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No.3080の一覧
[0] ユウヤで素直クール[十区目](2008/06/15 23:00)
[1] ユイはツンデレ[十区目](2008/06/15 23:00)
[2] イーニァが天然[十区目](2008/06/15 23:01)
[3] 上官は腹黒[十区目](2008/06/15 23:01)
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[3080] ユウヤで素直クール
Name: 十区目◆d4a7aafb ID:65f0f90f 次を表示する
Date: 2008/06/15 23:00






ユウヤで素直クール



配属






 2001年5月2日 アメリカ合衆国・アラスカ州 国連軍太平洋方面第三軍・ユーコン陸軍基地 テストサイト18




 ユウヤ・ブリッジスは超大型輸送機An-225から見える景色に眼を見張っていた。
蒼穹の空が広がる雪景色、白に統一された世界はこの場に居る自分に違和感を覚えさせるほど美しい。
自分に情緒がある方だとは思わないユウヤだがこれを始めて見た者は皆、感慨深い気持ちにさせるのではなかろうか。
着陸態勢に入り高度を下げた輸送機から見えた景色のユウヤの第一印象はそんな感じだった。
戦術機という空をも支配できる巨人に乗るテストパイロットのユウヤは高高度からの景色には見慣れてはいる。
さらに言うとユウヤの故郷であるアメリカなど国土が広いためこのような光景は珍しくもなんともない。
しかしユウヤは何をする訳でもなく飽きもせず窓に映る白い景色を見ていた。
そんなユウヤを呆れた表情でみるこの輸送船の二人しか居ない貨客室のもう一人、専任整備兵ヴィンセント・ローウェルは苦笑しながらユウヤに話しかけた。


「半ば左遷されたも同然なのにお前は全く変わらねぇな」


「―――俺が俺じゃなくなるなんてありえない」


淡々とした切り替えし。
他人からみれば冷たいとも取れるその返事はユウヤ独特であった。
しかし、話しかけられたヴィンセントの方に顔を向け眼をしっかり見て一秒間を置いて答えを返している。
クールと思われがちなユウヤは実はかなり不思議が混じった素直な青年である。
表情は全く変わらないが。


「―――いや、そうじゃなくて、なんか不満の一つや二つないのかお前?」


「別にないな。 俺はこの状況を已む無しと考えているし。 大体、軍なんてそんなものだろう?」


命令一つで様々なことが決められる。
ユウヤは素直に実直にそれを受け入れていた。
そしてヴィンセントもである。
ヴィンセントもこの田舎ともいえる場所の移動に不満はあるが今の専任整備兵というポジションに不満はない。
所属が国連軍に転属というのも厄介払いされているように思え、決して良好な感情は生まれにくいがヴィンセントは自然にそれを受け入れていた。
それに実はユウヤ以上に楽しみしている面がある。


「まあな、それにアラスカ国連軍のユーコン基地といえば世界中からエリートが集められる作戦試験部隊の本拠地だからな。 最前線で稼動しているいろいろな戦術機に触れるのはかなり嬉しいぜ」


そう決して不満点だけじゃなく割と嬉しい実情もある。
嬉しそうに話すヴィンセントを変わらない無表情を小さな笑顔に変えてユウヤは頷いた。


「―――良かったよ」


「何が?」


「俺に付き合わされた形の移動だからな。 お前も嬉しいなら俺も嬉しい」


ユウヤは歯に衣を着せずに恥ずかしげもなくそんなことを言い切る。
ヴィンセントはそんなユウヤに溜息で返事を返した。


「……なあ、お前そんなんだから勘違いされるんだぞ」


「?」


ヴィンセントはユウヤと一緒に組んでからユウヤに迫ってきた女性と、男性の数を数え始めた。




 のんびりとしていた機内がいきなり震えた。
ランディングアプローチに入っている筈の機体が突如エンジンを開き始めたのだ。


「何だ、再アプローチか?」


「―――違う」


ヴィンセントが怪訝な表情で外の景色を見ようとした瞬間、ユウヤはベルトを外し貨客室の出口に向かっていた。相棒に律儀に返事をしながら。


「―――って、おい! どこ行くんだよ!?」


ユウヤは「操縦室」と律儀に返事をして操縦室に向かった。




 操縦室にレッドアラームが鳴り響いていた。
それ以外にパイロットと管制塔のやり取りが騒がしかった。
会話から確認するにどうやら二機の戦術機が後方から急速接近してくる様子だった。
後方から音速で爆音が聞こえてくる。
ユウヤ即座に空中での格闘戦と判断した。
これは普通にまずい状況だ。
空中での格闘戦、ドッグファイトをしている戦術機二機が死角である後方から接近してくるのだ。
回避は運に任せるしかない。
ユウヤは噴射音で戦術機の位置を頭で割り出していた。
このままいけば激突の恐れがある。
輸送機のパイロットは高度を上昇しようとする。


「―――滑走路へっ!!」


普段ユウヤを知っているものが聞けば驚くくらい覇気の篭った別人とも取れる叫び声だった。
しかしそのユウヤの声で咄嗟に操縦桿を前に倒すパイロット。
その直後、音をも切り裂く速度で真上から大きな巨人が通過していき、一泊遅れた振動と轟音が後を追うように通り過ぎる。
それが終わった直後パイロットと、そしてユウヤも一息つけた。
脅威は正しく通り過ぎたのだ。




 ユウヤは撃墜された戦術機F-15・ACTVのパイロットを救助し終えそのパイロットと一緒に軍用四駆を使い基地司令部まで目指ていた。
救助と言っても無傷でいたのでそのまま連れ立っている。
様子を見る限り撃墜したSu-37UBが手心を加えていたようだった。
無言で不貞腐れているF-15・ACTVのパイロット、タリサ・マナンダル少尉を見る限りは。
どちらのパイロットの技量も凄まじかったと思ったが向こうはこの褐色の子供のような小さな体格をしたパイロットの上をいっていたということなのだろう。
ヴィンセントはそんな車内で喋り続け、ユウヤそんな車内でも景色を見ていた。
マイペースをゆく三人が異様過ぎる光景を作り出していた。




 景色が滑走路からハンガーに移り変わり様々な戦術機が並ばれていた。
それをみたヴィンセントはもちろんのことユウヤも驚いていた。
圧巻とも言って良い。
全部動く、実践で使用できる様々な戦術機が並ぶ光景は自然とは別に人口の知恵の塊を直に見ているようだった。
それをみて興奮が最骨頂に達したヴィンセントがタリサに先程からもそうであったがさらに質問を浴びせかけイラついていたタリサは喧嘩腰に言葉を返し口論に発展しそうになったがその前に司令部に着いてしまった。




 司令部のビルの前に軍用四駆を兵長に預け中に入る。
殺風景なエントランスに入った直後、腕組をしたタリサが目の前に居た。先程の口論の件かヴィンセントが舌打ちして前にでた。


「……なんだよ、まだ何か言いたいことでもあるのかよ」


「もうザコにようはないよ」


「―――なっ!!」


憤るヴィンセントを無視し小柄な体格を大きく見せるようにユウヤの前に立つタリサ。
ユウヤは全く表情を変えないままタリサをみた。


「―――あんたに一言いっておくけど………」


「なんだ」


「さっき、あんたが余計なことしなくても輸送機ぐらい避けられたんだ。 お前が勘違いして恩着せるのは勝手だけど、あたしはありがたいなんて思ってないからな」


タリサは堂々と威嚇するようにそう言った。
ヴィンセントとの会話中に聞いたのだろう、完璧に挑発している。


「そうか、それはすまなかった。 ごめん」


それに対してのユウヤは表情こそ余り変わらないものの全くのすまなそうな声色で謝った。


「……え?」


その答えが意外、というより予想していなかったのだろう。
挑発すらしていたタリサはこのように謝られるとは夢にも思わなかった。


「いや、余計なことだったのだろう? 実際、あの状況は俺は何も影響を与えていない。 むしろ余計なことをしていたのなら謝る。 ごめん」


今度はお辞儀すらして見せた。
アメリカ人の母から教わった自分が敵ではないと示す為に首を差し出す日本人の行為。
それは日本を余り知らないタリサをして、ここまで自分はコイツを追い詰めるような酷いことしたっけと考えさせる凶悪なものだった。
一瞬どころか数秒、思考停止させるのは十分だった。
ヴィンセントはこの状況を予測していたのか最近良くするようになった溜息を吐き我関せずと見守っている。
思考が鈍く働き始めたタリサはなんとか声を紡ぐ。


「……え、あ、いや、うん分かれば良いんだよ。 うん、別に怒ってるわけではないんだからさ」


たどたどしく言葉を吐き出すタリサをヴィンセントは気の毒そうにみていた。
そんなタリサにユウヤはさらに追い討ちをかける。


「―――そうか、ありがとう」


今度は微笑みとも取れる笑顔を沿えてお礼を言ったのだ。
無表情以外みていなかったタリサはその急な顔の変化に動悸を速くし褐色の顔を赤らめた。
完全に調子を崩されたタリサは八つ当たり気味に標的を変えた。


「―――っ!! そうだよ全く田舎者はこのぐらい謙虚じゃないと! あんたも相棒見習いなよ!!」


「……え、俺?」


急に話を振られたヴィンセントは目を丸くした。
まさかこっちに向いてくるとは思わなかったのだ。


「そうあんただよ、全くザコの癖に粋がるのやめてコイツ見習いなよね!!」


「―――ってんめぇ~~~」


「ほらほら、ダメでしょそんな口利いちゃ! 謙虚謙虚―――」


「―――タリサ・マナンダル少尉っ!!」


「―――ぃっ!!」


 エントランスに怒声が響き渡る。
それと同時にタリサの体が固まった。
石になったタリサの後ろに中近東出身と思わせる士官が歩いてくる。
フライトジャケットの略称は中尉、胸のウィングマークで衛士であることがわかる。
タリサはそちらに振り向こうとせず硬直したままだった。
その男の鋭い視線がタリサに向けられていた。
ユウヤとヴィンセントの敬礼に答えた男はタリサの真後ろに立つ。


「マナンダル少尉、謙虚とは……貴様にこそ必要とされる美徳だと思わないか……?」


「………ひっ」


震え上がりそうな声にタリサは見事に震え上がり悲鳴を漏らした。


「国連軍の名誉ある広報任務を預かっておきながら、貴様は自分が何をやらかしたか理解しているのか?」


「………ぃ……」


タリサの声は喉を本当に搾ているように聞こえた。


「まずは精密検査だ少尉、医務局に向かえ」


「……は……ひ……」


男は目を見開く


「―――貴様を締め上げるのはその後だっ!! 検査中は報告書に記載する内容と、俺への言い訳を考えておけっ!!」


「―――はっ……って、痛っ―――」


先程同じようにタリサを石にした声を至近距離で浴びせそれに対して敬礼しようとしたタリサが額に手刀を当ててしまい涙目になった。
ヴィンセントはそれをみて吹き出しそうになるのを堪えるのに必死になり顔を赤くしタリサをさらにそれをみて「覚えてろよ」と吐き捨てた。
しかし直後に駆け足を命じられまた硬直したままおかしな走り方で医務局へ向かった。


「……腕は確かなのだがな」


そう呟くと、タリサが完全に見えなくなりユウヤとヴィンセントに向き直った。


「―――ユウヤ・ブリッジス少尉及び、ヴィンセントローウェル軍曹、現時刻をもってただいまより着任します」


「私は貴様らが所属するアルゴス試験小隊を指揮するイブラヒム・ドーゥル中尉だ。転任早々、盛り沢山だったな」


イブラヒムが自己紹介し、二人に爽やかな笑顔で向かいいれた。


「―――最前線へようこそ」


皮肉でもある歓迎の挨拶を交えて。




 2001年5月3日 ユーコン陸軍基地 テストサイト18 第二演習区画E-102演習場




 ビルがジャングルのように立ち並ぶ演習場の中。
タリサは無防備ともいえるユウヤの操るF15-Eを確認し戸惑っていた。
配属早々テストとはいえユウヤが前衛であることはユウヤの僚機であるアルゴス4、ステラ・ブレーメルがもともと後衛向きなので間違いないと思っていた。
しかし市街戦なのに建物を利用せず発炎筒すらばら撒かず広い場所に走って移動するなど正直、正気を疑う行動であった。
狙撃してくださいと言っているようだ。
この模擬戦は一機がやられれば終了なので囮役はかなりリスクが高い。
ユウヤのような行動は普通取らない。


「アルゴス2、敵機を確認」


『アルゴス3、同じく確認。 てか大丈夫なのかあいつ?』


「いや、どうだろうね」


僚機であるヴァレリオ・ジオコーザ、通称VGの通信によくわからないと返答する。
ユウヤはアルゴス小隊の中での評価はまだない。
その中で唯一タリサだけが彼と話をしたのだが、初の会話がアレでは本当に訳のわからない奴と思われることは必須だ。
そして今回の実機演習。
今の行動もそうだが、彼が一番機に乗ると聞いて「お前一番機なんて認めない」などというようなことをタリサが言うと二つ返事でF15-ACTVを譲り渡してくれた。
あり難いより先に気味の悪さを先に来る。
それゆえに普段勝気なタリサも今回の模擬戦でのあの行動が、なおの事不可解なものに見える為攻めるのを躊躇させた。


『―――マジで撃っちゃっていいのかな?』


「……やってみればいいだろ」


VGの通信に曖昧な肯定をするタリサ。
正直これで撃墜されるぐらいなら肩透かしでありこのユウヤに抱いている奇妙な感覚も抜けるだろう。
ヴァレリオから了解の返事を聞きF15-Eに目を向ける。
この砲撃で多分終わる。
遠距離からの不意打ちに対応できるのは相当難しい。
音響レーダーによって大体の位置は把握できているだろうがいきなりの攻撃だ、避けられないだろう。
どうせコイツはここまでの奴だったとタリサは思った。
しかしそれでもまだタリサの心の違和感は取れていない。
何かに期待してしまう。
自分でも何故か分からない感覚にタリサは苛立っていた。
F15-Eが向きを変えた瞬間、轟音が響いた。
終わった、とタリサは思った。


(所詮この程度か)


―――が数秒後に考えを改めることになる。




 ユウヤに迫るペイント弾の嵐。
回避できるタイミングではない。
ベテラン衛士でも無理な行動である。
だが―――音速を超えて迫り来る全てのペイント弾、初撃。
―――側面からの一発目と二発目は噴射による平行移動で避けた―――しかも攻撃と同時である。―――三発目の回避は噴射跳躍―――壁に激突寸前に機体を反転させながら跳んだ―――その後少し右に崩れた機体に追い討ちを掛ける様に五発目が跳んでくる―――F15-Eは右にバランスを崩したままで片方の跳躍ユニットだけ噴射させ独楽のように回りだした―――そのF15-Eの横をスレスレで通り過ぎるペイント弾。
ナイフエッジスピンとも呼ばれる高等な機動(マニューバー)だがユウヤのそれはさらに上をいった。
平行移動したままの機動でなら唯のナイフエッジスピンなのだが上下左右に揺れながらのランダム機動、片方の跳躍ユニットと脚部、胸部のスラスターを絶妙に制御させた超機動制御だ――――――その高速回転してるランダムな機動は、その後の六、七、八発目を見事に回避して見せた。
それを見たヴァレリオ含めタリサは驚愕の表情を浮かべる―――必中必殺の射撃を全て回避したのだ、誰が見ても驚く。
しかしその後のリカバリーはさらに人智を超えるものだった。
腕と足を大きく広げ吹かしていなかったもう一方の跳躍ユニットを噴射させ小さなバレルを描くF15-E―――たったそれだけで機体をVGの駆るF-15Eの方向に向けたのだ―――機体が真正面に向いたどころかさっきまでアクロバティックしていたとは思えないぐらいに機体はたった一瞬で安定し、さらにユウヤ機はその一瞬で腰と肩のガンラックから突撃砲すら展開して見せた。
そのリカバリー能力は目を疑うものであるがVGからして見れば目を疑っている暇はない―――今にも突撃砲がこちらを攻撃しようとしているところなのだから―――逃げる隙すら与えない速さ、抜き打ちでの背部腰部の四門同時連続射撃(フルバースト)、さらに極悪なことに精密射撃ではなく満遍なく繰り広げられる面制圧射撃、逃げなくても当り逃げたらもっと当るので普通の衛士であればこの時点でゲームセットだった。
ヴァレリオは転がるように反転噴射によって向きを素早く変え雨のような射撃を建物を利用しながらランダムに動きやり過ごす。
運の要素が非常に強い避け方であったがヴァレリオのリカバリーの腕も衛士として飛びぬけていた―――すぐに機体を安定させビルに隠れる。
しかし突撃砲と左腕部のナイフシース、右肩と左のガンマウントにペイント弾が付き機体を動かすのは可能だが誰が見ても戦闘継続事態は不可能な損傷だった。
致命傷ではないので模擬戦での負けではないが純粋に実弾であれば間違いなく終了していた可能性が高い。


『アルゴス3、被弾』


管制塔からの無線が響く。


『―――っく、アリかよあんなの、アレ本気で人間が乗ってんのか!?』


「……そんなAIがあればアタシらはいらなくなるだろうね」


ヴァレリオもタリサもかなり動揺していた。
あんな状況で回避するとは、というよりあんな機動で回避するとは思わなかった。
タリサは戦慄を覚え、自分が汗をかいていることに気がつかないぐらい緊張していた。
そして、同時に気持ちが自然と高ぶっていく。
Su-37UBと闘ったときよりもずっと、自分でも分かるくらいに恐怖に近いものを感じていながらそれ以上に自分の期待が外れてなかった満足感もあったのだ。


「―――VG、あとは私がやる、手を出すなよ!!」


『―――っあ、おい!!』


ヴァレリオの声を無視してタリサが前に出る。
ユウヤ機の後方、上空からの不意打ち―――F15-ACTVの瞬発力によって接敵はほんの一瞬だった。
両腕の突撃砲が火を噴く。
タリサ機の下方で背を向いていたユウヤ機は先程のオリジナル・ナイフエッジスピンと合わせた噴射による上昇で全弾回避をして見せる―――その曲芸そのものと言える機動を直に見て目を見開きながら舌を巻くタリサだが衛士としての感覚が働き反射的に追い討ちをかけた―――背部のガンラックがユウヤ機の方を向き空中で姿勢制御をする前に打ち抜こうとする―――しかしユウヤは脅威のリカバリー能力を発揮させる―――一瞬の静止後、機体を急上昇させたユウヤ機―――突撃砲のペイント弾は見事に先程までユウヤ機が居た場所を正確に打ち抜きビルを綺麗に染めた。
正直、もう驚愕を通り越して呆れるしかない。
格闘戦(ドッグファイト)で後ろを取っているのに当てられる気が全くしないのはどうだろうと思う。
タリサは負けず嫌いであるが誰でも次元が違う敵と闘っていると恐怖を感じなくなり、敵愾心も薄れていく。
つまり諦めそうになるのだ。
それを自覚しそうになり、首をブンブンと左右に振り必死に否定する。
顔を引き締め急上昇したユウヤ機を見据える。


「―――ぉっらあああああああぁぁぁぁっ!!」


気合の雄叫びを上げ、ユウヤ機に向かってブースト―――F15-ACTVの機動をフルに生かした異次元とも呼べる三次元機動によって突撃砲の雨を潜り抜ける。
バレルロールとターンの究極とも呼べるコンビネーションマニューバーを駆使して遥か上空に居たユウヤ機の後方へと一瞬で移動する―――上昇中での失速を利用し機体を止めるテールスライドと呼ばれるマニューバーで彼女はユウヤ機の後ろを取った。
ククルナイフと呼ばれる彼女オリジナルのコンビネーションである―――惜しくもSu-37UBには通じなかったが機動性で劣るF15-Eには有効であった。
背中を向けてるF15-Eに向けタリサは突撃砲を撃つ―――が、突如目の前に現れる何かによって突撃砲のペイント弾が遮られた。
目の前に迫る何か―――それは自分の手に持っているのものと同じ突撃砲であった―――ユウヤは背部の突撃砲をパージしていたのだ。
タリサは咄嗟にそれを噴射によって回避、追撃をするためにそのまま水平噴射を維持しようとする。
ユウヤ機を確認―――目の前に。
瞬間移動したとも言っていい―――現れたのだ、目の前に、短刀をこちらに向けて。


「―――っぅぁ―――」


思わず情けない声を出してしまったのは仕方ない。
ユウヤ機のやったことはラムシェバックと呼ばれるマニューバー、移動中の機体を柔道の前回り受身のように回転させ真直ぐ飛んでいた筈の機体が突如方向転換するというこれまた曲芸染みた機動をやってのけたのだ。
唯の反転でなく、いきなり噴射ユニットなしでの方向転換―――さらに方向転換後の機動も全力単発噴射を一回のみで後は腕と足での制御でタリサの目の前に移動するという異次元どころか別世界の機動を目の前でやられれば当然タリサのように驚く。
当然ながら水平移動中に目の前に現れた何かをどうにかする術はない―――或いは数ヵ月後に開発されるXM3というOSならばキャンセルによる行動で対応できたかもしれないが―――タリサは空中での高速移動する機体に短刀を当てるという神業を直に経験する、やられる側として。


―――コォン。


と、小気味の良い音が空中で響いた。
戦術機のメインカメラの後ろ、右側ガンマウントの根元の上に刃先を当てられ空中でバランスを崩すF15-ACTV。
そのまま高速で移動しながらバランスを崩す―――つまり墜落していく。


「―――ぁぁぁぁぁあああああああああぁぁ」


叫び声を上げながら墜落していくタリサ。
バランスを取ろうと命がけになった。
しかし、超高高度での戦闘の上F15-ACTVは墜落したままバランスの取れないような不良機体ではない。
戦闘機ならば、その速度ではそのまま墜落であろうが戦術機なら時間を掛ければバランスは取れる。
タリサはユウヤやヴァレリオ程ではないにしろ恐るべき速さで機体を安定させた―――安定させてしまった、空中で、高高度で。


―――ベチャ。


というような音が鳴ったかは定かではないがF15-ACTVのコクピット付近にペイント弾が黄色くマーキングされた。
空中で静止すれば敵からすれば良い的である。
当然、タリサも例外なく撃たれた―――物陰に息を潜めていたアルゴス4、ステラ・ブルーメルに。


『アルゴス2胸部コクピットブロックに被弾。 致命的損傷により大破と認定! 状況終了、全機作戦開始位置まで後退せよ!』


「……しまったっ!」


レシーバーからイブラヒムの声が響き、自分がどうなったか理解したタリサ。
余りの悔しさに歯軋りした後、モニターに頭突きをかました。
余りの痛さに涙が出てしまった。




 同日 ユーコン陸軍基地 テストサイト18 第二演習区画E-92演習場


 アルゴス小隊実機訓練終了から数時間後、ソ連軍の試験部隊もアルゴス試験小隊と比較的近い位置で演習していた。
「紅の姉妹(スカーレットツイン)」の愛称(タックネーム)で呼ばれるタリサを落としたSu-37UBを操る複座型の戦術機を駆る二人の衛士、イーニァ・シェスチナとクリスカ・ビャーチェノワは己の体力と精神の限界まで発揮させ、広大な演習場にばら撒かれた標的機(ドローン)を次々と撃墜させていった。
広大すぎる演習場の標的機を全て落とすというのは簡単ではない。
それどころか索敵に手間取り、撃墜すら難しい。
それを少ない時間制限の中、次々と見つけては落としていく様は正に「紅の姉妹」の名に相応しい。
だがもう如何せん時間が少なすぎるのだった。
ちりじりになった標的機をあと二機まで追い詰めたのは普通ではないことだが、一回とり逃してしまったことはやはり大きかった。
それでも諦めず、Su-37UB独特の超高Gが掛かる三次元多角形機動によりまた一機落とすことに成功する。
その旋回中での射撃は見るものが見れば二人乗りでしかできなく、二人乗りでもありえないと思うだろう。


「―――クリスカ……もっとはやく……っ!」


「―――くぅっ!」


イーニァはGに耐えながらクリスカに懇願する。
クリスカもそれに答えるべく機体を軽くするため着陸分の推進剤を全てパージしようとした―――その時である。


「―――あっ!」


「―――っ!」


二人がディスプレイで捕らえていた標的機が撃たれたのだ。
標的機には黄色い塗料が付着していた。


(ペイント弾!? 誰!?)


クリスカは墜落機動中の標的機と入れ替わりでディスプレイに映るF15-Eを見た。


「アルゴス試験小隊予備機……ユウヤ・ブリッジス少尉……?」




 別に信じなくてもいい。
でも言い訳を聞いてくれるならアレは事故だった。
ユウヤはアルゴス試験小隊のメンバーにそう語った。
なぜユウヤが標的機を撃ったか?
時間は少し前に遡る。




 配属早々の実機訓練が終了した後、真っ先に噛み付いたのがタリサである。


「―――この変態め!!」


いきなりそう言われたときのユウヤは少なからず、否大きくショックを受けた―――その時のユウヤの顔はリストラを通告された営業マンに酷似していたとヴァレリオは語る。
しばらく声も出せずにショックを受けるユウヤ。
まさかほぼ初対面の相手にそんなことを言われるとは思わなかった。
顔つきや体が変態っぽいのか?
それともなにか酷いことをしてしまったか?
ユウヤが困惑する中ヴァレリオがフォローを入れた。


「―――お前さんの機動のことを言ってるんだよ。 しかしすごかったな、トップガン! お前普段からあんな機動してんの? マジで変態染みた機動だったぜ」


ヴァレリオのフォローによって立ち直りかけたが、最後の一言でまた沈みかけた。
sステラも「アメリカ軍は数の優位を優先するはずだけど、貴方は連携より個人技能が飛びぬけてる」と言って不思議がっていた。
その後も、戦術機動の話し合いになり、結論としてユウヤの動きは複雑で一時的とはいえチームを組むならもう一度、実機訓練を行った方がよい、などと何故かタリサが無理やりまとめる。
そうして、タリサ以外三人は乗り気ではなかったがタリサがCPに掛け合うと「整備が万全でない状況での緊急スクランブル」という特殊なケースの実機訓練がイブラヒムによって許可が出てしまった。
「ゲェ」という顔の三人と「よし」と満足げなタリサが先程の出撃より間が経っていない状態のペイント弾の色を落とした同じ戦術機に乗り演習場へと駆りだした。
その出撃と少し後、ソ連軍の演習が始まった。




そうして、万全に整備されてない状態での出撃で演習中、ソ連側の演習場近くまで来てしまったユウヤ。
もともと誘き寄せる役割でいたためこの付近は比較的広くて良いと思っての行動だった。


『警告、アルゴス1、二時の方角にソ連軍の演習場があります。 直ちに離れてください。』


「―――了解」


(ソ連軍も演習中に……もう訓練中止でいいんじゃないか?)


不味い時に来てしまった、と内心毒吐き冷静に離れようとする。
実際、ここまでやったのだから結果も見ておきたいという試験部隊の思惑もあるし、訓練一つをセッティングするのに大分手間が掛かる。
さらにこの訓練は先程の訓練の延長という名目で特別にやっているのでイブラヒムも途中で止めたくはないと思うだろう。
ユウヤが機体を反転させたその時、ノイズメーカーと光学レーダー、さらにソナー音が咄嗟に、一斉に反応した。
タリサが突撃してきたのだ。
それは別に構わない。
それと同時に現れたレーダーで高速移動する光点がいけなかった。
大方ヴァレリオが同時に奇襲をしかけるためだと思ったのがいけなかったのだろう。
タリサ機を受け流したあとその光点の方角に機体を傾けF15の優秀なFCS(火器管制システム)によってロックオンされた標的を突撃砲で撃った。
丁度、二時の方角から来たそれは見事なくらい見間違いもなくソ連軍の標的機であった。


「―――げぇっ」


思わずカエルのような声が出てしまった。




 「……ねぇクリスカ。 あの人がやったの……?」


「…………うん。 ………そうだよ」


ユウヤのF15-Eを見据えるイーニァとクリスカ。
ユウヤ機は必死に敵でないことと事故だということをアピールするため境界線ギリギリまで行き、手や跳躍ユニットで機体を操っているが取り乱しているのか完璧に煽っているようにしか見えない。
普通にムカつく機動である。


(……あいつ……何者だ!?)


長距離からの高速で飛来する標的機を落としたのだ―――偶然だが。
そして「紅の姉妹」にあのように挑発をしている―――実際、謝っているのだが。
ユウヤ・ブリッジス。
アルゴス試験小隊。


(なるほど、昨日の仲間の仇討ちにでも来たってことか?)


クリスカは勝手にそう解釈した。
クリスカはユウヤにイーニァとの神聖な領域を侵された気分になっていた。
今すぐ奴を撃墜したい気分であるが、そうなるとイーニァに重い負担を掛けてしまう。
クリスカは息を静かに吸い込み心を落ち着かせようとした。


「―――クリスカ、少し貸して」


いきなり、イーニァからそう口が開かれる。
貸してとは操縦のことだとすぐに理解したが何故という気分で一杯になった。
イーニァは普段好戦的などではないのに何故この場ので操縦権を欲しがるのだろう。


「お願い」


そう言われて仕方なくクリスカ操縦権を渡した。
何かあればすぐにクリスカが制御できるようにするのを忘れない。




 Su-37UBが手をブンブンとバイバイするように振っていた。
ユウヤはホッと一息吐いた。
攻撃されたらどうしようかと思ったがこちらの意図は呼んでくれたらしい。
返すように手を振って踵を返す。
戻ろうとしてタリサに回線を繋げると汚い言葉が沢山聞こえてきた。
何とかCP将校と自分の説得、イブラヒムの檄よって止めさせ作戦開始位置まで戻ることにした。
ユウヤは後ろ髪を引かれた。
もう一度振り向いた。
まだ、手を振っているSu-37UBにもう一度手を振って答えた。


「………バイバイ……」




 「………バイバイ……」


「―――??」


微笑みながらそう言うイーニァにクリスカは訳がわからないという顔をした。







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