「カカシの、写輪眼、対策ねぇ」
「うむ。何か手は無いものか……」
それは今から十数年前、第三次忍界大戦が終結し、波風ミナトが四代目火影を襲名し、間もなく九尾が襲来する前の、平和な昼下がりの事。
はたけカカシとのライバル対決に連戦連敗を喫しているマイト・ガイは共に切磋琢磨する同期の親友、青桐カイエに相談した事から始まった。
「まず第一に、目を合わさない事、だろうなッ。幻術対策はぁ、それで、片が付く筈だ」
「おお、なるほど! こんなに早く具体的な案が出るとは流石カイエだなっ! ……む? これでは相手の動きが見辛くなるぞ?」
「……ああ、えーと……其処は勘とか、経験で、慣れるしか、ないんじゃねっ?」
「そうか、要鍛錬だな!」
ガイは猛烈に気合が入った表情で、超高速で腕立て伏せをしながら強く意気込む。
カイエの方はすぐ隣で負けじと、同じペースで息切れしながら付き合う。
「写輪眼の、洞察眼で此方の動きが、見切られるのは変わらんから、ぜぇぜぇ、写輪眼でも見抜けぬ速度を、身に付けるしかないなっ。どうせ一番効果的な目潰しは、一番警戒されているだろうしっ」
「ふむふむ、日々精進だな! いやぁ、カイエに相談して正解だったな! やはり持つべき者は友だなっ!」
純度百%の超爽やかなガイの笑顔に、カイエは後ろめたさから思わず気まずくなる。
一生明かせないだろうが、この助言はうろ覚えな原作知識からのカンニングに等しい行為なので、どうにも誇れない。
今は体術が少しだけ秀でているだけの、幻術も忍術も使えない欠陥忍者扱いなのに、あと十数年すればカカシと同格の忍までなっている。
ひたすら鍛錬を重ねて、より高き領域を目指す不屈の心根――すぐ諦めそうになるカイエには何より眩しく、同時に納得出来た。だからこそ彼は、カカシと肩を並べるほど強くなれたのだと。
努力が実を結ぶかどうかは解らないが、落ち零れの自分も彼と同じぐらい頑張れば――そう信じられる熱意が自然と湧いてくる。
同胞を二人失い、失意の内にいた自身を立ち直らせてくれた感謝の気持ちを胸にそっと隠し、カイエはひたすら気合と根性で追従する。
カイエは知らないが、ガイもまたカイエへの感謝の気持ちで一杯だった。
カカシを打ち倒すという到底不可能とされた目標を大々的に掲げ、それを無理だと一笑せず、絶対に出来ると信じてくれたのはカイエ一人だけだったからだ。
……原作知識から飛び出したというオチは、身も蓋も無い話であるが。
「ああ、そうだ。カカシの写輪眼に、限定した話なら、滅茶苦茶楽な対処法があるぞっ。これで初勝利間違い無しだぁ!」
「ほう、それは興味深いな」
唐突に後ろから生じた第三者の声に、カイエの顔は一瞬で青褪め、恐る恐る振り向く。其処には予想通り、はたけカカシが仁王立ちしていた。
「んなっ!? カ、カカシ君じゃないかぁ。人が悪いなぁ、一体いつの間に盗み聞いていたんだぁ?」
「オレの写輪眼対策云々の当たりからだ」
「最初からじゃねぇかよ!?」
突っ込みを入れながら、カイエは腕立て伏せ状態から立ち上がり、後退りする。
だが、左眼の写輪眼を出しかねないほど凄んでいるカカシから逃げ果せる方法など今の彼には存在しなかった。
「ま、まぁ落ち着け。オレ達は今修行中なのだ。残念ながらカカシ君と付き合う時間は――」
「ふむ、これは丁度良いなカイエ。実際に戦って実践する機会が早くも訪れたなっ!」
トドメと言わんばかりに、ガイはカイエの逃げ道をあっさり完全に断った。
「え、ちょ、待っ!? 無理無理無理、オレなんかがカカシと戦って勝てる訳ねぇだろ!? 常識的に考えてッ!」
「まぁまぁそう言わず。オレの写輪眼限定で、滅茶苦茶楽な対処法があるなんて全然知らなかったなぁ。是非ともご教授して貰いたいよ」
爽やかな笑顔ながら、物凄く根に持っているカカシはカイエの首根っこを掴み、無情に引き摺っていく。
付いて行くガイが二人の対戦を純粋に楽しみにしている当たり、無謀な決闘を止める者など最初からいなかった。
「うぼぁー! 神はオレを見捨てたっ!」
巻の46 イタチが舞い、三忍の自来也は大見得を切るの事
「久し振りですね、はたけカカシさん……」
最後に出会った時と変わらぬ眼で、うちはイタチは感情無く挨拶する。
――第三次忍界大戦、九尾襲来、木ノ葉崩し、数々の修羅場を潜り抜けて来たはたけカカシは、五影の域に到達した忍を何人か見た事がある。
里の全ての術を会得したとされる三代目火影、猿飛ヒルゼン。自らの師であり、後に四代目を襲名した波風ミナト。忍界大戦中、その彼と互角の死闘を演じた当代の雷影。木ノ葉の三忍と謳われる自来也・綱手・大蛇丸。そして――うちは一族を一夜で虐殺した張本人、うちはイタチである。
何れも曲者揃いで単純な強さの比較など無意味だが、この六人に無くてイタチにあるものが一つだけある。
持つ者と持たざる者の絶対的な差、天に選ばれた者のみ許された先天的な資質――血継限界、つまりは写輪眼である。
後天的に写輪眼を得たカカシだからこそ、正統な血族が使う写輪眼の真の恐ろしさを誰よりも実感している。
「さっすがカカシ先生! 良いタイミングだってばよ!」
「……ナルト、騒いでないで離脱しろ。一刻も早く」
「え?」
振り向かず、一瞬でも隙を見せないように、カカシは指示を下す。
不用意にそんなものを見せた日には瞬き一つする間も無く死ねる自信がある。うちはイタチと闘うというのは、そういう事なのだ。
「以前、波の国で『この世界にゃお前より年下でオレより強いガキもいる』と言ったな。――あれは、今此処にいるうちはイタチの事だ」
僅か五歳でアカデミーを卒業し、六歳で中忍に昇格した異例の早咲きの天才と言われたカカシですら、うちはイタチという真の傑物の前では霞んでしまう。
「ま、あれから何年も経っているから現在は解らないがな」
その自分の言葉が単なる虚勢である事を、カカシは強く自覚する。
数の上では一対三と有利だが、今この瞬間にでも写輪眼の幻術によって戦況が一転しかねない。
同じく写輪眼を持ち、幻術にある程度耐性を持つカカシならまだしも、後ろで仕掛け時を窺っている暗部二人には荷が重すぎる。
(――ガイかカイエがいれば、まだ状況は違ったが……!)
もしも、この場にガイかカイエがいたのならば互角以上に渡り合えるのだが、カイエは同格であろうイタチの相方を引き離し、ガイはその救援に向かった。
無い物強請りしても仕方ない。カカシは仕掛ける前にある疑問を問い質す事にした。
「何故ルイを狙った? 目的は何だ?」
「……彼女のその眼は邪魔なんですよ。我々組織にとって、最も障害となる」
「組織だと?」
一つ心当たりがあった。三忍の一人、自来也から齎された情報に、うちはイタチが忍九名からなる小規模な組織に所属している事を思い出す。
(――やはり狙いは尾獣、ルイを真っ先に狙ったのは必然だったか)
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、とはまさにこの事だった。
うちは一族の血継限界の分野において、ルイは自身の教え子であるサスケより遥か先の領域に到達しているとカカシは薄々勘付いていた。
もしかしたらうちは一族の秘中の秘である伝説の瞳術『万華鏡写輪眼』さえ彼女は開眼してしまっているかもしれない。……中忍試験の時、大蛇丸を焼き払った黒い火遁はそうでなければ説明が出来ない。
「お喋りが過ぎましたね。余り時間が無い……」
うちはイタチから放たれる殺意が一段と強まる。
それと同時にカカシの後方にいた暗部二人が分散して飛び、イタチの背後を取る。
三方から取り囲む形にはなったが、カカシには今の状況が有利だとは欠片も思えなかった。
他の下忍達が挙って退去する中、うちはサスケだけがこの場に残った。
彼にはどうしても確かめなければならない事があったからだ。自身の写輪眼で、寸分の狂い無く検証せねばならない事が――。
「――!」
三方に取り囲んだカカシと暗部の二人は、何一つ合図が無かったのにほぼ同時に仕掛ける。
写輪眼でなければ捉え切れない速度で放たれたクナイは、驚くほど呆気無くイタチの身体に突き刺さり――言い知れぬ違和感がサスケの全身を駆け巡る中、イタチの形が崩れて数十羽の黒鴉となり、飛び舞って幻惑する。
幻術――それに逸早く気づいたサスケは自身の写輪眼に意識を集中させ、イタチの見せる幻を見極める。
同じく写輪眼を持つカカシが一番最初に幻術を破り、続いてもう一人の暗部も少し遅れながら幻術を見切る。
「――!」
うちはイタチは幻術の耐性が一番弱かった最後の一人に照準を絞って殴り掛かり、寸前の処で拳をぴたりと止める。
あのタイミングなら容易に仕留めれた筈なのに何故――サスケの脳裏に疑問符が浮かんだ矢先、イタチは何かに気づいて急遽退く。
もう一人の暗部は、特徴的な印を結んだ両手を眼下に突き出しており、それがルイがサクラに使った心転身の術である事を遅れながら気づいた。
「なるほど、フーさんにトルネさんでしたか。道理で手強い」
何時の間にか背後に忍び寄り、音も無く繰り出されたカカシの一閃をイタチは屈んで躱し、その回避行動からの淀みなく行われた回し蹴りで一蹴する。
「ぐっ……!」
腹部に諸に受けたカカシは踏ん張れずに吹っ飛んで後方の大木に激突し、戦線から一時離脱を余儀無くされる。
幻術から復帰した暗部の一人は一目散に突進し、素手でイタチを掴み掛ろうと跳び掛かり、心転身の術を行なおうとした忍は彼の後方から距離を保ちつつ機会を窺う。
(あの暗部の動き、まるで中忍試験の予選の奴のようだ……)
既にサスケは彼の名前すら忘れているが、チャクラ吸引術を使った赤胴ヨロイのように、接触しただけで勝利が確定するような術を会得しているのだろう。
イタチの動きが一瞬でも鈍れば、即座に心転身の術で乗っ取られる。サスケの眼からも二人の暗部が相当の使い手である事は確かである。幾らイタチと言えども或いは――。
「――ッ!」
ぴたりと、意地でも掴み取ろうと躍起になっていた暗部の動きが一切合切止まる。
彼は不用意に近づき過ぎた上に、甘く見過ぎていた。写輪眼と相対するとは、常に瞳術による幻術に嵌められる危険性が生じる、そういう事なのに。
イタチは即座に飛び退き、一体どのタイミングで印を結んだのかサスケにも解らないが、間髪入れず火遁・豪火球の術を撃ち放つ。
「トルネ――!」
人一人丸々呑み込むほどの巨大な猛火を前に、術中に嵌った暗部は棒立ちした間々――危険を顧みずに救出に来たもう一人の暗部に短刀の柄で殴打され、身体ごと飛ばされて難を逃れる。
「ぐ、おおおおおおおぉおっ!」
逆に無理なタイミングで割って入った暗部は逃げ遅れ、身体半身を酷く焼かれ、それでも焼け爛れた手で心転身の術の印を結び、イタチに向ける。
だが、ほんの一瞬前まで居たイタチの姿は欠片も無く――背後から掴み取られた頭部を馬鹿げた勢いで地面に叩きつけられ、微動だにせず沈黙する。
「これで、貴方一人だ……」
二人の手練を早々に片付けたイタチは、最後に残ったカカシの写輪眼を鋭く見抜く。
――圧倒的だった。二人の暗部も、カカシも弱くはない。うちはイタチが強すぎる、話はその一点に尽きるだけだった。
(……強い。あの夜から、少しも縮まらない……!)
うちは一族を虐殺された夜から、サスケはイタチを殺す為にひたすら修練に打ち込んだ。あの時の自分と比べて、遥かに強くなった。その実感は確かにある。
あの頃より強くなった自分だからこそ、否応無しに実感する。うちはイタチがどれほど卓越した存在なのかを、自分がどれほど彼我との実力差を見誤っていたのかを。
「……! さて、それはどうかな?」
カカシのそんな言葉など、今のサスケには虚勢にしか見えず――その自信の根拠は直後に訪れた。
――それは大波だった。水遁系の術を巧みに使いこなした桃地再不斬を遥かに超える規模の大津波が押し寄せてきた。
それが干柿鬼鮫の水牢の術の名残だとは、今のサスケには知る由も無い。
カカシとイタチは動じる事無く、荒波に乗りながら大量の印を超高速に結んでいく。
まるで合わせ鏡のように、イタチとカカシの後方に大洪水が舞い上がり、怒涛の勢いで激突する。
「くっ……!」
大規模の水遁の衝突は、周囲に聳え立つ樹木を根元から倒壊させる。――もはや、単なる自然災害など生温い次元の攻防だった。
水遁・大瀑布の術の衝突時点から水が引き、イタチとカカシは共にクナイで激しく鬩ぎ合っていた。
だが、この状況はカカシにとって圧倒的に不利だった。こんな近距離ではイタチの写輪眼から逃れる術が無い。
イタチにしても今脅威となるのはカカシ一人であり、万華鏡写輪眼の瞳術を出し惜しみする理由は欠片も無かった。
イタチの写輪眼の形が崩れ、三枚刃の手裏剣のような紋様に変化する。
――それなのに、イタチは珍しく驚きの感情を見せる。それもその筈、今のカカシは両眼とも塞いでいたからだ。
「……まさに究極の写輪眼対策ですね。その眼を持つ貴方がそれを実践するとは思いませんでしたが」
「ま、便利な眼に頼ってばかりじゃいかんでしょ……!」
自ら視界を鎖したカカシの脳裏に過去の記憶が過ぎる。
確かに写輪眼は非の付けようが無いほど優秀な瞳だが、血族でない自分が使うには多大な代償を支払わなければならない。
それを一番最初に強く実感させたのが霧隠れの鬼人・桃地再不斬――ではなく、"風穴"と畏怖される以前の青桐カイエだった。
当時の彼は若く、友から譲り受けた写輪眼を貶されて冷静でいられるほど大人ではなかった。
偶然模擬戦の流れとなり、マイト・ガイの立ち会いの下、既に上忍だったカカシは当時中忍に昇格したばかりのカイエを大人気無く叩きのめそうとした。
――したのだが、見事に逃げ切られてしまった。何て事も無い、チャクラが尽きるまで本当に終始逃げ続けられたのだ。
それまで盲信していた写輪眼への絶対性は脆くも崩れ去り、その日以来、カカシは写輪眼対策の対策について、今まで眼中に無かった彼等二人と共に真剣に考える事となる。
「しかし、眼を瞑っていては――!?」
単純明快ながら欠点そのモノだと言い切る前に、うちはイタチは後方に離脱する。
水面をかち割り、四方八方から忍犬達が獰猛な爪を突き立てながら疾駆する。
忘れてはいなかったが、意識はしていなかった。はたけカカシが『写輪眼のカカシ』と謳われる以前に、『忍犬使い』としても有名である事を。
(……そうか、両眼を瞑っていれば万華鏡写輪眼の瞳術『月読』の術中に陥る事も無い……!)
あの術の絶対性に苦渋を呑まされた事のあるサスケは、カカシが見せた単純明快な対策に若干納得いかないものの、その発想は無かったと驚嘆する。
事実、うちはイタチは攻め手を失っていた。
単純に殺すのであればもう一つの瞳術『天照』を使えば良い。自ら視界を塞いでいる敵など単なる的でしかない。
そもそも、殺すつもりなら勝負にもならなかっただろう。彼がその気ならば相手がカカシだろうと、早い段階で皆殺しになっている。
うちはイタチは最初から、不殺を絶対条件としていた。一族虐殺の汚名を背負い、それでも彼は里を愛する忍だったが故に、当然の選択だった。
その当然の選択が、最大の敗因となったのは皮肉でしかない。
――背後から生じた気配に逸早く反応し、イタチは最大限の瞬身の術で大斧が如き振り下ろされた踵落としを回避する。
膨大な水飛沫を天まで舞い上がらせ、二つの影が弾けてイタチの背後をまた取る。奇しくも先程と同じ、三方に取り囲む形となる。
「待たせたな、カカシ!」
「良く粘ったなぁ、イタチに瞬殺されてると思ってたぞ」
マイト・ガイは大胆に決めポーズをとり、カイエは少し呆れながらイタチの足元を睨む。
初めの因縁からカカシと模擬戦する機会が大量に増えてしまったので、ガイと同じく写輪眼対策の戦闘術は嫌なほど身についていた。
「……流石に御三方の相手を同時にするのは厳しいですね」
イタチの身体が崩れ、数十羽の黒鴉となって空に散っていく。
今の木ノ葉の最精鋭が揃い踏みしては、流石のイタチもルイの奪還を諦めざるを得なかった。
「今回は退きましょう。ですが、いずれうずまきナルト君と六尾の人柱力は確保させて貰います。――それが、我が組織"暁"から下された我々の至上命令ですから」
「全く無茶しやがって。追跡のみって言っただろ、この馬鹿者どもめ」
わざとらしく溜息を付きつつ、コイツら七人が素直に従う訳無いよなぁとカイエは内心苦笑する。
結果オーライとは素晴らしい言葉である。
「ルイもそう落ち込むな。相手があのうちはイタチじゃ、基本的にどうしようもない」
一人落ち込んでいるルイの頭を、無事な手で撫でて慰める。
まだ目隠しが取れず、表情が読み辛いが、今のルイに常日頃纏う覇気は欠片も無い。
普段から完璧を目指している彼女は、こういう自身の失敗を自分では許せないのだろう。少しでも気が楽になれば良いが、こういう部分で妙に頑固な彼女はそうはいかない。
「お前達の年で死に急ぐ必要は欠片も無い。オレが先に死ぬまで絶対に死ぬ事など許さん。生命を投げ捨てるような選択など絶対にするなよ」
そう、今は任官仕立ての下忍を戦場に送り込むような悲惨な時代ではない。自分達とは違うと言い聞かせるようにカイエは矢継ぎ早に話す。
「……ああ、だからと言って早死する気は更々無いがな。どんな苦境でも、どんなに惨めでも、絶対生き延びてやる。意地でも大往生してやるから、お前達も覚悟しとけよ」
カイエは強く笑い、ガイもまた涙や鼻水を垂れ流しながら泣き笑う。
これが辿り着いた結論であり、先立った友と対面するのは暫く後になるだろうとカイエは彼等に謝る。
「あいや暫くっ! 泣く子も黙る妙木山の蝦蟇仙人、風雲痛快の豪傑・自来也様たぁワシの事よォ!」
大見得を切って現れた三忍の一人の登場に、状況への理解が追いつかず、しーんと場が白ける。
おせぇんだよ、と内心毒付きながらカイエは皆の意を代弁したのだった。
「……む? むむ? イタチはどうした?」
「……空気読めよ、エロ爺」
とある森林地帯を走る影が二つ。イタチの分身体とも言える鴉を頼りに干柿鬼鮫はうちはイタチと合流する。
「手酷くやられたようだな……」
「ええ、相当大した方でしたね。本気を出して此処まで削られたのは初めてですよ。……ああ、名前は結構ですよ。次に出遭った時の愉しみですから」
――素晴らしい一時だった。久方振りに堪能した死の感触は、今でもこの手に残っている。
事実、彼と闘う前に他の者達から"鮫肌"でチャクラを大量に削っていなければ、干柿鬼鮫は確実に死んでいた。
此方の再生能力を逆手に取ったあの恐るべき術によって、"鮫肌"が貯蔵したチャクラは根刮ぎ引ん剥かれ、鬼鮫自身のチャクラも九割まで削り取られた。
とは言え、元々尾獣に匹敵するチャクラの持ち主。一割程度でも残れば、普遍的な上忍を遥かに超える量なのだが。
「それにイタチさんこそ。これでは骨折り損の草臥れ儲けでしたねェ」
外傷は特に無いものの、珍しく執心だったうちはルイは彼の手元に無い。
彼等ほどの忍が二人動いて、不甲斐無い結果だった。それを踏まえ、うちはイタチは内心を尾首に出さず、相変わらず無表情で答える。
「――最低限の目的は果たしている。文句は言うまい」