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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第十話 お願い、間に合って!
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/04 20:01

第十話 お願い、間に合って!

 学校を終えた後の放課後、カズキは喫茶翠屋にいた。
 テーブル席の対面に座るのはシグナムであるが、別にデートというわけではない。
 二人がそろった当初、桃子にうふふと微笑ましそうに笑われたが兎に角違う。
 なのはとユーノの加入、謎の少女と女性であるフェイトとアルフ、そして錬金術を操る創造主と化け物。
 カズキはこれまで気付きもしていなかったが、戦力図が大きく変わったのだ。
 別々に行動を行っていたカズキとシグナム、そしてなのはとユーノが手を組む事になった。
 未だその目的は不明ながら、創造主と錬金術の化け物とは敵対の意志を示した二人組み。
 四勢力が三つに減り、どちらからも敵視されている創造主と化け物。
 ジュエルシードを追う上でもどちらを先に叩くかは、分かりきった事であった。

「できる事ならば、最優先で創造主は叩きたいところだな」
「うん、ジュエルシードも危ないけど。錬金術の化け物の方が人的被害が発生するし」

 和気藹々と女学生やOLで賑わう店内で、なんとも物騒な話を行う。
 頼んだコーヒーに口をつけながら、二人は先週のデパートでの件を思い出していた。
 ジュエルシードがあそこまで暴走するのは稀と言って良い。
 普段は精々野良犬を初めとする小動物に憑依する事が多く、被害と言う被害はなかった。
 だとすれば、カズキが言ったように人を喰う化け物の方がよっぽど問題である。
 単純に襲って喰うのではなく、それが彼らの食事だからだ。
 それはつまり、日常的に誰かしらが被害にあっている可能性さえあった。

「だが現実的な話、私達は創造主の事を何も知らない」
「廃工場に行った時に、一度だけ姿を現したけど、それ以来さっぱり」
「全く、自らはできるだけ姿を見せず、監視だけは怠らない。不気味で嫌な相手だ」

 その一度も、学生服にパピヨンマスクとふざけた格好で特徴があるのかないのか。
 ただシグナムは間近で創造主を見たが、本当に不気味な相手である。
 ドブ川が腐ったような色の瞳。
 顔に被ったパピヨンマスク以上に、その瞳が印象的であった。
 この海鳴市でどのように育ったら、そんな瞳になってしまうのか信じられない。
 それと同時に、絶対にそんな相手を主であるはやてに近づけてはならないとも思う。

「って、お前は一体何をしているのだ?」

 気が付けば、目の前のカズキが鞄からスケッチブックを取り出していた。
 そのスケッチブックの上を、カズキの手が滑らかに踊っている。

「シグナムさんが創造主の特徴を呟いてたから、絵に書いてみようと思って」
「お前にそんな絵心があるとは初耳だが?」
「何を隠そう、俺は似顔絵の達人だ!」
「おい、武藤。店内で騒ぐな」

 シグナムより先に、ウェイターをしていた恭也がお盆でカズキを叩いた。
 桃子にからかわれた当初、何故知り合いの喫茶店でとも思ったが、逆にシグナムはありがたかったかもしれない。
 特に常連客でもない喫茶店で、このようなやり取りをされたら居た堪れなかった事だろう。

「全く、確か奴の特徴は……」

 お前は手の掛かる弟かとカズキを座らせ、覚えている限りの創造主の特徴を思い浮かべる。
 身長は百七十後半、痩せ型で色白というか蒼白、髪は黒髪のセンター分け。
 痩せているせいか顎は尖り気味で、鼻も高めに見えた。
 口は大きめで、目は釣り目、そして何よりもその奥にある瞳の色であった。
 性根が腐りきり、他者にまで危害が及ぶ事になんら感じ入る事の無い非常さ。
 例えマスクをしていても、一度素顔で会えば見分けられると思う程だ。

「だいたい、こんなところか」
「うーん、もうちょい」

 唸るカズキが待ったをかけて、やれやれと思いながらコーヒーに口をつける。
 なんというべきか、そろそろカズキという人間が分かってきたからだ。
 基本的には真面目なのだが、本人も気付かないボケをかます事が多かった。
 しかも達人だと言う事は多いが、勢いで言っているだけなので期待はできない。 
 おおよそ、今回も時間をかけた割には普通か、並み以下。
 突っ込み待ちだろうという結果しか待っていないだろうとシグナムは予想していた。

「よし、でき上がり!」
「はいはい。そうか、良かったな。見せてみろ」

 適当にお茶を濁して、今日はさっさと帰るかと思いながらスケッチブックを受け取る。
 だがそこに描かれたものを見て、そう来るかと戦慄が走った。

(上手い!)

 シグナムがうろ覚えに呟いた特徴をつぶさに拾い上げ、顔のパーツを作り上げている。
 それだけでなく、そのパーツ同士が人の顔として馴染むように上手く馴染ませてあった。
 受けた衝撃をそのまま心で口走った上手いという言葉通り、シグナムでは描けない領域の絵だ。

(だが、似てない!)

 絵として上手い領域にありながら、決定的に似顔絵としては失格であった。
 カズキが似顔絵描きであったならば、金を返せと言われかねない程に。
 劇画調で描かれた顔は、特徴を拾い上げながらも別人として仕上げられていた。
 そもそも病弱そうな色白要素は何処へ行ったのだろうか。
 完全に迷子に陥り、ラガーマンと言われても信じてしまいそうな精悍な顔つきである。
 さらに何故それを書いたと突っ込むべき最大の特徴、パピヨンマスク。
 スケッチブックの上には明らかに変態が描かれていた。

「恭也先輩、美由希ちゃん。こんな人をこの辺で見たことない?」

 そして言葉が出ないシグナムの様子から、カズキは別の意味で言葉もないと受け取ったようだ。
 シグナムからスケッチブックを受け取りなおし、見せに行ってしまう。

「武藤……お前、頭大丈夫か?」
「うわ、なにこれ変態? こんな人がいたら通報確実じゃない。いたら、絶対噂になってるって」
「そう? マスクだけなら結構お洒落だと思うけど」
「カズキ君、君のお洒落は間違ってる。恭ちゃん以上に!」

 返って来た反応は辛辣なものが含まれていても、カズキはめげてなどいなかった。 

「おい、流石に武藤と一緒にするな」
「ジーパンにティーシャツ、あとジャージ。今着てるウェイター服が恭ちゃんのお洒落の限界値だって気付いてる?」
「そんな事はない。恭也先輩、今度その上にこのマスクを付ければ限界なんて超えられる!」
「よし、分かった。お前らが俺をどう思っているのか」

 顔に影を浮かべ、恭也が拳をバキバキと鳴らしながら凄む。

「あはは、冗談冗談。いよ、恭ちゃんの男前。お洒落なんていらないぐらい」
「こら、美由希。恭也も、フロアでの私語は厳禁よ。カズキ君も、この子達がバイト中の時はあまり話しかけないでね」
「はい、すみません」

 和気藹々と話す中で、桃子に注意されてしまいカズキが謝ってから戻ってくる。

「シグナムさんも、カズキ君の手綱。しっかり握ってあげてね。お姉さんなんだから」

 そこで私に振るかと、シグナムは声も出せないような状態であった。
 どうしてもそこに話を持って生きたいか、落としたいのかと。
 だがカズキがバイト中の恭也達に話しかけたのは事実で、はいと答える以外にない。
 また一つ、何やら外堀を埋められたような気がした。

「分かりました。とりあえず」

 戻ってきたカズキの首根っこを掴んで座らせ、ゴツンと頭に拳を落としておいた。
 あらあら仲良しさんと呟いた桃子の楽しそうな言葉はスルーしながら。

「痛って……」 
「お前が騒ぎを起こしてどうする。話を戻すが、創造主は別途人を使って探させてみる。あまり期待はできないが」
「了解、犠牲者はもう出さない。それだけは、守らないと」

 馬鹿をやっていた時とは一転、大いに真面目にカズキがそう呟いた。
 まるで別人の様子に、何時もこれならとは思わずにはいられない。
 だがそれは誰かに危機が迫る時であり、本末転倒かとシグナムは心の中だけで呟いていた。









 まだ陽も沈む前だと言うのに、殆ど光の入らない屋内。
 土と埃の匂いが蔓延するその狭い部屋の中には、様々なものが置かれていた。
 今は使われなくなったであろうゴミに近い古い箪笥や梯子、御座。
 それらを見る限り、所有者が破棄を考えるどころか忘れたままの道具達である。
 長時間そこに留まる事も辛いその空間には、幾つかの人の気配があった。

「ゲホ、ゲホッ」
「創造主、大丈夫ですか?」

 辛うじて使用に耐えうる錆びたパイプベッドの上に敷かれた布団の上。
 厳密に人ではない者もいる中で、まだ人間であるその男が激しく咳き込んでいた。
 一度や二度では治まらず、やがて呼吸すら困難になっていく。
 駆け寄った男の言葉通り、それは錬金術の化け物、ホムンクルス達の創造主であった。
 鷲の様に鋭い瞳を持つ男は、瓶から薬を取り出して創造主に飲ませる。

「最近は蛙井の子ガエルに任せ、外出は控えていたからな。やはりここは少し、体に障るらしい。だが今の俺はここを離れる事はできない」

 創造主が視線を向けたのは、地面に積もる埃にある真四角の切れ目。
 この場所に閉じ込められ、発狂寸前になって見つけた人生を逆転させる好機。
 まだ痛む胸を耐え、創造主はそばに控えていた別の男へと視線を向けた。

「蛙井、奴らの様子は?」
「あい、白い魔導師の方は友達と下校を始めました。女と高校生は喫茶店で創造主の似顔絵描いてます。どうやら、ジュエルシードよりも創造主を優先させたいみたいです」
「お前の子ガエルの監視を見破った方は?」
「そっちはさっぱり、それより主。そろそろ喰べさせてくださいよ。子ガエルもただじゃないんですから。お腹が空いて力が出ませんよ」
「我慢しろ。廃工場の一件が表ざたになり、警察も過敏になっている。お前達も、出歩くときは注意しろ。その姿は行方不明者のものだからな」

 創造主のばっさりと切り捨てた言葉に、蛙井と呼ばれた男はどこか不満気であった。
 細めのにやついた表情の中に、隠しきれないそれが見えている。

「今しばらくの間は沈黙を保つ。こちらが動かなくても、ジュエルシードを発動させてくれる奴がいるんだ。まだ、焦る必要はない」
「分かりました、創造主。蛙井、創造主の期待を裏切るな」
「はいはい、監視を続けますよ」

 もはや隠す様子もなく、不貞腐れた声で蛙井は跳んだ。
 この締め切った部屋にある唯一の窓、頭上数メートルにある小さな窓から外へと出ていく。

「創造主、念の為に花房にも監視の命を」
「ああ、お前に任せる」

 蛙井の能力は便利だが、創造主に対する忠誠心が低いのが難点だ。
 ホムンクルスになる前、生前の蛙井を思い出し、それも無理ない事かとも思う。
 だが蛙井のせいで全てを瓦解させるわけにもいかなかった。

(データはそろいつつある。だがもう一度か二度、ジュエルシードが人間に憑依したデータが欲しいな。アレの完成が先か、こちらの身元が割れるのが先か)

 念には念をと、創造主は弱りきった体に鞭を打ってベッドから起き上がった。









 なのは達は朝の登校には必ず市バスを使うが、下校の時はその限りではない。
 気が向けば仲良し四人組で寄り道をしたり、散歩がてら帰宅する事もある。
 今日はすずかもアリサも習い事がない為、後者の散歩がてらであった。
 バスであれば瞬く間に過ぎ去る通学路を、お喋りをしながらゆっくりと歩いていく。
 そんな中ですずかがある事を思い出し、提案するように皆に尋ねた。

「あのね、今度の日曜日に皆でお茶会しない? はやてちゃんとメールしてた時に、うちの猫を見たいって言ってたの」
「む、はやては犬派だと思ったのに裏切りね。これは犬の良さをみっちり語ってあげようじゃない。私は良いわよ」

 真っ先に返答の声を上げたアリサは、反対意見かと思いきや、良い顔で了承であった。
 本心なのか、単に素直じゃないのか、くすくすとすずかが笑う。

「まひろちゃんとなのはちゃんは?」
「まひろは大丈夫、お姉ちゃんも呼んじゃ駄目かな?」
「私もたぶん、大丈夫。だけどまひろちゃん、あんまりあの二人の邪魔しちゃ駄目だよ」
「最近ブラコンが直ってきたと思ったら、シスコンに傾き出してるわね」

 なのはの言葉は聞いての通りではないが、アリサの言う通り間違ってはいない。
 最近扱いが軽いぞとばかりに、後ろから抱きついたアリサがまひろの髪をくしゃくしゃと撫でる。
 きゃあっと悲鳴を上げたまひろが、今度はすずかの後ろに。
 最後はすずかがなのはにと、紐がない電車ごっこで転びそうになりながら歩く。
 最後尾のアリサとまひろが特にはしゃいだ為、前のすずかとなのははふらふらと。
 誰かに見られていたら、道で遊んではいけませんと怒られそうなぐらいだ。

「アリサちゃん、それにまひろちゃんも、危ないよ」

 ぐらぐらと揺れる視界の中で、ほら誰か来たとなのはは前を向いた。
 足元はサンダルに、最初はジーパンかと思ったが実はオーバーオール。
 若そうな男の人と、順に視線を上へ上げていく中でなのはの背中に怖気が走った。
 前から歩いてくる若い男に見覚えはない。
 頭はおかっぱで、にやついたような瞳、曲がりあがった口を長い舌が舐め上げていた。
 それを見てますます怖気が走り、胸元にあったレイジングハートを握り締めて立ち止まった。

「きゃっ、どうしたのなのはちゃん?」
「うぷ、うぅ……鼻打った」
「ちょっと、まひろ大丈夫? なのは何よ、どうしたの?」

 先頭のなのはが急に立ち止まれば、瞬く間に渋滞事故であった。
 心配し伺ってくるすずか達に応える余裕もなく、なのはは黙ってその男を見つめていた。
 どうかこのまま通り過ぎてくれますように、勘違いであって欲しいと願いながら。

「君達、道路で遊んでると車に引かれちゃうぞ」

 だがなのはの思いも虚しく、男に注意されてしまう。
 思い切って顔を上げたなのはが見たのは、自分の頭に置かれそうな手の平であった。
 必死にその手を避けようと下がろうとして、再び渋滞を起こしてしまう。
 なのはに押されすずかも下がり、まひろはつぶれ、三人分の体重をアリサが受けていた。

「重、倒れる。なのは!」

 少し無理な体勢になったアリサが叫び、すずかとまひろが振り返った隙に男の手を払う。
 そして、やれやれと息をついていたアリサ達にいっきにまくし立てた。

「学校に教科書忘れてきちゃった。取って来るから、アリサちゃん達先に行ってて欲しいな」
「忘れ物? 仕方ないわね、一度皆で」
「なのは一人で大丈夫だよ。ほら、皆は翠屋でお茶会の企画してて。直ぐに行くから」

 まさに有無を言わさずといった感じで、アリサ達の背を押して先を急がせる。
 もちろん、その間にも払われた手を軽く振っていた男から視線を外さない。

「お兄さん、ごめんなさい。もう、道路でふざけませんから。なのはちゃん、慌てなくて良いからね?」
「なのは、それじゃあ先行ってるから、急いだりして道路飛び出したりするんじゃないわよ」
「なのはちゃんが来るまで、ケーキ食べないで待ってるよ」

 そしていぶかしみながらも、翠屋へと足を向けたアリサ達を見送った。
 ほっと息をつく間もなく聞こえたのは、耳障りな男の笑い声である。
 楽しそうと言えば聞こえは良いが、何処か人を小馬鹿にしたようなものが含まれていた。
 初対面でこれほど自分が、誰かを嫌えるとは思ってもみなかった。

「必死に友達を逃がして、可愛いね。なのはちゃん?」

 アリサ達を見送ったではなく、逃がしたと男は表現していた。
 なのはが男の正体に気付いている事に、気付いているのだろう。
 という事は、やはりなのはが感じた怖気の正体は、人喰いに対する恐怖そのもの。
 ついに動き出したんだと、萎縮しそうになる体に脅えるなと命令を送る。
 そして早くカズキ達に知らせねばと、体よりは動く頭で念話を送ろうと試みた。

「そうそう、念話はなしね。さすがに大人数でこられると面倒なんだよね」

 錬金術の化け物は、魔力がない。
 魔力がなければ念話が送られたかどうかも分からないはずだ。
 シグナムから、そう聞いている。
 目の前の男、蛙井の言葉を無視してなのはは、念話を送ろうとしていた。

「まあ、別に送っても良いけどね。そうしたら、順番が変わるだけだし」

 今度は一転、念話を送ってもといった蛙井の言葉に、なのはは戸惑いを露にした。
 何故助けを呼んでも良いのか、順番とはなんの事なのか。
 そもそも、何故目の前のなのはではなく、蛙井はもはや見えなくなったアリサ達の方を見ているのか。

「あの子達も可愛いよね。創造主も酷いよ。あんな美味しそうな子達を、監視で見せられてるんだ。お腹空いてる分、なおさら」

 監視という言葉で脳裏を過ぎったのは、先週に同じ魔導師の少女が殺したカエルであった。

「やっぱり、どんな食べ物でも若い方が美味しいって言うし。興味あるなあ」

 ここまで来れば、男が何を言いたかったのか分かってしまった。
 あのカエルでアリサ達を襲うと言っているのだ。
 魔導師を初めてまだ一ヶ月も経たないなのはだが、人を見て魔力のありなしぐらいは分かる。
 明らかに魔力を持っていない蛙井に、念話の有無は確かめられない。
 だから念話でカズキ達に、なのはではなくアリサ達を助けてと送れば良い。
 だがもしも、魔力を隠しているだけならどうだろうか。
 今までシグナムが出会った錬金術の化け物が、たまたま魔力のないタイプだったら。
 確信はある、蛙井に魔力がないという確信に近い思いはなのはにあった。
 それでも大好きな友達との命を天秤に賭けた時、念話の送信を選ぶ事は出来ないでいた。

「やっと分かってくれた? 駄目だなあ、コレぐらい直ぐに理解してくれないと」
「どうすれば、どうすれば良いんですか?」

 蛙井の挑発的な言葉に、なのはは震える声で尋ね返していた。
 アリサ達を失うのが怖い、また何もできず言いなりになるしかない自分が悔しい。
 歯を食い縛らなければ、今にも涙が零れ落ちてきそうであった。
 そしてそんな泣きそうな自分を蛙井に見せなければならない、その事がいっそう惨めに感じられた。

「おいおい、これぐらいで泣くなよ。泣き叫ばないだけましだけど、これだから子供は。考えれば直ぐに分かるだろ? ジュエルシードだよ。先週、一個手に入れたろ?」

 一個と言われ、危うくなのははえっと声を上げそうになっていた。
 何しろなのはが持っているジュエルシードは全部で四つだったからだ。
 確かに先週、山間部の温泉宿での一件でなのはが封印したまま任されていた。
 だがそれより先にユーノが集めた二つと、なのはが最初に封印した一つがあった。
 自分がこの場を全て支配したように見せかけている蛙井にも、知らない事はある。
 ある意味で当たり前の事実が、ほんの少しだけなのはに冷静さを取り戻させていた。

「レイジングハート」
「Put Out」

 言われた通り、一つだけジュエルシードをレイジングハートから取り出した。
 それを手に取り、蛙井に渡すまでの数秒で必死に考える。
 念話を使わず、なのはが蛙井に逆らったようにも見えず、皆に連絡する方法を。
 たった数秒、蛙井の手がジュエルシードに触れたぎりぎりで、それに思い至った。
 その一瞬で、思いついた行動を実行した。

「ぐずぐずするなよ。ほら、こんな簡単に手に入った。全く創造主も捨てられた事だけはある。少し頭を使えば良いだけなのに」

 そう言った蛙井の手の中で、ジュエルシードは青く輝いていた。
 まるで心臓のように脈動を繰り返し、魔力を周囲に飛散させながら。
 そしてその事に蛙井は、気付く様子すらなかった。
 なのはの手によりわざと封印の解かれたジュエルシードを手に、蛙井は笑う。

「やっぱり、創造主の言いなりになるなんて止めた。口ばっかりで、一人じゃなんにもできない。これからは、好きなだけ腹一杯になるまで人間を喰ってやる!」

 蛙井の欲望を切欠に、その手の中のジュエルシードがついに発動した。
 淡く青い光が閃光へと昇華し、周囲一体を照らし出す。

「な、なんだ。まさか、お前これはなんだ。どういう事だ!? 手から離れない!」

 突然の事に困惑し、勝ち誇った余裕を失くした蛙井が慌てふためいている。
 なのはから取り上げたジュエルシードを手放そうと手を振るも、くっついて離れない。
 それもそのはずで、ジュエルシードは種という名の通りに、蛙井の手に根を張っていた。
 ジュエルシードが手の平に食い込み、血管のような瘤を浮きあがらせている。
 次第に痛みさえ伴なったのか、苦悶の表情で蛙井が腕を押さえた。
 その腕は肥大化し、金属光沢を持つ水かきを持った腕へと変貌を始めている。

「ちくしょう、騙したな。体が維持、でき……」
「レイジングハート、セットアップ」
「Stand by ready」

 蛙井の文句など、最初からなのはは聞こうとすらしていなかった。
 想定外の事態に慌てふためく蛙井を滑稽だとは思っても、罵倒する時間すら惜しい。
 先に行かせたアリサ達のそばには、卑怯にも蛙井の手先がいるのだ。
 急いでアリサ達に追いつき、この力で守らなければならない。
 いっそ魔法がばれたって構わないとさえ思えた。
 この力はその為にあるのだと、今ほど感じられた事はなかった。

「お願い、間に合って!」
「Flyer Fin」

 自分の魔力光である桃色の光に包まれ、バリアジャケットを纏う時間さえ惜しい。
 即座にブーツから羽を生やし、振り返り様に飛び出そうとする。
 だがその一歩を踏み出す必要はなかったようだ。
 蛙井の存在を隠すように、周囲一帯に広がっていくのは結界魔法であった。
 現実空間より周囲を隔離し、擬似的に別空間を生み出す魔法である。

「なのは!」
「ユーノ君!」

 それはジュエルシードの反応を感知して、駆けつけてくれたユーノであり。

「なのはちゃん、ごめん。こいつら倒してて遅れた、お待たせ!」
「カズキさん、シグナムさん!」
「ジュエルシードの反応とお前の魔力が同位置、しかも翠屋の道中にいたまひろ達が妙な事を言っていたので周囲を探した結果だ」

 続いて現れたカズキとシグナムが、何かの残骸を放り投げた。
 原型が殆ど残ってはいなかったが、あの時の夜に見たカエルの残骸である。
 それを見た途端に、なのはは全身から力が抜けて座り込みそうになってしまった。
 シグナムは言った、まひろ達に会って話をして周囲を探索して見つけたと。
 人質であったなのはの大切な友達達は、無事にその身柄を確保されたのだ。

「くそぉ、騙したな。騙したな、騙したな。しかも子ガエルまで。もう許さない、絶対思い知らせてやる!」

 まさかの逆転劇を前に、憤怒の表情に陥りながら蛙井はなおも変わり果てていく。
 ジュエルシードに憑依された腕は既に、人間の面影は消え去っていた。
 太く短い金属質なカエルの腕となり、さらに胴体はでっぷりと肥えたように膨らんだ。

「おかしい……」

 ジュエルシードに憑依され変わっていく蛙井を見て、シグナムがそう呟いた。
 確かに蛙井はその姿を変えているが、何処か見覚えがあるような姿なのだ。
 金属質な体を持つ、カエル。
 監視の為に方々に散っていたカエルがそのまま巨大化したような姿なのである。
 しかも太ったような腹には、蛙井の人としての顔が鎮座していた。
 シグナムが見た事のあるホムンクルスは二体。
 そのいずれも体の何処かに人としての名残ともいうべき、顔があった。

「そうか、憑依されたはずなのに錬金術の化け物の時と変わってない」
「皆、あれを見て!」

 シグナムが感じた違和感を皆も悟り、ユーノが小さな手である部分を指差した。
 蛙井の額にあるホムンクルスの弱点である章印。
 そこに重なるように、ジュエルシードのナンバリングが融けるように刻まれている。

「ふぅ……」

 やがてジュエルシードが安定し、苦しみ悶えていた蛙井が深い溜息をついた。
 まるで脱皮を果たし、新たなる体に生まれ変わったように。

「ああ、そういう事。だから創造主はジュエルシードを求めていたんだ」
「得体が知れん。高町、カズキ。一斉に攻撃しろ!」

 今までのホムンクルスとは、根本的に何かが違う。
 そう感じてのシグナムの声に従い、カズキ達は一斉に動き出した。

「チェーンバインド!」

 結界を維持しながら、ユーノがまず蛙井を魔力の鎖で戒め、動きを止めた。

「レイジングハート、お願い!」
「Divine Shooter」
「レヴァンティン、陣風」
「Sturmwinde」

 なのはが計四個もの魔力球を生成して撃ち放った。
 ほぼ同時にシグナムもまた、レヴァンティンの刀身を薙いで衝撃波を放つ。
 身動きの取れない蛙井にそれは直撃し、大きく爆煙を上げながら包み込んだ。

「サンライトハート、エネルギー全開!」
「Explosion」

 そして駄目押しとなる一撃。
 カズキがカートリッジをロードし、柄の先端から薬莢を排出させた。
 弾丸から新たに供給された魔力を受け、バチバチとサンライトハートの飾り尾が弾ける。

「Sonnenlicht slasher」

 サンライトハートの呟きを受け、カズキの体が加速していった。
 飾り尾が生み出す爆光の衝撃を背に受け、カズキは加速しながら突撃槍を爆煙の中へと向けた。
 一度は大蛇のホムンクルスを内部から打ち破ったカズキ得意の魔法である。
 それ以外に、ジュエルシードの憑依体を何体も斬り裂いてきた実績があった。
 シグナムでさえ、これで終わりだと確信に近い思いを抱いてはいた。
 だが心の何処かで小さく抱いたのは、一抹の不安。

「うおおおおおッ!」

 気合一閃とばかりにカズキが吠え、爆煙の中へと飛び込んだ。
 その刹那、サンライトハートの切っ先が何かに受け止められた。
 必殺の突撃を受け止められた衝撃に、カズキの腕が尋常ではない痺れを覚える。
 痛みにしかめた逆側の目で、カズキは晴れて行く爆煙の中の正体を見る事になった。

「やはりか、どうやら私の勘違いではなかったらしい」

 爆煙が晴れた先から零れ落ちるのは、魔力により生み出される光であった。
 太陽に似た色のカズキの魔力光ではない。
 ユーノの若草色の魔力光よりも、暗い暗緑色。
 歪な方円を描いた魔法陣の盾により、カズキの一撃は防がれてしまっていた。

「ホムンクルス化する事で、人間は魔力を失う。だけど、だけどね。ジュエルシードが失われた魔力を取り戻すみたいだ。今僕は、ホムンクルスさえ超えた第三の存在だ!」

 カズキの魔法を正面から障壁で受け止め、蛙井は勝ち誇ったように高らかに叫んだ。









-後書き-
ども、えなりんです。

口は達者だけど、小さいなのはから狙う蛙井の小物っぷりが大好きです。
そんな蛙井がパワーアップ。
ホムンクルスは魔力がないってのは、何気に伏線でした。
何故、パワーアップするかはそのうち説明がちょろっとあります。

そして何気にまひろ達は命の危機でした。
弱肉強食的な武装錬金の世界観はリリカルと微妙にミスマッチです。
STSだとそうでもなさそうですが。

それでは次回は水曜です。


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