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No.31065の一覧
[0] Machine in Gear -歯車の中の機械- 【ファンタジー群像劇】 [くらげ](2013/03/19 00:48)
[1] Machine in Gear 第一章 鋼鉄の巨人 1[くらげ](2012/08/03 00:05)
[2] Machine in Gear 第一章 鋼鉄の巨人 2[くらげ](2012/08/03 00:06)
[3] Machine in Gear 第一章 鋼鉄の巨人 3[くらげ](2012/08/03 00:06)
[4] Machine in Gear 第一章 鋼鉄の巨人 4[くらげ](2012/08/03 00:06)
[5] Machine in Gear 第一章 鋼鉄の巨人 5[くらげ](2012/08/03 00:06)
[6] Machine in Gear 第一章 鋼鉄の巨人 6[くらげ](2012/08/03 00:07)
[7] Machine in Gear 第一章 鋼鉄の巨人 7[くらげ](2012/08/03 00:07)
[8] Machine in Gear 第二章 史上最強のハッカー 1[くらげ](2012/08/03 21:59)
[9] Machine in Gear 第二章 史上最強のハッカー 2[くらげ](2012/08/03 22:00)
[10] Machine in Gear 第二章 史上最強のハッカー 3[くらげ](2012/08/03 22:00)
[11] Machine in Gear 第二章 史上最強のハッカー 4[くらげ](2012/08/03 22:00)
[12] Machine in Gear 第二章 史上最強のハッカー 5[くらげ](2012/08/03 22:01)
[13] Machine in Gear 第二章 史上最強のハッカー 6[くらげ](2012/08/03 22:01)
[14] Machine in Gear 第二章 史上最強のハッカー 7[くらげ](2012/08/03 22:01)
[15] Machine in Gear 第三章 小さき魔法使い 1[くらげ](2012/10/17 22:37)
[16] Machine in Gear 第三章 小さき魔法使い 2[くらげ](2012/10/17 22:37)
[17] Machine in Gear 第三章 小さき魔法使い 3[くらげ](2012/10/17 22:38)
[18] Machine in Gear 第三章 小さき魔法使い 4[くらげ](2012/10/17 22:38)
[19] Machine in Gear 第三章 小さき魔法使い 5[くらげ](2012/10/17 22:38)
[20] Machine in Gear 第三章 小さき魔法使い 6[くらげ](2012/10/17 22:38)
[21] Machine in Gear 第三章 小さき魔法使い 7[くらげ](2012/10/17 22:39)
[22] Machine in Gear 第四章 神速の狂乱者 1[くらげ](2013/03/19 00:46)
[23] Machine in Gear 第四章 神速の狂乱者 2[くらげ](2013/03/19 00:46)
[24] Machine in Gear 第四章 神速の狂乱者 3[くらげ](2013/03/19 00:46)
[25] Machine in Gear 第四章 神速の狂乱者 4[くらげ](2013/03/19 00:47)
[26] Machine in Gear 第四章 神速の狂乱者 5[くらげ](2013/03/19 00:47)
[27] Machine in Gear 第四章 神速の狂乱者 6[くらげ](2013/03/19 00:47)
[28] Machine in Gear 第四章 神速の狂乱者 7[くらげ](2013/03/19 00:48)
[29] Machine in Gear 第五章 心の案内人 1[くらげ](2013/09/09 21:32)
[30] Machine in Gear 第五章 心の案内人 2[くらげ](2013/09/09 21:32)
[31] Machine in Gear 第五章 心の案内人 3[くらげ](2013/09/09 21:33)
[32] Machine in Gear 第五章 心の案内人 4[くらげ](2013/09/09 21:33)
[33] Machine in Gear 第五章 心の案内人 5[くらげ](2013/09/09 21:33)
[34] Machine in Gear 第五章 心の案内人 6[くらげ](2013/09/09 21:33)
[35] Machine in Gear 第五章 心の案内人 7[くらげ](2013/09/09 21:34)
[36] Machine in Gear 第六章 勇敢なる頭脳 1[くらげ](2012/07/01 17:13)
[37] Machine in Gear 第六章 勇敢なる頭脳 2[くらげ](2012/07/03 20:45)
[38] Machine in Gear 第六章 勇敢なる頭脳 3[くらげ](2012/07/08 21:22)
[39] Machine in Gear 第六章 勇敢なる頭脳 4[くらげ](2012/07/11 23:26)
[40] Machine in Gear 第六章 勇敢なる頭脳 5[くらげ](2012/07/21 22:48)
[41] Machine in Gear 第六章 勇敢なる頭脳 6[くらげ](2012/08/03 00:04)
[42] Machine in Gear 第六章 勇敢なる頭脳 7[くらげ](2012/08/03 00:05)
[43] Machine in Gear 第七章 白馬の王子 1[くらげ](2012/10/13 01:12)
[44] Machine in Gear 第七章 白馬の王子 2[くらげ](2012/09/01 00:08)
[45] Machine in Gear 第七章 白馬の王子 3[くらげ](2012/10/13 01:12)
[46] Machine in Gear 第七章 白馬の王子 4[くらげ](2012/10/17 22:36)
[47] Machine in Gear 第七章 白馬の王子 5[くらげ](2012/10/24 22:15)
[48] Machine in Gear 第七章 白馬の王子 6[くらげ](2012/10/24 22:22)
[49] Machine in Gear 第七章 白馬の王子 7[くらげ](2012/10/24 22:23)
[50] Machine in Gear 第八章 -Break the gear- 挑戦者達の夜明け 1[くらげ](2012/10/24 22:25)
[51] Machine in Gear 第八章 -Break the gear- 挑戦者達の夜明け 2[くらげ](2013/01/08 20:31)
[52] Machine in Gear 第八章 -Break the gear- 挑戦者達の夜明け 3[くらげ](2013/02/27 07:36)
[53] Machine in Gear 第八章 -Break the gear- 挑戦者達の夜明け 4[くらげ](2013/03/11 21:42)
[54] Machine in Gear 第九章 巨人よ、出撃せよ 1[くらげ](2013/03/23 13:09)
[55] Machine in Gear 第九章 巨人よ、出撃せよ 2[くらげ](2013/06/01 18:53)
[56] Machine in Gear 第九章 巨人よ、出撃せよ 3[くらげ](2013/07/13 20:01)
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[31065] Machine in Gear 第五章 心の案内人 7
Name: くらげ◆14db1afa ID:731e073c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/09 21:34
 振り出した雨は、容赦なくカグラの身体を打ち付けた。
 頭をすっぽりと隠すフードのお陰でカグラ自身は濡れなかったが、それでも雷が鳴るほどの大雨だった。キリアとイヴがホテルに身を隠した当日、雨宿りすら見付からず、当てもなくカグラは街を歩いていた。

『いいよ、むしろ、間に、合わなくて、よかった』

 何度もあの日の光景が頭の中に蘇ってくる。
 雨に打たれながらカグラは一人、街を歩く。泣きたいわけではない。奴隷として生きていた時も、使用人となった時も、二人はもっと複雑で、酷い地獄を見てきた。それを考えると、今この状況で彼女が居ないことは、むしろ幸いなのかもしれない。
 あのような地獄を、もう一度体験するくらいなら。

『ね、『カグラ・キサラギ』をモミジにあげる』

 むしろ、死んでしまった方が幸せではないか。
 今もまた、ガルベア連合王国に捕まった後のことを考えると、お世辞にも幸せな状況とは言えない。
 それなのに、どうして半身が居なくなったような気持ちに駆られるのか。
 カグラとモミジは二人で生きていた。それが一人になっただけではないのか。
 カグラが上を向くと、ざあざあと振る雨がカグラの顔を打った。それは頬を伝い、冷たい地面へと流れ落ちていく。
 そうして長い間、カグラは無心でいた。ただ、頭上から降る雨が自分の頬を伝うに任せた。
 それでもまだ、自分は生きているのだと。

(……どうした、少年)

 ふと声がして、カグラは振り返った。
 そこには、一匹の猫がいた。ダンボール箱の陰に身を隠し、雨をしのいでいた。

「なんでもないよ」

 あえて、口に出してカグラは猫に伝えた。すると猫は、不思議そうに首をかしげた。

(何でもないと言うには、少々思い詰めすぎではないか?)
(どうしてさ? ボクは何も変わらないよ)

 猫は、真っ直ぐにカグラの瞳を見ていた。

(煢然(けいぜん)たる人生に慣れたうら若き乙女――いや、汝は少年であるか。独り法師に何を思う)

 直感的に、老猫だと察する。豊富な語源にカグラは何を言っているのか分からず、臆した。

(色んな言葉を知っているんだね)
(詩が好きなものでな)

 雷はなおも強く、スターランドの地に鳴り響いていた。

(ねえ、ボクらはたぶん、恵まれていなかった。ミラノ・マートンのようにお金を持っていた訳ではないし、ライド・アライドのように守護隊に任命されることもない)

 その老猫には伝わらない人物の名前を出していることを、カグラは知っていた。
 それでもカグラは猫に話し掛けた。なんとなく、伝わる気がしたのだ。おそらく自分よりも長く生きる、この老猫に。

(ミラノ・マートンの言うとおりだよ。お金なんて、人の豊かさを左右したりなんかしない。でも――、思うんだ。それならどうして、世の中は不公平にできているんだろう)
(それは、そういう世の中だからさ)
(だったら、そういう世の中だからって、諦めるしかないの? 理不尽な世界に納得するしかないの?)

 その問いには、猫は答えなかった。代わりに、カグラに何かを示した。カグラは老猫の目線に合わせて、振り返った。

(少年、聞いてごらん。ここには、数年前から悪魔が住み着いている。墓場で声をあげている。あれだけ『声』が強ければ、私達の耳にも届く)

 言われたとおりに、カグラは辺り一帯に意識を集中した。すると、どこからか――若い男性の声が聞こえてきた。

(許してたまるか。こんな事が許されていいはずがない、俺は絶対に許さない。認めていいはずがない。――姉さん)

 雑音や悲鳴や色々な感情に塗り潰され、綺麗な言葉にはなっていなかった。だが、もしもそれを言葉に表すとしたなら、そういったような内容のメッセージだっただろう。
 その声を聞いて、直感的にカグラは情報屋から聞いた、商業都市スターランドの殺人鬼を思い出した。
 名を、イロハと言っただろうか。

(イロハさん――?)

 あの方角には、おそらく墓場があるのだろう。

(神速の狂乱者、イロハだ。理不尽な世界をもし変えられるとしたら、彼や君のように、強くそれを求める人かもしれない)
(……)
(もっとも、「ある強大な力」さえ乗り越えることができれば、だが)
(ある強大な、力?)
(そうだ。世の中はまるで、大きな歯車のように回っている。それを動かしているいくつもの「機械」がいる。その歯車を止めるか、別の方向に導かなければ、世界は変わることはない)

 あらゆる方向に、あらゆる角度に存在し、正回転、あるいは逆回転し、世界をどこかへと導こうとする歯車。そして、その歯車の中に無数に存在し、歯車の回転を決める『人間』という存在。
 老猫の言葉は、そのような意味だったのかもしれない。

(導く……)

 カグラは猫の隣に座った。強い雨のためか、相変わらず他に人はいなかった。
 老猫の言葉は、カグラの心に強く響いた。

(ありがとう、おじいちゃん)
(君は魔法使いなんだね。私も少し魔力を持っていて、普通の猫よりも長生きなんだ)
(そうなの?)
(『マルス』。他の猫は私をそう呼ぶよ)
(マルスおじいちゃん。今、この世界は大きな波乱を迎えようとしているって、誰かが言っていたんだ。僕はそれに――巻き込まれようとしているのかも、しれない)
(だとするならば、その流れは変えなければいけないな)
(うん)
(君のような若い力が、世界の運命を変えるのかもしれない。アダムがかって、そうしたように)

 その言葉は、カグラには理解できなかった。だが、カグラは一つの決意をした。
 これから先、必ずどんなことがあっても生き延びよう、と――


「あ、あの、すいません」
「あ?」
「実は、ちょっと追われていて。助けて頂けませんか」
「……」
「ちょっと、側に置いてくれるだけでいいんです」

 イロハはカグラを無視した。だが、カグラは続けた。

「役に立てると思います」
「立つわけねえだろ馬鹿が。どっか行け」
「今、あの人達はキリア・タンバとイヴをホテルに探しに行き、居なかったと報告をしています」

 それが、カグラの能力だった。考えていることであれば、カグラは聞くことができる。イロハと一緒であれば、魔力など隠しても無意味だ。

「なんだと?」
「今、丘の方へ向かうという報告を受けたようです。彼等もそこへ向かいます」
「……本当なのか」
「これくらいの距離なら、ボクは聞くことができます」
「てめえ、能力者か。どうして俺に助けを求める」
「あなたも、能力者でしょう?」
「はぁ?」
「噂は聞いています、あなた、神速の狂乱者さん、ですよね。少なくとも、ガルベア連合の味方ではない」
「……分かったよ、付いて来たきゃ勝手に付いて来い。死んでも知らんが」

 つっけんどんな言い方をする男だった。だが、墓場での「声」を聞いてしまったカグラには、どうしても怖い人間とは思えなかった。おそるおそるフードを取ると、イロハは驚いた。

「か、カグラ・キサラギと申します。よろしくです」

 イロハはカグラの登場にも動じず、ひたすらに何かを追い掛けていた。
 イロハの目は異様なまでにぎらついていた。思わずカグラはイロハに話し掛けた。

「あ、あの、何か喋りませんか」
「黙ってろ」

 イロハの震える指が、落ち着きのない瞳が、丘を目指した。ガルベア連合王国に一体何があったのだろう。カグラにはその理由は分からなかったが、ただイロハの目的が一つ、達成されるのかもしれないということだけが分かった。

「……怖いんですか?」
「あ?」
「強がっているけど、あなたは本当はとても弱い人のように見えます。少なくとも、ボクには」
「……」
「神速の狂乱者だ、殺人鬼だなんて言われていたけど、ずっとそう思ってた」

 おそらく、姉を失った。そのとき、カグラは一つの言葉を思い出した。

『そう。魔法です。私の知っている段階では、センジュという元守護隊――今は軍隊に所属していますが。彼が発見した『イロ』という魔法使いを捕獲することで、連合王国はある法則を立てた』
『一度に沢山の能力を使う『魔法使い』と、一つのことに集中している魔法使い。これを『能力者』と呼ぶことで、連合王国は能力者にターゲットを定めました。魔法使いには、単体では歯が立たないかもしれない。だが、能力者ならどうにかできると『イロ』の一件で、予測を立てたのです』

 「イロ」と、「イロハ」。カグラが雨に打たれながら聞いた、「姉さん」という声。イロハにとっての「姉さん」とは、もしかしたら――
 思ったが、カグラがその言葉を口に出すことはなかった。

「できることがあれば、手伝います」
「……キヒッ。子供に俺の仕事を手伝わせるわけにはいかないねぇ」
「……」

 その後、カグラは見晴らしの良い丘でライドと出会う。咄嗟にカグラは隠れるが、何故かイロハはライドと向き合った。

「……なんだ、貴様は」
「アンタ、ガルベア連合王国の守護隊だな? それにしちゃ弱いねえ、信じられない弱さだ。ロハ、やめなさい。口が悪いわよ」
「私を愚弄すると許さんぞ」
「全く、がっかりだよ姉さん。せっかくセンジュの尻尾を捕まえたと思ったのに。心配しないで、そのうち見付かるわ。キヒッ」

 刹那、イロハは消えた。たった五秒ほど見えない時が続いたかと思うと、まわりで苦しそうに動いていた仲間が動かなくなっていた。
 カグラは驚いた。あれが、神速――

「ゴミしか残ってねえ。キヒッ、一応聞いておくぜ。センジュって奴を知らないか、そこのゴミ」
「な、んだと……」
「知らないのか? 知らないよなあ。お前ごときでは知ることはないだろうなぁ。キヒヒ、なんてこった。期待したのによ」
「き、貴様何者だ! 何故私達を攻撃する!」
「ガルベア連合王国は等しく罪だよなぁ。ここで殺しておくか」

 イロハはどうして、そこまでガルベア連合王国を憎むのだろうか。

「いいか、いいこと? お前達守護隊の中に、センジュって奴が居る。俺はそいつを探してるんだ、知っていたら答えろ。知らなきゃ殺す」
「……守護隊は、他の隊のことは情報にはない。そういうものだ」
「あー、なんだか随分前にもそんな事を言われた気がしなくもないねぇ。キヒ、キャキャキャ! そうか、お前はまた別の目的で、能力者捕獲をしていたということか……」
「一体貴様はさっきから、何の話をしているのだ! 私はキリア・タンバを捕獲するためにここに来ている、それ以外の理由などないわ!」
「そうか。じゃあ死ねよ」

 イロハはライドに向かって飛び掛った。

「イロハさん!」

「やれやれ。キリアを追ってきたつもりだったんだがな」
「キシシ。懐かしいな、ジオン・テイスト! お前も現れるたあ、今日はついてるぜ」

 カーキ色のベストに迷彩柄のシャツ、指貫グローブ。金髪の短髪に、左目に眼帯をつけた男。
 昔、どこかで彼を見た気がする。そうだ、守護隊十三番隊がどうのというニュースで……

「すまん、ちょっとどこか安全な場所へ避難させてやってくれ。誰のかは知らないが、関係者なんだろ?」

 そう言って、ジオン・テイストはライドを投げてよこした。カグラは迷ったが、ライドを連れて非難することにした。
 スターランドに探しに来たライドがこの状態なのだ。暫らくは、ガルベア連合王国の手が止まるかもしれない。

 カグラはライドを連れて非難した。イロハの所在が分からなくなってしまうが、どの道ジオン・テイストとイロハの戦いに巻き込まれる訳には行かなかった。カグラはライドをホテルまで引き摺り、介抱した。

『優しい世界を、つくるためだ』

 何故か、ゴロウ・ダイジやステマ・ロサとは違い、この男は信用できるような気がしたのだ。簡単に人を捕獲したり、殺すような人間ではないように思えた。イロハの居場所は、魔力の流れを感じることで分かっている。イロハはジオン・テイストとの戦いの後、どこかに連れて行かれたようだ。おそらく、休める場所だろう。

 そして――……

「……」

 ライドがゆっくりと目を開けた。カグラは少し安心した。

「……ここは……」
「ライドさん、気が付かれましたか」
「……! 貴様は……」

 ライドは目を見開いた。激しく起き上がった衝撃で、ベッドが揺れる。
 能力者捕獲の件があるせいだろう。カグラは努めて、何でもない振りをした。ライドはカグラが落ち着いているからか、暫くカグラの顔を眺めたのち、ため息を付いた。

「……何故、貴様がここにいるのだ」
「色々、ありまして」
「男の方はどうした」
「? ボクは男ですよ?」
「……」

 ライドは一瞬「わけがわからない」といった顔をしていたが、何も聞かない事にしたらしい。カグラから目を逸らすと、歯を食いしばった。

「ダイヤモンド・シティにも、もちろん行ったのだな、ガルベア連合王国の人間が」
「はい。ゴロウ・ダイジという人間を筆頭とする軍隊が来ました」
「そこでお前は、襲われたのだな」
「はい」
「能力者捕獲と称して、おそらく襲われたのだな」
「はい」

 ライドは何かを考えているようだった。カグラはリンゴの皮をむき、テーブルに置いた。椅子に座ると、ライドはまっすぐにカグラの目を見た。

「ジオン・テイストという男を見たか」
「さっき、そこで見ました。気絶したあなたを、ボクの方に投げてよこしました」
「……そうか」

 ライドは立ち上がった。痛みに悶えながら、服を着替え、自身の剣を腰に構えた。

「すまない、世話になったな」
「もう、出て行かれるんですか?」
「ああ。ガルベア連合王国に戻る」
「そう、ですか」
「私はここで貴様と出会わなかった。そういうことにしておいてくれ」

 やはり、ライドはカグラを捕まえる気がない。……どうして、これほどまでに連合王国内部でも差があるのだろうか。そう問い掛ける余裕もないまま、ライドは部屋を出て行った。
 しばらくぼんやりとしていたカグラだったが、ふと気付いて立ち上がる。

「……イロハさん」

 カグラはフードを被り直し、イロハの魔力を確認し、その方へと向かってゆく。だが、途中でカグラは話しかけられた。

(こんにちは)

 カグラが振り向くと、そこには猫がいた。以前も見た、知識深い老猫――マルスだ。
 カグラは少し嬉しそうな声音で、マルスに声を掛けた。

(マルスおじいちゃん)
(少年は、これからどこに行くか決めたかね?)

 答えは、まだ出ていなかった。カグラは俯いたが、その反応がマルスには分かっていたようだ。ふと顔を上げると、イロハの魔力を感じる方角を見た。

(イロハの中で、何かが解決したようだな。ガルベア連合王国へと向かうらしい)

 能力者捕獲が行われている、連合王国の本部へ――……? 何のために、と一瞬カグラは聞こうと思ったが、すぐにその理由は分かった。

(姉を助けるそうだ)

 そうか。彼は、彼の人生にけじめを付けに行くんだ。イロハの中で何が変わったのかはカグラには分からなかったが、おそらくそうなのだろう。

(お姉さんは、まだ生きているの?)
(それは、私には分からないが)

 だが、連合王国に行く以上は、連合王国に姉が居るということだろう。
 そうか――……。イロハの姉は、もう一人のカグラのように他界した訳ではないんだ。それが分かったことで、カグラは少しだけ安堵した。姉を探し続ける彼は、とても寂しそうだったから。

(少年は、これからどうするんだい?)
(ボク? ……ボクは……とにかく、ガングさんが助けに来るまで生き延びないと)
(ガングさん?)
(今、ガング・ラフィストという人が戦力を探して、ガルベア連合王国をどうにかしようとしているはずなんだ。ボクは、それを手伝うかもしれない)

 マルスは、じっと動かない。何かを考えているようだった。

(……なるほど。ならば、私も付いて行こう)
(え、どうして?)
(何か、世界が大きく変わるような気配があるのだ。突如として、嵐の中心に現れた黒い影のような、何かが――以前から、魔力そのものは感じていた。だが、これは魔力ではない――思念だ)

 マルスの言っていることは、半分以上カグラには理解できないものだったが。それでも、カグラはマルスを抱え上げた。どんな事情があろうと、仲間が増えることは心強い。
 カグラは、生きていくための仲間を作らなければいけなかったから。

「……あ、君は」

 声がして、カグラは振り返った。そこに居たのは、いつかのぼさぼさ頭の茶髪と、眼帯をつけた金髪の男――ジオン・テイストと、キリア・タンバだった。
 今の今まで主張しなかった兎の耳が思い切り跳ね、フードがめくれた。

「……あ」
「カグラ?」
「なんだキリア、お前の知り合いか?」
「うん、ちょっと喫茶店でね」

 慌ててフードを戻そうと思ったが、もう遅い。カグラは苦笑いをした。

「なんだこの耳、すっげぇな……本物?」
「ぎゃっ!?」

 突然捕まれて、思わず素っ頓狂な声をあげるカグラ。そこに、またも声が掛かった。

「あ、ガキじゃねえか」
「……イロハ」
「ジオン、アタシも連れてけ」
「え?」
「ガルベア連合王国にたてつくんだろ? 俺も行くって言ってんだよ」
「……本当か」

 事情は分からなかった。だが、カグラはイロハがジオンに声を掛けたことに驚きと、喜びを感じた。
 イロハは無言でカグラを指差した。

「コイツも連れて行く。能力者だ」
「――え?」
「俺の連れだ。文句は言わせねえ」

 ジオンとキリアが、驚いてカグラを見る。唐突なことで、カグラは慌てた。

「ふぇっ!? えと、ボクは――、人が来るまで逃げないといけなくて、その……」
「追われていたところを助けた。お前の能力も利用させてもらう」

 事情が事情だったので、カグラには反論の手段がなかった。
 カグラは、一同を見渡して言った。

「あ、あの、あなた達は?」
「俺達は、ガルベア連合王国の戦争を止めるためのチームだ」

 戦争を、止めるための、チーム。カグラは心の中で繰り返した。
 もしかして。もしかしたら。カグラの中に、期待が生まれた。
 カグラは、おずおずと上目遣いでジオンに言った。

「……ガング・ラフィストという人物をご存知ですか?」
「あれ? 知ってるのか?」

 目の前が晴れたような感覚だった。
 ちゃんと話は進んでいた。カグラが今まで逃げてきたことは、決して無駄ではなかった。
 ガング・ラフィストだけが、この戦争において最も知識を持つ者であり、カグラがすがろうとしていた大木だった。

「ぼ、ボクも手伝います!」
「ガングの知り合いなのか?」
「はい、ボクも能力者です。カグラ・キサラギと申します」
「ボクっ娘にうさみみに金髪ツインテール……狙いすぎたとしか思えない……」

 そう言ったのはキリアだ。大昔、自分も同じ感想を持った、とカグラは思う。

「カグラは何ができるんだ?」
「あ、えと、動物と会話……とか」
「カグラはアタシと居たとき、遠く離れた奴らの会話を聞いていたぜ」
「耳が良いのか」
「あの、耳が良いというよりは、テレパスで、その……」

 大柄な男が沢山居ると、どうしても気後れしてしまうカグラだった。

「な、怖がらなくても大丈夫だ。よろしく頼むぜ、カグラ」

 それは、新しい出会いだった。こうして、カグラ・キサラギがジオン・テイストの仲間となった。

「ジオン、こんなに小さな女の子、連れて行って大丈夫かな?」
「は? ……カグラ、おまえ男だろ?」
「はい」
「はぁ!? え、男!?」
「どっからどう見ても男だろ?」

 カグラは苦笑いをした。




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