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No.30901の一覧
[0] コードギアス 追想のスザク[みさき](2011/12/18 02:54)
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[30901] コードギアス 追想のスザク
Name: みさき◆16fe1895 ID:29145f31
Date: 2011/12/18 02:54
「これより、お前がゼロとなる。世界の為に励め」

「ハイ!」

嗄れた声は、加工された音声となっても老いを隠せなかった。そんな老年であろう仮面の男から新調された仮面を受け取る青年、これより青年は世界に存在しなくなり、新たな仮面の男として新生した。
深々と一礼し新たな仮面の男は颯爽とマントを翻し自分を求める弱者達の元へ向かう、もう二度と振り返りはしない、例え先代の仮面の男が自分を戦場から救いあげ今日まで生かし育ててくれた恩人であり義親であるとしても、これが最後の会話と知っていても。
記号となった男に私は求められない、ただ結果を生み出す……英雄と言う名の装置と化したのだから。

「立派になったものだ」

残された仮面の男はゆっくりと仮面を脱いだ、数十年前の整形手術によって以前までの特徴を潰し新しい特徴を植え付けた素顔を何年か振りに鏡で確かめた、自分でも戸惑うぐらい別人としか思えない男が其処には居た。面影が有るのは髪色ぐらいか。
これなら知人でも気付かないだろう、誰も己の正体に迫る事は無い、仕掛けた小型爆弾で仮面を壊し特徴的なスーツと共に燃やした。これで証拠は遺らない、ただの老人としての服装に身を包み義息子と……ゼロとは別の出口から外へ出た。

それから2ヶ月。
ゼロが黒の騎士団を率い某国の紛争に対し介入を始めたニュースで世界は持ち切りになった、正義の象徴である生きた英雄の活躍に喝采の声が集う。自分と違い戦略面にも明るいゼロに満足し、男は朝食を終えた。
大きな茶碗に対して小盛りのご飯と豆腐以外具のない味噌汁で腹を満たす。明らかに食欲が落ちている、数分歩いただけで息切れし動悸も激しい、死期が近づいている。
何とか自分が死ぬ前に後継者を一人前に出来た、それだけが何も無い男に残された誇りだった。

「ああ、どちらかと言えばキミに似てるよ。KMF適正はキミの比じゃ無いけどね」

テレビと卓袱台、電子レンジにガスコンロ、小さめの冷蔵庫と目覚まし時計、その他必要最低限度の物しか無い小さなアパートの一室が男の終生の居場所だ。その中で三つ程ある写真立てに映っている一人に向かって男は語り掛けていた。
その人物は世界史に名を残し今も尚一部の人々の記憶に鮮烈に刻まれている忌まわしい存在、悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。親しげに語り掛けるその姿を誰かに見られれば反体制派と罵られ悲惨な目に遭うだろうが、今の男にはどうでも良い事だった。

「心配しなくても大丈夫さ。私はもう赦してるよ、キミこそそっちで和解はしたのかな?」

二つ目の写真立てに映る人物に朗らかに話し掛ける。其処に居る人物は悪逆皇帝ルルーシュの名にこそ劣るが、旧ブリタニア史に於いて冷酷な虐殺皇女として名を刻まれているユーフェミア・リ・ブリタニアだ。
当時植民地であったエリア11(現 合衆国日本)とはいえ、その行いは同じブリタニア人の目にも凄惨に映った。ただ男の脳裏にあるのは何時も、優しげな微笑みを浮かべた少女の姿。

「ああ、もう耳も聞こえ辛いんだ。キミが死ぬ前にもう一度ぐらい、ゆっくり話してみたかったよ」

三つ目の写真立ての人物へ哀しげに語る。
旧ブリタニア最後の皇帝にして現ブリタニア合衆国初代大統領ナナリー・ヴィ・ブリタニア、堅実な治世で悪逆皇帝ルルーシュの妹であるマイナスイメージを覆しブリタニアに平穏を与えた女性。
僅か40年足らずの彼女の死は早すぎたが、彼女の死を悼む参列者の数を思い起こせば、それはそれで幸せだったのだろう。

「……もう直ぐ逝くよ、ああ、そっちに着いたら思いっきり殴り合おう。
それで綺麗さっぱり遺恨無しだ、また遊ぼう。みんな一緒に、良いだろ? 私達は友達だからな」

話し終えると布団を被り目を瞑る。
起きている時間も少なくなってきていた、ゼロが紛争を平定する頃までは保たないだろう。それが見れない事が、後悔と言えば後悔だった。

そして更に1ヶ月経った。
秋の足音が聞こえ出した9月、一人の少女が男の元を訪ねた。鮮やかな翡翠色の長髪と類い希な美貌、適当に有り合わせただけの服装ですら気品さや優雅さ、妖艶さを際立たせている正に美少女と言って差し支えない少女──名をC.C.と言う。

「久し振りだな枢木スザク、思ったよりは元気そうじゃないか」
「……懐かしい名だね、確か悪逆皇帝ルルーシュの騎士だった男の名だ」
「ふっ、博識だな。まだ惚けてはいないらしいな、名無しよ」

以前はピザにハマっていた彼女は今はハンバーガーにハマっている。ボリュームたっぷりな土産を手渡され男は苦笑する、こんなものは食べれない。
いらないと突き返したら不満そうにしていたが、直ぐにかぶりついたので元々期待はしていなかったのだろう。今でも連絡を取り合っている知り合いは、この共犯者仲間だけだ。身体の事はよく知っている。

「どんな気分なんだ、死に向かうというのは。私はまだ1000年ぐらいは死ぬ気は無いのでな、想像すらつかない」
「正直に言えば……安堵していた。若い頃は考えもしなかった、一秒でも長く、永く、この世界にしがみつくつもりだったが」
「……」
「幸いにも後継者に恵まれた。こんな老骨では、世界の為に何も行えないからな……だから安堵していた」

C.C.は言葉尻の違和感を確かに捉えていた。
『安堵していた』
過去形なのだ。これは、つまり嘗ての思いと今の思いが裏腹な事を示していた。元より彼女が此処に呼ばれたのはその違和感が理由だ、死に顔を看取る等というセンチな感情はない。

「夢にね、ルルーシュが出て来て叱られたんだ。
『俺は世界の為に全てを捧げて貰うと言った筈だ』と『なのにお前は安穏と死ぬ気か』とね」
「……」
「解ってるんだ。ルルーシュは多分そんな事は言わない、これは私の思いだ。世界に全てを捧げると嘯いておきながら、ゆっくりと死に向かおうとしている自分に対する心の告発だ。
そう、今私にあるのは……やはり生への渇望だ」

視線をC.C.に向ける、燃え上がる様な瞳をした男は死を目前に控えた老人のそれでは無かった。

「それで、生を求めるお前はどうするんだ?」
「ギアスが欲しい」
「おいおい、今から契約して達成人にでもなるつもりか? 悪いが、私の見立てでは最短でも年単位は必要だぞ、お前の寿命には間に合わない。コードを譲る気も無い」
「解っている。ただ、私には力が必要なんだ。世界に全てを捧げる為に、この命が尽きる最後の瞬間まで立ち続ける力が要るんだ!」
「お前……」

立ち上がった男に数ヶ月前までの儚さは何処にも無かった。薬物投与による肉体強化、機械による心肺機能補助、外部骨格の特殊スーツ。
機械を埋め込む為に切り取った胃や腸・膵臓や肝臓では最早ハンバーガーすら消化吸収できないが、もう経口接種による栄養補給は考えていない。健康体を改造しても半年も生きられないような無茶な改造はKMFを動かす為の、正しい意味でロイドが嘗て求めたパーツへと男を変貌させていた。

「使える物は何でも使う気になっただけだ、私の操縦技術は未だに世界最高水準。身体への負担も考えなくて良い、一騎当千の兵器に私は成り得るだろう」
「……馬鹿だな」
「よく言われたよ」

男とC.C.は契約を交わした。
残念ながら戦闘に役立つ力は得られなかった、特定条件で発現する力だと想像されたが確かめる時間は既に無かった。ロイドとセシルとラクシャータが設計した安全性を度外視し造り上げた第十七世代型KMFをリミッターすら取り外し、男は戦った。
高度な医療器械もさることながら、常に死の淵に片足を浸けながら戦う男に『生きろ』という親友からの願い(ギアス)は何よりも力強く衰えた身体を支え続けた。僅か一週間で両軍合わせ5万以上にも及ぶKMFや兵器群をたった一人で潰し、紛争の終結宣言を耳にしながら彼の瞳に宿り続けた淡い輝きが消えた。心拍の停止を確認したKMFは、予め入力されていた『ゼロに関する秘密保持』に基づき、誰も居ない高野で爆散・主人と共に暁へと消えた。

「──今回の紛争で少なくない犠牲が出てしまった、しかし、今はそれを嘆く前に被災した住民たちを救わねばならない。
ゼロが命じる! 全ての戦闘行為を停止し、人々を救い出すのだ!!」

ゼロはまた正義を行った、その過程の中に消えていった男など誰も知りはしない。ただ結果だけを享受し、世界は再び平和への道を歩み始めた。



 ──????──



夢を見ているのだろう。
走馬灯、死の間際に己の生涯を追体験するという現象。それなら幼く楽しかった10歳の頃を思い出したかったのに、どうやら名誉ブリタニア人としてシンジュク・ゲットーで毒ガスを捜索する場面らしい。
ああ、よく覚えている。身体を動かしながら、当時と殆ど同じルートを進んでいく、やがて対象を発見したが小五月蝿い指示に従う気は無かった。

「ああ、確かもう直ぐ」

呟いている内に見覚えのある後ろ姿に気付く、あの時は気付かなかったが起動スイッチを探っている動きでは無かった。
懐かしみながら、はて自分は何を言ったか思い出そうとしたが──まあ走馬灯の自分が勝手に喋るだろうと歩いて近付く。足音で自分に気付いたのだろう、明らかに動揺し狼狽してる様は可笑しく思わず笑い声が漏れた。それが勘に障ったのだろうか、キッと力強く睨み付けてくる記憶の中のルルーシュ。

「──武器を持たない所を見るとお前は名誉ブリタニア人か、この毒ガスを回収しに来たんだろう? 判っているのか、お前達ブリタニアがこんなものを造るから何の関係もないブリタニア人やお前達と同じ日本人までも傷つくんだぞ!」

ああ、彼はこの惨事に対し正しい怒りを抱いている。この時点の彼はギアスなんて超常の力を持たない、国に捨てられた皇子として、妹を守ろうと苦心している一人の兄でしかなかった。
自分にとっても単純に、親友だった。

と、思考に没頭していたがどうやら怒っている。何も答えないのが腹に据えかねたのか、口喧しくまくし立てる様は本当に彼らしいと男は思い──はて、こんな展開では無かった筈だがと首を傾げた。それも怒りの火に薪をくべる行為でしかなかったとは、残念ながら気付けなかった。

「──ふざけるなよっ! お前、ブリタニアに魂を売っただけじゃない。クズだ、人の命を何とも思えないのか! だいたい──」

右から左に聞き流しつつ自分が喋るのを待っていたのだが、一向に喋らない。おかしい、この頃の自分は無口でも冷血漢でもない、ただ善行の果てに死を望んでいた死にたがりの偽善者の筈なのに──

「──おかしいなぁ?」
「はぁっ!? 言うに事欠いておかしいなぁだと、お前……つくづくふざけた奴だ!」
「あれ、何で私の言う事にルルーシュが答えてるんだ?」
「ル! な、何故お前が俺の名を知っているっ!」

完璧にテンパったルルーシュ、間違い無くこれは過去の出来事と違う。全く意味不明だが、どうやらこの走馬灯は参加型らしい。どうせ終われば死ぬだけ、まほろばの夢とは言え久々の再会だ、楽しく語り合ってみるのも良いかもしれない。
ヘルメットを緩め素顔を晒す、場面が変わらない内に嘗ての自分の素顔を見てみようと心に決めながら何十年ぶりかの親友に挨拶をした。

「わた……俺だよルルーシュ、ぜr、じゃなくて。スザクだ」
「……はひぃ、ス……スザクぅ?」

戸惑い続けるルルーシュが、とても懐かしくて、とても可笑しかった。高らかに笑う男、スザクは本当に久々に笑った。









スザク逆行もの
原作再構成
一期二期視聴前提
C.C.から受け取ったギアスが原因

その内ネタバレします


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