“神具”。
それは人類が新たに得た道具であり、力である。
“外海”と呼ばれる広大で未開のジャングルが広がった大地に点在する遺跡より発見されたそれは、人類に大きな力を与えた。
神具には“魂獣”と名乗る精霊が宿り、これに認められた者は神具に眠る超能力を得ることが出来るのだ。
魂獣と契約を交わして神具と適応し、所有者となった者は“因使”と呼ばれ、未だ人類の手が及ばない世界を切り開く先駆者となっている。
そして人類は、未だ謎が多い神具と因使の研究をする機関を作り上げた。
これはその1つ“鳳凰学園”での物語である。
一話。学園都市耶馬都。
鳳凰学園は、機関でありながらその名の通り、学園としても機能している。
因使の卵。才能や素質を持っていても心身が未だ未熟な少年少女を広く受け入れ、実戦に耐えれる因使に育て上げるのが鳳凰学園の役割だからだ。
しかし多くはない機関の中でもこの様な方針、神具の研究を半ば捨てて因使の育成に重きを置く場所はここ以外には無いに等しく、その希少性からこの鳳凰学園がある都市は“学園都市”という異名で呼ばれている。
学園都市の名前は“耶馬都”。
外海のジャングルを何代も昔の人々が切り開いて出来た平地にある大都市だ。
都市の周囲には幅広な川が囲むように流れており、外海の危険な生物がやってくることもまずない。
卵とはいえ因使達が密集しているために、外部からの安全はほぼ保障された数ある都市の中でも一際安全な都市である。
そして始めましてこんにちは。僕の名前は“氷翠ムツミ”。。
神具を扱えれば誰でも入学出来ると噂される狭いようで広い鳳凰学園因科に去年入学をして、今年無事に1号生から2号生へと進級出来た学生である。
名前の語呂が悪い、と思われているかも知れないが、氷翠と言う苗字は僕が入っていた孤児院のファミリーネームだからだ。
特徴としては“希少能力”持ちとして既に卒業後、高名な機関に招待をされているということだろうか。
3号生にもなってないというのに将来が約束された、所謂勝ち組という輩の1人だ。
といっても勝ち組にも上には上が居るもので、今目の前で演説を行っている人物がその最上級に位置している“人間”だ。
鳳凰学園の入学式。学園最大のホールには、因使として審査を合格した因使科の生徒と、一般の高校生として試験を合格した普通科の生徒合計2000名弱が集まっている。
関係者を含めれば3000人は居そうな空間の中、気が飛んでしまいそうなほど高い天井の下、緊張感を全く感じさせない雰囲気でその人間は入学生に激励を送っている。
“鳳凰院カナト”。
その男女を問わず魅了する輝くような笑顔から“太陽王子”という愛称を持つ人間だ。
鳳凰学園の理事長の息子であり、学園都市の老若男女からアイドルの様に好かれ、さらには学園の生徒会会長も務めるというトンデモ人間である。
何が凄いかと言うと、全てだ。
竜人、翼人、獣人、魔人、機人、人間という数多の人種が耶馬都に乱れ集う中、最弱の人種である人間。
人間ながら耶馬都のほぼ全ての人種から好かれているという人間性。
鳳凰学園の創立者であり、実質学園都市の実権を握っているとまで言われている鳳凰学園理事長のその息子。
そして、
その権力は教職員にまで及び、学年主任階級でなければ彼等の行動を制限できないとまで言われ、優れた因使である彼等は神具関連のあらゆる案件に介入することが認められており、学園理事会の承認さえ得られれば、現場の指揮権を得る事も可能な鳳凰学園全生徒の頂点に立つ生徒活動統治機構、鳳凰学園生徒会の会長である。
生徒会会長がどれだけ凄いかと言うと、耶馬都市民全員の投票による生徒会メンバーの選挙を勝ち抜いた上で、理事会と教職員の満場一致による認定が不可欠とされているという、おおよそ人類という括りの中で成し遂げれる人物が1人でも居れば奇跡と呼べるような行いを出来た人物しかなれないのが生徒会長だ。
それを人類最弱の人種である人間が成し遂げたという凄まじさ。
もう解ってもらえたと思う。
読み飛ばされることが明らかな文章の羅列の中に含まれる物のおかしさを。
鳳凰院カナトという人物がどれほど勝ち組なことか。
僕と同じ人間だというのに、この差はなんなのだろうか。
もはや、矮小な僕の持つものなんて鳳凰院カナトのどれにも敵わないというのは比べるまでもないことだろう。
敵意を向けることさえ憚れる、競おうとするのがどれほど愚かな行いか。
そして僕自身も鳳凰院カナトのファンだという事実。
自分と同じ人間という種族の可能性をその身体で示し続ける、人間にとっての希望の星なのだ。
学園関係者として、壇上にある暗幕の裏でその勇姿を見れるのは感動物である。
「しっかし……凄い光景だよなぁこれ」
思わず感嘆の声が出る。
小声で言ったわけでもないが、その声はすぐさまは鳳凰院カナトのマイクの声でかき消される。
去年は新入生としてこのホールで既に生徒会長であった鳳凰院カナトを見上げていて分からなかったが、ここまで人種が入り混じった空間というのも珍しいものだ。
さっきも少しだけ言ったがこの世界の人種は6種類。
その中で最も数が多いのが、竜人、翼人、獣人の3種だ。
三大種族と呼ばれるこの3種は、仲が悪い訳でもないが、特に良くもない普通の関係を維持し続けている。
余計なトラブルを呼び込まないためなのかは、歴史に詳しくない僕には判らないことだが、学園都市耶馬都でもこの3種は東西南に住処を分けている。ちなみに北は機人という超希少種族が代表?として立っている。
当然学校も種族別に別れており、その中に他の3種混じる形だ。
だが、この鳳凰学園は入学した生徒全てを公平に扱い、全ての人種を混ぜて公平に扱っている。
それがこの学園の理事長の意向なのだとか。
まぁ因使科は種族が得意としている属性のせいで、クラス分けに多少のへだりがあったりするが。
「……つまらん」
僕の言葉に反応したのか、隣で腕を組み眼を閉じてムッスリとしていた人が言葉少なく口を開く。
彼の名前は“竜胆イツキ”。
両側頭部から生えたまるでクワガタ虫ような大きな角が特徴的な竜人だ。
青龍組の青を基調とした制服に竜人族の文化である和風の袴を穿き、腰には神具である刀を帯びている。
つまらんって……いや、こういう、ただ立って話を聞くだけのイベントは総じてつまらないのは当然と言っていい事だけど。
まぁ、僕も退屈なのは否めない。
けれどこう突っ立ってるのも立派な仕事の内なのだ。
僕と隣の彼、竜胆イツキ君は今日のこの入学式の警備の1人としてこの場に居る。
それぞれ別口からの依頼ではあるが、その依頼人はあの鳳凰院カナトである。
正直に言って、生粋の因使でもある学園長と理事長に加え、因使科教師陣に優秀な因使でもある生徒会5名がこの場に居るのに僕達が必要なのか、と思ったりする訳だけど。
今ここで暴れようとする奴が居たらそれは自殺志願者と言っていいだろう。
なので、今日一日立っているだけで真面目に働いてる人に対して申し訳無くなるような報酬が貰える裏には、別の意図が含まれているのだろう。
警備だというのに暗幕の後で、裏方に徹しさせているのもそう感じさせる。
大方、竜胆イツキ君とその仲間達に「勝手な真似はするな」と、この学園の戦力を見せ付けての忠告と言ったあたりか。
僕は関係はないだ、竜胆イツキ君達と絡んでいることがあるので一応の忠告なのだと思いたい。
「僕もつまらないですよ。なんで僕の隣に居るのがカリンさんじゃなくてイツキ君なんだか」
「リーダーは別の依頼があったので今はコウヤ殿と耶馬都の外だ」
「……あぁ、お金が絡んでなかったらコウヤさんと代わってもらいたかった」
「リーダーに色目を使うな」
「いや僕、シヅカさんが好きなんで。野郎と居るより女性と居た方が建設的だって話ですよ」言って、演説の終えた生徒会長の隣に居る副会長を見ると目が合った。そしてすぐにツンと逸らされた。
会話している内に理事長の話が済み、学園長のとても短い言葉で入学式が終わりを迎えた。
ガヤガヤと一気にホール内が騒がしくなり始め、潮が引くように人が出口へと消えていく。
後は各々の学科とクラスで事が行われるので、警備の仕事はこれで終わりだろう。
思ってはいたが、本当に何も無かった。
これでお金が貰えるなんて本当にいいのだろうか。いや、遠慮はしないのだけれど。
勝手に帰るわけにもいかずしばらく2人でじっとしていると、後片付けが済んだのか今回の依頼人である鳳凰院カナトが生徒会副会長と庶務を侍らせて僕達へとやってくる。
「今日はとても助かったよ。氷翠ムツミ君。ありがとう」
甘いマスクという表現が似合う顔で、実際に光を発していそうなほどの輝く笑顔と白い歯を見せ付けて、鳳凰院カナトさんが手を差し出してくる。
まるで今日の依頼に裏なんて無かったと言わんばかりのその笑顔に惹かれるようにして、僕も手を差し出し重ね合わせる。
握手により握られた手には、ガッシリとした重圧と慈しむような優しさが内包されており、変な表現だが極上の握手という言葉が頭に浮かんでくる。
うっひょうもう手洗えねぇ! と内心思ったりしてる辺り、僕も立派なカナトファンなんだなぁと実感。
「竜胆イツキ君も。カリンさんとコウヤ君にも、よろしくと伝えておいてくれたら嬉しいよ」
カナトさんはイツキ君に向き直って握手を交わす。
笑顔のカナトさんと比べて後ろの2人はキツイ表情を浮かべているのがとても印象的だ。
副会長にはツンと顔を逸らされ、庶務には歯軋りが聞こえてきそうなほど睨まれる。うわぁ。
僕が何をしたというのだろうか。
副会長は仕方ないとして、庶務の方には接点が同学年ぐらいしかないのだけれど。
そうして答えも出ないまま「報酬は今日にでも部屋に届けさせておくから」とカナトさんが言い残して生徒会の面子はホールを去っていった。
「僕、庶務の人に何かしましたっけ。シヅカさんに顔を逸らされるのは慣れてますが」
「さあな。副会長からお前の話でも聞いたんじゃないのか」
「……イツキ君は睨まれました?」
「いや、私は視線は感じなかったが」
「なんだか、そんな気もしてきますね」
「なにしろ公衆の面前で告白したからな。しかも大声でな」
「好意を持っていると速く伝えておくのは大事な事ですよ。ええ」
「そうして平手打ちをされたな」
「痛かったですね。あれで更に惹かれたわけですけど」
「……」
△▽
作品的に少し古いですがゼクスファクターの二次を書かせていただきます。
設定のほうは公式のゼクスファクターページに書かれているのを使います。
読み。
“神具”アーティファクト
“外海”げかい
“魂獣”スピリッツ
“因使”ファクター
“耶馬都”やまと
“氷翠”ひすい