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No.3089の一覧
[0] NARUTO うちはルイ暴走忍法帖[咲夜泪](2010/06/23 02:13)
[1] 巻の2[咲夜泪](2010/06/23 02:30)
[2] 巻の3[咲夜泪](2010/06/23 02:36)
[3] 巻の4[咲夜泪](2010/06/23 02:54)
[4] 巻の5[咲夜泪](2010/06/23 03:02)
[5] 巻の6[咲夜泪](2010/08/03 21:09)
[6] 巻の7[咲夜泪](2010/06/23 03:13)
[7] 巻の8[咲夜泪](2010/06/23 03:23)
[8] 巻の9[咲夜泪](2010/06/23 15:36)
[9] 巻の10[咲夜泪](2010/06/23 15:47)
[10] 巻の11[咲夜泪](2010/06/23 16:44)
[11] 巻の12[咲夜泪](2010/06/23 17:00)
[12] 巻の13[咲夜泪](2010/06/23 17:16)
[13] 巻の14[咲夜泪](2010/06/23 17:23)
[14] 巻の15[咲夜泪](2010/06/23 17:37)
[15] 巻の16[咲夜泪](2010/06/23 17:45)
[16] 巻の17[咲夜泪](2010/06/23 17:52)
[17] 巻の18[咲夜泪](2010/06/23 18:01)
[18] 巻の19[咲夜泪](2010/07/01 23:34)
[19] 巻の20[咲夜泪](2010/06/23 18:13)
[20] 巻の21[咲夜泪](2010/06/23 18:42)
[21] 巻の22[咲夜泪](2010/07/01 23:39)
[22] 巻の23[咲夜泪](2010/06/23 19:09)
[23] 巻の24[咲夜泪](2010/07/01 23:54)
[24] 巻の25[咲夜泪](2010/07/01 23:59)
[25] 巻の26[咲夜泪](2010/07/02 00:10)
[26] 巻の27[咲夜泪](2010/06/23 19:42)
[27] 巻の28[咲夜泪](2010/06/23 22:52)
[28] 巻の29[咲夜泪](2010/06/23 23:01)
[29] 巻の??[咲夜泪](2010/06/23 23:07)
[30] 巻の30[咲夜泪](2010/07/02 00:43)
[31] 巻の31[咲夜泪](2010/06/23 23:29)
[32] 巻の32[咲夜泪](2010/06/23 23:36)
[33] 巻の33[咲夜泪](2010/06/23 23:51)
[34] 巻の34[咲夜泪](2010/06/24 00:31)
[35] 巻の35[咲夜泪](2010/06/24 01:19)
[36] 巻の36[咲夜泪](2010/06/24 00:38)
[37] 巻の37[咲夜泪](2010/06/24 01:00)
[38] 巻の38[咲夜泪](2010/06/24 01:05)
[39] 巻の39[咲夜泪](2010/06/24 01:26)
[40] 巻の40[咲夜泪](2010/06/24 01:37)
[41] 巻の41[咲夜泪](2010/09/10 01:08)
[42] 巻の42[咲夜泪](2010/07/07 03:50)
[43] 巻の43[咲夜泪](2010/07/20 02:03)
[44] 巻の44[咲夜泪](2010/07/30 20:06)
[45] 巻の45[咲夜泪](2010/08/03 02:20)
[46] 巻の46[咲夜泪](2010/09/07 06:26)
[47] 巻の47[咲夜泪](2011/01/12 13:50)
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[3089] 巻の21
Name: 咲夜泪◆ae045239 ID:ceb974ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/23 18:42




「――っ」

 目蓋を閉じて思い浮かぶは忌々しき宗家の長男、自身と近しい容姿ながら額を意図的に見せびらかす日向ユウナの姿だった。
 中忍試験の本選の対戦相手であるうずまきナルトの事を一顧すらせず、日向ネジの脳裏には予選落ちしたユウナの存在が深く根付いていた。
 試合結果は同じ班員と相討ちになったが、ユウナは日向の業を全くと言って良いほど出していなかった。
 朧分身による水遁の術も白眼の前では無意味の術であり――自分に対して手の内を明かさず、出し惜しみした間々終わった事にネジは歯軋り音を鳴らす。

「天の采配か、人の悪戯か――」

 分家の者でも業のみならば宗家を超える、それを証明する機会が失われた事にネジは少なからず失望する。自分の浅はかな意図を見透かされ、相手にもされず嘲笑われたような錯覚を感じる。
 日向ユウナは日向ネジにとって絶対に許容出来ない存在だった。
 持つ者と持たざる者――ユウナは生まれながら全てを持ち得ていた。呪印術によって分家の生殺与奪の権を掌握する宗家であり、次期当主であり、果てには自分に匹敵する才能さえ持ち得ていた。
 ただ一年早く生まれた、最早それだけしか差が無く、籠の中の鳥である分家として生まれ、逃れられぬ運命を背負わされた理不尽さ――その最たる象徴である日向ユウナを全身全霊を籠めて呪う。

「ネジ、此処に居たの。新人の九班、全員里にいないみたいね。何処に行ったのかしら?」
「そうか」

 木々の枝を踏み越えて現れたテンテンから、彼らが不在である事の報告を振り向かずに聞き、ネジは宗家の眼が届かぬのならむしろ好都合と口元を締める。

「……ねぇ、ネジ。止めないけどさ、何で日向ユウナに其処まで拘るの?」

 同じ班員として日向の分家と宗家の確執がどれほど深いか知るテンテンにも、それだけは理解出来ない。

「理由、か。――全てが気に食わない、ただそれだけだ」

 テンテンは立ち去るネジの後ろ姿を見て、思う。
 どうして男の子はこういう事に熱くなるんだろう、それは女だから解らないのだろうか。時折寂しくなるとテンテンは憂鬱の色を隠さず溜息を付いた。


 巻の21 孤高が孤独に変じ、憂鬱な心は晴れないの事


 その些細な違和感に気づいたのはヤクモとユウナの死闘の後であり、確信に変わったのはサクラとの交渉の後だった。
 ――昔の私なら迷わず殺していた。直接手を下すまでも無く、写輪眼による幻覚で自発的に墜落死させただろう。
 それなのに私は周囲の――ヤクモとユウナの反応を考慮して迷ってしまい、サクラに交渉の余地を与えてしまった。
 何故今まで気づけなかったのか、看破出来ない堕落である。

「――勝負よ、ルイ!」

 その結果の一つがこれなのか、朝っぱらから正々堂々と勝負を仕掛けてきたサクラに溜息を零す。
 あれから四日間、サクラは未だに掌仙術の糸口すら掴めてないが、第二部から先取りした怪力は順調に我が物にしている。
 ……間違い無い。空白の三年間で綱手に弟子入りし、最初に適性があったのは医療忍術でなく、綱手以外不可能とされた怪力の方なのだろう。
 付き人のシズネは真っ当な医療忍者なのだから、綱手二号になったのは当の本人が原因だろう。

「その余裕面、今すぐかき消して――ギャアアアアアアアアアアアッ!?」

 相変わらず写輪眼を睨み返すサクラには瞳術による幻術をプレゼントする。
 品の無い悲鳴が木霊し、サクラは泡吹いて気絶した。……本当に幻術適性があるのだろうか?

「身近に二人も所有者がいるのに、いや、身近にいるから写輪眼を直視する事がどれだけ危険な行為なのか、自覚してなかったのかな?」

 私は呆れ顔で呟く。一番最初に対峙した時も恐れず写輪眼を睨み返していたから、良い薬になるだろう。

「素晴らしい、マーベラス! ルイよ、四日目で下克上とは日頃の行いの悪さが祟ったな! そして一瞬で返り討ちになるサクラ君の薄幸さに全米が泣いたっ! ……てか、扱い酷くね?」
「……先生、朝から元気ですね」

 ユウナは珍獣を眺めるようにカイエを見ながら、疲労感を漂わせて言う。
 私はユウナとヤクモに眼を向けて、内心歯痒く思う。二人は私にとって便利な駒程度の存在であり、それ以上でもそれ以下でもない。それなのに、私は――。

「ん? ルイ、どうしたんだ?」

 そんな煮え切らない様子に気づいてか、ヤクモは私の顔色を窺う。

「……何でも無いわ。そういえば――この前の説教がまだだったね。サクラが気絶した事だし、丁度良い機会だわぁ」

 私はまるで自分を誤魔化すように妖艶な微笑みを浮かべる。

「ま、まだ根に持っていたのか……!?」
「……勘弁してくれ」

 ヤクモとユウナの顔は一瞬にして引き攣り、見るからに青褪める。
 気絶して有耶無耶になったと思っていただろうが、然うは問屋が卸さない。

「言葉で何度言っても無駄だと思うから実演するわ」

 私は影分身の術を使う。影分身の私は「えぇー」と物凄く嫌な顔を隠さず浮かべた後、渋々と遠くに歩いていく。

「……滅茶苦茶遠くに行ったが、何するんだ?」
「それはね、ヤクモ。自分達がどれだけ危険な行為をしたか、その眼に焼き付ける為さ」

 私の影分身はやる気無く気怠い動作で右掌に螺旋丸を作り、怨めしそうな目線を本体の私に向けて――螺旋丸に火の性質変化を全力で加える。

「たーまやー!」

 ……その掛け声はどうかと思う。てか、私の品格が疑われる。
 乱回転して渦巻くチャクラの球体に猛火が際限無く燃え滾り、暴虐極まる破壊力を圧縮・凝縮し、制御を離れて臨界まで大暴走し――真紅の極光となりて盛大に爆発した。

「「「――!?」」」

 火柱を立てて大炎上し、二十メートルぐらい離れているのに激しい爆風に煽られる。
 爆心地は跡形無く抉れ、半径五メートル以内の地面は酷く溶解していた。生温い風が流れる。体感温度的に三度は上昇した。

「おー、派手に爆散したな」

 カイエが手放しに称賛するが、ヤクモとユウナはそれどころでは無いようだ。

「見ての通り、螺旋丸に火の性質変化を加えたものよ。御陰で制御は碌に出来ないし、燃費も最悪、近距離用の忍術なのに自分まで巻き込むという完全無欠なまでに自決仕様だね」

 この当然と言うべき結果に平然としているのは私とカイエぐらいであり、ナギは余りの威力に眼をまん丸にして驚き、ヤクモとユウナは自分がやった事の危険性をやっと自覚したのか、開いた口を塞げないでいた。

「修行するのは勝手だけど、絶対に実戦で使わないように!」

 念を押すように私は二人に言い付け、脳裏には予選での光景が鮮やかに蘇える。
 あの時の私は心の底から、無限に終わらない世界で巡り合えた二人の友を失いたくないと、愚かにも願ってしまったのだ――。




「……何かルイの様子、微妙に変じゃなかったか?」
「奇遇だな、自分もそう思っていた処だ」

 ルイがナギを連れて行って修行に出掛けた後、ヤクモとユウナは去った方向を見た間々話す。
 最近、ルイの様子がどうにもおかしい。本人としては表に出していないつもりだが、そういう思い悩んでいる仕草が度々見られる。

「おお、二人がそれに気づくとは、弟子の精神的な成長に先生感動したっ!」

 気絶したサクラを介抱し終わったカイエは懐のポケットから目薬を取り出して堂々とさし、嘘泣きして涙ぐむ。
 ヤクモとユウナは何処から突っ込んで良いか悩んだ。

「……で、其処まで言うからには何が原因か解っているのか? カイエ先生」
「ふふ、あれはなぁ――デレ期に移行する前に立ち塞がった最大のツン期だ!」

 くわっと迫力有る威圧感を撒き散らし、カイエは己が右手を握り締めて力説した。聞いた自分が馬鹿だったとヤクモが後悔したのは言うまでも無い。

「……最近、暑かったからなぁ」
「いや、酸素欠乏症の線も捨て難いぞ」

 ヤクモは白目で可哀想なものを見るように眺め、ユウナは最早見てすらいなかった。

「まあ、冗談は此処までにしといて、何か思い悩んでいる事は確かだな。さっさと解決の糸口を見つけ、さくっとフラグ立てに行きなさい。ああ、時期が時期だから死亡フラグは立てないようになー」
「修行は良いんですか?」

 朝からフルマラソンを走ったような疲労感と哀愁を漂わせるヤクモ達に対し、わっはっはとカイエは豪快に笑う。

「これはある意味、何でもありの諜報戦だ。上の空と言えども対象がルイだから、中忍試験の第一試験なんて眼じゃない難易度だぜぇ。忍者なら忍者らしく忍び隠れ盗み聞き、ルイの心を掴み取るのだぁ~! ああもう青春してんなぁーテメェ等!」

 彼の笑い声が虚しく響く。この方面に暴走するカイエは手が付けれない、二人は色々と諦めた。
 ――中忍試験の本選まで、あと二十三日であった。




「……上手くいかないねぇ」
「まだ本選まで時間あるよ――見込みは全然無いけど」
「うぅ、面目欠片も御座いません……」

 修行は全くと言って良いほど進展していなかった。
 ナギが尾獣のチャクラを引き出し、景気良く暴走し、私の写輪眼で止めて気絶する。最後に喝を入れて起こす。これの繰り返しだった。

「悲観する事は無いわ。人柱力として生まれた瞬間から尾獣のチャクラに触れているナギなら何れ制御出来るよ」

 私は自身の右腕を動かしながら語る。我が手ながら痣が酷かった。
 尾獣のチャクラは正しく猛毒だった。吸引した瞬間、内部から焼き爛れるような激痛が走る――私ではチャクラを操る以前の問題だった。
 自分のチャクラの質云々には自信があったが、人と人外のチャクラではベクトルが違うようだ。
 オマケに尾獣のチャクラによる負傷は私の医療忍術でも完治し難い。道理で人柱力でなければ操れないと結論付けられる訳だ。

「ルイちゃん、やっぱり中止した方が……痣も前より酷くなっているよ」
「心配は無用よ。猛毒みたいなチャクラだけど、徐々に慣れさせ、それに耐え得るチャクラを手に入れれば、私自身のチャクラの増強と同時に無尽蔵のチャクラが使えるようになる。操作出来るかどうかは見通しすら立たないけどね」

 この壁を乗り越える事で得られる恩恵は非常に大きいので、是非とも生き残る為に形にしたい。
 どんなに犠牲を払っても生き残らなければ意味が無い――と、此処までまた雑念が入る。果たしてその犠牲の中に、今の私は近しい者の生命を勘定に入れる事が出来るのだろうか?
 馬鹿馬鹿しい、自分の命と他人の命など比べるまでも無いのに思い悩むなんて。今の私は本格的にまずい。最大限の危惧を抱かざるを得なかった。

「……ルイちゃん、何か悩んでる?」
「この修行が木ノ葉崩しに間に合うかで悩んでいるよ。どうやって生き残るか、その最善手も模索中だわ。不確定要素が多すぎて眼が回りそう」
「違うよ、そうじゃなくて……」

 ナギにまで察知されている事実に私は愕然とした。

「……休憩は終わりよ」

 有無を言わさず話を切る。非情に徹する、そんな言葉を態々使わなければならないほど今の私はおかしい。歯車を掛け違えた絡繰が如く破綻しかけている。
 永遠に忘れていたかった人の情は、致死に至らしめる甘き毒が如く浸透していた――。




 ルイの土遁で堅い岩場を切り取り、周囲を岩で囲んで浴槽状に整備し、ユウナの水遁で近場の水を此処に放り込んで浴槽を満たす。更にルイの火遁で水をぐつぐつ沸騰させ、最後にカイエの風遁で掻き混ぜて適切な温度まで冷やす。

「良い湯だねぇ」
「人工の温泉にしては上出来、かな」

 ――即興の露天風呂の完成である。何という忍術の無駄遣いと思いつつ、のほほんと語るナギと気兼ね無く寛ぐルイと一緒に湯に浸かるサクラだった。
 因みに男性陣は周囲の監視中であり、万が一にも覗き見しようものなら怪力に混沌の泥に写輪眼と高等忍術が容赦無く叩き込まれるだろう。

(……右腕に治癒しかけの酷い痣があるけど、サスケ君みたいに変な痣は無い。という事は、あれがルイの素のチャクラ?)

 ヘアバンドで髪の毛を上げた裸眼のルイの一糸纏わぬ体をまじまじと見ながら、サクラは呪印の有無を確認する。それと同時にライバルの発育具合や腰の括れなど入念にチェックしたりする。
 こう言うと自分にもダメージが来るが、胸の貧相さは同じぐらいだった。

「……む。何じろじろ見ているの?」
「きっとルイちゃんの可愛らしさに見惚れていたんだよー」

 ナギの軽い冗談を「まさか両方いける口?」と半分引いているルイに、サクラは「んな訳無いだろ、しゃーなろー!」と内心叫ぶのだった。

「……ルイってさ、サスケ君の事、どう思っているの?」
「難しい質問ね」

 唐突に振られた話に、ルイは難色を示す。裸の付き合いの最中でも、気乗りのしない話題であるからだ。

「うちは一族がイタチに虐殺された後、私を引き取りたいという人は沢山いたわ。何故だか解る?」
「……九歳の子供一人では心配だから?」
「――うちはの血継限界が欲しかったからよ。血が薄い分家の落ちこぼれでも次世代の子は写輪眼を開眼するかもしれないでしょ? そういう連中にとって私の意思なんてどうでも良い問題だし」

 世間がそんなに温情溢れているなら苦労しないとルイは一笑する。
 サクラも一度も考えなかった事ゆえに、眼を見開いて驚く。あんな大事件の後なのに、当人達の気持ちを顧みなかった者が其処までいるとは、不謹慎過ぎて思いもよらなかっただろう。

「日向宗家に引き取られるまで政略結婚の手引きは数多だったわ。恋愛の末になんて甘い考えなど思い浮かばない環境だわ」
「……ルイちゃんも苦労してるねぇ」

 夜空の月を眺めながらルイは淡々と語り、ナギが相槌を打つ。サクラは呆然としながら釣られて月を見る。今宵は三日月だった。

「――それはサスケにしても同じ話。木ノ葉もうちはの純血の血統は何としても遺したい。其処に当事者の意思は存在しないわ」
「でも、サスケ君はアンタの事……!」

 激情に駆られてサクラは立ち上がる。
 一触即発の状況の中、ナギはルイが意図的に答える内容をはぐらかした事が気になった。
 確かにサスケの事は周囲の状況として説明したが、ルイがサスケの事をどう思っているのかは全然答えていない。

「ねぇねぇ、ルイちゃん的にはヤクモとユウナはどうなのー?」
「――へ?」

 場の空気を和らげようとしたナギの質問が、ルイにとっては予期せぬ横槍として急所のど真ん中を抉った。

「……ちょっと、何で心底驚いた表情してんのよ? 傍目から見ればデキているように見えるわよ」
「え、いやだって、異性として意識した事無いし、いきなりそんな事言われても……」

 サクラの追及を受け、ルイは面白いぐらい狼狽した。心做しか顔が紅潮している理由は湯の熱さだけではあるまい。

「うわぁ、二人とも前途多難だねぇ」

 そんな彼女の珍しい且つ可愛らしい姿を見ながら、ナギはルイを慕う二人に少なからず同情したのだった。




「チックショー! 覗きに行きてぇえええぇ! これは男として当然の願望だろ!」

 夜空に映える三日月の下、カイエは全身全霊でそんな妄言を叫んでいた。

「その自殺願望はどうかと」
「つーか、先生の年じゃ犯罪だぜ?」

 ユウナとヤクモが突っ込む。三人は即興の温泉から離れた場所に居るが、本能的に恐れてか、温泉側とは反対方向に向いている。

「そうだ、ユウナ。白眼だ! あれならどんな距離からも覗き見が出来る! さあその理想郷を俺達に鮮明に説明し……ってあれ、嫉妬で殺したくなったな。どうせならその眼だけ奪って――」
「……物騒な事を言わんで下さい。それに白眼で覗き見したと親父殿に知られれば、間違い無く殺されるんで永劫に御免被ります」
「……あの親っさんなら殺りかねないなぁ」

 などと雑談している最中、甲高い野鳥の鳴き声が周囲に響く。
 同時に三人の顔が引き締まり――即座に青褪めた。この周囲には存在しない野鳥の鳴き声は侵入者対策の一環である。崖の全周囲に施されており、その領域に足を踏み入れた瞬間、その方角から鳴き声が響く仕組みである。

「よ、よりによって!?」
「げ、下手人を確保すれば問題無い、筈!」

 ヤクモが悲鳴じみた声をあげ、ユウナが壮絶に慌てる。今回の場合、最悪な事に鳴った方角は温泉方面だった。

「――温泉の方だぁ!? 何だこの死兆星が夜空に輝いたような死亡フラグは……!」

 絵に描いたような事態に三人は戦々恐々しつつも、意識を切り替えて全速力で温泉を目指す。丸腰の彼女達が敵対者に襲われれば一溜まりもあるまい。

(……あれ。冷静に考えればルイの万華鏡写輪眼にナギの混沌の泥、オマケのサクラさえ怪力持っているから侵入者の安否を心配した方が……むしろ、どう転んでも俺達は誤解されるのでは?)

 ヤクモが諦めに似た達観を抱きつつも、もしもの事態を想定して強く駆け抜けるのだった。




「――! ナギ、向こうの方角に自動攻撃の混沌の泥、早く!」
「え、はいぃ!?」

 侵入者の警報である甲高い野鳥の声を逃さなかったルイは即座にナギに攻撃を指示する。
 ナギは莫大なチャクラを練り上げ、混沌の濁流を繰り出す。
 未だに術者であるナギには侵入者の存在は知覚すら出来ていないが、チャクラに敏感な混沌の泥は侵入者の存在を的確に捉え、容赦無く牙を剥く。
 さながら触手の如く伸びた混沌の泥は悉く回避される。走り回り飛び越え、その人影は颯爽と乗り越えていく。

「避けられた!?」

 回避された混沌の泥も背後から襲うが、その侵入者は後ろに眼があるかの如く掠りさえしない。

「この、死に曝せ――!」

 湯の上に立ち上がったルイは怒りに任せて高速で印を結ぶ。近場の土が見る見る隆起し、巨大な龍の形になって侵入者を襲った。
 ――土遁・土龍弾、土の国の一件で岩隠れの上忍から盗み取った高等忍術である。土の龍は混沌の泥ごと飲み込んで地を蹂躙する。
 この予期せぬ土石流の如き突撃を侵入者は踏み越えて避ける。不意討ちで仕掛けた混沌の泥を回避した卓越した身体性能から顧みるに――ルイの予想通りの展開だった。

「――ナギ!」

 待ってましたと言わんばかりにナギは既に手動操作に切り替え、待機していた混沌の泥を再起動させた。
 土の龍の身体から巻き込まれた混沌の泥が飛び出し、侵入者の身体に纏わり付く。

「捕まえたぁ……!」

 そして潰す――までもなく終わる。チャクラを吸収し尽くされ、侵入者は呆気無く気絶した。これ以上直に接触し続けていると生命に関わるので、ナギは混沌の泥を切り離して消した。

「い、一体何事!? それに今のナギサの術は――」
「三人とも無事かぁ! って、もう返り討ちにしたんかいな……」

 草の茂みから飛び出して現れたカイエ達は既に侵入者が撃退された事を瞬時に察し、神速で後ろに振り向いた。
 まさに別の意味で最悪の状況だった。絶体絶命の危機に颯爽と現れて侵入者を撃退したなら大義名分が立つが、この間々では御約束通り痴漢扱いされてしまう。三人は揃って震えた。

「お、落ち着いてくれ、ルイ。俺達は助けに来ただけで、決して覗き見しようとかそういう魂胆は欠片も無いぞ……!」
「そ、そうだぞルイ。白眼も使ってないぞ、親父殿に誓って良い!」 

 ヤクモとユウナは挙ってルイに弁明する。ナギとサクラを無視する気は無いが、切れたら一番何をやらかすか解らぬが故にだった。
 その必死で滑稽な様を見て、ルイは心底から呆れ果てた。

「……いや、緊急時なんだから白眼使わないと意味無いでしょ。着替えるから其処に伸びてる侵入者ふん縛っておいてー。後でたっぷり尋問してやるからぁ」

 滅茶苦茶愉しげなルイの語調を、三人は湧き上がる寒気を堪えながら聞き届ける。
 そして女三人の気配が消えた後、極限の緊張感から解き放たれたカイエ達は一緒に安堵の息を吐いた。

「で、釣られたのは音隠れの馬鹿かなぁ――って、あぁれ?」

 昏倒する哀れな侵入者を捕縛するべく恐る恐る近寄ったカイエ達だが、その見知った顔を見て茫然とする。

「ネジ……?」

 信じられない表情で、主に失望やら軽蔑やら見損ないながら、ユウナは地に転がる侵入者の名を呟くのだった。





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