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No.30663の一覧
[0] BREAK-AGE GUNDAM(短編)[車道](2011/11/26 21:45)
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[30663] BREAK-AGE GUNDAM(短編)
Name: 車道◆9aea2a08 ID:47d8557d
Date: 2011/11/26 21:45
──ヘルメット、シートベルトを着用してください。
──着用なき場合、すべての操縦システムは作動しません。

 そんな声に従い、コクピットシートに着席した俺は少しの間、目を閉じる。
 次に聞こえてくるのは、今回の戦場がどの惑星でどんな環境かの説明だが、そんなものは前もってわかっているので軽く聞き流す。

──制限時間は30分です。
──Good Luck!

 そして、目を開けた俺の目に写るのは筐体内に設置されたモニターに映し出された荒野の景色。
 外宇宙にある0.9Gの惑星だとのことだが、その辺りはどうでもいい。
 重要なのは、この惑星で自分が乗って動かしているのがテレビアニメーション『機動戦士ガンダム』に登場したモビルスーツMS、ザクだという事実だけ。
 もちろん、俺が実際に人型ロボットに乗って動かしているというわけではない。
 というか、人型の巨大兵器などというものは現実には実用化などされていないし、それがアニメのロボットだといえば尚更だ。
 では、何をやっているのかと言えば、一言で言ってしまえばゲームであった。

 デンジャープラネットDPというゲームがある。
 2002年にアミューズメントパークに設置された、他店とのリアルタイム通信対戦を可能にし、バーチャル・パペットVPと呼ばれるユーザーの手で編集可能なロボットのデータを使用して行われる戦闘シミュレーションゲームだ。
 自らの手で改造や自作をしたVPを動かせるというのが受けたのだろう、ユーザーの熱狂的な支持により2009年にはシリーズは四作目を迎え、もはや若者の日常にはなくてはならない遊戯にまでなっていた。
 そして、そこまでのゲームであればサードパーティーに参加しようという企業も少なくはなく、2011年には、ついに株式会社バンダイがこれに参加してきた。
 そうしてバンダイから発売されたのが、ガンダムシリーズのMSのデザインがされたVP。
 俺が乗っているザクは、そのバンダイから発売されたVPの第一弾であり、子供の頃はプラモデルを買って組み立てていた世代であるから感動もひとしおである。

 筐体内のレバーを操作すると、それに合わせてモニターの景色が動き、同時に筐体を包む外殻であるコクピットシェルに内臓された油圧駆動系統がコクピットを揺らし、まさに自分が人型兵器に乗っているような錯覚までも、もたらしてくれる。

「すばらしい……」
「そう?」

 思わずといった感じで口から出た言葉に答えが返ってきて一瞬驚いたが、思い返してみれば俺は一人でこのゲームをやりに来たわけではない。
 レバーを操作しVPの首を動かしモニタに映る視界を動かせば、俺が操るザクの前方に黒い人型ロボット──イーディスというVPメーカーから二年前に発売された鴉を少しだけ改造したVPが見えた。
 このゲームには、ストーリーモードと任意の人数による対戦モードと乱入自由のバトルロイヤルモードがあるのだが、実はDPをやるのは今日が初めての初心者である俺では乱入上等のバトルロイヤルはもちろんストーリーモードですらすぐにやられてしまいそうなので、まずは操縦方法を覚えるためにDP歴二年の経験者に頼み込んで対戦モードをやろうと考えたわけで、つまりは鴉を動かしているのは俺に付き合ってくれているDPの先輩ということになる。
 のだが、残念ながら彼女はガンダムに興味がないので、俺の感慨を理解してくれない。

「何か文句でも?」
「ないけど。人がわざわざ付き合ってあげてるんだから、ボーっとしてないでもっと色々やればいいのに」
「ほっといてくれよ。これでも、俺なりに楽しんでるんだから」
「あたしが、つまんないのよ。それじゃあ」

 言葉に合わせて、VPに地団駄を踏ませたりして器用なものだと感心する。
 そして、確かに人が操作に慣れるまで何もせずに黙って見ているというのは退屈だろうとは思うが、言わせっぱなしにする気もない。

「そういう約束だろ」
「そうだけど……」

 子供っぽくVPに上目遣いの仕草をさせる鴉のパイロットは、実際に俺よりも年下の少女である。

「帰りに、ケーキでも買ってやるから我慢してくれ」
「……うん」

 不承不承といった感じの声でVPの首を頷かせた少女に、ほっと胸を撫で下ろした俺は鴉から視線を外しザクの操縦に集中する。
 このザクというVPは、元の『機動戦士ガンダム』というアニメでは主に主人公の乗る機体に倒されるだけの雑魚として使われていたMSだけに、その性能は高くない。
 そこまで忠実にしなくてもと思ったユーザーは少なくなかったらしいが、実はこれには切実な理由がある。
 このDPというゲームには、使用されるVPは理論上は現実に転用可能な技術で作られていなければマスターシステムに弾かれてしまうという仕様がある。
 あくまで理論上の話であり本当に現実に転用可能かといえば専門家などは無理だと首を振るのであろうが、それはともかく現実に即した技術でなければ使えないという仕様はアニメのロボットをVPにするためには大きな壁になった。
 なにしろ『機動戦士ガンダム』のMSは、いわゆるスーパーロボットほど現実的でない設定は使われていないが、それでも核融合炉を積んでいたり、サイコミュというファンタジーな装置が積んであったりと無茶な設定がある。
 それを忠実に再現するのは不可能だし、デザインだけを使って中身を別物にするにしても、現実に可能な技術が使われていなければならないということは、VPは簡単な改造程度ならともかく製作には工学知識が必要になってくる代物で、新規参入のメーカーが高性能な機体を作るのは難しい。
 いや、外注すればそれなりの性能のVPを販売することも可能ではあるが、『機動戦士ガンダム』に限らずロボットアニメの機体には性能差が設定されている場合が多いという問題もある。
 その設定を主人公機のガンダムと初期の敵MSであるザクに忠実に当てはめようとすれば、ガンダムの性能を高く設定するかザクの性能を低く設定するしかないわけで、しかし外注で言うほどに高性能なVPが用意できるはずもなく、結局はザクの性能を無意味に下げるしかないという間抜けな結論が出てしまった。
 ところが、性能が低すぎるVPではゲームが成立しないし、わざわざ対戦で勝てないVPを買おうと考えるユーザーも少ない。
 ついでにいえば、改造に慣れたユーザーなら外装だけをそのままに別物にしてしまうこともできてしまうわけで、メーカーの方が性能を低く設定しても、あまり意味がない。
 というか、実際のところ自作VPを作れるユーザーなら外装をMSに似せたVPを作ることすら不可能ではない。
 それをやらないのは単純に版権に引っかかるからで、著作権を持ったメーカーから発売された製品の改造は禁止されていない以上、低い性能で発売しても大した意味はないのである。
 そこでバンダイが考えたのは、自分たちにVP製作のノウハウがないことを逆利用することであった。
 新規参入のメーカーが、簡単に高性能のVPを作れる道理はない。
 ならば、高性能のVPを作れる技術のない初期は設定上で性能の低いMSを作り、後期には技術力を高め同時に才能のある人員を雇い入れて高性能なMSを模したVPを作ればいいのである。
 幸いというか、DPは毎年サマーグランプリバトルという大会が開かれており、それの全国大会に出場するようなユーザーには、高レベルでVPの自作や改造を可能とした者が多い。
 優勝者ともなると主催者であるコニー社に持っていかれてしまうが、大会出場者には他にも実力者はいるわけで、そういう人間をスカウトしていけば上手くいくに違いない。
 版権を気にしないでガンダムのVPを作れるとなれば、喜んで入社するものもいるだろうし。
 そんなわけで、まずDPを開発する子会社を設立したバンダイが最初に発売したVPがザクであり、当然の帰結として微妙な性能になったというわけである。

 以上、ネットで見た真偽のわからない知識。

「大体、発売されているモビルスーツの性能が低くてガッカリしてるのはDPのヘビーユーザーくらいのものだしな」

 ひとりごち、自分は違うんだと誰に向けたかわからない自己主張の後、ザクを歩かせたりその辺の岩にマシンガンの銃口を向けてみたりする。
 思った以上に楽しいな、これ。
 しかし、マシンガンとは武器であり、それを装備しているからには試し撃ちしてみたくなるのが人情。
 不覚にも、改造エアガンで通行人を撃って新聞に載る少年の気持ちがわかってしまった。
 まあ、だからと言ってリアルでそんなことをやる気はないが、DPはそれが目的と言っていいゲームなので、ここでやってみるのはかまわないはずである。

「狙い撃つぜ! とか言ってみたいな」
「中二病臭いよ。それ」

 なんで、そうなる?

「ちょっとアニメのキャラのセリフを真似たら、中二病なのか?」
「うん」

 断言されてしまった……。
 ……ああ、空が青いな。
 どっか地球外の惑星って設定なのに、青い空はどこまでも続いていて不思議な感じだ。
 なんとはなしに見上げていると、青空にキラリと光る何か。

「なんだ? 鳥か? 飛行機か?」
「ミサイルよ!」

 叫ぶと同時に、鴉の手にあるマシンガンが火を吹き、飛んできた幾つものミサイルを爆散させる。

「えっと、つまり攻撃を受けてるのか」
「そうっ!!」

 言いながらなおもミサイルを撃ち落しているが、全部を落せはしなかったらしい。
 飛んできた一発が、俺というか俺のVPに当たり、左腕を爆散させる。

「うおっ!? シールドで受けたのに」
「そんな盾で防げるわけないでしょ!」

 もっともだ。俺も、ザクの左肩に付属したシールドには意味がないんじゃないかと前々から常々思っていたんだが、あるからには一度使ってみたくなるのが人情というもの。
 それに、盾で防がなければ全損だっただろうし、まったく意味がなかったわけでもない。
 盾で受けたりしないで、避ければノーダメージだったんだろうけど。
 それはともかく、攻撃を受けたからにはやるべきことは一つだな。

「逃げるぞ!」
「どこに!?」
「敵がいないところなら、どこでもいい」
「ないわよ、そんなの。バトルロイヤルはフィールド全体が戦場なんだから」
「ふざけるな! それなら、どうしてバトルロイヤルなんだよ。俺、言ったよな。対戦モードでやろうって言ったよな」
「そんなの嫌に決まってるでしょ。30分も操縦の練習だけしてても飽きるに決まってるじゃない」

 確かに、そう言われて納得したのも俺だ。
 それでも、始めてすぐに初心者狩りにあったら困るということで出した妥協案が鴉に護衛をしてもらうことだったわけだが、改めて考えてみると護衛とか無意味な気がしてならない。

「とにかく、あたしは攻撃してきた奴を倒しに行くから、そこで持ってて」

 言い残して飛び去っていく鴉だが、この場合は俺はどう行動するべきだろうか。
 援護に向かう?
 うん、無理だ。
 バトルロイヤルで獲物を探し回ってる相手にノービスが立ち向かうとか、足手まとい以前に味方に誤射すらありえる。
 となると、言われたとおりに待ってるのが一番だな。
 そう思った瞬間に、鴉が飛んで行った方向に火柱が立って爆音が聞こえてきた。
 もう倒したのか、早いなー。と感心していたら、やってきたのは見覚えのない六機のVP。
 負けたのか……。
 ひょっとしたら、こいつらの仲間と交戦中とかの可能性もあるが、どちらにしても俺の現状には関係ない。

 などと考えている間にも、やってきたVPの一機が撃ってきたので緊急回避。
 しようとして、バランスを崩して引っくり返る。
 ノービス+低スペックVPには、この程度の醜態を晒すことは造作もない。
 そして衝撃。
 真っ先にメインカメラが壊れたらしく、モニターが真っ白になった後に銃の乱射を受けてるのだろう震動を受け、そしてGAME OVERの文字が表示される。



「15分で全損か」

 時計を見れば、DPを始めてからの時間は丁度半分。
 このゲームはVPが破壊されても制限時間内は遊べるのだが、VPのデータの入ったMOにはゲーム中の破損も記録される仕様になっているために全損した場合、自宅のPCで修理するかデータを初期化するかしなくては同じVPでは再開できない。
 同じVPのデータが入ったMOを複数持って来ていれば即座に再開もできるのだろうが、持っていない。
 まあ、再開したところで、さっきのVP六機に即座にやられるだけだろうと考えれば続ける気にもならないが。

「となれば、この辺で終了しとくか」

 ザクに乗り操縦するという目的は果たしたのであるから、特に不満もない。
 そんなわけで、筐体から出た俺は店内に設置されている大型モニターを見上げる。
 多人数参加型のオンラインゲームであるバトルロイヤルは、DPで一番人気なモードなのもあって、その様子が店内のモニターに映される。
 なので、俺のザクを大破させたVPの姿も映っているはずだよなと思っていると隣から甲高い声が聞こえてきた。

「あー、もうムカつく」
「ん? 芽衣子も出てきたのか」
「全損したもん」

 俺の問いかけに、プイッと顔を背ける中学生女子15歳。

「大体、あいつら汚いのよ。ポイント稼ぎにノービスを狙って六人がかりとか、マナー違反じゃない!」

 プリプリと怒る芽衣子の言葉は正論に聞こえるが、ルールに違反していないのなら問題ないと感じてしまうのは、俺が良い意味でも悪い意味でも大人だからだろうか。
 俺としても、ああいう輩が幅を利かしているのなら二度とバトルロイヤルに参加しようとは思えないが、次にやる時はストーリーモードにするつもりなので関係がない。
 もっとも、そんな俺の事情こそ芽衣子には関係がない。
 毎日のように通いDPのバトルロイヤルに参加しているこの娘には、あの六機は許しがたい存在なのであろう。
 となれば、迂闊なことを言って機嫌を損ねるのも考えものである。
 さて、どうしたものかね。

「あっ」
「え?」

 急に上がった芽衣子の声には喜色が混じっていて、どうしたものかと思う。

「ゲーセン番長よ!」

 なんだそりゃ。

「ノービス狙いのマナーの悪い奴らを逆にやっつけてる人たちよ。昔は二人だったんだけど、最近は三人になって復帰してきたの」

 ほほうとモニターを見れば、芽衣子のとは違い改造をしていないノーマルの鴉と他に、ボルゾイだったかな、そんな名前だったはずのVPとカウボーイみたいな造形のVPの三機が、俺たちを墜とした六機をあっさりと墜としていく。
 六機の発砲した弾丸やミサイルは三機のVPにはかすりもせず、三機の攻撃は牽制のための無駄玉すら必要とせずに相対する敵を倒すのだ。
 三対六で容易く圧勝するとか、俺なんかとはレベルが違う感じである。

「って、復帰?」
「うん。何年かいなくなってたんだって」

 本人も詳しくは知らないっぽい言い方だな。
 人数は違うし、何年も前にいたゲーセン番長とやらが鴉を使っていたはずもないから、本当に本人なのかという辺りに疑問の余地がありそうだが、やっていることが同じなら周囲の人間には関係ない。
 だから、俺がここで言うべき言葉は決まっている。

「ああいう人たちがいるのなら、またバトルロイヤルをやってみるのもいいかもな」

 実際には、社会人である俺にはDPをやるような暇は少なく、ましてやバトルロイヤルなどをやることはないのだろうが、芽衣子の機嫌を取るにはこう言っておいて間違いはないはずだ。
 しかして芽衣子はニッコリ笑ってこう答えた。

「うん。それでね、あたしも強くなったらあの人たちと同じ事をやるんだ」

 誇らしげに言う芽衣子の顔は満面の笑みで、中学三年生女子の目標としてはどうなのかとも思う。

「だから、スポンサー様にはいっぱい投資してほしいな」
「断る」

 甘えるように、俺の腕を抱く芽衣子に冷たく言ってやる。

「ぶー。なんでー?」
「お前に新しいパソコンを買ってやっただけでも、母さんには冷たい目で見られてるんだ。これ以上の金を出したらどれだけ怒られるか想像もつかん」
「なによ。VPのカスタムには古いパソコンのスペックじゃ限界だったんだからしょうがないじゃない。それに、今日は付き合ってあげたでしょ。お父さんのヘタレ!」
「ヘタレで結構、そろそろ帰るぞ。ケーキ買ってやるから」

 娘と一緒に、ゲームセンターに行くと言っただけで冷たい目をしてくれた妻のことである。
 その交換条件が新しいパソコンな上に、帰るのが遅くなったとなれば機嫌が悪くなることは目に見えている。
 そして、それは流石に芽衣子もわかっているので、歩き出した俺に不満顔になりながらもついてくる。

「ねえ」
「なんだ」
「また、来ようね」
「友達とくればいいだろ」
「それはそれ。これはこれ」
「で? 次は何が欲しいんだ?」

 言ってやると、芽衣子は笑って誤魔化そうとする。
 つまり、そういうことだ。
 他の目的なくして、父親と遊びに出かけようと考える娘はいない。
 そうでなくて、今時の中学生が親と遊びに行きたがることなどないと理解していても寂しい話である。
 もっとも、わかっていても娘に甘えられると弱いのが父親というものなのだが。

「今度、イーディスから発売される複座式のVPが欲しいなって」

 中学生の女の子が欲しがるものがそれか?
 いや、女の子らしい持ち物のことなんか父親には話したくないから、そっちは自分のお小遣いで買うつもりで俺にはVPをおねだりしているのかもしれんが。

「わかった。けど、ちゃんと勉強もしろよ」
「はーい」

 まったく信用できそうにない言葉を聞きながら帰路につく俺は、パソコンの時のようにこれからもおねだりをされるたびに色々買ってやることになる未来の自分を幻視していた。



 余談ではあるが、その後、芽衣子と何度となくアミューズメントパークを訪れた俺は、いつしかDPにすっかりドハマリして妻はもちろん娘にも呆れられる事になるのであるが、今の俺は知るよしもなかった。



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BREAK-AGEって現代物ならどんな作品とでもクロスできそうな作品ですよね(チラッ
登場人物がゲームセンターでよく遊んでるゲームって設定にすればいいだけですからね(チラッ
誰か書いてくれないかなー(チラッ


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