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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第十六話 謝るなよ偽善者
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/25 20:16

第十六話 謝るなよ偽善者

 弾け飛んだ学生服を振り払い、蝶野が唯一残った下着へと手を伸ばす。
 股間部分に蝶印のあるブーメランパンツ。
 戸惑いなくその中へと手を突っ込み、掴み出したのは蝶々のマスクであった。
 羽化を果たすこの時の為にずっと暖め続けていたそれを、あるべき場所、顔へと装着した。

「パピ、ヨン!」

 自分を指してそう宣言するパピヨンの表情はご満悦であった。

「この変態が!」

 だがその意味を知らない黒服の二人が、懐から拳銃を取り出し構えていた。
 次朗が喰われた瞬間を目の当たりにして、パニックに陥っていた事もある。

「さすが暴力団出向、蝶野の黒服は良い物を持っている」

 拳銃を前にしても蝶野は余裕を失ってはいなかった。
 トリガーが引かれ、火薬の炸裂音が響く。
 直後に聞こえたのは金属同士がぶつかるような鈍い音だ。
 炸裂音はなおも続き、同じ数だけ再び金属同士がぶつかるような音が響いていった。
 蔵の中に響く音の強さにカズキは耳を塞ぎ、本能的に拳銃を恐れながらもそれを見た。

「フン、フフン!」

 事あるごとにポージングをとる蝶野の体に火花が幾つも散っていた。
 弾丸により穴が空くのは、蝶野の周囲にある蔵の壁や地面、置物ばかり。
 金属同士がぶつかる音は、蝶野が真っ向から銃弾を跳ね返す音であったのだ。
 やがてその事に黒服たちも気付き、自然とトリガーを引く指が止まっていた。
 強靭な肉体を手に入れた事を誇示する蝶野は、弾丸が擦れて煙を上げながら言った。

「意外と痛いけど、ちょっとカイカン」

 確実に弾丸を受けながらも血の一滴も流れた様子はない。

「正真正銘の化け物だ!」
「ヒイィッ!」

 たまらず逃げ出す二人の黒服を見て、蝶野の足元に黒い光を放つ魔方陣が展開される。
 慌てて左胸に手を置いたカズキであったが、蝶野の動きは余りにも速かった。
 その姿は目に見えず、カズキに感じられたのはすれ違う風切り音のみ。

「化け物じゃなくて、超人さ」

 そう呟いた蝶野は、逃げ出した黒服を跳躍で大きくまたぐようにし手の平を顔に押し付けていた。
 直後、黒服二人の運命は次朗と同じく、一瞬で喰われ消えていく。
 男達の断末魔を耳にしながら、カズキは恐ろしさにごくりと喉を鳴らしていた。
 蝶野の今の動きはホムンクルス云々ではなく、間違いなく魔法であった。
 フェイトが以前、蛙井の子ガエルを切り捨てる時にも使った高速移動の魔法。
 蝶野は宣言通り、ホムンクルスの体と魔力の両方を手に入れたのだ。

「俺は勝てるのか……」

 初めて弱気を見せた呟きの直後、ぽたりぽたりと何かが地面に滴った。
 それが何か、気付くのと同時にカズキの全身より噴き出した。
 すれ違い様に斬り刻まれた事による鮮血、そして失血により意識が遠くなり崩れ落ちる。
 その直前で、カズキは何とか踏みとどまろうと左胸に手を伸ばした。

「待て、蝶野。俺はまだ、戦える。サンライトハーッ!」

 取り出したジュエルシードをデバイス化する寸前、蝶野の拳が顔面へとめり込んだ。

「慌てるなよ、武藤」

 完全に振りぬかれた拳を受けて、カズキは入り口付近から蔵の奥の壁まで吹き飛ばされた。
 強かに背中を打ちつけ、より出血が激しくなっていく。
 今度は踏みとどまる事もできずに崩れ落ち、待てと手を伸ばすのが精一杯。

「美味しいものは後に取っとく性質なんだ。武藤、この蝶野の敷地の中でお前が最後だ。俺が戻ってくるまで、大人しくしてろよ」

 カズキの手の中からジュエルシードが零れ落ちるも、蝶野は見向きもしなかった。
 完全なる命が手に入った今、特別な一つであろうと興味がないといったところだろう。
 ぐうっと鳴った腹の方にさえ意識を取られ、少し考え込むぐらいである。

「意外とエネルギーを喰う体だな。メインディッシュの前に、軽く腹を鳴らしておくか」
「待て、蝶野……」
「お前はそこで、今しばし。自分の無力さに打ちひしがれてろ」
「蝶野、攻爵ッ!!」

 悠々と去っていく蝶野の背を掴もうと手を伸ばしても、空を切るばかり。
 その姿は直ぐに見えなくなり、脱力感と共に無力感に襲われ始める。
 なのはの手を借りてまで、蝶野を止めに来たのにあげくこの様であった。
 一瞬、ほんの一瞬だがこのまま楽にとも思ってしまう程である。
 だがそんな情けない気持ちは、次の瞬間には吹き飛んでいた。
 そう遠くない場所、恐らくは屋敷の敷地内から断末魔の悲鳴が聞こえてきたからだ。
 蝶野が何をしているのかは、明らか。
 一人、また一人のその犠牲は増え続け、打ちひしがれている場合かと自分を叱咤する。

「サンライトハート」
「Ja」

 ジュエルシードをデバイス化したサンライトハートを杖にして立ち上がる。
 だがその歩みは遅々として進まず、歩く度に響く痛みがさらに動きを遅めていた。
 その痛みが一際大きく脳裏に響いた時、溜まらずカズキは膝をついてしまった。
 まだ続く悲鳴に歯を食い縛り立ち上がろうとするも、体はいう事を聞いてはくれない。
 そして一際大きな悲鳴が周囲に響き渡ったのを最後に、ぴたりと止んでしまう。

「ちくしょう……ちくしょうッ!」

 恐らくは、屋敷にいた人間全てを平らげてしまったのだろう。
 蝶野一人を止められず、拡大してしまった被害。
 歯を食い縛っても涙が零れ落ちそうなその時、カズキの胸ポケットの携帯が鳴り響いた。

「もしもし」

 ディスプレイに映し出されたのは、まひろの名前である。
 怖い夢でも見たのか、まひろの顔を思い浮かべると自然と力が出る気がした。
 だからこんな時ではあったが、呼び出しに応じずにはいられなかった。

「カズキか、私だ。すまない、赴けない私の言葉ではないが……どうなっている?」
「ごめん……」
「そうか、止められなかったか」

 たった一言で、シグナムは全てを察してくれたようであった。

「カズキ、なんとしても生きて帰れ。辛いかも知れないが、一時の被害には目を瞑れ。なのはにも直ぐに撤退しろと告げる。はやての容態が安定した今、私が出る」
「携帯、まひろにちょっと変わって」

 シグナムの私がという言葉を聞き、カズキは話をそらすようにそう申し出ていた。

「お兄ちゃん、まひろまだ病院だよ。あのね、石田先生がはやてちゃんが寂しがるからってぎりぎりまで居て良いって……あれ、お兄ちゃん何処にいるの?」
「石田先生、そんな事言うとったんか。べ、別に寂しがってなんかないで」
「私とまひろがお泊りだって羨ましがってたの誰だよ。ほら、恥ずかしがらずに言ってみな。ちゃんと構ってやるからよ」
「はやてちゃん、ヴィータちゃんも。石田先生が特別にって許してくれたんですから、騒いじゃ駄目ですよ」

 まひろを含め、キャーッと騒ぐ三人をシャマルの声がたしなめていた。

「カズキ君、まひろちゃんの事はちゃんと預かってるから……あの、頑張って。それじゃあ、シグナムに代わるわ。ス、ストロベリートークの続行ね。きゃん!」
「全く、カズキ先も言ったが帰って来い。命に優先順位をつける事は悪ではない。お前の妹はもちろん、はやて達、それに私も。何処かの知らない人間よりもお前が大事だ」
「ありがとう、シグナムさん。少し力が沸いてきた。それとごめん、やっぱり無理だ。蝶野を止めないと、あいつ本当にこのまま……」
「おい、カズキ!」

 携帯電話を耳元から放し、シグナムの声を聞き流しながらしっかりと立ち上がった。
 当たり前の事だが、家族であるまひろはもちろん、友人のはやて達が案じてくれている。
 今も戦っているであろうなのは、帰途についた岡倉達やアリサ達。
 皆が皆を大切に思いあっている事は、直接言葉を交わさなかった者達も同様だ。
 だからこそ、このまま多少の被害はと逃げ帰る事はできない。
 もしも逃げれば自分が自分ではなくなる、そういった思いも確かにある。
 だが最も大切な理由は、蝶野が独りだという事であった。
 弟を喰い殺し、家の勤め人達、もしかすると親でさえ喰い殺しているかもしれない。
 完全体という言葉を用いながらも、蝶野は人としてあまりにも不完全である。
 大切にしたい人もいない、大切に思ってくれる人もいなかった。

「それに蝶野は人間だ。他のホムンクルスとは違う。誰にも、なのはちゃんやシグナムさんに人殺しはさせられない。それに俺なら、蝶野をホムンクルスとしてじゃなく人間として……」
『馬鹿な考えは止めろ。奴は化け物だ。人間だと思うな、人間だと思ってしまえば……死ぬのはお前だぞ!』

 まひろ達に配慮してか、シグナムが途中から念話へと切り替えていた。

『絶対に勝つ、その為にもシグナムさんの力を借りるよ』
『なに?』

 これ以上はとカズキの方から念話を断絶する。
 その時、扉が開け放たれるのと同時に吹き飛び、蔵の中にて倒れ落ちた。
 それを成し遂げたのはもちろん、蝶野であったが蔵を離れた時と少し様子が違った。
 あれ程、自分の羽化に満足し、満ち足りていた表情が酷く歪んでいる。
 かつてシグナムがドブ川が腐ったようなと評した瞳は、濁りきってしまっていた。

「ちゃんと打ちひしがれたか? 少し、やる事ができた」

 羽化だけでは満足できず、屋敷の中で一体何があったか。
 カズキにはもはや、推察する事すら不可能な領域の事であろう。

「超人パピヨンの聖誕祭。こんな凍てつく闇夜にふさわしい、超特大の篝火を焚こう。どうせ、蝶野攻爵を必要としなかった世界だ。全て燃やし尽くしてやる!」
「蝶野ォッ!」
「なんだァ!?」

 そんな事をさせてたまるかと、カズキが胸元に下げていたペンダントを掲げて見せた。

「レヴァンティン、力を貸してくれ」
「Jawohl」

 主でこそないが、レヴァンティンはカズキの頼みを聞いてくれた。
 待機状態のペンダントから、起動状態の剣へとその身を変えていく。
 普段の炎ではなく、エネルギーの光を刀身にみなぎらせながら。
 右手に突撃槍のサンライトハート、左手に大剣のレヴァンティンを手にカズキは最後の力を振り絞る。

「決着をつけるぞ、蝶野!」
「デバイスの二刀流……これは、これは。だがお粗末な手段だ」

 全てを込めようとするカズキを前に、蝶野はその無知を笑っているようであった。

「確かにデバイスを複数持てば、使用可能な魔法は増え、対応できる状況も増える。だが、それで強くなるかは全くの別問題。魔法はソフト、デバイスは演算装置、人はハード」

 いや、事実魔法に関する知識については、明らかに蝶野の方が上であった。
 この世界の技術であるホムンクルスとジュエルシードの融合を成功させたのだ。
 その目には、カズキの行為が愚かしくも滑稽に見えていた事だろう。

「浅知恵もここまで来れば笑い話。可笑しくて吹き出してしまいそうだ!」

 言葉通り高らかに蝶野が声を上げた瞬間、真っ赤な鮮血がその口より吹き出された。
 尋常ではない量の鮮血は、びちゃびちゃと音が鳴る程に地面へと零れ落ちていった。
 心なしか当初よりも、蝶野の顔色は優れないようにも見える。
 一体何がどうなっているのか、カズキもそうだが攻爵も混乱していた。
 体もどこかふらふらとよろめき、感じた事のある脱力感にまさかと蝶野が勘付く。

「はっ、馬鹿な……この感触は、俺を何時も苛む……何処だ、何処にある。何故ない、章印は、超人の証が何故ない!」

 自分の体を血まみれの手で触れ捜すも、それは何処にも見当たらなかった。
 蝶野を正面から見据えていたカズキも探したが、見つからない。

「章印が……ない。て事は、失敗?」

 直接の原因は、ジュエルシードの慣らしの不足か、ホムンクルスの寄生体の調整不足か。
 強靭な肉体を手に入れ、なおかつ魔法を行使できるだけの魔力を保持する完璧な体。
 だがその体の根底には、病弱な蝶野攻爵そのものと言ってもよい病魔が潜んでいたのだ。
 強靭でありながら、虚弱な体という相反する要素を持つ体である。
 それは完璧からは程遠い、矛盾に満ちた不完全な体でしかなかった。
 体の崩壊こそ起きるか不明だが、その時まで延々と蝶野は病魔に蝕まれ続けていく。
 その事実に気付き、蝶野は少しの間茫然としていたが

「しくじっちゃった」

 世界を燃やすといった憎悪も彼方であったが、それも直ぐ再燃する。

「けどまだ手段はある。目の前に、もう一つの命が」

 蝶野が命と表現したのは、カズキが持つサンライトハートであった。
 カズキの心臓の代わりとなり、生かし続けるジュエルシード。
 蝶野の調査からは決して起こりえない奇跡を生む、特別なそれ。

「さあ、来い。お前を喰ってジュエルシードを手に入れ、この世界を燃やし尽くしてやる!」
「どれもこれもさせるか。お前を倒して食い止める!」

 互いに声にならない雄叫びを上げながら踏み込んでいた。
 先手はリーチに優れる突撃槍を持ったカズキであり、重いそれを片腕で支え突き放った。
 鋭利な先端を受け止めたのは、蝶野の左手より生まれた魔法障壁である。
 黒色の魔力光によって編まれた方円の魔法陣、それが完全に一撃を受け止めた。
 そのままサンライトハートの切っ先をいなして、蝶野が左手を伸ばす。
 人を簡単に喰らう口をその手の中に開かせながらだ。
 対してカズキも間髪いれず、左手に握ったレヴァンティンを振るった。
 刃で蝶野の右手を正面から受け止めた瞬間、目の前にひらひらと蝶がまっていた。
 蝶野の魔力光と同じ漆黒の蝶。
 何故そんなものがと考える暇もなかった。
 小さく火花が跳んだ瞬間、漆黒が業火の赤へと変わり炸裂して燃え上がったのだ。
 不完全体でありながら魔力を操る蝶野の魔法であった。
 だが気付いた時には既に遅く、爆破の暴風と炎に焼かれながらカズキは吹き飛ばされていた。
 むき出しの地面の上を二転、三転転がされる。
 奥の壁際にまで再び吹き飛ばされていったカズキへと、蝶野が迫った。
 レヴァンティンを地面に突き刺し、壁に激突する事だけは避ける事ができた。
 しかし密閉された蔵という空間で爆破の魔法は凶悪過ぎる。
 窮地を脱する為にも脅えるな立ち止まるなと自分を叱咤し、息を付く間もないカズキに代わりサンライトハートが呟いた。

「Sonnenlicht slasher」

 むしろ前にしか進めないように、飾り尾を腕に巻き、そのまま爆発させる。
 エネルギーの閃光が蔵の中を照らし出し、引っ張られるようにカズキが飛び出した。
 無駄だとばかりに、蝶野が魔法障壁を張って力の差を見せ付けようと迎えうつ。
 障壁と刃、文字通り盾と矛がぶつかり合い、どちらが最強かを求め合った。
 魔力の火花が散り、盾にひびが入るも善戦はそこまで。
 カズキの必殺の突撃を、蝶野の魔法障壁が完全に受け止めてしまっていた。
 これがただの人間と超人の差だと、蝶野が笑みを浮かび上げるもカズキはまだ諦めていなかった。

「カートリッジロード!」
「Explosion」
「なにッ!?」

 柄の先端についていた機具がスライド、薬莢を吐き出した。
 カズキの魔力を消費し、飾り尾からエネルギーの光が消えそうだった所に火が灯る。
 一度は沈んでもまた太陽が昇るように、飾り尾が光へと変わっていく。

「うおおおおおッ、貫けェ!」

 カートリッジより魔力を最充填させ、ついにカズキの一撃が蝶野の障壁を貫いた。
 咄嗟に身をひるがえした蝶野の胸を、薄くサンライトハートの刃が裂いていく。
 そのまま互いにすれ違っていこうとする。
 だがその傷は強靭な肉体を持つホムンクルス相手にはあまりにも浅い。
 この程度、そう言いたげな蝶野の笑みは今度こそ凍りついた。

「Explosion」

 再度の魔力充填の声は、サンライトハートのものではない。
 カズキの左手に握られたレヴァンティンが、鍔の根元から薬莢を吐き出したのだ。
 普段は炎を纏う刀身にエネルギーの光を纏い、蝶野の首を狙い振るわれた。
 両手剣であるレヴァンティンに対しカズキは片腕、しかも逆効き。
 それでもその斬撃は、鋭く早かった。

「ぐぅッ!」

 素早く腕を掲げ、何とか防ぐも蝶野の右腕が肘より切断されてしまう。
 カズキは飾り尾を腕に巻き、サンライトハートの突撃に引っ張られていたのだ。
 壊れた入り口から蔵を飛び出し、狭い空間の脱出までもを成功させる。
 だが終いには地面の上さえ引っ張られていた。
 騎士甲冑に守られながらも、あちこちを擦りむき続け、やがて止まった。
 慌てて立ち上がり振り返った瞬間、蔵の屋根が爆破の炎によって吹き飛んだ。

「武藤ォッ!」

 吹き飛んだ屋根から飛び出したのは、蝶野であた。
 背中より蝶々の羽を模った魔力の羽を背負い、高らかに空を舞い上がって強襲してくる。
 その両手より生み出した黒色の蝶が、蝶野に先んじてカズキに襲いかかった。

「蝶野ォッ!」

 柄の根元を握り、柄の中腹を腰で支え一閃。
 黒色の蝶を斬り捨て爆破の熱と煙に巻き込まれながらも、次にレヴァンティンを振るう。
 二羽目を斬り捨てられたのは殆ど幸運であったが、爆破の直撃は避けられた。
 煙に巻かれ視界が悪い中、蝶野は何処だと上を見上げる。
 その時、サンライトハートの刃の根元を何か強い力に押さえつけられた感触を受けた。
 ハッとして正面へと視線を下ろす。
 眼前に蝶々のマスクを付けた蝶野がいた。
 ドブ川の腐ったような色の瞳を細め、頬の深くまで切れ込みが入った口をニヤリと歪める。

「レヴァン」

 慌てて振るったレヴァンティンも、懐に入られた今はあまりにも無力である。
 サンライトハートと同じく刃の根元を掴まれ、完全に武器を封じられた。
 これが人間相手なら完全な膠着状態だが、蝶野は超人、ホムンクルスであった。
 顎が外れる程に大きく口を開き、カズキの首を丸飲みにしようと喰いかかってきた。
 両手の武器を封じられ、同じく身動きを封じられたカズキにとれる行動は多くはない。
 致命傷を避けようと首を振り、蝶野の顎は真っ直ぐその肩に落ちた。

「ぐああああああッ!」

 牙が肉に食い込むのみならず、そのまま喰い千切られそうな程に力を込められる。
 頭こそさけられたものの、このままでは致命傷は確実。

「Explosion」
「Explosion」

 カズキの悲鳴にあわせ、サンライトハートとレヴァンティンが同時にカートリッジをロードした。
 飾り尾がエネルギーと化して弾け、レヴァンティンの刀身も光り輝く。
 限界を知らないように、二つのデバイスは魔力を集束させ続けていった。
 そして当然の如くあるはずの限界を向かえ、カズキもろとも盛大に弾け飛んだ。
 苦しみ叫ぶカズキと肩に喰らいつく蝶野の丁度中間地点で。
 蝶野の爆破の魔法に劣らない大爆発を見せ、無理やり二人は引き剥がされていった。
 二人共に、爆煙の中を無様に転がされていく。

「はぁ……はぁ、ごふっ。ふふ、ははは」

 転がる体を止めて、先に立ち上がったのは蝶野であった。
 その顔に笑みさえ浮かべ、自然とこみ上げる笑い声に身を委ね始める。

「聞こえるか、武藤。俺は生きている。醜い芋虫だった蝶野攻爵はもういない。生まれ変わった肉体、新たに得た膨大な魔力。それを思うがままに解き放つ爽快感。今は病魔に蝕まれる感触でさえ、新鮮に感じるぞ!」

 爆煙の中、口に滴るカズキの血を舌ずり舐めながら蝶野は高らかに叫んだ。
 生まれてこのかた、これ程の高揚感を蝶野は得た事がなかった。
 文字通り、全ては敷かれたレールの上を走るだけだったのだ。
 蝶野の家を継ぐ為に、その為の道具として生き、不良品と分かれば蔵の奥に仕舞い込まれた。
 だが今は自分が求めた、自分だけの目的の為に邁進している。
 世界を燃やすという目標の為に、障害となり得るカズキを倒す。
 これが生きがいというものならば、障害たるカズキでさえ愛おしく思える気がした。

「やはり俺は生まれ変わった。超人パピヨンはここにいる!」

 そんな蝶野の心からの叫びを、カズキは地面に倒れこみながら聞いていた。
 元から疲労と怪我がたまっていた所への致命傷の数々。
 血は止まる気配もなく流れ続け、何時意識を失ってもおかしくはない状態であった。
 だが蝶野の生まれ変わったと言う言葉が、超人という言葉がその意識を繋ぎとめた。

「違う、超人なんか何処にもいない」

 レヴァンティンを地面に突き立て、体を起こし膝を立てた。
 そこからさらにサンライトハートも杖にして、よろめきながらも立ち上がる。

「蝶野、お前は人間だ。俺と同じ、人間だ!」
「はっ、何を今さら。人間、蝶野攻爵は死んだ!」

 まだまだ爆煙が周囲を覆う中、蝶野はカズキの声がした方へと黒色の蝶々を放つ。
 その様はあてずっぽうに他ならず、誕生パーティを続けようとはしゃぐ子供の様でもあった。
 直撃こそなかったが、次々に黒色の蝶が着弾。
 炎と熱風を撒き散らし、誕生パーティに炎の華を咲かせようとしていた。

「サンライトハート」
「Ja」
「レヴァンティン」
「Ja」

 押し寄せる炎と熱風からカズキを守っていたのは、騎士甲冑であった。
 だがカズキそのものを支えていたのは、この二本のデバイス達である。

「これで最後だ、頼む力を貸してくれ……蝶野を、人間である蝶野攻爵を殺す」

 カズキの覚悟した言葉を聞き、黙って二つのデバイスはコアを光らせた。

「Explosion」
「Explosion」

 サンライトハートとレヴァンティンが、ありったけのカートリッジをロードし始める。
 カズキの最後の一撃に華を添えるように、余力一つ残させないように。
 一つ、また一つとカートリッジは消費されて、薬莢が吐き出されていく。
 その音は、わずかながらにも蝶野の耳にも届いていた。
 蝶野の魔法知識はミッドチルダ寄りだが、知識としてベルカ式の特徴ぐらいは知っている。
 先程、身をもって知った事もあった。
 はしゃぎ、カズキの血だけではなく己の吐血も混じり汚れた口元を締めて警戒する。
 少々間抜けにも、自分で長引かせた爆煙を、鬱陶しげに見つめながら。

「蝶野、これで正真正銘最後だ!」

 エネルギーの光がまるで質量を持つように、爆煙を無理やり押し流していった。
 カズキ自身がその居場所を誇示したようでもあり、蝶野がそちらへと振り返る。

「なに?」

 そして目の当たりにした光景に、開いた口が塞がらなかった。

「Bogenform」

 カズキの左手にあったレヴァンティンが、柄頭にて鞘と同化。
 太陽に似た色の魔力光に包まれ、完全にその姿を変えた。
 真っ白な翼を広げたような弓の形へと。
 それはカズキが一度だけその目にした事があるレヴァンティンの最終形態であった。
 シグナムの奥の手、それこそそこまで力を借りるとばかりに。
 だが少しだけシグナムの奥の手と異なる事があった。
 魔力で弦を生み出す事までは同じであったが、違ったのは放つ為の矢。
 シグナムはこれを魔力で生み出したが、カズキはサンライトハートを番えたのだ。
 矢の代用になるはずもない、巨大な突撃槍であるそれを。

「馬鹿な、そんなものがまともに……ふっ、お前がまともな手で来るはずもないか」

 嘲笑し、馬鹿にしようとした口を蝶野自身が止めた。
 会うこと数回、会話する事も数回だが、蝶野もカズキの馬鹿さ加減は知っている。
 痛いのも怖いのも嫌いと言いながら、生身でホムンクルスと戦う愚かさ。
 耳障りの良い綺麗な言葉ばかりを吐くくせに、その実自身は酷くボロボロであった。
 馬鹿だがその行動には何時も嘘がない。

「来い、武藤。超人と人間の絶対的な差を見せ付けてやる!」
「行くぞ、蝶野!」

 あまりの重量に腕を震わせながら、カズキが弦を引き絞り始めた。
 蝶野に狙いを定めながら、目一杯腕を広げて放った時の為の力を溜める。
 足元には三角形を基調としたサンライトイエローの魔法陣が浮かび上がった。
 力を溜めるカズキの後押しをするように、バチバチと弾け始める。
 一方の蝶野も、全てを受け止める覚悟で、魔力障壁を前面に展開していた。

「駆けろ、隼!」
「Sonnenlicht」
「Falken」

 カズキの命を受け、サンライトハートとレヴァンティンがそれぞれ呟く。
 そしてついにカズキの手から光り輝く黄金の隼が、蝶野目掛けて飛び立った。
 蝶野を捉え貫けばカズキの勝ち、受け止めるかいなすかすれば蝶野の勝ち。
 特に受けて側の蝶野が目を見開き、気合を入れて黄金の隼を見据える。
 だがこの時、予想外の事が起きた。
 いや、ある意味でそれは当然の事か。
 矢としては重量があり過ぎるサンライトハートが、急遽下方へと軌道を変えたのだ。
 重すぎる頭のせいであり、その切っ先が地面に触れてしまう。
 地面にそのまま突き刺さり終わりかと思いきや、飾り尾が光を放ち爆発した。
 突き刺さるかと思われた地面を抉り、下がるばかりだった切っ先を持ち上げる。
 矢としてはより強力に回転しながら周囲の物を巻き込み、さならが竜巻の様に蝶野へと襲いかかった。
 虚を突かれ怯むかと思いきや、蝶野は飛来物全てを障壁で受け止めていた。
 だが真正面から受け止めたのは何も蝶野の意志ではなかった。
 サンライトハートの刃に弾かれた土くれや石は、思いのほか強かに障壁へと打ちつけられていたのだ。

「ちっ、完全に足を止められた」

 下手にいなそうとすれば、さすがの蝶野も無事ではすまない。
 まさかこれを狙っての事かと、足を止めた蝶野の前に金色の隼がついに姿を現した。
 空から獲物を強襲するように、回転する刃が爪の如く襲いかかった。

「俺は人間と言う殻を打ち破り、超人へと生まれ変わったんだ。人間如きの、魔法で!」

 眩いばかりの金色の隼を前に、一瞬蝶野は影がかかった気がした。

「蝶野、お前は人間だァッ!」

 いやそれは気のせいなどではなく、カズキの影が金色の隼に掛かっていたのだ。
 一体どこにそんな力が残っていたのか、レヴァンティンを両手で握り締め掲げていた。
 だがその位置はあまりにも蝶野から遠い。
 一歩も二歩も遠く、斬撃が届くはずもないがすぐさま蝶野は気付いた。
 既に振りかぶられた一撃は、蝶野を狙ってのものではなかった。

「Explosion」

 最後の一発、レヴァンティンの刀身を光り輝かせ、カズキがそれを振り下ろす。
 黄金の隼にもっと早くと鞭を入れるが如く、柄頭を思い切り叩き斬ったのだ。
 ハンマーで楔を叩くようにして、サンライトハートが蝶野の魔法障壁を貫いた。
 中心に大きなひびがはいれば、後は自然と瓦解するだけ。
 腹の中心を貫かれ、そのまま蝶野は金色の隼に吹き飛ばされていく。
 踏ん張ろうと足に力をいれても地面を抉るばかり、ついには勢いに飲まれ叩きつけられた。
 長年自分が閉じ込められた蔵の壁へと、腹にサンライトハートが刺さったままの張り付けの状態で。
 その蝶野の喉元へと、カズキがレヴァンティンの切っ先を突きつけた

「はあ、はあ……」
「はあ、はあ……」

 お互い、息も切れ切れで直ぐには言葉が口をついて出ては来なかった。
 ただ無言の間にも、勝負の決着がどうついたかだけは理解しあっていた。

「馬鹿な、不完全とは言え超人の俺が……ただの人間の貴様などに」
「お前もただの人間だからだ。人間だから、今までお前よりも戦い続けた分、強くなれたんだ。お前は人間だ、蝶野」

 蝶野にとって短い生涯を掛けて目指した超人を否定され、屈辱以外の何ものでもないだろう。
 だがカズキにとっては、その人間であるという事が何よりも大切であった。
 迷惑な押し付け、カズキの傲慢かもしれないが、大切な事なのだ。
 化け物を倒したとしても、めでたしめでたしで周りの人は忘れていってしまう。
 人間だけが、誰かに悲しまれ惜しまれ、その誰かの心で生き続けられる。

「ふん、で強くなったお前は俺をどうする? 人間だと言いながら殺すのか、人を喰うから。受け入れられない、その一言で」

 それはカズキが心の中に持つ矛盾点であった。
 本気で蝶野を人間だと思うのなら、そもそも殺す必要がない。
 ホムンクルスだから、人喰いだから殺す必要があるのであって、人間なら必要なかった。
 蝶野の言う通り、カズキはお前は人間だと認めながら死ねと否定している。

「お前は……もう、戻れないのか? 人喰いは止められないのか?」
「ああ、元にも戻れないし、人喰いも止められない。だから俺は言う、俺は超人だと。それを聞いて、お前はどうする?」

 一体追い詰めたのがどちらか分からなくなる光景であった。
 蝶野は余裕を見せて問答を行い、剣を突きつけているカズキが躊躇を見せていた。
 蝶野を人間だと断ずる以上、殺す理由はなくなってしまう。
 それでもカズキが蝶野を殺す行為は、殺人という大罪でもあった。
 シグナムが一番心配したのはそこ、殺人と言う罪悪感にカズキが取り殺される事である。

「すまない、蝶野攻爵」

 だがカズキは決めた。
 もう元に戻れない以上、蝶野攻爵を人間で終わらせるには人間と認識する誰かが殺さなければならない。
 蝶野攻爵という人間を、武藤カズキという人間が殺す。
 罪悪という名前であっても、ずっと覚えているという意味を込め呟いた。

「謝るなよ偽善者」

 それに対する蝶野の返答もまた、変わらなかった。
 超人か人間かではなく、それはお前の自己満足に過ぎないと。
 死んだ後の事など関係ないという言葉を、最後まで肯定していた。
 その死に際の表情は、笑顔では決してない蝶野らしい笑みである。
 そしてレヴァンティンより放たれた閃光の中に、蝶野攻爵という人間は消え去った。









-後書き-
ども、えなりんです。

カズキの奥の手がNEW。
ただし、現状ではレヴァンティンが必要だけどね。
さらに矢も作れないからサンライトハートで代用、ただし飛ばないw
イメージ的には、十本刀の張の我流大蛇かな?
あのでっかい突撃槍が、地面を滅茶苦茶に食い破りながら襲い掛かる。
一見何処へ飛ぶか分からないから戸惑う上に、その一瞬が命取りな感じ。

空を飛んでいる時には使えない等、まだまだ欠点まるけです。
ちなみに蛙井ごときにシグナムに奥の手を使わせたのはこの為。

それでは次回は水曜です。


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