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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/05 20:17
 難攻不落の城、戦う姿のブラボーを目の前にしてのカズキの感想はそれであった。
 こちらからの攻撃は、頑強な城壁により守られている。
 かと言って、攻撃力が皆無というわけでもない。
 むしろ大砲を複数備えており、少しでも気を抜けばその大砲に撃ち抜かれてしまう。
 今まさにシルバースキンのグローブをはめた大砲が、カズキの直ぐ耳元を通り過ぎた。
 空気を撃ちぬく音、振動によってビリビリと痛む耳。
 それらに体が萎縮して動きが鈍らぬように、カズキはありったけの声で叫びを上げた。

「おおおおおッ!」

 裂帛の気合を伴なう斬撃に、衝撃波が周囲に駆け抜ける。
 斬り払おうとした一撃はブラボーの手の平に止められたが、そこでは終わらない。
 息をつく間のない連撃。
 以前よりも小ぶりに、その名の通り剣に限りなく近付いたサンライトハートで斬りつける。
 金属同士が高速でぶつかりあうような異音が鳴り続けていた。
 カズキの一撃の殆どは、時に腕で払われ、時に膝で受け止められる。
 そして刹那の瞬間にでも動きが鈍れば、反対にブラボーの拳が飛んできた。
 今度は完全には避けられず、即頭部に小さな痺れが走った。
 かすっただけで滲んだ以上の血が流れ、紙一重の攻防だという事を示してくれた。
 だがカズキもシルバースキンの前に、何もできていないわけではなかった。
 シルバースキンというレアスキルは無敵でも、ブラボーという人間は完璧ではない。
 刃を丁寧に腕で払いきれない事もあれば、カズキの槍さばきに肩口を突かれたりもする。

(サンライトハートが当たらないわけじゃない。けど攻撃が通らない。かすり傷を与えるような、中途半端な攻撃は全く意味がない)

 ブラボーが防御し損ねる事を願ったような一撃は、シルバースキンで無効化される。
 必要なのは、シルバースキンを弾き飛ばす程に強い一撃。
 それも、腕や足などの末端部ではなく、警戒厳しい人体の急所の箇所だ。

「届け」

 能力の差の一言では言い表せない圧倒的不利な状況に、焦りが浮かぶ。
 カズキは徐々に小さな傷を負っては神経をすり減らし続けている。
 一方でブラボーは一切の傷を負う事なく、優位な立場に立ち続けていた。
 その焦りからカズキは挑まなくても良い危険な賭けへと出てしまった。
 くり出されたブラボーの右の拳に対し、体を半身にして左の肩を差し出す。
 正面から受け止めれば骨折は必死、拳が肌に触れる寸前でさらに左からを内に入れた。
 左肩から背中の表面上をブラボーの拳がすり抜け、薄い肉が波打ち強い痛みを伴なう。
 だがその痛みは唇を噛み締める事で黙殺し、内にむけていた体を一気に開く。
 内側から外へと力を入れられ、ブラボーの腕が弾かれる。

「今だ。届けェェ!」

 がら空きになったブラボーの胸への一本道。
 そこを遮るようにまだ残るブラボーの右腕が立ちはだかろうとするが、カズキの方が早い。
 この場合、サンライトハートがと言った方が正しいか。
 刃が分離するように展開、その中からこの時を待っていたとばかりに輝きがあふれ出す。
 カズキの腕の伸びとエネルギーの刃の伸びが二重に重なり、ブラボーの右腕を振り切る。
 防御は間に合わず、サンライトハートの刃の先端がブラボーの胸を捕らえた。

「ぬうッ!」

 ついに入った決定打を受けてブラボーが唸り、シルバースキンが弾け飛ぶ。
 だが弾け飛んだのは拳一つ分ぐらいの小さな隙間だ。
 もう一撃、そう思ってサンライトハートを退いた瞬間、痛みが走り体が僅かに硬直する。

「痛ッ」

 左肩から背中へといたる肌の上、出血こそしてはいないが火傷をしたように引きつっていた。
 そしてはっと我に返った瞬間には、シルバースキンにあった拳大の抜け道も修復され塞がれてしまった。
 そればかりか、目と鼻の先には迫るブラボーの右の拳。
 世界が一瞬にしてブレたかと思えば回り、カズキは地面を転がされてから殴られた事を知った。

「若いな」
「痛った……踏ん張らずにいて正解。痛いけど」

 学生服を模したバリアジャケットを土で汚し、口の端から流れる血を拭いながら立ち上がる。
 咄嗟に地面から足を放し、自ら飛ばされたのは正解であった。
 口の中は切れて痛いし、体もあちこち、なおかつ頭はぐらつくがまだ戦える。
 頭を軽く振って眩暈を追い出すと、カズキは改めてサンライトハートを手にしてブラボーを見据えた。

(強引な一撃じゃ)
「カズキ、お前の攻撃力はシルバースキンを凌ぐ」

 シルバースキンの帽子部分を被り直すように手の平で押さえながらブラボーが言った。

「だが無理な体勢で放つ強引な一撃では、できてシルバースキンに小さな穴を開ける程度だ。無謀なだけの攻撃では、俺は倒せん」

 今まさに考えていた事を指摘され、ギクリとカズキは胸を押さえかけた。
 息をつく間もない攻防に、結果の見えない攻防に焦れて仕掛けてこの様だ。
 確かにシルバースキンに穴を空ける事は成功したが、ブラボー自身は全くの無傷。
 それどころか、カズキ自身は決定的な一撃を貰うところであった。
 不必要な体の痛みは戦闘を疎外し、本来の動きを奪う。
 結局得たのは小さな希望とは到底釣り合わない体の痛みである。

「そうだ生半可な、中途半端な攻撃じゃ意味がない。攻撃が届かない事も、俺が納得する意味でも。俺の全力全開」

 覚悟を決め、自分自身に言い聞かせるようにカズキが呟いた。
 そして自分の不甲斐なさから負ってしまった怪我や痛みを今だけは忘れる。
 深く息を吸って適度に吐き出すと、地面に手が届く程に体勢を低くして身構えた。
 右足を前に出し左足は大きく下げた場所に据え、変則的なクラウチングスタートの体勢にも見える。
 ジュエルシードをシグナムと共に集め始めてからこれまで。
 地力の底上げとして様々な戦い方を覚えてきたが、カズキの根本は突撃にある。
 今でこそ小型化されたサンライトハートもソードフォームと称するものの、突撃槍である事に変わりはない。
 ならばカズキの渾身の一撃とは、全力全開とは何かと問えば答えは一つだ。
 直線の速さと破壊力で、ブラボーの防御をすり抜け渾身の一撃を叩きつける。
 それこそが、ブラボーの対峙にて得た一つの答えであった。

「来い、カズキ。お前が納得できるまで、何度でも。俺はその全てを受け止める。それがお前の幸せを少なからず奪う俺の責任だ」

 カズキの我が侭を、全て受け止めてくれるとブラボーは言った。
 反射的にありがとうと呟きそうになったが唇を噛み締めて言葉を遮る。
 今その気持ちを言葉にしてしまえば、矛先が鈍りかねない。
 だからその言葉は全てサンライトハートの切っ先に込め、カズキはブラボーを見据える。
 カズキが体の内側の深いところから、心の臓から声を張り上げた。
 空気を引き裂くような声で自らを鼓舞して、カズキは突撃の一歩を力の限り踏みしめていった。
 対してブラボーも自分の言葉の通り、カズキを迎えうつべく拳を握り身構える。
 互いの間にある距離は十メートルにも満たない。
 カズキのサンライトハートを使えば、瞬きする間に零にする事のできる距離だ。
 そして次の瞬間、サンライトハートがエネルギーの帯を放ちながら伸びた。
 石突にある小さな竜の形の刃が、カズキの後方へと。
 サンライトスラッシャーの閃光に見劣りしないスピードで後方の土の中へとめり込んだ。
 土の内部にてエネルギーが爆発し、カズキが今度こそ急加速する。
 自らの足で走り、後方へとエネルギーを噴射する事で二重に加速。

「うおおおおッ!」

 渾身の一撃を示す唸り声を上げ、カズキは右手に持ったサンライトハートを突き出す。
 三重の加速、内部から溢れるように輝いたエネルギーが、刃を前に押し出していく。
 普段の一撃の倍近い加速をつけて、カズキがブラボーに突撃をかけた。
 シルバースキンを弾き飛ばしてもお釣りが来るだけの一撃。
 その一撃がブラボーの胸を寸分の狂いなく捕らえた、はずであった。

「穂先ではなく、石突の方を一気に伸ばし、地盤に撃ち込んでエネルギーの噴射と反動の二つの力を掛け合わせて緩から急へ一気に加速する」

 カズキの行動の全てを、ブラボーが感心したように呟く。

「良く考えた。だが……」

 交差しあう二人の男の影は、一方が突撃槍の穂先に貫かれているはずであった。
 だが影でなく実態を見れば一目瞭然。
 サンライトハートの切っ先はかわされ、ブラボーの左の脇の間で受け止められている。
 さらにカズキの突撃にあわせるようにその胸には右の手刀が付きこまれていた。

「惜しかったな。だがお前は良くやった。自分を納得させるには十分だろう」

 ブラボーの言葉を切欠にして、前のめりに倒れゆくカズキが口から血を吐き出した。
 あばらの隙間をぬって打たれた手刀で肺腑に傷を負ったか。
 あたりの痛みに意識が飛びかけ、ブラボーの言葉が脳内で繰り返される。
 惜しかったが良くやったと、納得するには十分だと。
 確かにカズキは全力を出した、そして結果としてブラボーに敗れた。
 満たされたとはとても言えないが、納得できるだけの戦いではあった。

「カズキッ、何をしている立て!」

 瞼の重みに負けて瞳を閉じかけようとしていたカズキを、奮起させる声が叩きつけられた。
 充足感に満ちて眠ろうとしたカズキをたたき起こす、やや乱暴な言葉。
 だがそこに込められた気持ちは言葉に則さず、カズキを案じる気持ちで一杯だった。
 そうでなければ、サンライトハートを地面に突き刺して倒れこむのを耐えられるはずがない。
 なんどかよろめきつつカズキはブラボーから距離をあける。

「ハァ……ハァ、グッ。シグ……」

 やや虚ろな瞳ながら、耐え切ったカズキに対しブラボーはの瞳は驚愕の色に染められていた。
 何もブラボーは、カズキを宥める為にもう十分だと言ったわけではないのだ。
 カズキの最高の突撃に合わせたカウンターが確かに決まったのだ。
 普通ならばそこで意識は完全に刈り取られ、終わっていたはず。
 そのカズキが息を吹き返させたのは、誰なのか考えるまでもない。

「騎士・シグナム」

 ブラボーの呟きを無視して、シグナムは一目散にカズキへと駆け寄っていた。
 余程急いでいたのか、彼女にしては余裕もさほどない様子で息を乱している。
 先程の立てとカズキを奮い立たせた一言も、無理の一環かもしれない。
 汗にて額に張り付く髪を鬱陶しそうに掻き揚げるシグナムに、カズキも僅かながらに笑みを返していた。

「シグ……」
「喋るな。まずは息を整えろ、瞳を閉じるのは勝った後だ」
「相変わらず、厳しい。けど、なんか嬉しいや」

 だから喋るなと、シグナムは再三注意して、呼吸を整えさせる。

「敵は、ブラボー一人か。今のお前がたった一人にここまで」
「うん、ブラボーは強いよ。シグナムさんに、匹敵する」

 やや言葉を選んだように匹敵と呟いたカズキの言葉を聞いて、シグナムは悟った。
 ブラボーは、シグナムよりも強い。
 戦闘は単純な力比べではない為、何百年と月日を重ねたシグナムより強い者もいて当然。
 もちろんその数は限りなく少ないだろうが、ブラボーはその一人に確実に入る。
 私は烈火の騎士だと驕る場面でもなく、冷静にそれを認めてシグナムはレヴァンティンを手に取った。
 ペンダントから起動状態である剣の形へと変える。

「そろそろ呼吸は整ったな。サンライトハートを手に取って、構えろ。一人が駄目なら二人で、押し通るまでだ」
「二対一か、それでも俺は構わない」

 シグナムが参戦の意志を見せたにも関わらず、ブラボーの帽子の奥の瞳は揺るぎない。
 だが一点違ったのは、懐に手をしのばせとある物を取り出した事である。
 それは待機状態のデバイスらしき、六角形の石であった。

「だがそれなら俺も奥の手を使うまでだ」

 新たなデバイスを手にしたと言う事は、デバイスの二刀流だと推察できる。
 しかしブラボーのレアスキルがある以上、どこまでその意味があるのかは不明だ。
 より警戒を表に出したシグナムの手を、レヴァンティンの柄ごとカズキが握り締めた。

「ごめん、シグナムさん。来てくれたのは凄く嬉しいし、来てくれなきゃ多分倒れてた。けど、手は出さないで欲しいんだ。二人掛かりでブラボーを倒しても俺はきっと納得できなくなる」
「何を馬鹿な事を……お前は、ここで勝たなければ意味がない。人間に戻り、まひろの下に帰るんだ。戦いも何もない穏やかな世界に」
「うん、俺だってそうしたい。願ってる。けれど、それは絶対じゃない。例えどんな結果が待ち受けていても俺は誰も恨みたくない。人である事を止めたくない。だからこそ、俺は無謀でも一人でブラボーと決着を付けなくちゃいけないんだ」
「お前は、私が頼……」

 無理やり口を噤んでシグナムはその先の言葉を押し留めた。
 カズキの瞳を見れば、自棄になどなっていない事ぐらい分かった。
 口にした通り、希望ばかりではなく、その先に絶望が待っている可能性すら視野にいれている。
 どんな結果になろうと、自分を見失わない為に。
 そう呟いたカズキに、縋るような言葉をぶつけても結果は分かりきっていた。
 女として少なからず傷つきはするが、反面普段通りの強情さに笑みが浮かぶ。

「お前と言う奴は、本当に馬鹿だ。自分を曲げる事を知らない。だがそういうところが好ましくもある。好きにしろ、どこまでも付き合ってやる」

 カズキとシグナムの決意を耳にして、ブラボーもそっと奥の手を懐深くに戻した。
 少なくともその奥の手を使えば、確実に勝てるがカズキが納得できない為に。

「シグナムさん、ありがとう。少し下がってて、それとまた借りるよ」
「なに?」

 シグナムを背中に守るようにして下がらせたカズキが、勝手に借り受ける。
 その手に握り締められていたレヴァンティンを。
 ブラボーが懐から新たにデバイスを取り出した事で思い浮かんだ、思い出した手だ。
 今の自分ならば、あの日よりもずっと上手く使えるはず。
 そしてあの時とは違い、今の自分の背中をシグナムが見守ってくれている。

「カズキ、まさかお前」

 蝶野攻爵が死んだ日、何があったかはシグナムも大まかには聞いている。
 自分が連れて行けと手渡したレヴァンティンをカズキがどうしたのか。

「ブラボー、次で最後だ」
「Bogenform」

 カズキがブラボーへと向けて、決着の時を告げる。
 その時機会音声にて呟いたのは、レヴァンティンではなくサンライトハートであった。
 内部に押し込められていたエネルギーが弾け、刃や柄といった部分を吹き飛ばす。
 そのまま再構成を始め、刃の上下がそれぞれ弓の上関板と下関板に。
 エネルギーの塊で両者がつながり一つの弓となり、柄が弦となって張り詰める。
 最後に刃の先端部分が握りとなって、カズキがその手にサンライトハートを手に取った。

「突撃槍、剣に続く、俺のサンライトハートの最終形態。レヴァンティン、頼む」
「Jawohl」

 巨大な弓と化したサンライトハートに、矢となるレヴァンティンを番える。

「エネルギー全開!」

 そして弦を引き絞り、足元に三角形を基調としたベルカ式の魔法陣を敷く。
 エネルギーを迸らさせて、ブラボーへと狙いを定めた。
 そのエネルギーの輝きは、これまでの比ではなかった。
 何故か、その理由は改めて考えるまでもないだろう。
 ブラボーは笑みが浮かびそうになる気持ちを押さえ込み、カズキの後ろへと視線を向けた。
 あの守護騎士が、一人の少女のように胸に手を当てカズキを見守っている。
 カズキにとって様々な意味で、心から背中を預けられる相手だという事だ。

(クライドを失ってから、バラバラになった俺達にはもうないものだ)

 ふいに浮かんだそんな感情を払いのけるように、ブラボーは思い切り足を踏みしめた。
 心を鬼にして、地盤が凹み風がビリビリと吹き上がる程に。
 少しの切欠でどんどんカズキは強くなる。
 今はまだブラボーが胸を貸す程度だが、良くも悪くも小さな切欠はカズキをさらに強くするだろう。
 何時かカズキが絶望を切欠に強くなった時、誰も止められない事態だけは避けなければならない。
 だからこそ、今この瞬間ブラボーはカズキを止める。

「そろそろ、決着をつけよう」

 言葉はもはやさほど意味を持たず、カズキはその言葉に対して一度だけ頷いた。

「撃って来い、カズキ」

 腰を深く落とし、拳を腰に据えた状態でブラボーが促がす。
 拳対弓、一般的な意味での有利不利は明らかだが、躊躇する事はないと。
 そしてカズキが殊更に太陽光に似た輝きを放つ弦を引き絞った。

「輝け、隼!」
「Sonnenlicht Falken」

 ついにカズキが弦を手放し、輝かんばかりに光を振り撒く矢を撃ち放った。
 シグナムの炎の隼に見劣りしない、光の隼。
 太陽に向けて飛ぶのではなく、太陽そのものになって突き進む。
 大きく翼をはためかせ爆風で大地を抉り道を造りながら、ブラボーへと一直線に。
 そんな太陽そのものとも言える光の隼を前に、ブラボーは避ける素振り一つ見せなかった。
 これは単純に勝敗を決める為の勝負ではないからだ。
 どちらが勝っても負けても、カズキが納得できるだけの戦いをするのが第一条件。
 勝利条件は圧倒的にブラボーが不利だが、それでもと拳を握り締めて正面から迎え撃つ。

「一撃必殺」

 爆発させるように大地を蹴り上げてブラボーが前に飛び出した。
 そして拳を唸らせ愚直に、ただ真っ直ぐに光の隼へと向けて拳を突き出す。
 大気を穿ち震わせる程の一撃を叩きつける。
 衝撃が足元から膨れ上がり、大地にクレーターを造りながら広がっていく。
 渾身の一撃同士は全くの互角。
 輝く隼はブラボーの正拳の一突きにより、受け止められていた。

「ぐっ」

 ブラボーがうめき声をあげると共に、両足を肩幅以上に開いて大地にめり込ませた。
 その足は、僅かずつではあったが後退させられ、かかとに土を盛り上げていった。
 輝く隼の嘴を受けて、拳を手袋として包むシルバースキンが震えている。
 衝撃を受けて硬質化、力尽きた部分から六角形の破片となって散らばっていた。
 既に振り切った右の拳には支える以上の力はなく、ブラボーは咄嗟に拳を開く。
 それでまた少し後退させられたが、右手に加え左手もまた追加する。

「うおおおおッ!」

 一瞬でも気を抜けば貫かれる。
 全力で受け止めにかかるが、輝く隼の勢いは少しも衰える様子がない。
 そしてついに両腕を覆うシルバースキン、特にグローブ部分が弾け飛んだ。

「馬鹿な……」

 ブラボーの両腕をも弾き飛ばしてなお、輝く隼は止まらなかった。
 城門となる腕を力ずくで開門させ、そのままブラボーの胸へと突き刺さる。
 だが流石にいかに強力な一撃と言えど、限界はあったらしい。
 シルバースキンに包まれた腕を弾き飛ばしはしたが、勢いそのものは削がれていた。
 貫いた胸部分のシルバースキンを弾き飛ばしたが、拳より大きな手の平大の穴を空けるのみ。
 とてもブラボーにまで届く一撃ではなかった。

「うおおおおッ」
「何!?」

 これで終わった、そう一瞬でも緩んだブラボーの意識にカズキの叫び声が割り込んだ。

「Sonnenlicht Slasher」

 輝く隼が力尽きるよりも早く、カズキが突撃してきていた。
 その手の中のサンライトハートも弓の形から剣の形へと元に戻っている。
 最初からカズキの狙いは、渾身の一撃だけでシルバースキンを貫く事ではなかった。
 今ブラボーの胸には、輝く隼が残したシルバースキンの穴がある。
 まずいと思った時にはもう遅い。
 輝きを失いレヴァンティンへと姿を戻した炎の剣の柄頭を、カズキは貫いた。
 一度は失ったエネルギーを注入されたかのように、輝く隼が再び羽ばたく。
 嘴となるレヴァンティンの刃、その先端が押し進んだ。
 シルバースキンに生まれた僅かな穴を貫き、鮮血が迸った。
 そのままブラボーを貫くかと思われたレヴァンティンは、突如その姿を消した。

「Eine Wartezeit Form」

 最後の一突きを拒むように、レヴァンティンは自ら待機形態の首飾りへと変わった。
 まるで望んだ結果はそこではないというカズキの意図を汲むように。
 そのまま地面の上に力なく落ちたレヴァンティンへと、激しく息を乱しながらカズキが呟く。

「ハァ、ハァ……あり、がと。レヴァンティン」

 一歩間違えれば、ブラボーを射殺すところであった。
 ブラボーは胸を刃で突かれたが、出血こそ多いものの戦闘に問題があるようには見えない。
 だがそれで良い、元からブラボーは不利な勝負を承知で全てを受け止めてくれたのだ。
 そんなブラボーを殺してまで先に進んでも意味はない。
 満足だ、全ての力を使い果たし、そして敗れた。
 駆けつけてくれたシグナムにはすまないと思うが、そのまま意識が遠ざかる。

「満足するには早いぞ、騎士・カズキ。俺を超えた以上、お前のゴールはもう少し先だ」

 崩れ落ちそうなカズキの肩を支え呟かれた言葉に、意識が急速に戻される。
 ブラボーはカズキ以上に何処か満たされた表情で、カズキを支えてくれていた。
 戦闘に支障はないとはいえ、それなりに出血しているというのに。
 慌ててカズキもブラボーを支え、共に残り少ない力を出し合い立ち上がる。

「レヴァンティンが待機形態にならなければ、負けていたのは俺だ。極限の力を振り絞りつつ、自らの力で相手をも思いやる。強くなったな、騎士・カズキ」
「俺は、そんな事は。ブラボーを倒す事で頭が一杯で、レヴァンティンが判断してくれなきゃ今頃……」
「お前ならきっと、そう判断させたのは日頃のお前の姿をレヴァンティンが見ていたからだ。その結果、俺は命を救われた。それに俺を超えた、それも俺の本心だ」

 渾身の一撃の二連撃。
 普通なら渾身の一撃は一度撃てば、二度目はない。
 だからこそ渾身、しかしながらカズキはそれを弓と突撃槍の二つの特性でカバーした。
 輝く隼となった一本の矢、それを放った後に追いつく突撃槍の突進力。
 まだまだ拙い部分も多いが、限りなく多くの可能性を秘めたベルカの騎士である。
 そしてその力を支えるのは、あくまでカズキの人間性。
 どんな強大な相手にも諦めず立ち向かい、自分の瞳で全てを確かめようとする強い意志。

「お前なら、この先に何が待とうと大丈夫だと、俺も信じてみよう」
「ブラボー……」

 ありがとうと、認めてくれたその一言に支える腕に力を込める。

「騎士・シグナム」
「はい」

 足元にあったレヴァンティンを拾い、シグナムに投げ渡しながらブラボーが呟いた。

「騎士・カズキを頼む」
「頼まれずとも、私は……私の意志でここまで来た。カズキ、立てるか?」
「いてて……うん、ちょっと辛いけど我慢する」

 レヴァンティンに続き、ボロボロのカズキも受け渡され少しシグナムの方がよろめく。
 打ち身や打撲は数え切れないが、出血と言う出血は多くはない。
 シグナムの未だ拙い回復魔法でも、ある程度までには回復できる事だろう。
 それでも我慢すると口を噤んで耐えるカズキを見て、やれやれと溜息をつく。
 また見違えるように強くはなったが、ボロボロになった事だけは以前と変わらない。
 まだまだ当分の間は、目が放せないなと、強めに抱きしめるように支えた。

「あー、ブラボーは……これからどうするんだ?」

 以前より妙にシグナムの立ち位置が近く、これでもかと押し付けられる双丘。
 嬉恥ずかし、鼻血でまた出血が増えそうだと、赤面しつつカズキは意識をそらすように尋ねた。

「ああ、俺は一度本局へと戻る。ヴィクターがあれからどうなったのか。その前に、火渡を……」
「俺なら、ここだ。チッ、テメェまでなんて様だ。無敵のシルバースキンの名が泣くんじゃねえのか」

 振り返った先にはあの炎の柱は見えず、フェイト達は一体どうなったのか。
 大事になっていなければと思った矢先、その先から歩いてくる人影が複数見えた。
 ぶんぶんと大げさに手を振っているアリシアに、青い顔でふらふらしているパピヨン。
 寄り添うカズキとシグナムを見て、何処か寂しそうに微笑んだフェイト。
 その数歩後ろで、忌々しげにタバコの煙を吹かしている火渡であった。

「火渡、そうか。お前も……負けたか」

 ブラボーの呟きに対し、咥えていたタバコを食い千切りそうな程に火渡が歯軋りする。

「カズキ達も、勝ったんだね」
「達ではなく、カズキがだ。まあ、少し譲ってもらった部分もあるが」
「情けないぞ、武藤。この俺は一人であの火達磨から勝ちをもぎ取ってやったぞ」
「はいはい、さらりと嘘を付かない。私やフェイトがいなかったら、今頃は消し炭だったくせに」

 皆無事で、特にパピヨンは相変わらずでようやくカズキが心から微笑を返した。
 それからシグナムが、この先へ行く許可をブラボーから取った事等を語った。
 フェイトやアリシアが口々にやったねと、カズキと共に喜び、時折パピヨンが水をさす一言を放つ。
 先程までの戦いは既に彼方、わいわいと言葉を交わすカズキ達を眩しそうにブラボーは見ていた。

「俺達にもあんな頃がって顔だな。感情移入は止めとけ。この先にあるのが希望だとは限らねえんだ」
「それでも、騎士・カズキは絶望しない」
「はっ、どうだか。この世は全て不条理でできてるようなもんだ」
「珍しく、二人共に任務失敗かと思えば。そういう結果も悪くはないでしょう。これを機に、貴方達も少しは大人になって上手くできるようになってください」

 突然の第三者の声に、火渡が加えていたタバコをぽろりと取りこぼしていた。
 少なからずブラボーも驚いている様子だが、カズキ達はその比ではない。
 聞き覚えのない声の誰かが突然現れればそれも当然、思わず身構えてしまう。
 紺色の管理局の制服に、何故か幅のあるハット帽子とマントを着込んだ男であった。
 年の頃はブラボーや火渡よりもさらに一回り上だろうか。

「そんなに気をはる必要はありませんよ。私はできの悪い部下二名を連れ戻しにきただけですから」

 穏やかに見えなくもない微笑を見せた壮年に近いその男は、ブラボーと火渡を指して部下と言葉にしていた。









-後書き-
ども、えなりんです。

カズキVSブラボーは微妙にハンデ戦でした。
原作と異なり、無人世界に行く策がある以上、ブラボーに殺す気はなかったですし。
ちょっとこの辺りは私も残念かなと思います。
ブラボーの全力が出せなかったのですから。
ただし、傷もそれほどではないので照星と火渡と共にヴィクター戦に出ますがね。

クロスものは話が長くなるほど、綻びが出ますねえ。
次に何か書くときはそのへんもなんとかしたいです。
では次回は水曜日です。


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