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No.3089の一覧
[0] NARUTO うちはルイ暴走忍法帖[咲夜泪](2010/06/23 02:13)
[1] 巻の2[咲夜泪](2010/06/23 02:30)
[2] 巻の3[咲夜泪](2010/06/23 02:36)
[3] 巻の4[咲夜泪](2010/06/23 02:54)
[4] 巻の5[咲夜泪](2010/06/23 03:02)
[5] 巻の6[咲夜泪](2010/08/03 21:09)
[6] 巻の7[咲夜泪](2010/06/23 03:13)
[7] 巻の8[咲夜泪](2010/06/23 03:23)
[8] 巻の9[咲夜泪](2010/06/23 15:36)
[9] 巻の10[咲夜泪](2010/06/23 15:47)
[10] 巻の11[咲夜泪](2010/06/23 16:44)
[11] 巻の12[咲夜泪](2010/06/23 17:00)
[12] 巻の13[咲夜泪](2010/06/23 17:16)
[13] 巻の14[咲夜泪](2010/06/23 17:23)
[14] 巻の15[咲夜泪](2010/06/23 17:37)
[15] 巻の16[咲夜泪](2010/06/23 17:45)
[16] 巻の17[咲夜泪](2010/06/23 17:52)
[17] 巻の18[咲夜泪](2010/06/23 18:01)
[18] 巻の19[咲夜泪](2010/07/01 23:34)
[19] 巻の20[咲夜泪](2010/06/23 18:13)
[20] 巻の21[咲夜泪](2010/06/23 18:42)
[21] 巻の22[咲夜泪](2010/07/01 23:39)
[22] 巻の23[咲夜泪](2010/06/23 19:09)
[23] 巻の24[咲夜泪](2010/07/01 23:54)
[24] 巻の25[咲夜泪](2010/07/01 23:59)
[25] 巻の26[咲夜泪](2010/07/02 00:10)
[26] 巻の27[咲夜泪](2010/06/23 19:42)
[27] 巻の28[咲夜泪](2010/06/23 22:52)
[28] 巻の29[咲夜泪](2010/06/23 23:01)
[29] 巻の??[咲夜泪](2010/06/23 23:07)
[30] 巻の30[咲夜泪](2010/07/02 00:43)
[31] 巻の31[咲夜泪](2010/06/23 23:29)
[32] 巻の32[咲夜泪](2010/06/23 23:36)
[33] 巻の33[咲夜泪](2010/06/23 23:51)
[34] 巻の34[咲夜泪](2010/06/24 00:31)
[35] 巻の35[咲夜泪](2010/06/24 01:19)
[36] 巻の36[咲夜泪](2010/06/24 00:38)
[37] 巻の37[咲夜泪](2010/06/24 01:00)
[38] 巻の38[咲夜泪](2010/06/24 01:05)
[39] 巻の39[咲夜泪](2010/06/24 01:26)
[40] 巻の40[咲夜泪](2010/06/24 01:37)
[41] 巻の41[咲夜泪](2010/09/10 01:08)
[42] 巻の42[咲夜泪](2010/07/07 03:50)
[43] 巻の43[咲夜泪](2010/07/20 02:03)
[44] 巻の44[咲夜泪](2010/07/30 20:06)
[45] 巻の45[咲夜泪](2010/08/03 02:20)
[46] 巻の46[咲夜泪](2010/09/07 06:26)
[47] 巻の47[咲夜泪](2011/01/12 13:50)
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[3089] 巻の4
Name: 咲夜泪◆ae045239 ID:ceb974ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/23 02:54




 やあやあ、全国推定百万人のファンの皆、こんにちは!
 我こそは音に聞こえし忍の中の忍、将来五影を超越してウハウハのハーレムを築く予定の最強系主人公、魂の名前を大壕寺イチロー、設定年齢十九歳の美形だ!
 何処かの二次小説の如くNARUTOの世界に転生したのは全然ノープロなのだが、不運な事に木ノ葉隠れの里じゃなく雲隠れの里に誕生してしまい、原作キャラと恋愛フラグを立てる事が出来なかった……がぁしかしイィッ、それも今日この時までだ!
 木ノ葉隠れの里に潜り込み、適当に情報収集しろという大義名分(任務)の下、存分に我が野望を成す事が出来るのだ。目指せ、女子百人斬りじゃー!
 だがぁ、しっかしイィィ、どういう訳か結果が振るわない。この時の為に女子のハートを一発で射止める悲しげな表情とかを毎日鏡見て練習してきたのに、ぬぁぜだっ!?
 時代がまだ俺に追いついていないのか、それともあれか、皆恥ずかしくて照れ隠ししただけなのか! Oh、俺としたことがツンデレのツンに気づかなかったとはぁ、まだまだ未熟だぜ。
 ツンからデレ期に移行させる為に木ノ葉のくノ一達に求愛を繰り返していると、何時の間にかうちは一族が虐殺されていた。十三歳の小僧ッ子に殺されるなんてナンセンスな一族だぜ。
 だーが、生き残りの少女はすんばらしぃ! 思わずロリに目覚めてしまうほどのキュートで可憐な九歳児ね。君と出会う為に僕は此処に生まれてきたのだよと世の真理を悟ったね、うんうん。
 ――あん? もう一人の生き残りの糞餓鬼? そんな死に残りの不純物、我が眼にはアウトオブ眼中ですとも。男は死ね。
 そんな事を適当に報告すると、新たな任務を渡された。――うちはの生き残りを攫って来いと。漸く俺の時代が来たようだ。
 なんというかな、余所から嫁を攫ってくる発展途上国の風習。雲隠れの里にもあったとはお兄さんもびっくりだぁー。
 平和惚けした木ノ葉隠れの里で虎視眈々と機を窺う。ククク、待っていろマイハニー。二人で愛の逃避行だぁー。


 巻の4 井戸の中の蛙、藪を突付いて龍の逆鱗に触れるの事


 久方振りにアカデミーに訪れると私の机の上に菊の花が添えられていた。
 何処からどう見ても献花である。そうだね、一族の殆どが死んだから誰かが間違えたんだねと一人納得し、教室の後ろのロッカーに移動させておいた。
 席に戻って椅子を引いてみると案の定、定番の画鋲――ではなく、忍者らしく撒菱が三個仕掛けられている。あれだね、誰かの忘れ物だよねと一人納得し、専用の竹筒に入れる。
 机の中は見るまでもない。迂闊に手を入れようものなら血塗れになる事だろう。

(うわぁ、これが噂の〝いじめ〟の現場ってヤツかー)

 こういう陰湿な手合いは見せしめも兼ねて実力で排除するのが一番効率的だが、本性と実力を隠しているのでその方法は取れない。
 下手人を探して脅迫しに行くか、いや、複数犯の可能性が高いし、相手は糞餓鬼だから行動法則が論理的じゃない。今この時期に余計な波紋は立てたくない。

(飽きるまで放置だな。此方が反応しなければ自然に終わるだろうし)

 しかし、何故今この時期に投石を投げる輩が出現したのか。今までうちは一族の重圧があって手出し出来なかったからか。
 エリート志向で怨みを買うような傲慢な一族だったから普通に在り得る。同じうちは一族であるサスケに仕掛けないのは此方が圧倒的なまでに弱者だと思っているからだろう。
 つまり、本来サスケに行われたものがそっくりそのまま私に来たという訳だ。やれやれ、予期せぬとばっちりが来たものだと内心溜息付いた。




「――で、演習中に予想通り教室に置いた弁当に墨汁をミックスされたのよ。下手人三人の顔は判明したけど手痛い代償だわ」

 アカデミーの屋上、私はユウナとヤクモと一緒に昼飯と洒落込みながら朝からの出来事を話す。
 最も小娘風情の御陰で弁当を台無しにされたので、昼飯は二人から恵んで貰っている。

「てかもう特定したのかい。命知らずというか哀れな奴等だなぁってあぁー! 俺の唐揚げがぁ!?」
「んー、美味美味。私の栄養分になる事を光栄に思うが良いー」

 余所見した隙に肉を啄ばみ、良く噛んで堪能する。冷めても美味しい、中々良い仕事をしていると素直に褒めてやりたい。

「ふ、ふざけるなってああああぁあぁ、最後に食べようと思っていた海老天がぁ!」
「世は弱肉強食、食は早い者勝ちってね」

 無駄口叩く間に奪い、涙目で恨めしげに睨むヤクモを無視する。……食べ物の恨みは恐ろしいから、明日辺りお返ししよう。

「それはいいとして、その下手人とやらは?」

 ユウナは我関せず箸を進める。ヤクモみたいに隙は見当たらない。おかずを無理矢理奪うのは無理そうだ。

「女三人組だね。多分原作キャラじゃなくて、デコマユコヨいガキだったね。名前は知らない」
「……アバウトな人物像だなぁ」

 元々人の名前と顔を覚えるのは苦手な部類だ。今も意識しないと忘れそうだ。

「春野サクラをいじめていたグループだね、恐らく」
「ん、そんなエピソードあったけ? まあどうでもいいけど、そいつらうちはに怨みでもあったんかねー?」

 親から受け継いだ粘着なら相当厄介だ、などと考えていたらユウナとヤクモは何故か驚いた表情をしている。一体何処が変なのだろうと一人首を傾げる。

「……ルイってさ、意外と鈍いだろ?」
「どーいう事?」

 ヤクモにそのような事を言われるのは心外極まりない。

「ふむ、一つ誤解があるようだ。ルイはうちは一族の壊滅に伴って、今までの積年の怨恨を晴らすのが下手人の動機だと考えているようだが、自分は単なる嫉妬だと思う」
「嫉妬? 落ちこぼれの私の一体何に嫉妬するの? あ、もしかして私の美貌に?」

 それなら仕方ない、美人税みたいなものだし。割かし本気でそう思っているとヤクモはげんなりとした表情で指摘する。

「サスケを独占しているからじゃね?」
「――はい?」

 まさに寝耳に水、青天の霹靂だった。
 何故其処でサスケの独占などという単語が出るのか理解出来ない。というより、した覚えも無いし、まだする気も無い。私の思いのままに踊ってくれるよう誘導する気は満々だが。

「ほら、一族の葬儀の夜に一緒に過ごしたとか色々尾びれついて噂になっていたし」
「一族再興の為に貴女とサスケの婚姻が確実視されているとか」

 思わず眼をまん丸にして驚く。一族を虐殺されて喪に服した直後なのに、そんな下衆の勘繰りで嫉妬心丸出しにされても困る。ある意味、私の予想を上回る酷さだ。

「……認識が甘かった。この里の者は私が考えた以上に不謹慎のようだわ」

 同情なんて狗に喰わせろ、という性質だが、この時期に薄ら寒い同情じゃなく醜い嫉妬を抱かれるとは予想だにしなかった。

「何れにしろサスケが全面的に悪いという事でファイナルアンサーだね」

 全てサスケが悪いと断定して自己完結する。ああ、それにしても御腹が減った。

「で、どうするんだよ?」
「学級のくノ一纏め役であるいのに相談して片付けようと思ったけど、サスケ関連だから逆効果だねー。事を荒立てずに穏便に終わらせたいから暫く放置だね。あ、そうそう、それはともかく今日はユウナの家に遊びに行くから」

 突然振られた爆弾発言にユウナは停止する。
 口をぱくぱく開いて驚いている様子は金魚の間抜け面のようだ。

「――はい? いきなりどうして? 自分の家はあの日向宗家ですよ?」
「だからよ。お義父様に一度ご挨拶しに行かないとねぇ」

 場の空気が一瞬にして凍りつく。その特筆すべき言葉の意味合いを察したヤクモは硬直のち、一気に大爆発する。

「ゆゆ、ゆゆゆゆ、ユウナァー! てめぇ一体何をしやがったアアアアァー!?」
「ぬ、濡れ衣だあああああああぁー!」

 今日も概ね平和である、と大空に舞う鳥を眺めながら一人だけ和んだ。




 前々からうちはルイが気に入らなかった。
 一体何処が、と聞かれれば全部としか言えない。
 落ちこぼれの癖に周囲にチヤホヤされて調子乗っているのかあのアマ、あの後ろで揺れるおさげ姿が眼に入るだけで心底苛立つ。
 今日の事だって、どれを取っても腹立たしいったらありゃしない。
 朝、自分の机の上に菊の花が添えられているのを見て、あの女は何事も無かったかのように平然と後ろに片付けた。死人に添えるものだと解っているのだろうか。
 けれども、椅子に仕掛けた撒菱で鬱憤を晴らせると思い、あの女の苦悶に歪む醜悪な面を楽しみにしていたら、表情一つ変えずに竹筒を取り出し、回収しやがった。人のなのに!
 今まで引っ掛からなかったが、机の中は何処を触っても血塗れになるよう刃物を仕込んでおいた。今度こそはと思ったら、今日に限って一向に手を出さない。まるで全て見通されて幼稚極まると嘲笑われた気分だ。耐え難い屈辱に身を震わし、歯軋りを鳴らした。
 外の演習で抜け出し、奴の上履きをクナイで切り刻み、教科書に落書きし、弁当に墨汁をブレンドしてやった。
 ざまぁみろ。裸足で惨めに歩き回り、教科書に書き殴ってやった言葉の暴力で項垂れて、墨汁和えの弁当を前に泣き喚くといいわ。
 演習から戻ってきたあの女はどんな忍術を使ったのか切り裂いた痕一つ無い上履きで歩き回り、日向の兄の方ともう一人のボサボサ頭と一緒に、自分の弁当など見向きもせず何処かにいきやがった。ふざけんのもいい加減にしろ糞アマッ!
 私のサスケ君を独り占めしておいて、他の男にも手を出すなんて許せるものか。
 昼休みが終わり、あの女は二人を引き連れて帰ってくる。
 もう間接的だとか生温い真似はやめだ。あのうざいおさげを引っ張って引っこ抜いてやる――!




 馬鹿話は終わって教室に帰る最中だが、唐揚げと海老天の恨み、忘れようとて忘れられぬわぁ。
 見る者がいたなら完全に引きかねない不敵な笑みを浮かべる俺こと瀬川雄介もとい黒羽ヤクモは復讐の機会を虎視眈々と狙っていた。
 食べ物の恨みを晴らすべく、後ろで楽しげに揺れるおさげを引っ張るという子供じみた悪戯を考え付いた。
 実行するタイミングは教室に入った直後と見定めていたが、その前に他の誰かに引っ張られて後ろのめりに倒れそうになった。
 なんでこのタイミングに邪魔が――けれど、その間抜けな格好に思わず笑おうとした瞬間、うちはルイの中の決定的な何かが壮絶なまでに音を立ててぶち切れた。ぶちっと。

「え――」
「――ちょ」

 嫌に視界がスローに見える。ルイが引っ張られた方へ振り返る刹那、眸が普通の三つ巴の写輪眼から万華鏡へと複雑な模様に変わる過程が克明に見えるぐらい。って、おさげを引っ張っただけの相手を普通に殺す気か、あと「隠すから内緒ね」って言っていたのに何衆目の前で使おうとしやがりますか――!?

(ユウナ――っ!)
(――任された!)

 刹那にも満たぬ合間にアイコンタクトで意思疎通する。
 間髪入れずユウナは懐から煙玉を取り出して教室に炸裂させ、俺はルイのおさげを握る誰かの手を振り解き、小柄な身体をひょいと抱えて大脱走する。

「うわっ、なんだなんだ! またナルトの悪戯か!?」

 後ろからイルカ先生の声が聞こえたような気がしたが、恐らく錯覚か何かだろう。
 人目を気にしながらも形振り構わずに元来た道を逆戻りしたが、何で俺がこんなに苦労しなければいけないのだろう? 激しく疑問だ。




「おい、ルイ! 落ち着け、落ち着いたか? つーか眼、眼が変わってる!」

 屋上まで連れ去り、絶対にルイと眼を合わせないようにしながら賢明に後ろから呼びかける。
 いや、だって、今眼が合ったら確実に月読の惨殺空間に放り込まれ、有無言わずに嬲り殺されますよ?
 今のルイは物凄く殺気立っていて怖い。意思疎通出来ない猛獣を必死に宥めている飼育員の気分だ。何処かの腐海に住む巨大な蟲の怒り状態並に手が付けれん。

「――あ。危ない危ない、つい殺っちゃうところだった。ナイスだヤクモ、止めてくれてありがと」

 漸く意識が戻ったのか、賢明な呼びかけが功を成したのか、万華鏡写輪眼を引っ込めたルイは気まずく笑う。やっちゃうのニュアンスが殺すの方なのは錯覚だと信じたい。

「ところで、いつまで抱きついているのかな? 暴れないから安心してー」
「あ、ああ、すまん。気が動転していた。悪気は無いぞ、多分」

 普通、こういう年端いかぬ男女が触れ合えば、柔らかい感触だとか良い香りがするとか赤面するような桃色の回想がエピソードとして残る筈なのに全く無い。何故だ。危機感が先立ったからだ。

「んで、どうしたんだよ?」
「いやね、私、おさげ引っ張られるの死ぬほど嫌いなんだ。やられた瞬間、キレて目先が見えなくなるぐらい」

 あははーと誤魔化すように笑うが、全くもって笑えん。
 ……そうだよねぇ。今まで全ての人を騙し通すぐらい完全無欠の秘密主義者なのに、脇目振らず万華鏡写輪眼使おうとするとかマジありえんよ。

「お前のそのおさげは逆鱗か何かかね?」
「言い得て妙な表現だね、否定はしない」

 もし、あの時、他の誰かじゃなく自分がルイのおさげを引っ張ったら――そう考えただけで冷や汗が止め処無く流れる。今日ばかりは自身の悪運に感謝しよう。




 長期戦を想定していた一連の騒動は今日で潰えた。
 あれから日向ユウナが上手く立ち回って集団いじめを明るみに出し、イルカ先生が大層お叱りになったと。物的証拠は沢山残っていたし、白眼を持つ日向ユウナが証人となったからには言い逃れは不可能である。

「――え? 早く片付けないとヤバかっただろう。……あの三人が」

 君の中で私がどういう風に映っているのか、大変興味を抱かせる理由である。
 何時の間にか私の暴走は〝うちはの事件も重なり、精神的に疲労して一杯一杯だった〟という事になっていたのでその通りに演じた。
 最後に当事者が揃って謝り合い、お開きとなる。勿論、異常に怯えるおさげを引っ張った少女に脅迫する事を忘れずに。

「あーあ、今日はもうクタクタだぜ。日向の家に行ったのもヒアシに挨拶するだけだったし――てか、本当に挨拶だけだったのか?」
「挨拶だけよ。人間関係の始まりは総じて挨拶だからね」

 これまた余り期待出来ない布石だが、無いよりマシである。
 ゆくゆくは私の後ろ盾になって貰いたいところだが、事を急いでは仕損じるし、ある程度妥協も必要だ。うちはの血脈を取り入れる事しか考えない下衆な後見人はお断りだが。

「それじゃ明日。今日の弁当の借りを返してあげるから期待していてね~」

 真顔で「おまえ料理出来るの?」などとほざかれたが、明日見返してやろう。――辛子と山葵、両方のブレンドで良いか。
 黄昏ながら落ちる夕陽を眺めていた時、後ろから急接近する気配を察知しても反応出来ない貧弱な肉体を大層恨んだ。

「――! ――ッ!?」

 口と鼻を布切れで押さえられ、強引に草陰へ引き摺り込まれる。
 視界が歪み、意識が朦朧とする。即効性の薬物、と冷静に思考する間無く、意識は闇に堕ちた――。




 対象の少女の意識を瞬時に奪い、草叢に引き摺り込んで猿轡と縄で拘束する。
 一連の鮮やかな手並みに自称五影を超越した忍たる間者は「我ながら自分の有能さ加減が恐ろしい……!」などと自画自賛したりする。
 意識を失った少女を軽々と右肩に担ぎ、彼は里の外へ霞むような速度で疾駆する。性格面に多大な問題はあれども、腐っても雲隠れの暗部、能力面は優秀だった。
 この分ならば木ノ葉隠れの忍がうちはルイの不在を気づく頃には仲間の合流地点に到達し、国境越えを難無く果たすだろう。
 そうなればこの幼い少女を嫁とし、存分に弄べる。彼は自身の妄想を思う存分堪能し、虹色の未来に期待を膨らませる。
 だが、担いだ少女の身体が突然動き、任務中にあるまじき現実逃避が一時中断される。

「あん、もう目覚めやが――っ!?」

 今、意識を取り戻すのは何かと不都合だ。また薬を嗅がせて眠らせようとした時、首を限界まで回した少女と眼が合い、意識は闇の中へ引き摺り込まれた。




 幻術、と意識して舌の一部分を噛んで正気に戻ろうとしたが、どういう訳か解けない。
 気づけば其処は結構な速さで走る電車の上だった。
 この世界に電車などという文明の利器は無い筈なのに何故――?

「何勘違いしているんだ」
「ひょ?」

 突如の声に振り向けば、其処には世にも奇天烈な髪型をした学生がいた。
 首輪に鎖に繋がれた中央に眼が描かれた金色の逆三角錐、どうやってセットしたか解らない、染めに染めた色鮮やでカラフルな髪、只ならぬ怒気を発する奇抜なセンスの学生がいる。
 その少年の横には、更に奇抜な、騎士風の何かが立っている。式神か、口寄せされた妖魔の一種か。男は身構えようとしたが、どういう訳か指一本動かせない。

「まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ! 速攻魔法発動、バーサーカーソウル!」
「バーサーカーソウル!?」

 咄嗟に聞き慣れたフレーズを耳にし、この状況を断片的に理解すると共に戦慄が走る。

「手札を全て捨て、効果発動! こいつはモンスター以外のカードが出るまで、何枚でもカードをドローし、墓地に捨てるカード! そして、その数だけ攻撃力1500以下のモンスターは追加攻撃出来るッ!」
「え、ちょ、ま――!?」
「まず一枚目! ドロー、モンスターカード!」

 騎士風の男が疾走し、躊躇無く一閃する。剣は胴体を無造作に引き裂き、夥しい血が噴出する。

「うがあああああああああ! な、なんで本当にいてぇんだぁ?!」
「二枚目ドロー、モンスターカード!」
「や、やめ、ぐぎゃああああああアアアあああアァアああーッ! 何で身体が動かねえええええええぇっ!」

 二撃目は左腕を根元から切り裂き、回転しながら宙を舞う腕は電車の外に落下する。

「ドロー、モンスターカード! ドロー、モンスターカード!」

 奇妙な掛け声と共に一閃、二閃する。今度は右足を両断し、返す刃で右目を穿ち貫く。

「~~~~ッッ、うあ、あ、ああああアああぁアあアァアああアああああぁあぁ――!」

 終わらない。意識も生命も何もかも。この過剰殺傷は彼の原型が無くなるまで続けられた――。




「ハァハァッ、クソ、なんなんだこの痛みはッ! 幻術なのに滅茶苦茶いてぇぇえ~~~!」

 次に意識が戻った時、五体満足の彼は電車の上ではなく、異国の路上にいた。
 先程までは明るかったのに今は古典的なデザインの電灯が燈る真夜中だった。

「近づかなきゃてめーをブチのめせないんでな……」
「ほほお~~~っ、では十分に近づくがよい」

 前後から不吉な韻を孕んだ声が耳に入る。
 錯乱しながら確認すると、前には学生帽を被った全然高校生に見えない学ラン服の男が悠然と足を踏み入れ、後ろにはハートマークの頭飾りをつけた奇妙な服の外人男性が同じように歩み寄る。どう見ても挟み撃ちになる形だった。

「いや、ちょ、俺が中間にいるんですけどッ!?」

 彼の悲鳴じみた言葉は二人の男には届かない。
 ドドドドドドド、と奇妙な擬音が間近で聞こえてくるような、心臓を止め兼ねない殺人的な緊迫感が秒毎に増す。

「オラァ!」
「無駄ァ!」
「げひゃあぁ?!」

 二人の男が繰り出した〝第三の拳〟が中央にいた彼に直撃する。
 人外の威力を秘めた拳は容易に彼の肉体を穿ち貫く。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオアオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーッ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーッ!」

 目に止まらぬほどのラッシュの嵐が二人の傍に立つ奇妙な像から繰り出される。一撃一撃が即死級の打撃は彼の肉体を瞬く間に砕き折り、原型すら不明になるほどの襤褸雑巾に変えていく。

「ヤッダーバァアァァァァアアアアアアアアアアアアァァーーーーーーー!」




「ガアアアアアアアアアアアアァッァァ~~~! はぁハぁッはァ、な、何なんだ。何なんだよおおおおおこれはぁ~~~ッ!」

 信じられない激痛で吐き気が止まらない。
 蹲り、指一本すら動かせず、周囲の状況すら確かめられない中、彼の身体にピンク色に発光する縄が幾重に纏わりつき、身動き一つ出来ないように拘束される。

「――ちょっとだけ、痛いの我慢できる?」

 一瞬、理解出来ない言葉が耳に飛び込んでくる。
 唯一動かせる首を上げてみれば、其処には白い制服みたいなものを着た空飛ぶ少女がいた。
 少女が構える奇怪な杖には膨大な規模まで膨れたピンク色の光が収束していく。少女の後ろの左右に同じ規模の光が二つ、更に自身の後ろにまで二つ、計五個あった。

「え、あ、いいいい、いや、全力で遠慮します! お願いやめ」
「――全力全壊ッ!」
「うぉおおいッ! 言っている事ちげええええええぇ――!」

 彼を束縛している光の縄さえ吸収し、ピンク色の禍々しい光は限界まで集まる。
 逃げたくても先程の痛みで身体機能が痛覚以外麻痺し、一歩も動けない。彼は絶望した。

「スターライト・ブレイカアアァァー!」

 自身に放たれる五つの光、互いに鬩ぎ合い、痛み以上に突き抜けた何かが身体中に暴れ回り、消して犯して侵して砕いて跳ねて、想像絶する激痛が脳髄を魂を陵辱していく。

「あ、アアアアアアァァアアアッァァァァァアアァァアーーーーーーーー!」
「ブレイク・シューーーーート!」

 全ての光が解放される。最大級の痛みが、全身を幾千回突き抜けた。

「ミギャアアアアアアアアァァアアアアアアアアアァアアァァァアアアあアアアあアアアアアアアアアア~~~~~~~~~ッッッ!」




「ま、まさ、か――こ、これが、あ、万華鏡、写輪……ぁあぁッ!?」

 またもや一歩足りても動けず、自分の腹から血塗れた刀の穂先が突き出ている。
 刀を抜き取って眼下に現れたのは自身が攫った少女であり、万華鏡写輪眼を紅く滾らせるうちはルイは心底愉しげに嘲笑った。

「――正解。存分に死を愉しみなさい。大丈夫、決して飽きさせないわ。百の人生でも体験出来ない特異な死を提供してあげる」

 一瞬で理解してしまった。あれは屠殺場で精肉される豚を見るような眼だと。人間を人間と認識せず、空気を吸うように平然と凄惨に殺す、人外化生の眼だと――。

「……ま、待て、待て待て待ってくれッ。俺も同じだ! お前と同じ、向こうの世界の住民なんだッ!」
「ふーん、だから?」

 自身の惨たらしい末路を悟った彼は必死に、最後の一筋の望みに賭ける。

「里の任務だったんだ。仕方なかった! 俺だってこんな事をしたくもなかった! お願いだ、同じ日本人だろ? 命だけは助け――あグァッ!?」

 手に握る刀を無造作に、咽喉元に突き刺される。
 声を幾ら出そうにも息を吸おうにも空気と血が零れて音にならない。

「――だから、それがどうしたの?」

 それは天使のように綺麗で、人間味の欠片も無い残酷な微笑みだった。

「おまえの都合など知った事か、此処で朽ち果てろ。私の輝かしき未来の礎にしてあげる」

 もはや悲鳴を上げる事すら許されず、彼は無残に殺され続ける。
 無限に等しい殺戮の中、彼は考えるのをやめた――。




(――二十六時間か。この根性無しめ)

 草叢で身動き一つ出来ない状態で精神が逝って横たわる男に毒づきながらも、憎々しげに辛酸を嘗める。
 実際問題、成功するか否か瀬戸際だった。
 この時期に他の里の忍に拉致されるなど完全に想定外であり、事前の備えなどまるで無かった。
 即効性の薬物を嗅がされながらも、猿轡を噛まされ、縄で緊縛し終えるまで意識を失った演技を出来たのは奇跡に等しい。
 それからは気づかれないように掌の肉を爪で抉り続けて意識を取り戻さなかったら、今頃こいつの忍の里で性奴隷以下の扱いだ。全くもって忌々しい。
 掌仙術で出血多量の掌にチャクラを集中させ、完全に治療する。
 腐っても忍の緊縛、縄抜けは無理そうであり、猿轡も自力じゃ外せそうに無い。おまけに意識は朦朧とし、途切れる寸前である。
 自らの運命を自分以外の何かに委ねるのは非常に癪だが、木ノ葉隠れの里の忍が早々に発見してくれる事を祈って意識を失った。




「……ご苦労じゃった。下がってよいぞ」

 暗部から渡されたうちはルイ拉致未遂事件の詳細を読み、木ノ葉隠れの頂点に立つ忍、三代目火影は深々と溜息を零した。
 本日未明、日向宗家を訪れたうちはルイは帰りの道中に雲隠れの間者に拉致され、行方が途絶える。が、うちはルイは意識不明の状態で里の近辺にて日向ヒアシ(うちはルイの行方不明の一報を聞き、捜索に緊急参加した)に発見され、無事身柄を確保される。
 その傍に外傷一つ無い死体が発見されるが、死因は不明。想像絶するほど醜く歪んだ死に顔だったとされる。
 そういう死に方をした仏を、三代目火影は心当たりがあるどころか知っていた。
 当代では彼にしか出来ない殺害方法であり、かの者の仕業である事は火を見るより明確だろう。

「うちはイタチ――これも、お前の意思なのか」

 重い罪悪感に蝕まれながら、三代目火影は月を眺める。
 遠眼鏡の術を使える自身にすら届かぬ場所で、彼は里の事を見ていたのだろう。
 プロフェッサー、忍の神などと謳われても、里の子供一人すら守れない。自身の不甲斐無さを呪いたくなる。

「失礼します」

 控え目のノック音と共に執務室に現れたのは今回の事件の最大の功績者であり、数年前の事件以来、顔を見合わせる機会すら無くなった日向の当主、日向ヒアシその人である。

「火影殿、今回の事件は我が日向宗家に一因があります。如何なる罰も受ける所存です」
「良い、今回の不手際は里の警戒態勢の怠慢であり、総じて儂の責任じゃ。すまんな、ヒアシ。――二の舞を踏むところじゃった」

 二人の表情に深い影が差し込み、重苦しい沈黙が場を支配する。
 過去の忌まわしき記憶が脳裏に過ぎる。日向と木ノ葉の上層部に深い確執を生み出したあの事件を――。

「ヒアシ、これは個人的な頼みなんじゃが――」






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