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No.31086の一覧
[0] 【完結】リリカル錬金(なのは×武装錬金)[えなりん](2012/05/26 20:06)
[1] 第二話 痛いわ怖いわで最悪の夢[えなりん](2012/03/07 20:55)
[2] 第三話 お前は妹の傍にいてやれ[えなりん](2012/01/16 23:41)
[3] 第四話 俺も一緒に守る[えなりん](2012/01/16 23:40)
[4] 第五話 これが俺の騎士甲冑だ[えなりん](2012/01/21 19:29)
[5] 第六話 私が戦う意味って、あるのかな……[えなりん](2012/01/21 19:21)
[6] 第七話 何故ここにいる[えなりん](2012/01/25 20:18)
[7] 第八話 会った事が、ない?[えなりん](2012/01/28 19:45)
[8] 第九話 私を助けれくれた貴方がどうして[えなりん](2012/02/01 20:01)
[9] 第十話 お願い、間に合って![えなりん](2012/02/04 20:01)
[10] 第十一話 お前はまた少し強くなった[えなりん](2012/02/08 20:09)
[11] 第十二話 私はこんな事を望んでない![えなりん](2012/02/11 19:40)
[12] 第十三話 一番嫌いな性格だ[えなりん](2012/02/15 19:47)
[13] 第十四話 私だって魔導師です[えなりん](2012/02/18 19:52)
[14] 第十五話 これが人間の味か[えなりん](2012/02/22 19:35)
[15] 第十六話 謝るなよ偽善者[えなりん](2012/02/25 20:16)
[16] 第十七話 頑張ったんだ、でも偽善者なのかな[えなりん](2012/02/29 21:07)
[17] 第十八話 私達の本当の戦いは、まだ始まったばかりだ[えなりん](2012/03/03 20:42)
[18] 第十九話 何時か私を殺しに来て[えなりん](2012/03/07 20:54)
[19] 第二十話 俺の心が羽ばたけない[えなりん](2012/03/10 20:07)
[20] 第二十一話 それで本当にあの子は笑えるのか[えなりん](2012/03/14 20:45)
[21] 第二十二話 もう誰も、泣かせたりなんかしない[えなりん](2012/03/17 23:26)
[22] 第二十三話 私達は本当に正しいのか[えなりん](2012/03/21 21:16)
[23] 第二十四話 守りたいものが同じなら[えなりん](2012/03/24 19:42)
[24] 第二十五話 君は誰だ?[えなりん](2012/03/28 21:27)
[25] 第二十六話 ロストロギアに関わる者は全て殺す[えなりん](2012/03/31 19:47)
[26] 第二十七話 お前がお前である事をやめないでくれ[えなりん](2012/04/04 22:59)
[27] 第二十八話 そうか、これが敗北……ひさしぶりに味わった苦い味だ[えなりん](2012/04/07 22:16)
[28] 第二十九話 もう元の人間には戻れない[えなりん](2012/04/11 20:30)
[29] 第三十話 感謝して敬え[えなりん](2012/04/14 19:48)
[30] 第三十一話 そこで僕はジュエルシードを手に入れた[えなりん](2012/04/18 23:38)
[31] 第三十二話 二度と追う気を起こさないようにする[えなりん](2012/04/21 19:51)
[32] 第三十三話 簡単に死ぬなんて言わないで[えなりん](2012/04/25 21:48)
[33] 第三十四話 俺はブラボーに戦って、勝つ![えなりん](2012/04/28 20:07)
[34] 第三十五話 ヴィクターを殺す前の軽い運動だ[えなりん](2012/05/02 22:00)
[35] 第三十六話 例えどんな結果が待ち受けていても[えなりん](2012/05/05 20:17)
[36] 第三十七話 ロストロギアがそんな簡単に、皆を幸せにすると思う?[えなりん](2012/05/09 22:28)
[37] 第三十八話 俺が皆を守るから[えなりん](2012/05/12 19:54)
[38] 第三十九話 本当に、ゴメン[えなりん](2012/05/16 21:59)
[39] 第四十話 何故、私はここでこうして生きている?[えなりん](2012/05/19 19:40)
[40] 第四十一話 絶望が希望にかなうはずなどないのだ[えなりん](2012/05/23 21:16)
[41] 第四十二話 シグナムさんの為なら何時でも俺は戦うよ[えなりん](2012/05/26 20:06)
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[31086] 第十三話 一番嫌いな性格だ
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/15 19:47

第十三話 一番嫌いな性格だ

 人里離れた深い森の中は、夕方に差しかかり辺り深い緑に赤焼けを映し出している。
 その森の中で息づくのは三人と二体。
 ホムンクルスの創造主である次朗を除いて、誰も彼もが死闘を繰り広げていた。
 腕と翼だけをホムンクルス化した鷲尾に対し、シグナムが愛刀を閃かせる。
 シグナムの魔力変換資質により炎を纏って、高熱を発する刃であった。
 これがただの鉄板程度ならば、斬り溶かし容易く切断に至った事であろう。

「いかな速い刃でも、刃筋が立たない限り斬り裂くは不可能。そして、切断面という切欠がなければ刃の熱も無意味」

 だが鷲尾の翼が風を読み、正確にシグナムの剣筋を見切らせていた。
 言葉通りレヴァンティンの刃は無効化され、炎による熱もさほど効果を上げていなかった。
 あくまで熱は、刃で裂いた後からその部位を融解させるのが目的。
 問答無用で溶かせるならば、最初から刃は不要であるし、そもそも所有者であるシグナムが持たない。

「良い眼を持っている。私の一挙一動、全て見透かされているようだ。その翼のおかげか?」
「眼の良さはお互い様。いや、培われた経験による洞察力か。私の翼は風を読む。この翼ある限り、私の見切りは絶対だ」

 レヴァンティンと鋭利な爪で鍔迫り合いを行いながら互いに称えあう。
 それは実力に対してもそうだが、お互いに通じ合う既視感であった。
 シグナムは主であるはやて、鷲尾は創造主である次朗。
 それぞれの敬う人物への忠誠心は改めて問う必要など無いぐらい、伝わってくる。
 だがシグナムには、どうしても納得できない事があった。

「何故それ程の腕を持ちながら、あのような者に付き従う。単に創造主だから、というわけでもあるまい?」

 向こうの狙いは各個撃破。
 全部が全部、部下に任せずこの場にキーマンとして現れた所は評価できる。
 そもそも創造主なくしては、念話妨害もできず作戦が成り立たなかった事だろう。
 だがシグナムはあのドブ川の腐ったような瞳だけは信用がならなかった。
 鷲尾の忠誠心を理解し、報いてくれるような度量があるのか。

「創造主は、私の命の恩人だ。この体を得る以前、私は野生の大鷲だった。最大の猛禽にして空の王者、その中でも最強の一羽。だが、誤射か密猟か私は撃たれ墜ちた」

 それ以後、鷲尾本人も細部の記憶は定かではない。
 だが次に鷲尾がその意識を取り戻した時は、今の姿であった。
 姿形こそ変われど、空の王者であった記憶と誇りはそのままに理解した。

「創造主は私の命の恩人。一度死んだ私に、新しい命と力を下さった。今その方の命がかかっているのだ。邪魔立ては許さん!」
「成る程な、命の恩人。己の命を掛けるには十分な理由だ」

 以前までの自分ならば、それも一つの忠誠かと褒め称えた事だろう。
 武人として己の恩人の為にその武を振るう、誇り高い人物だと。
 例え相手がどのような人物だとしても、忠義の二文字の前には関係ないとばかりに。

「だが貴様は決して、その身を案じられていたわけではなかろう。創造主にとって、仮に撃たれたのが別の大鷲でも同じ事をしただろう。貴様は創造主の道具に過ぎん」
「くだらん!」

 鷲尾が腕力で無理やりレヴァンティンを、シグナムの体ごと弾き飛ばした。
 さらに追撃の一手を加えるも、地面に足をめり込ませながらシグナムが受け止める。
 くだらなくないと、道具かそうではないか。
 どちらに受け取るかで、主の度量が決まってくるとばかりに。

「私達の主は違う。道具であったはずの我々を、一個人として受け入れてくれた。莫大な力に惑わされず、望んだのは小さな平穏。それを乱す貴様達を私は許さない!」
「平穏だと、ならばお前の手にする爪や形なき翼はどうする。戦う為に生まれた者が戦いを奪われ、本当にそれがお前達の望みか。貴様の主も程度が知れる!」
「与えられたのだ、異なる生き方を。全く違う生き方を。それに奪われたわけでもない。その証拠に、今私は爪を繰り出し、翼を広げている。主を守る為に!」

 時に舌戦も加えながら、シグナムと鷲尾が互角に斬り結びあう。
 その殺陣のような動きは激しく、暴風の中に刃が幾重にも閃くようでもあった。
 全くの互角に見える斬り結びだが、お互いに懸念事項をその胸に抱えていた。
 鷲尾は刻一刻と迫る創造主の限界、念話疎外の結界について懸念している。
 そしてシグナムは、カズキと薔薇のホムンクルスの戦いが気がかりであったのだ。
 こちらも一見互角に見えながら、ややカズキに不利に傾いていた。

「くっ、この!」
「ふふ、最初の威勢の良さはどこへいったのかしら」

 迫る茨の蔓の群れをカズキが大雑把に切り払い、叩き落とす。
 カズキの獲物は身の丈に及ぶ巨大な突撃槍であり、一撃一撃が大振りになりやすい。
 対して薔薇型のホムンクルスは、意志一つで変幻自在の茨の蔓である。
 小回りが効く上に、手数も多くカズキを翻弄して焦らせていた。
 しかし理由は獲物の相性だけではなかった。
 嵐の様に被害を撒き散らしながら斬り結ぶ、シグナム達である。

「カズキ、何を梃子摺っている。少々厄介なのは認めるが、これまでのホムンクルスと変わらない強さのはずだ」

 そんなカズキの様子にシグナムが気付いたらしい。
 鷲尾から一旦離れて距離を取り、ぴったりつけた背中越しに尋ねてくる。

「見たところ、一度もまともに魔法を使った様子がないぞ。相手の手数が多いのなら、強力な一撃で黙らせろ。元々、お前に小器用な戦いはまだ無理だ」
「それは分かってるけど……」

 やや口ごもりながら、そんな余裕があるわけでもないとカズキが本音を口にした。

「シグナムさん達があちこち移動しながら戦うから、迂闊に突っ込むと危ないんだ」
「それは済まんな。鷲尾とやらを相手に、そこまで気遣えん」

 これまでカズキは複数人数相手の戦闘を経験した事がなかった。
 一対一から一対複数で、常に味方が多い状態。
 シグナムもそれに気づいていて、場所はおろか相手も入り乱れる戦闘を避けるように心がけていたのだ。
 その結果、鷲尾をカズキに近づけさせないように、先回りして動き回るしかない。
 だがその動き回るシグナムを気遣い、手札を塞がれた状態での健闘はまぎれもなくカズキの実力でもあった。

「ぜぇ……ぐ、ほっ。鷲尾、花房。もうこれ以上は待てん、急げ時間がない」
「創造主、もう少々の辛抱です。必ずや、奴を仕留めてみせます」
「あの女はまだしも、坊やの方はまだ未熟。先に私が仕留めますわ」

 小休憩はお互いに終わり。
 第二ラウンドを開始と言う所で、シグナムがとある博打に出る事を決めた。
 誰よりも早く飛び出し、鷲尾を下から上へと斬り上げる斬撃で持ち上げたのだ。
 もちろん見切りにより斬撃そのものは無効化されたが、初手の目的は達している。

「レヴァンティン!」
「Explosion. Schlangeform」

 カートリッジから魔力を補充し、レヴァンティンの形態を変えさせた。
 鷲尾の体に連結刃を絡みつかせて、力の限り引っ張る。
 次いで空へと飛び上がり、自分達がココへ連れて来られたように鷲を空へと連れて行く。

「カズキ、私は空でこいつと決着をつける。お前は地上で心置きなく戦え!」
「私と空で、笑わせてくれる!」

 絡み付く連結刃のワイヤーを振り払い、すかさず鷲尾が自由を取り戻して怒りに燃える。

「シグナムさん、でも空は奴の領域だって!」
「騎士見習いが正当なるベルカの騎士である私を案ずるなど、十年早い。そう思うならば、お前はお前の戦いに勝て。自分でなんとかしてみせろ!」

 そう叱咤され、カズキは改めてサンライトハートを握り締めた。
 自分の不甲斐なさを後悔するのは後。
 シグナムが言った通り、今は目の前の戦いに自分の力で勝つ事だ。
 本当にシグナムが心配なら、さっさと勝って、それから手伝いに向かえば良い。

「サンライトハート、エネルギー全開!」
「Explosion」

 戦い始めて三十分以上は経つだろうか。
 この日初めてカズキはカートリッジを使用し、柄の先端の機具から薬莢を排出させた。
 足元には太陽光に似た色の魔法陣が浮かび、飾り尾がエネルギーと化して弾けとぶ。

「こいつ、先程までと違う。創造主、私の影へ隠れてください!」
「いくぞ、花房!」
「Sonnenlicht slasher」

 花房が創造主をその背に庇いながら、カズキへと向けて鋭い先端を持つ蔓をくり出してくる。
 十数の茨の蔓が己へと殺到する中でも、カズキは引かなかった。
 むしろあえて自分からその茨の群れに突っ込むように、駆け出した。
 サンライトハートの飾り尾である赤い布が光を伴って爆ぜ、カズキの背を爆風で押し出す。
 一歩目からトップスピードへと加速され、風となった茨の群れを斬り裂いていく。
 だがそれも全てではなかった。
 カズキの中心から反れていた数本の茨の蔓は切り裂かれず、掠めるようにカズキの体を傷つけていた。
 それでも真っ直ぐ前へ。

「くっ、茨の網」

 このままでは創造主ごとと危惧し、花房が初めて防御に回った。
 茨の蔓を幾重にも交差させ、言葉通り網を生み出してカズキを受け止めようとする。
 さすがにサンライトハートの切っ先に触れれば斬れるが、突撃にはカズキ自身も突っ込まなければならない。
 刃が届くより先に茨の網の餌食だと、地面に思い切り足を着いてめり込ませながら止める。
 だがカズキもただでは引き下がらないと、絡め取られた刃を思い切り振り下ろした。
 茨の網を重さを利用した斬撃で引き裂き、今度は飾り尾を爆発させて爆風で上へと斬り裂いていった。

「いい気になるんじゃないわよ、坊や」

 跳び上がったは良いが、飛行魔法が使えないカズキはそこで手が止まってしまう。
 その隙を突いて花房の茨の蔓が、カズキの左肩を貫いた。
 茨を持つ蔓に貫かれ、その激痛たるや尋常のものではない。
 思わず叫び声を上げそうになる口を無理に閉じて、カズキはあえて茨の蔓を手で握った。

「うおおおおッ!」

 茨を滑り止めにして思い切り茨の蔓を引けば、どうなるか。
 地面にどっしりと構えた花房と、宙に浮いているカズキ。
 隙はあるが何からも縛られていないカズキの体が、再び花房へと肉薄する。
 残った右腕でしっかりと柄を握り締めて、大輪の薔薇に巨大な刃をめり込ませていった。

「よくも私の花弁に傷を、醜い餓鬼がぁッ!」
「サンライトハート、弾けろ!」
「Ja」
「なに!?」

 片手振りでは威力が足りない事ぐらいは、カズキも察していた。
 だからこその予備動作無しの追撃。
 刃に集束した光が暴発するように弾け飛び、薔薇の三分の一程度を吹き飛ばす。
 同時にカズキも吹き飛ばされ、爆発の余波で左肩を貫いていた蔓も焼け切れる。
 ダメージを受けながらも、不器用に近接状態からの離脱を果たしていた。
 爆風で飛ばされ、地面の上を二転三転しながら、なんとか立ち上がった。
 左肩は痛むが戦闘状態で高揚する精神状態では、然程苦にはならない。

「よし、やれる。俺も痛いけど、花房は俺以上に痛いはずだ」
「なんて無様で醜い戦い方だ。しかし、そんな糞餓鬼にしてやられた私自身がなお腹立たしい。創造主の前でこれ以上無様を晒すわけには」
「待て、花房」

 怒り心頭、激昂して茨の蔓を増産する花房を、その陰にいた創造主が止めた。
 その瞳は相変わらずの色ながら、信じられないような者を見るようにカズキを見つめている。

「お前、死ぬ事が怖くないのか?」

 カズキを指差し、尋ねてきた次朗の言葉は返答が一つしかない事であった。

「怖いに決まってるだろう。痛いのも、怖いのも嫌いだ」
「なら何故そこまでボロボロになって戦うんだ。この地には少なくとも、手錬の魔導師が複数人いる。お前でなくても、構わないはずだ」
「人喰いのホムンクルスがこの海鳴にいるのなら、俺に戦える力があるなら俺がやらなきゃいけないんだ!」
「創造主、こんな奴の戯言に耳を傾ける必要はありません。口ではなんと言おうと、最後には無様に命乞いをするはずです。創造主がお望みなら、ご覧にいれてみせます」

 それが一番聞きたくない言葉だったと、次朗の顔は歪んでいた。
 シグナムが戦う理由は、言葉の端々に主という言葉が出る事から明白である。
 創造主に取ってシグナムは自分の為に戦うホムンクルスとそう代わらない。
 小さな魔導師達が戦うのは、分別の無い子供が無垢な正義感をふりかざすだけとも理解できた。
 だが分別のある高校生のカズキが、躊躇無く命のやり取りの場に現れる事が理解できない。
 その理由をカズキ自身から聞いても、聞いたからこそ尚更だ。
 創造主はただの邪魔者ではなく、相容れない相手としてカズキを睨みつけている。
 そして花房の言葉を聞き、見せてみろと言おうとした時、反射的に口元を押さえた。
 だがそれでも抑え切れないものが喉の奥よりこみ上げ、口から手の隙間からあふれ吹き出す。
 大量の血が飛沫にまでなり、次朗の口より飛散した。

「「創造主!」」
「ごはっ、急げ花房、鷲尾。これ以上は、もう」

 カズキの素人目にも創造主の様子は、尋常ではないように見えた。
 元々肌は色白で病的ではあったが、ただの体調不良や風邪とは思えなかった。
 もっと深く重いなにかに犯されていると感じ、同時にふとした言葉が口をついて出た。

「お前、一体誰なんだ?」
「!?」

 カズキ自身、良く分からない問いかけであった。
 本当にふと心に浮かんだ疑問であったが、その次朗は明らかに眼を見開いていた。
 だから次々に浮かぶ疑問を矢次にぶつけていく。

「だっておかしいじゃないか。蝶野次朗は留学してるって、なのにお前は明らかに何かの病気っぽくて。普通は留学より療養が先だろ、蝶野次朗? いや違う、誰なんだ!?」

 そうカズキが改めて確信を持って尋ねると、次朗の血まみれの口元がニヤリと歪んだ。
 言葉を用いず、良く気付いたと、俺はここだと叫んでいるようでもあった。
 言ってしまえば、隠れんぼで最後まで見つからなかった子が見つけられ、ルールに反して喜ぶように。

「創造主、いけません!」

 すかさず花房が注意を促がすも、次朗ならぬ次朗の笑みは止められなかった。

「初めてだ……初めて、気付かれた。かつては透明で、風景の一部だった俺。今やそれすら許されず、透明である事すら禁じられた俺に、この男は気付いた!」
「やっぱり、次朗じゃないのか。それじゃあ、次朗の兄の……」
「そうだ、俺は次朗の兄の攻爵。蝶野攻爵だ。曾々爺ちゃんの爵の時を受け継いだ正当な蝶野の後継者。隠された錬金術の技術をも復活させた蝶天才!」
「でもなんで、弟の名を語って罪を擦り付けて……分からない。そこまでして一体何がしたいんだ!?」

 名を語られた弟が、どの様な汚名を着せられかけていたのか。
 超天才と嘯くぐらいなら、理解していた事だろう。
 だから、尚更カズキには分からなかった。
 もし仮に自分が過ちを犯しても、自分ならまひろにそれを被せるような事はしない。
 逆にまひろが何かをしでかし、自分が身代わりにという事はするかもしれないが。
 血の繋がった家族に罪を被せてまで、やり遂げなければならない事は何だというのか。

「決まっているだろう、生きたいんだ」

 カズキの苦悩に反し、攻爵と改めて名乗った創造主の答えはシンプルであった。

「お前が感じた通り、俺は不治の病と診断された。それ以降、俺は庭先の使われなくなった蔵の中に投獄された。蝶野を継ぐ者として失敗作だと烙印を押されてな」

 我知らず、カズキはその身を一歩後ろへと引いていた。
 攻爵が語る言葉は理解できても、その内容が全く理解できなかったからだ。
 当たり前のように両親から愛を受けて育ち、同じように愛をまひろに与えてきた。
 極々普通の、適当に石をなげれば当たるような何処にでもある家族だからこそ。
 蝶野家の人々の行動が、欠片も理解できる事はなかった。

「だが俺はその閉じ込められた蔵で、曾々爺ちゃんが残した二つの技術について知った。それが錬金術と魔法技術。だがこの二つの技術は相反するもの。どちらかを手に入れれば、どちらかを失う」
「ホムンクルスは、魔力を感じない……」
「だが、ジュエルシードがそれを可能にする。ホムンクルスと魔法、この二つを融合し俺は人を超えた人、超人になる!」

 違う、話に飲まれるなとカズキは必死になって首を振っていた。
 まるでフィクションのような攻爵の生い立ちや運命、家族からの仕打ち。
 どれもこれも理解しがたいものばかりだが、大切なのはそこではないと。
 攻爵が弟である次朗に罪を被せ、カズキやシグナムの注意をひきつけさせようとした事。
 大勢を犠牲にして、かつ犠牲を拡大させるような化け物に生まれ変わろうとしている事。

「生きたい。分かる、俺も一度死んだ身だから……蝶野の気持ちは分かる」
「一度死んだだと?」

 今度は攻爵が理解できないとばかりに、呟いていた。

「運良くジュエルシードの力で蘇っただけ。時々、その日の夜を夢に見て怖くて飛び起きる事もある。死に直面する怖さ。だけど、俺もお前も人間なんだ」
「ジュエルシード、まさかそこまでの力が。いや、俺の調査では。まさか奴のが特別なのか? 欲しい、新しい命……運良くだと、人の努力をあざ笑うように。ならその命を寄越せ!」

 カズキが語る言葉は、攻爵に欠片も届いてはいなかった。
 攻爵の瞳に映るのは、カズキが偶然得た新しい命のみ。
 あまりの興奮にさらに吐血し、よろけた体を花房の茨の蔓に支えられつつ手を伸ばす。
 それを寄越せと、状況を忘れて血と声を混じり合わせながら叫んだ。

「花房、鷲尾。コイツのジュエルシードを奪え、特別なそれを!」
「だから死んでもやっちゃいけない事と、死んでもやらなきゃいけない事があるんだ!」
「Explosion」

 お互いに言葉と意志がすれ違いながら、カズキと攻爵が叫びあった。
 そしてカズキの手にするサンライトハートが、ありったけのカートリッジを消費する。
 一発、二発、まだ三発、四発目と。
 その度にカズキの体には過剰とも言える魔力が補充されては変換し、エネルギーと化す。
 まるで燃える太陽のように、カズキの体がサンライトハートごと輝いた。

「鷲尾、聞いての通り。創造主が望むままに、坊やの命を貰い受けるよ」
「創造主の為に、新たなる命を!」
「させるか、レヴァンティン!」
「Explosion. Schlangeform」

 シグナムの目の前から、突如として鷲尾が急降下を始めた。
 狙いは地上の花房と上空からの鷲尾の急襲、同時攻撃によるカズキの撃破だろう。
 このままではカズキの死は絶対。
 すんなりとシグナムがソレを許すはずもなく、背を向けた鷲尾は隙だらけでもあった。
 レヴァンティンを連結刃へと変え、鷲尾を背中から斬りつけた。

「ぐぉ、だが……これしきの事!」

 片腕と片翼を砕かれ失いながらも、鷲尾は執念で勢いを失わなかった。
 上空よりの急襲で、既にあとは落下するのみであった事もある。

「カズキ!」

 仕留めそこない、逃げろという意味を込めてシグナムがその名を叫んで呼んだ。
 だがカズキは仮にその言葉が耳にはいったとしても、逃げるつもりはなかった。
 攻爵に死んでもやっちゃいけない事があると語ったように、自分に死んでもやらなくちゃいけない事があると言い聞かせていた。

「死ね、坊や!」
「簡単に人に死ねとか言うな!」
「Sonnenlicht clasher」

 叫んだ花房へと向けて光の帯となってカズキが飛び出していった。
 だがその瞬間、花房は掛かったと笑みを深めていた。
 カズキの目の前に、茨の網が今度は二重、三重にまで重ねられた状態で張られたのだ。
 これで一瞬でもカズキが動きを止めれば、上空からの鷲尾が仕留める。
 花房の笑みは、そんな目論見を持ったが故のものであった。
 そして狙い通り、一度飛び出しては方向転換ができないカズキが、茨の網へと突っ込んだ。
 茨の網を極限まで引っ張るも、後一押しが足りない。

「その命、創造主の為に貰った!」
「吹き飛ばせ、サンライトハート!」
「Explosion」

 上空から伸びた鷲尾の爪すら、カズキは見てはいなかった。
 確かに隙はできたがそれも刹那の間。
 さらにサンライトハートがカートリッジを消費して、最加速。
 茨の網を突破し、鷲尾の爪は空を切り、僅かにカズキの騎士甲冑を裂くのみに終わった。

「創造主、離れ。ぐぎゃぁッ!」

 そのまま花房の中心を穿ち、後方の木々までもをなぎ倒し突き進んだ。
 ようやく勢いが止まったのは十数本という木を斬り裂き破壊してからの事である。
 カズキは垂直に跳躍して飾り尾を爆発させ、さらに二段ジャンプを行った。
 目指したのはもう一匹のホムンクルスである鷲型の鷲尾。
 逆に上空より強襲し返すが、相手はシグナムも認めた野性の武人である。

「この私の上を行くとは見事だ。だが迂闊、そこは私の領域だ!」
「サンライトハート!」
「無駄だ、片翼と言えど私が風を読み違えるなど」
「Sonnenlicht flusher」

 カズキが真下に照らした閃光が、鷲尾の瞳を貫いていく。
 風読みを過信し過ぎたのが鷲尾の敗因でもあった。
 眼を焼かれ、本能的に庇おうと腕が意志に反して動いては風を読んでも無意味だ。
 慌てて腕を振り払おうとするも、カズキの方がほんの少しだけ早かった。

「うおおおおおッ!」

 体重と重力、そして腕力を加えた渾身の一撃。
 近付いて思い切り叩き斬れという当初のシグナムの指南を実戦した結果でもあった。
 見事に鷲尾のもう片方の腕をも斬り落とし、二体のホムンクルスを無力化させていた。
 だが連続でカートリッジを消費したカズキも、ただではすまなかったようだ。
 呼吸は乱れに乱れ、喉を通る空気がひゅうひゅうと鳴っている。

「カズキ、褒めてはやりたいが無茶をし過ぎだ。死にたいのか」
「死にたく、な」
「当たり前の事に返答をするな。ほら、しっかり立て」

 シグナムに支えてもらわなければ、まだ完全にホムンクルスを殺したわけでもないのに倒れこんでいた事だろう。
 乱れた息を飲み込み、渇いた喉は唾で潤し、カズキは攻爵を見た。
 今度こそ本当に信じられないものを見たとばかりに、カズキを見ている攻爵を。

「鷲尾、花房」
「創造主、ここは私に任せてお逃げください」
「創造主……申し訳ありません」
「そんな言葉が何になる。立って戦え、目的を果たせなければお前達はただの役立たずだ!」

 自らが半死の状態でも創造主たる攻爵の安否を気遣っても、返って来たのはそんな無情な言葉である。

「己の為に戦った戦士に対し……見下げ果てた奴だ」
「待ってシグナムさん」

 今ここで斬り捨ててやろうかと言いたげなシグナムを、カズキが止めた。

「蝶野、生きろ」
「なに!?」
「今まで犠牲にした人達にちゃんと償って、それから命が終わる最後まで生きろ!」
「くっ、まともに生きられないからこそ俺は……偽善者め。俺が一番嫌いな性格だ」

 カズキの何処までも真っ直ぐで綺麗過ぎる言葉を前に、攻爵は強く歯噛み睨んでいた。
 悔しげに呟いた通り、まともに生きられる命なら最初からそうしていると。
 もちろん、命が終わる最後まで生きるという点においてだけ。
 目の前に立ち言葉を交し合っても互いの胸には響かないでいた。
 むしろ、言葉を交わし合う程に憎しみが増すように睨み合い続ける。
 何時までも、そんな時間が続くかと思われたが、それは唐突に終わりを見せた。

「あ、あれ……」
「おい、カズキしっかりしろ!」

 ついに力尽きたように、カズキが膝から崩れ落ちてしまったのだ。
 支えていたシグナムも、突然の事で体を引っ張られ体制を崩してしまう。

「創造主をやらせはせん!」

 その隙をついて、鷲尾が二人に体当たりを仕掛けてきた。
 両腕と片翼を失い、残る翼一枚で勢いをつけ。
 玉砕覚悟のそれは思いのほかに効力を発揮し、カズキもろともシグナムまで吹き飛ばされた。

「花房、主をお連れしろ」
「待て、アジトが割れている以上逃げられると」

 カズキを心配しつつレヴァンティンを手にしたシグナムが、逃がしてなるものかと声を上げる。
 だが一度機を逃すと、それは何処までも響いてくるらしい。
 花房が茨の蔓を伸ばして攻爵を引き寄せ、地面の中へと潜ったその時、念話妨害が途切れた。
 だが今さら援軍も何もあったものではなかった。
 シグナムはもちろん追撃を選択していたが、念話は何もこちらからの一方通行ではない。

『シグナム、良かったやっと繋がった。はやてちゃんが、急いで戻って。はやてちゃんが倒れたの!』
『お前が手を組んだってテスタロッサって奴のせいで、もう二時間も三時間も意識がもどらねえ。お前、こんな時に何やってんだよ!』
『およその見当は付く、だができれば直ぐにでも戻って欲しい。頼む、シグナム』

 届いた念話は、主の危機を知らせる火急の知らせである。
 しかも喚く言葉から察するに、フェイトがはやてに近付き何かを仕出かしたらしい。
 一体何がどうなっていると考えてしまい、我に返った時には全てが遅かった。
 攻爵を連れた花房は地中へと消え、鷲尾も方翼ながら飛べたのか姿は見えない。

「くそ、後一歩の所で。いや、悔やんでいる暇は……カズキ、立てるか。すまないが、長居はできそうにもない」
「何かあったの? ごめん、少し立てそうにない」

 念話はあくまでヴィータ達がシグナムに向けたもので、カズキには届いていない。
 これをどう説明したものか、焦りからか中々言葉が見つからなかった。
 そこへ天の助けとでも言うべきか、なのはとユーノからも念話が入ってきた。

『シグナムさん、はやてちゃんが倒れたって。皆、シグナムさんに連絡が取れないって何かあったんですか!?』
『皆、病院に集まってます。できれば急いでください』

 それを聞いてカズキも顔色を変えたが、疲労困憊の体を覆すまでには至らなかった。
 むしろ、重傷者はここにもいた。

「シグナムさん、先に行ってて。俺は後から行くから、大丈夫。残念だったけど、蝶野達は退いたみたいだし」
「ええい、煩い。見習いが生意気にもベルカの騎士たる私に命令するな。ひよっこの一人ぐらい、なんとでもなる」

 本来ならばカズキを見捨ててでも、駆けつけるべきだったのだろう。
 だが何故か今のシグナムにはそれを選択する事はできなかった。
 以前カズキ達に語った己の一番がはやてである事には間違いない。
 カズキの容態よりも、はやての容態をより気にしているのも。
 それでもカズキを見捨てる選択肢は現れず、カズキに背を向けてしゃがみ込んだ。

「負ぶされ、カズキ。反論は聞かん。私は急いでいる」
「え、でも……それは、色々と問題が」

 気弱なカズキの反論は、もちろん黙殺された。
 そしてカズキは街中をシグナムに背負われながら強行軍する事になった。









-後書き-
ども、えなりんです。

あと一歩のところで水入り。
そして原作とは異なり、カズキが背負われる側にw
まあ、転移魔法もありまうし、商店街や駅までってのはないですが。

他に、蝶野の背景も原作と異なっています。
病気発覚後、蔵に監禁されました。
明らかな他殺を避ける為に、多少不自然でも病死するように。
んで、その地下で蝶野は色々とみつけた感じです。

それでは次回は土曜日です。


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