<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[31086] 第三十話 感謝して敬え
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/14 19:48

第三十話 感謝して敬え

 海岸より歩いて十数分程の場所にある一軒のホテル。
 アリサの親が経営する会社の系列に属するそのホテルが、カズキ達の宿泊先であった。
 そこの一室、カズキ達高校生組みに割り当てられた部屋の中は暗い。
 寝息の数は全部で三つ、岡倉に大浜、六桝の分である。
 深夜を当に過ぎている事から当然だが、そこにぼんやりとした光が浮かび上がった。
 方円状に広がった金色の光は幾何学模様を浮かび上がらせ、三人の人影を吐き出した。

「いでェ!」
「あう」
「よっと」

 カズキとフェイトが幸運にも、人のいないベッドの上にもつれ合って落下。
 アリシアは少し余裕を持って、ベッドの脇へと足から着地した。

「咄嗟の事だったけど、なんとか成功。ブラボーのおじちゃん、大丈夫かな?」

 とてとてと、窓際に歩み寄ったアリシアは、カーテンの隙間から海岸方面を眺めた。
 朝日と見紛うばかりの炎は依然として猛っている。
 未だ結界は張られておらず、遠からず大騒ぎになる事は間違いない。
 あの時、赤茶色の髪をした男が瞬時にして周囲を炎で覆い逃げる間もなかった。
 三人を守ってくれたのは、ブラボーのシルバースキンだ。
 そのブラボーから合図され、咄嗟にアリシアが転移魔法で自分達だけ逃げてきた。

「ブラボー……」

 ベッドの上で座りなおし、カズキもまた少し離れた海岸を眺めた。
 一体自分がどうするべきか、どういう選択肢を選ぶべきか答えはない。
 もちろん殺されるなんてまっぴらだし、かといって無人の世界で一人きりも勘弁願いたい。
 ブラボーの力で時折面会ができるとは言え、本当にそれで耐え切れるのか。
 選択肢が他にないとは言え、孤独な世界に押し込められ。
 それで自分がヴィクターのように人を恨まないとは、とても言い切れなかった。

「ん……なんか、明るくね?」
「あ、悪い岡倉。起こしたか?」
「カズキ、今度は警察かッ……」

 遠くではパトカーのサイレンが夜に関わらず響きだし、アリシアが開けたカーテンの隙間から炎の光が部屋に差し込んでいた。
 まだ眠りは浅かったのかそれらに刺激された岡倉が、眠たそうに瞳を擦りあげる。
 寝ぼけ眼で起き上がってはカズキへと振り返った。
 そしてあんぐりと口を開き、瞳はこれでもかと開かれた。
 そのまま目玉が飛び出てしまいそうな程であり、言葉を枯らしてカズキを指差している。

「カっ、カカ……」
「うわあ……これは、もの凄くまずいんじゃ。ちょっと、羨ましいけど」
「まあ、一つ屋根の下に住んでたんだ。遅かれ早かれ、しかし何時の間に大浜みたいな趣味に趣旨変えをしたんだか?」
「ん?」

 次に大浜が引きつった顔で呟き、六桝が枕元においておいた眼鏡を掛けながら呟く。
 一体何の事だか解らず、カズキは小首をかしげる。
 そして気付いた。
 初夏であるにしても、やけに懐の中が温かいといか熱い。
 何だろうと思って視線を下げてみると、片身を小さくしたフェイトがいた。
 真っ赤な顔を俯かせ、カズキに肩を抱かれるように同じベッドにいるフェイトが。

「あー」
「あー、じゃねえ。人として、天誅ッ!」

 三角帽子のキャップ帽に守られていた岡倉のリーゼントが、カズキの顔に突き刺さった。
 咄嗟に手放したフェイトはそのままに、カズキだけがベッドの上から転げ落ちる。
 そしてフェイトを守るように、岡倉がベッドの上を跳んで渡り、立ちふさがった。

「カズキィ……お前はシグナムさん一筋だと思っていたから、俺は密かに友の幸せを祝福していたのに。貴様は俺を裏切った」
「あの、違うの。カズキは私を痛くしないように抱いてくれてただけで」

 コホーと瘴気を口から吐く岡倉に、その言葉足らずな説明は火に油を注ぐ行いであった。

「そしてお前は、シグナムさんの心のみならず。フェイトちゃんの体を弄んべっ!」
「教育的指導」

 だが岡倉が暴発しきる前に、手刀によるストップがかかる。

「若いんだから、そういう事に興味があるのは解るけれど……小さな子の前でエロスは厳禁よ」

 今にもカズキに飛びかからんとしていた岡倉のリーゼントがへこまされた。
 少しばかり魔力が込められていたのか、そのまま岡倉がベッドの上に沈む。
 手刀の一撃を放ったのは、騒ぎを聞きつけやってきたリンディであった。
 その後ろ、部屋の入り口付近からはシグナムやシャマル、目元を擦っているお子様達がいた。
 どうやら騒ぎは随分と外の部屋にまで響いていたらしい。
 もしくは、海岸の光景や喧しくなるパトカーのサイレンで起きてしまったからか。

「フェイトさんも、一人寝が寂しかったからって男の子の部屋に行っちゃ駄目よ。ベッドの中に潜り込むのもね、そろそろお終いにしないと」

 もちろんリンディは分かっていてそう言っているのだが、本人的には少し頷き辛い注意であった。

「フェイト……アンタ、いくらなんでも大胆過ぎ。まひろに続いて、要注意人物のお世話が増えたわね」
「ふふ、そう言いつつもアリサちゃんなんだか嬉しそう」
「フェイトちゃん、私で良ければ一緒に寝よう!」
「まひろもお兄ちゃんと一緒に寝る!」

 なんだか酷い誤解を友人達に与えてしまったようだ。
 ただまひろは早速アンタも駄目と、アリサに首根っこをつかまれていた。
 ちなみにアリシアは岡倉に視線が集中している間に、部屋を抜け出している。
 妙なところで要領が良いものであった。

「フェイトはまだまだ子供だね。ヴィータちゃんもそう思わない?」
「お、おう。まったくだぜ」
「ほんなら、ヴィータも今日から寝る時は一人で」

 毎日はやてと一緒に寝ているヴィータは、どもりながら嘘をつくもはやて本人に通じるはずもない。
 あっさりとばらされ、さらに一人でと言われあっさり前言を撤回する。
 フェイトに次ぎ、ヴィータに生温かい視線が集中した所でリンディがぱんぱんと手を叩いた。

「はーい、夜も遅いんですからそこまで。皆は、お部屋に戻ってお休みなさい」
「あ、そうだ。フェイトの件もそうだけど、さっき海岸の方で花火の暴発みたいな炎の柱が見えたのよ。って、あれ?」

 撤収の言葉をまぜっかえすようにアリサが主張し、部屋の中へと入り込んで窓際に駆け寄る。
 カーテンを開けて再度主張するも、海岸線にそれらしい炎は見えなかった。
 穏やかな臨海の街並みが薄っすらと映るだけで、平穏そのもの。
 アリサのみならず、すずか達も小首をかしげていたが、存在しないものはしない。
 唯一の証拠はパトカーのサイレンぐらいだが、それもやがて聞こえなくなっていった。
 窓からの光景は全てを語っており、そんなはずはと続くアリサの声も小さい。

「夢でも見てたんじゃねえのか? 火遊びの夢は寝しょんべんの元だって言うから、ホテルの人に迷惑掛ける様な事はブベッ!」
「本当に……デリカシーの欠片もない。馬鹿、死ね。行こう、すずか」
「岡倉さん、ごめんなさい。でもさっきのはちょっと……」

 枕を投げつけられた岡倉に小さく謝罪するすずかを、アリサが連れて部屋を出て行く。
 先ほど部屋で見た光景や、岡倉への怒りもあったが眠気が勝ったらしい。
 なにしろ現在時刻は深夜の二時を優に超え、小学生には辛い時間帯だ。
 先ほどのリンディの撤収の言葉もあるし、その後ろになのはやはやて達も続く。
 一応部屋まではシャマルが付き添おうと、ふらつく彼女達について行った。

「お腹は冷やさないように、タオルケットだけはかけて寝るのよ。それで、カズキ君とフェイトさんは一応私から少しお説教ね。保護者的な意味で、シグナムさんもかしら」
「ご愁傷様、カズキ君。フェイトちゃんは眠いだろうけど、その癖は直した方が良いだろうから頑張って」
「結局、チビすけに枕投げつけられただけで、何時ものことだったな。寝るべ、寝るべ」

 岡倉達は大人しく自分達のベッドに戻り、その上に倒れこんだ。
 小学生云々以前に、やはり深夜は高校生にも辛いものがあるらしい。

「お休みなさい、貴方達。それじゃあ、行きましょうか」

 リンディの言葉に従い、カズキ、フェイトそしてシグナムが続いた。









 連れて行かれた先は、リンディとクロノの為にとられた部屋であった。
 備え付けの化粧台の椅子にリンディが座り、カズキはベッドの上に、フェイトがその隣に。
 シグナムは不機嫌そうに渋面を作りながら、入り口付近の壁に背を預けた。
 三人が説明を受けられる状態になるや否や、リンディが間髪入れず話し始める。

「ブラボーか火渡、どちらがここへやってくるにしても、もうしばらく時間が掛かる。結界を張っているクロノは辛いでしょうけれど、貴方達にもう少し現状を説明する必要があるわ」
「あの男の事を知っているんですか?」
「ええ、私やブラボーと同期で古い付き合いよ。今はお互い全く別の道を歩んでいるけれど……彼はその中でも特別。管理局でも闇の部分に属する特殊部隊の隊長」
「あの人、破壊や殺人を前提に任務についてるような口ぶりだった」

 闇の部分と言われ、フェイトが本人の言葉を思い出しそう呟いた。
 被害や効率の為に、あえて憎まれ役を担うタイプではない。
 命令の遂行の為ならば、被害や効率も度外視する。
 フェイトが出会った事のある数少ない管理局員の中の誰とも違っていた。

「彼は最高評議会直属の特殊部隊の隊長、表に出せないような件を力ずくで解決させるのが仕事。その隊員も、一筋縄では行かない人達よ」
「リンディ艦長がそこまで言うとは、それ程の魔導師が?」

 初めて口を開いたシグナムの声は、普段よりもかなり重いものであった。

「ええ、一言で言うなら奇兵。全員がレアスキル持ちだけど、性格・性質に難があって正規の管理局員として通常任務には加えられない。そういう魔導師達を力ずくで従えさせられるのが彼、火渡」
「そんな人達にカズキが狙われている?」
「可能生は高いわ。けれど、管理局員の全てがというわけではないのが救いかしら。今、管理局は最高評議会派と三大提督派の二つに分かれているから」

 あまり局内の内情に詳しくないカズキ達は、小首をかしげていた。
 そんな彼らにリンディは軽く微笑みを向けただけで、詳しくは語らなかった。
 内部紛争とまではいかないが、司法組織が二つに割れるなど恥以外の何者でもない。
 その証拠にミッドチルダでは情報規制が行われているし、局員に対し緘口令も敷かれている。
 一部、ヴィクターの情報を知っている者は特に。
 不要な混乱を避ける為と、創設期の事とは言え恥を広めない為にだ。
 この二点については、最高評議会派も三大提督派も意向はさほど変わらない。

「カズキ君達は、あまり深く考える必要はないはわ。カズキ君を擁護するのが三大提督派、最殺しようとするのが最高評議会派だと思ってくれて良いわ」

 そう説明するだけにとどめ、リンディは最も重要な説明に入った。

「シグナムさんには粗方説明してあるけれど、カズキ君達は何処までブラボーから聞いているかしら?」
「無人の次元世界に行って欲しいって。そこで、大人しくしている間に解決策を探すってブラボーは言ってた」
「けど、火渡はカズキを殺すのが一番だって。生きていても、どうせ実験動物扱いだって」

 憤慨しているフェイトであったが、少し火渡の言葉に違和感を感じた。
 もしかしてアレで気遣っていたのかと、一瞬でも思ったが直ぐに否定するように首を横に振る。
 それからブラボーから語られた事を大まかに伝えた。

「そう、なら私がシグナムさん達に説明した一部はまだ伝わっていないわね」
「そのようだな」

 相変わらずシグナムの声は沈んでおり、より渋面になっていく。
 どうやらそのカズキ達に伝えられていない一部が、特に気に入らないらしい。
 カズキの最殺並みに、シグナムが渋面を作り出すような内容が他にもあるのか。
 楽しい旅行が散々だと呆れたくもなるが、カズキ自身に関わる事である。
 少し気合を入れなおして、カズキはリンディの言葉に耳を傾けた。

「事は闇の書やはやてさんに関わる事よ。闇の書の本当の名前は夜天の魔道書。本来はあらゆる魔法を蒐集し、記録するだけの辞典のようなものだったの」

 いきなり話がずれたかにも思えたが違う。
 何しろ闇の書には、あのヴィクターが封印されていたのだ。

「百五十年前、ヴィクターがあの姿に変わり果てた当時、管理局の創設者達が闇の書へと改造したの。当時の夜天の書の主は、ヴィクトリア・パワード。ヴィクター・パワードの一人娘」
「え、ヴィクターの? けど主って事は……」
「私のかつての主でもあった。ヴィクターが私を懐かしそうに見ていたのは、娘の家臣だったからかもな。記憶はうろ覚えだが、ほんの少しだけ姿形ぐらいは思い出せる」

 呟き瞳を閉じたシグナムは、はやての前の主すらうろ覚えだが思い出す事を試みた。
 はやてのようにとても小さな女の子だった。
 騎士として戦争に赴く父と、研究で忙しい母を家で一人で待っていた。
 一人寂しい境遇ながら、健気に笑顔を振舞うさまははやてに似ていたかもしれない。

「彼らはヴィクターの変貌の責を、ヴィクトリア一人に押し付けた。詳しい事は不明だけど、彼女が闇の書にヴィクターを封印、その後は行方不明」
「分かるか、カズキ。ヴィクターのように再殺を促がす連中が、主はやてに何を望むのか」
「まさか、ヴィクターの再封印!?」

 シグナムの渋面の最大の理由を聞いて、カズキが思わず立ち上がった。

「ええ、遠からずはやてさんに管理局から要請が行くと思うわ。ただし、ヴィクター一人であったらの話。幸か不幸か昔とは違い、今はカズキ君貴方がいるわ」
「ヴィクター一人を封印しても、まだカズキがいる。闇の書も、二人分封印できるとは限らない。最悪、切り札である闇の書が耐え切れず破壊されるかもしれない」
「そっか、良かった。なら、なおさら生き残らないと」

 事実ではあるが、それを聞いて良かったという言葉が何処から出てくるのか。
 相変わらず、カズキは自分よりも誰かを優先する。
 はやてがまひろや自分の友達である事も、大きいのだろうが。
 そんなカズキへと、相変わらずと言った様子でシグナムやリンディが微笑みを向ける。

「現在闇の書はヴィクターの手にあるし、即座にはやてさんが狙われる可能生は低いわ。ただし、念の為もあってアースラははやてさんの護衛の任務を請けているの」
「感謝する、リンディ艦長。我々も以前の事があった手前、強硬な手段に出られても局員には手を出し辛い。貴方の目がある事は非常に重宝する」
「過ちは繰り返すべきじゃないものね。それもあんな小さな女の子一人に責任を負わせて良いわけがない。はやてさんを犠牲にヴィクターを封印して、カズキ君が本当の意味で第二のヴィクターになりでもしたら、本末転倒」

 最後にリンディが呟いた懸念は、決して可能生がないわけではなかった。
 今でこそカズキは他者に迷惑を掛ける事を良しとせず、ヴィクター化は拒んでいる。
 一人未開の大地に残されるかもしれない事実に揺れるまで。
 だがもしも、管理局が強硬手段に出てカズキの近しい人を傷つけでもしたら。
 恐らくはヴィクターがロストロギアやそれに関わる人を憎んだように、管理局員を憎むかもしれない。
 それどころかヴィクターの意志を次いで、ロストロギアにかかわるすべてを破壊しようとする可能生さえあった。

「そして、カズキ君。これから貴方がどうするか。私から提示できる選択肢も、ブラボーと変わらないわ。大人しく保護を受けるか……それとも」

 後者の選択肢をリンディはあえて口にはしなかった。
 再殺を受け入れるかなど、息子とそう歳の変わらない子に言えるはずもない。
 対するカズキは、当然の事ながら即答する事ができないでいた。
 なにも保護か再殺かを迷っていたわけでは決してない。
 ブラボーに保護を提示された時は、心が傾いていたが火渡の言葉が引っかかっていたのだ。
 保護を受けても実験動物、殺してやるのがそいつの幸せだと。

(言葉は悪いし、殺意も向けられたけど……あの人、たぶん根っからの悪人じゃない。方法はどうあれ、多少は案じてくれていた)

 まひろ達に滅多に会えなくなるのは辛いが、なんとか我慢できるだろう。
 だがもしも火渡の言う通りに実験動物の様な扱いを受けてしまったら、人を恨まずにいられないかもしれない。
 今のカズキは、少なからず組織というものは一枚岩ではいられないことを感じはじめていた。
 最高評議会派と三大提督派に、管理局が分かれている事例も目の前にある。
 だからこそ、ブラボーやリンディの人柄を知っても、管理局の保護を前面肯定できなかった。

「カズキ、あの……私は味方だから。カズキがどんな決断をしても、受け入れられる。一緒にいるよ」

 余程追い詰められた顔をしていたのか、フェイトが伺うようにカズキを見上げてきていた。
 それに気づかされ、カズキはフェイトの頭を撫でて安心させる。
 そんな光景から眼を伏せているのは、シグナムであった。
 カズキの隣にいるのは、これまでのように自分ではなくフェイトである。
 自分もまたカズキを勇気付けたいし、共に居てやると言いたいができない理由があった。
 これまでの様に、ホムンクルスのような第三の敵が相手であれば問題はなかったはずだ。
 だが今回のカズキ達の敵に回りかねないのは、管理局である。
 はやての保護をリンディにお願いした以上、今までのように自由には動けない。
 だから差し伸べたい手の平を握り締め、二人を見ている事しかできないでいた。
 そんなシグナムの葛藤に気付く余裕も無く、カズキは次のような言葉を口にするだけで精一杯であった。

「少し、ほんの少しで良いから時間をくれませんか?」
「気持ちの整理も必要よね。火渡には上手く誤魔化しておくわ」

 リンディは、保護によって今の生活を捨てる事を迷っていると判断したらしい。
 少し思案した様子ではあったが、直ぐにカズキの言葉に頷いてくれた。

「保護と言っても直ぐじゃないわ。カズキ君のヴィクター化は六週間後。そうね、余裕を見て三週間の猶予はあげられる。お友達や家族との別れには短いだろうけど、私としてもその程度の余裕はあげられるわ」
「ありがとうございます」

 上辺だけの言葉になってしまったが、カズキはそう言ってリンディに頭をさげた。

「カズキ……」
「大丈夫、一人で戻れるから」

 そして心配して手を取ったフェイトを撫でて安心させ、一人部屋を出て行く。
 少しの間、一人になりたかったという気分でもあった。
 そんなカズキをフェイトが心配そうに見送り、シグナムが唇を噛み締めていた。

(私にとって、一番は主はやてだ。主はやてに不利になるような事は何もできない。例えカズキの相談にのるぐらいの事でもその結果次第では……)

 主への忠誠とはやての微妙な立場、そして管理局から狙われるカズキ。
 二人の間で板ばさみにあい、シグナムは思い悩み続けていた。









 一応は部屋へと真っ直ぐ帰ろうとしたカズキであったが、眠気など殆ど吹き飛んでいた。
 きっとベッドに入っても眠れないだろうなと思いつつ、部屋のドアノブに振れる。
 その時、ドアの真横に誰かしらの足が打ちつけられた。
 いささか乱暴な振る舞いに眉根を潜めながら振り返る。
 そこにいたのは、浜辺での花火大会以降姿が見えなくなっていたパピヨンであった。
 その後ろにアリシアが何処からか、呼んできたのか。

「聞いたぞ、あと六週間で真の化け物になるんだって?」
「パピヨンのお兄ちゃん!」

 率直過ぎる言葉にアリシアが怒りの声を上げるが、もちろんパピヨンは悪びれる様子もない。
 だがカズキも、ここまで直球だと怒るに怒れない。

「それで、貴様は一体どうするつもりだ?」

 あくまでもパピヨンは回りくどい事をせず、直球であった。
 問題があるなら、どうするのか。
 もちろんカズキの気持ちは人間に戻りたいだが、それは姿勢であって行動ではない。
 どうしたいかではなく、そのどうしたいの為にどういう行動をとるのかが重要だ。
 万が一岡倉達に聞かれる事を考え、部屋の前から少し移動する。
 そして廊下の途中にある窓際にて、カズキは夜空を見上げて呟いた。

「まだ、分からない。一番良いのは、ブラボーやリンディさんの言う通り、管理局の保護を受けて無人の次元世界に行く事だと思う」
「でもそれは、周りにとってベストなだけでカズキのお兄ちゃんにとってベストじゃないよ。もちろん、まひろちゃんやフェイト、私達にとっても」

 アリシアの言う事は最もだろう。
 カズキだってヴィクター化する前に隔離するという案が安全なのは分かる。
 それで誰かが傷つけられる事もなく、カズキも誰かを傷つける事はない。
 後は、管理局がヴィクター化を反転させ人に戻す手を見つければ良いだけ。
 しかしそれはカズキ自身は何もせず、安全の為に全てを他人に委ねる事になる。

「本当に、管理局はヴィクター化から元に戻す手を研究するかな?」

 まさに今考えていた事をパピヨンに指摘され、カズキが肩を震わせた。
 カズキが本当に信じられる局員は、実は少ない。
 ブラボーやリンディ、クロノそれから一部の面識あるアースラのクルー。
 ジュエルシードの捜索中に出会った、管理局員の中でも極一部。
 他の管理局員からしてみれば、カズキは化け物になる寸前の危険人物でしかない。
 それも世界を滅ぼしかねない、出来れば直ぐにでも始末を付けたいもはや危険物。
 火渡が言った通り、始末を免れても実験動物扱いか、飼い殺しか。

(今の気持ちのまま隔離されて、誰かを恨まない自身がない。俺はたぶん、納得したいんだ。本当に自分で選んだ道なら、どんな事だって耐えられる。それにたった六週間とはいえ……)

 保護を受けた後の不安はもちろんある。
 自分の事を含め、自分が居なくなった後のまひろの事など。
 だがカズキが一番欲しかったのは、自分でこの道を選んだという納得だ。
 誰かに言われるがまま、何もせずに居たらどんな結果も受け入れられない。

「俺は、まだ人間なんだ。足掻きたい。六週間の間に、足掻けるだけ足掻く。結果、どうにもならなくても俺はきっと納得できる」

 どうにもならなくなってから保護を受けると言っても、受け入れて貰えないだろう。
 それでも、その時ならばどんな結果であってもカズキは納得して迎えられる。
 管理局の保護でも、再殺でも、はたまた別の結果であろうと。
 まだ行動には結びつかないが、カズキの指針はよりはっきりとした。
 試す為に最殺を宣言したブラボーに言ったように、最後まで足掻いてみせる。

「だから俺は、自分の手で元に戻る手段を探しに行く」

 あくまで人間に拘るカズキの言葉を聞き、らしくなってきたとパピヨンが笑う。

「ならば力を貸してやろう。感謝して敬え」
「力って……何か案があるのか?」
「当たり前だ、俺を誰だと思っている。アリシアから聞いたが、黒いジュエルシードは全部で三つらしいな。その内の一つがお前の左胸に収まっている」

 つまり後一つ黒いジュエルシードがあるはずだが、パピヨンが言いたいのは別の事であった。

「だがお前の胸のジュエルシードは、最初青かった。シリアルナンバーでさえ、異なっていたんだ。ヴィクター化の兆候は、ジュエルシードが黒くなってから」
「そっか、つまり黒いジュエルシードの波動か何かを抑える方法があるかもしれないって事だね。そして、カズキのお兄ちゃんのジュエルシードを発掘したのは……」
「ユーノ君か。ユーノ君なら、ジュエルシードの入手先や経緯に詳しいはず」

 だが現在ユーノは、本局の方で仕事に従事しているはずだ。
 少なくともシグナム達と敵対していた頃には、無限書庫という場所で働いていた。
 今現在もそうかまでは分からないが、外れたとも聞いていない。
 もしかすると、引き続きヴィクターについての調査をしている可能生があった。

「よし、管理局の本局へ」
「いや、行けないよ。さすがに堂々とは……秘密裏に連絡をとるしかないよ」

 拳を握り宣言したカズキへと、待て待てとアリシアがストップをかけた。

「再殺の為の部隊も動いているらしいな。多少は時間を掛けても、面倒は避けるか。よし、武藤三分で準備しろ。案内してやろう、俺の研究所に」
「分かった。三十分だな、まひろの面倒の事もあるし急いで皆に手紙を書くよ」
「おい、貴様何を悠長に!」
「サンキュー、蝶野。直ぐすませるから」

 ぶんぶんと手を振り、部屋に戻ろうとするカズキをパピヨンが止めた。

「勘違いするなよ、武藤。俺の目的はあくまで、人間・武藤カズキを蝶最高の俺が斃す。その為ならば、なんだってする」
「ああ、分かってる。俺も絶対人間に戻ってみせる。頼りにしているなんて、口が裂けてもいえないけれど……感謝はしてる」
「ふん、当然。さっさと行け、あと二分三十秒だ」
「分かった、二十五分だな!」

 再度おいとパピヨンに突っ込まれるが、きちんと等分減らされているのがなんともカズキらしい。
 それにしても、カズキも急速に普段のらしさを取り戻しつつあった。
 それも宿敵と言って良いパピヨンのおかげでだ。
 そのパピヨンを呼び出したのはアリシアであったが、半分良かったのかなと思っていた。
 主に、大事な妹の初恋という意味合いで。
 フェイトのような可愛い存在以上に、パピヨンという異常な存在がカズキを元気付けた。

(頑張れ、フェイト。お姉ちゃんはフェイトの味方だから。恋敵がパピヨンのお兄ちゃんって時点で茨の恋の気もするけど!)

 夜空の月に重なり両手を握り締めて頑張ると、気合を入れるフェイトが幻視できた。









-あとがき-
ども、えなりんです。

今回はあまりお話は進んでません。
それにしても、管理局詰んでないか?
ヴィクターを倒す方法は見えず、一応再封印の可能性もあるが……
封印者一人に対して、ヴィクターは二人。

そもそも、ヴィクターって何も悪くないんですよね。
むしろ次元世界にとっては良い人なんじゃないだろうか。
ロストロギアにさえ関わらなければ……
原作とは違い、世界は広いので一般人には意図して危害を加えないでしょうし。
ソレに加え、危ないロストロギアを壊して周ってくれる。

ロストロギアが大切な祭器とかだと、壊されちゃ溜まりませんが。

それでは次回は水曜です。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.039286136627197