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No.3089の一覧
[0] NARUTO うちはルイ暴走忍法帖[咲夜泪](2010/06/23 02:13)
[1] 巻の2[咲夜泪](2010/06/23 02:30)
[2] 巻の3[咲夜泪](2010/06/23 02:36)
[3] 巻の4[咲夜泪](2010/06/23 02:54)
[4] 巻の5[咲夜泪](2010/06/23 03:02)
[5] 巻の6[咲夜泪](2010/08/03 21:09)
[6] 巻の7[咲夜泪](2010/06/23 03:13)
[7] 巻の8[咲夜泪](2010/06/23 03:23)
[8] 巻の9[咲夜泪](2010/06/23 15:36)
[9] 巻の10[咲夜泪](2010/06/23 15:47)
[10] 巻の11[咲夜泪](2010/06/23 16:44)
[11] 巻の12[咲夜泪](2010/06/23 17:00)
[12] 巻の13[咲夜泪](2010/06/23 17:16)
[13] 巻の14[咲夜泪](2010/06/23 17:23)
[14] 巻の15[咲夜泪](2010/06/23 17:37)
[15] 巻の16[咲夜泪](2010/06/23 17:45)
[16] 巻の17[咲夜泪](2010/06/23 17:52)
[17] 巻の18[咲夜泪](2010/06/23 18:01)
[18] 巻の19[咲夜泪](2010/07/01 23:34)
[19] 巻の20[咲夜泪](2010/06/23 18:13)
[20] 巻の21[咲夜泪](2010/06/23 18:42)
[21] 巻の22[咲夜泪](2010/07/01 23:39)
[22] 巻の23[咲夜泪](2010/06/23 19:09)
[23] 巻の24[咲夜泪](2010/07/01 23:54)
[24] 巻の25[咲夜泪](2010/07/01 23:59)
[25] 巻の26[咲夜泪](2010/07/02 00:10)
[26] 巻の27[咲夜泪](2010/06/23 19:42)
[27] 巻の28[咲夜泪](2010/06/23 22:52)
[28] 巻の29[咲夜泪](2010/06/23 23:01)
[29] 巻の??[咲夜泪](2010/06/23 23:07)
[30] 巻の30[咲夜泪](2010/07/02 00:43)
[31] 巻の31[咲夜泪](2010/06/23 23:29)
[32] 巻の32[咲夜泪](2010/06/23 23:36)
[33] 巻の33[咲夜泪](2010/06/23 23:51)
[34] 巻の34[咲夜泪](2010/06/24 00:31)
[35] 巻の35[咲夜泪](2010/06/24 01:19)
[36] 巻の36[咲夜泪](2010/06/24 00:38)
[37] 巻の37[咲夜泪](2010/06/24 01:00)
[38] 巻の38[咲夜泪](2010/06/24 01:05)
[39] 巻の39[咲夜泪](2010/06/24 01:26)
[40] 巻の40[咲夜泪](2010/06/24 01:37)
[41] 巻の41[咲夜泪](2010/09/10 01:08)
[42] 巻の42[咲夜泪](2010/07/07 03:50)
[43] 巻の43[咲夜泪](2010/07/20 02:03)
[44] 巻の44[咲夜泪](2010/07/30 20:06)
[45] 巻の45[咲夜泪](2010/08/03 02:20)
[46] 巻の46[咲夜泪](2010/09/07 06:26)
[47] 巻の47[咲夜泪](2011/01/12 13:50)
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[3089] 巻の2
Name: 咲夜泪◆ae045239 ID:ceb974ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/23 02:30




「――どう、して?」

 降り頻る雨の中、少女の悲痛な泣き声が耳に木霊する。
 傍らに立つ少年は項垂れ、奥歯を砕けんばかりに食い縛って涙を堪える。

「なんで、殺されなきゃいけないの? 父さんも母さんも、皆、皆、何も悪い事してないのに……」

 彼方に問う声に、誰が答えられようか。
 地に尻餅して泣き崩れる少女を、一体誰が支えられるだろうか。

「昨日まで、笑っていたよ。頭、撫でて、うぅっ、くれたよぉ。なのに、なのにどうしてぇ……!」

 虚空に問う声は壊れかけの心を無情に串刺す。綻びは広がり、隠せぬ弱さを曝け出す。
 それでも、この少女の前では泣かないと誓った。今出来る精一杯の虚勢を張り、嗚咽を零す少女の傍らに立ち続けた。
 何も出来ない自分の無力さが呪わしい。一族を皆殺した兄が憎たらしい。
 ――強くなりたかった。兄を殺せるぐらい、この少女を支える事の出来るぐらい、ただひたすらまでに。それだけが唯一の救いと信じて――。


 巻の2 脚本の改竄を知り、同郷の者訪れるの事


 うちは虐殺は予定通り実施され、一族の者はほぼ例外無く皆殺しにされた。
 首謀者は当然の如くうちはイタチであり、単独犯扱いで片付けられ、抜け忍となる。
 生存者はうちはイタチの実弟、実質情けで命を助けられたうちはサスケ。それと――。

「ふはぁ、お茶が美味しいわぁー。考えてみれば九年も生きているのにお茶一つゆっくり味わう余裕すら無かったなぁ」

 寂れた生家の縁側で熱い茶を啜って小さな幸せを実感する私こと、実力と運と策略で生き延びたうちはルイである。

 まずは計画の根底を担う『うちは虐殺の日取り』を如何に察知したかは、独自に開発した諜報忍術『獅子身中の虫』の御陰である。
 影分身もどきを蚤に変化させ、対象であるうちはイタチに潜ませて諜報させる、割と省エネで実用性高い術である。
 普通の影分身一体を維持するのは幼い身のチャクラ量では大変だが、サイズが極小になったので燃費は大変宜しい。その類稀な隠密性から最後まで発覚しなかった。何故この世界の連中はこういう事をしないのか、激しく疑問である。
 うちは虐殺の正確な日取りの情報を入手した私は結構の前の日から影分身と入れ替わり、本体の私はうちはの集会場の隠し部屋に潜伏する。注意深く潜入した為、二つ目の前提条件である『誰にも知られずに潜伏場所に隠れる』事に成功する。
 影分身を維持するチャクラの不足量はドーピングの兵糧丸で無理矢理解決する。短い生涯で一番疲れる二日間だった。

 そして虐殺の夜、うちはイタチ、またはうちはマダラが到着する前に、普段通り行動する影分身に持たせた口寄せの巻物を取り出し、薬師カブトに作らされた私と何一つ遜色無い死体を布団の上に放置する。
 新鮮度を保つ為の封印式を解除し、クナイで心臓を一突きし、両眼の眼球を抉り取る。眼球を天照で完全に隠滅し、その死体を満足気に眺めてから影分身を消す。
 これを調達する為に木ノ葉隠れの里の誰かの子供が犠牲になったが、私にとっては如何でも良い話である。
 程無くしてうちはイタチは私の両親を呆気無く殺害し、私の寝室で虚ろな眼窩の死骸とご対面する。
 うちはイタチは珍しいほど動揺し、普段見せぬ感情の色を露にした。
 自分が訪れる前に何者かに殺害、しかも両眼を抉り取られているとなれば計画の漏洩の恐れ、予期せぬ第三者の介入、うちはマダラの裏切りなどの様々な憶測が生じる。
 冷静さを欠いたうちはイタチは呆気無いほど騙された。普段の彼ならば死骸の僅かな違和感を見逃さず、偽物だと見抜いたかもしれないだろうに。
 もはやうちはイタチの監視はいらないだろうと獅子身中の虫を切り離し、寝室に待機させる。虎視眈々と最後の仕上げを実行する為だ。
 だが、此処でもう一人現れる。――暁の黒幕、うちはマダラと思われる人物である。暗部の仮面を被っているので多分である。
 私の謎の怪死プラス両眼を抉られる死骸を眺めながら、うちはマダラらしき人物はイタチの憶測と同じように、うちはイタチが眼を奪ったかもしれないという根深い疑惑を抱いた事だろう。
 この後々響くであろう誤解と疑心暗鬼こそが私の真の狙いであり、死骸の真贋を誤魔化す一因だけじゃなく、うちはイタチとうちはマダラの利害関係にも亀裂を生じさせる一石二鳥の計略である。三年前に態々二人の焼死体を用意してくれた私なりのお返しだ。……まぁ、正直余り期待出来ない布石だが。
 結局、偽物の死骸も影分身を変化させた蚤も気づかれる事無く、彼は忍者が如く――そりゃ正真正銘の忍者だろうな――惚れ惚れとするぐらい見事な瞬身の術で消え去る。
 一時間余り細心の注意を払った後、蚤を元の影分身に戻し、空の口寄せの巻物に死骸を仕舞い、天照で証拠隠滅する。
 役目を終えた影分身を解除し、私は虐殺の夜を何とか生きてやり過ごしたのだった――。




「うちはルイ一世一代の頑張り物語――墓穴まで持っていくには惜しい武勇伝だわ」

 元ネタ以上に論理的や人道的にアウトな暗黒物語なのは世界の怨敵たる私の仕様なので仕方ない。どの世界でも勇者より魔王を好き好んでやる黒幕タイプである。

「この九年間の緊張に比べたら至極楽だが、まだまだ問題は山積みだなぁ」

 差し当たる問題は二つ、一つは正体を暴露してまで接触した薬師カブトだが、始末しようか否か、真剣に思い悩む。
 不安の種を早急に排除したいが、時期尚早、今動くと里の連中に色々勘付かれる恐れがある。
 これ以上うろ覚えの原作の流れを変えるのは未来を知っているという最高の有利を自ら吐き捨てる愚挙である為、どうせ木ノ葉崩しで抜け出すだろうから放置しようと結論付ける。
 私への接触、流言や何らかの工作、ぶっちゃけ私が木ノ葉隠れの里での安穏の日々を壊そうものなら――即座に出向いて始末しよう。いや、彼が音隠れのスパイかもしれない、と流言するだけで事足りるだろう。ああ、お茶がおいしい。

「……はぁ、それにしても居心地の悪い里だこと。ナルトの気持ちが解るねぇ」

 二つ目の問題は木ノ葉隠れの暗部を束ねるダンゾウだっけ、そんな古錆びた爺の存在。うちはイタチは彼と三代目火影にうちはサスケを生かすように脅迫もとい懇願して生存権を確保したが、何故か生き残った私に関しては生かす理由など何処にも無い。

「さてさて、どうしたものか」

 暗部を使って秘密裏に暗殺しに来るか、拉致して人の尊厳を全て略奪して写輪眼持ちを産む道具扱いにされるか。人情溢れる三代目火影がダンゾウを止めれるか否かにかかっている。

「人生終わり兼ねない十八禁まっしぐらの鬼畜EDは御免だなぁ、自分が他人にやるならともかく」

 最も優れたうちはの血族が生存している中、写輪眼の開眼すら儘ならぬ落ちこぼれ――と見せかけているだけ――の私の存在価値など欠片もあるまい。早急に何らかの手を打たなければ消されかねない。

(火影のおじちゃまぁ~。一人でいると怖いのぉ、怖い人に殺されちゃうよぉー)

 三代目火影の情に訴える。却下だ、六歳の時の件もあるので接触すらしたくない。
 事情を説明なんてしたら此方の本性を暴露するようなもので、温厚な三代目も忍として非情になるだろう。

(Take2――オレサマ オマエ マルカジリ)

 ダンゾウを脅迫する。下の下策だ。後ろ盾が無い今、自分が危険な人物だと言い広めるようなものだし、間違いなく刺客を送られる。無知で無能な小娘を装っていた意味が無くなってしまう。

(Take3――実は私、三歳の時に写輪眼を開眼し、更には万華鏡写輪眼まで使いこなすのですよ。にぱー☆)

 自分の有効性を里に知らしめる。うん、却下だ。そんな事すれば暗部逝きで使い潰される。この里で平穏な日々を送れなくなる故に絶対に選びたくない選択肢だ。

(Take4――助けてぇ、カブトえもん~大蛇丸さまぁ~)

 この際、木ノ葉隠れの里に平穏の道は残されていないので音隠れの里に亡命するか。
 薬師カブトとの縁もあるし、一番最初の問題を解決すると同時に比較的楽に抜けられるだろう。
 大蛇丸が原作宜しく体を乗っ取りに来られても逆に乗っ取る自信がある。が、あの気色悪いオカマと一心同体になるなんて生理的に無理、絶対に在り得ない。死んでも御免だ。
 それにあの気色悪い呪印で人外化するのは勘弁願いたい。あんな外見になったら自害するわ、マジで。

(Take5――今後刺客を仕向けたら九尾で里を滅ぼします。手出し無用DEATH)

 ダンゾウの仕向けた刺客が来たら返り討ちにし、死体に今後刺客を仕向けたら九尾を解放するという趣旨の脅迫状を残そうか。
 ヤツも無駄に長生きしているから、うちはの事情についてもある程度知っているだろう。事実、この万華鏡写輪眼で九尾を使役出来る事――実際に試してないから微妙だが――も存知の筈だ。

「でもなぁ、来たのがカカシとかだったら死亡フラグ確定だな。写輪眼には写輪眼で、とぶつけてきそうだし」

 その刺客を返り討ちに出来るかは、直接相手の目を見れるか否かに掛かっている。ぶっちゃけ呆気無く暗殺される可能性が高いからこの受身体勢は避けなければならない。

(Take6――死人に口無し)

 さくっとダンゾウを暗殺するか。いや、誰にも発覚されずに殺す事は今の私でも不可能だろう。幾ら万華鏡写輪眼を持っていても、それしか持っていないので九歳の小娘に出来る事なんざ高が知れている。この線も駄目だ。
 それにあの老人を過小評価する気にはなれない。露骨に巻かれた顔の包帯を見る限り、隠し玉の一つや二つぐらいあるだろう。……カカシと被るから無いだろうけど、万華鏡写輪眼でなければ良いな。

「……はぁ、零れるは溜息ばかり。お茶が冷めちゃった」

 暫くは静観し、状況が僅かでも好転する事を祈るしかない。
 最悪の方向に進むのなら音隠れの里逝きも視野に入れなければなるまい。誤字に非ず、という処が悲しい。

 現時点の自分は万華鏡写輪眼を開眼しているだけの下忍以下の小娘だ。
 永遠の万華鏡写輪眼になってからは負担が大分減り、普通の写輪眼なら常時発動していても日常生活に支障が無いぐらいチャクラの燃費が良くなった。
 精神を襤褸雑巾のように破壊する『月読』と視認した対象を骨の髄まで灼滅させる『天照』はある程度まで連発可能であるが、二つを同時に発動させる『須佐能乎』とカカシが使った『結界空間への転送』は今のところ使い物にならない。――そもそも、カカシのあれは何か別の現象の出来損ないのような気がするが、考え出すときりが無いので止めよう。
 次にチャクラだが、此処数年で絶対量は順風満帆に伸び、天井知らずの成長率を誇る。だが、チャクラのコントロールは非常にアバウトな感覚でやっていた為、手を使わずに木を登れないだろう。基本中の基本故に練習の必要がある。
 忍術や幻術は大抵一回――写輪眼で――見ただけで習得出来るので、使える種類は勝手に増えていく。後は良く多用する術を見極め、自分なりにアレンジする必要性がある。
 チャクラの性質はうちは一族なので必然的に火であり、火遁系の術に特化している。将来は是非とも螺旋丸を習得して火の性質変化を加え、オリジナルの超高等忍術『火遁・螺旋丸』を完成させたいものだ。低い命中率を補う為に破壊の規模を対軍の域まで改良して。
 此処までの説明なら何処が下忍以下だと文句を言われかねないが、身体能力が悲しい事に年相応なので、現状での私の戦闘は『瞬殺するか瞬殺されるか』の二択しかないのだ。

(――まあ、此処まで逸脱した天賦の才を与えられたのだから文句は言うまい。その才能を開花させる前に呆気無く死亡しそうな事以外はッ!)

 うちはマダラ、ダンゾウ、この主犯格に関しては物語の流れ云々は横に捨て去り、気が済むまで惨たらしく殺すとしよう。三代目火影、うちはイタチ、ついでに大蛇丸は手を下すまでもなく死亡するので放置しよう。

(やめやめ。一族の面倒臭い葬式が終わって漸く一段落したんだ、今日ばかりはのんびり怠けよう)

 葬式に参列した時に出会ったうちはサスケの顔は無表情で腐った魚の眼をしていた。まあ実の兄が一族虐殺の暴挙に打って出ればそうなるのも仕方あるまい。
 私は年相応に泣き喚いて疲れた。純度十割の演技である。いい加減、自分の素を出せる環境が恋しい。
 サスケと接触して絆という鎖で呪縛し、里に留まるよう工作するか、原作の流れ通りに進めるか。里でこの私を守るように都合良く手懐けるか、外敵を殺して回るようにするかという二択だが、何方も魅力的なので思い悩む。

(まあ何方にしろ、襤褸雑巾のように使い棄ててくれるわ)

 邪悪な笑みを浮かべつつお茶を飲み、茶菓子が丁度切れた時、呼び鈴の音が耳に入る。
 一体何処の物好きが私しかいない家に訪れたのか、一気に警戒度を上げる。まさか襲撃に来た暗部が玄関から入ってくるとは考え難いが在り得ないとは言えない。
 気怠げに重い腰を上げ、玄関に赴く。気配は二人、年頃は私と同年代ぐらいで性別は解らない。このややこしい時期に態々来訪してくる健気な友人など作った覚えはない。
 警戒の度合いが更に高まる。部分的な変化の術で眼を裸眼状態に変える事により、写輪眼の発動を隠蔽する。慎重に玄関の鍵を解き、開ける。

「お待たせしてすいません。えーと、何方様でしょう?」

 変化の術や何らかの幻術が使われていない事を最初に確認し――そういえば何処かで見覚えのある二人だな、と内心頭を傾げた。

「突然の来訪をお許し願いたい、うちはルイ殿。今日は是非とも耳に入れたい小話がありまして。今、お邪魔しても宜しいでしょうか?」

 礼儀正しく喋る、薄い橙色の和服姿の黒髪少年の眼は日向一族特有の白眼であり、日向ネジに若干似た容姿ながら額を曝け出しているので少なくとも分家の者じゃない。
 もう一人はぼさぼさな黒髪を後ろに纏めてポニーテールにした少年であり、桜模様の入った黒い和服を着こなす。

(――ん。ああ、白眼の奴は覚えている。名前は知らないが、日向ヒナタの双子の兄だ。原作にはいなかったから不自然だとは思っていたが)

 今、漸く思い出した。彼等二人はアカデミーでの同級生だ。原作キャラには意識を割いていたが、モブキャラの二人は視界に入ってなかったので思い出すのに時間が掛かった。
 一体如何なる意図で来訪したかは直ぐ判明するだろうが、面白い事になりそうだと直感が告げている。

「どうぞ、中に入って下さい。何分一人身なので、持て成す物もありませんが」




「粗茶ですがどうぞ。毒は入れてませんから安心して下さい」

 ――此処で死なれて容疑者になるなんて馬鹿のする事だわ、と内心毒付く。
 湯飲みを受け取った黒服の少年は眉を顰めて躊躇したが、白眼の少年は躊躇無く口付ける。中々度胸あるなぁーと内心感心する。

「結構なお手前で。では改めて自己紹介しましょう。自分は日向ユウナで――」
「俺はヤクモ、黒羽ヤクモだ。よろしく」

 茶菓子の羊羹を啄ばみながら縁側で茶を飲む。我ながら警戒心の欠いた行動だと自嘲するが、自分用の御菓子だったのに全部食われるのは非常に癪だ。

「よろしくです。それで此度はどのような用件で?」

 当たり前な話だが、うちは一族と日向一族は過去の因縁云々で非常に険悪な仲である。無知な子供同士と言えども縁側に並んで仲良く茶を飲めるような友好的な関係にはならない。
 まあうちは一族そのものが壊滅状態であり、一族の束縛など無縁な私には過去永劫、未来永劫に渡って関係無い話である。

「いえいえ、大した用ではありませんが――時にルイ殿、この書物をご存知ですかな? 巷で流行っている忍者活劇の御伽噺ですが」

 そう言って、彼の懐から出された書物に私は釘付けになる。
 それは秘中の秘を封じた書物ではなく、門外不出の禁術の書でもなく、表紙に黄色髪の忍者の少年が特異なポーズを取る――NARUTOという題名の漫画本だった。
 この世界は元の世界より製本技術が格段と劣っている為、手作り感が見て取れるが、表紙の人物は何処から如何見ても十二歳のうずまきナルトだった。

(――ああ、なるほど。どうして今まで気づかなかったかな。一匹見ればなんとやら、という事か)

 初対面に近い関係なのに我が家に訪れ、この本を差し出した意図を電撃的に理解する。
 そもそも、うちはサスケ以外に生き残ったうちは一族の私は本来在り得ない存在だ。
 その共通意志を持つ者はうちはイタチ、うちはマダラ、三代目火影とその側近の爺婆、『根』の総元のダンゾウ、そして――私と同じ、原作を知りつつこの世界に転生した者のみである。

「……其処まで直球で来るとは思わなんだなぁ。いやはや、実に理に適っている。この世界の住民にはローマ字は読めないしねー」

 使い慣れた敬語を即座にやめて、久方振りに素の口調で話す。
 自分以外の可能性を視野に入れてなかったとは、うちは虐殺の件で手一杯で短慮極まりなかったと内心反省する。

「おお、それではルイ殿はやはり!」

 喜びを隠し切れない反応に苦笑しつつも、この二人が一体何の意図で訪れたかは追々探るとしよう。
 大抵同郷の者だから、という単純極まる後先無い理由だろうが、自分の例がある。外見と内部年齢が異なるという前提で話した方が良いだろう。

「うちはの生き残りはサスケだけの筈なのに他に生き残った者がいる。それだけで原作を知る者なら看過出来ない異常だよね。――やれやれ、そんな当然の成り行きに思考が回らなかったとは私も未熟だなー」

 割かし素の小悪魔風の表情を曝け出しながら年不相応に微笑む。
 流石の私も九年間余り自分を偽りすぎて内々に溜まっているものがある。素の自分を遺憾無く表現しあえる存在を、私は何処かで待ち侘びていたのかもしれない。

「それじゃ堅苦しい言葉は抜きにして、改めて自己紹介するわぁ。私の名前はうちはルイ、NARUTOの世界に転生した元日本人よ」




「それにしても良く生き延びたな。不可能を可能にした秘訣は如何に?」
「足掛かり九年、短いながらも生涯全てを賭けたからねー。転生する前にジャンプでNARUTOを読んで、うちは虐殺の真相を覚えておいて助かったわ」

 飲んでいるのはお茶なのに、私達三人は酒が入ったかの如くハイテンションで喋り続ける。子供の身でなければ美味い酒を交わせたのに、と若干残念がる。

「うちは虐殺の真相? あれ、そっちはNARUTO何巻まで出ていた?」
「確か四十二巻までだったかな? 単行本買ってないから微妙だけど」

 二部から暫く読んでいなかったが、某休みがちな漫画が連載していた時に偶然見ていた御陰で助かった。その直後に死んでNARUTOの世界に転生したが故に。
 うちは虐殺を回避する為にうちは一族に関する記憶だけ何度も反芻し、それ以外の記憶は随分曖昧になったものだ。

「なにぃ?! 俺の時は三十三巻だったぞ!」
「あれれ、自分の時は三十七巻だったが」

 困惑がる二人を横目に、同年代でも死亡時期に差異がある事に内心驚く。
 これは単なる杞憂に過ぎないだろうが、完結した未来から訪れた最高に厄介な原作改変者が、もしかしたらいるかもしれない。留意すべき事項だと心に刻んでおく。

「ふむ、個人個人によって転生した時期が違うみたいだね。やっぱあっちの世界で死んだ事が主な原因? てか、赤ん坊からやり直しの転生系? それとも途中からの憑依系?」

 ネット上に転がる幾多の二次小説で結構多いのが現実世界で死んで漫画の世界に誕生する〝転生系〟であり、また原作の人物かオリジナルの人物の精神を突如乗っ取る〝憑依系〟である。
 作品によってはそのままの自分が異世界に召喚されたというケースもあるが、そんな細かい分類を上げたら切りが無いので省略する。
 尚、幾多の世界を渡り歩く私は前者の死んで違う世界に誕生する〝転生系〟オンリーである。

「自分は向こうで事故死して、一からやり直しの転生系だったな。ヒナタと双子なんて最初は信じられなかった」
「俺も同じく転生系だ。赤ん坊からやり直しなんて最初冗談かと思ったぜ」

 なるほど、と相槌を打つ。だが、この二人が偶々転生系だったとは言え、憑依系が無いとは断言出来ない。
 悪魔の証明じみているが、本人の記憶を持っていると判別が難しい。もし、憑依系の人物が物語に介入してくれば、本筋とは異なった予想外の事態に進むだろう。

「にしても、神様は不平等だぜ。ユウナは日向の白眼、ルイはうちはの写輪眼、二人とも木ノ葉の血継限界の血筋なのに俺は忍者の血筋ですらないんだぜぇー? 二人の眩しい才能にシィーット!」

 面白い具合に喚くヤクモを肴に、熱々のお茶を堪能する。
 努力しない天才と努力した凡人、一番優れているのは努力した天才である。身も蓋も無い話だが、これが世の中の基本にして絶対的な法則である。
 凡人の悲痛な嘆きだが、生憎と文句がある。それは横で茶を味わう年寄りみたいな日向ユウナも同じ心境だったらしい。

「宗家ながら分家のネジに劣る無能の落第生と、ヒアシに毎日毎日ネチネチ罵られたいなら代わるぞ」
「生まれた瞬間から死亡フラグ全開で生きた心地のしなかった地獄の日々を追体験させてあげようか?」

 万華鏡写輪眼を見せつけ、私は満天の笑顔で凄む。
 人間、どんな環境でも完璧というものはなく、悩みや不幸や苦労の一つや二つや三つはあるものだ。そのマイナスの要因を無視して嫉妬されても大変迷惑だ。

「おまっ、うわマジ本気か、てかその年でもう写輪眼が!? しかもイタチとは模様が違うが万華鏡写輪眼じゃねぇーか! 悪かった、俺が悪かったから!」

 うむ、突っ込みの才能と弄られの才能は多大にありそうだ。

「うわぁー、見事な土下座だね。何気にやり慣れてないか?」

 ユウナは本気で感心し、私もまた恥も外見も捨てたヤクモの土下座に見惚れつつ、優雅に茶を啜る。

「……まあ補足説明すると、万華鏡写輪眼の模様は個人差があるが故に万華鏡なのよ。それと私が写輪眼を開眼している事は内緒だよ」
「なんでさ?」

 ヤクモは何処ぞの正義の味方みたいな口癖を吐く。
 余り喋りたい事柄じゃないが、致し方無い。ある程度秘密を共有させて信頼を得るのが得策だろう。

「私の今の状況はうちは虐殺の夜と同じぐらい切羽詰っているから。そうだね、無駄に長い話になるから茶菓子とお茶を持ってこよう」




「――うちは一族は数年前からクーデターを画策していた」

 口調を若干下げ、真剣さを醸し出して語る。
 人に語るという経験は少ないから結構新鮮であり、似合わず緊張する。

「それに至るまでの不満云々は木ノ葉隠れの里の創設期からの差別や確執で燻ぶっていた根深きものだ。私を含めた外部の人間には到底理解出来ないものさ」

 先程とは打って変わった雰囲気を感じ取ったのか、二人は真剣に私の話に聞き入る。

「うちはイタチは本来、里の中枢を探る為に暗部に送り込まれたスパイだったが、真実は逆。彼は里側にうちはの情報を流す――俗に言う〝二重スパイ〟だった」

 物語最大の謎の真相を聞いて、二人は面白いほど驚きの表情を現す。何とも語り甲斐のある観客だと内心苦笑する。

「なんだと。という事はつまり……」
「……前提そのものが綺麗に引っ繰り返るな。うちは虐殺の真相は――」

 察しが早くて助かる。が、語り手としては少々残念な気がする。

「そう、里の上層部が下した任務さ。うちはイタチが全ての汚名を被り、抜け忍になるまでね」
「……胸糞悪い話だなぁ」

 うちは一族を滅ぼした稀代の殺戮者は、里の任務に殉じた不遇の忠義者だった。
 ……これが対岸の火事だったら同情の一つや二つしてやるが、実害を被る立場故に「ふざけんじゃねぇ」と笑って糾弾したい。

「だが、そのうちはイタチも実の弟だけは殺せなかった。任務を終えた後、イタチは暗部や上層部からサスケを守ってくれるように三代目火影に懇願し、暗部の総締めであるダンゾウに脅迫して里を抜けた。――此処で一つ、致命的な誤算が発生した」
「誤算? ……あ」

 二人とも気づいたようだ。もし、原作のキャラに同じ説明したら疑問符だらけで「どうしてさ?」と聞き返され、絶対に話が進まなかっただろうなぁと苦笑する。

「お情けで助けたサスケの他に、己の死体を偽装する事で生き残った者が一人出た――とどのつまりは、まあ私の事だね」

 深々と溜息をつき、気怠げに脱力する。
 うちは虐殺を乗り切る事が最優先事項だった故に、その後の展開に割く余力は無かった。今考えると良く生き延びれたものだ。

「話の要点は極めて簡単。サスケには三代目火影という強力な後ろ盾があるが、私には何の後ろ盾も無い。この里の上層部の意向次第では始末される可能性が残っている」
「――うわぁ~。そう、なんだ。マジでうちは一族に生まれなくて良かった。俺だったらまず生き残れねぇ」

 心底自分じゃなくて良かったというヤクモの暢気さが羨ましい。類稀な才能だけじゃ採算取れないから是非とも誰かに変わって貰いたいものだ。
 それに対してユウナは先程から沈黙しており、深く思案している様子だ。

「しかし、ルイ殿。それなら尚更の事、写輪眼が開眼している事を周囲に知らしめ、自身の有効性を里に示した方が良いのでは?」

 冷めた茶を飲んで一服した後、ユウナは真剣な眼差しで提案する。
 単純で馬鹿そうなヤクモとは比較にならないな、とユウナに対する印象を改める。

「ルイでいいよ、私も呼び捨てにするから。二つ、いや、三つの事情で〝写輪眼すら開眼しないうちはの落ちこぼれ〟を装っていた方が何かと都合良いんだ。まあ此処数日間、暗部に監視されているけど、襲撃されるような様子は無いからまあ大丈夫だろうけど」

 強めに断言してこの議題を終わらせる。それが此方に不都合な話題である事を一瞬で悟ったユウナは言葉を飲み込み、これ以上追及する事は無かった。

「!? おいおい、監視されているのに話して良かったのかよ?」
「家の中にはいないし、目視出来る距離にはいないよ。現段階では監視というより護衛に近い形だね」

 話が聞かれる危険性があったなら最初から筆談にするさ。抜かりは無い。と思いつつ、無かったらいいな、という希望的観測になっている気がする。少々気を抜きすぎたか。

「それでユウナとヤクモ以外に同郷の者はいないの?」
「うーん、それらしい人は見当たらなかったけど、こればかりは未知数だね」

 その辺は私も今日始めて把握した事なので強く言えない。
 原作の流れを知りながらも、生かせぬ可能性は根の内に潰したいところだ。

「そうね。それじゃまず目先の事から考えようか」





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