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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第二十三話 私達は本当に正しいのか
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/21 21:16

第二十三話 私達は本当に正しいのか

 朝食後、食器を洗う為に炊事場の前に車椅子を運んだはやては、誰かが隣に並び立つのに気付いた。
 やや驚いた表情で見上げた先にいたのは、エプロン姿のシャマルであった。
 家族であるからして、普通は驚く事ではない。
 ただここ最近、シャマルは忙しく家を空ける事が多かったのだ。
 シャマルだけではなく、シグナムやヴィータ、ザフィーラまでも。
 手伝えなくてごめんなさいと済まなそうに謝られたのも一度や二度ではなかった。
 シャマルははやての視線に気付いて、にこりと笑い返してくる。

「さあ、手早く済ませちゃいましょう。今日はお布団干しから、掃除機まで。たまっていた家事を済ませちゃいますよ」

 私頑張りますと、可愛らしく力こぶをつくってアピールさえしていた。
 その姿にひょっとしてと、大きな期待を寄せながら、はやてが尋ねる。

「忙しいのはもう、ええの?」
「ええ、しばらくの間は大丈夫です。私だけじゃないですよ。シグナムもヴィータやザフィーラも」

 シャマルに肯定され、はやては改めて朝食後の居間へと振り返ってみた。
 シグナムはソファーに座り新聞を広げ、緑茶を飲んで休んでいる。
 ヴィータはザフィーラの首輪に散歩用のリードをつなげていた。

「はやて、久々に散歩行こうぜ、散歩。ゲートボール場の爺ちゃん婆ちゃん達にも会いに行こうぜ」
「主はやて、何か手伝える事があったらなんなりと申し付けてください。一般的な家事は不得意ですが、力仕事ならば私がします」
「ううん、ええよそんな。シグナムはゆっくりしとき。ヴィータ、散歩はもうちょい後な。先に家の中の事を済ませとかへんとな。さあ、シャマルちゃっちゃと片付けるで」
「はい、はやてちゃん。シャマルさんにお任せです」

 ぱーっと輝くような笑顔になったはやてが、同じく腕まくりをしてシャマルに言った。
 元々家事は好きな性質ではあったが、それだけではないように楽しそうに皿を洗い始める。
 鼻歌までも歌い始め、シャマルと一緒に皿洗いを楽しんでいた。
 その楽しそうなはやての姿を、複雑な表情で見つめていたのはシグナム達であった。
 本人には気付かれないように、盗み見るようにしながら。
 自分達が家にいても、はやては特別な事を望まなかった。
 あまつさえヴィータのちょっとしたお願いにも快く頷き、約束さえしてくれた。

「私達は、本当に正しかったのか?」

 だからなおの事、シグナムは自分達の行動に疑問を挟まずにはいられない。
 ヴィータもザフィーラもである。
 はやての足の完治の為に、あえて管理局に敵対するという危険に身をさらしたのだ。
 それがはやての幸せに繋がるからと、はやての為にはそれが一番だと信じて。

「なあ、フェイトの母ちゃんが死んだって話をしたよな」

 はっきりとした迷いを皆が浮かべる中で、声の大きさを落としてヴィータが呟いた。

「ああ、聞いた。テスタロッサには一言、お悔やみを言ってやりたいものだが。こんな状況ではな。あのような幼い身で、主の両親といい運命は残酷な事をする」
「あいつ、言ってたんだ。もう少し、目の前にある幸せを大切にしろって。目も眩む輝かしい未来よりも、目の前にある小さな幸せの方が大事だって」
「目の前にある小さな幸せか」

 それはまさに、今のシグナム達の現状の核心を突く言葉でもあった。
 シャマルと一緒に皿洗いをしているはやては、本当に幸せそうに笑っていた。
 好きな家事をシャマルと一緒にでき、今日はシグナム達も一緒にいる事ができる。
 そんな笑顔は、まさしく幸せを象徴するかのようなものであった。
 つまり、今のはやては既に幸せなのだ。
 もちろん、足が普通に動き、友達と学校に行く事ができればもっと幸せだろう。
 よりたくさんの幸せを求めるのは、人として当然の事である。
 だが闇の書の主である事を知った時のはやては、よりたくさんの幸せを求めただろうか。
 そうであったならば、恐らくは今のシグナム達はここにはいないはずであった。
 魔力の蒐集に帆走し、これまでの主に対するように笑顔一つ浮かべなかった事だろう。
 はやてが求めたのは、本当に小さな願い事である。
 そばにいて欲しい、ただ家族としていて欲しい、それだけだ。

「今しばらくの間、自重すべきかもしれんな。二個のジュエルシードを取り込み、闇の書による侵食は完全に止まっている。これ以上、主を蝕む事はない」
「そう、だよな。そりゃ、最善は管理局に捕まらずジュエルシードを手に入れてはやての足が治る事だ。けどよ、この幸せをはかりにかけてまでする事か?」

 重い口を開き、自分の意見を述べたザフィーラにヴィータが同調する。

「私らが守護騎士ってのはバレたみたいだけど、はやてが主って事まではカズキも喋ってないみたいだったし。もう、良いだろ。あの変な仮面野郎の事もあるし」

 シグナム達が家での待機を決めたのは、管理局やカズキ達の存在よりもそちらの方が大きかった。
 仮面野郎といっても、パピヨンの事ではない。
 むしろパピヨンが相手であるなら、ヴィータは変態の二文字で断ずる事だろう。
 シャマルを捕縛した執務官を蹴り飛ばし、窮地を救ってくれた男の方である。
 捕縛結界を破壊する為に闇の書を使えと進言した辺り、かなり怪しい。
 仮に通りすがりの人間が、事情を良く知らず割って入ったにしては知りすぎていた。

「下手をすると、あの男達は我らのみならず主の存在にまで精通している可能生がある。管理局やパピヨン以上に、我らにとっては危険だろう」
「そうだな。一度、カズキと会って話をしてみよう。何処まで管理局と話をしたのか、どういう取り引きを狙っているのか。最終的な行動は、それで決める」

 もちろんの事ながら、捕縛してはやてごと逮捕というのであれば決裂。
 恐らくカズキの性格上、それはないであろうが。
 やはり管理局が相手となると、慎重に動かざるを得ない。
 以前に一度、罠に填められた以上、より一層の警戒を持って望まなければならないだろう。

「その時は、私も行くぜ。お前は、カズキに甘いからな」
「管理局に勘ぐられたくはないから、タイミングはみるが……その時は頼む」
「お、やけに殊勝じゃねえか」
「少しぐらい、そういう自覚はあるからな」

 返って来た言葉に本気で驚くヴィータの頭をぽんと撫で、シグナムは立ち上がった
 元々、量は多くない食器の粗いもの等、直ぐに済んでしまう。
 さあて次はと、家事のスケジュールを頭に思い浮かべ始めたはやてへと歩み寄る。

「主はやて、布団干しぐらいならば私にもできます。先に上で、済ませておきます」
「せやな、シャマルに任せるとそのまま布団と一緒に落っこちそうやし」
「ひどい、はやてちゃん。私そんなに鈍じゃないです」
「自覚がねえのが一番やばいんだよ。んじゃ、私は玄関先の掃き掃除でもするよ」

 はやてに任せていては、ゆっくりしていろしか返って来ない為、自主的に立候補をする。
 そこではやてもようやく折れ、家事の分担を皆に振り始めた。










 空と海、二種類の青に囲まれているはずの臨海公園が、淀んだ色に支配されていた。
 現実空間とを切り離す、結界魔法である。
 潮風は消え失せ、静かな小波をBGMにして穏やかな時間を過ごす人も今はいない。
 辺りに満ちる魔力の波動は強く、魔導師でなくても直接肌で感じられた事だろう。
 その原因は、発動したジュエルシードである。
 ジュエルシードが憑依したのは、臨海公園内の樹木であった。
 元々は海にあって流されてきたのか、鳥か何かが運んできたかは定かではない。 
 ただ既に発動し、奇怪な叫び声を上げている憑依体がカズキとフェイトの眼の前にいた。

「来る」

 そうフェイトが呟き、魔力刃を生み出したバルディッシュを構える。
 自身を巨大化させるのみならず、その幹には怨霊のような顔が浮き出ていた。
 その顔をさらに歪ませながら、憑依体がその根を持ち上げようとする。
 当然の事ながら、根は分厚いコンクリートの下だ。
 だが真下からの加重に耐えられず、コンクリートはひびいり、砕けて飛散し始めた。
 本命よりも先に、コンクリートの破片が二人へと襲いかかった。

「フェイトちゃん、ここは俺に任せてくれ!」

 いくら素早いフェイトでも、無数の飛来物を前に避け続けるのは困難。
 カズキがフェイトよりも前に出て、サンライトハートの柄を両手で強く握り直した。
 下手に魔法障壁を生み出せば身動きが取れず、次に振り上げられている根が叩きつけられてしまう。
 ならばと大きな破片は、幅広の刃を盾にして受け流す。
 逆に小さな破片は柄の部分をただの棒のように扱い、細かく叩き落していく。
 状況に応じてサンライトハートの扱いを変える戦いを、カズキは覚えつつあった。
 多数の飛来物を受け流しては叩き落し、無視できるものは騎士甲冑で受け止めた。

「邪魔、次は私の番。後詰め、お願い」

 一頻りコンクリートの破片をカズキが防ぐ間に、憑依体が持ち上げた根は限界まで振り上げられていた。
 今にも振り下ろされそうなその瞬間、フェイトが飛び出していった。
 カズキの肩に手を置き、足蹴にして乗り越えるように空に向かう。

「バルディッシュ」
「Scythe slash」

 刃にさらに魔力を送り込んで強化。
 そこに神速の動きも加え、フェイトは根が振り下ろされるより先に駆け抜けた。
 フェイトの体の数倍以上に大きな根を、バリアごと切断してみせる。
 それに気づかず根は振り下ろされ、刻まれた各部分が宙に浮いてから落ちた。
 カズキからは見当違いな場所へ、次々にと。

「まだ、終わらせない」

 痛みかまた別の感情か。
 憑依体が耳障りな悲鳴をあげる中で、フェイトはそう呟いていた。
 駆け抜け憑依体の背丈すらも追い越した空の上で反転し、魔法陣を展開。
 金色の魔力、魔力変換資質による放電を迸らせ、息をつく間もなく撃ち放った。

「Photon lancer」

 雷の閃光が憑依体の頭上より降り注ぐも、寸前で魔力障壁がそれを防いでいた。
 それでも、フェイトは動じた様子を見せはしなかった。
 元々砲撃の適正は直接攻撃に比べ、若干劣るフェイトである。
 自身、それを自覚していた事もあるが、最大の理由はまた別にあった。
 それは眼下へとちらりと視線を向けた先。

「エネルギー全開!」
「Explosion」

 憑依体の奇声に負けない勢いで叫んだのは、地上にいたカズキである。
 カートリッジをロードし、フェイトとは似て非なる色の魔力に包み込まれていく。
 バチバチと弾けるのは、純粋なエネルギー。
 恐らくは炎や氷、雷といった魔力変換資質のどれよりも、変換効率が良い力だ。

「Sonnenlicht slasher」

 サンライトハートの長い飾り尾の全てが光と化して暴れまわる。
 太陽に似た光を背に受けて、カズキの体がサンライトハートごと加速した。
 純粋な瞬発力のみなら、恐らくはカズキが上。
 エネルギーの破壊力をも加え、カズキが憑依体のどてっぱらを貫いて風穴を開けた。
 フェイトの砲撃を防いでいた憑依体のバリアすら、ものともせずにだ。
 しかも小器用にサンライトハートの刃には、ジュエルシードを咥えさせている。
 突進力もさる事ながら、それに振り回されない目をカズキは持っていた。

「また、少し強くなってる……」

 最後の封印の為の一芸は別にして、フェイトはぽつりと呟いていた。
 まだ数日とはいえ、自分もカズキとともにブラボーの特訓を受けて少し強くなった。
 元々訓練は死ぬ程積んでいたが、実戦経験には乏しい所があったのだ。
 そこをブラボーとの特訓で埋められ、今ならヴィータとも無様でない程度には戦えると思っている。
 自己評価なので一部甘い所はあるが、カズキはそれ以上に成長しているように見えた。
 コンクリートの破片を受け流し叩き落した、小手先の技術はもちろん。
 先程の、止めの一撃も以前より数段威力が上がっているように感じられた。

「でも、早過ぎる」

 魔法の威力とは、使う魔法の種類と後は純粋な魔力量であった。
 一朝一夕で上げる事はできず、誰しも一度は程度はあれどその威力という壁にぶつかる。
 だから大抵の人は魔力運用の効率化、また別種の魔法と組み合わせて威力を支えたりするのだ。
 だがカズキは同じ魔法を使いながら、単純に威力を高め続けていた。
 それは有り得ない事であるし、何か触れてはいけない事のようでカズキが心配になる。
 カズキの魔力の元はホムンクルスと同じく、ジュエルシードにあるからだ。

(なんで、私が……)

 我に返ると直ぐに、フェイトは首を激しく横に振って自分の考えを振り払った。

「おーい、フェイトちゃん。ジュエルシードも回収できたし、アースラに戻ろう」

 能天気に上を見上げて手を振るカズキに、苛立ちながらフェイトは降りていった。
 カズキの心配をしているのではないと。
 カズキを失った時のまひろを心配しているのだと、自分に言い聞かせながら。

「援護ありがとう。憑依体が上のフェイトちゃんに気を取られてて、突撃しやすくて助かった」
「別に、ブラボーの命令だから。それに何時も言ってるけど、まひろの為」

 頭を撫でつけようとしたカズキの手の平を避け、無表情に近い顔で呟く。
 だがそろそろ、カズキもこんなフェイトの対応には慣れてきている。
 右手を軽やかに避けたフェイトの頭の向かう先に、左手を待ち構えさせていたのだ。
 ぽふりと、まひろとは異なるさらさらの金髪の上でとその手を置いた。
 やや強めに撫でていると、今度こそ魔力を込めた手で乱暴に打ち払われる。

「馴れ馴れしくしないで」
「嫌だ、俺は仲良くしたいから。それに、そんな顔で帰ったりしたら、またなのはちゃんに心配かけちゃうよ?」
「なのはは、カズキが管理局と変な約束を勝手にするから。私は、なのはには……戦ってほしくなんてなかったのに」
「決めたのは、なのはちゃんだよ。フェイトちゃんに、元のように笑って欲しいって。それは俺も同じだ。だからフェイトちゃんが嫌がっても、何度だって構うよ」

 なのはと気持ちは同じといわれ、フェイトは握りこんだ拳をそっと解いていた。
 暖簾に腕押し、ぬかに釘。
 鬱陶しくて仕方のないカズキだが、ほんの少し気持ちはありがたく感じるのだ。
 もっとも、そう感じられるようになったのは、リンディのおかげでもあるのだが。

「戻ろう、アースラに。なのはも、きっとジュエルシードを手に入れてる」

 一先ず自分を落ち着けたフェイトは、ほんの少しだけ雰囲気を和らげてカズキにそう言った。









 カズキとフェイトは、アースラに戻るや否やブリッジを目指した。
 ジュエルシードの入手の報告であり、現状の確認の為であった。
 現在ジュエルシードの封印は、緊急時を除いては三チームによる交代制で行われている。
 一つはリンディが推薦したカズキとフェイトのチーム。
 当初はクロノがチームワークを理由に難色を示したが、最低限のそれは保たれている。
 もう一つは、捜査官であるブラボーとなのはのチーム。
 まだ実績が把握できなかった面もあった為、なのはは後衛に徹している。
 最後は執務官クロノ一人のチーム、と言えるか不明なチーム。
 先程はジュエルシードの同時発見の為、カズキ達となのは達の二チームの出動であったのだ。

「ただいま、皆。はい、クロノ君ジュエルシード」
「少し遅かったから、また喧嘩でもしてたのかと心配していた所だ。確かに、受け取った」

 ブリッジの扉を開けて、開口一番アットホームな言葉と共にカズキがジュエルシードを手渡した。
 君の家じゃないんだがと苦笑しつつ、クロノが新たに入手されたそれを受け取った。

「お帰りなさい、カズキさん。フェイトちゃんも、怪我はしなかった?」
「うん、大丈夫。なのはこそ、怪我はない?」
「なのはは後ろの方で砲撃を撃ってるだけだから、全然平気」

 元気一杯のなのはがフェイトの両手をとりながら喋りかけていた。
 どうやら帰還はブラボーとなのはの方が早かったらしい。
 本人の証言通り怪我らしい怪我も見えず、フェイトと共にカズキもほっと息をつく。
 特にカズキは桃子達からも頼まれている為、なおさらだ。

「これで残りも数少ない。執務官補佐・エイミィ、予測落下地点の割り出しは終えているか?」
「はい、残りはこの地点。今回見つかった二つが海ぎわである事も踏まえ、全て海中に落下していると予測されます」

 バリアジャケット姿のブラボーに言われ、少し慌ててエイミィが映像をスクリーンに映し出した。
 海鳴市全域を示す地図上に、幾つもの光点が映し出されている。
 罰印がうたれているのは、既に入手済みのジュエルシードの場所であった。
 海の真っ只中で何の印も打たれず、煌々と輝いているのが恐らくは予測地点だろう。
 ただし海であるだけに、波やその他の理由で動きまわっている可能生も高い。

「厄介な場所に落ちたわね。しらみつぶしに探すか、今回のように発動を待つしかないわね。正直、後者はとりたくない手段だけど」
「ロストロギアを相手に、後手は踏みたくない。望めば本局から、調査部隊を借りられるはずだ。全力で探し出すぞ、リンディ」
「分かっているわ、防人。もう二度と、あんな思いはごめんですものね。私も、貴方も」

 何やら二人の間でだけ通じる会話をされ、クロノをも含め皆首を傾げていた。
 そもそも防人とは、誰の事だとばかりに。
 そんな皆の視線に気付いたリンディが口元を押さえながら、謝罪しては取り繕う。

「あ、ごめんなさいブラボー。つい、昔の癖で。さあ、皆疲れたでしょう。そろそろ、良い時間だし軽くシャワーを浴びたらカズキ君達はあがって頂戴」
「できるだけ、帰れる日は帰るのがお父さん達との約束だし……フェイトちゃん、一緒にシャワー浴びよう。それとも、今日はカズキさんの家じゃなくてなのはの家に来る?」
「急に変えちゃうとまひろが残念がるから、また今度。その時は、まひろも一緒」
「カズキさん、もちろんカズキさんも一緒ですよ?」

 一人仲間外れにされたカズキを気遣うようになのはが声をかけた。
 仲が良いと言っても、やはりそこは小学生と高校生。
 カズキはいじける事もなく、楽しんでおいでとばかりになのはの頭を撫でる。
 その事にフェイトが不満そうに唇を尖らせつつ、三人はブリッジを後にした。

「さて、私達は引き続きジュエルシードの対策を」
「あ、艦長。本局からの通信です。ユーノ君かな、これは」

 クロノとブラボーの二人に相談を持ちかけたリンディを、エイミィが呼び止めた。
 ユーノは現在、クロノの頼みで闇の書にまつわる情報を探索中である。
 そのユーノがわざわざ連絡を寄越したという事は、何か耳寄りな情報が手に入ったという事だ。
 直ぐにエイミィに命令して、正面のメインスクリーンにユーノの姿が映し出された。

「ユーノ君、急の通信のようだけど何か分かったのかしら?」
「ええ、それも不可解な事がいくつか。それもおそらくは、これまでの闇の書に対する認識が百八十度変わりかねない事実です」
「それは一体どういう事なのかしら、ユーノ君?」

 ユーノの言葉に、朗らかな笑みを浮かべていたリンディが眼差しを鋭く変えた。
 その視線を正面から受け、ユーノも覚悟を決めたように調査結果を口にする。

「まず闇の書ですが、本来の名前は夜天の魔道書。その性質は、あらゆる魔法をその書に記録していくだけの、辞典に過ぎなかったはずなんです」
「君は一体、何を調べていたんだ?」
「クロノ、話は最後まで聞いてくれ。確かに、管理局で認識されている闇の書は違う。主の命ずるままに守護騎士が生物のリンカーコアを蒐集、六百六十六ページを揃えきった所で暴走。大規模な次元震が引き起こされる。確かに、それも間違いじゃない」

 闇の書の暴走に関しては、士官学校の教科書にも載っているレベルの話である。
 直近の被害は約十年前で、少し探せばその遺族へと容易くたどり着く事ができるだろう。
 調査結果そのものに対する疑惑を前に、ユーノが行ったのは肯定であった。
 管理局が認識する闇の書の性質と、自分が調べた調査結果に対して両方ともに。
 まだユーノの報告が誰しも理解できない中で、光明を口にしたのはブラボーである。

「ロストロギア・夜天の魔道書の改造か?」
「その通りです。夜天の魔道書は、誰かに改造された結果、今の闇の書となった可能生が高い。そして闇の書に関する歴史を紐解く中で、その時期が判明しました。管理局が設立されるよりも前、いや創設期に闇の書は改造され変わり果てた」
「創設期というと百五十年近く前ね。次元世界が最も争いに満ちていた暗黒期でもあるわ。その中で、何処かの組織がロストロギアを兵器として利用しようとしても可笑しくはないわ」
「その通りです。それ以前の歴史には闇の書という単語すら出てきません。他にも不可解な点がありました。それはジュエルシードです」

 リンディの呟きに頷きながら、もう一つとユーノが言った。

「闇の書の歴史を紐解くと、必ずと言って良い程にそのそばにはジュエルシードの影があったんです。闇の書の最初の主、ヴィクトリア・パワード。その母親、アレキサンドラ・パワードは、ロストロギアの研究者であり、ジュエルシードを主な研究対象としていた」

 ユーノが映るスクリーンの横に映し出されたのは、一枚の写真であった。
 単純に古いからかデータの劣化か、随分と古びれたように感じるが一枚の画像データ。
 はやてよりも少し年上、カズキよりも下の中学生程度の少女である。
 並び立つ母親とはクリーム色の髪が似通っており、笑顔を見せていた。

「このように、闇の書の暴走の影には常にジュエルシードの影が常に付きまといます。偶然か定かではありませんが、今回もまたこの二つが揃った」

 そこまで口にした時、初めてユーノが躊躇いの表情を見せていた。
 何か、もしくは誰かに対する疑いを持ちたくないとでも言うように。

「リンディさん、僕に何か隠している事はありませんか?」
「そうね、正直に言ってしまえば、今は知る必要がないと判断した情報を伏せている事はあるわ。それを隠し事とするかどうかは、貴方に任せるわ」
「肯定と受け取ります。管理局は、この二つのロストロギアの関連を何か知っているんじゃないですか? アースラが受けた命令もそうですが、闇の書が発見されたこの大事な時期に、執務官長が密かに逮捕されたなんて噂までも流れ始めています」
「グレアム提督が? そんな噂、僕は全く……艦長?」

 まさかクロノまでも知らなかったのかと、今度はユーノが驚く番であった。

「ふう、これ以上隠してはおけないようね。ブラボー、皆に話しても良いかしら?」
「いや、俺から話そう。グレアム提督を逮捕したのは、他ならぬ私だ。罪状は情報の隠蔽と殺人未遂。彼は長年、闇の書の主の存在を把握しながら、虎視眈々と主ごと封印処理を行う算段をつけていたのだ」
「じゃあ、リーゼ姉妹に連絡がとれなかったのは……ちょっと待ってください。では、艦長もブラボーも、闇の書の主の事を知っているんですか!?」
「ええ、カズキ君は必死に隠していたようだけど、私とブラボーだけは知っているわ」

 これにはスクリーンの向こう側にいるユーノも、しきりに驚いていた。
 既にはやての事がばれていた事はもちろん、知りつつも二人が黙認していた事にだ。

「現在、闇の書は最低二つのジュエルシードを取り込み、非常に危険な状態にあります。そこへ、主を捕縛して危険をおかす真似は避けたかったのよ」
「騎士・カズキの伝がある以上、下手を打つ真似は避けられた可能生が高かった事もある」
「それに、最高評議会の命を素直に遂行するのも躊躇われたの」

 それこそまさかの言葉を聞き、誰もが耳を疑っていた。

「最高評議会の勅命とは別系統の命を受けて、俺はアースラにやってきた。俺への命令者は、三大提督だ」

 管理局に勤めていて、その名前を知らない者はいない。
 むしろ最高評議会という謎の多い組織より、一般への知名度は断然上であった。
 さすがに勤め人の中にはいないが、この三大提督が最高権力者だと勘違いしている人も稀にいるぐらいだ。

「その密命の内容は、創設期に現れた裏切りの騎士の調査。元々その男は管理局の創設者達の仲間だったらしいが、仲間を裏切り闇の書とジュエルシードを持って逃げたらしい」
「では、その男が夜天の魔道書を闇の書に改造した張本人?」
「最高評議会はそう言っている。だが魔導師・ユーノと同じだ。三大提督もまた最高評議会に疑いの目を向けている。何故裏切りの騎士の情報をもっと明かさないのか、闇の書とジュエルシードの関連を発表しないのか」

 最後の最後でブラボーは明言を避けたが、何か後ろ暗い部分があるのではないかと。
 自身の組織を疑いたくはないが、歴史とは勝者が作り上げるものである。
 管理局の創設者達は、百五十年前の戦争を勝ち抜いてきた勝者であった。
 ならば裏切りの騎士に関する情報は、意のままに操る事ができたであろう。
 本当に裏切ったのは誰か、その為に夜天の魔道書はどうなってしまったのか。

「確かに、おいそれとは僕達に話せない内容ばかり。皆、今聞いた事は全て忘れる事だ。僕らはあくまで自分達の正義にのっとり、ジュエルシードを封印、守護騎士とはコンタクトを取り続ける」
「ありがとう、クロノ。皆も、これまで通りにお願いね。闇の書の主は、何もしていない女の子。さすがに罪のない女の子を捕縛はできないものね」
「魔導師・ユーノ、君もできれば調査の続行を願いたい。一人でそこまで辿り着いた君の情報収集能力は稀有だ。頼む」
「分かりました。あの子の事は、僕も知らないわけじゃありませんから。リンディさんの言葉を信じて、もう少し調査を続けます。闇の書、ジュエルシード、それから裏切りの騎士」

 改めてブラボーからも頼まれ、ユーノは調査の続行を了承して通信を切った。

「艦長、今の話はカズキ達には……」
「話さない方が良いわ。余計な情報を与えては、守護騎士達への説得に亀裂を与えかねない。できるだけ事は穏便に、慎重に進めましょう」

 そう最後にリンディが締めくくり、臨時の会議は終わりとなった。









-後書き-
ども、えなりんです。

世界融合設定になり、闇の書の設定が少し変わっています。
改造したのは代々の主ではありません。
それと、闇の書の最初の主はヴィクトリア。
誰? って人はいないと思いますが、ヴィクターの娘です。

裏切りの騎士の話も出てきましたし。
設定のすり合わせは殆ど出尽くしたかな?
あ、ヴィクターの封印場所か。
分かる人は分かるでしょうが、その時まで秘密です。

それでは次回は土曜日です。


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