<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.30870の一覧
[0] 【R15】少女・スッポン[バラー](2011/12/17 00:44)
[1] 第二話 お買いもの[バラー](2011/12/16 21:07)
[2] 第三話 お肉[バラー](2011/12/20 21:58)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[30870] 【R15】少女・スッポン
Name: バラー◆3ae50617 ID:65ec0385 次を表示する
Date: 2011/12/17 00:44
襖の隙間。それは不機嫌な顔で挟まっていて。だから私は、スッポンを手に取った。

『──スッポン』




「……うわあ、ボロっ」

私の新居に対する第一声は、何とも惨めなものだった。
元は白かっただろう壁は年月を経て灰色に染まり、いい塩梅に廃墟っぽい雰囲気を醸し出し。それに加え、割れたまま放置された窓がさらに陰気くさいアクセントを添えていた。

「あのハゲ……掘り出し物件? むしろ、埋め立てなさい物件よ」

筋肉むきむき、スキンヘッドの大家が、頭を汗で光らせながら掘り出し物件だと暑苦しく力説していたのを思い出す。風呂、トイレ付。駅も近く、近所にはスーパー。
今ならなんと家賃一万円、に釣られて契約したのは失敗だったかもしれない。そう言えば、築年数で口ごもっていた。

「はあ……そして重っ」

重いバックが肩に食い込み、存在を主張。大切な大切な、お雛様が入ったバック。部屋は二階。肩は重い。
赤錆だらけの階段を恐る恐る昇る、今にも崩れそう。少し泣きたい。
無事昇り切り、二階の左端を目指す。今時見かけない木の扉が一個、二個、三個目で止まる。201号室、新生活の拠点は目の前。文句を垂れても、もう遅い。
扉を開き、えいやと踏みこむ。申し訳程度の玄関、廊下右側に小さなシンクと黒いガスコンロ。洗濯機とシンクの隙間に冷蔵庫。廊下左側に磨りガラスの扉、中はトイレにお風呂。
短い廊下の奥にまた木の扉。此処までは至って良好、問題は後1つ。ドアノブを捻って。

「あれ? 意外に」

ワックスでピカピカのフローリング、洋風の部屋に似合わない古めかしい襖、二つの窓からは良く日が入っていて。部屋はアパートの外見に反し普通だった。
覚悟していただけに、肩すかしを食らった気分。ここは大家が言うように、本当に掘り出し物件なのかも知れない。何はともあれ片づけだ。窓から見える引っ越し業者のトラック。これからの作業を想像し、憂鬱な気分になった。


それから二時間後。


「よしっ片付いた」

呟き、グルリと部屋を見回す。テレビ、ベッド、ちゃぶ台、以上。届いた大物を適当に配置しただけの殺風景な室内、私の居城。
大切なお雛様は、バックに詰まったまま立てつけの悪い襖の奥へ。外を見ればもう夕暮れ、逢魔時。

「お腹減ったし」

誰に言うでもなく言い訳。部屋はちっとも、これっぽっちも、片付いていなかった。明日があるさ、片づけは明日でも出来る。今は自己主張を繰り返すお腹を黙らせないと。
我ながら馬鹿丸出しの思考で、台所に置いてあるダンボールからカップ麺とヤカンを引っ張り出す。

「明日、明日っと」

水で一杯になったヤカンを、ガスコンロにセット。

「わっ」

摘みを捻ると、工事現場のバーナみたいに勢い良く炎が噴き出た。ちょっと驚き。ガスコンロはやけに強力で、あっと言う間にお水が沸く。
ピーピー鳴るヤカン、グーグー鳴るお腹。今この瞬間だけは、コンロを改造し狂った火力にパワーアップさせた誰かに感謝する。今だけは。

「……後で取り換えよ」

この火力は危なすぎる。一体何を焼いていたのだろう。
考えると思い浮かぶ、豚の丸焼きを作っているスキンヘッドの筋肉むきむき大家の姿。汗だくになりながらニヤニヤ笑って……。

「怖っ!」

止めた。想像もしたくない。
カップラーメンにお湯を掛け、蓋を閉める。相変わらずお腹が煩い。耐えろ私、あと三分の辛抱だ。
蓋の隙間から漏れ出す白い蒸気、醤油ラーメンのいい匂い。携帯でセットしたタイマーがピピピと鳴り、私に三分たった事を知らせる。蓋を剥がし、割り箸を持って。

「いただきます」

ズズー、と一口。程良い堅さの麺、魚介の出汁が香る醤油スープ。
空腹は最高のスパイスだと聞くが、正にその通りだと思う。半額の醤油ラーメンが非常に美味しい。さらにもう一口、箸を銜えたところで。

「ぶはあっげほっげほっ──く、苦し……!」

思いっきり咽た。
私の口から発射された具、スープ、麺。最初はひと固まりに、次第に拡散しキラキラと宙を舞う。グッド・ラック麺。良い旅を、君の食感と味は忘れない。

「……」

現実逃避終了。フローリングの床に散らばったラーメンを。そして、そうなった原因を見る。

襖の隙間。嫌そうに顔を顰めたおかっぱ頭。それは雛人形の女雛を可愛らしくデフォルメしたような、そんな姿をしていて。
赤い着物の、とても、とても小さい女の子が、手足をバタバタさせ襖に挟まっていた。

少女は可愛らしい口をすぼめ、這いずるように低くしゃがれた声で言う。出せ、出せ、出せ! と。
頭を激しく振って、瞬きをして、目をゴシゴシ擦る。きっと気のせいだ、引っ越しで疲れが溜まって幻覚を……いや、それはそれで不味いような?
聞けえ、だか、きえええ、だか、低く重い一喝。顔を歪めた仮称お雛様と目が合った。

大儀そうに首を振り、手を伸ばすお雛様。
私の体は瞬間冷凍されたように固まった。挟まって、しまって? いや、それは見れば分かるけど。固まった私を見て、手足をバタつかせもがく。

私は無言で立ち上がり睨みつける、ジーっと。お雛様が黙り、再び手を伸ばす。私は勿論、その手を引っ張るつもりは無い。
何が何やらサッパリ不明で、訳が分からなかったけれど。1つだけハッキリしている事がある。襖から出てきたのだ、襖にお帰り頂こう。

「えーと、ガムテープと……」

お雛様が暴れ出したけれど無視。
見つけた、ガムテープはちゃぶ台の下。あとは適当な長さの棒があれば。

「あ! 丁度いい物が」

トイレの備品。契約した後で、よく詰まるからとイイ笑顔で渡された物。呆然とした記憶が蘇るが、今は有り難い。
廻れ右、目的地はトイレ。お食事中ゴメンナサイ。早足で向かう。扉を開けて、も1つ開けて、それを手に戻る。私の右手を指差すお雛様。左手にはガムテープ、右手には、

「スッポンよ。正式名称ラバーカップ、トイレの詰まりを解消する道具の事」

解説し、完全装備で近づく私。首を傾げ考え込み、何かに気が付いたように突然青褪めるお雛様。お雛様は何を怖がっているのか、嫌々と首を振り激しく暴れる。
大丈夫、すぐにお家に帰れますよ。

「えいっ」

ラバーカップを繰り出す私。目を大きく見開き、体を捩るお雛様。
目標に見事命中。ラバーカップをグイグイ押し込み、素早く引き戻し放り投げる。そのまま襖に突撃、ピシャリと閉めガムテープで封印。

「ふう……ラーメン、ラーメンと」

私は今の出来ごとを全て忘れることにした。カップラーメンは冷めきって伸びていたが仕方ない。あーお腹減った。


だから聞こえない、聞こえない。ラバーカップの先に張り付いて、唸っている何かなんて見て無い。無理、バッチリ見える。ラバーカップの柄を両手で掴み、必死に引っ張るお雛様。
そうだった、あれは吸い取る物だ。

「えーと、この場合は」

トイレかな。

雛人形は川に流すと聞いた事が……流し雛?





ギコギコと動く、バラバラに解(ほど)く。

吹き出す赤、染まる床。

キッパリと流れて、バイバイと手を振る。

今日はグッタリ、もうお休み。










「うわあああああああああああああああああああああ!?」


恐ろしい夢を見た。テレビを付けたまま寝たせいかな? リモコンは無い。

もういいや、お休みなさい。





「──本日未明、河川敷で──された遺体が──警察は死体遺棄・損壊──連続──事件との関連も──」





翌日、トイレが詰まっていた。




『──パフパフ……スッポン』








次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.045435190200806