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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/14 20:45

第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか

 アースラ内部のブリーフィングルーム。
 今そこには艦長であるリンディと執務官であるクロノ、それから補佐官のエイミィ。
 それから他に武装隊や後方支援のメンバーが詰め寄り、最後にカズキとフェイト、アルフの姿があった。
 パピヨンの宣戦布告から数日後の土曜日の事である。
 ブリーフィングルームの前面に映し出された映像を指して、クロノが皆に言った。

「海鳴市の中でも最も人里から離れたここが、作戦実行の場所だ」

 宙に浮かぶウィンドウに映しだされていたのは、山間部にあると湖である。
 綺麗に静まり返った水面は鏡のようで、周囲の新緑がも合わさり作戦という言葉は到底似合わない。
 だがカズキはその湖を戦場として見定め、クロノの話に耳を傾けた。
 隣に自分を睨み続けるフェイトと、おろおろとするアルフを置いたままで。

「この湖畔に我々が所有するジュエルシードを一つ配置、わざと魔力を発生させて彼女達、闇の書の守護騎士達をおびき寄せる」
「決して発動には至らせず、かつ魔力の波動も弱くはなく。後方支援の班は腕の見せ所だよ」

 エイミィのやや軽い言葉に頷きながら、クロノが続けた。

「守護騎士が現れると同時に、近辺に伏せていた武装隊が結界を構築して包囲。そこからはカズキ、君の出番だ。結界内に転移、彼女達を捕縛してもらう」

 クロノの言葉から、カズキ一人でという言葉が見え、特に武装隊の面々がざわめいた。
 謎の襲撃者という肩書きならまだしも、その正体は闇の書の守護騎士なのだ。
 しかもそれを知らせたのは、当のカズキである。
 そうと知らず親交を持ってしまい、今こうして敵対する立場にいると決めた。
 管理外世界のベルカの騎士という実力を危惧する声もあるが、大半はカズキそのものを危惧した声であった。
 作戦の要をぽっと出の、それも守護騎士を師に持つカズキに任せても良いのかと言う。

「分かった。ただし、クロノ君もリンディさんも約束は守ってくれ。闇の書の主には手を出さない。シグナムさん達にも便宜をはかるって」
「ええ、その約束は守るわ。幸運な事に、彼女達は一度も蒐集行為を行っていない。私達と敵対こそすれ、ジュエルシードでそれを代用。今までの彼女達とは明らかに違うわ」
「闇の書の主に関しては、軽い問診と検診ぐらいはするが手は出さない。守護騎士に関しても聞く限りでは情状酌量の余地有りだ。裁判でも僕が責任を持って対応しよう」
「本当にいいのかな。現場レベルでそんな大事を約束しちゃって……」

 ぽつりと呟いたエイミィの言葉は、この場にいる管理局員全員の代弁だろう。
 闇の書は管理局にとって仇敵に近いロストロギアなのである。
 元々アースラが地球に来たのはジュエルシードに対する対策であって、闇の書ではない。
 一応リンディも本局に通達は出しているが、返答はまだなのだ。
 闇の書に対する別働隊が派遣されれば約束はないも同然だし、各々のメンタルな部分もある。
 シグナムに襲撃され、ジュエルシードを奪われた失態を侵した一部の武装隊の者には特に。

「各自、言いたい事はあると思う。だが、今は速やかに命令を遂行して欲しい。これは闇の書の因果を断つチャンスでもあると僕と艦長は考えている」
「これまで闇の書は、決して主に恵まれたとはいえなかった。魔力云々ではなく、主の思考や精神という意味で。話し合いは一切通じず、全ては力のみの闘争。もしも事を上手く収める事ができれば、数十年は闇の書の脅威を防ぐ事ができます。詳しく調べられるのなら、クロノ執務官の言う通りその因果さえも」
「本当に闇の書が、闇の書が生み出す悲劇を憎いと思うのならここは我慢してくれ。頼む、皆」

 リンディに先んじて、クロノがまずその頭を下げた。
 皆を引きいる艦長ではなく、上から二番目の位置にいる自分がと。
 ざわついていた者達も、その姿を見て皆口を噤んでいた。
 それは皆がクロノとリンディが、誰よりも闇の書に関しては思う所がある事を知っているからだ。
 個人の小さなプライドではなく、人生そのものを変えられてしまった過去を持つ事を。

「ほら、皆。お仕事、お仕事。私達のお仕事は、ロストロギアによる被害を喰い止める事だよ。管理局員なんだから、自分は後回し」

 慌ててエイミィも身振り手振りを加えながら説得し、局員達の戸惑いが薄れていく。
 もちろん完全に消えはしないが、エイミィの言う通りあくまで自分達は管理局員。
 民間人や次元世界そのものを守る事が最優先であり、私事はその次。

「しっかり捕縛しろよ、坊主」
「うん、分かってる。ありがとう」

 中にはカズキの肩を叩いてから、ブリーフィングルームを後にする武装隊員すらいた。
 局員達が皆ブリーフィングルームを去り、残ったのはリンディとクロノ、エイミィ。
 そしてカズキとフェイト、アルフの六名であった。

「ありがとう、クロノ君。それにリンディさんも……俺は少し、軽く考えていたのかもしれない。シグナムさん達を捕らえれば、それで良いって」
「今は一時的に嘱託の地位を与えてはいるが、君は民間人だ。不満があれば、訴えるのは当然だ。僕達も君の意見の中に正当な部分もある事を認めたから、こういう作戦に出たんだ」
「それでも、ありがとう。絶対に、シグナムさん達を止めて見せる」
「一応言ってはおくが、現場には僕も出る。君だけでは、到底不可能だからな」

 がっしりと手を捕まれ、やや照れたようにそっぽを向きながらクロノが言った。
 その様子をくすりと笑いながら、リンディがフェイトへと話を振る。

「フェイトさん、貴方はどうするつもりかしら?」
「私も、戦う。カズキが邪魔するから、もっと強くならなきゃアリシアは殺せない。それにカズキに死なれると、アリシアへの手がかりがなくなるから」
「フェイト……アタシも付き合うよ。使い魔だもん」

 幼い顔に似合わない憎しみを込めた表情を浮かべるフェイト。
 使い魔であるアルフを含め、見ていられないとばかりに皆が沈痛な面持ちを浮かべている。
 そんな中で邪魔と言われたカズキが、先程クロノにしたようにフェイトに手を差し出した。

「俺は絶対にフェイトちゃんも止めて見せる。だけど、その前にシグナムさん達を一緒に止めよう。フェイトちゃんも闇の書の主の為なら、良いでしょ?」

 カズキの笑みに対して、フェイトはあくまでも憎しみを捨ててはいなかった。
 ただし、闇の書の主と言葉を濁されたはやてについては、放っておけない。
 カズキに邪魔をされる事は鬱陶しいが、はやては大切な友達。
 助けてはあげたいが、カズキは邪魔でとぐるぐる頭を働かせた結果。
 無言のままにカズキの手を、甲高い音が鳴る程に、思い切り払いのけた。
 はやては助ける、だけど協力はしないとばかりに。

「痛ったぃ……」
「フェ、フェイト大丈夫かい!?」

 だがカズキの大きな手に対し、フェイトの手はあまりにも小さい。
 カズキはただ驚いただけで、痛みにより涙目で蹲ったのはフェイトだけであった。
 自分ばかりが痛い思いをと、八つ当たり交じりにカズキを睨み上げる。

「君達……この数日は同居していたと聞いたが、悪化してるんじゃないのか?」
「そうかな? まひろのおかげで随分とまた仲良くなれたよ。同じ家で同じ御飯を食べて、まひろのついでにお風呂で髪も洗ってあげたッ」

 次の瞬間、手を押さえたまま立ち上がったフェイトのつま先が、カズキの脛に直撃していた。

「痛ってぇ!」
「ふぇ、痛ぃ……けど、今度は勝った。カズキより、私のが強い」
「相打ち、に見えるけど。フェイトがそれで良いなら」

 真っ赤な顔をしながら、今度はつま先を押さえて蹲ったフェイトが呟いた。
 もちろん、アルフの柔らかな突っ込みなど聞こえてなどいない。
 脛を押さえてぴょんぴょん跳ねるカズキに対し、勝ち誇る程だ。

「クロノ君、なんで顔を赤くしてるのかな? カズキ君はフェイトちゃんと同い年の妹がいるんだし、一緒にお風呂ぐらい入るよ。このムッツリすけべ」
「だ、誰がだ。僕は別に、ただ純粋にこれでまともに協力しあえるのかと不安を抱いていただけだ」
「クロノみたいな堅物も困りものだけど、カズキ君みたいに気にしなさ過ぎるのも困りものね。でもまあ、チームワークは多分問題ないわね」

 憎しみに顔を彩る寄りは、羞恥だろうと年頃の反応をするフェイトの方が良い。
 アリシアがフェイトをカズキに任せたのは、限りなく正解に近かったのだろう。
 このまま全てを忘れる事はできないだろうが、今はこれで良いとリンディは微笑んでいた。
 そして、自分達ものんびりはしていられないと、両手を叩いて止めに入った。









 シグナム達がジュエルシードの魔力反応を感じたのは、午後一時頃。
 午前中の捜索を終えてからはやてとお昼を共にし、再捜索に向かった矢先の事であった。
 シャマルが即座に場所を特定し、迅速にその場所へと急行する。
 その迅速さこそが、シグナム達の強みでもあった。
 管理局は組織という事もあって、個人のシグナム達よりもかなり迅速さに欠けていた。
 もちろんそれは、仕方のない部分もある。
 既に被害が出ている場合はまだしも、被害が出ていないのならやるべき事は多い。
 まずは周囲の状況確認、民家や人影は、即座に発動の危機有りか等々。
 それらを纏めてから、ようやく上に報告が上がり、どのような対応か上が決めていく。
 対応の良し悪しはあれど、速さという一点のみでは組織よりも個人が勝る。

「ここか。まだ管理局は来ていないな、早急に探し出して封印。持ち帰るぞ」
「ああ、面倒は避けてえしな。シャマル、場所は?」
『ちょっと待って』

 海鳴市の山間部、以前の温泉とは方向が異なる湖の真上にシグナム達があった。
 騎士甲冑姿のシグナムとヴィータ、そして狼の姿のザフィーラである。
 シグナムが見渡した周囲は、木々に囲まれ見通しが悪く、湖は深いのか青が濃くて底は見えない。
 湖の底に沈んでいたら厄介だと思っている間に、ヴィータがシャマルを呼ぶ。
 本人はバックアップ要員の為、周囲にはいるが森の中に隠れているのだ。

『見つけた。良かった、湖の底じゃないわ。シグナム達からも見えるはずよ、湖面の上。葉っぱの上にちょこんと乗ってるわ』

 シャマルの念話を受け取り、三人は揃って真下の湖を見下ろした。
 昼間のやや強い日差しを反射し、穏やかな皆もがきらきらと輝いている。
 その銀色の光の中に、異なる淡い青の光がぼんやりと光っているのが見えた。

「あれか、運が良い。発動もまだだ。さっさと回収して撤退する」

 直ぐにシグナムが決断し、湖面の上へと降りて足をつき、波紋を広げる。
 その時、湖の奥底から光が溢れ始めた。
 光が溢れるにつれ穏やかであった湖面は小波を起こし、荒れ始める。
 決して小さくはない揺れを前に葉っぱは小船のようで、何時ジュエルシードが沈んでも可笑しくはない。
 そうなれば無駄な時間がと、ヴィータが焦りを浮かべていた。

「魔力反応、まさか発動しちまったのか!?」
「いかん、早く回収せねば!」
「いや、待て。この色はジュエルシードのものではない。それにこの魔力色は、退避しろ!」

 シグナムの命令で、ヴィータと人の姿になったザフィーラが跳び退る。
 あと少しでと言いたげに、手を伸ばし舌打ちをしながら。
 そのシグナム達の目の前で、湖の水面が盛り上がっていった。
 小船となりジュエルシードを乗せていた葉を巻き込みながら。
 そして次の瞬間、水面の盛り上がりを貫き鋼鉄の嘴のような何かが葉っぱの小船に暗いついた。
 青く脆い小船を粉砕し、ジュエルシードを咥えながら湖の中から飛び出していった。
 鋼鉄の嘴に見えたのは、突撃槍の刃。
 飾り尾をエネルギーに変えて湖の水を吹き飛ばし、黒い学生服姿のカズキが現れた。
 その傍らには、カズキに背中を向けながらバルディッシュを手にするフェイトとアルフ。

「カズキ……」

 唇を噛み締めながらそう選択したかとシグナムが呟いていた。
 だが烈火の将を名乗るには、少し感傷的過ぎであった。
 異空間に引きずりこまれるように青かった空も木々の新緑もその色を変えていく。
 その意味を逸早く察したシャマルが、慌てふためいて念話を飛ばす。

『シグナム、早く撤退して。罠よ。周囲に管理局の武装隊が、急いで捕縛結界が。ごめんなさい、私全然気付けなかった!』
「いや、お前だけの責任ではない。私達は、少し焦りすぎていたようだ」
「けど、舐められたもんだ。相手はベルカの騎士見習いのカズキと魔導師のフェイト、それに使い魔、あいつは名前知らねえや」
「私達を相手にするには、役者不足。それとも、次の作戦への囮か、捨て駒か」

 ヴィータやザフィーラに良いように言われても、カズキは言い返しはしなかった。
 その瞳はただひたすらに、シグナムを見つめていた。
 自分の選択はこれだと、例えこうして敵対する道でも選んだのだと訴えるように。
 あふれ出し光となって弾ける魔力を隠しもせず、シグナムに戦意を向けている。

『カズキ、それにフェイトとアルフ。君達は目の前の三人の相手を頼む。守護騎士は全部で四人いるはずだ。僕は隠密行動でその四人目を探す。時間を稼いでくれ』
「分かった。フェイトちゃん、それにアルフさん。シグナムさんは凄く強い。たぶん、ヴィータちゃんやザフィーラも。気をつけて」
「カズキに心配されるいわれはない。そっちこそ、勝手に死なないで」
「カズキがシグナム、フェイトがヴィータ。となるとアタシはザフィーラか。まあ、なんとかしてみせるさ!」

 カズキのもとより、フェイトとアルフが飛び出した。
 水面を蹴るようにして空を飛び、それぞれ正面にいたヴィータとザフィーラへと向かう。
 その場に残ったカズキはただシグナムを見据え、サンライトハートの切っ先を向けた。

「シグナムさん、行くよ」
「この私が、戦場では相手の戦意を逐一問えと教えたか?」
「行くぞッ!」
「Explosion」

 足元に太陽の光に似た色の魔力光を放つ、三角形の魔法陣が展開される。
 カートリッジをロードしてその輝きは更に強まり、飾り尾が弾け飛ぶ。
 共に戦い、背中を預けた事もあったが実際に戦うのはこれが初めて。
 シグナムの本気も実力差も分からない中で、取れる手段は一つだけ。
 ただただ全力でぶつかるのみと、カズキは魔力を高めて雄叫びをあげた。

「サンライトハート!」
「Sonnenlicht slasher」

 刃を先頭に一つの閃光となってカズキが飛び出した。
 湖面を爆発させるように蹴り出し、水飛沫を斬り裂き、エネルギーで蒸発させながら。
 ジュエルシードの憑依体やホムンクルスを撃破してきた必殺の魔法。
 威力だけならシグナムも一目置いた突撃槍の真骨頂のチャージだ。
 カズキ自身もこの一撃には自信があり、もしかしたらという淡い期待もあった。
 もしもこの一撃で終わるのなら、親しい者同士で戦わなくて済むと。
 だがそれはあまりにも、淡く儚い期待でしかなかった。

「レヴァンティン」
「Explosion」

 カズキのチャージを前に、シグナムは避ける素振りを見せずただカートリッジをロードしただけであった。
 僅かな動きと言えば、炎を纏わせたレヴァンティンの刃の腹に手をそえ、胸の前に差し出した事ぐらい。
 一瞬、攻撃を繰り出したカズキの方が躊躇しそうになる。
 だが真っ向勝負ならと挑み、レヴァンティンを構えるシグナムへと突っ込んだ。
 炎とエネルギーの魔力変換資質持ち同士。
 デバイスが接触した瞬間から互いがむさぼり合う様に炎は猛り、エネルギーが弾け飛ぶ。
 その熱と光の中を貫こうとカズキが力を入れるも、ビクともしない。

「良い一撃だ、本当にお前は強くなった。私の目の前にいるお前は、見習いなどではない」
「そんな……」
「だが、真のベルカの騎士に戦いを挑むには、やはりまだ早い!」

 受け止められ、威力が零になったサンライトハートの刃が上に弾かれた。
 それも全力の一撃の直後でカズキの腹部が、がら空きとなってしまう。
 当然ながら、自ら作り上げたカズキの隙を見逃すシグナムではない。

「見せてやろう、真のベルカの騎士の必殺の一撃を」

 紫色の魔力を帯びたレヴァンティンの刃をひるがえし、炎が猛る。

「紫電一閃!」

 まともにその一撃を受けたカズキの姿は、シグナムの前から消え失せていた。
 炎に焼かれ、衝撃で吹き飛ばされて水を裂きながら転がっていく。
 先程カズキがサンライトハートで湖面を斬り裂いた光景の、逆再生のように。
 そのうち腕か足がもろに水に取られ減速、水柱を大きくあげて沈んでいった。

「カズキ、私は言ったはずだ。敵対するならば、斬ると」

 水柱によって降り注ぐ雨粒の中で、極力感情を抑えたシグナムが呟いた。
 何も感じないように、余計な事は事を考えないように。
 そのままシグナムが背を向けた瞬間、ぱしゃりと水音が一つあがった。

「ぅ……げほっ、凄い威力。無茶苦茶、水飲んだ」

 全身を水で濡らし、咳き込みながらカズキが湖の中から浮かび上がってきたのだ。
 その姿を見て初めて、シグナムは自分の手が震えている事に気付く。
 痺れるようなその手の平の感触は、渾身の一撃を防がれていた事を意味していた。
 他にもカズキが手にしているサンライトハートの柄の部分。
 一点集中された焦げ目がはっきりと浮かび上がっている。
 刃を弾かれながらも、持ち手を中心に回転させて斬撃の軌道に柄を差し込んだのだろう。

「まさか、あの一瞬で……」
「シグナムさんが負けられないように、俺だって負けられない。今はまだシグナムさんより、弱くても。シグナムさんを守りたいから」

 シグナムが知る以前のカズキならば、絶対に防げないタイミングであった。
 パピヨンとして生まれ変わったばかりの蝶野攻爵と戦う前のカズキならば。
 唯一知らないその一戦が、遥かにカズキを強くしていた。

「今気がついたが蝶野攻爵との戦いで飛べるようにもなっていたのか」
「いや、飛べるようになったのはつい昨日」
「少し目を離しただけで……」
「守りたいから」

 見失っていた頃とは違う、自分の信念を自覚した呟きであった。
 そしてその自覚こそが、カズキの成長をさらに促進させていた。

「俺は皆を守りたい。だから敵対してでも、シグナムさんを守る。力ずくででも。それにあの子、寂しがってた。そんな顔を見せまいとしてたけど、皆がいてくれない事に」
「言うな、カズキ。全てが終われば、我々も健康な体を得た主の下で、穏やかに暮らしていけるのだ」
「それで本当にあの子が笑えるのか? 大事な家族に後ろめたさを抱かせながら、それで本当に幸せだって言えるのか!?」
「主が心優しい事は先刻承知、だからこそ我らは闇の書の主ではなく、ただの主として忠義を誓った。だから何を差し置いても、主に幸せになって欲しいのだ。多少の後ろめたさなど、決して主の前で見せはしない!」

 湖面を蹴ったシグナムがレヴァンティンをカズキへと向けて振り下ろした。
 サンライトハートの大柄で幅広の刃で、カズキが受け止める。
 そのまま力で押し返そうとするも、強い衝撃の後に待っていたのは手応えのなさ。
 空中でたたらを踏みかけたカズキの右太ももから、血飛沫が飛ぶ。
 間合いの長さは懐に入られた瞬間に、有利と振りが逆転してしまう。
 慌てて距離を取ろうとカズキが跳び退っても、シグナムが猛追してきた。
 離れろと振らされたサンライトハートは空気を薙ぐだけで、次に左腕が浅く裂かれる。
 出血こそ派手ではないが、確実に体に裂傷を刻み込まれ始めていた。

「お前の様に何度叩きのめしても立ち上がってくる相手に、有効な手だ。血を流させ体力を奪い、圧倒する力量差で気力を奪う。後は力尽きるのを待つだけ。黙して受け入れろ」
「嫌だ、絶対に諦めない。それに誰かを傷つけて幸せを得るなんて言わせもしない。あの子なら、今のままでも十分に幸せになれるんだ。今のままでも今まで以上に!」
「Sonnenlicht slasher」

 一撃目よりさらに魔力を込めて、エネルギーを放出させる。
 光による目潰しと必殺の一撃の同時攻撃。
 これならどうだと至近距離から放つも、シグナムは一歩早く距離を置いて体を捌いていた。
 のみならず、すれ違い様に腹部へとレヴァンティンが閃き、鮮血が迸った。
 がむしゃらに戦うカズキとは対照的に、シグナムは丁寧に傷を負わせていく。
 突撃槍と大剣と獲物や魔法の威力に大きな差は無い。
 二人の間に歴然とあるのは経験と技量、その差であった。
 これは勝負あったなと、シグナムの冷静な戦いを前にヴィータはほっと息をついていた。

「さて、そろそろこっちも決着つけようか?」
「はあ、はあ……」

 ヴィータが空より見下ろしていた湖の上での戦いから、目の前のフェイトへと視線を戻した。
 そのフェイトは、カズキに負けず劣らず満身創痍に近かった。
 呼吸は乱れ、バリアジャケットは所々が破れ、痣の集中している左腕はだらりと垂れている。
 腕を持ち上げようとする度に痛みを覚えては、失敗を繰り返していた。
 自分はこんなにも弱かったのかと、唇を噛み締めながら魔力の刃をバルディッシュに生み出す。

「お前も、止めとけ。初めてできた友達をボコるのは気が引けんだよ。あの突撃馬鹿と違って、お前はもうちょい賢いはずだろ?」
「そうだね。私はどちらが正しいかなんて分からない。元々ココへ来たのも、カズキに死なれたら困るからだし。私がヴィータに倒されたら、本末転倒だよ」
「なら黙って見逃せ。それで、また一緒に遊ぼうぜ」
「駄目、一緒に遊びたいのは同感だけど見逃せない。私にも見逃せない理由ができた。大嫌いなカズキのせいで……ぐっ」

 痛みを無視して左腕を持ち上げ、フェイトが今度こそ両手でバルディッシュを持ち上げた。

「ヴィータ、もう少し目の前にある幸せを大切にしようよ」
「ああ、何いきなり老け込んだみたいな事を言ってんだ?」
「遥か先に輝くとっても素敵な未来じゃなくて、今目の前にある小さな幸せ。そうしないと、何かの拍子でその小さな幸せが消えた時、きっと後悔する」
「おい、お前……なにがあった?」

 まるで自分の事を語るように、フェイトは大粒の涙を零していた。
 ヴィータに諭しながら、本当に思い出してしまったのだろう。
 今思えば、プレシアの笑顔の為に奔走していられた時が、幸せであった。
 例え微笑んでは貰えなくても、微笑んで貰えるかもという希望がその胸にあったから。
 だが今はどんなに希望を抱いても無意味、もうプレシアはいないのだ。

「無理なんかしなくて良い。今、あの子のそばにいてあげてよ。先の事なんて、どうでも良い。もしもヴィータ達に何かあったら、私の母さんみたいに会えなくなっちゃうんだよ!」
「会えなくって……おい、まさかお前の母さん。くそ、こんな所に来てる場合かよ。こんな場所に連れ出したのは、あの突撃馬鹿……いや私達か!」

 泣きながらバルディッシュを振り上げたフェイトを前に、ヴィータは行動が遅れる。
 あの日、フェイトを最後に見た日は、母親に会いに行くと意気込んでいた。
 一体何があった、何故泣くと動揺せずにはいられなかった。
 だがシグナムではなく、自分が取り乱してどうすると、魔力の刃を鉄槌で受け止めた。
 鍔迫り合いに持ち込むも、間近でフェイトの泣き顔を見せられ戦意が鈍る。

「フェイト、無茶しないでおくれ。お前は邪魔、すんな!」
「そちらこそ、私達の邪魔をしているのはそっちだ!」

 助けに入ろうとしたアルフも、ザフィーラに足を止められ近づけない。
 元々護衛に主を置いた似た者同士で、実力も拮抗している。
 一方のカズキは圧倒的な地力の差でシグナムに追い詰められていた。
 今も一つ一つ丁寧に裂傷を刻まれ続け、その全身はバリアジャケットに包まれながらも血まみれであった。
 まだ一人の脱落者も出てはいないが、それも時間の問題である。
 どう転ぶか全く見えない戦況の中で、決定打を打ったのはクロノであった。

「そこまでだ!」

 念話交じりの高らかなクロノの声が周囲に響き、皆の視線を引きつけた。
 その姿は湖畔を覆い包むように構成される森と湖の境にあった。
 ただしクロノ一人だけではない。
 後頭部にデバイスを突きつけられ、捕縛寸前のシャマルも人質として連れられている。
 抵抗できない自分を悔い、唇を噛んではいるが、両手は腕に上げられていた。

「シグナム、皆……ごめんなさい。私、頑張ったんだけど」
「くそッ、私がカズキに拘り過ぎたせいか。カズキ、どうやらお前の勝ちのようだ」
「シグナムさん、ごめん」
「何を謝る事がある。お互い、正しいと思ったからこそ」

 そう呟きながら、シグナムが武器を下ろせとヴィータに告げようとする。
 その時、クロノが後ろから現れた男に蹴り飛ばされた。
 白と青のツートンカラーのジャケットにパンツ、顔には一枚の仮面。
 特にアースラの関係者はパピヨンを思い浮かべかけたが、肩幅のある体格が違う。
 蹴り飛ばされたクロノは、木の幹を何本もへし折り、最後の一本にめり込んで止まった。

「守護騎士の協力者だと……」

 聞いてないぞとクロノが見上げたカズキも、唖然としていた。
 はやての家族も守護騎士も同じ四人だとばかり思っていたからだ。
 同様にシグナム達もあれは誰だと、時を忘れて見入ってしまっていた。

「貴方は……」
「闇の書の力を使って結界を破壊しろ」
「え? そう言われても直接の蒐集が目的じゃないので、普段から持ち歩いていないんですけど」
「な、なに!?」

 シャマルの答えが意外だったのは、焦りが伝染するように男が慌てふためいた。
 だが誰にとっても幸運か、森の奥で突然の爆破の炎と煙が立ち上がった。
 断続的に次々と、森全体を燃やし尽くす勢いで爆破は続き、大量のガラスが割れるよう直人が響く。
 結界が破壊され、灰色に染まっていた空や湖が、元の鮮やかな色を取り戻していく。
 その空を黒色の蝶々の羽を羽ばたかせて現れたのは、パピヨンであった。

「パピヨン、この男はお前の仲間か?」
「パピ、ヨン。もっと愛を込めて。そんな妖しいいでたちの男は知らないね。全く、センスの欠片もない蝶詰まんない格好だ」
「お前だけには言われたくない」

 蹴られた腹を押さえながら立ち上がったクロノが問うも、違うらしい。
 パピヨンも意味のない嘘はつく性質ではないので、ホムンクルスではないという事だろう。
 だが男の方も心外だとばかりに呟いていた。

「今のうちだ。逃げろ、まだ捕まる時ではないだろう?」
「言われずとも。皆、撤収するぞ!」
「シグナムさん!」

 また戦えると、シグナムを追おうとしたカズキの目の前に黒色の蝶々が舞い降りる。
 とっさにサンライトハートを盾にすると、蝶々が発火して爆破を撒き散らした。
 炎に熱風、煙が舞い上がり、追いかける為の時間を断たれてしまう。
 それらが収まった頃には、既にシグナム達の姿は影も形も見えなかった。
 クロノを背後から襲ったあの男も同様である。

「お前があの女にお熱なのは知っているが、無視はないんじゃないか武藤?」
「蝶野、邪魔を……お前、一体それ何を持っているんだ?」

 パピヨンは小脇に大量のデバイスらしき物を抱えていた。

「ああ、これかい? お前との決着の前の小事、あっちにいた局員から奪い取ったデバイスだ。さすが管理局員、それも武装隊。良いものを使っている。やはり欲しい物は奪い取ってこそ」
「カズキに執着しているとは聞いていたが、まさかこんな形で僕らの邪魔をしてくれるとは思わなかったよ。カズキには悪いが、捕縛させてもらう」
「いや、ここは俺が。蝶野と戦うのは俺の役目だ」
「瀕死に近い状態のお前と戦っても面白くもない。お互い体調は万全の状態で戦ってこそ。俺もお暇、させてもらうよ。武藤、これで俺はまた強くなる。お前も更に強くならないと、今度こそ皆を守れないぞ」

 そうパピヨンは呟くと、三十を超える大量の黒色の蝶を自分の周りに生み出していた。
 結界が破壊された今、そんなものを放たれれば周囲が地形ごと変わり果ててしまう。
 だがクロノもそうはさせまいと、ダガーのように研ぎ澄まされた魔力の刃を大量に生み出し始める。
 どちらが先に撃ち放つのか、緊張が走った瞬間、場違いな声が響いた。
 カズキ達の頭上に立つパピヨンのさらに上から。

「パピヨンのお兄ちゃん、武装隊の人は全員軽傷程度に治して……フェイト?」

 降りてきたのはアリシアであったが、カズキ達の存在は予想外であったらしい。
 まっさきにフェイトへと視線が吸い込まれ、それはフェイトもまた同様であった。

「アリシアッ!」

 この場を占める緊張感など完全に無視して、アリシアを目掛けて飛んだ。

「面倒な事を。行け、黒死の蝶」
「フェイト、戻れ。くそ、全部撃ち落せるか。スティンガーブレイド!」

 アリシアがいる場所には当然のごとく、パピヨンがいる。
 曲線を描いて飛翔する魔力の刃が黒死の蝶を正確に撃ち貫いていく。
 だがそれと同時に黒死の蝶は爆炎を上げ、フェイトの姿はその中へと消えていった。
 フェイトが爆炎に飲み込まれる一瞬前、その中へと飛び込んだカズキと共に。









-後書き-
ども、えなりんです。

カズキとシグナムの初戦は、シグナムの圧倒的勝利。
フェイトもさりげに、ぼこぼこ。
まあ、フェイトはカートリッジシステムも積んでないしね。
善戦したのはアルフと、クロノぐらい?

折角の作戦もパピヨンのせいでぐだぐだ。
次回はアースラに新戦力追加。
ついにあのブラボーな人が参戦です。
これって全然伏せてないですよねw

それでは次回は土曜日です。


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