【 補足 】
※ 講堂で爆睡中のヒイラギ横で遣り取りされていたキリュウ視点の裏話です。
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午後からある実習の説明が終わり、続々と生徒達が講堂を後にする中、俺は席を立たずそのままでいた。
チラリと隣に視線を遣ると朝から机に伏せったまま爆睡をしているヒイラギの姿が視界に入る。……間抜けさを惜しみなく出された、だがとても幸せそうな寝顔だ。
「……いと…………うどん……」
「………………」
……それは最早素麺ではないのか。
こいつは相変わらず夢の中で何かを食べているようだが、決まって聞いたこともない細い麺ばかりらしい。
涎が垂れかけているそいつの頭を何となしに撫でる。
寝癖でビヨビヨとあちこちに跳ねた髪だが、触ると指通り良くサラリと零れ落ちた。どうやら寝癖は寝相というより髪質によるものらしい……それはとても柔らかかった。
「――――おーおー、まさかお前のそんな姿を目にする日が来るとはなぁ」
思わずそのまま指で髪を遊ばせていたら不意に声が掛けられた。その聞き覚えのある声に思わず眉根が寄る。
「……何の用だ」
肩越しに振り返ると頭に描いた通りのいけ好かない笑みを浮かべている担任の姿があった。
俺が目を細めるとその男はニヤリと笑い、次いでヒイラギへと視線を落とす。
「……やっぱりそいつか。相手がひよっ子学生とはいえ、流石堕ちなかっただけはあるが」
先程まで俺に向けていた表情は何処へやら、彼女に向ける表情は苦いものであった。
……そういえば保健室の前で賭けがどうのこうのと言っていた気がする。恐らく彼女のおかげで負けたのだろう。良い気味だ。
「成績は最下位のくせに悪魔を蹴り飛ばすわ、空間魔法使うわ……一体何者だ?」
「……」
蹴り飛ばしたのか。…………あぁ、そういや保健室で蹴り上げられかけたし、教室でも手が出ていたな。いずれも未遂ではあったが。
思わず隣で寝こけているパートナーを見る。無害そうな顔で暢気に寝息を立てている彼女は案外手が早いらしい。
「……その様子じゃお前も何も知らないようだな……知りたくはないか?」
「…………何が言いたい」
意味深な目の前の男の言葉に眉根を寄せる。
男はニヤリと笑い一枚の小さな紙____通行手形を差し出してきた。
「今、二枚共お前が持ってるんだろ?――――貸せ。これをやる」
そう言いながら俺の目の前でそれをヒラヒラとさせる男。それを見て益々眉間の皺を深める。
恐らくアレの行き先はそこそこ危険な場所だ。ヒイラギを追い込んで正体を暴かせるという魂胆なのだろう……この男の考えそうな事だ。
「何者か知りたいんだろ?だったらこれを使え。……危険になればお前が助ければ良い」
確かに危険に面しても彼女を助けられる自信はあった。癪だが正体を知りたいのも事実である。
「……」
チラリと見下ろせば当の本人は我関せずと眠りの世界を漂っている。……出来れば危険な目には合わせたくない。
…………だが__
「何者か分かったら報告しろよ」
「……」
俺はそれを受け取った。
代わりに持っていた通行手形を渡す。そんな俺の様子に男はまたニヤリと笑い、空間魔法を使って何処かへ移動していった。煩い奴が消えた事で辺りを静寂が包む。
奴に調べられるくらいなら自分で調べた方が良い……勿論正体を知った所で報告するつもりは毛頭ないが。
柔らかで指通りの良い髪をもう一度梳く。彼女はまだ目覚める様子はない。
____誰が渡すか。
俺は手の中の紙切れを睨むように見た後、懐へと仕舞った。