<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[31086] 第二十四話 守りたいものが同じなら
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/24 19:42

第二十四話 守りたいものが同じなら

 シグナム達がジュエルシードの回収を一時中断してから、三日が過ぎていた。
 その間に、管理局に二つも回収されてしまった事は確認している。
 焦る気持ちが決してないわけではなかった。
 はやての足の復調の為に、あと幾つ必要かは正確には分からない。
 だからこそ、シグナムは決断し、昨晩にカズキへと連絡を取り付けていた。
 少し話がしたいと、カズキも喜んで了承してくれ、これから向かう所であった。
 玄関にて靴を履き、見送りに来たシャマルとザフィーラへと振り返る。

「ザフィーラ、主の護衛は頼んだぞ」
「お前達こそ、警戒は怠るな。騙まし討ちがないとは言い切れん」

 念話ではなくわざわざ地球の技術である電話で連絡を取ったが、管理局がそれを察知していないとも限らない。
 カズキに意志に関わらず、何か仕掛けてくる可能生は確かに捨て切れなかった。
 静かに分かっていると頷いたシグナムに加え、ヴィータが胸を張って言う。

「その為に、私もいくんだぜ。シャマルこそ、前みたいなヘマはするなよ」
「あれは、ごめんなさい。気をつけるわ」

 クロノに捕縛されかけた事を例に出され、しょんぼりとシャマルが萎む。
 本人は元々バックアップ要員の為、仕方のない部分もあると言えばあるのだが。

「あれ、皆玄関に揃って……シグナムとヴィータはお出かけか?」
「はい少し。けれど、昼前には戻ります」
「はやて、今日の昼飯は?」

 やや話をそらすようにヴィータがそう尋ねると、はやてが苦笑していた。

「ヴィータ……さっき、朝ご飯食べたばっかりやん。せやな、特性ソースのミートスパでも作ろうか。シャマル、後で手伝ってな」
「もちろんです、はやてちゃん」
「では、行ってまいります。主はやて」
「直ぐ帰ってくるからな」

 予定にはなかったが、はやての了承を得てシグナムとヴィータが玄関の扉を開いた。
 ここ最近では珍しく、外はあいにくの曇り空。
 分厚い雲に覆われた空の下へと、二人は家族に見送られ出かけていった。
 はやてとシャマルが手を振り、ザフィーラが尻尾を振って見送る。
 そして玄関の扉が閉まると同時に、それじゃあとお互いに顔を見合わせた。

「今から時間を掛けて、お昼の準備をしますか?」
「せやな。最近は皆が家におるから、掃除も隅々までばっちりやし。ザフィーラは暇かもしれへんけど、簡便な。その代わり、お昼食べたらお散歩行こうか?」
「心配には及びません。主のお気に召すままに」
「そんな事を言うて、しっかり尻尾揺れとるで。うりうり」

 器用に車椅子を操り、ザフィーラの後ろに回りこんだはやてが尻尾を突く。
 規則正しく揺れていた尻尾は突かれるたびに、そのテンポを変える。
 少々困り顔のザフィーラであったが、その動きが気に入ったのかはやては止めてくれない。

「はやてちゃん、ザフィーラが困ってますよ」

 そう言いつつも、ちょっと気になったのかシャマルも尻尾を突く。
 左右に交互に振れる尻尾が、少し触れただけでテンポを崩して逃げる。
 楽しいやろと、はやてに笑いかけられ否定できなかった。
 そんな無邪気な二人を相手に、仕方がないとばかりにザフィーラは我慢し続けていた。
 やや嫌々ながらも主の為にと、気分を高揚させて尻尾を振り続ける。
 我慢我慢と自分に言い聞かせていたザフィーラは、ふいに誰かの気配に気付いた。
 はやてやシャマルよりも更に後方となる背後、家の中へと振り返りかけたが違う。
 まるで気配が一瞬にして回り込んだように、玄関の向こう側に現れる。
 自分の感覚が狂ってしまったような奇妙な感覚を受け、首を横に振った。
 その直後、インターホンが鳴らされた。

「ん、誰かお客さんかな? こんな朝早く、珍しいな」
「はやてちゃーん」
「この声、はいはーい」

 玄関の扉の向こうから聞こえてきたのは、甲高いまひろの声である。
 事前の連絡もなしに、何故突然という思いはあった。
 だが相手がまひろとなると、突然の理由もなく来ちゃったという事もありえなくはない。
 保護者もなしに、この八神の家にまで来れるか不安な部分は確かにあるが。
 返事を返したシャマルが突っ掛けを履いて、その手を扉のノブに掛ける。

「待て、シャマル!」
「え?」

 ザフィーラの制止した時には既に、シャマルの手により玄関の扉は開けられていた。
 その向こう側にいたのは確かに、聖祥大付属小学校の制服姿のまひろであった。
 だがその表情が、本人とは異なる事を明確に示している。
 開けられた玄関の扉に手を掛け、似つかわしくない影のある笑みを浮かべていた。
 そして信じられない力で玄関の扉を開け放ち、踏み込んでくる。
 不覚にもザフィーラの制止で振り返っていたシャマルは、気付くのが遅れた。
 小さな体で一足飛びに飛び込んできたまひろの拳が、腹部に深く突き刺さった。

「うっ……」
「シャマル!?」

 不意をつかれたシャマルが、意識を失いながら膝から崩れ落ちていく。

「あれはまひろではない。貴様、何者だ。守護獣である私がいる限り、主はやてには手を出させん!」

 咄嗟にはやてを庇い前に躍り出たザフィーラが、魔法陣を展開させた。
 三角形を基調としたベルカ式の魔法陣が、白い雪のような色の光を生み出す。

「鋼の頚木!」

 そして次の瞬間には、まひろの姿を模した相手の体を白い刃が足元から貫いた。
 ザフォーらが得意とする攻防一体の魔法であった。
 時にそれは盾となり、時に刃となって敵を貫き捕縛する。
 はやてが短い悲鳴をあげるが、ザフィーラは決して手は緩めない。
 鋼の頚木という名の刃に貫かれたまひろは、身動きできず悶える事もない。
 その借り物のまひろの姿が歪んでぶれ、現れたのは仮面をしたあの男である。

「まひろちゃんが、なに……なんやの。魔法? なんなん!?」
「主、冷静に。今直ぐにこの不埒な、何!?」

 はやてへと振り返り呟いたザフィーラが、あるものを見て驚愕に目を見開いた。
 それは背後から襲いかかる仮面の男の姿であった。
 鋼の頚木で捕らえた手応えは間違いなく、その気配はちゃんと玄関先にある。
 いや、二人の気配がほぼ一致していると言って良い程に似通っていた。
 最初に家の中に気配らしきものを感じたのは間違いではなかったのだ。
 同じ気配だからこそ、誤認した。
 玄関先に現れた相手と。

「しばらく、大人しくしていろ」

 完全に不意を突かれたザフィーラの体に、魔力球が直接叩き込まれた。
 吹き飛んだ先には、鋼の頚木を破壊して自由を得たもう一人の仮面の男。
 追撃の肘を上から叩き込まれ、無様に玄関の地面に叩き落されてしまった。
 奇しくもシャマルの直ぐそばにて、ザフィーラが力なくへたり込んだ。

「ザフィーラ、シャマ……」

 急ぎ駆けつけようとしたはやての頭に男が手をかざし、その意識を刈り取った。
 眠らせたはやてをかつぐと、二人の仮面の男の姿が歪みぶれ始めた。
 まひろの姿から仮面の男になったように、今度はさらに歳も性別も変わり果てる。
 その姿は管理局の女性士官用の制服であり、頭に猫の耳がある良く似た容姿の二人組みであった。

「せめて……お父様の願いだけはどんな形であっても叶えてみせる」
「行くよ、アリア。デュランダルに闇の書と主、あとはジュエルシードだけだ」

 そう呟き、誰かの使い魔らしき二人の少女は飛んだ。
 人目も一切はばからず急ぎ、海鳴市の臨海公園方面へと。
 その途中、今では無人となった蝶野邸の真上を跳んで行ったのは幸か不幸か。

「パピヨンのお兄ちゃん、ここ汚いし臭いし嫌だよ」
「数年も過ごした人の寝床に酷い言い草だな。しかし、粗方は持っていかれているな。まあ、分かってはいたが。さて、どうするか」
「あ……管理局の魔導師だ」

 蔵の中から姿を現し話していた二人組みが、偶然使い魔二人とはやてを見つけた。
 自分のデバイス作成の為に、何か足しになる物はないかと探しにきたパピヨンである。
 先に二人組みを見つけたアリシアが空を指差して呟く。
 だが誘拐されるように抱えられているはやてを見つけて、直ぐに顔色を変えた。
 それとは反対に、続いて空を見上げたパピヨンはニヤリと笑みを浮かべる。

「良いモノを持っているじゃないか」

 パピヨンが目を付けたのは、使い魔二人が抱えるはやてではなくデバイスの方であった。
 武装隊への支給品とは異なる概観から察するに、オーダーメイド品。
 プログラムそのものは流用できなくとも、内部の精密部品は有用な可能生が高い。
 そう思いつくや否や、パピヨンは魔法陣を足元に浮かべていた。
 手の平より黒色の蝶々を生み出し、二人組みの使い魔の目と鼻の先へと飛ばす。

「なにこれ、蝶々?」
「ロッテ、防いで!」

 目の前に飛び出してきた不可思議な存在を不思議がるロッテに対し、アリアが叫んだ。
 その瞬間、はやての事など完全にお構いなし、長い爪を持つ指を鳴らして着火。
 真っ赤な炎と黒々とした煙の中へと、二人組みを誘った。
 皮肉にも奇襲を行いはやてを奪った二人へと、奇襲によってその足を止めていた。
 だがやはり一撃で二人を葬るのは難しかったようだ。
 爆破の威力もほぼ防がれており、爆煙を振り払いながら二人が姿を現した。

「その子を放しなさい。そこの怪しい二人組み!」
「お、お前達に言われたくない。どう見ても性犯罪者と、その被害者!」

 空に跳び上がった二人が立ちふさがり、アリシアが指摘して叫ぶ。
 だが余りにも最もな意見でアリアに返されてしまい、アリシアが口をつぐんでしまう。
 ほんの少しだが、そう見える事を認めてしまったのだ。
 パピヨンは何時も通り、蝶々のマスクに、胸がぱっくりと開いたタイツに近いスーツ姿なのだから。

「まったく、どいつもこいつもお洒落に造詣が深い者がいない。こんなにも素敵な一張羅だというのに」
「馬鹿に付き合う暇はない。私達の邪魔をするな!」

 苛立ちを露にするロッテへと、パピヨンは長い舌を出して嘲るように言った。

「答えはノン。望むものは奪い取ってこそ……貴様達もそうやって、その小さいのを奪って来たんだろう? 似た者同士お互い様じゃないか」
「貴方みたいな人と一緒にしないで。私達はお父様の崇高な目的、悲願を達成する為に急いでいるのよ」
「お前、偽善者にも悪人にもなれない半端者だな」

 崇高な目的、悲願と呟いたアリアへと、さらにパピヨンは指摘した。
 一体何を目的として、彼女達が動いているかは最初から興味がない。
 アリシアはそうでもないようだが、パピヨンはカズキのような偽善者ではないのだ。
 パピヨンの狙いは最初から、高性能なデバイスそれのみ。
 だが二人のその口ぶり、言い草があまりにもパピヨンの心を逆撫でていた。

「自分の行動を正当化する為に、他人の名前を掲げるんじゃない。そこに自分の意志が全くない。誰かがそう言った、誰かがそう考えた……自分で考える事を全くしていない、最高の怠け者。使い魔とはいえ、もはや生きている価値もない」

 自分の意志で行動しているように見せかけているだけで、その実は他人の操り人形。
 生きている命があるというのに、生きていると見せかけている生きた屍。
 これ程までに命を冒涜し、生きたくても生きられなかったパピヨンを侮辱する存在はなかった。
 そんなパピヨンの言葉を前に、ロッテは手にしていた闇の書とデュランダルをアリアに手渡していた。

「アリア、これを持って先に行ってて」
「あんな奴のいう事なんて、気にする必要すらないわ」
「大丈夫、私は冷静だって。それに私じゃ、海中のジュエルシードを発動させる程に大規模な儀式魔法は使えない。あんな奴に、大事な儀式を邪魔されたくない」
「そう、分かったわ。だけど、直ぐに来てね」

 先を急ぎ、飛んだアリアをパピヨンが追おうとする。
 くどいようだが、あくまでその目的はデュランダルなのだ。
 だがそうはさせるかとばかりに、ロッテが回り込んで魔力を溜めた拳を振り上げていた。

「私達の邪魔は絶対にさせない!」
「おっと、その手は迂闊だな」

 素早く空を蹴っての一撃を前に、パピヨンはただ手の平を差し出しただけ。
 馬鹿めと笑みを浮かべたロッテは、その腕を容赦なく振りぬいた。
 背筋の凍る痛々しい音と共に、パピヨンの腕がロッテの拳に触れながら奇妙な方向へと折れ曲がる。
 薄い障壁こそ張ってはあったが、それさえ打ち貫いたのだ。

「素人が、管理局でも体術のみなら指折りの私に立ちふさがるから」
「そうか、だがあまり頭のできは良くなかったみたいだな」

 次の瞬間、折れ曲がっていたパピヨンの腕、その先にある手の平がその口を開けた。
 直接目で見る事は叶わなかったが、直接触れていた為にロッテが髪の毛を総毛立てる。
 ホムンクルスが持っている第二の口。
 そこから触れていたロッテの腕を肩口に至るまで、一瞬にして喰い上げた。
 大量の血が鮮血となって肩口から噴き出し、空から雨となって降り注いていく。
 腕の消失による痛みに苦しみながら、ロッテにも意地があった。

「ぐぅッ、この化け物が!」

 出血する肩を左手で抑え、歯を食いしばりながらパピヨンの顔を蹴り上げのだ。
 大怪我を負ってもその意志を揺るがせず、自分で指折りと言うだけの事はあった。
 顔を蹴られ軽く吹き飛ばされたパピヨンは、血の混じった唾を吐きながら笑う。

「へえ、思ったよりやるやる。こいつは、デバイスより拾い物だ。武藤と同じ、近接戦闘型。見えない経験値は大切にしないとな」
「私の腕……腕ぐらいなんだ。闇の書さえ封印できれば、後はどうなったって構わない。そうだ、お父様の悲願だけじゃない。これは私の意志、私の考えでもあるんだ!」
「欲望丸出しの良い顔になったじゃないか。それに戦意もあって結構、結構。アリシア、先に行ったもう一匹を追え。あのデバイスを奪ってこい」
「デバイスじゃなくて、女の子の方。パピヨンのお兄ちゃん、殺さないでね」

 パピヨンにそれだけはお願いし、アリシアがアリアを追って空を蹴った。
 行かせるかとロッテが追随しようとするも、今度はパピヨンがその前に立ちふさがる。
 手の中に生み出した黒色の蝶々をかざしては撃ち放ち、空を赤く染め上げた。









 翠屋とは別の喫茶店にて落ち会っていたシグナム達に、その異変は知らされた。
 シャマルがその意識を閉ざす直前の、辛うじての念話であった。
 仮面の男の存在、はやての誘拐その二つのみが。
 その場に居たカズキも伴ない、急ぎ路地裏で騎士甲冑を纏い空を駆ける。
 それぞれ、焦りを浮かべながらも空を裂くように先を急ぐ。
 誘拐されたはやてが、何処へ連れて行かれたのかも不明なままで。

「くそ、シャマルは兎も角、ザフィーラまでついていながら!」
「喋っている暇があるなら急げ。守護騎士が二人も残った上で主の誘拐を企てるとは、相手も余程焦っていると見える。主の身が心配だ」
「あ、ちょっと待って二人共。アレ、アリシアちゃんじゃないか?」

 先を急ぎ高速で飛ぶ二人に、かろうじて食い下がっていたカズキがとある方向を指差して言った。
 どうやら二人は、先を急ぎすぎて見逃していたらしい。
 カズキの指摘を前に振り返って見れば、確かにアリシアがいた。
 本来ならばそれがどうしたで済ます事態だが、少し様子がおかしかった。
 バインドに拘束されたまま空の上で放置されていたからだ。
 まるで誰かに足止めされてしまったかのように。

「アリシアちゃん!」
「何か知っている可能生がある。私達も行くぞ、ヴィータ」
「知っててくれよ、頼むから」

 一目散に駆け寄るカズキに続き、一抹の望みを駆けながら二人も続いた。
 アリシアの方も手を振り声をあげたカズキの存在に気付き、僅かな笑顔を浮かべる。
 それと同時に焦りも浮かべて制止の声を上げた。

「カズキのお兄ちゃん、それ以上近付いちゃ駄目。設置型のバインドがたくさんあるの。それよりあっち。管理局の女の人が、小さな女の子を抱えてあっちに飛んで行ったの」

 腕が動かせず顎で指したのは、臨海公園がある方角であった。

「管理局の……でも、どうして?」
「いや、それは多分あの仮面の男の事だろう。変身魔法、それで油断させられたか。それにしても海、まさかジュエルシードか。急ぐぞ、ヴィータ」
「おう、待ってろよはやて。って、なんじゃこりゃ!」

 一番に飛び出したヴィータが、その先でバインドに縛られてしまう。
 どうやら設置型のバインドはアリシアの周囲だけではなかったらしい。
 下手をすると誘拐犯が飛んだ空の軌跡にずっと設置されている可能性さえあった。

「焦っているくせに、用意周到な。これは迂回して飛ぶしかないか」
「ごめん、二人共。先に行ってる」
「助ける時間も惜しいのは分かるけどよ、ちくしょう。外れろ!」
「力任せは私がもう一通り試したよ。パズルみたいな、難解なロジックを崩してくしかないよ」

 そういうのは一番苦手だと言うヴィータの叫びを背で受けながら、シグナムとカズキは飛んだ。
 目指したのはもちろん、臨海公園方面の海であった。
 元々曇り空であった為に、海が近付くにつれ強い潮風が吹き付けてくるようになる。
 吹き付ける風に眼を凝らしながら飛ぶ中で、ふいにカズキが呟いた。

「ごめん、シグナムさん」
「何がだ。喋る暇があったら、しっかり飛べ。遅れれば、容赦なく置いていく」
「それでもごめん。俺が、シグナムさん達の事を喋ったばっかりに」
「お前のせいではない」

 そう言う事かと、耳を傾けていたシグナムは振り返らずに言った。

「主はやての誘拐に関して、お前が会った管理局員達は恐らくは無実だ。もしも仮面の男とグルならば、先日の湖の一件で我々を手助けする理由がない。それに謝るのは私の方だ」
「どうして?」
「主の為とは言え、短絡的な行動でお前を再び戦いに引きずり込んでしまった」
「お互い様だよ。蝶野が生きてた。それだけで、俺はきっと戦いに戻ってたはずだから」

 できる事なら和解の証として、手の一つも取りたいところである。
 だが状況はそれを許さず、ならばせめてとシグナムが言った。

「カズキ、力を貸してくれ。私は主はやてを助けたい、守りたい」
「うん、俺も同じだ。シグナムさんが守りたいものは、俺も守りたい。守りたいものが同じなら、きっと前のように一緒に戦える」

 共に笑みを浮かべあい、今度こそ声を殺して一目散に海を目指した。
 やけに強い潮風が吹き始め、シグナムでさえ悠長に喋る余裕を失くしたのだ。
 空を覆ってい雲も、何時の間にかその厚みと黒さを増してまるで雨雲のようであった。
 事実、それは雨雲であったようで、カズキの頬に一滴の雨粒が落ちてきた。
 続いて遠方からは落雷の音が響き、空の上を震動となって広がっていく。
 一雨がくるどころか、このまま大雨、海上では時化になりそうな雰囲気であった。
 嫌な予感が刻一刻と増していく中で、ついに分厚い雲の中から雨が降り始めた。

『カズキ、聞こえるか!』

 そんな折、カズキの頭に直接響いてきたのはクロノの声であった。
 思わず立ち止まりそうになったカズキは、問題ないとシグナムに手振りで伝えて飛行を再開する。

『ごめん、クロノ君。今はあんまり余裕がない。もしかして、ジュエルシードが?』
『なんだ分かっていて現場に急行していたんじゃないのか? 君が向かっている先で、ジュエルシードが活動を開始しはじめている。させられたと言った方が正しいか』
『それって、管理局の……そうだ。その現場に管理局の人はいない? なのはちゃん達ぐらいの女の子を抱えた』
『ああ、君の言う通りいる。アリアが、僕の師匠の一人が闇の書の主を伴ないジュエルシードを強制的に発動させようとしている。現場は魔力が乱れていて転送が難しい。誘導はする、急いでくれ』

 何故クロノがはやてを闇の書の主と断じたか、問答をしている暇はなかった。
 即座にカズキは、今聞いた事をシグナムに伝えた。

『今は信じるしかないか、カズキ頼む』
『分かってる。クロノ君、誘導を頼んだ』
『道案内はエイミィさんが行うよ。追加戦力は後で送るから、今は急いでジュエルシードを封印して。闇の書に蒐集させちゃ、駄目だから』

 アースラのオペレーターをしていたエイミィの誘導に従い、二人は飛んだ。
 遠方に見えてきた海は時化で荒れ、沖合いには数本の巨大な柱が見えている。
 恐らくは、ジュエルシードの発動に伴なって生まれた竜巻か何かだろう。
 その中心に十数メートルに及ぶ巨大な魔法陣を足元に生み出している者がいた。
 管理局のものらしき制服に身を包んだ猫耳のある一人の少女である。
 そしてその少女、アリアがはやてに闇の書を抱かせながら、宙に浮かべていた。

「主、はやて!」

 時化の風と大波、雷の音に飲まれ聞こえるはずもないのにシグナムは叫んでいた。

「守護騎士、どうしてこの場所を正確に……まさか、あの子? バインドで縛り付けたのは失敗だったかしら。墜ちなさい!」

 こちらに気付いたらしきアリアが、足元とは別に前面に複数の魔法陣を展開。
 近付くカズキとシグナムに向けて砲撃の魔法を撃ち放ってきた。
 強風が吹きすさぶ中、シグナムが危なげなくそれを回避する。
 カズキも少し掠りはしたものの、なんとか避けきっていた。
 次々に放たれる砲撃の弾幕の中を、ただひたすらに二人は空を駆けていく。

「くっ、ロッテがいないのにベルカの騎士二人が相手……少し厳しいわね。けれど、もう遅い。ジュエルシードはこの子を基点として発動した。もう止められないわ!」
「そのような道理、私がレヴァンティンで斬り裂いてみせる。主だけは、はやてだけはこの手で守りきってみせる!」
「Explosion」

 シグナムの心の底からの叫びに従い、レヴァンティンがカートリッジをロード。
 鍔から不要となった薬莢を吐き出し、その中に封じ込まれていた魔力を解放する。
 そのまままるで一つの弾丸になったかのように、アリアへと肉薄していく。

「俺達が一緒なら、きっと助けられる。誰だって、どんな状況だって。だから絶対に、遅いなんて事はない。シグナムさんと一緒に、守るんだ!」
「Explosion」
「さらにエネルギー全開、最大出力!」
「Explosion、Explosion」

 一発のみならず、二発目三発目と次々にカズキはカートリッジを消費する。
 光と言えば他に落雷ぐらいしかない時化の海上で、太陽のようにその身を輝かせた。
 魔力を純粋なエネルギーに変換して、カズキが光を周囲に纏わせていく。
 雨も風も、あらゆる障害を消し飛ばすように、光を瞬かせて弾ける。
 それに引きずられるように、カズキの心臓たるジュエルシードも活性化していった。
 胸には七十番の赤い刻印が浮かび上がり、さらに魔力が膨れ上がる。

「あの子、まずい!」

 尋常ならざるカズキの魔力を前に、アリアが予想外だとばかりに呟いていた。
 その直感に従い、とっさにカズキの目の前に飛び出す。
 儀式魔法で疲れてはいたが、残りの魔力全てを注ぎこんで魔法障壁を展開する。
 そうでもしなければ止められないと感じたのだ。
 そんなアリアの予想を更に超えて、カズキは叫んで空を蹴りだした。

「そこをどいてくれ!」
「Sonnenlicht clasher」

 一個のエネルギーの塊、太陽そのものになったかのようにカズキが飛んだ。
 駆け出した先の延長線上にアリアがいても、止まらない。
 彼女が必死の思いで張った魔法障壁さえも軽々と貫いて、飛んでいく。
 カズキが目指したのは、ジュエルシードによって生み出された幾つもの竜巻であった。
 一見無謀とも見える特攻である。
 だがカズキは見事に竜巻の一つを貫いて見せていた。
 それも貫くと同時に、サンライトハートにジュエルシードを喰わせ封印して見せた。
 はやてを中心に生まれていた魔法陣の一角、竜巻の一つが崩れ落ちる

「そんな、馬鹿な。ありえない、もう既にロッテや私の二人掛かりでも封印は不可能なはずなのに……」
「どこを見ている。貴様の相手はこの私だ!」

 半ば茫然としたいたアリアへと、シグナムが背後からでも構わず斬りかかる。
 慌てて魔法障壁を展開し受け止めるも、動揺はしっかりと現れていた。
 目の前のシグナムの一刀を防ぐのも手一杯の中で、何度もカズキに振り返ろうとしている。
 それもそのはず。
 カズキは竜巻を生み出したジュエルシードを一つ封印しただけでは止まらなかったのだ。
 続いて二つ目と、封印の為の突撃を行おうと身構えていた。

「カズキ、そのまま全てのジュエルシードを封印しろ!」
「そんな事はさせない。コレはお父様の、私達の悲願。闇の書なんてものがあるから、悲劇の連鎖は終わらない。だから私達が闇の書をこの世から消すの。終わらせる為に」
「その為に主を……ふざけるな。その連鎖が終わろうとしていたのだ。主のおかげで終わろうとしていたのに、お前達が壊すというのか!」
「貴方達がそれで良くても、私達は納得できないのよ。私達が納得できる方法でしか、認めない。認めるもんですか!」

 お互いに我をぶつけ合いながらシグナムとアリアが叫びあう。
 だからこの場にいる誰もが、気付いてはいなかった。
 はやてを助けようと、本当の意味で際限なくカズキが魔力を高めている事を。
 その魔力の高まりに反応するかのように、はやての抱く闇の書が淡い紫の光を発していた事を。









-後書き-
ども、えなりんです。

A's編も終盤に近付いてきました。
というか、短ッw
まあ、微妙に無印も終わってなくてごっちゃなんですが。
これが終わったら最終編の武装錬金編に入ります。

それでは次回は水曜です。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.04813289642334