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No.3089の一覧
[0] NARUTO うちはルイ暴走忍法帖[咲夜泪](2010/06/23 02:13)
[1] 巻の2[咲夜泪](2010/06/23 02:30)
[2] 巻の3[咲夜泪](2010/06/23 02:36)
[3] 巻の4[咲夜泪](2010/06/23 02:54)
[4] 巻の5[咲夜泪](2010/06/23 03:02)
[5] 巻の6[咲夜泪](2010/08/03 21:09)
[6] 巻の7[咲夜泪](2010/06/23 03:13)
[7] 巻の8[咲夜泪](2010/06/23 03:23)
[8] 巻の9[咲夜泪](2010/06/23 15:36)
[9] 巻の10[咲夜泪](2010/06/23 15:47)
[10] 巻の11[咲夜泪](2010/06/23 16:44)
[11] 巻の12[咲夜泪](2010/06/23 17:00)
[12] 巻の13[咲夜泪](2010/06/23 17:16)
[13] 巻の14[咲夜泪](2010/06/23 17:23)
[14] 巻の15[咲夜泪](2010/06/23 17:37)
[15] 巻の16[咲夜泪](2010/06/23 17:45)
[16] 巻の17[咲夜泪](2010/06/23 17:52)
[17] 巻の18[咲夜泪](2010/06/23 18:01)
[18] 巻の19[咲夜泪](2010/07/01 23:34)
[19] 巻の20[咲夜泪](2010/06/23 18:13)
[20] 巻の21[咲夜泪](2010/06/23 18:42)
[21] 巻の22[咲夜泪](2010/07/01 23:39)
[22] 巻の23[咲夜泪](2010/06/23 19:09)
[23] 巻の24[咲夜泪](2010/07/01 23:54)
[24] 巻の25[咲夜泪](2010/07/01 23:59)
[25] 巻の26[咲夜泪](2010/07/02 00:10)
[26] 巻の27[咲夜泪](2010/06/23 19:42)
[27] 巻の28[咲夜泪](2010/06/23 22:52)
[28] 巻の29[咲夜泪](2010/06/23 23:01)
[29] 巻の??[咲夜泪](2010/06/23 23:07)
[30] 巻の30[咲夜泪](2010/07/02 00:43)
[31] 巻の31[咲夜泪](2010/06/23 23:29)
[32] 巻の32[咲夜泪](2010/06/23 23:36)
[33] 巻の33[咲夜泪](2010/06/23 23:51)
[34] 巻の34[咲夜泪](2010/06/24 00:31)
[35] 巻の35[咲夜泪](2010/06/24 01:19)
[36] 巻の36[咲夜泪](2010/06/24 00:38)
[37] 巻の37[咲夜泪](2010/06/24 01:00)
[38] 巻の38[咲夜泪](2010/06/24 01:05)
[39] 巻の39[咲夜泪](2010/06/24 01:26)
[40] 巻の40[咲夜泪](2010/06/24 01:37)
[41] 巻の41[咲夜泪](2010/09/10 01:08)
[42] 巻の42[咲夜泪](2010/07/07 03:50)
[43] 巻の43[咲夜泪](2010/07/20 02:03)
[44] 巻の44[咲夜泪](2010/07/30 20:06)
[45] 巻の45[咲夜泪](2010/08/03 02:20)
[46] 巻の46[咲夜泪](2010/09/07 06:26)
[47] 巻の47[咲夜泪](2011/01/12 13:50)
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[3089] 巻の15
Name: 咲夜泪◆ae045239 ID:ceb974ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/23 17:37


 巻の15 世紀の決戦幕開き、大蛇丸戯れるの事


「それにしても驚いたわぁ、僅か九十分足らずでこの試験を突破するなんて。流石はうちはの名を受け継ぐだけはあるわねぇ」

 サスケ達に浴びせた程度の殺気をぶつけながら、大蛇丸は爛れた顔皮を剥ぎ取り、本来の顔で値踏みするようにうちはルイを眺める。
 三人――勿論、大蛇丸はルイ以外見てないが――は多少脅えたような仕草を見せるが、一瞬足りても眼を背かない。
 そんな無様な隙を見せれば、一瞬にして死ねる事を理解しているだろう。幾らかは修羅場を潜り抜けているのだろうと判断した時、ルイは懐から巻物を取り出す。
 右肩に乗っかっていた黒犬は地面に降りる。

「今更巻物を出して命乞いなんて――?」

 戦わずに諦め、無条件で降伏しようとするルイに若干失望した大蛇丸だが、取り出した巻物は天地合わせて三つ、ヤクモとユウナも同じ数を手に取っていた。
 三人は一切戸惑わずに巻物を開封し、口寄せの術式が書かれた天地の書から煙が発生する。巻物の合計は九つ、呼び寄せられた影も九つだった。

「其処までだ、大蛇丸」
「これ以上、貴様の好き勝手にはさせんぞ!」

 既に左眼の写輪眼を解放しているはたけカカシとマイト・ガイが威勢を上げる。

「ったく、へヴィな任務だぜ」
「愚痴る暇は無いわ」

 咥えタバコを吹き捨て、猿飛アスマは愛用のアイアンナックルを構える。
 少し後方で夕日紅は隙を窺い、青桐カイエは己が教え子の前に立ち、無言で後退を指示する。
 残りの四人は暗部の仮面を被った者達であり、即座に大蛇丸の背後に回り込み、完全に包囲する。
 大蛇丸は感心したように笑い、ルイの眼を射抜く。蛇に睨まれた蛙のように怯みながらも、彼女もまた気丈に睨み返す。

「――道理であのイタチが殺し損ねる訳だねぇ。即興でこうは行くまい」
「貴方の右腕は私の右腕、かもしれないね」

 暗に薬師カブトがスパイであると示唆され、それぐらいの情報漏洩が無ければ在り得ない状況だと大蛇丸は至極当然の如く納得する。

「クク、アハ、ハハハハハハハハハ! なるほどなるほど、こんなに愉しいのは久方振りだわ」
「何が可笑しい!」
「――そりゃ可笑しいとも。命知らずが雁首揃えて私の前に立ち塞がったのだから、此処で木ノ葉の主力を潰すのもまた一興だわぁ」

 狂ったように哄笑する大蛇丸に、飲まれないと怒鳴ったアスマは逆に尻込みする。
 あの爬虫類が如く異質な眼を見るだけで体の身震いと悪寒が止まらない。一体如何なるほどの実力差があるのか、アスマは対峙した今この時も計り切れずにいた。

「幾らあんたがあの三忍の一人でも、この人数を前に生きて帰れると思うな!」
「相変わらずズレているねぇ、カカシ君。――この程度の人数でこの私を殺せるとでも?」

 純然なる殺意が大蛇丸から放たれ、対峙した全ての者達に殺人的な重圧を与える。
 己が死を強制的に幻視させる最恐の威圧感を前に、絶望して戦意喪失し、心が折れそうになる刹那、その悪しき空気を引き裂かんと一人の上忍が真正面から先行した。

「カイエ!?」

 霞むような超速度で一直線に右掌を突き出すカイエに、大蛇丸は口から吹く息を規格外のチャクラで増幅し、向かう速度以上の風圧で吹き飛ばす。

「ぐあおおおおおおおおおおぉぉ!?」

 これは青桐カイエにも使える忍術――風遁・大突破だが、規模が桁違いだった。
 後方にいた上忍及び下忍達をも吹っ飛ばす超絶的な暴風、その威力を間近で直撃したカイエの五体は無事では済まない。

(早速一人、木ノ葉の上忍の質も落ちたものね)

 大蛇丸が嘲笑った時、体中の骨が砕かれたであろうカイエの体が千の鴉に別れて、所狭しと羽搏くそれは大蛇丸の視界を遮る。

(幻術、別の者の仕業みたいね――)

 大蛇丸は視界に惑わされず、前方から飛来したクナイの霰を勘のみで悉く躱して二つだけ掴み取り、後方から飛来したクナイと手裏剣の嵐を悉く弾き飛ばす。
 ――下忍では目視さえ出来ない神業じみた攻防なれど、大蛇丸の邪な笑みを崩す事さえ出来ていない。
 間髪入れず、暗部の二人が左右から同時に斬り込む。
 それより疾く、大蛇丸の両腕から複数の蛇が口寄せされる。蛇は驚くほど俊敏な動きで腕に体に首に足に絡み付いて拘束し、反応する事すら儘ならずに二人の仮面の額にクナイが穿ち貫かれる。
 赤い鮮血と嗅覚を満たす麗しき香りに大蛇丸は愉悦を覚え、二人が壊れた人形のように倒れる。

「ちぇええええええい!」

 幻術の鴉がほぼ完全に消え失せた中、暗部二人の屍を乗り越えて、今度はガイが仕掛けた。
 脅威の速度で繰り出される強烈な後ろ回し蹴り、木ノ葉剛力旋風が大蛇丸の顔面に直撃したが、吹き飛ぶ最中に大蛇丸の異常に長い舌がガイの首に巻き付き――人外じみた力で宙に放り投げた。

「なぁっ!?」

 空中で身動き出来無いガイの元に、大蛇丸の口から飛び出した蛇、その口から更に飛び出した草薙の剣が串刺しにせんと飛翔する。

「ぬおおおおお!」

 悪夢めいた速度で己の胴体を目指す草薙の剣を、ガイは全身全霊をもって真剣白羽取りする。が、一度はぴたりと静止した草薙の剣は尚も切迫し続けて止まらない。

(ふふ。普通の刀ならその行動は正しかったのだけど、これで終わりね)

 大蛇丸の二指によって制御された草薙の剣は再び穿ち貫かんと、空中で必死に押さえ込むガイと鬩ぎ合う。――と、当初に見失った一つの気配を大蛇丸は敏感に察知する。
 背後から忍び寄ったカイエはガイに勝るとも劣らない神速の掌底を繰り出す。

(――ふむ、只の突きでは無いようね)

 肉体改造を余念無く施し、人間の領域を超えている大蛇丸だが、その何ら変哲も無い攻撃に最大の脅威を感じ取る。
 態々受けず、紙一重ではなく大雑把に躱す。
 それと同時に大蛇丸は再び潜影蛇手を放ち、カイエの全身を絡め取ろうとするが、身動きを拘束されるより疾くカイエの痛烈な蹴りが繰り出される。
 所詮は苦し紛れの一撃、防御の腕は余裕綽々に間に合うが、カイエの蹴りの直前の空間が渦巻き、チャクラが不完全な球体状に収束する工程を大蛇丸は間近で垣間見る。

「――!」

 チャクラで形成された球体は大蛇丸に受け止められた瞬間、弾けて彼の右腕をズタズタに引き裂いた。驚いた貌を浮かべるものの、苦痛に歪む様子は欠片も無かった。

(まさか最もチャクラ調節の困難な足の部位で螺旋丸もどきとは。先程の掌底を喰らえば抉られていたわね。四代目や自来也の他に使える者がいるとはねぇ)

 複数の蛇に巻き付かれ、倒れ崩れるカイエに引導を渡そうとするが、一閃したチャクラの刃に阻まれ、大蛇丸は後退を余儀無くされる。
 大蛇丸は蛇の如く身のこなしで下がり、駆けつけたアスマはカイエに纏わり付く蛇だけを器用に斬り捨てる。

「ああ、気色悪っ! 鳥肌が粟立つわ!」

 言うに事欠いてそれかよ、とアスマは内心突っ込む。
 包囲網を簡単に突破した大蛇丸の元に、酷く血塗れた草薙の剣が舞い戻る。刀身に滴る鮮血を嘗め回しながら、彼は地面に倒れ伏すガイを嘲笑った。

(……腕一本が御釈迦になったぐらいじゃ、術を止めたりはしなかったか……!)

 言葉上の意味では解っていたが、実際に対峙してこれほどまでに格が違うとは思わなかったとアスマは眉間を顰める。
 他の五人の心境も同様であり、焦燥と絶望が色を隠せない。
 写輪眼と雷切を持つ自分ならば刺し違える事ぐらいは可能と、カカシは事前に分析していたが、それがどれだけ的外れた勘違いなのかを先程の攻防で思い知る。

「これで三人――思った以上に早く終わりそうね」

 大蛇丸は引き裂かれて血塗れた右腕の奇怪な刺青の中心に自身の血を塗り付ける。

「――まずい、散開しろ!」

 地に掌を当て、呼び寄せられたのは人間など蟻粒に見えるほど巨大な蟒蛇だった。
 その蟒蛇は巨体に似合わぬ俊敏な動作で尾を振り回し、地を盛大に炸裂させる。
 カカシの警告も虚しく、大蛇丸の口寄せ動物に関する予備知識が無かった紅と、身体を思うように動かせなかったカイエが逃げ遅れる。

「な――!?」
「のあああああ!?」

 破砕した地割れに巻き込まれた紅をアスマが、蛇の尾撃の余波で吹っ飛んだカイエを暗部の一人が救出する。
 紅の方は破片が頭部に激突したのか、血を流して気を失っている。身体の方の負傷も軽微で無く、意識を取り戻しても戦線復帰は無理だろう。一方、カイエは――。

「チィ、こんなところでデカいの口寄せするんじゃねぇ! 直す側の立場を考えやがれコンチクショウ!」
「いや、少なくとも直すのは貴方じゃないでしょ。カイエ先輩」

 怒鳴り散らすカイエを助けた暗部の忍は素早く印を結む。
 地が更に割れ、幾多の樹木が驚異的な速度で成長し、蟒蛇の体を刺し穿ちながら拘束する。その間々絞め殺さんと樹木の張力は毎秒強くなっていく。
 これこそ初代火影のみが可能とした伝説の木遁忍術であり、それを今の世で可能とする唯一人の存在を大蛇丸は知っていた。

「ほう、いつぞやの実験体と相容れるとは因果なものねぇ」

 その仮面の下にはどれほどの激情を滾らせているのか、非常にそそられながら大蛇丸は苦しみ悶える蟒蛇を無情に乗り捨てる。
 次々と樹木が襲い掛かる。大蛇丸は草薙の剣で切り刻みながら、木遁忍術を操る暗部の忍を目指して直進する。
 大蛇丸は嬉々と剣を振るう。木遁の術だけではこの化け物は止められないと判断した彼は背中の忍刀を引き抜いて必殺の太刀を受け止める。

「テンゾウ!」

 ――火花散らして忍刀が両断され、彼もまた深々と切り裂かれる。恐るべきは人外の技の切れか、人智を逸脱した大業物の所業か。カイエにテンゾウと呼ばれた暗部の忍は最後の力を振り絞って後退する。
 それすら大蛇丸は許さず、二の太刀で首を斬り落とそうと横一文字の一閃を繰り出す。刃が在ろう事か迅速に伸び、テンゾウの首を掠めた直前で太刀が止まる。
 それどころか全身が動かない。唯一自由に動く眼が、己が影に別人の影が吸着している奇妙な光景を映す。その先には自身の影を伸ばす暗部の最後の一人が立っていた。

(――これは影縛りの術。暗部に奈良一族の者が紛れ込んでいたとはねぇ)

 その千載一遇の機会を待ち侘びていたカカシは莫大なチャクラを右掌に集中させ、最大限の肉体活性で突撃し、大蛇丸の心臓目掛けて右掌を突き出す――!
 雷切――千の術をコピーした木ノ葉の業師、はたけカカシのオリジナル忍術である。
 右掌に集中させた莫大なチャクラを雷に性質変化させた超高速の突きであり、幾多の強敵を葬った文字通りの必殺技である。だが――。

「――この私に血を流させた事は素直に褒めて上げるわ」

 大蛇丸の心臓部分を直前に超高速の突きはぴたりと停止する。膨大なチャクラは跡形無く霧散し、カカシは自由に動けぬ自身の身体を驚愕を浮かべた。

「な、何故……!?」
「私の血は特別性でねぇ、すぐに気化して即効性の麻痺を引き起こすのよ。貴方達は私に血を流させすぎたわ」

 その予兆はカイエが不完全な螺旋丸で大蛇丸の血をぶち撒けた時からあった。それ故に口寄せされた大蛇程度の攻撃を躱せなかったのである。

「……っ、この、化け物めぇ……!」

 もはや地に這い蹲る程度の動きしか出来なくなったカカシを見下ろしながら、大蛇丸は影の束縛を強引に打ち破る。

「な、馬鹿、な――」

 全てのチャクラが消耗され、チャクラ切れに麻痺も重なって、影縛りの術を使っていた暗部の者は傷一つ無くも戦闘不能になる。

「……チィ、オレもかよ……!」

 大蛇丸の返り血を浴びたカイエの近くにいたアスマも意識はあるものの、麻痺して動けずにいる。幾人かは虫の息だが、もはや大蛇丸に立ち塞がる者はいなくなった。

「其処で這い蹲って己が無力を存分に味わいなさい、すぐ殺してあげるわ――。さぁ、うちはルイ。貴女にとっておきのプレゼントを上げるわ。生き延びるかは十に一つの確率だけどねぇ」
「ひっ……!」

 遠くで棒立ちしていたルイ達三人に、大蛇丸はサスケ達と同じように金縛りの術で動きを完全に拘束する。
 極限まで脅え、涙が出る直前まで追い詰められたルイの必死な形相を嘗め回すように見て、大蛇丸は甘美なる愉悦を存分に味わう。

「いいわぁ、その表情。ぞくぞくしちゃう――食べちゃいたいぐらいだわ」

 獲物が食われる間際に見せる絶望の表情は、脳髄を痺れさせるほどの快楽を齎す。
 それをじっくり堪能した大蛇丸は草薙の剣を地に突き刺し、特殊な印を結んで首を自在に伸ばす。
 ――ルイの細い首元に噛み付き、サスケにも与えた天の呪印を刻み込む為に。

「いやあぁ――!」

 恐怖が限界を超えた瞬間、ルイの身体から煙が生じ――本来の姿に戻った。

「――!?」

 黒髪は同じなれども三つ編みおさげではなく、癖毛無いストレートの長髪であり、黒眼は真紅の眸に変わる。体付きも変わり、着ていた忍装束も一変する。
 ――同年代の少女なれど、うちはルイには似ても似つかわない少女、岩流ナギが其処にはいた。

(変化の術!? 一体いつから入れ替わって、本物のうちはルイは何処に――!?)

 恋焦がれて切望した物が全く異質な存在だった時、人はどれだけ驚愕し、絶望して打ちのめされるのだろうか。
 混乱に次ぐ混乱が次々に押し寄せ、大蛇丸の思考に致命的な空白が生じる。これこそ彼女が待ち侘びた唯一無二の機会だった。
 音も気配も無く発生した灼滅の黒炎は、大蛇丸を一切の容赦無く包み込んだ。

「ギィイヤアァァアアアアアアアアアアアァアアァァァ――!?」

 視界に入った対象を瞬時に焼き尽くす万華鏡写輪眼の瞳術〝天照〟を前に、人外の領域に踏み込んでいる大蛇丸と言えども数瞬でこの世にいた痕跡すら無くなるだろう。
 ――恐るべきは、術の構成と本質を理解する以前に、一瞬に満たぬ刹那で彼女の視界外に離脱した規格外の生存本能である。

「……仕留めたのか? ルイ」

 金縛りから解き放たれるも、極限の緊張感で精魂力尽きたユウナが問う。

「……いや、残念ながら逃げられたみたい。此処まで段取りを整えたのに、仕留め損なうとはね――」

 憎々しげに答えるは模様が揺らぐ写輪眼を浮かべた子犬状態の六尾渾沌であり、直後に変化が解かれて――一本の三つ編みおさげが揺れる、うちはルイの姿に戻った。

(これで木ノ葉崩しは避けられなくなった。やはり三代目火影をぶつけるべきだったか、いや、今此処で火影を失えば砂隠れと泥沼の戦争に発展し兼ねない。その選択肢は最初から無かったとは言え――)

 この死屍累々の散々たる現状を見渡し、ルイは歯軋りを鳴らす。
 そして地に突き刺さった間々の草薙の剣に眼をやり、恐る恐る近寄って引き抜く。
 写輪眼で色々な角度から念入りに見回し、柄部分の目釘を手馴れた仕草で外して分解する。本来銘が刻まれている茎部分には血で記された不気味な口寄せの印があり、ルイは無造作に印を掻き消す。
 ――これで、草薙の剣の一振りの所有権は大蛇丸では無くなった。大蛇退治でこの草薙の剣を入手するとは、何とも故事通りな展開だとルイは苦笑する。

「念願の草薙の剣を手に入れたぞぉー」
「そう、関係無いね」
「殺してでも奪い取る」
「譲ってくれ、頼む――って、ルイちゃんにユウナにヤクモー! そんな古いネタ言うより早く医療班を呼ばないとぉ~!」




「中忍試験中、ルイちゃんに入れ替わりぃ!?」
「おいおい、幾らなんでも無茶な話じゃねぇか?」

 ナギは声の調を一段と高めて驚き、ヤクモは苦言を呈する。
 数日前、大蛇丸の暗殺計画を煮詰めた私はナギ、ヤクモ、ユウナに計画の全貌を打ち明ける。

「そうせざるを得ない理由が三つあるわ。一つは二次試験に乱入してくる大蛇丸に監視の眼を仕込むつもりだけど、受験者の立場と両立する事は如何に私と言えども無理だわ。奴の動向を完全に掴む為に監視だけに専念したい」

 獅子身中の虫に変化した影分身と視界共有しながら二次試験を受けるなど、大蛇丸以前に受験者に殺され兼ねない。

「監視なんてユウナの白眼にさせればいいだろ」
「ヤクモ、何度も言うようだが、白眼は写輪眼と違って万能では無いよ。自分のでは精々四キロまでの遠視が限度だし、演習場は直径二十キロだ。とてもカバーしきれんよ」

 困った時の白眼頼みを念頭に上げるヤクモに、ユウナは眼を細めて首を振る。
 ユウナの白眼では此方が発見した頃には手遅れだ。最長でも四キロ程度の距離で大蛇丸の追跡から逃れる事は不可能だろう。

「そういう事。で、二つ目は途中で大蛇丸と遭遇した際、計画が破綻した時の保険よ。うちはルイが偽者だと知れば、呪印を刻まれる心配は無くなるわ。見逃すかどうかは微妙だけど」
「み、見逃してくれず、交戦した場合は……?」
「その時は私が大蛇丸に月読を限界まで行使し、逃げ出す隙を作るわ」

 まさか私を身代わりにするのでは、と本気で心配するナギを宥めるように断言する。流石の私も其処まで鬼畜で人でなしではない。

「七十二時間より先は未知の領域だけど、あの変態オカマなら耐え切るだろうから、意識を失った私を背負って演習場から脱出。この場合、塔に行く必要は無いから内でも外でも最短の道程を選んで逃走してね」

 こうなった場合は今年の中忍試験を諦めざるを得ない。

「この前の時もそうだったが、誰か背負って移動する機会が多いな。今の内に重い亀の甲羅でも背負って修行するか?」
「……そうだな。自分達には在り得ないぐらいその機会が巡ってくるから本気で検討したくなる」

 ヤクモとユウナは深刻そうな面構えで冗談を言い合う。
 お互いに今回が如何に危険な事態か、ちゃんと理解出来ている様子である。

「で、万が一、大蛇丸に追いつかれた場合は交戦せずに私を見捨てる事。こんなところで死ぬなんて在り得ないし、呪印一つで済むなら安いものだわ」

 ――勿論、月読を披露したのに大蛇丸が呪印一つだけで引き下がるかと問われれば否である。
 これこそ最悪の一歩前の事態だ。皆殺しにされた上で私の身柄が大蛇丸に攫われるよりは幾分マシな結末だが、攫われる事は変わらない。

「三つ目は計画通りに事が進んで塔で大蛇丸と交戦になった際、確実にトドメを刺す為の布石よ。私はコンに変化して同行するから」
「えぇ! で、でも、それはルール的にはアウトなのでは……?」
「そんなのは些細な問題よ。これはAランクの任務なんだから後の言い訳は幾らでも利くわ」

 既にダンゾウに話を通しているので、一切問題無い。
 反則だと中忍試験官如きが抗議しても暗部の極秘任務で全てが片付く。
 ヤクモとユウナは眸に強い決意の光が燈っており、大丈夫だろうと安心出来るが、問題はナギである。

「ナギ、これは影武者みたいな役割だから当然の如く危険を伴うわ。それ故に強制はしないけど――」
「ルイちゃん、其処から先は言う必要は無いよ」

 その言葉に私は驚く。今まで酷く弱気で流されやすかったナギからは考えられないほど強い意思がその真紅の眸に輝いていた。

「私は人柱力に生まれて後悔するほど酷い目に遭ったけど、皆の御陰で救われた。――だから、今度は私が手助けをしたい」

 あれほど意思脆弱だったナギとは思えぬ発言に、それに見合うだけの覚悟すら感じられる。
 一体何が彼女を変えたのか――どうしてそんなに綺麗で尊いのか、私の中の奥底に淀んでいた何かが蠢いた。

「……見違えたわ。人の見る眼には自信があったんだけどなぁ。本当なら、貴女と私は一方的なれど運命共同体、私がいなければ尾獣を制御する者がいなくなるからって発破掛けるつもりだったのに」
「あ、あれ? それなら初めから拒否権が存在しないんですけど?」

 いつもの調子に戻ったナギを弄ぶように私は小悪魔的に微笑む。

「この私が楽な逃げ道を用意する訳無いでしょ。でも、貴女は自らの意思で選択した。その黄金の輝きに匹敵する決意は何物にも勝る価値と意味があるわ」

 ――思わず憎悪して殺意を抱きたくなるほど、だ。その昏い情念が表に出ないよう、私は必死に感情を隠す。

「わわ、ルイちゃんが珍しくベタ誉めですよ!」
「明日は雪か槍か雷だな!」
「この場合、家で赤飯でも用意すべきか?」

 先程の真剣な様子から一転し、和気藹々と笑う三人を見て毒気が抜かれる。一人悶々と負の感情を滾らせていたのが馬鹿みたいだと自嘲した。

「まあいいや。これからみっちり猫被り時の私を仕込んであげるから覚悟するがいいさ」

 地獄を見せる気満々の邪悪な笑みを浮かべ、青褪めていくナギの表情に私は満足感を抱いた。やはりナギは生粋の弄られキャラだと思う。






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