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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第四話 俺も一緒に守る
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/16 23:40
第四話 俺も一緒に守る

 翌日になっても、カズキは延々と頭を抱えて悩み続けていた。
 あまりにもうんうん言い過ぎて、授業中に何度か注意された程だ。
 それでもお昼休みの今でさえ、購買のパンを食べながらもうんうん唸っている。
 まひろの事を思い、一度は頷いたもののそれで直ぐに何もかもを忘れられるわけではなかった。
 魔法について詳しく聞いたわけではないが、きっとシグナムは強い魔法使いなのだろう。
 大蛇を連結刃で縛りつけ斬り刻む姿は、怖ろしくなる程に綺麗であった。
 とても珍しい桃色の髪も綺麗で、寧ろ彼女の存在事態が綺麗だ。
 年上の綺麗なお姉さん、気に入っているという言葉は何時でも脳内再生可能である。
 もちろん脳の記憶領域にはお気に入り動画としても保存されていた。

「おい、カズキの奴やべえんじゃねえか? 焼きそばパン食いながら赤面してるぞ」
「何か良い事でもあったんじゃない? カズキ君だし」

 同じ机に椅子を寄せ合う岡倉や大浜にそんな事を呟かれているとも思わず、カズキは違う違うと頭を振り払う。
 シグナムが綺麗なお姉さんなのは事実だが、考えるべきはそれじゃないと。
 いくらシグナムが強くても、女性である。
 怪物退治を彼女一人に任せて良いものか、それにもっと気になる事があった。
 それはカズキを諭す為に、まひろの事を持ち出した時のシグナムの瞳である。
 まるでまひろを誰かに重ね合わせたような、とても優しく寂しげな瞳。
 きっと、カズキにとってのまひろのように、シグナムにも守りたい大切な誰かがいるのだろう。
 自分だけまひろのそばにいて、それで本当に良いのだろうか。

「女、だな」

 何を根拠にそう言い出したのか、六桝が突然そんな事を言い出した。
 それを耳にしてからの岡倉の行動は早かった。
 頭を抱えているカズキの制服の胸ポケットへと、素早く手を伸ばす。
 指先が触れたのはカズキの携帯電話。
 まさか女の影がと、着信チェックは親友の義務であった。

「きゃああ、岡倉のエッチー!」

 だが我に返ったカズキが、胸元に伸ばされた腕を振り払い叫んだ。
 男の癖に痴漢された女性のように胸を隠しながら。

「エッチなんだ」
「エッチな岡倉君」
「岡倉はエッチ」

 教室で叫べば周りには丸聞こえで、あり女子生徒にひそひそと噂されてしまう。

「違ーう!」
「人の携帯を勝手に見ようとするから」

 大浜の注意はもちろん遅く、瞬く間に岡倉エッチ説は広まっていった。
 終わった俺の学園生活とうな垂れる岡倉の肩を叩く者がいた。
 それも女子生徒、かなりの剛の者であった。

「あはは、何時も通り賑やかだねこのクラスは。まあ、これも何時もの事だよ。エッチな岡倉君?」

 どんまいと岡倉の肩を叩いたのは、なのはの姉である高町美由希であった。

「わざわざ他所のクラスから、なのはちゃんの事か?」
「さすが六桝君話が早い。そ、なのはの事。あの子が今日学校休んでるの知ってるでしょ?」

 もちろん、毎日同じバスで顔を合わせているので知っている。
 まひろ達が、メールで本人から休む事を伝えられもしていた。
 だが何故休むのかは、誰も知らないし、聞かされてはいなかった。

「ちょっと昨日から体調崩してて、といっても熱とかあるわけじゃなくて。精神的に疲れてたみたいな。元気はないけど、体に異常はない感じなの」
「ふーん、つまりこの岡倉さんになのはちゃんを元気付けてやって欲しいと。そうか、なのはちゃんの初恋は俺か。照れるが、俺の好みは大人の」
「恭ちゃんとガチ殴り合いする勇気があるなら、止めないけど。違うから。岡倉君達は外堀を生める道具、言うなれば刺身のツマ」

 なにそれと、はりきっていた岡倉の膝が崩れ落ちる。

「俺達が行けば、カズキが来る。カズキが来れば、まひろちゃんが。まひろちゃんが来れば、アリサちゃんとすずかちゃんがって所だろ?」
「六桝君、大正解。曲がりなりにも学校休んでるから、今日はって遠慮されると困るの。なのはを元気付けて欲しいから。そもそも私、あの子達の携帯電話の番号知らないし」
「え、知らないの。なら教えようか? 教える相手が美由希さんなら、何も言わないと思うし」
「いーよ、教えられてもどうすれば良いか分からないし」

 大浜が携帯を取り出すも、美由希は良いからと遠慮していた。
 何故遠慮をと大浜達が首を傾げるのを見て、美由希は逆に大丈夫かといぶかしんでいた。
 いくらカズキとまひろが兄妹で、そのまひろがなのは達と同級生でも普通はあそこまで仲良くはならない。
 男子高校生と女子小学生が、休日に集まって遊んだりする程に。
 毎週ではなく、月に一回あるかないかぐらいなのは、世間的にも許容範囲なのか。

「そういうわけで、お願いね。ちょーっと喋って二、三回なのはを笑わせてくれれば良いから」
「芸人扱いかよ、俺達」
「それじゃあ、よろしくぅ」

 岡倉の悲痛な呟きを無視して、美由希は現れた時と同じように颯爽と帰って行った。
 美由希は美由希で姉の本分を果たしただけで、岡倉達に他意はない。
 だから特に異論はないだろと、岡倉は現在何かしら悩み中に見えるカズキを見た。

「大丈夫、俺も行くよ。まひろ達もお見舞いに行こうかって、バスで話してたし」
「それにしても、なのはちゃんどうしたんだろうね」
「カズキと同じで、怖い夢でも見たんじゃねえか? ま、なのはちゃんが悪夢で脅える分には、さまになるつうか、可愛いもんだけど」
「昨日、お化け工場で騒ぎがあったのが関係してるのかもな」

 心配だねと大浜が呟く、殊更明るく岡倉が茶化すなかで六桝がポツリと呟いた。
 一体何の事だとカズキを含め、岡倉達が見つめる中で六桝は一つ溜息をついてから言った。

「お前等、新聞ぐらい読め。聖祥大付属小学校の近くにある廃工場。昨晩、雷が落ちたらしい。それで消防車が駆けつけれ見れば」

 途中から声をおどろおどろしく変え、六桝が続ける。

「天井は雷のせいで破壊されているのに火の気はない。さらに工場内は電灯が隅々まで点いており、そこにはおびただしい数の人骨が」
「おいおい、大人までが子供のお化け工場の噂に振り回されてるってか?」
「真偽はどうあれ、騒ぎになったのは事実だ」
「ちょっと興味湧くけど、今日は止めようよ。なのはちゃんを元気付けなきゃいけないのに、気分が滅入る話は」

 それもそうだなと大浜の言葉に従い、六桝もその口を閉じた。
 だがカズキはその不可思議な話が耳から離れず、気になって仕方なかった。
 特におびただしい数の人骨のくだりでは、フラッシュバックするようにあの大蛇の姿が思い浮かんだ。

「お、俺ちょっと便所」

 胸騒ぎを抑えきれず、カズキは言葉通り便所に駆け込んだ。
 頭の中でとある美女を思い浮かべて、語りかける。
 一分近く試行錯誤を続けて一昨日の夜に繋がった感覚を思い出そうとした。
 それからまたしばらくして、ようやく気付いた。

「俺、あの人の名前知らない。え、そもそも知らなくても繋がるのか。俺今、すっごい変な奴なんじゃ!?」

 散々お世話になっておきながら、まだ名前さえ聞いていなかった事に。
 さらにはトイレでテレパシーを実行など、高校生にもなって奇怪極まりない行為を実行中。
 少し泣きたくなりつつも執念で念話を繋げる事に成功し、コンタクトを取る事に成功する。
 軽々しく首を突っ込むなと注意はされたが、六桝の話を報告。
 そして良くやったとは褒められ、名前も割りとスムーズに教えて貰う事ができた。
 昼の授業に遅刻するという犠牲を少々払いながら。









 舗装はおろか、獣道ですらない山道を、カズキは上り続けていた。
 普通に生活する分には気付かなかったが、昨日の傷がまだ響いているようだ。
 乱れそうになる息を必死に隠して、先を行くシグナムの後をついていく。
 目指す先は山の中腹にある廃工場、六桝が言っていた事件のあった場所であった。
 廃工場へと続く正規の道には野次馬があふれ、警察が大わらわとなっている。
 だからこうして道なき道を突き進み、目指していた。

「立ち入り禁止のテープが張ってあったけど、大丈夫かな?」
「この街にとってあまりにも大きな事件だからな。恐らく必要な人員をかき集めるまでは、ざるなものだ。というか、何時までついてくるつもりだ?」

 もう用はないんだがという顔を隠しもせず、シグナムが立ち止まって振り返る。

「情報の提供には感謝している。だが私は言ったはずだ。お前は来るなと」
「言われたし、一度は頷いた。けど、シグナムさんにもそばで守りたい人がいると思ったから。だから、来た。その子を悲しませない為に」

 その子とまだ見ぬであろう誰かを指摘され、シグナムがピクリと眉を動かした。
 シグナムが一番守りたい主の事は、当然ながら一言も喋っていない。
 何しろ、カズキには先程聞かれるまで自分の名すら喋らなかったのだ。
 一瞬、何が目的だとカズキの瞳を覗きこむが、その瞳に邪なものは見られなかった。
 あるのは純粋な善意、心の奥底まで澄んでいそうなそんな眼差しである。
 きっと、言葉だけでは止まらないだろうと、シグナムは何も言わずに歩き出した。
 カズキからの伝聞と新聞の記述から、辿り着けば現実の過酷さを知り、選ぶべき道を選ぶだろうと。
 そして茂みをかき分け、地に手をついて斜面を上り、三十分程掛けて辿り着く。
 そこは廃工場の裏手であり、左手に小さな焼却炉、右手に駐車場らしき広場が見えた。
 駐車場には警察車両が数台見られたが、人の気配は殆どしなかった。

「さすがに内部に入るのは危険か」
「屋上からなら? 確か雷で大穴が開いたって聞いた。雨どいでも登って」
「屋上に人の気配はないな。それにしても本当に知らないのだな……ほら、掴まれ」

 極自然に手を掴まれたが、カズキは胸を高鳴らせる暇もなかった。
 何しろ軽くシグナムが地面を蹴る仕草を見せただけで、その体が浮き始めたからだ。
 カズキの体も思いの他、力強く引っ張られて屋上へ向けて飛び上がる。
 思わず叫び声を上げようとしてしまったカズキは、咄嗟に口元を片手で押さえていた。

(わー、わー。飛んだ、そう言えば昨日。落ちた時に拾われたっけ!)

 足が地面につかない不安定さがかなり怖く、かと言って引っ張られている手前、暴れられない。
 それもたった数秒の事であったが、屋上に足を着くなりカズキは崩れ落ちた。
 心の準備もなしに飛ばれ、足がぷるぷると震えてしまったのだ。

「び、びっくりした。足が……」

 シグナムと手を繋いだ感動など、欠片も思い浮かばなかった。
 浮かんだのは大地って素晴らしいという、至極当然の感想である。

「お前は……」
「え、なに。シグナムさん?」
「いや、なんでもない。雷が落ちたのは、あっちか」

 何か言いたげな表情であったシグナムをカズキが見上げると、言葉を濁される。
 そのままシグナムは、屋上にある穴の方へと向かってしまい、カズキも追いかけた。
 雷が落ちたとされる場所は、直ぐに分かった。
 何しろ分厚いコンクリートにぽっかりと大きな穴が空いていたからだ。
 歪な円を描いたその穴は半径が二メートル程。
 凄い破壊力と息を飲みながら、カズキもシグナムに倣い穴から下を覗き込んだ。
 その穴からは工場内がバッチリと見え、警察が必死に隠そうとする全てが見えた。
 まるで喰い散らかしたように地面に散らばる人骨。
 本能的に死を恐れたカズキは、背筋に走った悪寒のせいで危うく穴から落ちかけた。

「少しここで待っていろ」

 青ざめ言葉を失ったカズキを置いて、シグナムが大穴から下へと飛び込んだ。
 全く重さを感じさせない軽やかな動きで、工場内部に降り立った。
 それから軽く周囲を見渡すと、あるものに近付いた。
 散らばる人骨と同じぐらい各所に散らばる砂山の方にである。
 しゃがみ込んでそれらに触れ、一握り掴むと上を見上げてから飛んで帰って来た。

「これを見てみろ」
「砂? でもちょっと違う、何処かで……」
「昨晩の大蛇が死んだ後、砂のようなものになったな。それと同一と見て、間違いない」
「ちょっと待って」

 見せられた砂の正体を教えられ、カズキは今一度穴の中を覗き込んだ。
 砂山同士が重なり合い、正確な数は分からないが十以上は確実にあった。
 それだけの数の錬金術の化け物が、昨晩ここで誰かに仕留められたという事だ。

「俺達以外にもアレの脅威を知って、戦ってる人がいる?」
「だと、良いが……」

 カズキの希望的観測を前に、シグナムは肯定よりも否定的な立場で答えた。
 確かにシグナムはそういう立場になりうる少年と少女を知っている。
 だが、あの二人では恐らく無理だと断じずにはいられない。
 あの少女が魔法を知ったのは一昨日、人喰いの化け物を複数相手にするには早すぎた。
 一対一ならまだ分からないが、数の暴力は一番分かりやすい恐怖だ。
 恐らく運悪く遭遇してしまえば、パニックを起こして食い殺された事だろう。

(私やカズキ、あの少年と少女、そして錬金術の化け物とその創造主。まだ他にジュエルシードを集める者がいる。そして、そいつは間違いなく腕に覚えのある人物)

 わざわざ屋上を破壊したという事は、そこに錬金術の化け物が居た事を知っていたとなる。
 あえて敵の包囲網の中に飛び込み、全て跳ね除け、恐らくはジュエルシードを手に入れた。
 シグナムでさえ、一度は斬り捨てる事に失敗した化け物達を相手にだ。
 いくらなんでも敵が多すぎると、渋面を作るシグナムの目の前に、カズキが立っていた。

「シグナムさん」

 正面から真っ直ぐに瞳を見つめられ、強引に思考の海から引き戻される。
 それ程までに、今のカズキの瞳には力が溢れ返っていた。
 つい先程、シグナムによって宙に持ち上げられ、大慌てした挙句、へたり込んでいたとは思えない。
 実際の実力はさておいて、ベルカの騎士と呼んでも差し支えない凛々しさが見えた。

「俺、やっぱり戦うよ」
「それでも私はこう言うぞ、妹を第一に考えてやれ」
「だったら、尚更引けない。この街にまだジュエルシードがあって、それを探す人喰いの化け物がいる。まひろだけじゃない、六桝やなのはちゃん達が危ない」

 誰かの為に、そう呟くほどにカズキの瞳は力を増していく。

「暴走するような危ないものかもしれないけど、俺は確かに戦う力を持っている」
「三度目の説得はない」
「それでも、俺はまひろ達を守る。これ以上犠牲者も出さない。そして、シグナムさんが守りたい誰かを、俺も一緒に守る」
「レヴァンティン」

 静かに相棒たるデバイスの名を呼び、シグナムはその切っ先をカズキの額に突きつける。
 あと僅か、シグナムがその気になれば、一瞬で頭蓋を割れる距離だ。
 カズキもシグナムの腕前は、一度きりだが知っているはず。
 それでも引かない、カズキはただ真っ直ぐにシグナムを見つめていた。
 自分も戦うと、その折れない意志で持って自分が選んだ選択にしたがっている。

(この戦い、ヴィータ達は参加できない。ジュエルシードに錬金術の化け物、この無差別な脅威がある限り、主のそばから離したくない)

 人手は欲しいとシグナムはレヴァンティンを下ろした。

(確かに危険を孕んでいるが……カズキはそれ以上に、ベルカの騎士として正しい資質を秘めている)

 レヴァンティンを元のペンダントに戻し、首に掛け戻しながら少し笑む。

「今からお前は、ベルカの騎士見習いだ。ただし、絶対に私の命令には従う事を誓え」
「うん、了解」
「分かっているのか。こういう事を二度とするなという事だ」
「あ、痛ッ」

 シグナムが今一度カズキの手をとり、今度は力一杯握り締めた。
 涙目になって痛みを訴えるカズキであったが、それは大げさではない。
 握るのを止め、シグナムがカズキの手の平を上に向ける。
 手の皮が剥けてボロボロになっており、大怪我一歩手前の状態であった。

(これで暴走の危険さえなければ、本当に可愛いものなのだが)

 それはそれ、これはこれとシグナムは語気を強めた。

「二度と私の見ていないところであの突撃槍を使うな」
「いや、違う。これはとりあえず俺の突撃槍にカッコイイ名前をと。一番、スーパーウルトラスペシャル以下略。二番、トンボ切りZ。三番、シンプルに槍。四番、意表をついて剣。さあ、どれ!」
「見え透いた嘘をつくな。激しく、どうでも良い!」
「だってシグナムさんだって、剣を大きくする時に名前叫んでるし!」

 最初は見え透いた嘘も、付き続けられてシグナムが少し言葉に詰まる。
 長年そうし続けてきたので今まで疑問にも思わなかったが、カズキを見て初めて思った。
 一々名前を呼ぶのは、少し恥ずかしい行為であったと。
 色々と考えた挙句、レヴァンティンにも意志があるのだからと自己弁護。
 あれは気合の類ではなく、意志伝達の類だと。

「とにかくだ。人助けの為に、文字通り暴走されてはかなわん。一人の時に無闇に力を使うな。それと、私に守りたい人がいる事を吹聴するな。頼む」

 少しテンパッた時とは違い、最後の言葉はシグナムも特に言葉を選んだようであった。
 何か人に知られたくない事でもあるのか。
 深く追求する事はせず、カズキはシグナムの瞳を見つめながら頷いた。









 改めてカズキが戦いの決意を抱いた廃工場の屋上から、はるか頭上。
 大空の風の中に彼らはいた。
 一体は、黒々とした翼を金属の体躯で支える錬金術の化け物、ホムンクルス。
 鷲型のホムンクルスが滞空しながらその背に背負うのは、学生服を身に纏う青年。
 その一人と一体は、はるか上空から廃工場の屋上にいるカズキとシグナムを見下ろしていた。
 いや実際に見下ろし、その瞳で視認していたのは鷲型のホムンクルスであった。

「男子高校生と成人女性が一人ずつ。男の方は、創造主が通うはずだった高校の制服を着ています。女の方は、これ以上近付けば逆に見つかります」

 通うはずだった、そう鷲型ホムンクルスが言うと創造主は僅かに唇を歪めていた。
 失言だったと、鷲型ホムンクルスが沈黙したのは数秒。
 改めて創造主へと伺いをたてた。

「攻撃しますか? ここからでも仕留める自信はあります」
「いや、その女は恐らく巳田の尾を斬り飛ばした女だろう。こちらから危険を犯す必要は無い。ここに花房が見つけてきたジュエルシードが一つある」
「ではあの女に憑依させますか?」
「折角、スペアができたんだ。俺としては、人間が憑依された時のデータが欲しい」

 憑依された側の人間への感情は欠片も見せず、薄ら笑いを浮かべながら創造主はジュエルシードを放り投げた。









 少しずつであったが、廃工場の駐車場には警察車両が増えだしていた。
 それに伴い、人の声が時々怒号も混じって屋上にまで届き始める。
 あまり長くうろついていて発見されては、説明も難しい。
 特にシグナムは、個人的事情から説明の言葉すら持ってはいなかった。

「長居は無用だな。一先ずは、移動するぞ」
「これからどうするの?」
「ジュエルシードは兎も角、錬金術の化け物の情報は皆無に等しい。だがジュエルシードを追っていれば、いずれぶつかり合う。そこから創造主とやらを追い詰め、叩き斬る」
「後回し、悔しいけど……!?」

 目の前の光景、というよりも空から落ちてきた物体を見て、カズキの息が止まる。
 なんの前触れもなく、今にも発動しそうな状態で落ちてきたジュエルシード。
 それはシグナムの全く死角、背後に落ちてきた。

「シグナムさん!」

 思わず声を上げてしまったカズキを前にして、シグナムも気付いた。
 自分に吸い寄せられるように近付いてきたそれに。

「レヴァンティン、封……ちッ、間に合わん!」

 あまりの咄嗟の出来事に、瞬間起動したレヴァンティンで弾くのが精一杯。
 声を上げた事に加え、敵襲に気付かなかったと舌打ちをしながら見上げる。
 その視線の先には、飛びまわらず滞空している鳥のようなものが見えた。

「上空か。カズキ、構えろ!」

 シグナムに続き、上を見上げたカズキが左胸に手を置いた。
 敵襲を前に闘争心を高ぶらせ、手の中にジュエルシードを握りこんだ。
 青い光が瞬いた次の瞬間には、太陽光のような光が溢れだす。
 その光の中からカズキは、突撃槍の柄をつかみ取って光を振り払うように薙いだ。

「何を思って手放したかは不明だが、回収しに来るぞ!」

 そうシグナムが言い終わらないうちに、米粒程の大きさだった鳥が下降を始めた。
 その姿が近付くにつれ大きくなり、それが鷲型の化け物だという事に気付く。
 そしてその背の上に、誰かが乗っている事も。

「突撃槍を空に放て、サンライトスッシャーだ!」
「え?」
「昨晩、大蛇を倒した魔法だ。理由は分からないが、そのジュエルシードはお前のデバイスだ。恐らくある程度の意志もある、叫べ。そして放て!」
「サンライトハート!」

 命令とは違う叫びに、シグナムは違うと叫びそうになったが、踏みとどまった。

「Sonnenlicht Slasher」

 カズキの叫びに従い突撃槍、サンライトハートが刃の上にある瞳を輝かせた。
 するとカズキの足元に三角形を基調とした太陽光の色の魔法陣が浮かび上がる。
 命令を復唱するように電子音が鳴り、突撃槍の飾り尾が光となって爆ぜ始めた。

「突き刺され、サンライトハート!」
「Jawohl」

 カズキが至極単純な命令を出し、サンライトハートがそれに答えた。
 そしてカズキはそのまま上空へと投げつけた。
 カズキの腕力だけでは、途中で失速して落ちてきた事だろう。
 だがそんな予兆が現れる事もなく、飾り尾が太陽光の色の爆光を飾り尾より広げた。
 失速して落ちるどころか、逆に加速していく。
 垂直に重力を完全に無視してカズキのサンライトハートが、隼のように空へと上った。

「回避だ!」

 予想外の反撃だったのか、鷲型の化け物の背にいた人物が叫んだ。
 旋回とも呼べぬ、急転。
 くの字という無茶な軌道を描いて、鷲型の化け物は回避に成功してしまった。
 だがこの時、既にシグナムはカズキの隣、屋上から姿を消していた。
 その身は、カズキのサンライトハートが生み出すサンライトイエローの爆光の中。
 二度、くの字に急転した鷲型の化け物の目と鼻の先に現れ、奇襲し返す。

「驚いた、これが魔導師。超常の力を操る者か」
「違う、私は騎士。ベルカの騎士だ。レヴァンティン!」
「Explosion」

 学生服にパピヨンマスクと、奇異な格好の男に反論しながら命令する。
 錬金術により生み出された化け物の硬さは先刻承知。
 魔力増幅の為の弾丸を打ち出し、薬莢を鍔元からはじき出す。
 そしてその翼をもぎ取り、叩き落してやるとばかりに刀身に炎を纏わせた。
 同時に飛翔の魔法で足場を生み出し、鷲型の化け物の翼へと渾身の一撃を繰り出した。
 だが翼を斬りつけた瞬間、腕に伝わったのはありえない感触であった。

「なにっ!?」

 不意をつき、完全に入ったと思った一撃が不発に終わった。
 腕に残るのは、刃筋が立たず、単純に鉄の棒で目標を叩いたような感触。
 一瞬の驚愕の間に、鷲型の化け物は男を乗せて飛び去っていく。
 どうやら回収は早々に諦めたようだ。
 空は飛べても、やはり地に足をつけて生活する者と、空に住む者では速さが違う。

(あの男も化け物? それにしては、わずかに魔力を……人間、まさかアレが創造主?)

 魔力を全く感じない錬金術の化け物と、僅かに魔力を感じる人間かもしれない相手。
 仮にあの男が人間だとすると、怪物を使役している以上はその可能性があった。

「大丈夫か、シグナムさん。シグナムさん!」
「馬鹿、人の名前を大声で。私達も、撤退するぞ!」

 さすがに推進力を失い落ちてきたサンライトハートを掴み、カズキに放り投げる。
 それからそのカズキの首根っこを捕まえると、再びシグナムは飛んだ。
 廃工場の周囲で騒がしくなる怒声と、屋上へと駆け上がってくる複数の声と足音を背にして。
 このまま遠くへ飛び去りたいが、ジュエルシードは回収しなければならない。
 一先ず周囲の木々の間に滑り込み、その身をひた隠す。
 そして茂みの中から、廃工場の方をうかがうと流石に大騒ぎであった。
 人骨が大量に見つかった廃工場、そこで派手に魔法戦を行えば当然か。

「色々な意味で危ういところだった」
「シグナムさん、怪我は!?」
「だから静かにしろ。私は平気だ。一太刀、入れ損ねたがな」

 怪我がないと聞かされ、ようやくカズキも冷静になれたらしい。

「さっきの、鷲みたいな奴の上に人がいたけど」
「ああ、奴が化け物達の創造主の可能性が高い。そう言えば、お前と同じ制服を着てたな」
「俺の学校の生徒?」
「偽装の可能性は捨てきれないが、可能性がないわけではないな」

 手掛かりが全くない状態からすれば、一度の接触で多くの事を知る事ができた。
 一番は、創造主かもしれない男の手掛かりではない。
 鷲型の化け物、アレがシグナムの剣筋を読んで、その刃が立たない様に翼で防いだ事だ。

(硬いだけの化け物かと思いきや、人間のような戦いができる奴もいるのか。恐らく、今のカズキでは到底、勝てない)

 だがあの男が創造主とすると、あの鷲型は側近中の側近。
 アレ以上の化け物はいないと思って間違いない。
 カズキにはまだ無理だが、シグナムならばまず間違いなく負けないだろう。
 ジュエルシードの収集と、錬金術の化け物の撃破。
 その二つも急務だが、カズキをベルカの騎士として育てる事も同時に急務だ。
 カズキは力を得て、それを振るう決意もできた。
 敵の奇襲に対して脅え竦まず、シグナムの命令に期待通りに答えて見せたのだから。

(だがまだそれだけでは足りない。友を妹を守り、我が主までもを守るには。あの力を自在と呼べるまでに扱えるようにならなければ)

 暴走という不安は確かにあるが、逆に言えば今のカズキならばシグナム一人で事足りる。

「シグナムさん?」

 少し深く思案したせいか、カズキが心配そうに覗き込んできていた。
 怪我はないと言ったが、隠しているとでも思われたか。

「なんでもない。化け物の創造主の事は後回しだ。まずは、先程のジュエルシードの回収に向かうぞ。周辺は野次馬や警察で溢れている。人に憑依されては面倒だ」
「じゃあ、急ごう。ジュエルシードの暴走はまだ見たことないけど、見ないに越した事はない。もう、誰も犠牲は出さない為にも」

 サンライトハート、先程咄嗟に名づけた突撃槍をカズキは握り締めた。
 そして同じくレヴァンティンを手にしたシグナムと共に、走り出した。









-後書き-
ども、えなりんです。
夜に少し予定ができたので、朝に更新です。

美由紀がほんの少し登場です。
原作の年齢は知りませんが、カズキ達とは同学年別クラスの設定。
ちなみに恭也は現在大学生ですが、昨年当たりに同じ学校にいた設定。
だからカズキ達は恭也を「恭也先輩」と呼ぶ感じです。

美由紀と恭也は早坂兄弟ポジ?
さすがにあんな暴走はしませんが、日常シーン的な登場では。
以後も二人はちょいちょい出る予定。

それでは、次回は水曜です。


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