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No.31071の一覧
[0] ゲート ZERO(ゼロ魔16巻時点 × ゲート 自衛隊彼の地にて、斯く戦えり)[フェイリーン](2012/01/07 14:08)
[1] ゲート ZERO 2話[フェイリーン](2012/01/07 17:23)
[2] ゲート ZERO 3話[フェイリーン](2012/01/11 07:21)
[3] ゲート ZERO 4話[フェイリーン](2012/01/16 00:33)
[4] ゲート ZERO 5話[フェイリーン](2012/01/27 23:15)
[5] ゲート ZERO 6話[フェイリーン](2012/06/09 19:10)
[6] ゲート ZERO 7話[フェイリーン](2012/05/29 00:39)
[7] ゲート ZERO 8話[フェイリーン](2012/06/11 21:48)
[8] ゲート ZERO 9話[フェイリーン](2012/07/01 20:20)
[9] ゲート ZERO 10話[フェイリーン](2012/08/15 15:36)
[10] ゲート ZERO 11話[フェイリーン](2012/10/28 22:50)
[11] ゲート ZERO 12話[フェイリーン](2012/12/10 22:44)
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[31071] ゲート ZERO(ゼロ魔16巻時点 × ゲート 自衛隊彼の地にて、斯く戦えり)
Name: フェイリーン◆2a205fc8 ID:1d38ce4d 次を表示する
Date: 2012/01/07 14:08
ゲート ZERO

1 日本国内閣総理大臣の憂鬱

「総理、防衛省より緊急連絡が入っております!」

 執務室に秘書官が駆け込んでそう報告した時、夏目内閣総理大臣は、総理執務室の中で
数名の閣僚とともに室内に設置された大型TVの画面に見入っていた。

「わかりました。一応確認しておきますが、緊急連絡とは今TVに写っている『アレ』につ
いてですね?」
「は、はい。」

 TV画面の中では『緊急報道特番』と表示がされたスタジオの中でアナウンサーと数名の
解説者が、レポーターから画像付の現地報告を受けていた。

『現地の西山さん! 状況に何か変化はありますか?』
『はい、先ほど自衛隊と機動隊が到着し『門(ゲート)』ではないかと思われる物体……
といっていいかどうかわかりませんが、その回りを包囲しています。なお自衛隊は武器、
それも小銃以外に迫撃砲やバズーカ、さらに火炎放射器ではないかと思われる装備で武装
しています。我々も安全の為距離を取るよう警察より指示を受けました。その為、先ほど
より300メートル程離れたところから取材をおこなっています。なお『ゲート』自体にあ
らたな動きは確認されておりません』

 レポーターの報告が終わると現地のカメラは機動隊と自衛隊の隊列に数秒レンズを向け
た。だがそれはほんの数秒であり、すぐに機動隊と自衛隊が100メートル程の間をおいて
取り囲む中心に焦点を合わせなおす。
 そこにはぼんやりとした光に包まれ空中に浮かぶ、信じがたいまでに巨大な『扉』のよ
うな何かがあった。

……21世紀初頭、日本は他国からの侵略を受けた。相手は北朝鮮でも、韓国でも、中国で
も、ロシアでもなかった。銀座中心部に突然石造りの門(ゲート)が出現し、そこから異
世界の侵攻軍が雪崩れ込み『銀座事件』と呼ばれる無差別殺戮を引き起こしたのだ。しか
し異世界の侵攻軍は地球には存在しない技術体系、魔法とよばれる地球の科学者を困惑の
極みに叩き込んだソレ、を有していたものの、幸いにしてそれ以外の組織、装備、技術が
地球の中世レベルに留まっていたため、自衛隊による反撃によってあっさりと殲滅された
。だが多数の犠牲者を出す原因となった門と侵攻軍を送り込んできた敵勢力を放置するこ
とは到底できず、日本は門の向こう側に自衛隊と調査・交渉の為の人員を送り込むことに
なった。調査隊による調査と数回の戦闘の後、侵攻軍を送り込んできたのは自らを『帝国
』と称する異世界の国家である事が判明、日本は外交団をその首都に送り込む。その後さ
まざな紆余曲折はあったものの日本は最終的に賠償を勝ち取った上で『帝国』との講和と
通商を含めた国交を結ぶことに成功し、さらに実験レベルではあるが異世界との交流を続
けることとなった。

『……以上が現地の状況です。あれは『ゲート』なのでしょうか? またゲートだとすれ
ばどこの世界に繋がっているのでしょうか? なお現在までのところ日本政府からの正式
発表は確認されておりません。その後、なにか動きはあったでしょうか? 官邸の大川さ
ん』

 現地中継が終わったあと画面は一旦スタジオに戻された。そして今度は官邸付近に送り
込まれているレポーターと連絡をとろうとする。それを見て防衛庁からの緊急報告を聞き
終えた西野官房長官が苦笑した。

「無茶いわんでくれ。方針も何も今知ったばかりなんだ。大体アレがでてきてからまだ2
時間もたっていないだろうに」

 数十年前ならいざしらず、現代において最も迅速に情報をつかむのは大抵の場合国家で
はなく、マスコミである。アメリカ合衆国大統領でさえ、TVから自国の諜報機関より早く
重要な事件の情報を度々得るような時代なのだ。特に東京のような大都市の中心部で突発
的に発生した事象となるとその傾向は特に顕著となる。
 夏目はざわつく閣僚達を静めるため力を込めて宣言した。

「とにかく冷静に正確な情報を集めてください。そして周囲住民の避難を急がせてくださ
い。またアレの向こうから何かが出てきて、それが友好的な存在ではなく危険だと思われ
た場合は即座に自衛隊が攻撃してください。武器については現地指揮官が必要と判断する
すべてを、必要であるならさらなる増援も含めた全てを、『適当に』使用してください。
責任は内閣総理大臣であるわたしがとります。あと対策本部の準備を急いでください。準
備出来次第すぐにそちらに移ります」

ここで夏目がいう『適当』とは無論、『いい加減に』という意味ではない。「自らが保有
する全ての能力を使用し、適切に対処する」という意味である。総理自身が首都で自衛隊
に全力での武器使用を許可した命令ともいえる。だが夏目は自身の命令が大げさなもので
あるとは微塵も感じてはいなかった。

(できれば『門』(ゲート)であってほしくはないが、あれはどう見ても「扉」だ。『門』
(ゲート)の同類である可能性が高い。だとすればどこに繋がっている。どんな生物が
いる世界なんだ)

 以前発生したゲート関連の事件において、一時的にではあったが日本は『帝国』が存在
する世界とは異なるさらなる複数の異世界と結ばれたことがあった。それらの異世界の中
には地球に招き入れれば想像を絶する惨禍を引き起こしかねないと思われる生物がいた世
界もあったのである。つまり現状ではあらゆる想定が可能な状況であり、最悪現代の地球
の技術水準を遥かに超える技術をもつ異世界軍による侵略という事態さえ考えられるので
ある。
 夏目が自身の内心の不安を懸命に押し殺しながら新たな報告を待っていると、今度は経
済産業省から出向してきた秘書官が駆け込んできた。

「報告します。「新たなゲート出現か」との一報のあと、急落していた東証の株価が急反
発しています。どうやら新しいゲートの規模が確認されたことで不安要素より将来性を当
て込んだ海外投資家が動いている模様です」

その報告に今度は大川経済産業大臣が苦笑した。

「とらぬ狸の皮算用にもほどがあるな」

「扉」出現の一報のあと株価が急落したのは銀座事件のような異世界から侵略を警戒した
ものだと大川は見ていた。だがその後の皮算用はその後に伝えられた新たな「扉」のサイ
ズによって発生したものだろう。TVからの情報でおおよそのものではあるが、扉のサイズ
は実に縦150メートル、横200メートルという想像を絶する規模だったのだ。

「アレがゲートだった場合、確かにあの大きさなら資源や物資の移送は容易だろう。だが
そもそもあれの向こうが「商売できる」世界かどうかさえわからん状況でよくやる」

『帝国』が存在する異世界との交流は現在も続いている。だが当初期待されていたような
大規模な資源・物資の貿易という形での交流は不可能だった。現状ではごく短期間に極め
て狭い『門』を開き、極めて限られた物資、人員を交流させるのが限界であり、正直生物
資源の探求先や学術的な研究材料ぐらいしか使い道がないのである。異世界との貿易を当
てこみ流入した海外資金で一時的にバブル期レベルまで高騰した東証株価も、あっという
間にそれ以前のレベルに戻ってしまっていた。だがそれもサイズの問題が解決された新た
な門があるのならば状況は変わってくる。

・・・・・・結局日本政府の公式発表が行われたのは「扉」の出現から4時間後だった。

「新たに出現した扉と思われる物体の周辺は既に自衛隊と機動隊で完全に包囲済みであり、
銀座事件の如き惨劇は全力で阻止する。また「扉」が「門」同様、異世界への通路であ
るかについての調査は周辺住民の避難と調査チームの準備・編成が完了次第開始し、調査
結果は随時発表する」

 発表通り「扉」出現6時間後には自衛隊と警察、さらに文部科学省から依頼を受けた学
者達によって構成される調査チームが扉の調査を開始した。これほどまで迅速に事が進ん
だのは銀座事件の影響が大だった。少なくとも二度目の事例に対する対処に関して日本の
官僚は無能ではない。

 扉の調査は調査チームのメンバー自身が意外な思うほど容易に進んだ。そもそも数百メ
ートルサイズの扉をどうやって「開ける」のかという根本的な命題があったがこれは調査
チームが扉に長い棒を接触させることであっさりと解決した。扉に実体はなく、あたかも
3Dホログラムの如く、接触した物体をそのまま通過させたのである。しかし通過した棒の
先端を扉の反対側から確認することはできなかった。扉は自らを通過した物体を地球以外
の「どこか」に送り込んでいたのである。この時点で「扉」が「門」と同類の存在である
ことは明白となった。
 その後有線式カメラが送り込まれ、扉の向こう側に大地と大気が存在することが確認さ
れた。同時に向こう側の大気の採取と成分分析も行われ、その他諸々の調査の結果、最終
的に扉の向こう側は人間の活動に何ら問題のない環境にあると結論づけられた。

 この時期になるとそれまで情勢の変化を見守っていた諸外国が動き始めた。アメリカは
「扉」の調査に全面協力し、日本から求められれば米軍を含めた大規模な調査隊を派遣す
る意志があると公式に発表した。中国とロシアは「扉」は一国で独占すべきものではなく
今度こそ安全保障理事会直轄の管理下に置くべきであると共同で発表した。しかし両国は
先に発生した「大震災」の影響で国内が未だ混迷を極める状況にあり、要求を拒絶されて
も実力行使は到底不可能であると見られている。

 最終的に調査隊は自衛隊と学者で編成されたチームで構成された。自衛隊の規模は前回
異世界のアルヌスに派遣されたものとほぼ同規模の三個師団。自衛隊は無論学者の護衛お
よび扉の向こう側近辺を確保する為のものだったが、これには野党及び左派系のマスコミ
から反発の声が上がった。

「銀座事件の際は明らかな武力攻撃を日本は受けた。だから自衛隊を投入したのは理解で
きる。だが今回は別段攻撃を「向こう側」から受けたわけではない。現在の状況で自衛隊
を「向こう側」に進入させてよいのか? 仮に「向こう側」に国家が存在した場合、我々
は許可なく他国の領土に軍隊を進入させることになる。それは新たな戦争の火種を自分か
ら巻く愚行ではないのか」
これらの反対意見に対して夏目総理大臣は国会で以下のように反論を行った。
「だとすれば誰が学者チームを護衛するのですか。どのような危険があるかもわからない
世界での護衛を警察にやらせるのですか。装備や訓練、組織としての自己完結性を考える
ならば、やはり今回も自衛隊を投入するしかないとわたしは考えます。無論、向こうで国
家とよびうる組織と接触した場合、可能な限り平和的に国交を結べるよう努力し、国交樹
立後は速やかに自衛隊を撤退させたいと思っております」

この頃、日本国内の左派勢力はいわゆる「銀座争乱事件」の影響でその発言力を大幅に減
退させていた。無論、中国、韓国、北朝鮮といったいわゆる特定アジア諸国は「扉」の向
こう側への自衛隊の派遣について、日本国内の左派勢力と歩調を合わせた非難を行ったが、
銀座争乱事件の影響で日本の世論はこれら特定アジア諸国と左派勢力に対し極めて否定
的な傾向が強まっていた。結果として反対意見はそれ以上大きくなることはなく、調査隊
の派遣は予定通り実施された。

『「扉」の向こうは新たな異世界と判明。日本政府は「第二特地」と命名。扉周辺に知的
生命体の存在は確認できず』
『周辺調査斑、現地住民との接触に成功。中世レベルの文明を保有する「人間」と判明』
『大規模油田及びレアメタル鉱山の可能性! 資源調査チームを編成準備』

 夏目は官邸執務室で机の上に国内の新聞各紙を時系列に並べ、眉を潜めていた。掲載さ
れている発表自体は無論把握している。どのマスコミも「第二特地」への立ち入りは現状
許可されておらず、日本政府が公式発表した内容を報道するしかないからだ。ただし割合
としてはそれほど多くはないもの、報道の中には日本政府が未だ公表していない事実を記
載した記事が相当数存在した。以前の失敗を避けるため、夏目は「第二特地」に関する情
報管理の徹底を閣僚と官僚に命令していたのであるが、どうやらうまくいっているとは言
い難い状況のようだ。
夏目がさらに情報管理の改善に関する命令を出すべきかと迷っていると外務省出身の秘書
官がアメリカ合衆国大統領マハナからの電話を告げた。

『夏目総理、「扉」に対する対処でお忙しいところ申し訳ない。ですが我々の友好と共通
の利益の為に、あなたに直接確認しておきたいことがあってお電話を差し上げました』

マハナは弁護士出身であり、いささか粗暴ともとられかねない言動で知られた前任者のデ
ィレルとは異なり、丁寧で隙のない喋り方をする人物だった。政治的なスタンスもリベラ
ル的傾向が強く、軍事力の行使に比較的慎重な立場をとっている点でも前任者とは対照的
である。無論自国の利益が最優先であり、その為に必要と判断したならばいかなる行動に
も躊躇しないであろうことは前大統領となんら変わりないだろうが。

「いえ、マハナ大統領かまいません。それで一体どのような?」
『無論、扉の向こう、あなた達が「第二特地」と名付けた異世界の調査状況に関する件で
す』
「待ってください。「第二特地」についての情報は外務省より、どこの国よりも早く詳細
な内容をお知らせしているはずですが?」
『確かに貴方は嘘は言っていません。我々はあなた達より他のどの国より早く、より多く
の第二特地に関する情報を知らせてもらっています。ですがそれでもなお、あなたが現在
我が国を含めた他国に対して秘匿している事実の割合は全体から見ていささか多すぎはし
ませんか?』

また情報漏れかと思わず脱力して溜息をつきそうになる自分を夏目は必死で押しとどめた。
ともかくどの件に関しての情報が漏れたかと、アメリカ側の要求を確認しておく必要が
ある。

「では具体的にどのような件についてお知りになりたいのですか?」
『まず扉の向こうが「帝国」が存在する世界とは異なる、新しい異世界であることをどの
ように確認されたかです。最初の調査報告から異世界と断定されていましたがなぜ判明し
たのか理由が説明されていません』
「それについては天文学者による検証を改めてすませた時点で公表する予定でしたが・・・・・・
まあいいでしょう。異世界と判断した理由は極めて単純です。
月が二つあるんですよ、第二特地には。まあ世界というか宇宙自体は同じで別の惑星に扉
が繋がったという可能性も否定できないのですが、異世界も異星も現状では大差はないと
考えています」
『なるほどわかりました。しかし月が二つとはずいぶんと幻想的な世界のようですね』

マハナは一旦は夏目の回答に納得したようにそう答えたが、最初の質問はほんの軽いジャ
ブに過ぎなかった。

『ですが第二特地という呼び名はいただけない。現地の人間は自分達の世界について彼ら
自身の呼び方を持っているはずです。それを無視する形で勝手に他人が名前をつけるとい
うのはかつてコロンブスがアメリカ大陸をインドと思いこみ先住民に勝手にインディアン
と名付けた愚行と同列の行いではないかと思いますよ』
「いえ大統領、「第二特地」という呼び名はあくまで便宜上のものです。言語学者による
現地の言語の解析と翻訳が終了次第、呼び名については現地の単語に変更する予定です」
『いや即座に名前を変更すべきですね』
「大統領、スタッフに確認をとっていただいて結構ですが、言語の解析とは一朝一夕にで
きるものではありません。それも地球とはまったく異世界の言語の解析となると専門の言
語学者チームでもどれだけ時間がかかるか検討もつきません」

ここでマハナは切り札をテーブルの上に置いた。

『「ハルケギニア」と現地の人間は自分たちの世界の事を呼んでいるようですね。』
「・・・・・・・・・・・」
『完璧な形での言語解析が終わっていないというのは確かに事実でしょう。ですが現地で
使用されている言語が信じられないほどフランス語と共通点を有している為、驚異的な速
度で解析が進み、既に日常会話程度なら全く問題ないレベルまで達しているというのが実
情ではないのですか? 確かに『学問的に完全なレベル』にはほど遠いでしょうが、我々
は専門の学者ではない。意思疎通が十二分に行えるなら実用には十分すぎるでしょう』

最重要機密が完全に筒抜けだった。夏目はアメリカの諜報能力が高すぎるのか、日本の防
諜能力が低すぎるのか判断に迷った。そして無駄かも、とかすかに絶望を抱きながらも新
たな防諜対策の命令を決意した。

『さらに付け加えれば現地側は調査チームから接触するまで「扉」の存在自体に気づいて
おらず、当然こちらがわへの侵攻の意志も準備も有していないそうですね。
そして接触した住民は槍程度の武器すら有している者はまれで、主な産業はワイン作り。
実に牧歌的で平和で結構な事ですが、これらの事実を日本の野党やマスコミが知ればいさ
さか面倒な事になりませんかね?』

なる、絶対になる。野党やマスコミはこれで安全上の問題はなくなったとして、交渉を行
う際の重要な見せ札となりうる自衛隊の即時撤退を声高に要求するだろう。
銀座争乱事件を含む諸々の事件で安全保障に関してようやく意識を持ち始めた世論も、相
手が現状無害で悪意がないと知ればあっさりと危機意識を眠らせかねない。
夏目は内心で舌打ちしながらもマハナに反論した。

「大統領、現状で接触できた現地住民はあくまで村落レベルの人員にとどまります。国家
や領主といった統治組織・現地支配者階級との接触までは行われておらず、彼らと安全保
障に関する何らかの協定を結ぶまでは安全を確保するため自衛隊は絶対に必要です」
『わたしもそう思います。仮にこの事実が漏れた場合、日本の野党とマスコミが貴方の見
解を受け入れてくれるといいですね』
「・・・・・・大統領、一体何をおっしゃりたいのですか。そろそろ真意を明かしていただけま
せんか」
『簡単な話です。貴方達は扉の存在する領域を領有する領主と近く直接交渉を行おうとし
ていますね? そしてその領主を通じ、さらに上位の国家と国交を結ぼうと考えている。
それらの交渉の席に我が国の外交官も同席させていただきたいのです。無論貴国の交渉内
容は一切制限するつもりはありません。護衛については米軍からの派遣を考えていますが、
日本が安全を保証していただけるのであれば無しでもかまいません』

マハナの要求は要するに「一人で抜け駆けするなよ、やるなら俺も混ぜろ」ということで
ある。夏目は予想外のスピードで進んだ言語解析から得られた時間を使い、他国に先んじ
て「第二特地」いや「ハルケギニア」諸国と国交を結び、あわよくば有利な条件での協定
や条約締結を狙っていた。如何に出入り口が日本国内にあるとはいえ、時間が立てばハル
ケギニア側が扉を通して外交官を送り込んでくる可能性があるからである。これを拒否す
るのは難しい。そうなってしまえば日本が独占的に交渉を行える強みは失われてしまう。

『この申し出を受けていただけるのであれば、先の心配は確実に杞憂になります。そして
次のサミットで「尖閣諸島は日本の領土であり、そこで武力紛争が発生した場合、米国は
米日安全保障条約に基づき全力で介入する」との声明を私自身の口から言明させていただ
きます。どうしてとおっしゃられるなら竹島の帰属について日本側の主張に完全に沿った
形での声明を出してもいい。その後韓国と発生するであろう軋轢についてもこちらで処理
します。そう、私は「ちゃんとできますよ」』

大統領の最後の言葉にはいささかならぬ嫌みと怒りが混じっていた。それを敏感に感じ取
り、夏目は渋面にならざるをえない。
(ルーピーの野郎、どこまで日本に迷惑かければ気が済むんだ!)
夏目がルーピー(キ○ガイの意味)とよんでいるのは民自党が野党だった時代に内閣総理
大臣だったある人物の事である。この人物は学問的な意味でいえば確かに頭は悪くなかっ
たのかもしれないが、一国を預かる宰相としては致命的に不適任な人間だった。自分の発
言が周囲にどのような影響をあたえるのか一切考慮することができずに無責任な発言を繰
り返して周囲を振り回し、できもしない約束を内閣総理大臣の名前でばらまいた。そのあ
げくマハナ大統領自身から「自分の発言通り、ちゃんとできるのか?」と公衆の面前で詰
問されるという醜態をさらした。当時この人物の年齢は60代半ばでマハナは50代であ
る。いい年をした大人、それも一国の総理が同盟国の大統領とはいえ一回りの年下の相手
から、未熟な新入社員に対し課長、部長がかけるような言葉を投げられたのである。最終
的にその人物は政権と一緒に自分の無責任な約束を放り投げ、既に確定していた米軍との
基地移転に関する協定・計画を完全にぶちこわし、「トラスト ミー」(私を信じてくだ
さい)と言い切った相手を裏切った。その裏切られた相手こそがマハナだった。

「マハナ大統領、現日本国総理大臣としてあのルーピーがしでかした愚行については、改
めて深くお詫びいたします。当時我が党が野党だったとはいえ、あのルーピーがやったこ
とは到底許されることではありませんでした」

夏目はまずマハナに先任者の非礼を謝罪した。現代の先進国では建前上、国家同士の付き
合いに指導者の個人的感情が反映されることはまずあり得ない。しかしそれはあくまで建
前であり、無意味に相手側指導者の感情を害して利益があるはずがない。まして既に交わ
していた約束を一方的に反故にし、口先だけの弁解を重ねたあげく、すべての責任を放棄
した「日本国総理」に対してマハナ大統領がどのような感情を有しているかは容易に想像
できた。夏目はまず先任者が残した膨大な負の遺産の処理から始めなければならなかった。

『言葉だけの謝罪はもう結構です。わたしは国家間の関係において、謝罪とは「ごめんな
さい」という言葉だけでなされるものではないと考えています。それで夏目総理、どのよ
うなご回答をいただけるのですか。私は十分な代償を準備させていただいたと思っていま
す。本当に申し訳ないと思っているのなら今この場でご回答をいただきたい。なお回答次
第では我が国は貴国との関係のあり方を決定的に見なおす可能性が有ることをあらかかじ
めお伝えしておきます』

マハナの言葉はどこまでも丁寧で紳士的で、そして氷のように冷たかった。
その冷たさに夏目は一層の危機感を感じた。マハナは本来口調こそ丁寧ではあるが、気さ
くな人柄と熱意で知られている人物だった。また日本以外の指導者に対しても同様の態度
で接している。その人物から自分だけがこのような態度をとられているという事の意味を
理解できないほど夏目は愚かではなかった。

「・・・・・・ご提案の件については基本的に了承させていただきます。ただ細かい内容に関し
ては後で外務省を通じて内容を詰めたいと考えますがよろしいですか? 無論調整がすむ
まではこちらから現地の領主との交渉は行いません」
『了解しました。こちらの申し出を受け入れてくださった事に感謝します。・・・・・・ああ、
あともう一つだけ教えていただきたいことがあるのですが』
「なんでしょうか?」
『扉が出現した地域の地名とそこを統治する国家の名前です。まだ報告がきていないなら
後でお知らせいただいても結構ですが』

それはこの電話会談直前に、第二特地いやハルケギニア側から送られてきた最新の報告書
に記載されていた情報だった。流石のアメリカもこの情報までつかむことはできなかった
ようだ。最早隠す意味もないと観念し、夏目はこれから交渉することになるであろう相手
の名前をマハナに告げた。

「国家名はトリステイン王国、地名はオルニエールとの事です」

(続)


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