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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第七話 何故ここにいる
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/25 20:18

第七話 何故ここにいる

 海鳴市内のとある学校施設。
 深夜の屋上、給水塔のタンクに背中を預けながらシグナムは空を見上げていた。
 月や星、穏やかな明かりごと夜の闇を払う閃光が瞬いている。
 カズキの生み出す魔力がエネルギーへと変換されたものであった。
 それに加え、カズキ自身の魔力光である太陽のような光の魔法陣も色を添えている。
 何故カズキが空の人となっているのか。
 カズキが現在相手にしているのは、ジュエルシードに憑依されたインコであった。
 艶やかな羽毛の体を肥大化させ、自由を得ようと鳥篭から飛び出したのだ。
 自由こそがインコの願いであったかのように、縦横無尽に夜空を飛び回る。
 一方のカズキと言えば、自称夜空と青汁の似合う人だが、未だ飛行の魔法には成功していない。
 サンライトハートの飾り尾を爆発させ、その突進力でもって何とか空で立ち回っているのが現状だ。
 攻めあぐねているとも言ってもよく、やがて重力に引かれ落ちてくる。

「くそ、また失敗」

 悔しげに呟きながら、屋上と空を隔てるフェンスの上に足をつく。
 見上げたインコ、もはや狂鳥と言って良いそれは既にカズキを敵と見なしている。
 手に入れた自由を妨げる敵として、逃亡ではなく抵抗を選んだらしい。
 空の上からカズキを見下ろし、滞空していたかと思うと、そのまま目掛けて滑空してきた。

「手助けはいるか?」
「大丈夫、次で決める」

 念の為、シグナムが尋ねておくが返答はそれであった。
 シグナム自身ここでカズキが助けてくれと言って来るとは思っていない。
 ただ黙って、カズキの戦いぶりを見守り続ける。

「そうだ、来い。もっと……」

 鍵爪を繰り出しながら、強襲してくる狂鳥を前にカズキがそっと呟いた。
 身構え、サンライトハートの切っ先を上に向けながら動かない。
 刻一刻と迫り来る狂鳥を前にして、脅えも恐怖も抱かずただ時を待つ。
 そしてある程度狂鳥がカズキに近付いたのを期に、声を張り上げ叫んだ。

「今だ、サンライトハート。エネルギー全開!」
「Explosion」

 カズキの足元に三角形を基調とした魔法陣が浮かび、柄の根元から薬莢が吐き出された。
 シグナムから補充されたばかりのカートリッジである。
 そこに込められた魔力をデバイス越しに受け取り、さらに魔法陣を輝かせていった。
 そのまま強襲を受けて立つとばかりに魔力を膨れ上がらせ、高めていく。

「Sonnenlicht Slasher」

 そしてフェンスを蹴りつけ、飾り尾からの爆光に押され飛び出した。
 地上から空へと逆行する流れ星のように、一直線に狂鳥へと向かう。
 上空より繰り出される鍵爪と、地上より繰り出される突撃槍。
 相手を粉砕したのはカズキのサンライトハートであった。
 自由を得たまま飛び去れば良かったものを、狂鳥と化したインコは選択を間違えた。
 あるいは自由を求めて鳥篭を飛び出したのが、そもそもの間違いか。
 外敵という言葉を知らなかった狂鳥は、その体を切り裂かれていく。

「おおおおおおッ!」

 カズキもその魔力で肥大した体を裂きながら瞳をこらし、見つける。
 狂鳥の体の中に潜み、願いを叶える代わりに狂わせる元を。
 ジュエルシードを睨みつけ、サンライトハートの切っ先をそちらへと向けた。
 竜の口のようにして刃が上下に開き、くちばしのように掴み、飲み込んでいく。

「Eine Versiegelung」

 封印という言葉と共にジュエルシードの輝きは、サンライトハートの中に消える。
 そして狂わされたインコも光の中で元の姿に戻っていく。
 完全に元に小さな体に戻ると、カズキの手の中に優しく抱きとめられた。

「これでよし。外が羨ましいのは分かるけど、それだけ危険もあるんだ。それを知った上で、今度は自分でちゃんと決めろよ」

 気絶したインコにそう囁き、カズキは推進力を失って落ちていく。
 暗闇の中では自分がどれ程までに高い位置にいるかは、とっさには分からない。
 高所恐怖症の人であれば、間違いなく足が竦むには違いない事だろう。
 そのような場所でもカズキは動じず、下を見下ろしてタイミングを計っていた。

「サンライトハート、頼んだ」
「Ja」

 そして屋上間近になると、サンライトハートに一言呟いた。
 足を着く寸前で、今再び爆光となった飾り布がエネルギーを放出。
 重力による加速を打ち消し、主であるカズキをそっと屋上の上に降ろしてみせた。
 余波で屋上のコンクリートに多少のひびが入ったが、気にする程でもない。

「シグナムさん、やったよ。今から鳥篭に返してくる。ちょっと待ってて」
「ああ、玄関のところで落ち合おう」

 そう言って笑ったカズキに怪我はなく、苦戦したと言っても結果は無傷での勝利。
 魔法を知って一週間と少し、目を見張る成長にシグナムも笑みを浮かべていた。
 ジュエルシードが見つからない時も、シグナムが直々に手解きする事はあった。
 だがそれだけでは説明しきれない成長率をカズキは誇っている。
 シグナムの見ていないところで、どれだけの鍛錬を行っているのか。
 ヴィータには注意されたが、カズキの成長を楽しみにしている自分がいる事をシグナムは感じていた。

「主を守るだけでなく、師として誰かを導くというのも楽しいものなのだな。それにしても、また見られている。一体何が目的だ?」

 笑みを封じ込め見上げた夜空の上では、星明りに混じり金色の光が見えた。
 カズキは気付いていないが、少女が一人闇夜にまぎれている。
 そして封印を見届けると直ぐに飛び去っていく。
 その目的が見えず、いぶかしみながら屋上のフェンスを飛び越え、落下。
 危なげなく玄関近くに飛び降りた。

「シグナムさん、お待たせ。今日も、創造主も錬金術の化け物も現れなかったね」
「ああ、もしかすると廃工場で大勢失ったのは意外と痛手だったのかもしれん。今のうちに、出来るだけ回収しておきたいところだが」
「ジュエルシードは発動するまで殆どわからないし痛ッ」

 温まっているはずの体で伸びをしたカズキが、痛みを訴え体を痙攣させた。
 今日は怪我も負ってないはずなのに、不自然すぎる。

「ん、ああ大丈夫、平気。ちょっと筋肉痛なだけだから」

 そうシグナムに笑って力瘤を作ったカズキは、乾いた笑いを見せていた。
 なのはのお見舞いから時々、恭也には手合わせを願い、朝のランニングも付き合っているのだ。
 何か秘密の剣術らしく鍛錬は見せて貰えないが、驚くべき運動量にいつも心臓が破れそうであった。
 まあ実際の所、カズキの心臓は失われ、ジュエルシードが肩代わりをしているのだが。

「いや、筋肉痛だけではあるまい」

 大丈夫というカズキの言葉とは裏腹に、シグナムは気楽に受け取らなかったようだ。

「お前がこちらに関わるようになってから、幾度も怪我を負い、慣れない戦闘続きだ。自分では気付かない疲労が溜まっているのだろう。明日の土日はゆっくり休め」
「でも、何時また錬金術の化け物が現れるかわからない。ジュエルシードも。何時誰の身に危険が迫るか分からないからこそ、今できることを。訓練だって良い!」

 そう叫んだは良いが力み過ぎたのだろう、膝がカズキの意思に反して折れた。
 体が元気であれば一歩逆の足で踏み出して、体を支えればそれで終わる。
 だがカズキはそのまま顔から地面につっぷし、お尻を突き出した格好となってしまう。
 地面からのキスを伴なう熱烈歓迎に、嬉しくはない悲鳴が上がった。

「へぶぅ」
「そらみろ。これが戦闘中なら、お前は死んでいる。休むのも騎士の仕事だ。心配しなくても、休んだ後は事件がなくとも私が揉んでやる」
「うぃっす」
「何時までも寝転がっているなみっともない。ほら、立て」

 シグナムの手を借り立ち上がったカズキは、いきなり空いた土日をどうするか考えていた。
 まひろは明日、なのは達と翠屋KFCの練習試合を見に行くらしい。
 なら俺も岡倉達と遊びにいくかと考え、とある疑問が浮かび上がった。
 自分も暇なら、その空いた時間でシグナムは何をするのだろうかと。

(そういや俺まだ、シグナムさんの事、名前ぐらいしか知らないや)

 その二人が去ってから数分後、一匹のフェレットがその学校に現れる。
 そして不可解な表情を浮かべていた事を知る者は誰もいなかった。









 翌日の土曜日、カズキはデパートの料理用品売り場にて腕を組んで悩んでいた。
 その目線の先にあるのは、電子レンジでパスタが簡単に茹で上がるタッパーであった。
 買うべきか、買わざるべきか。
 普段は専用鍋で茹でているのでいらないといえばいらない。
 まひろは明太パスタの時は非常に良く食べるので、いつも量が馬鹿にならなかった。
 兄としてまひろより少量というわけにもいかないとカズキが対抗する事もあるが。
 時間短縮できるかつ、追加分だけと茹でる事ができれば色々と節約にもなるはず。
 なにより作り過ぎて、三日間ぐらい明太パスタという最悪の事態が避けられる。
 さすがのまひろも、好物とはいえそれだけ続けば最後には嫌な顔ぐらいするのだ。
 料理が趣味でも得意でもないが、まひろに関する事についてはいつも真剣であった。

「それ、さっき百円ショップにも似たようなのがなかったか?」

 悩むカズキに教えたのは、何故か包丁コーナーで品定めをしていた六桝だ。
 ちなみに喫茶店で昼食を取ったあと、岡倉と大浜とは少々別行動中である。

「口に入れたり、触れたりする物だけは百円ショップでは買いたくないんだ。俺はまだしも、まひろも食べるんだし」
「なるほどな。ところでそれ、家にあるから。試してみたいなら貸そうか?」
「それを先に言ってくれ。そうだったら十五分も悩まずに済んだのに!」
「真剣に悩んでたからな。それに、最近のお前はそう言う時間が必要そうだ」

 知っていて言っているのか、ギクリとしたカズキを見透かすように六桝が見つめる。
 と思いきや、本当にカズキの後方を見ていた。
 岡倉達が戻ってきたのかと思ったが違った。
 六桝の視線を追って振り返ったカズキは見たのは、知らない女の子達と歩くシグナムだ。
 まだこちらに気付いていないようで、カズキは何時も通りの声で呼びかけた。

「シグナムさん!」
「なっ、カ……カズキ!?」

 こんな所で奇遇だと喜び手を振るカズキとは違い、シグナムはかなり挙動不審であった。
 カズキの声に振り返り顔色を変えると、ギギギと音が鳴りそうな程にぎこちなく後ろへ振り返る。
 そして向けられた三対のニヤニヤに対し、肩を落としてげんなりとした。
 ようやく下火になり始めた八神家の初スキャンダルが、今まさに再燃しようとしていたのだ。

「おい、呼んでるぜ。シグナムさん」
「ほんまに居たんやな。それも見たところ高校生ぐらい。シグナムって年下好きやったん?」
「さあ、聞いた事はないですけど。でも、好きになったら関係ないってこの前小説で読みました。ほら、シグナム。いいのよ、私達の事は気にしなくて」

 名を呼ばれただけならまだしも、何故カズキの名を出してしまったのか激しく悔やむ。

「シグナムさん、おーい!」
「だから、大声で人の名前を呼ぶな。分かった、分かったから!」

 たいした距離もないのにカズキの声があまりにも大きくて、シグナム達は大変目立っていた。
 その視線は色々であったが、主な視線は場所が場所だけに若いわねという主婦層であった。
 何故見知らぬ人にまで恋人として見られなければいけないのか。
 一先ず何よりも優先し、シグナムはツカツカとカズキに歩み寄って襟首を掴みあげた。
 それでも嬉しそうに笑うカズキの笑みは、飴玉を貰って喜ぶまひろとそっくりであった。

「何故お前がここにいる」
「岡倉達と遊びに、二人ぐらい別行動だけど」
「おーい、カズキ」
「噂をすればなんとやら」

 今度はカズキの名前が高らかに呼ばれ、はやて達を含む皆がそちらへと振り返った。

「いい物ゲットしたぜ。お前の好きなお姉さん系の」
「待った、待って岡倉君。良く見て、カズキ君と六桝君だけじゃないから!」
「って、シグナムしゃん!?」

 大浜の制止により事態に気付いた岡倉が、鼻水を噴出しながら驚いていた。
 あまりの驚愕に、購入したと思われる雑誌が振っていた手の中から零れ落ちる。
 それは丁度、目の前を通り過ぎようとしていたはやて達の目の前にだ。
 落ちましたよとそれを拾い上げたのはシャマルであった。
 そしてその雑誌の表紙を見るなり、ぼふりと顔を赤くして煙を上げた。
 何しろその表紙の題字はHで綺麗なお姉さんと言う、ソレ系の雑誌であったからだ。
 豊満な肢体を持つ女性が下着姿で胸を押し上げた格好で映ってさえいた。

「シャマルどうしたん? 顔赤いで?」
「う、あぅ……わわわ。見ちゃだめです。これはおか、お返しします。はやてちゃん、ヴィータちゃんもこのお兄さん達には近付いちゃ駄目です。エロス、エロスです!」
「おい、危ねえだろうが。急に下がるな!」

 子供には刺激が強すぎると、一番刺激を受けているシャマルが雑誌を放り投げた。
 そして完全に思考が沸騰しきったまま、はやてを遠ざけようと車椅子を一気に引いた。
 ヴィータが支えなければ、はやてはきっと転がり落ちていた事だろう。

「誰この超美人なお姉さんとチビッ子二人。エロス……おおう、エッチから格上げ? ってこれは違います。カズキに、友達に買ってきて頼まれただけで!」
「頼んでない。綺麗な年上のお姉さんは好きだけど、俺は頼んでないから!」 
「最悪だ、あっさり友達売ったよ岡倉君。本屋でアレ見つけてから、嫌な予感はしてたけど」
「さて、この事態をどう収拾すべきか」

 やれやれと六桝が溜息をついた通り、カズキと岡倉が共に手を出すのに時間は掛からなかった。
 カズキの通信空手拳対岡倉のリーゼント殺法。
 これまで何度もあいまみえ、泥沼の形相を見せてきた不毛な対決である。
 迷惑にも店先で奇声をあげながら、互いに妙な構えを取り始めた。
 そこまでは六桝も大浜も何度も仲裁した事はあるのだが、今は違う。
 赤面した顔でこちらを睨む金髪の女性シャマルが追加。
 さらにはチビッ子と言われ憤るヴィータに、こちらはソレを他所にニヤニヤのはやて。
 お手上げだと両手を上げた二人に代わり、場を収められる人物は残り一人。
 はやてがいる状態でカズキと出会ってしまった不運を嘆きつつ、覚悟を決める。
 恐らくこの後、なし崩し的にお茶にでもなだれ込む事だろう。
 はやてが根掘り葉掘り聞いて、ごまかし話をでっち上げても最終ゴールは見えている。
 また昨晩のようにニヤニヤ地獄かと溜息をついていた時に、気付いた。
 今いるデパートから程近い場所で、急激に膨れ上がる魔力の嵐にだ。

「カズ」

 こんな昼間に人通りの多い場所でと、舌打ち混じりにじゃれているカズキを呼ぶ。
 だが名前を最後まで呼びきる事はできず、デパート全体が下から突き上げられたように縦に揺れた。
 まるで地震にでもあったように、建物が聞きたくもない軋みをあげている。
 地震のようなその揺れは激しく大きく、悲鳴がそこかしこであがっていた。

「う、うわぁ!」
「主はやて!」

 人々の悲鳴の中にはやてのそれを聞き、シグナムがとっさに振り返る。
 仲間が守っているとは分かっていも反射的な行動を止められはしない。
 だがそこで待っていたのは、予想外の光景であった。
 はやてをその大きな体で、車椅子ごと庇っているのは大浜である。

「ちょっと御免ね、我慢して」
「ええ、せやけど私は良くても……」
「おい、無茶すんじゃねえ。はやての事は私が守るから。すっこんで、うわ!」
「馬鹿言ってんじゃねえ、チビッ子。お前も大浜の下に入ってろ!」

 さらに駆け寄った岡倉がヴィータの首根っこを掴んで、大浜の影に放り込んだ。

「はやてちゃん、ヴィータちゃ、きゃあ」
「失礼、下手に動かないでもらえます?」

 駆け寄ろうとしてよろめいたシャマルは、六桝が支えてくれていた。
 こんな状況ながら一瞬、類は友を呼ぶかと感心してしまう。
 それでも何時までも感心している場合ではなかった。
 ジュエルシードがこんな街中で、しかもコレまでにない規模で発動したのだ。
 だが状況は限りなく苦しい物であった。
 人通りの多い街中である事や、まだこの地震の正体が掴めていない事もある。
 なによりはやてを巻き込み、守ろうにもカズキの友人がいては力が使えない。
 やがて地震は収まり始めたが、それを期に周囲の人が逃げ出そうと波を生み出し始めた。
 その波がシグナムとカズキ、それから岡倉達とはやて達を分断してしまう。

(いや、それはある意味好都合か)

 そう思ったのも束の間、シグナムが何かを言う前にカズキが叫んでいた。

「岡倉、無理に合流は無理だからその子達を連れて避難してくれ」
「おう、お前も。シグナムさんを危険な目に合わすんじゃねえぞ。そしたら、絶交だ」
「カズキ君、こっちは任せて。無理しないでね」
「いつかの夢の内容みたいにな。今度こそ、死ぬぞ」

 我先に避難しようとする人の波の頭越しに、言葉を飛ばしあう。
 最悪の状況内でも悪くはない決断に、シグナムもソレに続いた。

「ヴィータ、それにシャマル。聞いての通りだ。表に出たら、ザフィーラと合流しろ」
「おう、分かった。お前も気をつけろよ。はやての事は任せとけ」
「カズキさん、うちの子の事お願いや。シグナム、いざという時はカズキさんを守ってあげてな。私にはヴィータ達がおるから」
「先に行きます。シグナム、気をつけて」

 カズキとシグナムがそれぞれ別れを告げ、行動を開始し始めようとする。
 だがまだ避難を始めた人の波は厚く、それに逆らっての行動は無謀に等しい。

「くそ、早くこの事態をなんとかしなければならんと言うのに……」
「そうだ。シグナムさんこっち!」

 苛立つシグナムの呟きを前にして、何か思いついたようにカズキがその手を引いた。
 連れ出した先は人の波から離れた場所ながら、出入り口のない調理器具売り場であった。
 足元には商品が崩れ落ち、客や店員も逃げ出し、棚が影になって人目からは離れている。
 だがそのフロアに窓は当然ながらなく、何処へ行けるわけでもない。
 一体如何するのだとシグナムが尋ねるより先に、カズキは左胸に手を置いていた。

「サンライトハート!」

 左胸の中からジュエルシードを取り出し、その名を呼んだ。
 青い光がフロアに満ち溢れ、突撃槍のアームドデバイスへと変化した。
 カズキがそのサンライトハートを、天井へと向けて止める。

「行くよ、シグナムさん。しっかり、掴まって」
「少し荒っぽいが、この騒ぎなら仕方がない。やれ、カズキ」
「エネルギー全開!」
「Explosion」

 柄の根元にある機具がスライドし、スチームと共に空となった薬莢を放り出す。
 その中に詰まっていた魔力を取り込み、太陽に似た光があふれ出す。
 足元に生まれた三角形の魔法陣は力強く輝き、カズキはシグナムへと手を差し出した。
 重ねられた手をより強くカズキが握り締めた後、サンライトハートが呟く。

「Sonnenlicht Slasher」

 魔力から変換されたエネルギーが爆発し、二人の体を上へと押し上げた。
 空へと向かう道をふさがれていてもおかまいなし。
 天井を砕き、上階のフロアにあった衣服等商品を斬り飛ばし、再び天井に激突。
 直線状に立ちふさがる全てを薙ぎ払い、やがて屋上をも貫いていった。
 カズキの目論見通り、二人はデパートの屋上から更に上空へと上り詰めた。
 そうする事で、ようやく現状の把握に成功する。

「なんだ、これは?」
「酷い、街が飲み込まれてる」

 二人が上空より見下ろしたのは、地震により破壊された街並みではなかった。
 地震はあくまでも副産物。
 実際に街にある建物や道路、街路樹等を破壊していたのは大樹の根である。
 樹齢にすれば千年はくだらないであろう巨大な大樹が、その根で街を貫いたのだ。
 先程の地震は恐らく、デパートの一部が巨大な根で貫かれた時の震動だったのだろう。
 だが規模が余りにも大き過ぎて、発生源が見つからなかった。

「カズキ、ジュエルシードの発現の震源を探せ。何時もの様に、狂暴性こそないが巨大というだけでもこれは脅威だ」
「分かってる。シグナムさんが守りたいあの子達の為にも。これ以上、やらせない!」

 はやての事をカズキに知られたのは想定外だが、この際それは切り捨てる。
 まずはなによりもはやての身が最優先だと、シグナムはその目をこらした。
 地面を貫く根、建物を貫いていく枝、いずれかの何処かに震源はあると探す。
 やがて上昇の推進力を失い、デパートの屋上に足をついてもまだ見つからない。

「シャマルにサーチャーを、いや。主はやての護衛が優先。そちらにリソースを割いて主を危険にさらすわけには」
「ジュエルシード、一体誰が何が発動させたんだ!」

 焦り辺りを見渡す二人は、瞳ではなく我が身全体で同時にそれを見つけた。
 自分はここだと教えているかのような、ジュエルシードの脈動。
 同時に振り返り視線を向けたのは街を飲み込んだ大樹の幹、その中腹だ。
 やや不自然に凹んだそこに瞬く淡く青い光、そこに二人の少年と少女がいた。
 大樹に抱かれ眠るように瞳を閉じる二人が、何を願ったのかは分からない。
 だがどんな願いであろうと、その結果はジュエルシードに歪められてしまっている。
 きっと願いの主であるの二人もそれは望まないはずと、カズキはサンライトハートを握り締めた。
 その意志に呼応するように、飾り尾がバチバチとエネルギーを猛らせる。

「シグナムさん、下がってて」
「いや、さすがにお前では距離があり過ぎる。私も遠距離は得意ではないが」
「大丈夫、何時もシグナムさんがさがってるのは、俺に経験を積ませる意味もあったろうけど……力を振るいたくない何か理由があるんだろう?」

 さすがにそろそろ気付いていたのかと、シグナムは口を噤んだ。
 カズキの胸にあるそれを覗き、共にその手にしてきたジュエルシードは五つ。
 それまで共に同じ戦場に立ち続けてきた。
 シグナムが常に後ろに控えていた為、共に戦ってきたというわけではないが。

「だったら、俺の力で間に合う間は俺が戦う。シグナムさんだって、本当は自分の力で早く解決させたい気持ちなのは知ってるから。だから、少しでも俺の力で早く。少しでも早く!」
「Explosion」
「もっとだ、サンライトハート。エネルギー全開、最大出力!」
「Explosion、Explosion」

 普段はカートリッジ一つで済ませるところを、連続で消費していく。
 心身とは別に補完されていた魔力を他から補充するのは、本来体に負担がかかるものだ。
 カートリッジシステムと呼ばれるそれは、本来使い手が消えつつある技術。
 そんな危ういシステムを使い、カズキは足りない分を補充していった。
 カズキの体全体から太陽の光に似た光が迸る。
 その身すら武器に変えてしまったかのように、そしてその姿はまるでもう一つの太陽だ。

「Sonnenlicht Clasher」

 サンライトハートの合図と共に、カズキがデパートの屋上の床を蹴った。
 反動で床が抜けてしまうのではと思う程に、ひびが入り陥没する。
 目の前にあった落下防止の策は一瞬で融け、カズキは低い空の上を閃光となって跳んだ。
 外敵の存在に気付き、大樹が排除にかかり人一人よりも太い枝や根を向けてきた。
 だがそれらが束になってかかっても、カズキが駆ける軌道はブレない。

「うおおおおおッ!」

 邪魔だとサンライトハートの刃すら振るわず、近付いたそばから焼き切ってしまう。
 犠牲覚悟で正面に枝が回りこんだが結果は同じ。
 真っ向から貫かれ、もはや誰もカズキを止められない状態であった。
 そのまま一キロ近い距離の空を一直線に駆け、少年と少女の目と鼻の先に迫る。

「サンライトハート、頼んだぞ!」
「Eine Versiegelung」

 何時もより心持ち大きくその刃が上下に口を開いた。
 二人の丁度間に、まるで授かった赤子のように鎮座するジュエルシードへと向ける。
 一瞬、これが原因で別れませんようにと願いつつ、二人の間を引き裂く。
 それと同時にジュエルシードを加えさせ、ついでの様に大樹の幹までもを貫いた。
 だがカズキの快進撃もある意味ではそこまでであった。
 恐らくは二人が分かれませんようにと、雑念を抱いた事が原因か。
 少しぐらい、溜まっていた疲れもあるかもしれない。

「げっ!」

 集中力を欠いたカズキの目の前に迫ったのは、大樹の影に隠れていたビルだ。
 もはや暴走状態といって過言ではないカズキは、見事にそれを貫いた。
 壁を打ち破り、デスクやパソコンを吹き飛ばし、廊下に飛び出して再び壁を。

「う、わああああッ!」

 ビル一つ綺麗に貫いた所で、推進力を失って裏路地へと落ちていった。









 カズキの悲鳴を念話越しに効いていたシグナムは、何をやっているんだと呆れ返った。
 その一瞬前までは、空を貫いた一撃に己の奥の手を重ね合わせていたというのに。
 本当に頼もしいんだか、危なっかしいんだか。
 とりあえず、あの魔法はしばらく使用禁止だと言い付けようとだけは決めていた。

『痛てて……シグナムさん、やったよ。封印成功、ちょっと失敗したけど。あの子達は?』
『ああ、使用者の二人も、無事に地面に浮遊して降りていく問題ない。だが流石に少し目立ち過ぎた。お前は別の道順で合流しろ』
『了解、そう言えば……シグナムさんって温泉好き?』
『唐突になんだ。ちなみに大好きだ』

 カズキのあの一撃は衆目を集めすぎると、別ルートを指示する。
 命令通り行動は開始したようだが、突飛な質問をされ思わず本音がだだ漏れた。

『ほら、あの子達に怖い思いさせちゃったから。楽しい思い出でもって』
『余計な事は考えなくて良い。今回は流石に事故みたいなものだ。気にするな』

 本当に余計な事に気が回る奴だと、苦笑しながら話をきる。

『シグナム、とりあえずこっちは避難完了だ。アイツの友達も一緒にな。たく、お節介な奴らだぜ。こいつらがいなけりゃ、もっと楽に逃げられたのによ』
『駄目よ、ヴィータちゃんそんな事を言っちゃ。私はこの子達ちょっと、格好良かったと思うわよ?』
『こちらも、封印完了だ。少しカズキが馬鹿をやらかしたが、概ね問題ない……!?』

 ヴィータやシャマルにも念話で返答を返したシグナムは、咄嗟にその身を隠した。
 屋上の出入り口、上に給水塔のある壁に隠れ、隣のビルを伺った。
 空から舞い降りてきたのは、真っ白なバリアジャケットを纏う少女とフェレット。
 カズキが一度死んだ夜以来、一度も見かけなかった二人組みであった。

(てっきり、回収を諦めていたものだとばかり思ったが……)

 別ルートで合流しろとカズキに命令しておいて良かったと思いつつ、その様子を伺う。
 放っておけばよかったのだがそうしたのは、白の魔導師の少女、なのはの様子がおかしかったからだ。
 既に事態は収拾しつつあるというのに、その顔は青ざめ今にも倒れそうであった。

「そんな……街が、酷い。私が、ちゃんとユーノ君を手伝ってジュエルシードを集めていれば。あの時、見逃さなかったら」
「なのはのせいじゃない。あんな体験したら、誰だって怖くなるよ。それに男の子が持ってるのを少し見ただけで、確信はなかったんだろ。もう一度言うよ、なのはのせいじゃない」

 フェレットの説得を耳にし、直感的に脳裏を過ぎったのは廃工場であった。
 もし仮にあの廃工場にジュエルシードがあり、この二人組みが乗り込んでいたら。
 そこにいるのは魔力感知できない類の化け物の集団。
 奇襲を受けて窮地に陥り、だからこそあの金髪の少女が助けに入った。
 屋上の大穴は急を要する場面で、咄嗟の事となれば想像上の事でも色々と話は繋がる。

(やはり、来たか……)

 上を見上げれば、こちらも遅まきながらの登場であった。
 今回は偶々シグナム達が近くにいた為、間に合わなかったのだろう。
 周囲を見渡し、反応がない事を確かめると金髪の少女は再び去っていった。

(あちらの目的は恐らく、ジュエルシードの発動の観察。だが、あの白い魔導師を見殺しにする程冷酷でもなく……背後に誰かしらの影が見えるな)

 錬金術の化け物の創造主も最近は沈黙を保っているが、不気味には違いない。
 他にも誰かが組織だって動いているとなると、本当に面倒な一見であった。
 いっそ、管理局の介入を受けて速やかに事件を解決させ、こちらは隠れていた方が良かったかもしれない。
 だが現状、カズキもシグナムもどちらの勢力にも顔は割れてしまっている。

「ユーノ君、やっぱり私、ジュエルシード集めを手伝う。あの子程じゃなくても良い。今私にある力で、私にできる事をやる。もう、手をこまねいているだけでこんな結果を見せられるのは嫌」
「僕は……できればなのはには関わって欲しくはない。助けを求め、その力を自覚させたのは僕だけど、何時あの夜のような事になるか」
「だからユーノ君、魔法を教えて。強くならなきゃ、何も守れない。強くなるんだ、私はあの子みたいに強くなる」

 そんな決意の言葉は、ジュエルシードの争奪戦に加わると言う事であった。
 シグナムもまたこのままフェードアウトしていて欲しかったがと思いつつ、屋上を後にした。
 ユーノという次元世界の人がいる以上、カズキのように導いてはやれない。
 決意した以上、自分で強くなり生き残れと心の中でエールを送りつつ、それでもより複雑になっていくなと頭を痛めていた。









-後書き-
ども、えなりんです。

今回のお話は、ちょいと急ぎ足。
本来なら二話分かけても良かったぐらい……
もう少し岡倉達と、八神家の交流を描きたかったです。
まあ、次回の温泉話で無茶苦茶交流しますけどね。

あとラストで出てきたなのは。
原作通り、街の破壊で決心しました。
あくまで目標はフェイト。

それでは次回は土曜日です。


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