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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第三十九話 本当に、ゴメン
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/16 21:59

第三十九話 本当に、ゴメン

 海鳴市の臨海公園、早朝にも関わらず防波堤の直ぐそばにカズキ達の姿があった。
 決戦に参加するシグナムとフェイト、見送りに来たのはまひろやなのはにアルフ、そして八神家の面々だ。
 じわじわと熱くなる日差しの下、特にカズキは緊張感を隠せずにいる。
 昨晩、ユーノから二つの情報を貰っていた。
 一つは白いジュエルシードがアレキサンドリアの手により完成した事。
 もう一つは、管理局とヴィクターの戦いが佳境に迫っている事。
 それはカズキの決断を行動に移す為の引き金にもなっていた。

「お兄ちゃん?」

 詳しい事を聞いておらず、また理解もしていないまひろが不安げに呟いた。
 そんなまひろを安心させるように、アルフが後ろから両肩に手を置いてはいるが効果は薄い。

「まひろ、お兄ちゃんはちょっと用事で出かけてくる。またアルフさんの言う事を良く聞いて待っていてくれ。父さんと母さんも、しばらくしたら帰ってくる」
「お父さんとお母さん帰ってくるの? じゃあ、まひろは良い子でいるね。お兄ちゃんも、皆で御飯食べたい」
「そうだな、良い子でいるんだぞ」

 カズキに撫でられ、満面の笑みで頷いたまひろ。
 その姿を見てカズキの決断を知る者は、瞳をそらしたくなるような光景である。
 恐らくはこれが兄妹にとって、最後の別れとなるかもしれない。
 各自、カズキの決断を聞いて散々悩み、時に考え直せとも言ったが変えられなかった。
 次元世界全てを見れば正しいのはカズキだと分かってはいるが、感情が納得できない。

「両親が帰ってくるまで、私がちゃんと面倒見てるから。フェイトも、気をつけて」
「うん、アルフ。まひろをお願い。はやて達も時々で良いから、まひろを見てあげてね」
「いっそ、家で預かってもええんやけど。シグナムは、カズキさんの事をしっかり守らなあかへんよ。言われんでも、分かってるやろうけど」
「はい、もちろんです。ヴィータ、お前達は私が居ない間に主の事を頼む。大丈夫だとは思うが、管理局の誰かが暴走しないとも限らない」

 アースラにも決戦の参加の要請が来てから、はやて達も一時家に帰されていた。

「まひろも含めて、全員まとめて面倒みておいてやるよ」
「気をつけて、もちろんカズキ君も」
「後悔なきように、戦って来い」

 名残惜しさを残さぬように、寧ろヴィータ達はカズキを後押ししていた。
 奮い立たせるようなそんな言葉に、カズキもしっかりと頷いて返す。
 口々に別れの言葉、特にカズキへは最後の言葉を交わしあう。
 残り短い時間を少しでも有効に使っている間に、お迎えはやってきた。
 カズキとシグナム、そしてフェイトの三人を包むように、足元に魔方陣が浮かびあがる。
 淡い緑色の魔力光を放つそれに包まれ、カズキ達の姿が転送されていく。

「じゃあ、行って来る」

 その言葉を最後にカズキの姿は消えていった。
 見送り側のなのは達の目の前に広がるのは、夏が待ち遠しそうに小波を繰り返す海。
 今生の別れを経験し誰も言葉を発せない中で、耐え切れないようにまひろが泣き始めた。
 たった一人、真実を知らないながらも感じ入る物があったのだろうか。
 泣きはらすままにその場に座り込み、膝の間に顔を埋めて震え始める。

「行っちゃった。お兄ちゃん、行っちゃった……」
「まひろちゃん」

 思わずと言った感じで名を呼んだなのはのみならず、皆も同じ事を感じていた。
 もしかすると、詳細は兎も角として何かしら知っていたのではないかと。
 その上でカズキを安心させる為に、何も知らない振りをしていたのか。
 本当のところはまひろの胸の内にだけであった。










 次元世界ニュートンアップル。
 そこにあるアレキサンドリアの研究所へと、五人は訪れていた。
 張本人であるカズキと、何時までも待つと決めたシグナム。
 決戦に参加する事はないと諭されながらも、最後まで見届ける事を決めたフェイト。
 決断を迫られたのは何もカズキだけではなかったという事だ。
 それから管理局代表として付き合いの浅くないクロノが、ユーノも同行していた。
 出迎えたのは脳髄のみの姿のアレキサンドリアと、何処か感情を押し隠したようなヴィクトリアであった。

「白いジュエルシード、完成よ」

 アレキサンドリアの脳髄が取り囲むあまり広くない一室。
 部屋の中央に地下から競りあがるようにして現れた台座にそれはあった。
 以前見た時よりも、純白の純度が昇華された様子を受ける白いジュエルシード。

「黒いジュエルシードに重なるように胸内に押し込んで。それで黒いジュエルシードの力は相殺されて、無力化する」

 アレキサンドリアはそこで一度言葉を区切らせた。

「誰に使うか。武藤君、決まった?」

 未だアレキサンドリアもヴィクトリアもそれは尋ねてはいない。
 彼女達は、ヴィクターを元の人間に戻す為にこの研究を続けてきたのだ。
 しかしカズキが地球にて黒いジュエルシードを胸に収めて、かつ発動してしまった。
 胸中ではヴィクターを一番に思っているだろう。
 だがカズキを自分達の研究の被害者と見るのならば、口を噤まずにはいられない。
 一体どの様な決断をと彼女達が全てを受け入れる覚悟の中で、カズキは一つ頷いただけであった。

「そう、では受け取って」

 カズキが今この場で白いジュエルシードを使っても、覚悟はできている。
 そんな気持ちを押し隠し、受け取ってくれとカズキを促がした。
 台座の白いジュエルシードを安置していた強化ガラスも外されていく。
 研究後、初めて外気にさらされる白いジュエルシード。
 それに手を伸ばし、カズキは間違っても落とさないようにしっかりと握り締めた。

「よし、これで準備は整った」

 この白いジュエルシードをどう使うか、カズキは決断してここへ来た。

「そう、それが君の……武藤君」

 白いジュエルシードを見つめたまま、胸に収める様子のないカズキを見てアレキサンドリアが呟いた。

「こんな大変な事に巻き込んでし……まっ……て。本、当に……ごめんな、さい」

 途切れ途切れの苦しそうな声の中、アレキサンドリアの脳髄が崩れ落ちていった。
 培養液か何かに満たされた水槽の中で塵と貸していく。

「アレキサンドリアさん!?」
「細胞の限界……研究の為とはいえ、脳髄を多くクローニングして尚且つ酷使した結果だと思う。彼女は多分、それを理解していたからカズキに……」
「アレクさ」

 意味がないとは分かりつつも、水槽に駆け寄ろうとしたカズキの前にヴィクトリアが立ちふさがる。

「用は済んだでしょ。さっさと出て行って」

 カズキ達に向けられたのは拒絶の言葉と視線。
 彼女だけは最初から、アレキサンドリアとは違い友好的ではなかったのだ。
 ただ最後が近いアレキサンドリアの意をくみ上げ、協力していたに過ぎない。
 元家族であったシグナムですら例外ではなく、彼女は出て行けと行っていた。

「行くぞ、カズキ。もう、そんなに時間は残されていない。照星さんを中心に組んだ討伐隊にも限界が近い。もう決戦場で残された局員の残りも少ない」
「ああ、分かった」

 今はまだ何も言ってあげられる言葉はないと、皆が外へと足を向ける。
 例外は一人、彼女の元家族であったシグナムであった。
 一人皆と逆行するように、拒絶を示したヴィクトリアの目の前に立つ。

「何よ」
「私は、何も覚えていない。それが改造を受けた結果なのかは分からない。だが後日、良ければ教えてくれ。私達がどう暮らしていたのか。どれだけお前達を大切にしていたのか」
「それを知ってどうするの? 一度壊れた物はもう戻らない。私の家族は、もう戻らないの。不愉快だから、出て行って。もう、二度とここには来ないで」

 向けられたのは換わらぬ拒絶、それでもとシグナムはこう口にした。

「また、来る」

 それからようやく背中を向けたシグナムへと向けられたのは、

「馬鹿……来るなって言ってるでしょ」

 シグナムに辛うじて届かない、小さな呟きであった。









 山にも匹敵する巨大な姿となったヴィクターに向けて、獣の咆哮が叩きつけられる。
 バスターバロンと同じく、第一種稀少個体。
 もはや虫という範疇ではおさまらず、竜と表現した方が良い召喚虫である。
 管理局でも有数の召喚士であるメガーヌの切り札、白天王であった。
 その名の通り、白い甲殻に覆われた体にて、三本の爪を持つ豪腕を奮って襲い掛かる。
 ヴィクターはその豪腕を真っ向から手の平で受け止め、地面を踏みしめ砕きながら耐え切った。

「化け物、か。照星さんのバスターバロンでも押し切れないはずよ」
「そろそろ白天王も活動限界でしょ、次の交代は……」
「もはや、その余力が管理局にはない」

 白天王の肩の上で、崩れ落ちそうなメガーヌをクイントが支える。
 こうして巨頭が拳を突き合わせル間も、エネルギードレインの影響下にあるのだ。
 どちらが支えられているのかも分からない状況で、交代要員を求めるのは仕方がない。
 だが返って来たのは、ずっと二人を護衛していたゼストの口惜しげな言葉だけであった。
 ヴィクターとの決戦が始まって、もはや一週間以上経っている。
 照星は十二時間戦い、後に六十時間程の休息をとっていた。
 もちろんその間は他の局員が埋め、ヴィクターは延々と戦い続けている。
 その繰り返しを幾度か経ているものの、相手に疲れとう文字はまだ一向に見えてはこない。

「まともに残っている戦力は、私達と照星さんの主戦力のみ。立て、メガーヌ。我々の役目は、少しでも多くヴィクターの余力を削る事」
「過去の負の遺産とはいえ、最高評議会もろくな事をしないわね。尻拭いをするこちらの気にもなって欲しいわ。もう、いないけどね」
「白天王、これが最後の一撃よ」

 未だ片腕をヴィクターに受け止められた状態で、白天王が逆の腕をくり出した。
 今再び、それも受け止められては大地を揺るがす。
 しかし、それこそがメガーヌの目論見通り。
 白天王は両腕を押さえつけられた状態だが、逆に見ればヴィクターもそれは同様。
 お互いに身動きが取れない近接状態、そこで白天王の切り札が切られた。
 弱点の一つでありながら甲殻に覆われてはいない腹部。
 そこの表皮が捲れるようにして、紫色の丸い水晶体が露となった。
 光が溢れる、紫色の魔力光が白天王を包み込み、腹部の水晶体の前へと集束していく。
 当然の事ながらヴィクターがその渾身の一撃に気付くも、両腕は依然として組まれたまま。
 白天王自身、逃がさないとばかりに逆に掴まえ大地を踏みしめて堪える。

「これが最後の一撃、喰らいなさい!」

 世界を埋め尽くす程の紫色の閃光が、腹部の水晶体を中心に広がり迸った。
 殲滅級の威力を誇る砲撃。
 人間では決して至る事のできない威力の砲撃が、ヴィクターを貫いた。
 その余波だけでも、元々あったクレーターを一段も二段も深く彫り上げていく。
 砲撃による激しい魔力光がおさまった次の瞬間、彼女達の前に現れたのは半身を失くしたヴィクターの姿であった。
 片腕から肩口より先、胸の半分に至るまで消滅させられた無残な姿。

「ついにやったか!」

 ようやく見えた決戦の終わりに、普段は二人を諌める立場のゼストが喜色の声を上げる。

「オオオオッ!」

 だが次の瞬間、耳をつんざくような声をヴィクターが上げた。
 瞬く間という表現はまたにこの事。
 吹き飛ばし消滅したはずのヴィクターの半身が、一瞬にして復元されていく。

「そんな……」
「メガーヌ!」

 まさかの光景に、疲労と緊張の糸が切れてメガーヌが倒れこむ。
 慌ててクイントが支えようとするが、そんな同様の暇もヴィクターは与えようとはしない。
 白天王を睨みつけ、開けられたヴィクターの大口の前に魔力が集束する。
 まるで先程の白天王の行為を真似るように。
 黒い色に染め上げられ集束した魔力の塊が、砲撃となって白天王に襲いかかった。
 黒い魔力の本流に明確に死を連想させられた彼女らの前に、それは現れる。

「バスターバロン、右腕兵装解放!」

 空より落ちるように飛来した、鋼鉄の巨人。
 その巨人の右手の平に穴が空き、六角形の円盤のような物が飛び散り白天王を取り囲む。
 一つ一メートル四方、その円盤が集まり壁となり絶望を込めた魔力が散らされる。

「照星さん!」
『ご苦労様です、貴方達は下がってこの戦いの行く末を見守ってください』
「あれって、キャプテン・ブラボーの……」
『驚く事ぁねェ。これがバスターバロンの特殊能力。左右の肩にあるコクピットに搭乗している魔導師の能力を形状から特質まで丸ごと全部増幅する』

 なんでも有りがここにもいたと、死から解放された安堵も加わりクイントが額を押さえる。
 やがてメガーヌの意識が途絶えた事で白天王も、送還されゼストに支えられて二人も退却していった。
 部下が安全に退却したのを確認して、ようやく照星も目の前のヴィクターに集中し始めた。
 連戦に継ぐ連戦で疲労してはいるが、それは本当の意味で絶えず戦ったヴィクターも同じはず。
 もはや合間を埋める事のできる局員が居ない以上、もう後がない。

『照星さん、ヴィクターの攻撃は全て俺が防ぐ』
『攻撃は俺に任せておけ。五千度の炎で奴を本当の意味で消し炭にしてやるぜ』
『頼みます、私はバスターバロンの動きにだけ全てを注ぎます』

 後がない以上は、相手の体力を削ろうという出し惜しみはもう一切なし。
 体力ではなく、命を散らす為に三人は全力を注ぐ事に決めた。
 ヴィクターが再度、集束させた砲撃をバスターバロンに向かって撃ち放った。

『シルバースキン!』

 バスターバロンの周囲を飛んでいた六角形の金属板が、一枚の布となってバスターバロンを覆う。
 衝撃も余波すらも全てシルバースキンが受け止め、バスターバロンが一歩を踏み出した。
 大地を砕きながら振り上げた鋼鉄の拳が、灼熱の炎を纏う。

『ブレイズオブグローリー!』

 先程の白天王の一撃のようにヴィクターが手の平で受け止めようとする。
 だが五千度の炎を纏った鋼鉄の腕は、止まらない。
 触れた先から溶かし、消し炭に変えていくようにヴィターの腕を破壊していく。
 さすがのヴィクターも、一時後退をしようとするがその暇は与えられなかった。
 ヴィクターが退けば、バスターバロンもそれだけ、それ以上に踏み込む。
 エネルギードレインを行なう暇さえ与えないように、炎と化した鋼鉄の拳のラッシュは続く。
 辛うじてヴィクターも反撃を行なうが、それらは全てシルバースキンに退けられる。
 一度は破っておきながら、長期戦を考えてデバイスを手にしなかった事が仇となっていた。
 これまでは白天王のように目の前の相手や周りの局員からエネルギードレインをすればよかった。
 だが目の前のバスターバロンは愚か、コクピット内の三者はシルバースキンに守られている。
 さらにこの次元世界は石ころばかりで有機生命体がいない。
 対象者がいなければ、エネルギードレインもさほど脅威とはならないのだ。
 ヴィクターが己の失策を悟る間にも、炎の拳は次々に着弾。
 片腕は今再び消し飛び塵に返り、巨躯のあらゆる箇所に傷跡が残り始める。
 エネルギードレインを防がれ、修復が全く追いついていないのだ。
 かつてない好機、そう判断した照星が最後の切り札を切った。

『ガンザックオープン!』

 背中を追おうマントがはためき、隠されていた噴射口が露となる。

『ナックルガードセット!』

 炎の拳、その甲にあったナックルガードが拳の前にその位置を変えた。
 両の拳を重ね合わせ、前に突き出す格好となる。
 次の瞬間、背中に現れた噴射口が火を噴き、バスターバロンが突撃し始めた。
 爆発に文字通り背中を押され、一つの弾丸となってヴィクターに襲いかかった。
 元から至近距離、とても回避が可能な間合いではない。
 最後の最後までとっておいた切り札による奇襲、ヴィクターはそれを真っ向から受けた。

『ロストロギアに翻弄された魔人よ、塵と帰れ!』

 照星のその言葉と共に、ヴィクターは体の中心よりひびをいれられ貫かれる。
 灼熱の炎も合わさり、細胞の一つとて残さぬぐらいに粉々に吹き飛ばされていった。
 一週間以上も戦い続けた果てにしてはあっけない程に。

『A-MEN』

 そして照星はヴィクターもまた被害者の一人として冥福を祈る言葉を残す。

「それは自分に対するお祈りか?」

 まさかの声は、バスターバロンの目と鼻の先からであった。
 使い終わりひびが見えるナックルガードの上、そこに立つのは塵と化したはずの魔人。
 ヴィクターが変わらぬ姿で、肩にアームドデバイスである大戦斧を肩に掲げていた。

『ヴィクター、第三段階の本体!? じゃあ、さっきまでの姿は……』
『幻影……いや違う、魔力を元にした擬態。長期戦を見越し、デバイスを手にしなかったのもそれだけは擬態で構築できなかったからか!』

 真実を知ったところで、とき既に遅し。
 ヴィクターは油断した照星達の目の前で、大戦斧を頭上に掲げていた。

『すみません、防人それに火渡。謝罪はあの世で。全艦、アルカンシェルを一斉照射!』
「フェイタル、アトラクション!」

 閃光が、次元世界を穿つ。









 後から合流したパピヨンとアリシアを新たに加え、カズキ達が決戦場にやって来た時は既に遅かった。
 元から石ころだらけであった次元世界が、すり鉢状に抉り取られていた。
 といっても、そのすり鉢状が地平線の彼方にまで続いている為、一目では状況が理解できない。
 アルカンシェルという兵器の説明をクロノから受け、推測交じりでの事であった。
 命の存在しない次元世界を選んだのは、何もエネルギードレイン対策だけではなかったようだ。
 照星だけでなく、恐らくはブラボーや火渡も承知の上での事なのだろう。
 まだ暴風が収まらない空から地上を眺め、カズキ達は言葉もなく見下ろすしかなかった。

「ブラボーのおじちゃん……あの炎の人も」

 時空歪曲による対消滅の戦艦砲撃。
 照星達の役目は、命を投げ出した上での足止めであったのだろうか。
 これでヴィクターも消滅していたのなら、カズキは自ら犠牲にならずとも済む。
 そんな考えが浮かびそうになるたびに、カズキは被りを振った。
 間違っても命を掛けた男達の戦場で、そんな自分本位な考えを浮かべたくなかったのだ。
 誰もがカズキと同じ事を考えそうになるなかで、すり鉢状の大地の中心点が揺れた。
 くり貫かれた大地の下から盛り上がり、何か巨大なものが出てこようとしている。
 次の瞬間、現れたのは背中を大きく抉られたバスターバロンの姿であった。
 半死半生、機械の体で何処までその言葉が通用するかは分からない。
 だがこれでブラボー達が生きている可能性がと思った所で、バスターバロンが放り投げられた。
 ぞんざいに荷物を放り投げるように、その巨体の下からある人物が現れる。

「はあ、はあ……辛うじて、生きながらえたか」

 肩で息をし、疲労と精神的苦痛から大量の汗をかくヴィクターであった。

「そんな馬鹿な……アルカンシェルは時空を歪曲させ全てを消し飛ばす。生き延びる事なんてできるはず」
「いや、そうとも限らない。確か奴の能力は重力」
「まさか、例えデバイスの補助があっても人間の脳に耐えられる計算量じゃ……でもそれなら、歪曲する時空に間逆の歪曲場をぶつけた!?」

 クロノの言葉をパピヨンが退け、ユーノがまさかと言葉を放つ。
 だがどんな理由があろうと、ヴィクターは生きていた。

「クロノ君、ユーノ君。二人は、ブラボー達を頼んだ」

 カズキの言葉に耳を疑い、クロノとユーノは今一度バスターバロンを見た。
 少しずつその姿が薄れ、送還されて消えていくバスターバロン。
 その姿が完全に消えた次の瞬間、三人の人間がコクピットよりはじき出されていた。
 照星、ブラボー、火渡、息があるかまでは不明だが五体満足な姿であった。

「わ、分かった。カズキ……すまない。ユーノ、彼らの退避を手伝ってくれ」
「うん、分かった。カズキ、気をつけて」

 もはや何を喜ぶべきか分からないといった表情で、二人は三人の元へと飛んだ。
 残ったのは、逃亡劇を二手に別れ行なった五人だけである。
 カズキとシグナム、パピヨンとアリシア、そしてフェイト。

「今一度、確認するぞ。武藤が、白いジュエルシードをヴィクターの胸に押入れ人間に戻す。その後で、武藤はこんな人のいない次元世界に軟禁」
「後は蝶野お前が……いや、俺も頭は良くないけど勉強し直す。それで何時か、必ず人間に戻る。その時まで」
「ああ、私は何時までもお前を待っている。まひろの事も、任せておけ」

 お互いに確認するように頷き合う。
 そしてカズキが白いジュエルシードを、サンライトハートの先端に咥えさせる。

「忘れるな、人間に戻れたら。その時こそ、決着をつける」
「忘れないように、早く研究しなおさないとな。何時も赤点、ギリギリだけど」

 少々の軽口をパピヨンとカズキが叩きあう。
 そんな二人、シグナムを含め約束を交し合う三人を見て、アリシアがフェイトを突いた。
 良いのかと、フェイトもまたカズキと何かを約束しなくてと。
 だがフェイトは大丈夫だとばかりに、見つめる事だけに徹していた。
 まひろの面倒を見る事は決めているし、改めてカズキに告げるまでもない。
 自分の気持ちを告げて、これ以上カズキの重しを増やすことはないとフェイトはだたバルディッシュを握るだけであった。

「再び、俺の前に立ちふさがるか。お前も俺と同じく、組織に最殺せよと追い回されたのではないのか?」

 カズキ達を見上げ空へと足を掛けながら、ヴィクターが問う。

「そう叫んで実行した人もいた。けれど、そういった人だけでもなかった。それに俺には守りたい人がいる。その為にならば、幾らでも戦える!」
「ならば、それもまた良かろう。俺はロストロギアの全てを葬り去る。それに関わろうとする全ての人間も」
「ヴィクター、私はお前を止めるぞ。カズキの為に、元家族であったお前の為にも。元主、ヴィクトリアもまたそう望んでいるはず!」
「記憶を取り戻したのか!?」

 この時、初めてヴィクターが動揺を見せた。

「黒死蝶!」

 その動揺に付け込み、目をくらませるようにパピヨンが黒死蝶を放った。
 まさかの隙を付かれ、まともに爆破を喰らいヴィクターが後退する。
 だが距離は開けさせないと、アリシアがその体に戒めの鎖を向けた。

「ストラグルバインド、フェイト!」
「この程度、邪魔だ!」
「バルディッシュ」
「Scythe Form. Blitz Action」

 アリシアの言葉を受けて、フェイトが加速する。
 振り上げられた大戦斧のアームドデバイスを握る腕を斬り飛ばす。

「私はまだ記憶を取り戻したわけではない。だが、取り戻してみせる。ヴィクトリアの為にも。私だけでなく、ヴィータ達とも。在りし日の思い出を」
「何処で調べたかは知らぬが、娘の名を軽々しく口にするな。私が化け物と化した後、あの子がどんな目にあったか。知りもしないで!」
「確かに知りはしない。だが会って、この目で見てきた!」
「会っただと、あの子に……戯言を!」

 片腕を失ったヴィクターへと斬りかかり、武器だけでなく言葉でも応酬する。
 動揺を見越しての言葉ではない。
 ヴィクトリアの為にも、ヴィクターの為にも両者の再会は必要なのだ。
 改造により忘れてしまった家族と言えど、その大切さは有り余る程に知っている。
 新たな家族を得た以上、その大切さは誰よりも知っていた。

「今だ、カズキ!」

 武器なし、片腕だけでシグナムを抑えるのはさすがのヴィクターも不可能であった。
 残りの腕にも傷を付けられ、胸を蹴られてやや仰向けになるように再び後退させられる。

「エネルギー全開!」
「Explosion」
「貫け、サンライトハート!」
「Sonnenlicht Slasher」

 皆が作ってくれた最大の好機を前に、カズキが突撃する。
 サンライトハートの先端には、白く輝くジュエルシード。
 一瞬で間を詰め、それをヴィクターの左胸の中へと突き入れた。
 黒いジュエルシードと白いジュエルシードが反発しあい、光を溢れさせる。
 マイナスとプラス、相反するエネルギーが相殺しあう。
 その余波で苦悶の表情でヴィクターが悲鳴を上げていた。
 黒かった肌が薄れ、蛍火の髪も発光を止め、元の人間に戻っていく。
 そのはずであった。
 だが反発による光が薄れても、ヴィクターの肌は赤銅色、蛍火の髪も健在である。
 その意志もまた健在、左胸に突き立てられたカズキのサンライトハートの切っ先を握り取られた。

「失敗!? けど白いジュエルシードは……」
「フーッ、フーッ。これがお前達の切り札か」

 白いジュエルシードは確かに効力を発揮していた。

「だが第三段階に進んだ俺の黒いジュエルシードを完全に相殺するには幾分出力不足だったようだな!」

 希望が後一歩、及ばずにいた。
 結局カズキがその身を犠牲にしても、ヴィクターを完全に人に戻す事ができなかった。
 死んでいったアレキサンドリアには、決して教える事のできない事実。

「カズキ、一時撤退だ。白いジュエルシードが効かなかった今」
「もう遅い、フェイタル!」

 シグナムが撤退を叫ぶも、ヴィクターに逃がすつもりは全くない。
 そしてそれはカズキも同様であった。
 振り上げられた大戦斧を前に、ほんの少しだけ視線をそらしてシグナムを見た。

「シグナムさん。本当に、ゴメン」

 その言葉の意味をシグナムが察するよりも早く、カズキは行動に移していた。
 もはや白いジュエルシードが意味をなさなくなった今、ヴィクターは誰にも止められない。
 同じヴィクターであるカズキを除いて。

「カズキ、何を!」
「カズキ!」
「カズキのお兄ちゃん!」
「武藤、カズキ!」

 仲間達の叫びは、寧ろカズキを後押ししていた。

「うおおおッ、エネルギー全開!」

 カズキの体が変わる、赤銅色の肌に、蛍火に光る髪へと。
 体に異変が始まってから、この時初めてカズキは自らヴィクター化を望んだ。
 左胸に埋まり、今はサンライトハートと化した黒いジュエルシードをかつてない程に活性化させる。
 アレキサンドリアと初めて会った時、こう説明された。
 黒いジュエルシードとカズキのジュエルシードが共鳴しあって封が解けたと。
 ならば黒いジュエルシード同士が共鳴しあえば、どうなるだろうか。
 元より通常のジュエルシードでさえ、次元震を引き起こす代物である。
 より強化された黒いジュエルシード同士ならば、もはや語るまでもない。

「まさか、貴様!」

 アルカンシェルにより事前に揺るがされた事もあり、世界が悲鳴を上げるように震えた。
 二人を中心に生み出された衝撃が、二人以外を遠くへと吹き飛ばす。
 共鳴を始めた黒いジュエルシードが次元震を引き起こし始めたのだ。
 その力に次元が耐え切れず、ひび割れ破壊され始めている。
 その内の一つ、一際大きなひび割れへとカズキはヴィクターの体を押し付けた。
 何もないはずの空の上で、ヴィクターが確かに壁のようなものに押し付けられる。
 それでも構わずカズキは更に出力を強め、ついに次元の壁を打ち破りヴィクターを押し込んだ。
 虚数空間、そう呼ばれる道の空間へと二人のヴィクターは共に落ちていった。









-後書き-
ども、えなりんです。

ヴィクターVS照星は原作よりもヴィクターを追い詰めました。
管理局にはアルカンシェルって反則技がありますし。
んで、重力で相殺とか突っ込まないでください。
自分、あんまりアルカンシェル良く分かってないので。
図体でかいバスターバロンが盾にもなったのが失敗の一因だったりもします。

ラストのカズキVSヴィクターはちょっと悩みました。
月とかじゃ簡単に回収されちゃいますし……
時の庭園でフェイトがカズキに虚数空間を教えたのがフラグでした。
けれど、同時にプレシアが何を研究していたのかわかりますね?
そういう感じです。

それでは次回は土曜日です。


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