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No.31071の一覧
[0] ゲート ZERO(ゼロ魔16巻時点 × ゲート 自衛隊彼の地にて、斯く戦えり)[フェイリーン](2012/01/07 14:08)
[1] ゲート ZERO 2話[フェイリーン](2012/01/07 17:23)
[2] ゲート ZERO 3話[フェイリーン](2012/01/11 07:21)
[3] ゲート ZERO 4話[フェイリーン](2012/01/16 00:33)
[4] ゲート ZERO 5話[フェイリーン](2012/01/27 23:15)
[5] ゲート ZERO 6話[フェイリーン](2012/06/09 19:10)
[6] ゲート ZERO 7話[フェイリーン](2012/05/29 00:39)
[7] ゲート ZERO 8話[フェイリーン](2012/06/11 21:48)
[8] ゲート ZERO 9話[フェイリーン](2012/07/01 20:20)
[9] ゲート ZERO 10話[フェイリーン](2012/08/15 15:36)
[10] ゲート ZERO 11話[フェイリーン](2012/10/28 22:50)
[11] ゲート ZERO 12話[フェイリーン](2012/12/10 22:44)
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[31071] ゲート ZERO 12話
Name: フェイリーン◆2a205fc8 ID:fd7d0262 前を表示する
Date: 2012/12/10 22:44
12 人生色々、国も色々、贈り物も色々(中)

 ロジェによる応対は、当初キュルケより棘と皮肉の混じった言葉を向けられたものおおむね良好な雰囲気で終わった。これはロジェの気取った、しかしウィットのある芝居めいた言い回しや態度がトリステイン側の貴族達より好意的に受けとられた、言い換えると互いの感性と波長があった、ことが大きい。
もっともそれらのやりとりは一般的な感覚の日本人が見れば

「お前ら、芝居でもやってんのか」

と突っ込みをいれたくなるであろうこと間違いなしの程、気障かつ大仰な言い回し満載のものだったが、当人達が納得し合っているのだからまったく問題無い。
(ちなみに才人は一般的なハルケギニアの貴族が好む大仰な言い回しに未だに慣れていなかったが、もはや諦めの域に達した達観により異議を唱える努力を放棄していた)
 そんなロジェの活躍もあり、宴会は途中で発生したトラブルを考えるとかなり「盛り上がった」状態で終了する事が出来た。もっとも明日の移動もある為、二次会、三次会などは行われず、トリステイン側の参加者達は明日に備えて早めに床に着いた。ハルケギニアではよほど羽目を外す場合でもない限り、宴は日本よりかなり早い時間に終わるのだ、
だが正規の「仕事」として宴会に出席した人間は部屋に戻った後、そのままベッドに直行するといった贅沢は到底許されない。宴会の経緯、新たに得られた情報等を箇条書きに近い簡単な文面であっても第一報という形で本部に報告を行わねばならなかったのだ。
 そのとりあえずの報告を自衛隊の無線で済ませると及川は自分の部屋に戻る前に休憩と気分転換を兼ねて、邸内の庭園に足を向けた。

「……これは凄いな」

及川は眼前に広がる光景に思わずそう感嘆の声を挙げた。
高い生垣に囲まれたオルニエール邸の広大な庭の中に多数の剪定された樹木が幾何学的に計算されて配置されている。それだけなら及川も目を和ませはしても驚きはしなかったが、木々の一本一本に装飾用の弱い「明かり」の魔法が掛けられ、淡い光につつまれているとなると話は別だ。加えてちょうど空にあるのは満月に近い「二つの」月である。
なるほど確かに自分は今異世界にいるのだと改めて及川は感じていた。
 正直な所、余りにも情報収集や交渉、報告といった煩雑な作業に追われ続けていた為、自分の居る場所を「異国」とは認識していても「異世界」とまでは実感できていなかったのだ。
 及川は眼前の幻想的な景色を眺めながら初めて外交官として外国に赴任し見上げた夜空を思い出していた。あの頃の自分には紛れも無い野心と未来への希望が満ち溢れていた。
だが今の自分には……。

「及川さんも漸く休憩ですか。余計なお節介だと思いますがもう少し肩の力を抜かれた方がいいと思いますよ? 何しろまだ先は長いんですから」

掛けられたその声に及川はこの幻想の庭園に先客、アメリカ合衆国の交渉人ロジェ・ブラック、がいた事を知った。ロジェが黒ずくめの衣装で闇の中に溶け込んでいたため気づけなかったのだ。

「残念ながらロジェさんと違って肩の力が抜けるような余裕はとても無い状況でして。自業自得といえばそれまでなんですが」
「宴会での件はそれほど深刻に考えられる必要は無いでしょう。向こうもこっちも正規の大使ではありませんしね。現時点はあくまで交渉の前段階です。第一特地の成功体験そのままに突っ込みすぎた事はまずかったですが、あれは運がなかっただけともいえますし」
「運ですか?」
「ええ、この世界に来てからの私の個人的な感触ですが、この国の比較的地位のある貴族層は最初のきっかけさえつかめれば、9割以上が買収可能であるとみています。その9割以上の多数派に対してなら及川さんのやり方で正解だったでしょう。……生憎、今回は一割未満の少数グループに当たってしまったようですが。私も彼らの『匂い』に気づかなければ、同じ傾向の失敗をしていた可能性が高かった」
「『匂い』? 何のお話でしょう。……彼らから特に気になる特別な香りは感じなかったように思うのですが」

及川の怪訝そうな様子にロジェは軽く頭をかいて苦笑した。

「失礼、『匂い』というのはあくまで比喩表現です。ただ私の語学力ではこれ以上に適切な言葉が思いつかなかった為に使わせてもらいました。
……そうですね。あえてどのような『匂い』か表現させてもらうとするなら

『硝煙と血河の荒野を走った事のある人間の匂い。悲鳴と轟音と爆音と嗚咽を自分の体に刻み付けた人間だけが放ち、理解できる匂い』

といった所ですか。かすかですが、私はまぎれもない『それ』を彼らから感じました」
「…………」

ロジェの言葉は彼自身もまたかつてその『匂い』を知る立場にいた事を示していた。

「『それ』さえなければ私も彼らを単なる生まれに恵まれたティーンエイジャーと考えていたでしょう。……及川さん、彼らを我々の世界における普通の高校生と同じように考えない方がいい。彼らは我らの世界とはルールが異なるとはいえ、自国の元首から厚い信頼を得るに値する「軍人」です。第一特地でも高位の軍事指揮官に対する買収工作が成功した例はなかったんでしょう?」

ロジェの指摘に及川はようやく自分の失敗の本質を悟った。
宴席においてギーシュを「近衛隊長」と呼びながらも、彼は本当の意味でギーシュ達を「軍人」とは見ていなかった。及川が見ていたのはギーシュ達の実家と後ろ盾であるアンリエッタ女王の影であり、彼らを一人の自立した人間と見なしていなかったのだ。そしてその傲慢と油断の対価が先の失敗だった。

「しかし護衛の自衛隊からは彼らについてそんな話は聞かなかったんですが……」
「まあ、彼らの大部分は本当の意味での「実戦経験」が無いですからね。流石に気づけというのは無理でしょう」

このロジェの発言は流石に及川にとって無視できるものではなかった。

「ロジェさん、それはどういう意味ですか? 我が国の自衛隊は銀座事件の際、そして第一特地に置いて完璧にその任務を果たしています。確かにアメリカ軍のそれと比べれば経験は劣るでしょうが、「実戦経験が無い」というのは言いすぎです!」
「全員に実戦経験が無いとまではいいません。ですが数百年どころか、下手をすれば千年単位の技術格差がある相手を何十万蹴散らしてもそれは到底「実戦経験」と呼べるものではないですよ。魔法についても部隊としての使用例は極々僅かで無視できる程度。相手の装備は小銃どころかマスケットさえなく、軍のドクトリンは榴弾や迫撃砲の絶好の的である戦列歩兵。少数での敵地潜入任務をこなした部隊などであればともかく、中東のゲリラにさえ劣る装備の相手を絶対的な技術格差で一方的に磨り潰した事を「実戦経験」と考えられるのはお止めになった方がよろしいでしょう。特に第一特地での戦いが普通であるといった感覚を持ってしまうと、地球で日本が本当の意味での武力衝突に巻き込まれた際に、その損害に悲鳴を挙げることになりますよ」
「…………」

ロジェの言葉に自らの力を誇るもの特有の傲慢さは感じられなかった。純粋に自らの経験に基づく事実を指摘し、忠告してくれていると判断せざるを得ず、及川は返す言葉が無かった。

「とにかく明日から先が本番です。彼らの仲介でトリステイン王国の中心部と直接交渉が可能になれば全ての話が一気に進む。これまで積み上げた努力を収穫する絶好のチャンスです。お互い頑張りましょう」

励ますようにそう話を締めくくろうとしたロジェだったが、及川の返答は彼の期待を裏切った。

「励ましていただいてありがとうございます。ですが私は明日本部に到着した時点で現在の任務から外れることになっています。その後は別の者が貴方と組んで平賀氏やトリステイン側との交渉に当たる事になるでしょう。ご忠告については確実に申し送りを行っておきます。私はこの後アフリカの小国に派遣され続ける事になると思いますのでもうお会いする事も無いでしょう。これまで本当にありがとうございました」
「?! 今日の件をそちらの上層部はそれほどに重要視しているんですか? 正規の大使同士ならともかく、交渉の下準備段階ならあの程度の衝突など珍しくも無い。まして言い方が悪いですがこれからようやく「収穫」というタイミングで担当者を変えるなど普通ありえない」
「いえ、今日の件がどうこうというわけではなく、初めから決まっていた事なんです。初期の情報収集や事前準備が済み、ある程度の安全が確認され将来の明確な見通しがついた時点で私がお役御免になることは。公式な書類に私の名前が載ることもないでしょう。」
「……理解に苦しみます。今日までこのハルケギニアにおける最前線で日本の外交活動に従事していたのは貴方だ、及川さん。右も左も分からない場所で、いかなる危険や病原菌があるかも分からない異国で、貴方は体を張って極めて職務に忠実にその任を果たされてきた。無論、異世界であるがゆえの多数の失敗はありましたが、それは私も同じです。どう考えてもこれはこれまでの功労者に対する処遇ではありえない。……あくまでよろしければですが理由をお聞かせ願えませんが?」

及川は一瞬迷ったが特に緘口令を出されているわけでもなく、調べれば直ぐに分かる事なのでロジェに事情を説明する事にした。

「一言で言ってしまえば贖罪ということになりますか」
「贖罪?」
「ええ、私がこの第二特地での最初期の調査に従事した上で成果を挙げ、その成果を次の担当者に全て譲り渡す代わりに、派閥の後輩達に対する人事昇進上のペナルティを全て解除するという確約を、官房長より頂いています」
「……派閥ですか?」
「はい、ご存知でしょうが我が国では何処の省でも多数の派閥による出世競争という名前のパワーゲームが行われています。……こういっては何ですが私が所属していた派閥はトップが次期事務次官就任を確実視されるほどの勢力がありました。そしてその勢力をバックに第一特地での「帝国」相手の交渉担当の役職を手に入れました。軍事的、技術的な絶対的優位がある以上、楽に成果を挙げられる極めて「美味しい」役職だと思われたからです。そして実際に途中まではかなりの成果をあげることができました」

及川はここで一旦言葉を切った。ロジェは先を促す事はせず無言で及川の言葉の続きをまった。
やがて及川は再び口を開いた。

「……私も先輩や同僚達と一緒に第一特地に赴きました。そして日本側に大使館として提供された翡翠宮に入り「帝国」との交渉に当たっていたのですが、そこで帝国内の反講和派による講和派への弾圧事件が発生しました」
「帝国のゾルザル元皇太子による反対派への弾圧ですね」
「ええ、当時多数の講和派の要人が弾圧から逃れるために翡翠宮にやってきました。彼らは日本への亡命を求めていたんです。ですが本国からは「亡命を認めるな」という強い命令がだされていました。……一人でも助ければそこから際限なく亡命者が増え、状況を悪化させるという判断でした。
恐らくそれは大局から見て正しい判断だったんでしょう。
ですがそのうち高官の親族である一人の幼い少女が亡命を求めてきました。私の派閥の先輩の一人と親交があり、その縁を頼りにやってきたのです。無論、相手が誰であれ国家として方針が「亡命を認めない」以上、追い返すしかなかったのですが……その先輩はその少女を翡翠宮に迎え入れて保護してしまいました。その場にいた私たちもそれを止めず、結局その少女の保護をきっかけとして反講和派との無秩序な武力衝突が発生し、多数の死傷者がでました」
「…………」
「その後の帝国との和平及びゾルザル派との衝突については割愛します。とにもかくにも最終的に第一特地とのゲートは一旦閉じ、政府内部でも後始末としての論功行賞が行われる事になりました。
……そこで命令に反し少女を保護した事が大問題とされたのです。
 少女の保護は当初マスコミが美談として大きく取り上げた為、一般国民からの批判は無かったのですがある政治家の方が絶対に看過できない大問題だと極めて強い批判を行われました。
 その方は既に議員職にはあられませんでしたが我が国で極めて長期間総理の座にあった方で、さまざまな方面にいまなお絶大な影響力を持たれている方です。
 結局その方の意見が通り、少女の保護に関連した人間は厳罰に処される事となったのですが、少女を助けた先輩本人はゲートの接続が切れた際に第一特地側に残ってしまったため、直接処分することができません。それゆえ先輩の行動を止められなかった回りの人間、すなわち同じ派閥の上司、先輩、私も含めた同僚、さらに後輩全員が「粛清」されることになったんです。
……勿論「粛清」とはいっても北朝鮮などとは違い、直接的な生命の危険があるわけではないのですが、一度ブラックリストに載せられてしまった人間が省内で浮かび上がる事は絶対にありえません。
延々と重要度が最底辺とされるランクの国々を短期間に回され続け、極めて早期に退職を勧告されるという未来しか残っていません。……いえ、あの時先輩を止められなかった自分がこんな目に会うのは当然でしょうが外務省に入ってわずか数年だった後輩達の未来が失われるのは余りにも酷すぎる。
 だから今回の第二特地の調査は私にとっての最後のチャンスなんです。馬鹿な先輩達によって将来を奪われてしまった後輩達への贖罪を行うための」

及川はロジェに語りながら自分達への厳罰を主張した政治家の言葉を思い返していた。
半ば偶然に近いとはいえ一度だけ直接会う機会があったのだ

『政治の不作為により方針が定まっていなかったために現場で判断をせざるをえなかったのであればまだ理解できるが、今回「亡命を認めない」という政府の明確な方針と命令があったにもかからず、それを無視し、結果として多数の死傷者を出した。これは戦前における関東軍の暴走にも匹敵する言語道断の行いであり、当人は無論、それを看過した周囲全体を厳罰に処さざるをえない。人道上の問題というものもいるが、君達日本国の公僕が最優先に考えなければならないのは「日本国民」にとっての人道であり人権であり、日本国の国益だった。君達は眼前の帝国人の少女の未来の運命ではなく、銀座事件で命を落とした無数の無辜の日本国民の惨劇を思うべきだったのだ』

『幼い少女に外交官が真珠のネックレスをプレゼントし、それをきっかけに始まった親交。なるほどほほえましい話だ。
……その外交官が休暇中に自分の負担でその場所に赴き、自分の収入で真珠のネックレスを購入してプレゼントしたのであるならば。
だが実際にその外交官が帝国に赴いたのは職務の為であり、真珠のネックレスを贖った費用は国民の血税である。ならばそれらによって発生した外交官の人間関係もまた全てが日本国の利益に為に用いられるべきものである。断じてその外交官個人の私物ではない!
それを私物化した外交官を、その私物化を看過した組織を私は断じて許す気はない!』

及川はそれらの糾弾に一切反論する事ができなかった。
そして及川が所属する派閥への「粛清」は徹底的に行われた。
その後、第一特地とのゲートの接続が再開し、発端となった及川の先輩もまた日本に戻ってきた。
だが彼は第一特地にいる間に帝国の皇帝及び周辺諸国の首脳部との間に極めて強固な個人的信頼関係を構築する事に成功していた。その実利上の利益を考慮した当時の外務省上層部は結局その人物を表立って処分することはなく、引き続き第一特地とのパイプ役を担当させた。
……及川達に対する「恩赦」は行われなかった。



及川の長い独白が終わった。
ロジェは沈痛な眼差しを及川に向けていた。普段は饒舌な彼も及川に掛ける言葉を選びあぐねているようだった。

「結局、私はあの時先輩を止めるという自分の役目を果たす事が出来なかった。本気で止めようとすれば簡単だったにもかかわらず、あの少女の悲鳴を耳にすると止める事ができなかった。
……人は皆、与えられた役割と義務の中に生きていて、それは雨の中、傘を差すのと同じくらい当たり前のことなのに、その当たり前の事が私にはできなかったんです」

ロジェは及川に静かな視線を向けた。その視線には断じて冷たいものでなかった。

「及川さん、私の立場からは、貴方の先輩と貴方の判断、そしてその判断に対する日本政府の対応の是非を語る事は一切出来ません。……ですが貴方も、貴方の先輩も紛れもない「人間」だった事は間違いないと思います。
 貴方は雨の中、傘を差すのは当然の事と仰られましたが、私は雨の中、傘を差さずに踊る人間がいてもいいと考えています。自由とは、そういうことだと。……勿論、その自由の代価は自分自身で負わなければなりませんが」

(続)


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