<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.3089の一覧
[0] NARUTO うちはルイ暴走忍法帖[咲夜泪](2010/06/23 02:13)
[1] 巻の2[咲夜泪](2010/06/23 02:30)
[2] 巻の3[咲夜泪](2010/06/23 02:36)
[3] 巻の4[咲夜泪](2010/06/23 02:54)
[4] 巻の5[咲夜泪](2010/06/23 03:02)
[5] 巻の6[咲夜泪](2010/08/03 21:09)
[6] 巻の7[咲夜泪](2010/06/23 03:13)
[7] 巻の8[咲夜泪](2010/06/23 03:23)
[8] 巻の9[咲夜泪](2010/06/23 15:36)
[9] 巻の10[咲夜泪](2010/06/23 15:47)
[10] 巻の11[咲夜泪](2010/06/23 16:44)
[11] 巻の12[咲夜泪](2010/06/23 17:00)
[12] 巻の13[咲夜泪](2010/06/23 17:16)
[13] 巻の14[咲夜泪](2010/06/23 17:23)
[14] 巻の15[咲夜泪](2010/06/23 17:37)
[15] 巻の16[咲夜泪](2010/06/23 17:45)
[16] 巻の17[咲夜泪](2010/06/23 17:52)
[17] 巻の18[咲夜泪](2010/06/23 18:01)
[18] 巻の19[咲夜泪](2010/07/01 23:34)
[19] 巻の20[咲夜泪](2010/06/23 18:13)
[20] 巻の21[咲夜泪](2010/06/23 18:42)
[21] 巻の22[咲夜泪](2010/07/01 23:39)
[22] 巻の23[咲夜泪](2010/06/23 19:09)
[23] 巻の24[咲夜泪](2010/07/01 23:54)
[24] 巻の25[咲夜泪](2010/07/01 23:59)
[25] 巻の26[咲夜泪](2010/07/02 00:10)
[26] 巻の27[咲夜泪](2010/06/23 19:42)
[27] 巻の28[咲夜泪](2010/06/23 22:52)
[28] 巻の29[咲夜泪](2010/06/23 23:01)
[29] 巻の??[咲夜泪](2010/06/23 23:07)
[30] 巻の30[咲夜泪](2010/07/02 00:43)
[31] 巻の31[咲夜泪](2010/06/23 23:29)
[32] 巻の32[咲夜泪](2010/06/23 23:36)
[33] 巻の33[咲夜泪](2010/06/23 23:51)
[34] 巻の34[咲夜泪](2010/06/24 00:31)
[35] 巻の35[咲夜泪](2010/06/24 01:19)
[36] 巻の36[咲夜泪](2010/06/24 00:38)
[37] 巻の37[咲夜泪](2010/06/24 01:00)
[38] 巻の38[咲夜泪](2010/06/24 01:05)
[39] 巻の39[咲夜泪](2010/06/24 01:26)
[40] 巻の40[咲夜泪](2010/06/24 01:37)
[41] 巻の41[咲夜泪](2010/09/10 01:08)
[42] 巻の42[咲夜泪](2010/07/07 03:50)
[43] 巻の43[咲夜泪](2010/07/20 02:03)
[44] 巻の44[咲夜泪](2010/07/30 20:06)
[45] 巻の45[咲夜泪](2010/08/03 02:20)
[46] 巻の46[咲夜泪](2010/09/07 06:26)
[47] 巻の47[咲夜泪](2011/01/12 13:50)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[3089] 巻の34
Name: 咲夜泪◆ae045239 ID:ceb974ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/24 00:31




「どうしてそうなるのよ! ヤクモの分からず屋っ!」
「なっ! 今のルイにだけは言われたくないぞ!」

 澄み切った朝の一時、静寂を愛する日向宗家の道場に少年少女の殺伐とした口喧嘩が鳴り響く。
 周囲に居合わせた三人の少女、ナギ・ヒナタ・ハナビはただ困惑するばかりで、仲介する者無き口喧嘩は更に激しさを増していく。

「ルイの頑固者、唐変木、悪逆非道、中二病真っ青のリアル邪気眼! そんな写輪眼があるかっ!」
「っ! ……こ、のぉ、人が今一番気にしている事をぉ……!」

 後半の言葉にヒナタとハナビが青褪めながら内心に疑問符を浮かべる中、ナギはやっぱり気にしていたんだと脅えながら青褪める。

「あ、あわわっ。どどどどうしようヒナタちゃん!?」
「え? わた、わたたしぃ!? どど、どうしようハナビちゃん!?」
「あ、姉上、私に振られても……!」

 三人が仲良く錯乱する中、ルイとヤクモの言い争いは激化の一途を辿るのみだった。
 内容的には徐々に低レベルな罵倒にまで落ちているが、それを堂々と突っ込む勇気は三人の中には無い。
 一体何故このような事態に発展したのか、話は少しばかり遡る。


 巻の34 擦れ違う想いは五里霧中に彷徨うの事


「……はぁ、嫌になっちゃう」

 自室で手鏡を片手に、私は深い溜息をついた。
 写輪眼の状態から万華鏡へ、以前は模様が不安定に揺らいでいたが、今回の一件で成長したのかどうかは知らんけど、模様が定まった。
 ……その割には新たな能力が唐突に目覚めたりせず、以前と全然差異が無かったりする。永遠の万華鏡写輪眼になって新たに発現する瞳術って一体何なんだろう?

「……それにしても、何この超センス」

 ぼくわたしの考えた格好良い万華鏡写輪眼、でもこれは流石に無いだろう。
 五芒星の中に小さな逆五芒星があって、真ん中に普通の写輪眼の名残か、極点がその間々ある。
 私の万華鏡写輪眼はこれで素の状態なのか、それとも二つ模様が重なった状態なのか、それすら判別出来ない。だが、幾ら万華鏡という名称が付いていても、こんな変な模様だけは無いだろうと思わざるを得ない。

(イタチの万華鏡は三角の手裏剣、カカシのも似たようなもの、マダラとその弟も普通の写輪眼の面影を色濃く残していた。それなのに私のは何でこうなるのよ……)

 理不尽だと言わんばかりに憤るが、こればかりはどうにもならない。
 一瞬、保存している元の自分の眼に戻すかどうか思案するが、これが私の素の模様だったら意味が無い。何より痛い。潔く諦めるとしよう。

「はぁ。世の中、儘成らぬものね」

 ――木ノ葉崩しから二十日が経過した。大蛇丸との死闘が後を引いて、私は五日間余り意識不明で生死を彷徨い、目覚めてから退院するまで十五日の時間を要した。
 この二十日間、寝たきり生活で身体能力の低下は目も当てられないほど酷く、欠点を克服するどころか、嘗ての域まで取り戻す事すら困難な有様である。

(失明や寿命が縮まる心配が無いだけマシか……)

 木ノ葉隠れの里はというと、人的被害は――上忍などの優秀な人材に限り――思ったより少なく、順調に復興している。
 崩壊した建物は秋道一族や土遁系の術で整備し、テンゾウの木遁で急造する。初代火影の秘術をそんな事に多用して良いのか、また彼が過労死しないか若干心配である。
 その他に原作通り三代目火影は死去したが、そんな些細な事はどうでも良い。私にとっての問題は、死活問題は、イタチの来訪それ一つに尽きる。
 ご丁寧に眼抉られて死んでいた少女が生きていたら、誰だって己が眼で確認に来るだろう。天と地が引っ繰り返っても間違いない。
 ――今の私にとって、うちはイタチに出遭う事は大蛇丸を超える、最大級の死亡フラグである。
 ぶっちゃけ出遭ったら終わりと考えて良いだろう。
 イタチと私の戦力比を分析するに、私の全てを大幅に上回っていて、尚且つ作者御贔屓のチート補正が付いている。二部のサスケみたく、都合の良い病気の弱体化は望めないから、万が一も億に一にも勝ち目はあるまい。
 更には戦力的にも能力的にも未知数な部分が多い干柿鬼鮫も一緒にいる。付け入る隙は欠片も見当たらない。

(だからこそ、出遭わなければ良い)

 イタチは第一にサスケの為に、自分は生きていると木ノ葉の上層部に忠告する為に現れる訳であって、私の事など二の次だろう。原作の流れを顧みると、カカシ達と戦った後は自来也と旅立ったナルトを追う事だし、その点にさえ注意すれば大丈夫だろう。

(だが、それだけでは足りない。私の不運だと不慮な事態を招きかねないし。出会い頭に運悪く出遭ったなんて、ざらに起こりそう。――となれば、イタチの来訪の目的を潰すとするか)

 打つ手としては心許無いが――そういえば、ナギは未だに四象封印でチャクラを阻害され、渾沌の術やコンを口寄せ出来ないから、それも一緒に解決するとしよう。
 他にも懸念が沢山ある訳だが、一旦思考を打ち切り、今は爽やかな朝の一時を満喫する事にした。




「わぎゃぁ!?」

 気晴らしに鈍った体を動かそうと、屋敷の外れにある道場の門を開けた時、すぐ横にナギがすっ飛んできた。

「朝から愉快な声出しているね、ナギ」

 目を回すナギを見下ろしながら、私は感心する。そんなギャグっぽく吹っ飛んでこれるなんて器用なものだ。
 周囲には息切れ一つ無く構えるハナビに、オロオロしながら正座しているヒナタだけ。状況を判断するに、ナギとハナビが組み手して完敗したという処だろう。

「うぅ、ルイちゃーん! ハナビちゃんが苛めるぅ!」
「いえ、これでも手加減したのですが……」

 ナギの脱力するほど情けない声に私は深い溜息をついた。
 幾ら体術で、尚且つ四代目の封印でチャクラが練り難いとは言え、五歳年下の少女に成す術無くやられるとは話にもならない。
 ナギは人柱力独特の忍術や尾獣のチャクラに頼りすぎる反面、体術や身体能力が疎かになっている節がある。
 しかし、尾獣の膨大なチャクラさえあれば小手先の体術など必要無いし、身体能力など通常時とは比較にならないほど跳ね上がる。
 それらを総合的に分析した上で、私は脳裏に閃いた感想を半目で述べた。

「へっぽこだね」
「あうっ、ひ、酷いっ!」

 ナギの胸に言葉の刃が無情に突き刺さる。飾らない言葉ゆえのキツさがトドメとなり、ナギは涙目で轟沈した。

「そ、そうだよルイちゃん。それじゃナギサちゃんが可哀想だよ……」

 ヒナタのそのフォローはどうかと思うが、言わぬが華だろうと口を噤んだ。

「あれ、ユウナとヒアシ殿は?」
「二人は朝早くから『修行に出る』と一言残して何処かに行きました。漸く兄上も次代当主としての自覚が芽生えたのでしょう」

 私の疑問にハナビが活き活きと答える。
 その何処か嬉しげな言い様から、ヒアシに無理矢理連れ去られたのではなく、ユウナが自主的に付いて行ったらしい。在り得ない。

「……珍しい事もあるものね」

 いつもなら嫌々で且つ強制連行なのに。其処に至るまでのユウナの心境の変化が全く想像出来ないと首を傾げた。

「ルイ姉さま、一つお手合わせ願えますか?」

 無駄な思案に耽っていると、ハナビから有難い申し出が来る。
 ハナビの眼の周囲が浮き立つ。ナギを打ち倒した時には浮かべてすらいなかった白眼を発動し、気迫を漲らせて日向流の構えを取る。

「いいよ、丁度体を動かしたかった処だし」

 どれだけ身体能力が低下したか、確かめるには良い機会だ。無論、勝負事なので、負ける気は欠片も無いが。
 私は口元を少し歪ませて、油断無く構えるハナビの真正面に立った――。




(……落ち着け。素数でも数えて落ち着くんだ、オレ)

 日向宗家の屋敷に向かう道中、ヤクモはしきりに冷静になろうと努めていた。
 勿論、脳裏を埋め尽くすのはルイの事である。
 今までと普通通りに接しようと思考する度に大蛇丸の時に口走った自身の言葉が蘇り、妙に気恥ずかしくなってしまう。

(……っ、駄目だ駄目だ! ルイの退院を期に終わらせなければ、一生弄ばれる……!)

 羞恥心で赤面した顔をぶんぶん振り回し、ヤクモは雑念を払おうとする。
 ルイの入院中、事有る毎にネタにされたヤクモにとって、精神の衛生上、即座に改善しなければならない、割と切実な問題である。
 しかし、考えれば考えるほど深みに嵌る悪循環に陥り、無限に繰り返す中、未だに解決の糸口を掴めずにいた。
 ヤクモが悶々と悩みながら目的地に辿り着いた時、門の前には思い掛けぬ人物が立っていた。

「……なんでお前が此処に来るんだ? ヤクモ」
「そりゃこっちの台詞だぜ。何でお前が日向宗家の門前にいるんだ? サスケ」

 鳥の囀りが途絶える。朝の爽快さを吹っ飛ばして、険悪な空気がヤクモとサスケの間に漂った。
 何で朝っぱらからいけ好かない野郎と睨み合わなければならないのか、ヤクモは物凄く理不尽だと内心嘆く。
 とは言え、この間々何もせずにいるのは不毛であるし、傍目から見ればいらぬ誤解を招きかねない。
 ヤクモは仕方無く、ワザとらしく溜息を零しながら先に自身の状況を話す事にした。

「オレ達九班は日向の敷地で修行するのが恒例なんでな、此処に来るのは当然の成り行きという訳だ。で、そっちはどうなんだよ?」

 怪しい不法侵入者を見るような目で問い詰めると、サスケの表情に一瞬だけ焦りが見え隠れした。
 何か思い詰めたような、切迫した焦燥感を見て取れたが、野郎相手に気遣いなど無用、とヤクモは敢えて無視する。

「……お前には関係無い。精々刀でも磨いてろ」

 冴えない捨て台詞を残して、サスケは立ち去った。
 そういえば、ルイが選んだ刀だと知らなかったのかと、ヤクモは一人勝ち誇ったように優越感に浸り、同時に子供の低レベルな張り合いみたいだと気づいて虚しくなった。

「相変わらず感じの悪い奴。此処に来た理由は――ルイかね」

 普通に考えて、それ以外無いだろうとヤクモは納得し、同時に今の出来事そのものを意図的に忘れる事にした。
 別に言伝も頼まれてないし、頼まれても言う気など無い。それ以上に、ルイとサスケが逢う光景は非常に気に食わない。胸中にドス黒い感情が渦巻くほどに。

(……あー、やめやめ。さっさと中に入ろう)

 その理由が何なのか、ヤクモは無意識の内に思索を拒否する。もう一度強く自覚すれば後戻り出来ない、そんな危機感が何処かにあったからだ。
 それがヤクモの中に燻ぶる感情の、謂わば元凶というべきものだった。




「ちーっす、て……」

 ヤクモが道場に辿り着いた時、二人の少女が舞のような組み手を繰り広げていた。

「はぁっ!」

 血継限界の白眼を常時発動させたハナビは果敢に攻め続ける。
 七歳児のものとは思えぬ鋭い掌打は、されども写輪眼を浮かべたルイに悉く見切られ、最小限の身のこなしで受け流される。

「……っ!」

 そして少しでも隙が大きいものなら手首を掴み取られ、ハナビの小柄な体が宙に舞った。
 投げる時に関節を極めず、更には倒れた際に追撃しないのはルイなりの手加減の表れだった。

「ぐっ! まだまだぁっ!」

 ハナビも投げられっぱなしではいない。受身を取った直後に起き上がり、何度も何度も攻め手を変えながら挑んで行く。

「あ、ヤクモ。来てたんだ」

 動と静、対極の拳質が鬩ぎ合う中、二人の姿に見惚れていたナギがやっとヤクモに気づき、遅れてヒナタも驚いた表情を浮かべた。
 自分ってそんなに存在感が無いのだろうかとヤクモは少しヘコんだのは別の話である。
 腰に差した脇差と太刀を取り外し、ナギ達の近くまで歩んだヤクモは壁際に腰掛けた。

「……単純に体術の勝負になると強いよなぁ」

 立ち回りだけで圧倒するルイを眺めながら、ヤクモは呟いた。
 女の身であるルイはヤクモやユウナほど身体能力は伸びなかった。尾獣のチャクラで幾らでも補えるナギと違って、伸び悩んだと言っていい。
 だが、何処で習得したのか、彼女の体術は奇妙と言って良いほど懐が広く、何度戦っても全貌が把握出来ないほど底知れなかった。
 その百錬練磨じみた業に身体能力が追いつけば、敵など無いだろうなとヤクモは思う。ただ――。

「ルイちゃん、見切りが半端無い上に写輪眼だからねー。……ヤクモ、気づいた?」

 後半、意味深に問い掛けるナギに対し、ヤクモは険しい表情で頷いた。

「ああ。動かない、じゃなく、動けないみたいだな……」
「……うん。写輪眼を使ってまで受けに徹している当たり、ね」

 ルイは心許した者にでも手の内を見せず、また全力を中々出さない。
 その秘密主義振りは大蛇丸の影分身を一太刀で封印した反則的な術をあの局面まで秘匿していた事からも窺い知れる。
 そんな彼女が最初から、予選に比べて異様に身体能力が上がったシカマルにさえ使わなかった写輪眼を惜しみなく使っている理由。それは余興でも戯れでもなく、単に使わざるを得ないからであろう。

(……流石のルイでも二十日間も寝込んでいればこうなるか)

 ヤクモが思索に没頭していると、息切れして一段と大きい隙を曝したハナビがルイに背負い投げられる。

「っ!?」

 頭から落ちて畳に衝突する寸前に足で刈り取られ、大事に至らず、転がり倒れるだけで済んだ。
 今やヒナタやユウナも使う技だが、最初に使ったのはルイだったなとヤクモは思い出した。

「……強くなったね、ハナビ。びっくりしたわ」
「いえ、まだまだです。先の戦で、己が未熟さを思い知らされましたから」

 ルイは写輪眼を、ハナビは白眼を引っ込めて、組み手は自然と終了する。
 ハナビに総評や気になった点を述べようとした時、ルイは何時の間にかナギ達と座っているヤクモの存在に気づいた。

「あれ、ヤクモ。来ていたんだ」

 そのルイの心底驚いた表情に、先程のナギと同じような事を言われ、ヤクモは再び落ち込んだ。

(……ん? 気のせいか、ルイの様子が変だな)

 ヤクモが疑問に思ったのも無理はなかった。ルイは頻りにヤクモを前に瞬きし、何やら思い詰めた表情を浮かべる。
 何かを喋ろうとして躊躇するという似合わぬ挙動不審を繰り返す事、数回余り。
 漸く覚悟を決めたのか、ルイは大きく深呼吸をし、射抜くような強い眼差しでヤクモの眼を見つめた。

「ヤクモ、大切な話がある。大蛇丸の時の事よ」
「大蛇丸の時の事……? い、いや、あの時は……!」

 ルイの突拍子の無い言葉にヤクモは朝から悶々と思い返していた事を赤裸々に回想してしまい、冷静さを失って取り乱してしまう。
 だが、ルイから飛び出た言葉はそれすら吹っ飛ばすほどの衝撃をヤクモに与えた。


「――今度同じような状況に陥ったら、迷わず見捨てる事。私であれ、ユウナであれ、ナギであれ、ね」


 一瞬、ルイが何を言っているのか、ヤクモには理解出来なかった。
 ルイは淡々と、無表情の間々語り続ける。魂を射抜くような眼光とは裏腹に、紡がれた言葉は何処か弱々しかった。

「……今回は偶々運が良かったから全員無事だったけど、一つ間違えたら全滅していたわ。必要最低限の犠牲を救おうとして、全てを失っては本末転倒も良い処よ」

 それが大蛇丸に立ち向かった自分の事を指している事に気づくのに時間を要したのは、最初から見殺す選択肢などヤクモに存在しなかった為だった。

「だから、約束して。もう二度とあんな無謀な行為はしないって」

 ルイの切実なまでの言葉が呆然とするヤクモの心を強く揺する。
 ヤクモは一度、眼を瞑った。脳裏に大蛇丸と対峙した時の光景が過ぎり、続いて最初の無惨な結末が閃光の如く過ぎ去る。
 今になって死の恐怖が鮮やかに蘇る。高揚感や危機感で麻痺していた時には感じられなかった脅えが全身に駆け巡る。
 目前に掠めた死を意識してから指先の震えが一向に止まらず、背中に這う悪寒と耐え難い嘔吐感が際限無く込み上がってくる。そして――。


「ごめん。それだけは、了承出来ない」


 ――それでも、ヤクモは首を横に振った。
 両掌を強く握り締める。指先の震えは既に止まっていた。

「……なんで? ちゃんと、話聞いていた?」
「理屈は解る。けど、それとこれは別の話だ。多分、同じような状況になったら、オレは何度でも同じ選択をする。仲間を見捨てるなんて、死んでも御免だ」

 ルイは思わず絶句し、力無く俯いた。
 重苦しい沈黙が続く中、ルイは項垂れた間々、唇を震わせながら言葉を発する。

「――巫山戯ているの? 自身の生命より他者の生命を優先するのは死者の考えよ。自己犠牲など自分に陶酔した馬鹿の最も忌むべき行為だわ。死んだら終わりよ。無限に次があるとでも勘違いしてない?」

 ルイの口調が一段と下がり、ヤクモは場の温度が急激に降下したような錯覚を感じる。
 今一度ヤクモを射抜く彼女の眼には隠しようのない灼熱の憤怒と、それ以上に冷たい殺意が燈っていた。

「それとも英雄じみた勇猛果敢な決断が最良の結果を招くなんて夢想でもしているのかしら! それではいずれ――誰も守れずに野垂れ死ぬよ」

 悔やんでも悔やみ切れない前世の無念が、呪いのように鮮やかに蘇る。
 その一言はヤクモの心の古傷を致命的なまでに抉り、感情の箍を一気に外してしまった。

「訂正しろ……! 今の言葉、ルイでも許さねぇぞっ!」
「あら、気に障ったかしら。それじゃ訂正してあげるわ。――現実と物語を区別しろ、身の程知らずの英雄狂い。私を一度助けた程度で調子に乗るなっ!」

 完全にブチ切れて怒鳴り散らすヤクモに対し、ルイもまた劣らぬ激怒をもって叫び返す。

「……! じゃあ何だよ! あの時、ルイを見捨てて、大蛇丸に拉致されるのが最良だとほざく気かっ!」
「結果論で物事を語るなっ! そうだとも、あの状況下で私を切り捨てていれば三人は大蛇丸の脅威に曝される事は無かった。大蛇丸も私に酷く御執心だったからね、私にしても生命の危機は当分無かっただろうさ! ヤクモの無謀な判断で己の命は愚か、ユウナとナギの命まで脅かした事を忘れるなっ!」
「……っ! この、言わせておけば……!」

 売り言葉に買い言葉、火に油が注がれ、二人の理性は完全に焼き切れる。
 蚊帳の外でどうしたら良いか解らずにオロオロする三人を無視し、ルイとヤクモの口喧嘩は激しさを増して行った。




「――もう知らないっ!」

 その一言を最後に、私は道場から飛び出した。
 思考は白熱し過ぎて何も考えられない。邪魔な塀を乗り越え、屋根を伝い――息切れて動けなくなる頃には里の端に位置する、うちは一族の居住地に辿り着いていた。
 何故こんな処に足を進めたのか、我ながら疑問に思ったが、丁度良い。
 今や此処に足を踏み入れる者は誰一人いない。偏屈者で物好きでも、人気が無く、生活感が一切排除された墓場じみた街に近寄ろうとは思わないだろう。
 一人になって、まともな思考が何一つ出来ない頭を冷やしたかった。私の足は自然と、私の生家に向かっていた。

「――また、此処に来るとは、ね」

 活気無く、寂れた我が家に対して、私には何ら感慨も浮かばなかった。
 九年間、何としても生き延びようと必死に足掻いた記憶だけが鮮明であり、見殺した両親の思い出など欠片も思い浮かばない。

「ああ、そういえば――」

 うちは虐殺の夜を乗り越えて、ヤクモとユウナと出逢ったのは此処だったと今更ながら気づいた。
 その時の出来事はまるで昨日のように思い出せる。
 良くも悪くも、此処がこの世界での私の始まりだった。

「ヤクモの、馬鹿……」

 口に出して、一気に意気消沈した。怒りと後悔が渦巻き、胸が締め付けられる。
 もっと手順を踏んで話すべきだった。それなのに冷静さを失って喧嘩して険悪な状態に陥るなんて、下の下策過ぎる。自責の念で死にたくなった。
 ――私の眼から見て、ヤクモは危うい。自分の生命より他人の生命を優先するなんて、絶対にあってはならない。
 前回の二の舞を演じるつもりは無いが、同じような状況に陥った場合、ヤクモは率先して自分の生命を賭け、真っ先に生命を落とすだろう。それだけは避けなければならない。
 ――それ以上に、私の心の奥底にはある懸念が燻ぶっていた。
 そもそもヤクモは不可能と思われた状況から生き延びた。大蛇丸と直接対決するという絶望的な窮地をも乗り越えて見せた。

(……その一度だけなら偶然で片付けられる。けれど、次に同じような事があって、また不可能を可能に貶めてしまったら――?)

 魂に刻まれた恐怖と憎悪が一斉に蠢動する。
 そう、私は知っている。その忌まわしき存在を。如何なる窮地をも乗り越え、我が心臓に刃を突き立てに来る不倶戴天の怨敵、御都合主義の寵児を――。
 もし、ヤクモが〝彼等〟ならば、私は、ヤクモを、この手で――。

「――! 誰!?」

 私の意識を現実に呼び戻したのは何者かの気配であり、私は咄嗟に写輪眼を浮かべて戦闘態勢を取った。
 迂闊だった。イタチがいつ来るか解らない時期に、このような人気が無く、他の者の助けが見込めない場所に行くなんて。
 自身の軽率さを呪う事暫し、その何者かは大胆不敵な事に自分から姿を現した。

「サスケ……?」

 この時、私は完全に失念していた。このうちは一族の街に唯一人だけ、今尚住んでいる者がいる事を――。




「――木ノ葉に行くぞ」

 赤い雲模様入りの黒衣を来た青年は眉一つ動かす事無く淡々と喋る。
 木ノ葉の忍の証明である額当てには横に一直線の傷が刻まれており、その青年の両眼は今や稀有の存在となった写輪眼が妖しく輝いていた。

「ほう、アナタの故郷にですか。それでは九尾の人柱力を確保しに? 風の噂では六尾の人柱力も木ノ葉にいるそうですから、上手く行けば私達二人のノルマをクリア出来ますねぇ」

 同じ黒衣を来たもう一人の大男は紳士的な物言いとは裏腹に、好戦的で獰猛な笑みを浮かべる。
 写輪眼の青年は表面上は感情無く、されども、その写輪眼に身震いするほどの殺意を籠めて答える。

「それもあるが――確かめなければならない事がある」


 第四章 うちはイタチの帰郷




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026587963104248