪い。
一番に感じた感想はそれだ。
何か解らないが気持ち悪い。とにかくそれだ。
何かの宗教に没頭する狂信者が嬉しそうに教祖を語る。正にその気持ち悪さに似たものを感じた。
「私は主に認められ、神に愛され、楽園の使徒に覚醒した。」
喜々として語り出したが、誠一郎はそんな戯言は聞きたくない、早くこの場を離れたい一心だった。
だが腕は強く握られ、離れそうもない。
「その主が君を認め、気に入り、楽園の使徒に迎え入れようとしている。」
「だが、君は選ばれた者の癖にあまりに普通過ぎる。」
「ッ~~~~~~~!!」
さらに腕を強く握られ、あまりの激痛に声がでなくなる。
「この程度でこんなに痛みを感じるなんて・・・」
「何故こんな男に会長はご執心なさるのか・・・」
鎌田は非常に落胆してるようだった。それは自分が特別なことより、ただ会長とかいう奴が自分に興味を持ってることに落胆しているようだった。
「は・・・離せ!!」
強く言いながらその手を振りほどいた。
すると嬉しそうに鎌田がニヤリと笑う。
「ほう、こんな力も出せるのか・・・」
「だが会長が執心するほどのものではないな。」
「少し試してみるか。」
そう言うと鎌田はコートを脱いだ。
すると鎌田の体は変化を始め、人間とは思えない異形の生命体に変化した。
緑色の体に、両腕の巨大な鎌、見た目は正に巨大な人型蟷螂といったかんじだ
「う・・・うあ~~~~~~~!!」
誠一郎は驚愕し一目算に逃げようとする。が、そこであることに気付く。
「人が・・・いない・・・」
そう人が全くいないのだ。先程までコーヒースタンドにいたはずの人が消えている。
定員すらもいず、店内はがらりとしていた。
「な・・・なんで・・・」
「それはだね誠一郎君・・・」
鎌田いや今は異形の怪物が嬉しそうに語りだした。
「このコーヒースタンド、いやこのビル一帯が五道グループの物だからだよ。」
「何・・・」
ここが五道グループのビル?確かにそうだったような気はするがそれが目の前の怪物と何の関係が・・・
「まるで腑に落ちないような顔をしてるが・・・」
「君を求めてるのは五道会長なのだよ。」
五道グループ、地元出身ではない誠一郎にとってはよくわからないが、確かここあたりに本社を持つ日本有数の大企業だったはず。
だがその会長様が何故俺なんかを・・・
「納得いかないという顔だね。」
「まあ私も何故君のような凡人を会長が気になっているのか理解に苦しむがね。」
そういうと鎌田はスラっと伸びた鎌を構え誠一郎に近づいてきた。
「な・・・何をする気だ。」
「何てもちろん」
鎌田は構えた鎌を振り上げると、
「君を試す。」
それを勢いよく振り下ろした
ビュンという風が凪ぐ音と共に、鎌の衝撃波は誠一郎の頬をかすめた。
「アレ?やはり何も変化しないのか?」
鎌田はまた意外そうに声を上げる。切れた頬からはうっすらと血が流れていた。
「はは・・・はは・・・」
誠一郎は固まった笑いを浮かべる。もうこのどうしようもない状況は笑うしかなかった。
一方鎌田は溜め息をつきつつ、少し戸惑いながらこう聞いてきた。
「なあ君この状況で何も感じないのかい?」
「何もて・・・」
誠一郎は突然そう聞かれるも、とにかく早くここを抜けだたいということしか考えられなかった。
すると鎌田は呆れたようにこう言った。
「もういい。」
「君が普通ということはよくわかった。」
「だが会長は君を求める。」
そういうと鎌田は鎌の生えた腕を伸ばし、
「だから君を捕らえ、このくだらない任務を終わらせる。」
鎌田は腕を掴もうとする。だが誠一郎は既に走り出し、その場を逃げようとしていた。
「ハア」
鎌田は心底呆れたように声を出す。
エヴォルとしての姿を晒し、少し脅せばエヴォルに覚醒するかと思ったが、そんな兆しもなく、この後に及んで逃げるなんていう普通の反応をするんなんて・・・
「ありえないな」
本当に99%近い適合率を誇る異常個体なのだろうか?
会長はそう喜々として断言していたが、数日観察し、今日喋ったがとてもそうは見えない。
(何もかもが普通過ぎる。)
そうあまりにも普通だ。
エヴォルウィルスは適合者が求める物に合わせて進化する特殊なウィルスである。
普通に考えれば、生命の危機を感じ、何かしらの生存本能からウィルスが覚醒するだろうと考えたのだが、それもないとなると・・・
(やはり勘違いではないのだろうか?)
会長・・・鎌田から言わせれば神のような方が勘違いや思い違いをするはずがないと思うが、あの反応を見る限りはどう考えても凡人のソレだ。
(まあいい。)
鎌田は諦めを感じながら、誠一郎を追うことにした。奴が特殊かどうか判断するのは自分の仕事ではない。会長の仕事だ。
自分の仕事は奴を捕らえ、会長に差し出すことだ。
「とりあえず、まあ」
鎌田は腕を振り上げる。少しウォーミングアップするかのように腕を振るう。
すると、鎌から衝撃波が出て、コーヒースタンドの壁を粉々に打ち砕いた。
「くだらない鬼ごっこを始めるとするか。」
心底つまらなそうにそう言うと、逃げた誠一郎を追うために動き出した。


(最悪だな…)
今日あった出来事を思い出しながら、誠一郎はただただそう思うだけであった。
既に意識は朦朧とし始め、禄に考えることも出来なくなっていた。切られた右腕からは赤い血がドクドクと地面に流れ続けていた。
(もう死ぬのかな…)
切られた右腕はもう繋がりそうもない。それよりもまず、助かることを考えなければならないのだが…
(無理だろうな…)
まずこの化物から逃げることができそうにない。
ここですぐ止めを刺されるだろう。
(はあ…)
全くなんでこんなことになったのか…
ただ俺は平凡に生きて、平凡に死にたかった。
それだけなのに、何故こんな化物に襲われて死ななければならない。
(理不尽だ…)
あまりにも理不尽すぎる。
そりゃ生きてりゃ事故にあってあっさり死ぬこともあるかもしれない。
でもこれはないだろいくらなんでも…
さっきまで飛んでた、怪物…鎌田が地面に降りてきて近づいてきてる。
「どうだ?気分は?」
そう聞いてきたのだ。
(ハア?)
最初会った時からこいつの言動は気に食わなかったが、いよいよ堪忍袋の緒が切れそうだった。
最悪。それ以外何があるというのだ。
「何か感じないのか?」
何か感じるだと?こいつの言う楽園の使徒とかいうのに成りかけだとでも言うのか?
「その様子だと、何も無いようだね。」
鎌田がまたハアと溜め息を付く。ふざけるな。溜め息を付きたいのはこっちだ。
「会長。」
鎌田がそう言う。もちろん会長と通信してるのだが、誠一郎から見ればただ一人言を言ってるようにしか見えない。
「なんだい?」
会長が返す。かなり上機嫌のようだった。
「こいつここまでしても何も変化がありませんよ?」
「そうだね。」
会長はまた嬉しそうにそう言う。その様子に鎌田がまた少し苛つく。
「やはりあなたの勘違いだと思いますよ。」
「こいつはあなたの求める99%近い適合率を持つ個体ではない。」
「これではっきりしましたよね?」
鎌田は苛つきながらそう言う。鎌田からすればこんな価値もない凡百の人間に何日も振り回され続けたのだ。最早こいつに付き合うのも限界に近かった。
こいつが無価値と判断されれば、いい加減こんなくだらない茶番から開放される。ただそう思うだけだった。
「フフ」
会長はまた笑う。まるで子供のように無邪気に。
「じゃあ殺してみればいい。」
そう鎌田を挑発する。
「いいんですか?」
「本当にこいつ殺しますよ?」
鎌田はそう言うと鎌を振り上げる。
(こいつに恨みはない。だが、会長がこんな凡人に興味を抱き続けるのは、最早耐えることは出来ない!!)
(早く私の手で会長の目を覚まさせてあげよう。)
そう決意すると、振り上げた鎌をゆっくり構え…
「悪く思うなよ。」
そう一言言うと、ビュンと思いっ切り鎌を振る。
(終わったな…)
誠一郎はただ短い人生を振り返りながら、そう思うのだった。
(もう少し生きたかった…)
最後に強くそう願う誠一郎。
その時、
「な…何?」
鎌田の鎌がピタリと止まる。
「なんで…こんなことが…」
何故か鎌田の鎌が止まった。
(何で…)
誠一郎は驚きながら、周囲を確認する。その時、ある驚愕の事実に気が付く。
(う…腕が…)
腕が再生している。
まるで木の実から芽が生えるかのごとく、勢い良く腕が再生しているのだ。
「な…」
鎌田はあまりの光景に後退りを始める。
「まさか…ありえない!!」
「言っただろう?鎌田くん?」
会長は嬉しそうに声を上げる。顔には満面の笑みを浮かていた。正にこの状況を待っていたと言わんばかりに。
「これが彼の資質だよ。」
誠一郎の腕は一瞬で再生され、まるで何事も無かったかのように、誠一郎の腕にくっついていた。
彼の傍らに転がるもう一本の彼の腕だった物を除けば…
「は…早い!!」
あまりにも早過ぎる再生速度。
一般のエヴォルとは比べ物にもならないスピードだ。
「何で…」
鎌田にとってこれは衝撃以外の何者でもなかった。
「鎌田くん、」
会長がゆっくりと喋り始める。
「どうするんだい?これでも彼は凡人で価値がないというのかい?」
「いえ…」
鎌田は動揺しながらもそう返事をする。
「よろしい。」
「ならば、早く彼を私の元に連れてきてくれ。」
「もちろんです。我が主。」
鎌田は慇懃にそう答えると、誠一郎の元に近づいてくる。
「悪かったな君に価値がないと言って。」
鎌田は律儀に謝罪をするが、誠一郎にとってはそんなことはどうでもよかった。
「いえ…」
「そんなことより、家に帰してもらえませんかね?」
誠一郎は期待せずにそう聞くと…
「駄目だ。」
答えは予想通りNOだった。
(ハア…)
死という危機は回避出来たものの、この状況自体打開することは出来なかった。
(どうしようか…)
逃げたいという気持ちはあるが、さっき腕を切られたショックで足が禄に動かない。
そもそも後ろはビルの壁だし、こんな化物相手に逃げることなんてできそうにもなかった。
ジリジリと鎌田は近づいてくる。半笑いを浮かべながらやはり今日は人生最悪の日だと思っていた。

だが次の瞬間、状況は一変する。

ドンッという轟音と共に鎌田が吹っ飛んだのだ。
どうやら何かで撃たれたようだった。かなり威力のある物に。
そのままビルの壁にぶつかる鎌田。
壁はガラガラと激しい音を立てながら崩れ、煙を上げている。
誠一郎はこの状況に困惑しながら、鎌田を撃った人物を見る。
それは人では無かった。
少なくとも普通の人には見えなかった。何かスーツを着た戦士のようだった。
銀色の特殊なスーツで全身を包み、堂々とした態度でそこに立っていた。
右腕には鎌田を撃ったであろうバズーカ砲が携えてあり、腰には何か特殊なベルトが巻かれている。
顔は赤い巨大な目が格子状に複数並んでおり、口には装甲のような物が付いていた。
そして、スーツの全体には赤いラインが引かれており、それがスーツ全体のアクセントとなっていた。
まるで何かのマンガのヒーローのような姿をしている。
「死んだかな?」
銀色の戦士は突然喋りだした。
「ねえ、君どう思う?」
崩れた壁の方を指しながら銀色の戦士はそう聞いてきた。声は低いが、まだ若そうだ。少なくとも女ではないだろう。
「えっ?」
突然話を振られて困惑する誠一郎。今日はよく変な奴に会う日だ。
「まあ…」
ガラガラと崩れたビルの壁から鎌田がゆっくりと起き上がってくる。
「死んでないよね?当然。」
銀色の戦士は退屈そうにそう言うと右腕のバズーカ砲を放つ。
ドンッという轟音と共にまた勢い良くバズーカ砲の弾が飛ぶ。
だが、さっきのように弾丸は鎌田に当たりはしなかった。
「ふん!!」
そう叫ぶと鎌田は一瞬でその砲弾を切り裂いた。切られた砲弾は左右に別れ、そのまま壁にぶつかり、爆発する。
「貴様…」
鎌田は怒りからか、声が震えていた。最早我慢の限界といった感じである。
「後ろから不意打ちした程度で調子に乗るなよ!!」
激しく叫びながら、鎌田は地面を蹴り上げ、ジャンプをする。
「ハアッ!!」
空中から勢い良く振り上げた鎌を銀色の戦士に向かって振り下ろす。さっきまで誠一郎に向かって攻撃していた物ではなく、今度は全力で振り下ろす。
「はあ…」
銀色の戦士は退屈そうに溜め息を付くと、
「じゃあ、これでもどうぞ。」
そう言うと、左手で腰のベルトを操作した。
すると右腕のバズーカ砲が消え、新たに右腕の甲に巨大なガトリング砲が構築される。
「くらえっ!!」
「な…うあああああああああああああああああ!!!!!」
ガトリング砲は雨のように勢い良く銃弾を放ちながら鎌田に襲いかかる。
「あああああああああああああああああああ!!!!!!」
ガガガッと何千、何万発もの弾丸が鎌田の体に振り注いだ。
鎌田は絶叫しながら、そのまま先程ぶつかったビルの壁にまた逆戻りするハメになったのだった。
ドンッとまた壁が砕ける音がした。今度は先程よりも勢いがあったのか、再びドンッという轟音が聞こえ、そこで音は止んだ。
「は…ははっ…」
目の前で繰り広げられた光景を見ながら、ただただ驚く誠一郎であった。
「死んだかな?」
また呑気にそんなことを言う銀色の戦士。随分肝が座ってる奴だ。
まあこんな訳わからない怪物相手に装備があるからといって立ち向かってるだけで、十分度胸があると言えるが…
「まあしばらくは動かないでしょ。」
そう言うと、再びベルトを操作し、ガトリング砲を仕舞う。
「何してるの?」
また銀色の戦士に話かけられた誠一郎。
「何といわれましても…」
そんなこと自分でもよくわかっていない。
訳のわからない怪物に襲われて、それを訳のわからない銀色の戦士に助けられた。それだけだ。
自分は何もしてない。胸を張ってそう言える。
「俺は何もしてませんよ?」
「ハア?」
銀色の戦士はこいつは何をくだらないことを言ってるんだと言わんばかりにそういうと
「そんなこと聞いてないよ。」
「何で逃げないのさっきの状況で。」
「ああ…」
言われて納得した確かにその通りだ。
だが足は禄に動きやしないし、大体あの一瞬で逃げろと言うのが無理な話だ。
「まあいいや。」
銀色の戦士はそう言うと、彼が乗ってきたであろうバイクに跨ろうとしていた。
彼は格好だけではなく、バイクも特殊だった。
どのバイクは見たこともないような流線型の形をしており、かなり大きなバイクだった。
多分改造かなんかしてるバイクなのだろう。これで轢くだけで人が真っ二つに切れそうな尖ったデザインである。
すごいバイクだなぁ。なんて呑気に考えていると、
「乗りな。」
「えっ。」
突然そういわれると首根っこを捕まれ、
「えっ、えっ、」
「さあて保護完了っと。」
そのままシートの後ろにドスンと座らされる。
「え~~~~~~~~~!!!!!」
一難去ってまた一難とはこのことである。
やっぱり今日は人生最悪の日だ。
そうつくづく思い知らされながら、誠一郎はバイクのシートに為す術なく座らされるのであった。



























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