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No.3089の一覧
[0] NARUTO うちはルイ暴走忍法帖[咲夜泪](2010/06/23 02:13)
[1] 巻の2[咲夜泪](2010/06/23 02:30)
[2] 巻の3[咲夜泪](2010/06/23 02:36)
[3] 巻の4[咲夜泪](2010/06/23 02:54)
[4] 巻の5[咲夜泪](2010/06/23 03:02)
[5] 巻の6[咲夜泪](2010/08/03 21:09)
[6] 巻の7[咲夜泪](2010/06/23 03:13)
[7] 巻の8[咲夜泪](2010/06/23 03:23)
[8] 巻の9[咲夜泪](2010/06/23 15:36)
[9] 巻の10[咲夜泪](2010/06/23 15:47)
[10] 巻の11[咲夜泪](2010/06/23 16:44)
[11] 巻の12[咲夜泪](2010/06/23 17:00)
[12] 巻の13[咲夜泪](2010/06/23 17:16)
[13] 巻の14[咲夜泪](2010/06/23 17:23)
[14] 巻の15[咲夜泪](2010/06/23 17:37)
[15] 巻の16[咲夜泪](2010/06/23 17:45)
[16] 巻の17[咲夜泪](2010/06/23 17:52)
[17] 巻の18[咲夜泪](2010/06/23 18:01)
[18] 巻の19[咲夜泪](2010/07/01 23:34)
[19] 巻の20[咲夜泪](2010/06/23 18:13)
[20] 巻の21[咲夜泪](2010/06/23 18:42)
[21] 巻の22[咲夜泪](2010/07/01 23:39)
[22] 巻の23[咲夜泪](2010/06/23 19:09)
[23] 巻の24[咲夜泪](2010/07/01 23:54)
[24] 巻の25[咲夜泪](2010/07/01 23:59)
[25] 巻の26[咲夜泪](2010/07/02 00:10)
[26] 巻の27[咲夜泪](2010/06/23 19:42)
[27] 巻の28[咲夜泪](2010/06/23 22:52)
[28] 巻の29[咲夜泪](2010/06/23 23:01)
[29] 巻の??[咲夜泪](2010/06/23 23:07)
[30] 巻の30[咲夜泪](2010/07/02 00:43)
[31] 巻の31[咲夜泪](2010/06/23 23:29)
[32] 巻の32[咲夜泪](2010/06/23 23:36)
[33] 巻の33[咲夜泪](2010/06/23 23:51)
[34] 巻の34[咲夜泪](2010/06/24 00:31)
[35] 巻の35[咲夜泪](2010/06/24 01:19)
[36] 巻の36[咲夜泪](2010/06/24 00:38)
[37] 巻の37[咲夜泪](2010/06/24 01:00)
[38] 巻の38[咲夜泪](2010/06/24 01:05)
[39] 巻の39[咲夜泪](2010/06/24 01:26)
[40] 巻の40[咲夜泪](2010/06/24 01:37)
[41] 巻の41[咲夜泪](2010/09/10 01:08)
[42] 巻の42[咲夜泪](2010/07/07 03:50)
[43] 巻の43[咲夜泪](2010/07/20 02:03)
[44] 巻の44[咲夜泪](2010/07/30 20:06)
[45] 巻の45[咲夜泪](2010/08/03 02:20)
[46] 巻の46[咲夜泪](2010/09/07 06:26)
[47] 巻の47[咲夜泪](2011/01/12 13:50)
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[3089] 巻の9
Name: 咲夜泪◆ae045239 ID:ceb974ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/23 15:36


 巻の9 岩隠れの下忍班と遭遇し、生死の境で舞い踊るの事


「根性ベルトを外してその巻物の中に入れとけ、手早くな」

 カイエは木ノ葉ジャケットのポーチから巻物を二個取り出し、内一つをルイ達に渡す。
 取り出した巻物は口寄せの術式が書かれた物であり、カイエは勢い良く開封し、暗部の死体を瞬時に収納する。

「中忍試験まで外す機会が無いと思っていたけど、案外早かったねー」

 三人は四肢の重しを外し、口寄せの巻物に収納する。
 ルイとヤクモは軽くなった身体を動かしながら確認し、ユウナは忙しく周囲を見回し、暫くして一点を見据えて止まる。

「――見つけた。東の方角一キロ」
「ユウナはそのまま目標を監視、飛ばして行くぞっ!」

 カイエは檄を飛ばし、獰猛な速度での移動を開始する。
 三人は自身の身体の軽さに驚きを抱きながら、飛び跳ねるようにカイエの後を追う。

「ユウナ。私特製の兵糧丸よ、効力は仙豆までとはいかないけど抜群よ」
「……ありがと、それとルイは大丈夫なのか? さっきから写輪眼のままだぞ」

 対象を監視しながら、若干不安な説明をされた兵糧丸を口にし、特有の苦味に顔を歪ませながらユウナは尋ねる。

「ああ、月読なら高々数分足らずだから何とも無いよ。それに普通の写輪眼なら常時発動していても支障無いわ」

 その揺るぎ無き自信に満ちた言葉に、ユウナは頼もしく思える。性格面では多大な不安要素があるものの、その実力には全幅の信頼を置いていた。




「えーと、君が岩流ナギ、かい?」

 程無くして護衛対象まで辿り着き、カイエは敵意を持たれぬよう細心の注意を払って質問する。
 最初の様子では虎に追われた兎のように怯えていたが、腰元やら鞘にある木ノ葉印の額当てを見た直後、震えは止まり、希望に満ち溢れたような表情に変わる。
 不可解な事だが、木ノ葉に関して何か特別な感情を抱いている様子だ。この分なら無駄に抵抗される恐れは無いだろうと私は内々で分析する。

「木ノ葉隠れの忍……? 良かった。お願い、私を木ノ葉隠れに連れていって! この間々じゃ殺されちゃう……!」

 怯えて取り乱す黒髪の少女をあやすようにカイエは笑顔を浮かべる。
 私からすれば自業自得過ぎて呆れが先に来る。無謀な暴挙で一体何人が犠牲になったのか、この少女は理解しているのだろうか。

「……あー、勿論そのつもりなんだが。とりあえず落ち着いてくれ。オレ達は任務で君を木ノ葉隠れの里まで護送する。道中の細かい指示はオレに従ってくれ、いいな?」
「は、はい。お願いします」

 出会って間もない他の里の忍を信頼するとは随分幸せな脳みそだ。
 人柱力という難しい立場も考慮した上で、これぐらい鈍くないと情緒不安定で精神が危ういのだろうか。

「それじゃとっととずらかる――ッ!?」

 地が猛烈な勢いで割れ、隆起し、私達はものの見事に分断された。
 此処まで敵の対応が早いのは予想外だと私は舌打ちする。第一陣の暗部はこの少女が平らげたのだから、第二陣はまだ掛かると踏んでいただけに余計焦る。

「……わわ、そんな、もう追手が……! 其処の写輪眼の人、どうしましょう!?」
「落ち着け取り乱すな騒ぐな喧しい。さっきも容赦無く皆殺しにしたんだから相手が何であれ楽勝でしょ?」

 私以上に慌てる人柱力の少女を尻目に、冷静に突っ込む。
 あれだけの惨劇を繰り広げたのだから戦闘面では非常に頼りになるだろう、というか、私に楽をさせろという期待を籠める。

「え、ええ、えーとぉ、さっきのはその私じゃなくて私の中のあれが勝手に――と、ともかく今の私は戦力外も良いところです!」
「人柱力の癖に役立たずね。力の制御ぐらい完璧にしておきなさい」

 何処の邪気眼だと突っ込みたかったが、此方側の人間に向こう側のネタは通じないので自重する。少女の話から突発的に暴走する可能性があるという事を考慮に入れる。

「わわ、ごめんなさいっ! あ、でも何で私が人柱力だって事を……?」
「お喋りは其処までよ」

 敵の気配を感じ取り、その方向を睨みつける。
 現れたそいつは岩隠れの額当てをした私と同年代のくノ一だった。幸運な事に暗部じゃない。これなら万華鏡写輪眼を使わずとも殺せるだろう。

「――見つけたわ、ナギ。今ならまだ間に合う。一緒に里に戻りましょう!」
「ご、ごめんなさい、レンさん! この間々じゃ私、殺されちゃう。だから、友達としてお願い、見逃してッ!」

 まるで里抜けしたサスケを追うナルトだな、と冷めた眼差しで眺める。
 二人は感情的になりながら白熱していく。この私を無視するとは良い度胸だ。

「馬鹿を言わないで! 貴女の居場所は此処にしかない、木ノ葉なんぞに逃げても今まで以上に酷い目に――っ!?」

 下手な説得を続けるくノ一に不意討ちのクナイを浴びせるが、残念な事に避けられた。この程度で仕留めれるなど楽観視はしてなかったが。

「――クッ、木ノ葉のくノ一め! 邪魔をするなァ!」
「目障りだから消えてくれない?」




「てぇやッ!」

 土遁・裂土転掌。地面に亀裂を及ぼす、岩隠れでは基本的な忍術である。
 術者のチャクラ次第で術の規模が大きく変わり、うちはルイが対峙したくノ一の場合は周囲の地面が一気に隆起し、生き埋めにせんと覆い被さるほど強烈な忍術となっていた。

「――ふん」

 チャクラの量が段違いで既に下忍の領域では無いと冷静に分析し、うちはルイは崩れる足場を次から次へと目まぐるしく疾駆し、大地の破砕を諸共せず踏み越える。

「チョコマカと――ッ!」

 その眼にも止まらない俊敏な回避動作に合わせて数枚の手裏剣とクナイが投擲される。
 重き枷から解き放たれ、己の身体が淀みなく動かせる事に戦闘中でありながらも満足し、ルイは四方八方から飛翔してきた手裏剣とクナイを全て掴み取り、瞬時に投げ返す。

「――!」

 以前のうちはルイは如何なる超速度も見切れる眼を持っていたが、その眼に見合った身体能力が無くて対応出来なかった。
 だが、着実に積み重ねた日々の努力は芽吹き、彼女の戦闘能力を格段に向上させていた。
 嘗て幾多の並行世界で培った戦闘経験を最大限に生かす事は出来ずとも、目の前の敵ならば十分すぎるとルイは口元を歪ませる。

「いい気になるなァ!」

 自分の凶器が迫り来る中、岩隠れのくノ一は地に手を掛ける。板状に引き剥がして垂直に立て、手裏剣とクナイの嵐を防ぐ即興の盾とする。

「それは悪手でしょ――」

 この土遁・土陸返しは文字通り土の防壁に過ぎないので、威力次第では簡単に崩せる。
 だが、ルイはこの前哨戦風情にチャクラを消耗させる気が欠片も無かったので、手持ちの手裏剣を二つ投擲して疾駆する。

「――チィ!」

 緩やかな曲線を描く軌道は壁を無視し、その先にいるくノ一を襲う。
 咄嗟に気づいたくノ一は紙一重で避け、印を結びながら土の防壁から抜け出し――その直後、クナイで首を刎ね飛ばされた。

「自分の視界を遮るなんて愚かね」

 ルイは転がるくノ一の首と地に倒れた首無し死体を一瞥する事無く背後を見せ、人柱力の少女と共に分断された仲間と合流すべく移動しようとした。
 ――突如、背後から押さえられ、身動き出来なくなるまでは、である。

「なッ!?」

 ルイは珍しく動揺の色を見せる。自身を背後から拘束する者は先程の首無しのくノ一だった。一向に力は緩まず、全身全霊をもってしても振り解けなかった。

「岩隠れの土分身の術は初めてかしら?」

 正面の地面が割れ、くノ一が這い出てくる。顔や衣服を土で汚れながらも勝ち誇ったように嘲笑う。

「確かに土遁・土陸返しは視界を遮るわ。けれどもそれは私だけじゃなく貴女も同じ事よ」
「――あの時、既に……!」

 ルイは驚愕で眼を限界まで見開く。
 その表情を満足気に眺めてから、その額にクナイで深々と穿ち貫く。ルイは眼を見開いた間々、壊れた人形が如く力無くかくんと項垂れた。

「そうよ。土壁で視界を遮ると同時に土分身と入れ替わり、私は土の中で潜伏していたのよ。まあ、もう聞こえないか。さあナギ、邪魔者はいなくなっ――あ、ぇ?」

 得意げに解説し、怯えるナギの前に立ち塞がろうとした時、くノ一の後頭部にクナイが深々と突き刺さった。彼女は自分を殺した者を視界に入れる事無く絶命した。

「――お喋りが過ぎるし、騙し合いで私に勝とうなんざ一億年早いよ」

 倒れ伏すくノ一の後方には、土塗れのうちはルイが悠然と死骸を見下ろしていた。
 くノ一の土分身が崩れると同時に、額を穿たれて絶命していたルイも同じ様に崩れて土くれになる。

「……一体、どうやって――」

 傍らから一部始終を見届けた岩流ナギさえも、土分身と潜伏術を何処でコピーしたのかは解らなかった。
 土遁・土陸返しで互いの視界が遮られた瞬間、二人は合わせ鏡のように同じ印を結び、土分身を作って本体は土の中に潜伏した。
 幾ら写輪眼と言えども透視眼は併せ持っていない。己の知識を総動員させても不可解な出来事だった。

「長居は無用ね、さっさと行くよ」

 ルイは深刻そうに思い悩む岩流ナギに気づかれないように、大樹の中に隠れて待機させておいた影分身を消す。
 種の仕掛けはこの影分身を経由して下忍の少女の動きをトレースしたのだが、紳士的に説明する謂れも無い。ルイは消費分のチャクラを補うように兵糧丸を一粒口にする。

「は、はいぃ! ……あ、あのう、な、なんでレンさんの死体を……?」

 死体を肩に担ぎ、運ぼうとしていたルイに、ナギは震えながら恐る恐る尋ねる。

「――うふふ、聞きたいの?」

 そのルイの邪悪な微笑みに、ナギは尋ねた事を即座に後悔した。




「はああぁっ!」

 岩隠れの忍の少年が怒号をもって撃ち放った幾多のクナイは、黒羽ヤクモの抜刀の一閃によって悉く切り払われる。

「へっ、舐めんじゃねぇ!」

 凡そ忍者に相応しくない格好で刀を携える少年に対し、岩隠れの忍は交戦する前から過小評価を下していた。
 何故に忍者が侍風情の真似事をしているのか、理解に苦しむ。
 もしかしたら忍術が一切使えないからかと失笑し、さっさと片付けようと大振りの牽制を放った時、自身の救い無い勘違いに後悔する。
 ――術関連が使えないのは有り勝ち間違いでは無かったが、侮っていた実力面は程好く突き抜けていた。

「のれぇよッ!」

 ただ一足で十メートル近くあった距離が零にされ、その驚異的な移動速度を遥かに上回る神速の斬撃が繰り出される。
 嘗て無いほどの危機感が彼を一歩後退させるが、遅すぎた。右薙ぎの一閃は岩隠れの忍の左腕を容赦無く斬り飛ばす。

「ガァ――ッ!?」

 鮮血を撒き散らしながら腕が宙に舞う中、更に一歩踏み込んでの横一文字の一閃が空気を引き裂いて唸りを上げる。
 最初の一撃の最中から取り出していたクナイが漸く間に合い、火花散らせて交差する。しかしながら拮抗は一瞬であり、完全に押し切られて腹部を切り裂かれる。

「――!」

 まるで堅い鉱物にぶち当たったような感触に反応し、ヤクモは瞬時に一時離脱を選択する。
 一瞬遅れて振るわれたクナイの斬撃が前髪を掠め、肝を冷やす。回転しながら後退り、激痛に表情を歪ます隻腕の忍を睨むように凝視する。

「く、いてェ、クソいてェエエエエェェ――!」

 余りの激痛に狂い悶え、忍は咆哮を轟かし、ヤクモを狂気で射抜く。
 相手の術の構成を読み取るのはユウナかルイの役目だが、と内心毒付きながらヤクモは敵の状況を確認する。
 腹の傷は予想以上に浅く、根元から斬り飛ばした左腕部分は既に止血している。更には相手の皮膚の色が黒く変色していた。恐らくは硬化術の一種であり、返す太刀程度では致命傷を与えられないだろう。

(……ちぃ、我ながら情けねぇな。血を見ただけで震えが止まんねぇぜ……)

 この時、ヤクモは大量出血した忍以上に呼吸を乱し、咽喉まで這い上がってきた嘔吐感を必死に我慢しながら全身の震えを止めようとしていた。

(――だが、コイツの屍を踏み越えなければ先に進めねぇ。此処で足踏みする余裕など何処にもねぇんだ!)

 友を想い、師を想い――こんな殺伐とした状況でも飄々と乗り越えるだろう少女を想う。殺人に躊躇する不甲斐無い自分をあの少女が見たなら、間違い無い、躊躇無く背中を蹴り付けてくるだろう。

(は、戸惑う必要なんて欠片もねぇ。――此処で、仕留める)

 奥歯を砕けんばかりに歯を食い縛り、唯一度の深呼吸で乱れた息が静まる。
 ヤクモは正眼の構えを解き、右手の人差し指と中指の二指だけで刀の柄を摘むように握り変え、肩に担いだ。
 その猫科動物が爪を立てるが如く異様な掴みと異形の構えに、溢れる憎悪以上の危機感を岩隠れの忍は感じ取った。

「……ふざけ、やがってェッ! テメェは絶対殺す! 散々痛めつけた上で惨めにぶっ殺してやる!」

 隻腕の忍の身体からチャクラが滲み出る。
 眼に見える程のチャクラが右腕に集中するが、既に印を結べぬ身ゆえに、大規模な忍術や幻術は在り得ない。

「ハン、三流が。殺すという言葉なんざ普通使わねぇんだよ。テメェと同レベルの雑魚等と仲良く呟きあっていればいいさ、クソガキ」

 ルイならばもっと相手の神経を逆撫でするように喋るんだろうな、と内心苦笑しながら挑発する。

「こんの、クソガキがアアアアアアアアアァ――!」

 鬼気迫るほど熱烈な憤怒を露にし、猪突猛進に疾駆する単純な隻腕の忍にヤクモはしてやったりと口元を歪ませる。
 だが、口元を歪ませたのは隻腕の忍も同じだった。
 疾走しながら隻腕で地を叩きつけ、眼下に岩盤状の板を垂直に立てる。間合いに入ったと同時に剣閃を振るったヤクモからすれば予想外の一手だった。

「ッ!?」

 ――それが土遁・土陸返しである事を、ヤクモは知る由も無い。
 岩盤を一刀両断しようが刃が食い込もうが末路は同じだ。その生じた隙を逃さず、土壁ごと粉砕出来るだろう。それだけの破壊力をこの右腕は持っているのだから。
 ヤクモの一撃は土壁を鮮やかに一刀両断した。予想していたより刃の間合いが長く伸びたが、一歩後退するだけで楽に躱した。
 一体どんな忍術を使ったかは解らない。正面から当たっていたら間合いを読み違えて斬り捨てられていただろうが、一手も二手も上に行った為、手詰まりだろう。
 隻腕の忍の誤算は二つ、一つはヤクモの攻撃手段が刀での斬撃のみじゃない事。もう一つは――。

(刃状のチャクラを飛ばした? だが、その程度の攻撃など硬化術の前では――!?)

 その飛翔するチャクラの刃に微弱なれど雷の性質変化が加えられていた事である。
 絶対の鎧だった土遁・硬化術は雷のチャクラに呆気無く蹂躙され、岩隠れの忍は土壁と同じように左斜めに一刀両断された。

「グガァッ!? ……こ、の――俺がぁっ……こんな、馬鹿、なァあ――!」

 地に転がり、半身でのた打ち回る死に損ないの忍の首に、ヤクモは太刀を刺し込み、即座に九十度捻って完全に絶命させる。
 生々しい感触が脳裏から離れず、止まっていた震えを再び呼び覚ました。

「……死んだ。いや、俺が殺した、か――」

 流れる鮮血の濃厚な香り、地に散乱する悍ましい臓物を間近で直視し、ヤクモは我慢出来ずに激しく嘔吐した。
 胃の痙攣が止まるまで中身を吐き出し、ヤクモはふらつきながらも立ち上がる。
 口元を片袖で乱雑に拭き取り、血塗れの太刀の刀身を懐から取り出した和紙で丁寧に拭き取る。今が戦闘中である事を強く意識し、仲間達の下を目指して疾駆した。




「うらあぁあああぁ!」

 馬鹿正直に接近戦を挑む岩隠れの忍に対し、日向ユウナは一撃で仕留めんと柔拳を振るう。
 繰り出される拳を受け流し、その無防備な鳩尾に掌底を食らわせ、経絡系にチャクラを流し込んで内部から破壊する。
 如何なる強者も内臓は鍛えられない。それが日向一族が名門と恐れられる所以である。
 だが、逆に言えば敵対する者達にとって最も警戒され――最も研究し尽くされた業である。

「――!」

 チャクラを流す感触に違和感を覚え、ユウナは更に掌底を当て、岩隠れの忍を吹っ飛ばす。
 本来なら心臓周辺を破壊する手酷い致命傷なれど、忍は平然と仰け反るだけで口元を歪める。

「――フ、流石は木ノ葉最強を謳う日向に連なる者と言ったところか。だが、御覧の通り俺は特異体質でな、他人のチャクラなど欠片も寄せ付けん」

 自信満々に講釈する忍を半ば無視し、ユウナは白眼で観察する。
 経絡系や点穴の位置は他人と同じだが、自身が流したチャクラの痕跡は欠片も無い。

「チャクラが通らぬという事は日向の柔拳が通用せんという事。つまりは貴様の勝つ確率は零という事だ!」

 忍は宣言し、両手から仕込み刀を出して真正面から切りかかる。
 無謀極まる選択だが、相討ちでいいのだ。自身は一撃で仕留められ、相手の必殺は己が身に通用しないのだ。
 従来の日向ならば十八番が封じられ、苦戦を強いられる事になるだろう。だが、ユウナは他の一族の者ほど日向の柔拳を絶対視していなかった。
 ――ユウナの掌が人差し指から握り込まれたのを、彼は迂闊にも見落とした。

「あがっ!?」

 顎が突き上げられ、岩隠れの忍の意識は一瞬飛ぶ。間髪入れず鋭い正拳突きが再び鳩尾を穿ち貫き、下から突き抉る拳は胃の中の酸素を捻り出して全身を硬直させる。

「はあぁっ!」

 続いて肘打ちが心臓部分に直撃し、鈍い音を立てて肋骨を叩き折り、生命活動に支障が出るほどの損傷を負わす。

「ぐオ、おォあ、あアあアアぁッ!」

 苦し紛れに一閃した右腕の仕込み刀は、振るわれた速度より早く手首を取られる。振り解こうにも逆に引っ張られて体勢を崩され、投げられて地面に強烈な勢いで叩きつけられる。
 受身すら取れずに背中を強打し、息を衝撃と共に吐いた直後、全身全霊をもって振り下ろされた死神の鎌じみた足底を彼は幻術を見るような夢心地で眺めてた。
 全体重で踏み抜かれ、地の堅さも相重なって頭蓋を砕かれた刹那――これの何処が日向の柔拳なのか、慢心していた己を問い詰めた。

「勝ち誇った時、そいつは既に敗北している、か」

 数秒余り痙攣し、微動だにしなくなった忍の死体から足を退ける。
 これがユウナが独自に切磋琢磨した業だった。内部を壊す事だけを極意とする日向の柔拳を、外面的な損傷を与える剛拳で再現したのだ。
 内部も外部も一緒くたに破壊する言わば総合的な格闘術であり、両得だと本人は考える。

「――それにしても」

 以前の自身なら己が業で人を殺めれば精神的に痛んだのだろうが、思った以上に平然としている今の自分に驚きを隠せない。
 あの少女と三年も同居し、随分毒されたものだとユウナは心底苦笑した。




「チックショウ! なんでオレと当たるのは人外魔境のNINJAどもばっかなんだぁー!」

 大樹を木っ端微塵にぶち壊しながら突進してくる巨大な土龍を、青桐カイエは紙一重で避け、逃げ回りながら絶叫した。

「フン、木ノ葉の上忍の質も落ちたものだな――!」

 岩隠れの上忍は印を結び、土龍から泥の弾が無数に放たれる。一撃でも当たれば過剰殺傷極まりない猛攻にカイエは舌打ちしながら瞬身の術で高速移動しながら躱していく。
 時折投げる牽制のクナイなど、土龍を操る事に専念している上忍にも当たらない。仕込み刀で切り払われるか、躱されて逆にクナイや手裏剣を投擲されて更に追い詰められるかの不条理な二択だった。
 この一方的に逃げ回る事こそ青桐カイエの主な戦法と言っても過言じゃない。
 相手にチャクラを消耗させ、弱ったところを一気に仕留める。スタミナが飛び抜けている彼だからこそ出来る戦法であり、どう足掻いても真正面から勝ち得ない彼が自然と生み出した苦肉の策の集大成である。
 だが、今回の状況に至っては非常に致命的だった。
 一刻も早く敵地から抜け出し、護衛対象を守りながら脱出せねばならぬのに、時間を無駄に出血するのは援軍を態々招き入れる自殺行為だ。今は危険な賭けをしてでも早急に仕留めなければならない。

(――無傷で、なんて贅沢な事は言わないが、腕か足一本じゃ全然割りに合わねぇ。一体全体どうする? 相手の術は土を龍型に模し、変化自在に攻撃してくる。無視して術者を攻撃したところでコイツが立ち塞がるだろうし、かと言ってこの龍を対処しちゃ手の内を曝してしまう。手詰まりじゃねぇかよ……)

 苛烈さを増す土龍の猛攻を避け続けながら小賢しい頭で思考を巡らせる。
 岩隠れの上忍は大した抵抗もせず、逃げ続けるカイエを当初は見縊っていたが、何度も生を拾い続ける生き汚さに苛立ちを募らせていた。
 チャクラの消耗が更に激しくなるが、更なる駄目だしとして高等忍術を繰り出そうと印を結んでいる最中、横合いから猛烈な速度で飛んできた物体に眼を奪われた。

「――レンッ!?」

 それは彼の担当する下忍の一人だった。意識を失っているのか、力無く吹き飛ばされている。
 この間々では生命に関わると彼は術を中断し、己が教え子の救援を優先した。
 元より今回の任務は足止めするだけで良いのだ。少しでも時間を稼げば暗部が追いつき、木ノ葉の忍を排除した上で人柱力である岩流ナギを確保出来るのだから。

「――ッ! レン、大丈、夫――」

 飛ぶように疾駆し、落下する彼女を確保する。
 ――その時、彼女が既に事切れている事実を一瞬で察し、上忍の思考は真っ白になった。故に気づけなかったし、離脱も遅れたのだ。
 猛々しい爆発音が森に響き渡る。迫ってくる背中ばかり見ていた岩隠れの上忍には死角だっただろうが、爆心地は岩隠れのくノ一の腹部に貼られた三枚の起爆札だった。
 この悪質極まる罠が一体誰の仕業なのか、カイエは一瞬にして理解した。

(うわ、普通考え付いても本当に実行するかよ。末恐ろしい女だぜ)

 カイエは何処かで邪な笑顔を浮かべているであろうルイの姿を思い描きながらにやつき、煙が渦巻く爆心地を目指して全速力で疾駆する。

「ぅぐおおぉおおおぉ――!」

 火達磨になりながら岩隠れの上忍は形振り構わず転がりながら後退する。
 一体何が起きたのか全く理解出来ず、嘗て無いほどの重傷に悶絶する。――煙を突破し、悪夢めいた速度で迫るカイエの姿を目視するまでは。

「くぉ、の――なぁあめるなぁあああぁ!」

 獰猛な雄叫びを轟かせながら仕込み刀で刺突を繰り出し、カイエは無言で右掌を繰り出す。幾らなんでも余りにもお粗末な手だと満身創痍の彼は痛みを押し退いて嘲笑った。

「――な」

 そして、彼は本当の悪夢を目の当たりにする。
 カイエの右掌を穿ち貫く直前に、仕込み刀の穂先が消失した。まるで吸い込まれるように刀身が右掌に発生した球体状の何かに抉られ、柄を握っていた指、突き出した腕をも跡形無く削られていき――最期には、心臓部分に綺麗な風穴を開けた。

「あ、ま……」

 絶命する刹那、自身を仕留めた術が四代目火影が開発した忍術・螺旋丸である事を知らぬが、この独特な殺害方法には心当たりがあった。
 数年前に多発した、木ノ葉との同盟に根強く反対した強硬派の暗殺事件で、唯一共通していた殺害方法が心臓部分を跡形無く抉り取られるという特異なものだった。
 下手人の特定すら出来ず、姿形も完全に謎のまま――その手口で殺める正体不明の忍を畏怖と憎悪を籠めて〝風穴〟と呼んだ。




「全員無事だったか」

 敵の忍を撃破した九班と護衛対象の無事を確認し、返り血を存分に浴びて血塗れになったカイエは安堵の表情を浮かべる。

「良し、岩隠れの暗部が追いつく前に逃げるぞ。あとルイ、お前は少し外道な行いを慎むべきだと――避けろ!」
「え――あぐっ!?」

 突然の出来事だった。背後からの完全な不意討ちに反応出来ず、ルイは何者かの一撃で吹き飛ばされ、遠くの大樹に衝突して地に崩れた。

「「ルイ!?」」

 ヤクモとユウナの呼びかける声に返答は無い。頭から血を流して、ルイは意識を完全に失っていた。
 そのルイを一撃で叩きのめした張本人は自分で自分の身体を引き裂かんばかりに抱き締めながら、顔を蒼白にして身震いしていた。

「うああああぁっ! こ、んな時、にぃ……! 駄目、押さえられないっ! 逃げ、逃げて、ください……ッ!」

 苦悶に顔を歪ませる岩流ナギの周囲を取り巻くは、不安定に揺らぐ黒い泥状の液体であり――彼女を生誕から蝕んできた恐怖の具現だった。
 





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