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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/21 19:29
第五話 これが俺の騎士甲冑だ

 上ってきた時とは逆に、山の斜面を駆け下りていく。

「シグナムさん、ジュエルシードは何処?」
「このまま真っ直ぐだ。こんな事なら弾くのではなく、足元に叩き落とすべきだった」

 咄嗟の事とはいえ、と言いたげにシグナムが悔やんだように呟いた。
 だが幸運にもジュエルシードは完全な発動状態にはまだ陥っていない。
 急いで駆けつけ、このまま回収して封印する事ができれば問題ないはずだ。
 かと言って悠長に探し回る暇はない。
 なにしろ周辺には廃工場の件を知った野次馬や警察関係者が多いはず。
 下手に誰かが触れるか、強く何かを願えば発動の危険性があった。
 ソレはもはや滑り落ちるといっても過言ではなく、木々の間を抜け、茂みを突破する。
 その視線の先に、木々が途切れ、舗装された道路が見え始めた。

「一度、デバイスを隠せ。森を抜けた先に、ジュエルシードの魔力を感じる」
「分かった」

 シグナムの言葉を聞き、カズキもサンライトハートを待機状態に戻す。
 シリアルナンバー七十番のジュエルシード。
 胸の中には戻さず、それを握りこんだまま最後の茂みの中に飛び込み突き抜けた。
 そのままアスファルトの道路に足を着き、急いで周囲を見渡しジュエルシードを探す。
 だが肝心のそれは見当たらず、代わりに居て欲しくない人達を見つけてしまった。

「あー、いた。お兄ちゃんだ!」

 カズキを指差した後、ぶんぶんと手を振り始めたまひろである。
 他にアリサやすずか、岡倉達三人まで共に行動していた。

『妹と、君の知り合いか?』
『ここに来るといってないし、今頃はなのはちゃんのお見舞いに行ってるはずだけど』
『兎に角、巻き込みたくないなら直ぐにでもここから連れ出せ。私はここで捜索を続ける』

 手短に念話で段取りをつけ、カズキが口を開こうとしたところでアリサが思わぬ事を口にした。

「嘘から出た真。まさかカズキさんが、なのはのお見舞いを後回しにね」
「仕方ないよ。遅れて来るとは言ってくれてたんだし。私達、直ぐにいなくなりますから」
「え?」

 やや膨れるアリサとほっこり微笑むすずかの言葉の意味が、一瞬分からなかった。

「カーズキィィ!」
「おめでとう」
「なんかおごれ」
「ええ!?」

 だが岡倉の嫉妬や大浜の祝福、六桝の率直な意見を前にようやく理解した。
 そう見られたとはとても嬉しいがと思いながらも、頭が上手く回らない。
 今の自分は確実に赤面していると自覚できる程に、カズキの頬は熱かった。
 そんなカズキへと体当たりするように縋りついたのは、まひろである。

「まひろ?」
「ふーっ!」

 そのままカズキの影に隠れながら、まるで猫が威嚇するようにシグナムを見ている。
 いやまるでではなく、兄を取られたくないと本当に威嚇しているのだろう。
 腰の辺りまで伸ばした栗色の髪が、ざわざわとざわめいていた。
 もっとも小柄な事や、生まれ持った穏やかな性質から微笑ましさ以外何も感じないが。

「おお、カズキが青春を過ごす為の最難関」

 これがあったかと六桝を筆頭に、皆が手のひらに軽く握った拳を叩きつけた。

「こら、まひろ。まずはこんにちは、だろ?」
「んぅ、やー!」
「いや、問題ない」

 可愛らしく威嚇を続けるまひろを前に、シグナムがそんな事を言い出した。
 そしておもむろに上着のジャケットの内ポケットに手を伸ばす。
 目的のものは直ぐにみつかったのか、取り出したそれをまひろの目の前に差し出した。
 シグナムの手の平の上に置かれていたのは、包み紙に包まれた飴玉であった。
 威嚇を一時中断、くんくんと鼻を鳴らしたまひろがシグナムを上目遣いで見上げる。
 敵意しか見受けられなかったはずの瞳の中に見えたのは、期待の二文字だ。
 しっかり頷かれ、ぱあっと瞳の中にあった期待がはじけて輝いた。
 シグナムの手の平から飴玉を貰い、アリサやすずかに見せる為に戻っていく。
 その短い道すがらに包み紙から出した飴玉は口の中へ。

「わーい、貰っちゃった。おいひい」
「まひろ……アンタって子は。将来が激しく不安よ」
「まひろちゃん、今回はカズキさんの知り合いだから良いけど。知らない人から物を貰っちゃ駄目だからね?」
「自分でやっておいてなんだが、お前の妹は大丈夫か?」

 アリサやすずかのみならず、飴玉をあげたシグナムにまで心配される始末。
 カズキも我が妹ながらと、涙目で肩を落としていた。
 人を信用し過ぎるのもそうだが、この兄の価値は飴玉一個に劣るのかと。

「で、結局のところカズキ君とはいったい?」

 義妹を手なずけるというより、手際よく敵意をそらしたやり方に大浜が尋ねなおす。

『適当な事を言ってあしらえ。ジュエルシードは近い、余計な会話はない方が良い』
『分かった。何を隠そう、俺は誤魔化しの達人だ!』

 念話で叫ぶなと顔をしかめつつ、それ程の自信かとシグナムはカズキに任せることにした。
 その失敗を悟るのは、数秒後。
 カズキが唐突にシグナムの肩に手を伸ばし、少し引き寄せる。
 恋人のように甘くではなく、少し体育会系が入ったガッシリとした組み方だ。
 そして疑惑の眼差しを見せてくる岡倉達へと、自信満々にカズキは言い放った。

「姉弟」
「先程と言い、何処まで嘘が下手なんだ!」

 岡倉達が何かを言う前に、騙す側であったシグナムが突っ込んでしまっていた。
 組まれた肩の腕を振りほどき、思わず学生服の襟首を締めてしまう。
 そんなシグナムの腰の辺りに、どんと軽く誰かがぶつかって来る。
 つい先程まで自分が威嚇していた相手に、満面の笑みで抱きついてきていた。

「お姉ちゃんだー!」
「本、当に。大丈夫なのかお前の妹は!」

 見事に騙されたというか、信じ切った様子のまひろを前にシグナムはよりカズキを締め上げる。

『もっとあるだろう、他に』
『うーん、あと思いつくのは師匠とか強敵とか』
『この妹にしてこの兄ありか!』

 駄目だコイツはと、自分で言い訳を考え始めるがさすがにここまでぐだぐだであれば、先手を打たれてしまう。

「こんなトコで立ち話もなんだし、翠屋にいかない? そこで思う存分、カズキに奢ら、尋問してからなのはちゃんのお見舞い」
「あ、いいわねそれ。バラバラにいくと、迷惑かけちゃうし。ほら、まひろ行くわよ」
「わーい、翠屋のケーキ。お姉ちゃん、行こう。美味しいよ」
「いや、私は」

 何か言い訳をと頭を働かせたシグナムであったが、直ぐにそれを撤回する。

「分かった。行こう」
「シグナムさん?」

 さすがにこの状態での心変わりに、カズキも違和感は拭えなかった。
 最優先のジュエルシードを差し置いて、ケーキが食べたいのかとは思わない。
 一体何がとシグナムを見つめたところで、顎であるものを示される。

「ねえねえ、どうせならなのはちゃんと一緒に食べたい」
「いいわね、それ。お茶だけにして、桃子さんに包んでもらいましょ」
「なのはちゃん、どのケーキが大好きだったかな」

 恭也先輩がいれば、代金をまけて貰おうと話し合う岡倉達の後ろを歩くまひろ達。
 シグナムが指したのは、アリサとすずかに片方ずつ手を繋がれ歩くまひろだ。
 楽しそうにスキップ交じりに歩く度に揺れる栗色の髪。
 そこに絡まるようにしてちらりと見えたのは、青い輝きを放つジュエルシードである。
 何時発動するかも分からない危険物が、よりにもよって皆と一緒にあった。
 背筋を凍らせながらも、咄嗟に左胸に手を置いたカズキを、シグナムが制した。

『お前は手を出すな』
『俺も手伝う』
『駄目だ、命令には従え。お前の腕では、皆にバレるどころか、下手をすれば妹ごと斬り裂く恐れがある』

 シグナムの命令という言葉ではなく、妹ごとという言葉にカズキが躊躇する。
 それにカズキ自身、サンライトハートにて使える魔法は一つしか知らない。
 これでまたジュエルシードを遠くに弾くのならまだしも、封印に重点を置くならば任せるべきだ。

『誰にも悟られず、手早く私が封印する。仮にあの中の誰かに憑依しようとしても、私ならば対応できる』

 わいわいとまひろ達が翠屋へと向けて歩く中、二人して息を潜めている。
 蛍の様に光るジュエルシードは、まだ発動状態には至っていない。
 まだ発動するなと心で呟きつつ、シグナムがレヴァンティンのペンダントに触れた。
 その時、ドクンとジュエルシードが魔力の鳴動を響かせてしまった。

『レヴァンティン!』

 させてなるものかと、シグナムが念話で命じ、ペンダントから剣へと転じさせる。
 そのまま、まひろの髪に絡むジュエルシードへと刃を向けた。
 さすがのシグナムも、髪に絡まった異物だけを弾く事はできない。
 同じ女性として髪へのダメージは最小限にと、細心の注意を払って刃を振るう。
 レヴァンティンの切っ先がジュエルシードを捕らえる直前に、シグナムは硬直した。
 間に合わなかったわけでも、急にまひろが振り返ったわけでもない。
 まひろ達の誰かではなく、ジュエルシードがシグナムを標的として飛んできたのだ。

(馬鹿な、私は何も願っていない。一体、何が切欠で!)

 完全に予想外の事態を前に、とある事が思い浮かぶ。
 屋上の時もそうだった。
 ジュエルシードは一緒にいたカズキを無視し、まるで吸い寄せられるようにシグナムを目指していた。
 引き寄せる何かがあるというのか、それとも主への献身がそうさせるのか。
 何故という迷路にはまり込んだまま、レヴァンティンの刀身と伸ばした腕を掻い潜りジュエルシードが迫る。

「ちくしょう、サンライトハート!」
「Ja. Sonnenlicht flusher」

 シグナムへと憑依する一歩手前、サンライトハートの切っ先がジュエルシードを捉えた。
 山道の左手、再び続く傾斜面の奥へとそれを弾き飛ばす。
 それと同時に、飾り尾がエネルギーと化して爆発的に膨れ上がった。
 廃工場の屋上で空へと投擲し、シグナムの姿を隠した事から学んだ魔法だ。
 目くらましの光が、二人の姿とジュエルシードを強制的に押し隠す。

「うお、まぶしっ!」
「まひろちゃん達、動かないで!」
「なによ、これ!」

 友人達の悲鳴に心で詫びを入れつつ、カズキはシグナムの手をとり飛び出した。
 ジュエルシードを弾いた方向、傾斜面の山肌へと。

「ちょ、ちょっと待て!」
「え、うわ!」

 斜面に足を着き、そのまま滑り落ちる予定がシグナムがバランスを崩していた。
 咄嗟に庇うように振り返ったカズキが見たのは、目をおさえているシグナムであった。
 何の合図もなく、目潰しにも等しい閃光をくらえば当然だ。
 背中越しにそれらを受けた岡倉達は兎も角、シグナムは正面でそれを受けた。
 斜面に上手く足を着く事もできず、中途半端に振り返ったカズキの胸に落ちてくる。
 シグナムを抱きとめたものの、同じくバランスを崩して、容赦なく急で歪な山の斜面を二人は転がり落ちていった。

「うおあああ、痛い!」

 耳に石がぶつかっては悲鳴をあげ、

「痛い」

 次は頭頂部に石がぶつかり悲鳴をあげる。

「痛い」

 さらには顔面にも大きな石をぶつけ叫びながら、なおも転がり落ちていく。
 それらはなんとか痛いで済んだものの、回転する視界の中で見えたのは岩であった。
 地面に半身を埋め、ここは俺の領土とばかりに鎮座する大きな岩。

「痛そう、けどッ!」

 腕の中にいるシグナムをより深く抱き寄せ、瞳をきつく閉じて備える。
 ゴッと鈍い音を耳にしたのを最後に、一度カズキの意識は完全に途絶えた。
 代わりにその腕の中から脱したシグナムが、頭を振りながら体を起こし始める。
 頭を振ったのも痛みというよりも、視力を一時的に失った目の為だろう。
 しばらくは方膝をついて目頭を押さえ、そのままじっとしていた後に立ち上がった。
 瞬きを数度行い、完全に視力を取り戻したところでカズキを見下ろした。

「まったく、良くやったと褒めるべきか。何をすると叱るべきか」

 制服を泥だらけに汚し、頭から血を流し倒れるカズキの前にしゃがみ手をかざす。
 足元に浮かび上がるのは、紫色の光を放つ三角形の魔法陣。
 拙い割りに、最近良く使うと思いながら治癒の魔法をカズキにかけていく。

「それでジュエルシードは……」

 肝心の封印がまだだと、現状の確認の為に周囲を見渡した。
 転がり落ちてきたそこは、廃工場のある山のふもとの森。
 中腹から一気に落ちてきたという事か。
 傾斜の地面は消え失せ、木々を支える地面はずっと平面が続いていた。
 軽く見渡した辺りにはジュエルシードが見えないが、この間に錬金術の化け物の創造主に回収されても間抜けである。
 なんとしても回収をと思っていると、その森の奥で青い光が瞬いた。
 それと同時に膨れ上がるのは、ジュエルシードが解放した魔力であった。
 その総量を推し量る事も馬鹿らしい程の魔力が、脈動となって周囲に響き渡る。

「ちっ、ついに発動したか」
「ジュエルシード!」

 魔力の脈動に反応したカズキが飛び起きた。
 だが頭を打ったせいか、そのまま少し惚けて治癒魔法を掛けてくれていたシグナムに気付く。

「シグナムさん、ごめん。目は大丈夫!?」
「私は問題ない。だが全身打撲のお前の方が大怪我だ。しかし、これ以上は悠長に治癒魔法を続けてはいられないようだ」

 指摘されてから自分の体の痛みに気付き、身悶えるカズキの前でシグナムが立ち上がった。
 そのシグナムが視線を向けたのは、覆い茂る木々の向こう。
 森の奥の方から、ズシンと地面に杭でも打ち込んだような音が響いてきた。
 それも続けて何度も。
 その後でバキバキと何かが折れる音が聞こえ、木が何本か倒れ始める。

「グルルルル」

 獰猛そうな動物が唸る声の後、カズキとシグナムの目の前の木が折れ曲がった。
 それを成したのは、黒い毛皮に覆われた巨大な動物の前足。
 邪魔だとばかりにカズキやシグナムよりも背の高い木を軽々しく踏みつけへし折る。
 まるで草花を相手にするように、木を平然とへし折っていた。
 声に劣らぬ獰猛さを見せるのは赤い瞳に、異常なまでに鋭い牙。
 ジュエルシードを発動させたのは野良犬か何かか。
 溢れる魔力で体を膨張させ、巨大な狂犬となって二人の前に現れた。

「シグナムさん!」
「ああ、分かって……」

 今にもこちらを喰い殺そうとしている狂犬を前に、カズキが落ちていたサンライトハートを握り締める。
 同じくレヴァンティンを手にしようとしたシグナムであったが、目の前の狂犬ではなくもっと上空を見上げていた。

(見られている。あれは……創造主、それと誰だ?)

 鷲型の化け物の背にいる創造主は分かるが、それより少し離れた位置にいる誰か。
 豆粒のようで分かりにくいが、金色の髪を持った少女のように見える。
 思い当たるのは、廃工場の化け物達を一掃した手練。
 しかしそれなら創造主と近いとも言える距離で、共にこちらを見下ろしている理由が分からない。
 仲間には見えないが協力しあっているようにも見えない、微妙な距離だ。

「カズキ、これの相手はお前に任せた」

 見られている以上、迂闊に手の内を晒す必要はない。
 それにシグナムの視点では、ジュエルシードの憑依体よりも錬金術の化け物の方が手ごわいと感じていた。
 憑依体と錬金術の化け物とでは、魔力の有無もあるが決定的なのは意志。
 敵対者に対する明確な殺意という点で、錬金術の化け物は憑依体を凌駕している。
 この程度の憑依体であれば、初陣を飾るカズキの相手としては申し分ない。
 そう考えたシグナムはレヴァンティンをペンダントに戻し、手頃な木の幹に背を預けた。

「え、俺一人で!?」
「言ったはずだ。お前はベルカの騎士見習い、そして私が師だ。私の訓練は全て実戦形式だ」

 そう喋っている間にも、動物の本能か、狂犬は弱いと判断したカズキに狙いを定めたようだ。
 唸り声を低く抑えては、今にも飛び掛らんと姿勢を低くする。
 慌てて振り返りなおしたカズキは、サンライトハートの穂先を狂犬に向けて構えた。
 すると今度は、唸り身構えている狂犬から目が離せない。
 赤く光り、瞳孔を失くしたような瞳に飲まれ、自覚できる程はっきりと足が震え出す。
 きっと今このタイミングで飛びかかられたら、抵抗むなしくという結果が待っている事だろう。
 震える足は別として、まるで体が置物が何かになってしまったようであった。

「硬くなり過ぎだ。大蛇の化け物を腹から食い破った時、お前はもっとがむしゃらだったはずだ。その腕の中に、妹がいると考えろ。その背中に、守りたいものがあると考えろ」
「まひろが……皆が」

 何時も触れている温かさや、笑いかけてくる笑顔を思い出し強く思う、守らなければと。
 するとほんの少しだが、足の震えが止まった気がした。
 今も目の前で唸る狂犬に恐怖はあるものの、それを上回る気持ちがあれば耐えられる。
 カズキから竦みが消えたのを感じたのか、黒い体躯を唸らせ狂犬が飛び掛かってきた。

「グアアアアッ!」
「うわっ!」

 小さな山が迫るような圧迫感を受け、転がるようにしてカズキはその体当たりをかわした。
 受け止めるなどと馬鹿な事を考えなくて正解であった。
 狂犬が飛びかかった地面にはその鋭い牙を持つ顎が突き刺さっていた。
 地面を丸ごと食い千切り、今度こそはとカズキを睨み、より身長に距離を詰め始める。

「上出来だ。良いか、良く聞け。我々ベルカの騎士は、戦いに赴く場合に甲冑を纏う。魔力を帯びた特性の鎧だ。想像しろ、己を包む強固な鎧を」

 体から余計な硬さが消えたカズキへと、次なる指示をシグナムが飛ばす。
 カズキはジュエルシードが元になったデバイスを武器に変える事は最初からできた。
 だがそれだけではベルカの騎士を名乗るには足りない。
 己が得意とする絶対の武器と、己を護る為の戦いの正装である甲冑。
 この二つがそろってこそのベルカの騎士である。

「俺の、騎士甲冑……サンライトハート!」
「Jawohl」

 カズキの足元に太陽光のような色で輝く、三角形の魔法陣が浮かび上がる。
 時折バチバチと光りが爆ぜるその魔法陣の上で、カズキの姿が光に埋もれていく。
 その間数秒と満たず、再びカズキはその姿を現した。
 光りの中へと消える前と、なんら変わらない格好で。

「よし、行くぞ!」

 だが気合十分とばかりにサンライトハートを構え、突っ込まれる。

「待て、待て待て。人の話を聞いていたのか、騎士甲冑はどうした!?」
「学生服、これが俺の騎士甲冑だ!」

 唐突に想像しろと言ったシグナムもシグナムだが、カズキもカズキであった。
 武藤兄妹の相手は疲れると、シグナムは痛みが走ったかのように側頭部を押さえる。
 溜息までも出そうなところで、シグナムが気付いて叫んだ。

「後ろ、相手から目を離すな!」
「え、ぐぁッ!」

 カズキが振り返った時には既に遅く、狂犬の爪が目と鼻の先であった。
 咄嗟にサンライトハートを掲げ、爪で裂かれる事こそ防げど、衝撃はそうはいかない。
 明らかな体格差からカズキは吹き飛ばされ、背中から木の幹へと叩きつけられた。
 その衝撃の大きさは、叩きつけられた木の幹が陥没する程である。
 一昨日に大蛇の化け物にそうされたように大怪我確実、と思いきや。
 カズキは痛みが殆どなく、酷く簡単に立ち上がれる事に気付いた。

「すごい、痛い事は痛いけど。思った程じゃない」
「だからと言って頼り過ぎるな。まともに攻撃を受けるのは、特に背中の傷は恥だと思え」
「大丈夫、もう簡単にはやられない。少しだけど、戦いってのが分かった気がする」
「ならば今日の指南はこれで最後だ」

 再び飛び掛ってきた狂犬を前に、カズキはシグナムの言葉を聞きながらかわしてみせた。
 落ち着いてみれば、狂犬の攻撃方法は単純きわまりない。
 爪を奮うか、飛び掛っての体当たり、またはその牙だ。
 動きは素早いし、体格差から力は断然狂犬が上だが、戦いようがないわけではなかった。
 今も上空からの体当たりを潜り抜けるようにしてかわし、腹に薄く斬撃の跡を残していく。
 傷は浅いが、確実にダメージを与える事はできる。

「敵を倒すには、攻撃しなければ始まらない。近付いて力一杯叩き斬れ。お前は、得意だろ?」

 こちらもこちらで、単純極まりない指南であった。
 それに応える為にも、カズキは一度サンライトハートを握り直し振り払う。
 すると閃いた刃に続き、赤色の長い飾り尾がカズキの目の前を風に揺らめきそよいだ。
 その飾り尾の布越しに狂犬を見据え、カズキは相棒の名を呼ぶ。

「エネルギー全開、サンライトハート!」
「Explosion」

 柄の根元、カズキが握る部位よりも少し先の部分の機具がスライドし、薬莢を吐き出した。
 高熱を伴なうスチームがそこから舞い、サンライトハートがぼんやりと光を帯びる。
 それはシグナムのレヴァンティンが薬莢を吐き出した時と、ほぼ同じ光景。
 魔力を予め込めていた弾丸を消費し、自身とデバイスに過剰魔力を注ぎこむ装置だ。
 カズキの足元ではより強く三角形の魔法陣が光った。
 その輝きに釣られるように、サンライトハートの飾り尾がエネルギーとなって爆ぜ始めた。

(気にはなっていたが、魔力変換資質か?)

 普通の魔力光にはない爆ぜるという現象に、シグナムが眉を上げる。

「来い、今お前を元に戻してやる!」
「グルゥ」

 爆ぜるカズキの魔力を前に、力を溜めるように狂犬もその身を低くする。
 そして飛び出したのは全くの同時であった。

「ガアアアッ!」
「サンライトスラッシャー!」
「Sonnenlicht slasher」

 狂犬はその体毛により、漆黒の弾丸となり地を蹴った。
 同じくカズキも、サンライトハートの手により閃光の弾丸となって飛び出した。
 対極にあるような色の弾丸が、目にも止まらぬ速さでぶつかり合う。
 先手を取ったのは漆黒の弾丸。
 連なる牙の列を用いてカズキのサンライトハートの切っ先を咥え止めたのだ。
 唯一の武器を封じられたカズキへと、第二の武器である爪を振るわれる。
 それでもカズキは、まだ真っ直ぐ前へと貫こうとしていた。
 愚直なまでに、ただただ真っ直ぐ突撃を続ける。

「うおおおおおお!」

 叫びサンライトハートへと注ぎ込まれた魔力が変換される。
 火でも氷でも雷でもない、純粋なエネルギー。
 それが口内を焼き払い、痛みに悲鳴を上げた狂犬の牙の束縛を緩めた。
 さらに止められたはずの切っ先が暴れ、振るわれた爪は途中で止まった。
 やがて牙の束縛を離れ、口元から胴体へと魔力により膨れ上がった体を切り裂いていく。
 その先に待つのは発動状態のジュエルシードである。

「Eine Versiegelung」

 封印と呟いたサンライトハートが、その刃を真っ二つに上下に開いた。
 まるで竜が口を開いたような形となり、刃を支える骨組みまでもを露出する。
 そしてその竜の口の先で摘むようにジュエルシードを捕獲し、刃が再び閉じた。
 竜が宝石を飲み込み、封印は完了。
 その証拠にジュエルシードの魔力は消え去り、狂犬の姿も徐々に縮小されていく。
 魔力のよりどころをなくし、消耗する一方なのだ。
 最後に残されていたのは、お腹を空かしたまま倒れている小さな子犬であった。

「くーぅ」
「よーし、頑張ったな。後で何か食わせてやるから、もう少し我慢な」

 倒れていた子犬を拾い上げ、カズキはまひろにするように高く持ち上げる。
 戦っている間の眼差しから一変、初陣の緊張感は何処へやら。
 今ではすっかり、何処にでもいる普通の高校生の顔であった。

「この様子では気付いてないな」

 シグナムの呟きは、二つの意味を持っていた。
 それはカズキが見せた魔力変換資質。
 シグナムも似て非なる資質を持つが、それは魔力を炎に変換する力である。
 だがカズキの場合は、純粋なエネルギー。
 魔力変換資質を持つ者は少ないが、あのような光のエネルギーとはまた珍しい。
 それはこれからカズキが戦っていく上で、大きな力となる事だろう。
 そしてもう一つは、シグナムが傍観を決め込む事になった理由でもある。
 上空にてこちらを伺う鷲型の化け物と創造主、そして正体不明の少女であった。









 一度は逃げ帰ったと見せた創造主は、鷲型のホムンクルスの上で全てを見ていた。
 もちろんシグナムが睨んだ通り、敵戦力の確認という意味もある。
 だがその本当の目的は、ジュエルシードにより変質した子犬の観察であった。
 ジュエルシードは膨大な魔力により、生き物を変質させる。
 進化でも変化でもなく、全く別のものへと唐突にだ。
 それこそが、創造主が求めるジュエルシードの力であった。

「本当に見たかったのは、人間が変質する様だが、まあいい」
「創造主、この者はどうされますか?」
「んー、見たところこちらに敵意はないようだけど」

 お互いにアクションを見せなかったからこその同席であった。
 改めて創造主が視線を寄越すと、少女の方も僅かに振り返り視線を返してきた。
 方や創造主は学生服にパピヨンマスク、挙句に鷲型のホムンクルスの上。
 一方の少女も負けてはおらず黒マントに、同じく黒の肌に張り付く上着にミニスカート。
 グローブにブーツ、ニーソックスに至るまで黒一色、あげくに仰々しいデバイス。

(怪しい奴)
(怪しい人)

 お互い様な感想を抱きあっているとは、思いもよらず。

「ゴホッ、風が冷えてきたな」
「大丈夫?」

 創造主が見せた苦しげな咳にとある人を重ね合わせ、思わずといった感じで少女が訪ねた。

「別に。鷲尾、帰るぞ」
「仰せのままに」

 機嫌を損ねたように創造主はぶっきらぼうに命じ、鷲型のホムンクルスに乗り去っていく。
 それを見送った少女は、静かに瞳を閉じて念話を飛ばした。
 手に持つデバイスとは別の、もう一人の相棒へと。

『アルフ、記録は?』
『ばっちり、ジュエルシードが子犬に憑依してからずっとね。ちょっとあの子には可哀想な事をしたけど』
『アルフは優しいね。でも、きっと大丈夫』

 少女は今一度はるか地上を見下ろし、子犬を掲げているカズキを見下ろした。
 つい先程までその子犬に襲われたというのに、抱き上げて笑っている。
 きっと子犬をそのまま見捨てず、連れて行ってくれる気がした。
 空腹時の願望にジュエルシードが反応したようだが、きっとこの後でお腹一杯食べられる。

『それならきっと、悪くない結末だと思う』
『だね。胸糞悪い仕事だけど、こんな結末なら悪くない』
『ごめんね、アルフ。嫌な仕事をさせちゃって』
『フェイトは悪くないよ。悪いのは……あー、もう帰ろ。なんだか私もお腹空いてきちゃった。ご飯、ご飯!』

 相棒の子供のような声に少女は、フェイトはクスリと笑い頷いた。
 そして別の場所で相棒と合流する為に、創造主とは逆方向に飛んでいった。









-後書き-
ども、えなりんです。

たぶん、戦闘よりもまひろを書いている方が楽しかったw
まひろの細かい行動までプロットにあるはずもなく。
勝手に動いてくれました。
まひろは平時からこれなので、アリサ達は常に気が気でない感じ。
特に精神年齢が高い三人は、構いまくりにもなります。

あと、原作と同じようにシグナムに向けて飛んだジュエルシード。
原作と同じようだけど、原作準拠とかではないですよ。

それでは次回は土曜日です。


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