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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/07 22:16

第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ

 麗らかな春は過ぎ、梅雨の時期はジュエルシードにより吹き飛ばされた。
 海鳴市は近年まれに見る短い梅雨が明けたばかりであった。
 あのヴィクターとの邂逅から、一ヶ月の時が過ぎようとしていたとも言える。
 ブラボーのしばし休めとの言葉通り、カズキは普段通りの生活を送っていた。

「おーーーーッ」

 そして今現在、そのカズキ達の姿は、海開きが済んだばかりの海水浴場にあった。
 照りつける日差しが苦にならなくなる程に青い海。
 そこから吹いて来る潮風もまた、暑さを忘れさせてくれる一因でもあった。
 離れた場所には少々危険そうな岩肌も多いが、真っ白な砂浜が海との境界線を作り上げている。
 感嘆の声を第一声にしたのはカズキであった。
 その姿は既に泳ぐのに適した水着姿、着替えが早いのは男の特権。
 共に訪れた女の子達よりも一足早く海辺へときていた。
 言い換えると私達が行くまでに全て整えておけとの命を受けたのにも等しいが。

「水が綺麗だね」
「思ったより空いてるし」
「穴場を選んだからな」
「ばふ」

 各々クーラーボックスを肩に下げ、パラソルを肩に立てかけていた。
 人数が人数名だけに重装備である。
 細身の六桝にはやや辛そうなラインナップだが、ザフィーラに跨っている為に問題ない。
 近頃は、飼い主であるはやてが尊敬の眼差しを向ける程の飼いならし具合である。

「海はいいねぇ」
「おい、君。鼻の下が異常に伸びているように見えるが大丈夫か? 人間の人体構造上、あまりに不可解なのだが」 

 そして忘れちゃならない岡倉だが、もちろん一緒に海に来ていた。
 レンジでチンしたチーズかバターのように、その顔はとろけている。
 夏の日差しにではなく、砂浜に必要不可欠なうら若き乙女達を眺めての事だ。
 遊び慣れていないクロノの真面目な突っ込みもなんのその。
 人体構造上不可解とまで言われた鼻の下をさらに伸ばして見せた。

「まだまだ、伸びるぜ」

 ああ、間違いなくこの男もカズキの友人だと、クロノは軽く被りを振って諦めた。

「おまたへー!」

 海を一望してから砂浜にパラソルの設置を始めたカズキ達に、元気な声がかけられた。
 その声に振り返った岡倉の鼻の下はさらに伸び、さすがのクロノも少し顔を赤らめている。
 男の数に比べ、待ち人でもあった女の子達の数のなんと多いことか。
 一番乗りを目指し、走るまひろを一生懸命になのは達が追いかけている。
 だが年齢的にまひろやなのは達を理由に顔を赤らめているのはクロノぐらいであった。
 岡倉を筆頭にカズキ達が見惚れているのは、彼女達のさらに後ろ。

「主はやて、荷物を持ちましょうか?」
「ええの、自分で持って歩きたいんや。人の楽しみを取ったらあかんで」
「シグナム、はやてちゃんもこう言ってるんですから。今は歩くのが楽しくて仕方がないんです」
「はいはい、皆。はしゃぐのは良いけど、走ってはいけませんよ」

 ふらふらと、少し怪しげな足取りで歩くはやてを、心配そうに伺うシグナム。
 彼女は黒のセパレートの水着で、下はホットパンツ型。
 鍛えられたしなやかな体も加わり、遊びに来たというよりもスポーツをしに来たように見える。
 一生懸命なはやてを微笑ましく見守るシャマルは、若草色のワンピースタイプに麦藁帽子付き。
 そしてリンディは、恐らく一番肌を覆う面積が誰よりも少ないレモンイエローのビキニ。
 パーカー付きの上着を羽織って隠してはいるが、申し訳程度に過ぎないのは明白であった。
 何しろ布地の薄さにより水着や肌の色がすけ、隠されているからこその色気をかもし出している。
 最近はフェイトより、まひろのお守りに忙しかったアルフはビキニを着て、デニムのホットパンツと若干普段と被る格好であった。
 だが彼女のボディラインを考えれば、それでも十分過ぎる代物だ。
 刺激が強すぎる四人のおかげで健全な高校生であるカズキ達の視線はまさに釘付けである。

「ちょっと、馬鹿英之!」
「痛ッ、ちょっと待てチビっ子。俺は今、このお宝映像を記憶するのに忙しい」

 ここで面白くないのは、眼中にすら入れてもらえない年少組みである。
 その中でもご立腹を極めたアリサが、鼻の下を伸ばしっぱなしの岡倉の足を蹴り上げた。
 しかし痛がったのも一瞬で、あっち行ってろと犬を追い払うように手を振られる始末だ。
 確かに高校生が小学生相手に、同じような視線を向けられては考え物である。
 だがそれはそれ、これはこれであった。

「そろそろ、アンタには淑女への接し方を教えるべきよね」
「安心しろ、チビっ子。俺は淑女への接し方は心得ている。シャマルさん、アルフさん荷物お持ちします!」
「あ、えっと……私達のパラソルそこですよね?」
「あっはっは、ここまであからさまだといっそ清々しいね」

 二人の手荷物は元から少なく、設置されたパラソルも目と鼻の先。
 指摘するまでもなく岡倉は完全に接し方を間違えている。
 シャマルを困らせ、アルフにからからと笑われては、アリサを怒らせる。
 結局最後は構って欲しいアリサと、そっちのけの岡倉がぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。

「まったく……どうした、カズキ? 何か変か?」
「あ、いや変と言うか。シグナムさん、おへそ丸出し」
「それはわざわざ指摘するような事か! 主がこれを着ろと、わ……私は反対したのだが。仕方なくだな」
「へえ、そうなんだ」

 話半分どころか、右から左へと筒抜け。
 カズキの視線は、あられもなくさらし出されたシグナムのへそへと注がれていた。
 異常な程に羞恥心を掻き立てられ、シグナムが腕を交差させて腹部を隠す。
 それでもカズキは、呪いでもかけられたかのように、しつこく眺めている。
 そのカズキの腕を捕まえ、果敢にもストロベリー空間に飛び込む者がいた。

「カズキあのね。どう、かな?」

 その勇者とは、黒のワンピースタイプの水着を着たフェイトであった。
 黒という大人の色でありながら、腰付近はフリルのスカートがついた可愛らしいデザインである。

「なんだか、普段のバリアジャケットと変わらない?」
「こらこら」

 カズキの感想に、リンディが困り顔で突っ込んだのは当然の事であった。
 少なからずショックを受けたフェイトは、ずんと影を背負って砂浜に膝をついていた。
 事情が良く分かっていないすずかや、アリサは小首をかしげている。
 だが少なからず事情を察しているなのはやはやてが、駆け寄っては慰めようとした。

「わ、私……水着みたいなバリアジャケットで。ずっとカズキのそばに」
「フェイトちゃん、ポジティブなのそれ?」
「慰めはいらへんな。頭が火照って、それどころやあらへんみたいや」

 今はそっとしておこうとなのはと合意したはやてが、パラソル下のビニールシートに腰を下ろした。
 まだまだ歩きなれていない為、少しの距離でも結構疲れるのだ。
 はやての足は、コレまでの麻痺により蓄積した衰弱を残して完治している。
 詳しい事は不明だが、時折受けているアースラの検診から答えらしきものはあった。
 それは闇の書にヴィクターを封じていた封印が、何かしらの形ではやての体に影響を与えていたのではという事だ。
 現在はリハビリをすると共に、フェイトと共に聖祥大付属小学校に通っている。
 フェイトは正式にリンディの保護下に入り、地球で普通の少女と生きる事に決めた。
 もちろん、管理局にという誘いもあったが、まずは自分がちゃんと幸せになるのが先。
 自分自身が幸せでないと、誰かを助けて幸せになどできないと断っている。

「あ、ねえねえ。サーファーだよ、サーファーがいる。初めて見た!」
「わあ、格好良い。ちょっとやってみたい気もするね。レンタルとかないのかな?」

 大波の上を滑るように進むサーファーを、まひろが指してはしゃぐ。
 その隣で憧れ混じりに呟くすずかだが、これで結構ボードを乗りこなしそうで困る。
 純粋な運動神経という意味では、恐らくはカズキにさえ匹敵するすずかであった。
 主に男性人の見栄という意味で、初見で乗りこなしは止めて欲しいものである。
 皆もサーファーが乗る波に瞳を奪われる中で、一際大きな波が現れた。
 先ほど見ていた波よりも一メートル以上は高く、大波も大波。
 その波の向こう側から、飛び出す人影があった。

「すごい、飛んでるみたい」

 なのはの呟きは的を得ており、海を空に、波を風に例えるとその通りであった。

「あら、懐かしいわね。本当、昔から一つも変わらないわね」
「それはそのまま母さんに返したいって、アレは……」
「キャプテン・ブラボー!」

 かつて見た事があるとでも言いたげに、頬に手を当てリンディが昔を思い出す。
 一部にとっては見知らぬサーファーでも、また一部にとっては良く知る人物である。
 クロノが、カズキがまさかと声をあげた。

「Yes, I am」

 多くのサーファーがウェットスーツを着る中で、ティーシャツに水着姿。
 C・ブラボーと印字されたボードを駆るのはブラボーであった。
 一頻り波に乗ったブラボーは、カズキ達に気付くと浜辺へと上がってくる。
 有給休暇中のリンディやクロノはともかく、仕事の方は良いのか。
 何時も通りの無精ひげのある男臭い笑みを浮かべながら、手を振ってきた。

「よう、カズキ元気にしてたか?」
「ブラボーだぁ」
「よーし、大きくなったなまひろ。ちゃんと教えたとおりに花嫁修業は続けているか? 何を隠そう、俺は花嫁修業をさせる方の達人だ!」
「まひろも、花嫁修業をする方の達人だよ!」

 ボードを一先ず置いて、駆け寄ってきたまひろをブラボーが抱え上げる。
 ジュエルシードの捜索中に何度か家へとまねいた事があり、二人は顔見知りであった。
 と言うよりも、ブラボーの気質がカズキに似ているからか速攻まひろはなついていた。

「ねえ、あれ誰? まあ、聞かずともまひろの親戚なんだろうけど」
「あんなおっさん、カズキの親戚にいたか?」
「けど、あの台詞とまひろちゃんの懐きようは親戚そのものだよ」
「あは、ははは……そう、親戚。武藤ブラボーさん!」

 アリサや岡倉、大浜にとまるで共通認識のようにカズキの親戚扱いをされてしまう。
 尋ねられたなのはも、他に説明のしようがなく、苦しい偽名で紹介をしてしまった。
 それ程、疑われる事なく信じられてしまった事には苦笑する他にない。
 事実を知るはやてやシグナム達も、普通は親戚だと思うだろうと笑っていた。
 何しろ、ブラボーとカズキは何処か他人に思えない程に考えや雰囲気が似ているのだ。

「お帰り、ブラボー。あの件だけど……」
「ああ、ただいま。人目があるから、それは後だな。それにカズキ、お前の友達も一緒に来ているぞ」
「友達?」

 誰だろうと小首を傾げながら、ブラボーが指差した方を眺める。
 皆も、岡倉達がここにいる以上、他に誰がとそちらへと視線を向けた。
 最初、特に該当する人も見当たらず、泳ぎに来た老若男女がいるのみであった。
 だが気がつけば、それらの人垣が少し不可解な動きをしている事がわかる。
 一目散に海へ向かう者が多い中で、どよめきや悲鳴を生み出す集団があったのだ。
 いや、その中心地点にいる誰かが動く事で人垣が動かされているのか。
 ついに人垣が割れ、そのカズキの友人とやらが目の前に現れた。

「ヒィッ!」

 一番最初に悲鳴を上げたのは誰か、女の子の誰かなのは間違いない。

「やあ、武藤。こっちこっち」

 気軽に手を挙げるパピヨン、その格好はもはや犯罪と断ずるに十分の格好であった。
 アリサ達、特に子供組みは悲鳴をあげながら蜘蛛の子を散らすように逃げたり、手近にいた男性人の後ろに隠れる。
 蝶々のマスクに水泳キャップ帽、ギリギリ、ここまでは許容範囲だとしよう。
 だがパピヨンが纏う水着はそれ以上のものである。
 例えるならビキニパンツの両端を肩に掛けたような状態の水着。
 ハイレグなどおこがましい、股間から肩まで綺麗なYラインを描き後ろも同様。
 全裸の方がまだマシと考えてしまえる程に、キチガイじみた格好であった。
 しかもお子様達が悲鳴を上げて逃げる姿を視界に納めながら、気にもしていない。

「どうだ、蝶々のマスクだけならというお前の意見を参考にして、布地を限りなく排除してみた。セクシャルバイオレットなお洒落だろ?」
「蝶野……その格好に水泳帽子はおかしいから脱いだほうが良くないか?」
「何を言う、水泳時の礼装として水泳帽子は欠かせない。セクシーさと礼装の同居、それこそがお洒落というものだ。そう、思わないか?」
「普通に会話を続けるな、そもそも指摘する箇所がおかしい!」

 クロノの突っ込みもなんのその、宿敵同士でお洒落とは何かを語り合っている。

「よし、それじゃあこっからはお昼頃までは自由行動だな」
「ちょっと待て、君達はアレを放置するのか!?」
「まあまあ、クロノ君。カズキ君の友達は、カズキ君に任せて。ほら、小さな女の子もいる事だし」
「君は彼を皆に紹介して、特になのはちゃん達にアレと一緒に遊べと?」

 六桝がそう言った時、少女達のみならず、シグナム達も一生懸命に首を振っていた。
 さすがに無理だと、絶対に嫌だと言葉ではなく態度で、全力で現している。
 大浜の言い草もアレだが、完全に犯罪者扱いであった。
 ちなみにこの時、まひろはパピヨンが見えないようにブラボーに目隠しをされていた。
 ないとは思うが、アレに懐かれても大層困る事になるからだ。

「それじゃあ、こうしましょう。カズキ君、パピヨン君。競争しましょう。沖にまで泳いで行って、ここに戻って来る事。今の互いの力を測る為にもね?」
「ふん、その口車に乗ってやろうじゃないか。魔法は無しの純粋な体力勝負だ」
「お前、案外せこいな。だけど、やるからには負けない」

 早速闘士を燃やし始めた二人を見て、若いわねとリンディが笑う。

「うふふ、男の子は元気ね。それじゃあ、よーいどん」
「うおおおおッ!」

 競争という言葉でリンディが男心をくすぐり、合図と共に二人は走り出した。
 砂をシッカリと足で噛み、水を吸って重くなっても蹴り上げ、海に入っていく。
 そのまま激しい水しぶきを上げ、さながら水上スキーのように沖へと旅立った。
 一体何処まで行けば沖という定義か、折り返し地点もわからないまま。

「さあ、これで卑猥なパピヨン君は居なくなったわ。さあ、アリシアちゃんいらっしゃい」
「う、ひぐ……うぅ、リンディ!」

 パピヨンからかなり遅れる事少し、落ち着きを取り戻した人垣からアリシアが現れる。
 ぽろぽろと涙を零し己の不運を嘆く少女をリンディがその胸に抱きとめた。
 あの卑猥な格好の一番の被害者は、共にいる事を強制されたアリシアかもしれない。

「さ、さあ遊ぶで。フェイトちゃんのそっくりさんが出てきたけど、細かい事は抜きにして。ほら、ヴィータ浮き輪の用意や」
「おう、私達は何も見てない。カズキは、きっとシグナムとしけこんでて足腰立たなくなってどっかで休んでんだ。そうに違いない!」
「ヴィータちゃん、もっとオブラートに包んで。というわけで、シグナムはお留守番お願いね。追いついてきたカズキ君、場所が解らないと大変だから」
「ちょっと待て、お前達。私にここに残れと、あの馬鹿二人を出迎えろというのか!」

 シグナム一人を置いて、皆が海に砂浜に、近くの岩場にへと散らばっていく。
 少し前に見た衝撃的なモノを忘れる為にも。
 シャマル、リンディ、ブラボーと保護者にも全く困らない。
 残されたシグナムは待ってくれと伸ばした手を、所在なさげに落としていった。
 そこでふと気付く、自分の隣に小さな人影がある事に。

「テスタロッサ、お前は遊びに行かないのか?」
「うん、私がカズキを待ってるからシグナムも遊びに行ってて良いよ」

 遠くに見えるカズキが上げる水しぶきを眺め、待つ事が嬉しい事のようにフェイトが言った。
 とてもありがたい言葉ではあったが、何故か素直に聞き入れる事はできない。

「いや、いい。元々は私が頼まれた事だ。私が、カズキを待つ」
「そう? でも私も待つね、私がそうしたいから」

 私もではなく、私がと自分の役目だという言葉を呟きシグナムはパラソルの影に座り込んだ。
 少々大人気なかったかとばつの悪い思いを抱きながら。
 意味が通じず、素直にフェイトが笑いかけてきたから尚更であった。









 折り返し地点も決めず、沖に向かったカズキとパピヨンであったが引き分けとなった。
 魔法なしというルール上、パピヨン有利かとも思われたが違っていた。
 二人共に折り返す事なく沖へ沖へと突き進み、仲良く同時に溺れたのだ。
 カズキは準備運動不足から足をつり、パピヨンは体力不足から吐血により海を赤く染め。
 そう、魔法なしではホムンクルスが有利でもパピヨンはなりそこないの病気持ち。
 浜辺で見守っていたシグナムとフェイトを大いに慌てさせるだけに終わった。
 そんな多少危うい場面がありつつも、皆は思い思いに海を楽しんでいた。

「ねえねえ、アリサちゃんたこー」
「ぎゃあッ、捨て……捨ててきなさい。こっちに来るな!」

 浅瀬でのビーチバレー中、何時の間にか消えていたまひろが、何処からかたこを拾ってきた。

「アリサちゃんもこっちに逃げてこないで。まひろちゃん、ぽい。それぽいして!」
「来ちゃだめ。レ、レイジングハート!」
「まひろちゃんに向けてディバインバスター!」
「なのは、そんな事をしちゃ駄目!」

 食卓に刺身として出るなら兎も角、実物はうねうねと滑っており気持ちが悪い。
 すずかが捨ててと懇願しても、あまりまひろには伝わっていないようだ。
 早くもなのはは空に逃げようとし、アリシアが過激な事を口にしていた。
 慌てたフェイトにレイジングハートは取り上げられたが、まだ事態は好転していない。
 楽しそうにたこを持ち上げながら、なおもまひろは迫ってくる。

「こら、皆の嫌がる事はしないの」

 そこへ現れた女神は、保護者役のアルフであった。
 彼女もまたそれぐらい平気とばかりに、たこを取り上げて遠くへと投げ捨てた。
 そして女神のようになのは達から崇められ、本人も満更ではないと笑う。

「あー、後でバーベキューでもして焼けばええのに。新鮮ならお刺身でも」
「はやて、もう少しあいつらみたいに可愛い反応しろよ」

 一人残念そうに呟いたのは、自分でたこを捌いた事があるはやてぐらいのものである。
 これでお酒でもと言い出せば、見事な小さいおっさんの誕生だ。
 ヴィータのまともな突っ込みも、笑って受け流して気にした様子はない。
 ところ変わって、なのは達がいる浅瀬から少し離れた岩場の上。

「意外と、海もいいものだな」

 そんな年寄り染みた発言をしたのは、クロノであった。
 六桝から借り受けた釣竿にて、波間に釣り針を投げ込んでぼけっとしていた。
 時に揺れる波間に視線をめぐらせ、時に遥か頭上を流れる雲を何気なしに目で追いかける。
 こういった穏やかな過ごし方の方も、悪くはないようだ。
 骨休めという言葉がこれ程似合うモノを、クロノは今まで知らなかったせいもある。
 何しろ有給休暇まる残しのワーカーホリックなのだ。

「六桝君、大物が連れたらお任せくださいね」
「釣りはさばくまでが一連の楽しみだから」

 直ぐそばでは六桝も海に釣り糸を垂らしているが、その隣にシャマルが在籍中であった。
 岡倉に話しかけられる時よりも、幾分楽しそうなのは見間違いではあるまい。
 というよりも、シャマルの方が頑張って六桝に話しかけているようにも見えた。

『なんというか、本当に普通の女の子だな。シグナムといい、シャマルといい。ザフィーラ、もしかして僕らは邪魔者という存在じゃないのだろうか?』
『クロノ執務官、今頃気づいたのか……では、切欠を頼む』

 ザフィーラに頼まれた通り、まだ自分が一匹も釣れない事からクロノが言った。

「六桝、僕は少し場所を変えるよ。悪いけど、もう少しだけ道具は貸してくれるかい?」
「構わない。釣りが気に入ったのなら、その竿はあげるよ。お古だけど、悪い品じゃない」

 あっさりと了承を得たのは良いが、シャマルの目が輝き過ぎである。
 もの凄くにこやかに手を振られ、行ってらっしゃいとお見送りされてしまう。
 なんだか微妙な心持ちで場所を離れたクロノに、さりげなく興味を引かれたふりをしてザフィーラが続く。
 特にザフィーラも止められる事はなく、二人でポイントを探して岩場をあちらこちらへ。
 そんなおり、クロノは見つけてしまった。
 少し遠くの浜辺を二人きりで夫婦のようにして歩くブラボーとリンディである。
 古い付き合いであるとは聞いているが、歩く場所が浜辺であると何故か安心できない。

「ザフィーラ、少し向こうの方へといってみないか?」

 クロノが言う向こうとはもちろん、ブラボーとリンディが歩いている方角だ。
 邪魔者にならないようにし、邪魔者になりにいくとはどういう事か。
 ザフィーラが無言で首を横に振ったのは言うまでもない。
 邪魔者が自分達で気付いて、去った後の最初の岩場。
 事はそう上手くは運ばないのが、色恋沙汰と言うものであろうか。
 ほんの少し、六桝の方へと体を寄せてシャマルが座り込んだ時、釣り糸が揺れた。

「ぷはっ!」

 六桝が釣り糸を引っ張るより先に、海面からカズキが勢い良く顔を出したのだ。
 気の利く邪魔者は消えたが、はっきり言って気の利かない邪魔者が現れた。

「あれ、岡倉はどこ言った?」
「さあ、まあ大体想像つくけど」

 カズキが突然現れても、極普通に返した六桝が釣り糸をゆっくりと引っ張った。
 海中から現れたのは、誰頭の海水パンツである。

「えっ?」

 これに驚いたのは、カズキが現れた事で驚き、六桝に抱きつくようにしていたシャマルであった。
 その視線を海に、カズキが立っている場所へと降ろし、ぼふりと顔を赤くする。
 海中では黒い海草がゆらゆらと揺れていたのだ。
 きっと海草、そうに違いない、釣りポイントなので絶対とシャマルはむせた。

「ぶほッ、げほ……カズキ、貴様何をしている!」
「え、何が?」

 次に海中から勢い良く跳び上がったシグナムが、顔を真っ赤にしながらカズキに詰め寄った。
 どうやら本人はまだ、六桝に海水パンツを釣り上げられた事に気付いていない。
 だが詰め寄ったは良いが、現在カズキは全裸のまま。
 シグナムのお腹の辺りにふにゃりと何かが触れてしまう。

「え?」
「え?」

 今頃気づいて顔を青くするカズキと、沸騰寸前のシグナムであった。
 ぎしぎしと固まった首を回転させ岸の岩場を見上げれば普段通りの六桝と、顔を両手で覆いながらも指の隙間から見ているシャマルがいた。
 一体誰が原因で悪いかは不明ながら、とりあえずカズキは思い切り殴られた。









 お昼は各自持ち寄ったお弁当による腹ごしらえであった。
 当初はバーベキューも検討されたが、そこは悲しいかな運転免許を持つ者がいない。
 道具の持ち運びを考えると不可能な事が多く、お流れ。
 だが参加者が参加者なので、お弁当は色とりどりと言っても過言ではなかった。
 パティシエである桃子作から、料理自慢のはやて作、久々に台所に立ったリンディ等。
 その中で無骨で大きななおにぎりがあるのは、武藤家のカズキ作だがご愛嬌。
 では全員揃ったかと見渡せば、一人足りない事に気がついた。

「ヘイ、カノジョ。おCHAしなーい?」
「アハハ、ヘンナカオー」

 それは鼻の下を最大限に伸ばしながら、浜辺を忙しそうに駆ける岡倉であった。
 お昼の集合時間になった事にも気が付かず、ナンパへと明け暮れている。
 というよりも、一生懸命ナンパに心を割いているようにも見えた。

「ヘーイ」
「シッシッ」

 顔を笑われても、犬のように追い払われても諦めない。

「ヘ」
「きゃあああ」

 だが流石に悲鳴を上げられて逃げられた時には、堪えたようだ。
 夏の青空には似つかわしくない陰気な雰囲気を撒き散らし、四肢を砂浜についた。

「海なんて……大嫌いだ」

 折角のお昼のお弁当が不味くなりそうな程に、怨念を込めて呟く。

「あれ、岡倉どーした?」
「まあ、色々とあったんだろう」

 どうしたもこうしたもないと、少しは自覚しろと六桝が彼女持ちを嗜める。
 自分自身の隣に、シャマルがいる事を棚にあげて。

「ふん、良い気味。ほら、クロノ。あーんして? というか、しろ」
「いや、君達。何故僕を囲うように」
「それは、リンディさんが……はい、クロノ君お茶減ってるよ」
「えっと、私はこう、で良いのかな? ちょっと、恥ずかしい」

 午前に少し邪魔をされた仕返しと、母親離れという意味を込めた嫌がらせだろう。
 右手側からはアリサが箸でから揚げを摘んで差し出し、左手からはすずかが紙コップから減った分のお茶を注いでくれる。
 一番謎なのは、役目が何もない為に、背中から抱きついてきたなのはだ。
 ささやかながら、それでもはっきりと解る柔らかいものが押し付けられクロノが固まる。
 後者二人はリンディに押し切られた事もあるが、アリサは岡倉に見せ付けているだけであった。

「オノレ、クロノ……」
「なんて邪悪な声を、というか冤罪だ!」

 視線のみならず怨念で人が殺せたらとでも聞こえそうな呟きを岡倉が呟いた。
 年齢的な事を加えても範疇外なアリサ達といえど、やはり誰かが持てている様は憎らしいらしい。
 冤罪を叫ぶクロノの声も届かないようで、呪詛を垂れ流している。
 そんな岡倉を見かね、立ち上がったのはブラボーであった。
 リンディ作のサンドイッチを飲み下し、うな垂れる岡倉の頭にぽんと手を置いた。

「ブラボー?」
「くじけるな、頑張り続ければいつかきっと報われる事だってある。どれ、一つ手本を見せてやろう。ガールズ」

 ブラボーの抽象的な呼びかけに反応したのは、主になのは達であった。
 シグナムやシャマル、それからアルフはガールという呼称は少々合わない。
 しかしながら、よりにもよってリンディが振り返った事を突っ込んではいけないだろう。
 ブラボーも一瞬何か言いかけたが、保身の為に黙殺する。

「いくぞ、十三のブラボー技の一つ。悩殺、ブラボキッス!」

 子供のように遊んでいた時とは一転、その表情を引き締める。
 瞳に憂いを帯びたような妙な色気を浮かべ、夏の光を集めるかのように輝かせた。
 人差し指と中指、二本の指を唇へと走らせなぞり、誰ともなく投げつける。
 その時、はっきりと少女達の瞳に見えたのは指先より迸るハートマークであった。
 もちろん魔法は未使用だが、怖ろしい程にはっきりとした幻視である。
 そのハートを少女達が胸で受けた瞬間、一部を除いて感じた事のない快感が胸を駆け抜けた。

「何、今の……変なむずむずが胸に」
「うぅ、顔が赤くなってるのが解る。なんだか恥ずかしい」
「ブラボーさんって、もしかして格好良い?」
「君達、見惚れるのは良いんだが……」

 アリサ、すずか、なのはとその瞳はブラボーに釘付けであった。
 いまだ初恋もしていない少女の心を揺さぶりときめきを教える程の威力らしい。
 ただその影響で、クロノは少しばかりきまずい思いをしていた。
 アリサがさしだしたから揚げは頬を抉り、すずかはコップからお茶が溢れている事に気付いていない。
 背中に密着しながら、眼中になしとばかりに違う男の名をなのはに呟かれる始末。

「そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ」

 ひと夏の恋に破れた男のような事を呟かされてしまう。
 岡倉の気持ちが少なからず理解できたクロノであった。

「違う、違うよ。ドキドキなんかしてない。してないからね」
「え、あーうん」

 とりあえず、必死にカズキに言い訳をしているフェイトは置いておいて。

「どーだ?」
「師匠、是非弟子に!」

 一先ず、岡倉は暗黒面に落ちきる事なく、引き上げられたようだ。
 未来への希望を見つけたように、ブラボーへと弟子入りを申し立てていた。
 代わりにクロノが暗黒面に落ちかけているが。

「ねえ、シグナムさん」
「なんだ?」

 そして何を思ったのか、カズキが直ぐ隣にいたシグナムを呼んだ。
 シグナムが振り返った瞬間見たもの、それはつい先ほどの焼き直しともいえる光景であった。
 ただし役者が異なる、ただそれだけ。

「悩殺、カズキキッス」

 できるだけ真面目な顔を作り、夏の日差しを集めるように輝きを。
 ちょっと間違えて、魔力をエネルギーに変換させてしまったが特に問題はなし。
 唇に二本の指を走らせ、直ぐそばにいるシグナムへとハートを飛ばす。
 見よう見まね、カズキ式のブラボー技であった。
 だが次の瞬間、シグナムの拳がカズキの顔面にめり込んでいた。

「次やったら、海に沈めるぞ!」
「ふぁい……」

 倒れこみ砂浜に血溜まりをつくりながら、なんとか返事をするカズキ。

「ちなみにこの技は俺にしか使えない。何故ならブラボー技だから」
「駄目じゃん!」

 岡倉の突っ込みも最もだが、効果がゼロかと言えば実はそうでもない。
 次とシグナムが言った通り、効果があるからこそそう言ったのだ。
 カズキから眼を背けたシグナムは俯き、赤くなった顔を必死に隠そうとしていた。
 胸に走った電流のような、エネルギーの耐電のようなアレは何か。
 見知らぬ答えを胸中で得ようと、脳味噌をフル回転させている。
 その膝の上にいたまひろもカズキキッスの余波を受け、いつのの無邪気さは何処へやら。
 ほんの少しだけ少女の瞳で、カズキを見つめていた。
 そして言い訳をしていた為に、一番間近でそれを見てしまったのはフェイトである。
 呼吸が止まりそうになりながらくたりと倒れて、アルフに支えられていた。

「凄い威力やな……私も今度、挑戦してみようかな」
「は、はやて。まさか誰か、相手がいんのか!?」
「赤い顔してなに言うとうんねんや。アレで心キュピーンしたら、簡単に胸を揉ませてくれるかもしれへんやろ? 使える、ブラボキッス!」
「マジで百合に走られたらどうすんだよ」

 ヴィータの突込みを他所に、後で私も弟子入りしようと企むはやて。
 ちなみに、妙に静かだったパピヨンは皆が持ち寄ったお弁当を許可も得ずに一心不乱に食べていた。
 何しろ普段が普段なだけに、まともな食事というのは久しぶりなのだ。
 アリシアもまた同様に、以前のようにリンディの膝の上で口一杯にほうばっている。

「アリシア、それは俺のだ。寄越せ。うん、美味い。これに味をしめて、時折夕食にお邪魔してやろう」
「本当にやめてあげて、招かれざるお客以外のなにものでもないから。でも、カズキのお兄ちゃんの家なら両親いないみたいだし、時々皆集めて良いかな?」

 一部極普通とは違う場面もありつつ、初夏のある日が過ぎていく。
 二人のホムンクルスが、皆には何も告げずに不吉な事を呟きながら。









-後書き-
ども、えなりんです。

武装連金側での海のお話でした。
ただし、パピヨンがいたりと色々カオスになってたりも。
こういう話ばかりでも良いのかなあ。

それでは次回は水曜です。


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