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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/09 22:28

第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?

 坂口照星、それがブラボーや火渡の元上司の名である。
 およそ十年前、照星を艦長に据え、ブラボーに火渡、リンディといった精鋭を集めていた部隊。
 グレアム提督の配下にて、当時闇の書を捕獲するに至った主戦力であった。
 現在当人たちは全く別の道を歩み、それぞれ昇進を重ねていた。
 ブラボーは執務官、火渡は特殊部隊隊長、リンディは戦艦の艦長。
 照星は艦長から提督へと役職を変えていたが、現在は別の役職を兼務している。
 グレアム元提督の代わりに臨時の執務官長長官を務め、ヴィクター対策本部の本部長でもあった。
 そんな彼がカズキ達を含め、案内した先は、この世界の避暑地にある一つの別荘であった。
 他の別荘とは異なり密集地から外れた場所にある一回り大きな建物だ。
 婦女子が殆どの避暑地にて、カズキ達男を隠すにはうってつけの場所であった。
 交友のあるベルカ騎士の名家、グラシア家から一時的に借り受けたらしい。
 そこでカズキ達は、思わぬ人物との再開をさせられた。

「カズキ、皆も無事みたいで良かった!」

 別荘内でカズキ達を出迎えたのは、管理局で捕縛されたはずのユーノであった。
 一瞬、照星への警戒も忘れ、ぽかんとした表情を向けてしまう。
 それから直ぐに我に返り、少し瞳を潤ませたユーノへと駆け寄る。

「ユーノ君、無事だったんだ。ごめん、こんな事に巻き込んで」
「発端は元々僕だから気にしないでカズキ。フェイトやシグナムも、無事で良かったよ」
「それはこちらの台詞だ。火渡に殴り飛ばされたまま、連絡が途絶えていたからな」
「怪我とかもないみたい。また無事に会えて嬉しいよ」

 ばたばたと互いに駆け寄りあい、お互いの無事を確認しあって喜び合う。
 ユーノは特に怪我らしい怪我も見えず、殴られた頬に跡すら見えない。
 寧ろ無事でなかったのはカズキの方で、はしゃぎ声を上げたせいでふらりとよろめく。
 すぐさまシグナムに支えられるが、一先ず応急処置の方が先だろう。

「照星さん、そのカズキ達の傷を」
「ええ、もちろんかまいません。そのつもりで連れて来たのですから。防人と火渡も、各々で傷の手当を……そちらの君、パピヨン君も必要であれば救急箱ぐらいは貸しますよ」
「ふん、そんな物は必要ない。おい、アリシア。治せ」
「はいはい、もう少し……なんとかならないのかなその態度。もう、照星さん? 救急箱を貸してください」

 ユーノが照星へと見せる気安さ、信頼を見てアリシアがまずそう言った。
 カズキも一先ず信頼に足る人物のなのかと警戒を解いて応急手当を行なった。
 その時、比較的治癒が得意なユーノがカズキを治療しようとし、フェイトに止められたのはご愛嬌。
 カズキはシグナムから手厚い治療を受け、ほっとした笑みで笑っていた。
 そういう事かと納得したユーノは、ブラボーや火渡の治療に回る。
 カズキ達の四人ともが応急処置を受け、改めて照星を中心にその話を聞く事になった。

「まず、貴方達が逃避行を行っている間に、我々の間で事情が大きく変わりました」
「事情が変わった?」

 照星の言葉をカズキが繰り返しつつ、先を促がした。

「元々、防人へは三大提督がカズキ君の保護を。火渡へは最高評議会が再殺の命令を出していました。ですが先日、その最高評議会がヴィクターの手により殺害されました」

 殺害と、驚愕するカズキ達へと眼鏡を押し上げながら照星が溜息をつく。

「あれを殺害と称して良いかは議論が分かれるところですが」
「どういう事だ?」
「最高評議会って言えば聞こえは良いが、既に人間じゃねえんだよ。管理局創設時代の中心人物の三人が自らの脳を摘出して電極ブッさしただけの有機物体。知ってんのは極一握りだがな」
「知っていたのなら、もっと早く私に言いなさい」

 タバコを咥えながら、驚くべき事実を口にした火渡の顎に照星の拳がヒットする。
 カチ上げられた火渡は椅子ごと後ろにひっくり返りそうになったが耐えていた。
 顎に手を当て痛がりながらも、反省の色を見せずに寧ろ笑みを深める。

「不条理をぶっ潰すには、奴らの権力って言う名の不条理が好都合だったんだよ。それなりにやばいヤマも、色々と潰してくれたしな。おぉ、痛ェ」

 そう火渡が笑った瞬間、照星の手がその襟首を掴み挙げていた。
 なんだよと火渡が凄む暇もなく、拳の弾幕が次々に顔をあらゆる角度から抉る。

「HAHAHAHAHA!」
「ちょっ、照星さん。折角治したのに、勘弁してあげてください!」
「そうそう、ユーノ君も理不尽に殴られていたはずですね。どうです、一発殴っておきますか?」
「いえ、あの後が怖いので……」

 顔を腫らした火渡に睨まれ遠慮したが、そうですかと再び拳の弾幕が続いた。

「全く、何処まで話しましたか」

 パンパンと白い手袋に包まれた手を払い、事も無げに照星が呟いた。
 その様子を見て、カズキ達はどん引きであった。
 どうやらこの男はそう簡単には怒らせない方が良い相手らしい。
 アリシアはパピヨンの後ろに隠れ、フェイトやユーノは綺麗に背筋が伸びていた。

「元々、ヴィクターはロストロギアを保持する重度の次元犯罪者を次々に殺害して回っていました。どうやら、協力者の影が見えますが……その伝でかつての仲間の事を知ったのでしょう」

 胸で十字を切った照星が、一呼吸間を置いてから最も重要な知らせを口にした。

「昨夜遅くついに、ヴィクターの補足に成功しました」

 かつての仲間を殺害し、少なからず目的を達成し気の緩みが出たのか。

「現在、とある無人の次元世界にあつらえた戦場へと向けて追い込みを掛けています。同時に、最低でもAランクを保持する管理局員全てに招集を掛けています。もちろん、この二人も例外ではありません」

 ブラボーや火渡程の実力を持つ局員ならば、その場合は主戦力となるのだろう。
 それを必ずしも敵に回るとは限らないカズキに対して派遣するのは、戦力の無駄遣いでしかない。
 さらに戦闘をする事で、失いかねないぐらいなら手を引かせるべきだ。
 もちろんそれは、ある程度カズキがヴィクターのようにならないと確信が持てた場合だが。
 少なくとも、資料上ではあるがカズキに対する周りの評価を踏まえ照星は決断した。
 武藤カズキは少なくとも現時点では、脅威足りえない。
 完全にヴィクター化すれば話は別だが、残り二週間の間はまだ。
 それに、カズキにはこの先にまつ彼女の下へと行き、切り札を手にして貰わなければならない。

「よって決戦に参加する全ての局員の任務は只今を持って、全て中止。これよりヴィクターとの決戦が最優先事項となります。そこで武藤カズキ。君にはこれからとある女性達へと会ってきて貰いたい」
「女性、達?」
「僕が前に話した黒ローブにマスクをした人の事だよ。あの後、僕は照星さんにも同じ話をしたんだ。そして、一足先に僕と照星さんは彼女達に会った」

 カズキにとって朗報以外の何ものでない知らせのはずが、ユーノの顔色は優れない。

「ではユーノ君、我々が何時までもここに居ては彼女も来辛いでしょう。外出時に鍵さえ掛けてくれれば、ここは自由にしていただいて結構です。防人、それに火渡。いきますよ」
「照星さん、俺はその名を……」
「うっせえ、負けた奴が自分の名前どうこう偉そうな事を言ってんじゃねえ」
「火渡、貴方も人の事をいえません。最近、どうにもたるんでいるようですからね二人共。決戦を前に久しぶりにみっちり、訓練を付けてあげます」

 火渡がブラボーの尻を蹴り上げれば、照星が火渡の頭を殴りつける。
 どうにも見た目、歳に不釣合いなやり取りだが、それが彼らが十年前に失った姿なのか。
 もちろんカズキ達はそんな事は夢にも思わないが、見慣れないブラボーの姿に目を丸くはしていた。
 そのブラボーが戸口から出際に、カズキへと振り返った。

「カズキ、行って来い。その先に何が待つか、俺には分からん。だが、お前なら何が待ち受けていても正しい道を選び取れるはずだ」
「うん、分かってる。絶対に後悔しないだけの道は選ぶよ。俺は人間だから」

 去っていくブラボー達を見送ってから、ユーノが誰かしらに念話を入れていた。
 恐らくは先程の話に出てきた女性へだろう。
 しばし十分程、思い思いの場所で時間を潰していると、インターフォンが鳴らされた。
 謎の人物にしては、やけに礼儀正しい訪問に事情を知らぬユーノ以外は小首を傾げる。
 一足先に会った事があるユーノが玄関先へと、足を向けてその扉を開いた。
 皆の視線が集まる戸口が開かれた先から現れたのは、一人の少女であった。
 歳の頃はユーノよりも上だが、カズキよりは確実にしたの十三、四ぐらい。
 長い蜂蜜色の髪を幾つかの束に纏めたやや変わった髪型の、大人しそうな少女だ。
 避暑地であるこの次元世界に相応しく、真っ白なワンピースを着てお嬢様然としている。

「ほう……」

 しかし、パピヨンだけはその少女に何か感じ入る物があったようだ。
 何処か感心したかのように、小さく感嘆の呟きをもらしていた。

「ヴィクトリア、あっちにいるのがカズキだよ。アレキサンドリアさんに会わせて貰える?」
「へえ、彼が噂のね」

 大人しそうだった垂れ目気味の瞳が、カズキを見た途端に釣りあがる。
 それから直ぐに屋内の人物へと順次視線をめぐらせ、パピヨンやアリシアにて一瞬止まった。
 パピヨンが感嘆した何かをヴィクトリアという少女も感じたのか。
 そしてフェイトを流し、シグナムを瞳に入れた時、はっきりと動揺を露にした。

「シグナム……」
「私を、知っているのか?」

 だが問い返された言葉に傷ついたように、唇を噛み締める。

「シグナム、この人は」
「別に良いわ。忘れてしまった以上、教えられても迷惑でしょ。私の家族は、百五十年も前に死に別れた。それだけよ。ついて来なさい、ママに会わせてあげる」

 とても歓迎しているとは言い難い言葉と共に、再びヴィクトリアが足を外に向ける。
 一切振り返る事もなく、その足はどんどん進んでいく。
 向かっている先は、グラシア家の別荘とは違い、他家の別荘が密集する方角だ。
 慌ててくつろぐのはここまでと、お茶等の片付けも早々にその後を追っていく。

「ユーノ君、あの子って」

 黙々と先を急ぐように歩くヴィクトリアの背を眺め、カズキがそう尋ねた。
 恐らくカズキが尋ねなければ、他の誰かが即座に尋ねた事だろう。
 黒いジュエルシードの秘密を知るにしては、ヴィクトリアは若すぎる。
 仮にこの先に待つママなる人物が知るにしても、それでも若いと言って良いだろう。
 何しろ黒いジュエルシードが生まれたのは、百五十年も前のはずだ。
 カズキの当然の疑問を前に、ユーノは全てを話しても良いのか少し迷う素振りを見せる。
 だが黒いジュエルシードの秘密を知らせる以上は、避けては通れないかと思い直した。

「彼女の名は、ヴィクトリア・パワード。ヴィクターの一人娘にして、百五十年前にヴィクターを封印させられた闇の書の最初の主。元夜天の王だよ」

 その言葉に誰よりも驚愕を抱いたのは、闇の書の守護騎士であるシグナムに他ならなかった。









 ヴィクトリアに案内されたのは、グラシア家の物とは別の別荘であった。
 そこに至るまでの間に、ヴィクトリアとカズキ達の間に会話という会話はない。
 ただ避暑地を歩いてくる間に、どこぞの名家のお嬢様数名とすれ違った時に、一悶着が起きた。
 ごきげんようと、耳慣れぬ挨拶をされヴィクトリアを含み、同じ言葉で挨拶を返していた時だ。
 お嬢様の視線がカズキに向いた時だけ、挨拶が悲鳴と化したのだ。
 そう、パピヨンではなくカズキだけ。
 そこはヴィクトリアが療養中の自分を見舞って兄とその友人がと誤魔化した。
 どうやら男性に免疫のないご令嬢が多いらしく、咄嗟の事にパニックになったらしい。
 これにはカズキを含み、ユーノも一部納得がいかなかった。
 パピヨンも男であるのに、蝶々の妖精さんとスルーされたのだ。
 ユーノは変装も何もしていない素の状態で、女の子と勘違いされこれまたスルーされた。

「ここよ、ついて来て」

 小話ができそうな場面を挟みつつ、カズキ達はヴィクトリアの案内の元に辿り着いた。
 そこは他の別荘とそこまで大きい違いのないログハウスであった。
 主な違いと言えば、表を飾りたてる花々が少なく幾分質素に見える事ぐらいだろうか。
 ヴィクトリアが鍵を開けて入った中も、殺風景な部屋が向かえ入れるぐらい。
 ある程度、家具等は用意されているが人が生活している気配がない。
 全てはカモフラージュなのだろう。
 ダイニングの壁を埋める本棚にある一冊の本を触ると、本棚が両端に分かれて隠し部屋が現れる。

『さあ、お入りなさい。武藤カズキ君、貴方には全てを知る権利があるわ』

 隠し部屋の中にある階段の奥ではなく、皆の頭にヴィクトリアとは別の女性の声が響く。
 恐らくはその人こそが、ヴィクトリアがママと呼ぶ人物なのだろう。
 この先に全ての真実がと、ごくりとカズキが喉を鳴らして息を飲む。
 我知らず開閉を繰り返していた汗ばんだ手の平が、握られる。

「カズキ……」
「うん、行こう。皆」

 カズキの言葉でヴィクトリアに続いて皆もその階段を降りていく。
 レンガをくみ上げただけの荒い造りの階段が、地下へと延々と続いている。
 最初はただの地下室だと思っていたが、最下層に至るとその考えは少し変わった。
 最下層からは通路が続き、レンガ造りでありこそすれまるでシェルターのようだ。
 薄暗い通路の奥に見えるのは、分厚い金属板を繋ぎ合わせた扉が見える。
 その扉が徐々に開き、向こう側から白く明るい蛍光の光が漏れ始めた。
 光に導かれるようにカズキ達はその歩みを進め、その先にある部屋の全貌を知った。

『初めまして、私が黒いジュエルシードの開発者の一人。ヴィクターの妻にしてヴィクトリアの母。アレキサンドリアです』

 部屋一面に浮かび上がるのは、作成者の精神を疑うような光景であった。
 一抱え程度の水槽一つにつき、一つの脳髄。
 その水槽をご丁寧に部屋の壁という壁に敷き詰め、繋ぎ合わせられていた。
 自己紹介をした念話の発信先も、とある水槽の中の脳髄から感じられる。

『もっとも、シグナムだけは久しぶりというべきなのでしょうけど』
「すまない、私は……」
『ええ、分かっています。貴方は、私達の知っているシグナムとは違う人ですものね。けれどコレぐらい聞いても構わないかしら。ヴィータちゃん達は元気?』
「はい、ここしばらくはバタバタしてますが。新たな主の下で平穏に過ごしています」

 表情は見えないが、念話の声質から何処かほっとした様子が感じられた。
 そんなアレキサンドリアとシグナムのやり取りを見て、皆が火渡の言葉を思い出す。
 管理局の最高評議会は、人の体を捨て、脳髄のみを摘出した姿であると。

「最高評議会の人も、ヴィクターの元同僚。行き着く先の発想は、同じようなものだったのかな」
「だろうな。だが奴らは管理局の創設後、おそらく支配という目的があった。おい、脳味噌。お前の目的は、ヴィクターを元の人間に戻す事か?」

 脳髄に囲まれた部屋を眺め、アリシアが最高評議会と比べそう呟く。
 それには概ねパピヨンも同意したが、そこより一歩踏み込んで尋ねる。
 最高評議会として管理局の権力の大半を握る彼らと違い、アレキサンドリアには人を捨てる理由がない。
 あるとすれば、確かにパピヨンが尋ねた理由が最もであろう。
 一体どの脳髄に視線を向ければ良いか分からないが、カズキ達の瞳に希望が宿る。

『察しが良い子ね。その通りよ』

 衝撃の言葉は、望んだ通りに返って来た。

「それじゃあ、その手段を使えばカズキの事も。それからヴィクターの事も全て解決できるの!?」

 半分言葉を失いかけたカズキの代わりに、フェイトが反射的にそう尋ねていた。

「甘いわね」

 だが皆が浮かべる希望に冷や水を浴びせる一言を、ヴィクトリアが発した。
 思わずと言った感じでフェイトに睨まれるが、笑顔ではない笑みを向けられるのみ。
 嘲笑しているわけではなく、何処か諦めが混じった笑みであった。
 その甘いという言葉が嘘ではない事は、瞳を伏せたユーノが示していた。
 一足先に、照星と一緒にその答えを聞いてしまっているからだろうか。

「ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?」
「え……」

 ヴィクトリアの言葉を聞く限り、その手段もまたロストロギアに頼ったものなのか。

「それは一体、どういう意味だ?」

 突然の冷や水に、冷静で居られなかったのは何もフェイトだけではない。
 自分が不義にも忘れた元主である建前を一瞬でも忘れ、シグナムが睨んでしまう。
 彼女の気持ちを考え、直ぐに止めはしたがその一瞬を見逃す事はできなかった。
 パピヨンに似た尊大な態度が消え、悔しげに唇を噛み締めたヴィクトリアの姿を。

『コラ、ヴィクトリア』
「ふん」

 だが僅かな綻びから見せた本心を直ぐに隠してみせ、ヴィクトリアが視線をそらす。
 そのまま踵を返して、話の途中であるにも関わらず皆に背を向け部屋を後にしようとする。

『ヴィクトリア?』
「ママが望んだから、あの照星って奴もコイツらも案内したわ。後は勝手にどうぞ。私がパパと同じでロストロギアの全てが嫌いな事、ママも知ってるでしょ」

 その言葉を最後に、一度だけシグナムへと振り返ってから部屋を出て行ってしまう。

「パピヨンのお兄ちゃんに引けをとらない、唯我独尊。本人のママを前に、言っていいかわかんないけど」
「おい、最近は貴様もこの俺に対する態度が悪化しているぞ」
「そ、そんな事ないよ。パピヨンのお兄ちゃん、大好き!」

 ギクリと小さな体を跳ねさせた直後、白々しくもアリシアがパピヨンに抱きついた。
 もちろん、鬱陶しいとばかりにべりべりと剥がされたが。

『ふふ』

 そんなやりとりをどう見たかは定かではないが、アレキサンドリアが小さく忍び笑う。

『皆さん、気を悪くしないで。ロストロギアが嫌いという言葉も嘘ではないけれど、少し拗ねてるだけ。大好きだったお姉ちゃんが、自分の事を忘れているものだから』

 うっと痛い所をつかれたと胸を押さえたシグナムを、アレキサンドリアが気にしないでと言う。
 少なからず関わりはあるものの、話がそれそうなところをユーノが促がした。

「すみません、アレキサンドリアさん。カズキ達にもあの話を」
『そうね、今から百五十年前……』

 アレキサンドリア自身、少し話す事を先延ばしにしていたのかもしれない。
 何しろカズキ達が求めている答えを話すには、百五十年まえの真実が不可欠だからだ。
 苦いと言う言葉では言い表せない、辛い過去。
 もちろん彼女にとって愛するヴィクターとの間に生まれたヴィクトリアなど、幸せも確かにあった。
 だがそれを踏まえても、全てを語るには多少なりとも苦痛が伴なう。
 その内容は以前にカズキがブラボーから聞いた話に沿っていたが、内容は当事者であるだけに詳細にまで及んでいた。
 百五十年前、まだ管理局が創設される前の、次元世界の多くを巻き込んだ戦乱期。
 ヴィクターもまた、平和を願ってデバイスを手にした一人のベルカの騎士に過ぎなかった。
 それでも一騎当千、当時のベルカの騎士を見渡しても比肩する者がいない剛の者。
 彼を筆頭にシグナム達も当時主であったヴィクトリアの命を受けて、彼を守り戦争に加わっていた。
 しかしシグナム達が強力な騎士でも、戦争という荒波の中でできる事にも限界はある。
 平和の為にロストロギア、ジュエルシードの研究を行っていたアレキサンドリアの元に訪れるヴィクターの訃報。
 彼女も当時、研究者ではあったが若かった。
 周りの言葉に促がされるように、テストが始まったばかりの黒いジュエルシードの使用に踏み切ったのだ。
 最強の騎士を失う事を恐れた周りも確かに促がしたが、彼女自身も自分の研究を信じていた。
 シリアルナンバー一の黒いジュエルシード。
 それがヴィクターの胸に埋め込まれ、全てが始まった。
 崩壊していく研究所で彼女が最後に見たのは、瓦礫の山と同胞の亡骸、そして変わり果てた姿で自分を抱きしめるヴィクター。
 彼が零す大粒の涙であった。

『私は首から下の体機能を全て失い、意識も七年間失った。目覚めて見たのは、たった一人で私を看護する人間でなくなった娘の姿でした』
「そうだ、百五十年前の話なのにヴィクトリアは私より少し年上ぐらいだ」
「うん、あの子……私やパピヨンのお兄ちゃんと同じか、少し違うぐらい。気配が似てるから、そういう改造を受けてる」
『あの子は私を気遣って何も話しませんが、ヴィクターを封印する為に、家族である夜天の魔道書、シグナム達が改造されたばかりか自身も。恐らくは私の看護代を稼ぐ為にか、単なる人質であったかはもはや知る術はありません』

 ロストロギアが人を幸せにすると思うのか。
 彼女の言葉には、自身や家族が受けた哀しみ全てを込めた言葉なのだろう。
 単純に毛嫌いしているだけではなく、心から憎んでいるのだ。
 百五十年前の戦乱期に全てを失い、あんな幼い頃に一人で戦わなければならなかった。
 化け物と化した父と自らも化け物と化した体で。

「脳味噌の身の上話など聞いたところで、話にならん。それより、貴様の研究の成果。ヴィクター化した者を元の人間に戻す方法をさっさと吐け」
「パピヨンのお兄ちゃん、大好きだからもう少し自重して……」

 彼女の話に誰もが沈痛な面持ちを浮かべる中、マイペースなパピヨンが先を促がした。
 アリシアに遠まわしに注意されるも、何が悪いと顔色一つ変えない。
 病弱なくせに心臓に毛でも生えているかのような振る舞いである。

『そうね。その後、私達は混乱の中で残り二つの黒いジュエルシードを盗み出し、当時無人の次元世界であったここで研究を始めました』

 この次元世界が避暑地化されたのは、その後らしい。
 だがカモフラージュには好都合と、それに乗っかり研究所の上にログハウスを建てたそうだ。

『使えなくなった体を捨て、クローン増殖した脳を繋ぎ合わせて思考を拡大して研究を続けたわ。百五十年を掛けて、まずできたのがシリアルナンバー三を基盤に開発した黒いジュエルシードの力を制御し通常のジュエルシードと同じ力に戻す試行型』

 アレキサンドリアの語る時代背景を経て、ようやく話が核心へと至った。
 シリアルナンバー三、それは今現在カズキの胸に収まるそれだ。
 しかし、力を制御したとアレキサンドリアは言うが、現在は黒いジュエルシードの姿に戻っている。
 それもカズキアが第二のヴィクターと化してしまったおまけつきで。

『性能も強度も実証済み、のはずだったから最終テストとして彼、ユーノ君に託したのだけれど……恐らく二つの黒いジュエルシードの力が内外から共振しあって増幅してしまった様ね』
「あの時。私とシグナム、そしとカズキの三人で、ヴィクターの足止めをした時だ」
「アレか。アレがなければ……」

 思い当たったのは、復活したヴィクターと初めてぶつかった海上での事だ。
 誰も彼もが闇の書から現れたヴィクターに対し、混乱していた時である。
 しかし、特にシグナムはその前に自分達が管理局と敵対した事情があった。
 発端は自分達にあると唇を噛み締めるが、その肩へとカズキが手を置いた。
 発端云々を言えばきりがない。
 あの時シグナム達が、カズキがジュエルシードを追わなければ、ユーノが譲り受けねば。
 ヴィクトリアが、アレキサンドリアが、最終的にそもそも戦争が起こっていなければ。

「誰のせいでもない。ロストロギアに振り回されたのは、誰も一緒だ」
「そうだな。まずは最後まで聞こう、これで終わりにする為にも」

 慰められるシグナムを見て、小さく念話の中でアレキサンドリアが呟いた。

『変わったわね、シグナム……今の主のおかげか、それとも。ヴィクトリアが拗ねたのも、忘れられた事以上に、大好きなお姉ちゃんを取られたからかしら』

 誰にも聞かれる事がなかった呟きの後、アレキサンドリアは一番の核心を語った。

『件の情報を得た私は、試行型から更に研究を進め完全に黒いジュエルシードの力を制御する事に成功しました。それがもう直に、完成するコレ』

 部屋の中央の床が正方形の形に割れ、台座が地下より競りあがってくる。
 その台座の頂点には強化ガラスのケースがあり、中に小さく光る石が一つ安置されていた。
 従来の青でもなく、さらには黒でもない。
 真っ白な何処か神聖さを帯びたようにも見える光を発するジュエルシードである。

『黒いジュエルシードの力を全て無効化する白いジュエルシード。黒いジュエルシードの力をマイナスとするなら、これの力はプラス。二つの力を一つに合わせれば相殺し合い零となる』

 白く、ただ白く輝くジュエルシードを前にシグナムが力がふたりとよろめいた。

「シグナムさん!」
「すまない、少し気が抜けただけだ。しかし、これがあれば……本当に良かった」

 あのシグナムが瞳に涙を浮かべる程に、喜びに打ち震えていた。
 恐らくは家族であるはやて達にすら見せた事のない姿であろう。
 カズキに支えられ、幾度もよろめきすまないと謝っては涙を拭っている。
 まさに支えあうと言った姿を現す二人を見て、フェイトも貰い泣きをしていた。
 おめでとうという、喜びを表す意味と、小さな恋の終わりを耐える意味も含め。
 求め望んだものを前にして喜びを露にする三人とは対照的な者がいた。
 先に全てを聞いていたユーノ、それからヴィクトリアの言葉等から推察していたアリシア。

「答えろ、脳味噌。これは一体何を基盤にして開発した?」

 そして、この場で誰よりも冷静に、全てを見透かすようにしていたパピヨンであった。
 誰よりもヴィクトリアの言葉を正しく受け止めていたと言っても良い。
 その質問の意図を察して、カズキ達三人の喜びも自然と吹き飛んでいた。

『君は本当に察しが良いわね。冷静で、残酷な程に……』

 パピヨンの問いかけが正しかったように、アレキサンドリアが言葉を濁す。

『察しの通り、使ったのは試行型と同じ黒いジュエルシード。三つのうちの最後の一つ、黒いジュエルシードのナンバー二』
「今すぐ一から……黒いジュエルシードの精製から始めて、もう一つ造るのにどれだけかかる?」
『黒いジュエルシードの精製方法はもう百五十年前に失われているの。この老いた脳から完全に再現するのは、残念だけどほぼ不可能』

 アレキサンドリアが評したように、冷静に残酷な問いをパピヨンが繰り返す。
 そこから自然と結びつけられる答えは、察し云々以前に誰でも見えてくる。

「つまり、二人のヴィクターに対し、白いジュエルシードは一つ。元の人間に戻れるのは、ヴィクターか武藤カズキどちらか一人」

 完全に黙り込んだアレキサンドリアの代わりに、その答えをパピヨンが無慈悲にも言葉にした。
 張本人のカズキですら、先程までの喜びは粉々に吹き飛んでしまっていた。
 脳裏に蘇ったのは、去り際にヴィクトリアが残したあの言葉である。
 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う。
 白いジュエルシード、これもまたロストロギアであった。
 その数は一つきりで、これ以上精製する事は不可能。
 ヴィクトリアの言う通り、皆を幸せにする事は絶対にできない。

『白いジュエルシードは完成次第、差し上げます。これをどの様に使うかは、カズキ君。君が決めて』

 答えを得た後に待っていたのは、それを行使する為の決断。
 今度は答えではなく、行使方法をカズキは求められた。









-後書き-
ども、えなりんです。

やっと真実に辿り着いたカズキたち。
まあ、原作のほぼまるコピ状態。
うーん……後半にくるにつれ、クロスの意味合いが薄れてます。
ちょっと失敗したかなあ?

それでは次回は土曜日です。


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