<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.30803の一覧
[0] 【短編】電撃少女は星空の夢を見る【超電磁砲SS】[青柚](2011/12/08 20:48)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[30803] 【短編】電撃少女は星空の夢を見る【超電磁砲SS】
Name: 青柚◆88a79188 ID:cd66496d
Date: 2011/12/08 20:48
──12月2日 1時32分──


今日はとても運が良い。
だってノッポなビルの隙間から覗く星空は、キラキラ光って宝石みたい。
私はとても幸運だ。
こんなにも綺麗な星空を見れたのだから。

キラキラ、キラキラ光る。

「───……綺麗」



電撃少女は星空の夢を見る



「待って下さい、お姉さまーっ」

「待つかっ馬鹿!」

危ない気配を漂わせた彼女に、振り向きざまに電撃をお見舞いする。
空中を文字通り光の速さで突き進んだ矢は、見事にビル壁に命中。霧散。
周りの人は皆、目を白黒させて私たちを見ている。
この制服を着てるんだから仕方ない事だけど、少し鬱陶しい。
何なら代わって上げますよ?

「グヘヘへっ捕まえましたわ。お姉さまーん」

益体も無い事を考えていたからだろう。
目をグルグル廻した変態に、背後から抱きつかれてしまった。

「スウーハアー、お姉さまの匂い……」

変態は私の頭に顔を押しあて、深呼吸し始めた。
左手は私のお腹をガッチリホールドし、右手がワキワキと胸に伸びる……。

「死にさらせええええええええ!」

一本背負いを極めてやった。
空を舞う変態。顔を赤くして私と彼女を交互に見る学生たち。
ニヤニヤ笑ったままの変態が、空中でクルクル回転して消えた。

「いきなり投げるなんて、酷いですわ」

怒ったような口調で、笑ったままの彼女が背後から話しかけてくる。
まったく、無駄に器用なこと。
何度も同じような事を繰り返していると、怒るのも馬鹿らしくなってくる。

「……ハア」

思わず出た溜息に、彼女が心配そうな顔を作って言う。

「溜息なんてつかれて、何かお悩みでも?」

真剣な口調の端々にいかがわしい気配。
どうせまたぞろ疲れているのだ、とか何とか言ってベッドに乱入する心算だろう。
この間はマッサージするとか言ってたっけ。

「アンタをどうやったら消せるか、それに悩んでたのよ」

「そんな! 私はこんなにも、お姉さまをお慕いしているのにっ!」

ヨヨヨと、泣き崩れる馬鹿。
少しは人目に気を使いなさいよ。恥ずかしいたらっありゃしない。

「アホやってないで行くわよ。時間が押してるんだから」

「そうでしたわ、早く行きましょうお姉さま」

私の足元に崩れ、泣き真似をしていた彼女が何事も無かったかのように起き上がった。
舌打ちとスパッツがどうたら、とかは聞かなかった事にしておく。
もう面倒臭いし、下手な事したら藪蛇だ。
だから、一言だけ。

「この、変態」

上気し、ハアハア言い始めたのも見なかった事にする。
本気で消す方法を考えた方が良いかもしれない。貞操の危機的な意味で。



変態のせいで焦り気味に来たが、何とか約束の時間に間に合ったようだ。
カフェテラスの席に座り、手を振る二人の少女。
1人は長髪の黒髪に、可愛らしい髪飾りを付けた少女。
もう1人は頭に花畑が咲いている小柄な少女。
他に客は居ない、一週間前までは混雑していたのに。
段々と客が減っている気がする。
大人の事情と言うやつだろう、何にせよ私には関係の無い事。
カエル型の携帯で時間を見る。


──12月1日 12時57分──


うん、ギリギリセーフ。



「───それでですね、ってあれ、聞いてます?」

「うん? ああ、ごめんなさい。暖かくて」

「お姉さま……昨夜は激し──ガボオッ」

何か妙な事を口走りそうになった変態の口に、飲みかけの紅茶をカップごとぶち込む。
苦しそうに呻く変態。
良い気味だ、そう思ったらデレッと顔が崩れカップを舐めはじめた。
失敗した。

「ハゲシって何ですか?」

黒髪の少女が、疑問符を浮かべながら聞いてくる。
ワザとか、それとも素なのか。

「歯っげ死よ。昨日の夜は歯が痛くて、良く眠れなかったの」

私は何を言っているのだろう。
変態に中てられて、私まで可笑しくなったのだろうか。
昨日は、ベッドに侵入しようとする馬鹿の駆除で疲れただけなのに。
黒髪の少女は曖昧に笑って、それ以上追求して来なかった。

「それにしても、良いお天気ですよね」

「そうですわね。お姉さまじゃあないですが、眠くなってしまいそうです」

「気持ちいいですね」

花畑の少女がフンワリした口調で言う。
カップを置いて普通に戻った彼女が同意し、黒髪の少女も目を細めて空を見上げた。

「そうね」

私もつられて、空を見上げる。何時も通りの青い空が広がっていた。

「ザッ……──ハゲシって何ですか?」

「え? いやだから──」

「それにしても、良いお天気ですよね」

ああ、エラーか。

「エラーのようですね。最近頻繁ですが、何かあったのでしょうか?」

「どうせまた、中央制御室でトラブッたんでしょ。映像もループしてるし」

「……そうですわね」

何か思うところが有ったのか、彼女は携帯を取り出し唸り始めた。
確かに、ここ最近頻発し過ぎな気もする。

「ハゲシって何ですか?」

黒髪の少女は三度目のループに入ったようだ。もしかして、基本AIに欠陥が有るのだろうか。
もしそうなら、モデルにされた外の子はお気の毒様だ。
私なら、開発者を許さないだろう。

「何にせよ、今日はもうお終いよ」

私の言葉を合図にしたように、ウェイトレスさんが近づいてくる。
無表情なウェイトレスさんは無言で、二つのカップを片づけ始めた。
何回見ても惚れ惚れする、何十万回と繰り返したように正確無比で無駄のない動き。
これで、もう少し愛想が良ければ完璧なのに。

「何か?」

無感情で無機質な声。驚いた、初めて声を聞いた。
対面の席で携帯を弄っていた彼女も、驚いたように顔を上げる。
どうやら、愛想が悪いのは私限定ではないようだ。
多分、ジッと見る私の視線が気になったのだろう。

「あ、いえ、無駄が無くて綺麗な動きだなあっと」

ウェイトレスさんは一瞬、苦しみとも、憐憫ともつかない形容し難い表情になった。
この技術を会得するのは相当辛かったのだろうか。
もしかしたら、ここの店長は余程厳しい? なら悪い事を聞いたかもしれない。
謝るべきだろうか。

「……ありがとうございます」

悩んでいる内にウェイトレスさんが言い、足早に立ち去る。
驚いた事に、微笑んでいるように見えた。

目を丸くした彼女が口を開いた。

「珍しい事も有るものですわ」

本当にそう思う。けれど。

「そうね。私はもう帰るけど、アンタはどうするの?」

「私はエラーの原因を調べてから帰ろうかと、これじゃあ、ちっとも進みませんわ」

花畑の少女を見て溜息をつく彼女。まあ、気持ちは分からないでもない。
骨折り損もいいところだ。

「じゃあ先帰るから、誰かさんのせいで眠いのよ」

「それにしても、良いお天気ですよね」

それに、いい加減うるさい。
何度も何度も、同じ会話を繰り返し続ける彼女たち。
本当にエラーが酷い。


帰る途中で、私達が前から歩いてきた。
時間を見れば、後三十分で二時になるところ。
エラーの事を告げるべきか、一瞬悩んだが言わない事にする。
私達だけ骨折り損とはいただけない。
すれ違いに会釈する、向こうも会釈を返す。
顔を上げた一瞬、私は私と目が合った。

彼女も変態に悩んでいるのだろうか? そうでないなら交換してほしい。

何だか、同じ事を考えていた気がする。
そんな一瞬は過ぎ、私達はカフェテラスに向かって去って行く。
私は振り返らなかった。
何時も通りの、ごく普通の光景だから。

そんな事より、重要な事がある。

「ウェイトレスさんの笑った顔、綺麗だった」

敢えて口に出すと、ウェイトレスさんの笑い顔がしっかりと思い浮かんだ。
今にも消えてしまいそうな雪の結晶のように、儚くて透き通った微笑み。
同性の私でもドキリとした。
けれど、

「泣いてる、そんな気が」

どうしてか、深い悲しみの表情にも見えた。
私には、理解出来ない感情の筈なんだけど。

担当者に会ったら聞いてみよう。
実験に重大な齟齬が生じるかも知れないし。

それから、この空なんとかできないの?

「毎日真っ青じゃ、飽きてくる」

それも含めて、相談してみよう。
一度でいいから、星空と言うモノを見てみたい。

私の、密かな夢。

うん? 夢って何?

「まっいいか、実験にはモチベーションが重要なのよ」

自分で言いつつ何の事やらだったが、少し楽しい気分になった、気がする。

明日も、頑張ろう。




──12月2日 1時15分──


「ガガッ……───こ……らAは……応答───ガガッ」

ノイズだらけで殆ど聞き取れない無線。
椅子に腰かけ足を組んだ白衣の男が、不機嫌さを隠しもせず隣に立つ女を睨みつけた。
それは別に彼女のせいではなかったが、手に持つ連絡用端末を仕舞うと、静かに無線機を手に取る。
そして豚のように醜く太り、油でギトギトの男の顔から顔を背けた。

「こちら第12生命研究所、応答ねがいます」

男の粘つく視線を背に感じつつも、女は微動だにすることなく応答を待った。
一分が過ぎ、二分が過ぎ、男が大きく息を吸った、その時、

「ガガッ……こちらA班、規定の処理を完了、地下実験区画を完全封鎖。これより撤収を開始する、許可を」

無線機から極度に感情を抑えた男の声が響いた。
女は暫し無言のまま、無線機を見つめた。

「何をしている、早くよこしたまえ」

男がヒステリックに喚く。

「了解」

短く答え、無線機を手渡す。
女は氷のように冷たい目をしていた。
男は怯み、それを誤魔化すように無線機に怒鳴り散らした。

「一体全体、何をやっているのかね!? さっさと撤収したまえ!」

「了解、撤収を開始します」

やはり一切の感情を削ぎ取った男の声が、最低限の事を伝える。
無線機は、それきり沈黙した。

「教授」

女は無線の男ソックリの、抑制された無感情な声で男に話しかけた。

「な、何かね?」

教授と呼ばれた男は、椅子から転げ落ちそうになった。
女は、男を見もせずに聞く。

「何故このような事を?」

「何故? ああ──」

男は疑問を浮かべ、それは直ぐに侮辱の表情に変わる。

「効率が悪いと言いたいのかね?」

女の右眉が微かに上がった。男は気付かず、話し続ける。

「確かに神経ガスでも撒けば簡単な話だ、しかし確実では無い。
 それに幾ら封鎖された地下空間と言っても、万が一にでも地上に漏れ出す危険は避けなければならん」

分かったかね、と話しを締めくくる男。
馬鹿にした口調で語っていたが、女は表情1つ変えない。

「有難う御座います、良く分かりました」

女は最後まで男から顔を背けたまま頭を下げると、踵を返した。

「全く、これだから軍人は!」

男の嫌みが籠った言葉を背に、部屋を出て行く女。
憮然とした男と忙しそうに動き回る研究者達、彼らを残し部屋の扉は音も無く閉じた。




──12月2日 1時34分──


路地裏に足を踏む入れた女は、ゆっくりと拳銃を構えた。
ターゲットは既に満身創痍のはず、焦る必要は無い。
左手に装着された端末画面に映るマーカーに従い、ジリジリと近づいていく。
目視。ターゲットの少女はビル壁を背に座り込み、空を見上げていた。
尚も近づく。女は予感のようなものを感じた。
あと2メートル。あと1メートル。
あと30センチ。
反応は無い。

少女は空を見上げ、幸せそうに笑っていた。

女が構えた拳銃を静かに下ろす。
そして、今にも消えてしまいそうな雪の結晶のように、儚くて透き通った微笑みを浮かべ。
優しく、優しく、問いかけた。

「夢は、叶った?」

返事は返って来ない。

「……お休み、名もなき少女」

女は思った。
クローンの少女、エラーだらけの少女、冷徹な軍人、醜い研究者。
一体誰が、一番人間らしかったかと。
考えるも、明確な答えは出ない。
彼女自身も含め誰もが人間らしく、また誰もが非人間的だったように思うから。
女は頭を振って、らしくも無い考えを振り払った。
軍人は命令を忠実に遂行する。それが存在意義で、それ以上でもそれ以下でもない。
最初から余計な思考を差し挟む余地など無い、と。
無表情に戻った女は拳銃を仕舞い、代わりに連絡用端末を取り出しボタンをプッシュした。

「任務完了」

たった一言呟いて、端末を仕舞う。
長い長い任務の、呆気ない幕切れ。



珍しく星空が綺麗な、夜の事。





──あとがき


原作で御坂クローンは、無理矢理に成長させられました。
その結果は、本人の1%にも満たない劣化能力者です。
もっとも、本気で超能力者をクローニングしようとしたかは定かではありませんが。
この作中では、本気で超電磁砲を量産しようとしています。

急激に成長させるのが駄目なら、いっそ全てを模倣してしまえ! と。
どうなったかは、言わずもがな。

クローンの少女。
エラーだらけの少女。
冷徹な軍人。
醜い研究者。
誰が一番、人間らしかったでしょうか。

最後に、拙作を読んでくださった皆様に感謝を。
ありがとうございました。


感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02917218208313