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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/29 21:07

第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな

 蝶野は言った、生きたいと。
 寸分違わぬ同じ声が、延々とカズキの耳元で囁かれ続けていた。
 夜の闇よりも暗い、何処とも知れぬ場所での事である。
 今にも両手で耳を塞ぎ、その声を聞きたくないと叫びたかったがそれは許されなかった。
 蝶野のその意志を断ち切ったのは、他ならぬカズキ自身であったからだ。
 普通の人生を歩む人の何十分の一の願い事、ただ生きたいそれだけの願い。
 ホムンクルスと化した蝶野を人間として死なせる為だけに、カズキが殺した。
 サンライトハートを腹に突き刺し、身動きが出来ない状態でレヴァンティンで閃光の中に消し去った。
 光の中で砕かれ消滅していく様もしっかりと覚えている。
 謝罪する事で心の重しを軽くする事ができれば、どんなに楽だろうか。

「謝るなよ、偽善者」

 だが死に際の蝶野の言葉が、何度もリフレインして耳を騒がせていた。
 カズキが胸に抱いた罪悪感だけが、蝶野が人間として生涯を終えた証なのだ。
 この先一生背負わなければ、カズキの罪は意味が失せ、蝶野は化け物として死んだ事になる。
 だからこそ、カズキはこう言わなければならない。

「蝶野、お前は人間だ。人間のお前を、俺がッ!」

 その言葉を最後まで叫ぼうとした刹那、真っ白な閃光が周囲を覆い見たしていった。
 あまりの眩しさにカズキは両腕で瞳を庇い、体を強張らせる。
 それでも胸の内から溢れ出てくる言葉だけは、声にならない声で叫んでいた。

「蝶野ッ!」

 真っ白な光は、瞼を開けた事で飛び込んでくる蛍光灯の光であった。
 シーツを跳ね除け、カズキはベッドの上で上半身を跳び起こさせた。
 体をびっしょりと濡らす汗を拭い、シーツはその汗を吸い込んで随分と湿っぽい。
 ないはずの心臓がやけに重く、体全体がだるかった。
 手の平で額を支えなければ顔すら上げられず、液体のような溜息をどろりと吐いた。

「ん?」

 濡れたシーツを無造作に払い、ようやくカズキは今の状況に気付いた。
 体の上を方々にはしり巻かれた包帯、それ以外の着衣と言えばトランクスぐらい。

「うわああ!?」

 一体何がどうなっているのか。
 病院のようにも見える部屋だが、壁がコンクリートではなく金属に見える。
 ベッドもパイプベッドではなく、見たこともない金属製の土台の上に布団があった。
 真っ白な照明も本当の所は、蛍光灯なのかどうかも怪しいものだ。
 一瞬、武藤カズキは改造人間であるというナレーションが脳裏に過ぎる程である。
 何が何やらと混乱するカズキを、さらに困惑させる者が現れた。

「あら、気が付いたようね」

 その声の方に振り向けば、若草色の豊かな髪をアップに纏めた美女であった。
 服装こそ軍人のような青いコートに、白いパンツだがその魅力が損なわれる事はない。
 むしろ、おっとりとした表情の中に凛とした雰囲気を持たせミステリアスな魅力を生み出していた。
 色々とカズキの頭の中に視覚情報が流れていったが、つまりは好みのお姉さんという事であった。

「うわああん!?」

 慌ててベッドを飛び降りたカズキは、両手で胸と股間を隠す。

(謎の密室に監禁されてパンツ一丁、そばには怪しげな軍服の綺麗なお姉さん。俺に一体何があった!)

 先程までとは異なる重苦しい息を吐き出しながら、カズキは大量に脂汗を浮かべていた。

「あらあら、いけない子ね」

 いたいけな青少年の想像の翼は逞しく、色々と妄想してしまうのも罪ではなかった。
 ただ目の前の美女は、カズキの想像をおおまかには察しているらしい。
 今にもだけど可愛いと呟きそうに口元に手を当てて、くすりと微笑む。

「この様子だと心配はいらないみたいね。エイミィ、なのはちゃんとユーノ君を呼んであげて。カズキ君が目を覚ましたわ」
「はいはい、ついでにクロノ君も」
「クロノは呼ばなくて良いわ。この子達も色々とあったようだし、話は後日詳しく聞かせてもらうわ。カズキ君、簡単に自己紹介させてもらうわね。私は時空管理局所属、次元航行船アースラの艦長のリンディ・ハラオウンよ」
「時空管理局……えっと、確か警察と裁判所云々の?」

 リンディが通信していたウィンドウを物珍しげに見ていたカズキが呟いた。
 時空管理局と言う存在はシグナムより、さわり程度に教えられている。
 本来、ジュエルシードのようなロストロギアの暴走に対処する専門家の集団だと。
 他にも色々とシグナムには思うところがあったようだが、カズキの知識としてはその程度であった。

「貴方の容態が緊急を要したものだから、断りなく収容させてもらったわ。元々、私達がこの第九十七管理外世界に来た理由とも関わりがあったみたいだし」
「えっと……」

 起き抜けだけのせいではないが、まだカズキは上手く頭が回らないでいた。
 そのカズキがリンディの言葉を全て理解するより先に、部屋の扉が開く。
 当初カズキはそこを模様のある壁としか認識していなかったが、スライド式だったらしい。
 入ってきたのは、聖祥大付属小学校の制服を着たなのはと、その肩にいるユーノであった。

「カズキさん、良かった……駆けつけてみたら、誰もいなくて。破壊痕と血が一杯で」
「無事で良かったよ、カズキ。だけど結界も張らずに戦闘なんてするから、地上では大変な事になってるよ。そのおかげでこの船に見つけて貰えたんだけど」

 二人とも、まだ詳しい事は何も知らされてはいないらしい。
 言葉を聞く限りでは、二人が駆けつけるよりも、カズキが保護された方が先のようだ。
 しかし幼い二人に真実を告げるべきかどうか。
 安心させる為には告げるべきだが、余りにも衝撃が強くはないだろうか。
 だからカズキは出来るだけ言葉を選んで簡潔に、必要な事だけを伝えた。

「俺は大丈夫。それにもう二度と、なのはちゃんも怖い思いはしなくて済むから」
「じゃあ、創造主さんは捕まえられたんですね?」
「それは……」

 事実をまだ知らないなのはの問いかけに、カズキは言葉を詰まらせてしまう。
 一人で嘘をついても、直ぐにばれてしまう事だろう。
 自分が殺したと、人間である蝶野を殺したと言うのは躊躇われた。

「ええ、そうよ。ただし、この世界の人ではきっと彼を裁けないから私達が然るべき所で裁判を受けさせ、彼に罪を償わせるわ」

 口ごもり顔色を悪化させていったカズキの代わりに答えたのは、リンディであった。
 そしてここは任せてとばかりに、ウィンクで合図をしてきた。

「さあ、詳しく聞きたい事もお互いあるでしょうけど今日はこれまで。カズキ君も、無断で学校を休んじゃったし、ご家族にも顔を見せてあげないとね」
「あ、そうですね。私は一度学校行ってますけど、そろそろ帰らないとまひろちゃんが」
「まだ全部終わったわけじゃないけど、一度ゆっくり休もう。特にカズキはね」
「その前にまず、カズキ君は服を着ないとね」

 上手くリンデイが話をそらしてくれたが、カズキの姿を改めて見てなのはが顔色を変えた。
 やかんが熱せられ、中の水が沸騰するように真っ赤になっていくように。
 頭からもピーッと煙を噴き出して頭の中は完全に沸騰したらしい。
 何しろ家族の人以外の男の人の体を見てしまったのだ。
 慌てて片手で顔を覆って俯き、カズキを指差しながら叫んでいた。
 顔を覆っている手の指の間が少し開いているのは、もはやお約束か。

「な、なんでカズキさん……パンツ一枚なんですか。もう、早く言ってください。着替えて、何か着てください!」
「別に恥ずかしがらなくても、まひろは全然気にしないよ?」
「ふぅん、じゃあ私が見ても平気かしら」
「はぅぁ、お……俺の学生服何処っすか?」

 リンディに覗き込まれるように体を見られ、カズキは悲鳴を上げながらベッドのシーツを手繰り寄せた。
 リンディの気遣いに対して、それにありがたく乗っかった形である。
 もちろん、恥ずかしかったのも本音であったが。

「むう、ユーノ君……この差ってなに?」
「僕に言われても、カズキだからね」

 ユーノには言葉を濁され、なのはが頬をリスのように膨らませる。

「ごめん、ごめん。さあ、帰ろう。皆が待ってる」
「はい、出口の転送ポートまで案内しますね」

 着替え終わったカズキは、なのはの頭に手を乗せて撫で付けあやしてみせた。
 まだ不満は残るものの、カズキもまひろに会いたいだろうともやもやした気持ちは置いておく。
 そしてなのははカズキの手を引いて、出口はこっちと引っ張り出す。
 その様子を見ながら、リンディはとある古い知り合いとカズキを重ね合わせていた。

(なんだかあの人に似てるわね。独りで全部背負おうとする所なんか、特にそっくり。周りを見れば、仲間がちゃんといるのに)

 かつての仲間の事を思い出し、悲しげにカズキを見つめている。

「後日、また連絡を入れます。その時は、軽い事情聴取にご協力願いますね」
「うん、分かった。何時でも良いですよ」

 表面上は事務的な言葉をカズキに投げかけ、その直後に念話を繋げた。

『カズキ君、あまり気にし過ぎない事ね。それでも貴方が納得できないなら、この言葉を覚えておいて。善でも悪でも、貫き通せた信念に偽りなど何一つない』
『善でも、悪でも……』
『私の古い知り合いの、人生観みたいなものかしら。貴方が道に迷った時にでも、思い出して』

 扉から出て直ぐに姿が見えなくなったカズキから、分かりましたとの返答はなかった。
 それも当然かと、リンディは一つ溜息をついた。
 第九十七管理外世界である地球への到着は遅れに遅れ、ほぼ全てが終わった後。
 ジュエルシードの高い反応を探ってみれば、カズキと蝶野の一騎打ちの真っ最中。
 後でなのはからカズキが魔法を知って一ヵ月と聞いて、耳を疑ったものだ。
 ミッドチルダの就職年齢は低く、カズキの年齢で修羅場を潜る者は少なくない。
 だがそれは、きちんと訓練を積み、実戦を積み重ねやっとでの話。
 わずか一ヶ月で人を殺すような不自由な選択に対面する者など、まず稀である。
 言葉一つで人殺しの禁忌を納得できる程、簡単なものではない。

(だけど、あの言葉の続きは教えられないわね。もしも自分を疑うのなら、戦い続けろ。とても民間人の子にはね。少し、感傷的になっちゃったかしら)

 今目の前にある事実にだけ囚われ、潰れなければ良いがと思いつつ考えを切り替えた。
 この世界に散らばったジュエルシードは、まだまだ存在しているのだから。

「エイミィ、蝶野邸の捜索はどうなってるかしら?」
「はい、現地の警察が封鎖を行った直後秘密裏に蔵を捜索したら、出るわ出るわ。小型の無限書庫のようなものや、機械生命体の生成方法。他にもロストロギア級の技術がわんさか」
「全て回収して順次封印を。危険物はリストにして資料を回して、持ち帰り不要であれば破棄します。他に気になった事は?」
「それが一つ、不可解な事があるんです」

 通信用のウィンドウ越しに告げられた報告に対し、リンディはまさかと呟く事になった。









 次元航行船であるアースラが停泊しているのは、地球の外側。
 宇宙空間であるそこから、カズキとなのはは魔法転送により海鳴市の臨海公園へと降ろされた。
 人目に付かない場所を選んでの事で、オペレーターの人にお礼を言ってから帰路につく。
 時刻はなのはが言った通り夕暮れ時で、空のみならず海も赤焼けにそまっていた。
 春の暖かな日差しも海風と混じって少し肌寒いぐらいであった。
 その公園内を出口に向かい歩きながら、カズキは気になっていた事を聞いた。
 それはカズキと分かれてから、鷲尾と花房と戦ったなのはの経緯である。

「そっか、フェイトちゃんが助けてくれたんだ」
「はい、管理局の事を知ったら慌てて行っちゃいましたけど。はやてちゃんには後で一緒に謝りに行く約束をしました」
「今回は協力関係にあったけれど、元々彼女達の行為は違法以外の何ものでもなかったからね。色々と考え直してくれると良いけど」

 ユーノの一言でなのはが複雑な顔をしたが、直ぐ後によしっと気合を入れていた。
 決意に眉を逆八の字に吊り上げたのは、理由を聞いて可能ならば説得するとの決意か。
 そんななのはの前に、一つの朗報がもたらされた。

「今週の土曜日、テスタロッサから申し入れがあった。はやてとその家族である私達に謝罪したいと」
「え、本当ですか……シグナムさん!?」
「なにを驚いている。今回、肝心な所で何もできなかったからな、出迎えぐらいさせて欲しい。それとも、いらぬお世話だったか?」

 そう言ったシグナムが時折空を見上げるのは、管理局の存在が気になってか。
 だが本音は出迎えたかった方だとばかりに、ぶんぶんと首を振るなのはの頭に手を置いていた。
 そのなのはは、何かにハッと気付いたように辺りを見渡し始める。
 夕暮れ時、海が見える公園、年頃の男女とカズキとシグナムを順に見比べた。

「えっと、あの。私は家こっちなので失礼します。土曜日の件は、分かりました。私自身、フェイトちゃんに連絡とってみます。それじゃあ!」
「なのは、急にどうしたのさ。まだ疲れやダメージは残ってるんだから、あまり激しい動きはしない方が」
「もう、ユーノ君はデリカシーがないんだから。邪魔しちゃまひろちゃんに怒られちゃうよ」
「デ、デリカシーが……ない」

 肩の上でうな垂れたユーノを両手で掴んで、子供は風の子を体現して走り去っていく。

「もしや、この扱いはずっと続くのか?」

 そんなシグナムの言葉も届いた様子はない。
 その無駄な気遣いは口から駄々漏れで、シグナムにもカズキにも聞こえていた。
 なのはは時々ちょっと振り返り、夕焼け以外の理由で顔を赤くして、また走り出す。
 見えなくなるまでずっと、その繰り返しであった。
 やれやれと言いたげに軽い溜息をついたシグナムは、振り返らずに呟いた。

「そんな顔をするな。お前は自分の成すべき事を成しただけだ」

 気遣うべきなのはが居なくなった途端に、仮面の笑顔が崩れ始めたカズキに対してであった。
 決意をし、覚悟した上での事であったが、殺人という事実はあまりにも重い。
 本人は必死に笑おうとはしているのだが、今にも消えてしまいそうな儚げな印象がついてまわっている。
 妙な気を起こさないか、心配になってしまう程だ。

「お前は本当に良くやった。ほぼ孤立無援の状態で蝶野攻爵を止めた。それ以上、何を望む事がある。妹も友人も、お前が望んだ通り全て無事だ」
「良くなんてやってないよ」

 シグナムの案ずる言葉に対し、カズキ自身が否定する言葉を呟いた。
 今にも泣きそうな震える声で。

「もう誰も犠牲者を出さないって言っておいて、何人も犠牲者を出した。超人を望んだ蝶野の気持ちを踏みにじって、人間だって言い聞かせもした。あげくその蝶野を殺して。蝶野が最後に言ったんだ。謝るなよ、偽善者って」

 よろめくようにカズキは防波堤の手すりに手をつき、顔を落とす。
 シグナムに背を向けた状態であっても、震える肩が全てを物語っていた。
 決してシグナムには見せまいとした涙が零れ落ち、手すりの上の手の甲に落ちる。

「俺、頑張ったんだ。痛いのも怖いのも我慢して、必死に蝶野を止めようとした。でも、偽善者なのかな」

 主であるはやての事があったとは言え、やはり自分が行くべきだったとシグナムは思った。
 犠牲者を出すまいと、カズキは戦い続けていた。
 人一倍、怖いのも痛いのも嫌いながら、素人同然のままに偶然手にした力で。
 同じ高校生の男で、カズキと同じような意志を持って戦い続けられる者が何人いる事か。

「カズキ……」

 良くやったという言葉も、頑張ったという言葉もカズキには無意味に近い。
 戦い傷ついた者を踏み越えた経験はあっても、慰めた経験はシグナムにはなかった。
 何をしてやれば良い、どうすれば良い。
 未だかつてない程に、締め付けられる胸に問い正しても答えは得られなかった。
 そもそも、シグナムは胸の痛みが何であるかも正確なところは分からないでいた。

「善でも悪でも……」

 カズキの肩に手を伸ばしては引っ込め、戸惑うシグナムの耳にカズキの呟きが届いた。

「最後まで貫き通せた信念に、偽りなど何一つない」

 初めて聞いたはずの言葉。
 その言葉を聞いて、シグナムは何時か何処かで聞いた言葉だと感じた。
 記憶にはない言葉のはずなのに、何時か何処かで。
 そんなシグナムの戸惑いを他所に、カズキは独り言のように呟き続ける。

「最後まで貫かなきゃ、嘘になるのかな。俺の信念って、何だろう。戦う事? 皆の敵を倒す事? 蝶野一人で足りないなら……」
「馬鹿な事を考えるな。私はお前の信念を知っている、この目で見てきた。お前はただ、守りたかっただけだ。家族を友人を!」

 感情が赴くままに、シグナムは躊躇いという一線を越えていた。
 泣きじゃくるカズキを振り向かせる事はせず、その背中から抱え込むように抱きつく。
 カズキは今、完全に己を見失っていた。
 シグナムが言った通りカズキが戦い始めたのは、大切な家族や友人を守りたいと思ったから。
 守りたい、それこそがカズキの信念であった。
 その信念に従い、家族や友人を脅かす危険を魔法という力で排除しようとし始めた。
 だがその信念の幅は、本人が思う以上に大きく広かったのだ。
 倒すべき敵である蝶野すら拾い上げようとし、矛盾を抱えたまま殺害するに至ってしまった。

「カズキ、お前には休息が必要だ。いや、もう二度と戦うな。今度こそ、妹達のいる日常へと帰れ。頼む」

 縋りつくようなシグナムの願いに対し、カズキは大いに躊躇しながら頷いた。

「それで良い、もう戦わないでくれ」
「ごめん、シグナムさん。それと、ありがとう。まだちょっと大丈夫じゃないけど……まひろが待ってる。帰ろう」

 涙を拭い、まだ弱々しいながらも笑みを浮かべたカズキが手を差し出した。
 今回だけだぞと心の中でのみ呟き、シグナムがその手を取った。
 幼い迷子が親を求めるように強く握られ、安心しろとばかりに握り返してくれる。

(前みたいな生活の中で、守るって信念をどう貫けば良いかは分からないけど。蝶野の事は絶対に忘れない。忘れない事で蝶野を守る。人間蝶野攻爵を俺が殺した。お前は人間だ、蝶野)

 再び涙が零れ落ちそうになった時、シグナムが覗き込むように見てきた。

「もう少し、ここにいるか?」
「大丈夫、本当にもう」
「そうか……」

 慌てて涙を拭ったが、少しシグナムに不安そうにされ無理やりカズキは笑ってみせた。
 すると何を思ったのかシグナムが突然、繋いだ手を強く引っ張った。
 不意を突かれた事もあり、カズキは前のめりに大きくよろめく。
 そして次の瞬間、一瞬だけだが頬に柔らかな感触が触れた気がした。
 何かが触れた場所に慌てて手を当て、一体何がと考える。
 答えは、やや赤面しつつも、唇に指を当て挑発的な笑みをむけるシグナムが握っていた。

「これで少しは元気が出たか?」

 出ない筈がないとばかりに、カズキは盛大に首を縦に振っていた。
 すると改めてシグナムが手を繋ぎなおし、先を急ぐように歩き始める。
 カズキが転ばない程度にだが、ぐいぐいと引っ張られていく。
 それに伴い、シグナムの顔は俯き耳元が妙に赤い気がしてならなかった。

「シグナムさん、照れてる?」
「う、うるさい。やってみたは良いが、背中が痒い。自分が自分で気持ち悪い。あぅ、やるんじゃなかった。忘れろ、私はなにもしてない!」

 振り替えるや否や、シグナムはカズキの胸元を掴み凄もうとしていた。
 だがカズキ以上に赤面し、うろたえていては凄みなんて欠片もなく、むしろ可愛いぐらいだ。
 年上の綺麗なお姉さんが見せる可愛い姿に、カズキも本当に元気が出てきた。
 と言うよりも、何時ものカズキが少なからず戻ってきたと言っても良い。

「シグナムさん!」
「はひ」

 名を呼んで慌てるシグナムの両肩を掴み引き寄せると、掠れた声で返事をされた。

「お返しのキス」
「するなぁッ!」

 目を閉じて唇を突き出し、シグナムの頬に狙いを定めたまでは良かった。
 だが次の瞬間、シグナムの拳がカズキの鳩尾へと吸い込まれていた。
 羞恥という力により威力が倍増しとなったそれを受け、カズキが腹を抑えて蹲る。

「うぐおお、痛い……シグナムさん、まだ怪我治りかけなのに」
「す、すまんつい。お前が急に変な事をしようとするからだな。つまり、お前が悪い」
「先にしたのはシグナムさんなのに。分かった。次からは、俺も不意をついて反撃されるまえにするから」
「だから、それを止めろと言っている!」

 なのはの気遣いは上手くいったのか、行かなかったのか。
 大いに時間をかけ、二人が八神家についたのはすっかり夜もふけた頃であった。
 そして八神家でも、カズキの頬にある口紅跡の事で大いにからかわれる事となる。









 翌日の放課後、カズキとなのは、それにユーノの姿は再びアースラの中にあった。
 リンディの私室ともいえる艦長室に何故かある畳の上、座布団をお尻に敷いて。
 部屋にはししおどしも備え付けられており、正しく間違った日本の部屋という感じである。
 カズキとなのは、それから人の姿に戻ったユーノが並んで座っていた。
 その対面にはホストであるリンディとその部下であるクロノという少年が控えている。

「大まかなお話は、理解しました。散らばったジュエルシードを集めようと、皆立派だわ」
「だが無謀でもある。特に、次元世界の人間であるユーノ。君の事だ」

 カズキとなのはは、第九十七管理外世界と言われる地球の原住民である。
 次元世界という知識もなければ管理局の存在も知らず、無謀云々よりやらねばならなかった。
 だがクロノの言う通り、ユーノの行動は決して褒められるものではない。
 何よりもまず、管理局に報告し、それから協力を申し出るなりなんなりするべきであったのだ。
 本人もそれは分かっているのか、クロノの言葉を否定せず、ただ落ち込むように肩を落としていた。

「クロノ君、ユーノ君も反省はしてる。けど、ユーノ君を責める前にもっと大切な事があるはずだ」
「ああ、そうだ君の言う通りだ、艦長」
「そうね。カズキ君、それになのはさんもユーノ君も。これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」
「君たちは今回の事は忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすと良い」

 リンディとクロノの通告を前に、待ってと声を上げようとしたなのはをカズキが止めた。

「カズキさん?」
「なのはちゃん、もう良いんだ。リンディさん達に任せよう。今までは俺達の他に、誰も出来る人が居なかった。けど、今は専門家が来てくれたんだ」
「確かに、なのはの安全を考えるべきならそうするべきだ。無理をする必要は無い」
「そう、言われちゃうと……そうかな。うん、ホムンクルスは全部倒したし。後は全部、その次元世界の人達の問題だもんね。きちんと回収して貰えるなら、何も言いません」

 改めて説得されると、割とあっさりなのはは受け入れていた。
 それは今回の事件で十分に痛みや恐怖と言うものを肌で知ったからだ。
 それになのはの一番の動機は、ジュエルシードによる被害とフェイトへの憧れ。
 専門家なら安心だし、フェイトとは既に連絡を取り合う仲で何の問題もない。

「聞き分けの良い子達で助かったわ」
「俺、高校生ですよ。それと、これが俺が今まで集めてきたジュエルシードです」
「あ、なのはも。レイジングハート、出してくれる?」
「Put out」

 カズキが差し出したジュエルシードは、全部で六個。
 なのはが差し出したのは鷲尾と花房の分を含めた四個であった。
 全部で二十一個あるジュエルシードの内、半分以上ある事になる。

「確かに、それと君の左胸の一個は不問とする。今まで暴走の兆候もなかったようだし、人が生き返るなんて話はない方が良い」
「うっ、ばれてる」
「貴方の体を精密検査した時にね。勝手にごめんなさい。けど、封印はしないから安心して。管理外世界の住民から無理やりってのは、組織的にもあってはいけない事だから」

 緊急時はその限りではないけれどとは、リンディの心の中だけでの呟きであった。

「あの、僕はせめてジュエルシードが全て集まるまでこの世界に居たいんです。できれば、このアースラに居させてもらえませんか? ジュエルシードの知識もあります」
「そうね、実際に対処した事がある子の意見は重要だわ。それに貴方は、スクライアの子だったわね。管理局としても、あの一族とは上手く付き合うべきね、クロノ」
「分かりました。アドバイザーとして、席を一つ用意します」

 これまで対処してきたユーノの意見は重要だとそれは受け入れられた。
 だがそれは同時に、なのはとユーノのお別れを示している。
 なのははもう魔法には関わらないとし、ユーノは元々別の世界の人間だ。
 本来交わる事のない二人が出会えたのも魔法という共通点があっての事。
 それを取り除いてしまえば、会えなくなるのは当然であった。

「なのは、今までありがとう。たぶん、もう会えなくなるけど」
「それは少し寂しいかな。けど、ユーノ君の事は忘れないよ。あ、レイジングハート返さないと。ごめんね、借りっ放しで」
「いや、返さなくても良いよ。元々、僕の手には余るデバイスだし。もう必要ないかもしれないけど、レイジングハートもその方が嬉しいだろうし」
「え、う……じゃ、じゃあ貰っちゃうね?」

 名残惜しそうに二人が別れを惜しむも、そう長々とは引きとめられない。
 普通の学生に戻るカズキとなのはとは違い、リンディ達はこれからが本番。
 まだ数日の猶予はあるからと、手短に別れを済ませ、二人はアースラを降りていった。
 昨日と同じく、夕焼けの色にそまる臨海公園にである。
 そこからアースラがあるであろう空を見上げ、まずなのはが呟いた。

「終わっちゃいましたね。明日から、放課後は何しよう」
「決まってる。岡倉達や、まひろ達と遊べば良い。もう、戦う必要なんてないんだから」
「そうですね。だったら早速、皆にメールします」
「俺も岡倉達に電話するか。最近、ほったらかしだったし」

 なのはは嬉しそうにメールを行い、カズキは渋面を作ってまず岡倉に電話をかけた。
 二人共肩の荷が降りたのは同じだが、男と女では友達の反応が違う。
 メールを送って直ぐに着信音が鳴り、なのはは続きメールを打ち始める。
 一方のカズキは、受話器越しに怒鳴られていた。

「てめえ、カズキ。聞いたぞ、シグナムさんとキスしただと。この裏切り者、お前は俺の気持ちを踏みにじった!」
「おう、密告者は誰だ!?」
「カ、カズキさん。もう遅いのでなのはは、帰りまーす!」
「え、その反応。て事は、犯人はなのはちゃん? それって一体何処まで広がってるの!? ちょっと、いやかなり嬉しいけど!」

 嬉し恥ずかしの気持ちを抱えながら、カズキが頭を抱えて体をくねらせた。
 そして直ぐに、きゃあ笑いながら逃げたなのはを追いかけ始める。
 そのなのはの声と海の小波を受話器越しに聞き、さらに岡倉がヒートアップ。

「何故なのはちゃんが……おのれ、年上のみならず年下まで。さすがに小学生相手はちょっと引くが、海沿いで追いかけっこなどこの俺が許さん。大浜と六桝を召集してボコる!」
「いや、俺達もう帰るから。集合は俺の家で。皆で飯でも食おう、今までのお詫びも含めて皆に色々と奢る」
「良く言ったカズキ、財布の心配をしながら待ってろよこの野郎!」
「カズキさん、私も行きます。男の子ばっかの中で、まひろちゃん一人はかわいそうなので。あ、そうだ。すずかちゃん達も」

 メールをしながら逃げていたなのはは、シグナムとのキス云々の詳細を聞く気満々であった。
 そのなのはを捕まえたカズキは、まだ早いとばかりにコツンと小突いた。
 だがまひろもその方が楽しいだろうと、許可を出すようになのはを背負う。
 背負ったまま臨海公園を駆け抜け、二人で帰路につく。
 もしもこの光景を恭也が見ていれば、羨ましいと一言呟きそうである。
 そんな家族や友達との触れあいを通し、カズキはほんの少しの後悔を胸に抱いていた。

(できれば蝶野にも、こんな風に生きて欲しかった。知って欲しかった)

 殺すしかない状況で殺害してしまった事に対する後悔はない。
 蝶野を人間のままにするには、他に選択肢がなかったのだから。
 だができれば、蝶野にも自分と同じような生活を一度で良いから味わって欲しかった。
 そんな機会があるはずもないが、そう思わずにはいられないでいた。









 こぽりと、液体に満たされたガラス管の中に気泡が起きて浮かび上がっていた。
 明かりの少ない薄暗い空間での事である。
 ガラス管は全部で二つ。
 一つはなのは達よりも少し幼い金髪を持ったフェイトに良く似た少女であった。
 生まれる前の胎児のように体を丸め、満たされた液体の中で静かに眠っている。
 そしてもう一つは、成人に近い男性のものであった。
 ただし、その五体は不完全であり、下半身などは殆どなく上半身と片腕のみだ。
 同じ液体の中に沈んではいても少女とは違い、ただ死んでいるようにも見えた。

「ぎりぎり、間に合いそうね」

 ガラス管の中で液体に満たされた男性、蝶野攻爵を見上げて呟く者がいた。
 パーティドレスを模した黒いバリアジャケットに身を包んだ、女性であった。
 年の頃は四十代後半辺り。
 もしくは不健康そうな顔色が歳を老けて見させているのか。
 フェイトの母親であるプレシア・テスタロッサであった。

「まさか、偶然ジュエルシードが散らばった管理外世界にあんな技術があったなんて。信じてもいない神を信じそうにさえなったわ」

 地獄の中で希望を見つけたように、プレシアは蝶野を見上げていた。
 半身を吹き飛ばされても、脈打つ心臓に時折ぴくりと動く瞼。
 生きている、病魔に侵されながらも生まれ変わり、超人と化した蝶野は。

「全く、やっぱりフェイトは駄目ね。私の願いを理解もせず、無駄な事ばかりに時間をかけて。あの子は失敗作、役に立たないお人形」

 そう憎々しげにプレシアが呟いた時、殊更大きく蝶野の瞼が痙攣していた。

「ホムンクルス化の技術。これがあれば、アリシアを生き返らせてあげられる。そして私自身も、アリシアの母親であり続けられる。さあ、早くその目をあけなさい」

 プレシアは蝶野がいるガラス管を見上げながら続ける。

「貴方が超人たる事を望むのなら、私が呼んであげる。超人パピヨンと。だからその知識を私に寄越しなさい」

 自分の言葉の危うさにも気付かず、プレシアは超人パピヨンと声をかける。
 蝶野を見るわけでも、パピヨンを見るわけでもなく。
 その知識が欲しいが為に、本人を見る事をせずに呼びかけ続けた。

「私のアリシアに、今一度生を与える為に!」

 己の願望を満たす為だけに、その名を呼んでいた。









-後書き-
ども、えなりんです。

さて、シグナムとカズキが一歩前進。
恋人未満な感じ。
けどカズキから何かすると殴られる、変に理不尽ですw

現状で、カズキとなのはは戦線からドロップアウト。
カズキは心の傷が深いですし、なのはは理由がないから。
フェイトはもうお友達ですしね。

んで大方の予想通りだとは思いますが、瀕死の彼はママンが拾いました。
アリシア大復活ですよ、ホムンクルスだけど。

それでは、次回は土曜日です。


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