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No.30610の一覧
[0] 【習作】ZガンダムにニュータイプLv9の元一般人を放りこんでみる[ア、アッシマーがぁぁ!!](2011/11/21 17:15)
[1] 2話[ア、アッシマーがぁぁ!!](2012/02/24 23:53)
[2] 3話[ア、アッシマーがぁぁ!!](2012/02/25 00:39)
[3] 4話[ア、アッシマーがぁぁ!!](2012/03/22 02:04)
[4] 5話[ア、アッシマーがぁぁ!!](2012/05/10 05:57)
[5] 6話[ア、アッシマーがぁぁ!!](2012/05/26 06:30)
[6] 7話[ア、アッシマーがぁぁ!!](2012/06/07 06:44)
[7] ※お知らせ※  10/23 別板移行[ア、アッシマーがぁぁ!!](2012/10/23 11:02)
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[30610] 4話
Name: ア、アッシマーがぁぁ!!◆a9b17cc5 ID:59a343e1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/22 02:04
―――――――――。

「……まただ、また聞こえる。何処から――誰なんだ?」

声が聞こえる。どこか、とても遠くから。
漠然として、それが本当に人の声なのかも不確かな物である。
しかしそれは不快ではなく、もっとよく聞かなければ、と引き込まれる様な不思議な響きだ。
カミーユ・ビダンは、数日ほど前から時折覚えるようになったこの奇妙な感覚を、今この瞬間に感じていた。

「カミーユ、なにをブツブツ言ってるの?」

エレカのハンドルを握るカミーユの横から、幼馴染のファ・ユイリィが胡散な視線を送ってくる。
"声"を聞くのを邪魔されて、カミーユは態とファの話が聞こえないフリをした。
この幼馴染のお節介には辟易しているのだ、前からずっと。

「一人で喋って、気持ち悪いわよ」
「うるさいな。だったら初めから付いてこなければいいんだ」

今日は、元ホワイトベース艦長ブライト・ノアの乗艦であるテンプテーションがグリーン・ノアに着く日なのである。
それを事前から知っていたカミーユは、彼に会おうとわざわざ部活の練習をサボってまでドックベイへと向かっているのだ。
それを目ざとく見付けたファが、半ば強引に付いてきて今に至る。

「ちょっと、やめなさいよ。その癖」

イライラと爪を噛むカミーユに、ファが叱責した。
自分が苛立っている原因は、ファのその喧しさだと何故分からないのか、とカミーユは思った。
さっきだってそうだ。あと少しで、あの声がどんなものか解ったかもしれないのに。

カミーユ達の乗るエレカは住宅街を通り過ぎ、林を抜けながらリニア・カーの乗車口に辿り着いた。
入り口にエレカを停めたカミーユは、入り口から続くエスカレーターを駆け下りながらリニア・カーへと跳び乗った。

「急いで港まで!」
「たった30秒の事じゃないの」

『カウントダウンを省略します』という電子音声と共に、ファが呆れたように言い放った。
そんな煩わしい遣り取りよりも、発信したリニア・カーの窓から見える宇宙空間の方がカミーユにとっては重要な事だった。
コロニーの外側を走るリニア・カーのサンバイザー越しに、星々が猛烈な勢いで通り過ぎていく。
カミーユは、昔からこの景色が堪らなく好きだった。

宇宙ソラか―――ん?)

カミーユの目に、漆黒の宇宙空間に浮かぶ四つの光が映った。
目視できる距離では到底なかったが、カミーユにはそれが直感的にモビルスーツではないかと思えた。

―――――ユ。

「まただ……!」

声が聞こえる。今度は前より近く、鮮明に。
何を言っているかはまるで解らない。だが、微かに聞こえたそれは、間違いなく少女のそれであった。
カミーユは四つの光が見えなくなるまで、食入いるようにそれを目で追い続けた。






ジェリド・メサはその日、後から着く同僚を出迎えに空港へと訪れていた。
ハッチから降りてくるティターンズのメンバーに、素っ気なくない程度に挨拶を交わすジェリドの意識は、明後日の方に向かっていた。
休暇に街に出た時に出会った、あの少女のことがどうしても頭から離れない。
ジェリド自身どうかしていると思わずにいられないが、それでもふと気づくとあの真っ白い少女の姿を思い出している自分がいた。

「カミーユっ、会えやしないわよ!」
「うるさいな!」

リニア・カーの乗降口から、なにやら姦しい声が聞こえてくる。

(……カミーユ、ね)

リニア・カーから降りてきたらしい乗客の名前に、つい意識が傾く。
なるほど、あの端正な容姿の少女に、さも似合いそうな名前だ。
ジェリドが声の方向に目を向けると、そこには一組の男女が出口から出てくる所だった。
カミーユ、と呼んでいたのは女の方だ、つまりは。

「なんだ、男か」

なんの悪気があった訳ではない、無意識に零れ落ちた言葉だった。
不用意だったか、と少しバツが悪い気分になる。とはいえ向こうは所詮、民間人だ。
何もなかった様に視線を少年から離し、先程から物資の搬入をチェックするエマ中尉の方へと向かおうとした時であった。

「いけませんかっ!カミーユが男の名前では」
「いや、美しい少年だったものだから…」

なにやら剣呑な視線を送りながら近づいて来る少年に、鬱陶しいと思いながらも弁解をする。
まさかティターンズの制服を着ている自分に絡んでくるとは思わなかったが、自分にも非があったとジェリドは自分を抑えた。
見れば相手はハイスクールに通っていそうな年頃だ。
ここは自分が大人の対応をとって、お引取り願おう。そう思った次の瞬間だった。

「なめるなっ、俺は男だよ!!」

少年の拳が、ジェリドの顎先へと鋭く突き刺さった。










『行くぞ、ガンダムMK-Ⅱを捕獲する!』

あれからしばらくして、偵察から戻ってきたクワトロ大尉とコロニーへと侵入する。
ロベルトのリックディアスが構えるバズーカから吐き出された砲弾がコロニーの壁に穴をあけ、そこから中に進む。
なんていうか……やってることが押し入り強盗のそれな気がして仕方ないんだけど。
市街地でMSの飛行訓練なんてやっちゃうティターンズも相当アレなんだろうけど。一般市民は大迷惑だよな、これ……

『各員、コロニーへの損害を考慮に入れて戦闘を行え。この作戦の目的があくまでMK-Ⅱを手に入れる事だということを忘るな』

大尉からの通信に、待機中に緩みきった神経を締め直す。
そ、そういや俺ってばまともな戦闘って大尉にぶっとばされたアレしかやってないんだよな、今更だけど。
なるべく考えないようにしてたけど、今になってちょっと緊張してきやがった。
うおお!敵はどこだ!!(錯乱
などどアホな事を考えていると、前方から何か近づいて来るのが感じられた。

「敵機っ、シャア!」
『なに―――っ、こちらでも確認した。ええい、ガンダムの所在を掴まんうちに!』

反射的に叫ぶ俺に、遅れてレーダーが連邦軍の機体を補足する。
しかし、今のは一体何なのやら。殺気というか、敵意みたいなものが機体の装甲の向こう側から襲ってきたのだ。
シックスセンス的な感覚というかなんというか……な、何か本当に人外染みてきてないか俺?
施設で寝てる間に改造とかされてたんだろうか。やめろショッカー!

接近するジムⅡの部隊を視界にいれながら、グリップを強く握る。
そういやカミーユって今頃どうしてるんだったか…?







ジムの部隊から放たれるビームの射線から逃れながら、クワトロはリックディアスにビームピストルを構えさせる。
無闇矢鱈と発砲されるそれを掻い潜りながら、リックディアスが放った閃光に一機のジムが貫かれ、火をあげながら墜落した。
しかし、数で勝る連邦部隊は落ちた機体の穴を埋める様に密集し、再びクワトロの機体へと火線を集中する。
コロニーへの被害などまるで考えないその戦い方に、クワトロは舌打ちをした。

「連邦軍は、何時になったら此処が地球と地続きでないことが解るのだ!」

不用意な機動をとるジムⅡへと向けて放ったビームが機体の頭部を撃ち抜き、また一機が落ちる。
全天周囲モニターの後方に映る、二機のディアスと並行するようにしながら戦う白いジム・クゥエルを見る。

「……なるほど、いい動きだ」

ナナの操縦には、アポリーやロベルトのような実戦での経験に裏打ちされた巧みな技術はない。
しかし自分の機体の背後や上空。パイロットの死角になりうる場所にいる敵機を、逃すことなく照準に収めている。
先程の敵の存在を逸早く確認する感覚といい、あの少女はクワトロの想定するよりも遥かに早くニュータイプとしての能力を開花させている。

「まるでガンダム、だな」

クワトロ―――否。シャアは誰に知られることもない、複雑な心境を口に漏らした。
拙さこそあれど、背中に目がついてるとでも表現できそうなあの動きは、シャアの脳裏に一年戦争でのRX-78の存在をちらつかせる。
アムロ・レイの代わり。ヘンケンを黙らせる方便に利用したそれが、事実となって自分の業を責め立てている様な気分になる。
ナナの成長した先がアムロと同じなのならば、やはり自分とは袂を分かつ事になるのか。
ララァを失った時のあの損失感。あれを再び味わうというのならば、それはシャアにとって耐え難い苦痛になるだろう。

「考えても詮のない事なのだろうな――――なにっ!?」

驚愕するクワトロが見たのは、バーニアから黒い煙を上げながら地に落ちていくジム・クェエルの姿だった。








前に後ろにとワラワラと敵が沸いてくる。
アポリー、ロベルトも難なく敵機を落としてるんだが、いかんせん数が多い。
前から飛んでくる敵の撃ち漏らしが、上に後ろにと展開し、容赦なく責め立ててくる。

『編隊を崩すなよ、正面にでなけりゃ、そうそう当たるもんじゃない!』

通信機からロベルトの忠告が聞こえてくるが、こっちはそれどころじゃない。
いや、なんか俺のとこだけやたら攻撃が集中してる気がするんですけど!?
アレか、リックディアスなんて新型のなかに一機だけジムが紛れ込んでるからカモだと思われたのか!?
間違ってないけどね!!

「鬱陶、しい――!」

小刻みにスラスターを吹かしながら、ビームの火線を最小限の動きで躱す。
大尉のディアスに追従しながらの機動戦。足を止める訳にもいかないから飛びながら攻撃するしかない。
機体が軽い分、小回りが効くクゥエルを360°回転させながら敵のジムⅡに照準を合わせる。
流石に無茶な動きのせいで、撃ったビームはジムの足やら腕やらとしょっぱい当たり方しかしないが、とりあえず戦果はでている。
ビームを潜りながらの機動。イメージするのはラフレシアの触手を避けるF91。
うおおお、燃えろ俺の小宇宙!今の俺はシーブックだ!イメージの中では!!なんとぉぉぉぉぉぉ!!!
―――――ボンッ!

「………ぼん?」

とりあえずモチベーションだけはMAXの俺の耳に、なにやら不穏な音が届いた。
もはや超感覚といっても過言ではない俺の感覚が警報をならしている。
最高に嫌な予感を感じながら自分の機体を確認すると、背中のバーニアが黒い煙を吐いていた。
……うん。調子に乗りすぎて吹かしすぎたんだな、これ。
俺の乗るジムは、虚しくこの仮初の大地へと堕ちて行くのであった。







「俺のハイザックが出せない!?どういうことだ!」
『で、ですから中尉の機体はまだ組立が終わってないんですよ!」

顎の痛みを堪えながら、ジェリドは基地施設の通信機に向かって怒鳴りつけた。
ガンダムMK-Ⅱの飛行訓練中に、機体を基地に墜落させるという大ポカをやらかして冷や汗を掻くジェリドは、突如鳴り響く警報に我に返った。
通信で整備班に自分の愛機を用意するように連絡するも、帰ってきた返事は「否」の言葉だけだった。

「このクソ忙しい時に……お前ら何やってたんだ!」
『後続部隊が就いた後、アレキサンドリアの搭載機は全部オーバーホールに回されてたじゃないですか!中尉だって一緒に調整してたでしょう!?』

通信越しとはいえ、上官に詰め寄られ狼狽する哀れな整備兵の言葉に、ジェリドは舌打ちした。
確かに昨日、一昨日と機体のマッチングに付き合わされて、格納庫に缶詰にされたのを思い出したのだ。
仲間たちが調整を終えて戻っていく中、ジェリドの機体だけはなかなか作業が進まず、最終的にこのままでは出港に間に合わないと整備兵に泣き付かれてやっと終わらせたのだ。
作業が遅れた理由は、例のごとくあの少女の事で上の空の気分になっていたからである。
つまり自分の身から出た錆、完全に自業自得であった。

「仕方ない、MK-Ⅱで出るしかないか…!」

大切な試作機であるMK-Ⅱを戦闘で壊しでもすれば相当拙いが、このまま追撃に参加出来ない方が状況は更に悪い。
ジェリドは踵を返し、自分が墜落させた機体に乗り込むために駆け出した。
建物にめり込むように墜落したが、動かす分には問題ない筈だ。でなければ軍用モビルスーツなど務まる筈がない。
ハッチに足をかけ、リニアシートに飛び込む。
発進する為に、外していたヘルメットを被ろうとしたその時だった。

「動かないで」

ガツリ、とジェリドの後頭部に硬い何かが押し付けられた。瞬間、ジェリドの額からどっと脂汗が滲み出す。
後ろを振り返って確認するまでもない、自分の頭に突き付けられているのが銃なのは直ぐ解った。
抵抗など出来るはずもなく、ジェリドはゆっくりと両手を上げた。

「機体から降りて。撃たれたくないなら、素直に言う事を聞いて」
「……分かった、降参だ」

ここで死ぬくらいならと、ジェリドはシートを降り、機体のハッチへと立った。
せめて、自分にこんな不様な真似をさせて怨敵の顔を見ようと、手を上げたまま振り返った。
そこにいた人物の顔を見た時、ジェリドは思わず自分の目を疑った。

「お前―――!!」

白だ。真っ白い髪、真っ白い肌。
この数日、ジェリドの脳裏に焼き付いて離れない少女が、銃を手にしながらジェリドの目の前にいた。
まだ十代前半であろう幼い体躯。なるほど、シートの裏に見を潜めていたのかとジェリドは納得した。

「珍しい風貌のガキだと思ったら、このコロニーの人間じゃなかったってか。しかもエゥーゴとは、俺もヤキが回ったな」

エゥーゴの黄色のパイロットスーツを着た少女は、自嘲混じりの皮肉に、銃をジェリドの胸元に押し付ける事で答えた。
次は殺す、という意味だろう。全く、見た目に騙されたとはこの事だとジェリドは内心毒づいた。

「…分かったよ、降りるさ。抵抗なんてしないぜ」

相手は幼い少女。銃を持っているとはいえ、組み合いに持ち込めば圧倒的にジェリドが有利だ。
だが、分の悪い賭けで死ぬのは御免だった。
それに、ジェリドは自分でも不思議なほどにこの少女へ抵抗する気にはなれなかった。

(この状況で機体を取られまいとすれば、俺が生きるにはこのガキを殺すしかない)

銃を突きつける、目の前の敵兵の命を奪うのが嫌などと、軍人としては話しにならない事だとは思う。
だが、目の前の少女を何の感慨もなく殺める事が出来る程、ジェリドは軍人としてスレてはいなかった。
どうせ基地に機体を落とした時点で謹慎か営倉入りかは決定事項だったのだ。運がなかったとジェリドは諦めた。
両手を上げたまま、倒壊した建物を伝って地上へと降りる。

「………ごめんね、ジェリド」

ふいに聞こえた声に、ジェリドはハっと顔を上げた。
ジェリドが見た時には、もうMK-Ⅱのハッチが閉まり、機体が起き上がろうと動きだす所だった。

「待てッ!お前の名前は――――」

ジェリドのその問いに応える事なく、ガンダムMK-Ⅱはコロニーの空へと飛び立っていった。







いやぁ、危なかった。まさかジェリドが戻って来るとは思わんかったしなぁ。
ジムが墜落して、ヤバイと思ってさっさと機体から逃げ出した後、当てもなくフラフラと隠れる場所を探していた。
適当に歩いてたらなんか軍施設的な所に入り込んじゃって拙いかなーと思ったところで、基地にめり込んでるMk-Ⅱの3号機を見付けたのである。
確かあれに乗ってたジェリドってば、さっさとMk-Ⅱを乗り捨ててハイザックで出撃してたんだよな。
なら連邦軍が回収に来る前に俺が貰ってしまおうと乗り込んだはいいが、まさか『この銃』を使うハメになるとは。
コックピットの中で、先程ジェリドに突きつけていた銃を上に向け、引き金を引く。
すると、パンッという軽い音と一緒に国旗やらなにやらが飛び出してくる。
……うん、玩具なんだ。
咄嗟にシートの裏に隠れて、後に引けない状況だったもんだからついやってしまったのだ。
ガワだけ変にリアルで、街に出た時クワトロ大尉に買ってもらったんだよな、これ。
まさか、これで本当にジェリドが騙されるとは思わなかったけど。
ごめんね!と謝っといたけど、次会ったら『ぶっ殺してやるぁぁぁ!!!』って感じで襲ってきそうだよな……もう会わない事を祈ろう。


しかし、カミーユには悪いことしたよなぁ。確か、今頃ティターンズの基地から逃げてる頃だっけ?
カミーユが奪う筈だった3号機は俺が乗ってきちゃったし、これが終わったらまた軍に拘束されるんだろうか。
とはいえこっちも命が掛かっているのである。運が悪かったと思って諦めて貰うしかないよな…

……ところで、さっきから飛ばしているこのMk-Ⅱなんだが、なんだか様子がおかしい。
いや、動くには動くんだが、反応がスッゲェ鈍い。
さっきジムでシーブックに成りきろうとして墜落させた俺では、正直いつ事故らせるか解らない程に言う事を効かない。
俺のジムが特別高レスポンスだったんだろうか?他のモビルスーツなんて乗ったことないから解らないんだよな……
などと考えている、機体が大きくフラつく。とうとう機体の制御に失敗したらしく、高度が下がる。
ゲェェ!?どの操作が問題なのかは解るんだけど、対処しようとすればするほど機体が言う事を聞かずどんどん大変な事になってくんですけど!?
ていうか流石に反応遅すぎんだろ、MEタソかよ!!!

激しい衝撃と轟音を立てて、俺の乗るガンダムMK-Ⅱは再び地上へと落ちた。
ち、ちくしょう。俺にも主人公補正が欲しい……これがカミーユだったならこんな目には遭わんだろうに……
衝撃で朦朧とする頭。するとプシュ、とコックピットのハッチが開く音がする。
お、追手!?随分早すぎんじゃないか!?とテンパる俺。
しかし、開いたハッチの向こうに居たのは厳つい連邦軍人ではく―――

「君は―――?」

カミーユ・ビダン。先ほどまで俺が思い浮かべていた人物がそこにいた。
やっぱ主人公補正半端ねぇな。







「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

カミーユは走っていた。
ティターンズのジェリド・メサ中尉を殴った事で軍に拘束され、尋問を受けていたのだ。
しかし、拘束されていた軍施設の上に突如としてガンダムMK-Ⅱが墜落し、その隙に逃げ出したのだ。

「なにやってるんだ、俺――」

カミーユは後悔した。コンプレックスを刺激されたとはいえ、ティターンズに暴力を振ってしまった事を。
さっきもそうだ。高圧的な尋問官に、腹がたってつい殴りかかってしまった。
この避難警報の中、あれさえなければ今頃は迎えに来た母と一緒に避難できていたのだろうに。
後先考えずに行動をしてしまうのは、カミーユの悪癖であった。

―――――。

「また、あの感覚だ……近いぞ」

カミーユの無意識に語りかける声が聞こえる。
カミーユは、声の出所を探そうと辺りを見回した。
頼れる物が何一つないこの状況で、自分を呼ぶ誰かに縋る様な気持ちになったのだ。

「あっちだ―――軍の施設の方か……?」

施設の方に忍び寄り、フェンス越しに中を確認する。
すると先ほどまでいた施設に墜落し、仰向けに倒れていたガンダムMK-Ⅱが飛び立つ所だった。
カミーユは引き返し、逃げる時に軍から盗んだジープに乗り込み、MK-Ⅱを追いかけるためにエンジンを掛けた。

「間違いない、あの機体からだ。でも、どうして?」

ペダルを一気に踏み込み、速度をギリギリまで上げる。でなければMK-Ⅱを見失ってしまう。
上空を行くMK-Ⅱは危なげにフラフラと飛びながら進んでいく。
誰が乗っているのか分からないが、酷い有様だ。今にも落ちそうだ。
そう思った矢先、MK-Ⅱがガクンと高度を落とした。

「ッ落ちたか!」

走るジープの前方の建物に、MK-Ⅱは派手な轟音を立てて墜落した。
カミーユはジープをMK-Ⅱの近くに寄せる。

―――――ユ。

「やっぱり……呼んでいるのか、俺を?」

倒れるガンダムの装甲をよじ登り、コックピットまで這い上がって行く。
父フランクリンが設計したこの機体のことは、カミーユはよく知っていた。
緊急用のハッチ開放スイッチを探し当て、押し込む。
プシュッと空気の抜ける音と共に開くハッチ。そこにいたのは―――

「君は―――?」

真っ白い髪に、真っ白い肌。中に居たのは、まるで雪のような少女だった。
カミーユよりもずっと幼い、着ているパイロットスーツが違和感しか与えないような、とてもMSの操縦などするようにはみえない容姿だ。
まるで人形のような少女は、少し虚ろな目でカミーユを見上げた。

「………カミー、ユ?」
「っ!?なんで、俺の名前を――?」

突然呼ばれた自分の名に、動揺する。
しかし、目の前の少女の声は、間違いなく数日前から自分が聞いていた物に間違いない。
何故そうなのかは解らない。それでも、カミーユにはその確信があった。
カミーユは口を開き、少女に問いかけようとした時だった。

『あそこだ、MK-Ⅱが落ちたぞ!』

軍人らしき男の声。
間違いない、連邦軍の軍人がMK-Ⅱの周りに集まって来ているのだ。

「乗って!」

はっと我に返った少女が鋭く声を上げ、カミーユは反射的にシートに滑りこんだ。
目の前に少女はどうみても連邦の人間ではない。この機体も本来のパイロットも彼女ではないだろう。
だが、どうせカミーユもこのままではまた軍に捕まる人間なのだ。
今は、このままこの少女と逃げるしかないと腹を括った。

「退いてくれ、俺が動かす!」

半ば強引に少女をシートから降ろし、操縦桿を握る。
コンソールを叩き、機体の状況を確認。設定を最善の物へと変えて行く。

「親父のコンピューターからデータを盗み出したのが、役に立つなんて」

今だけは研究にしか興味がなく、ずさんな情報の管理しかしない父親に感謝した。
カミーユの乗るMK-Ⅱが地上へと立ち上がった次の瞬間。
二機の黒いモビルスーツ。ガンダムMK-Ⅱの2号機。そして一際異彩を放つ赤い機体が直ぐ側へと降り立ってきた。








「アポリー、まだナナとは連絡がつかんのか!?」
『何度も呼び掛けてはいるんですが、こうも応答が無いのなら機体を捨てたとしか……』
「ちぃ、アストナージめ。何が後数回だ…!」

お門違いだと分かりながらも、クワトロはあのジムを用意した整備班長に悪態を付かずにはいられなかった。
黒煙上げながら地に落ちて行くジム。被弾をした様子は見られなかった、ならばマシントラブルしか理由はない。
言ってしまえば、これはクワトロのミスだった。
クワトロはナナの技術を買いかぶり、その才能を過小評価していた。
まさか、ナナが一度にあれ程の広域の敵の存在を知覚でき、それに対しての戦闘で機体の限界を見誤るなど思ってもみなかったのだ。。
少女の才能は、それを支える技術が追いつく前に敵を討つ領域にまで昇華されていた。
その代償が、自身の機体を敵地の中に落とすという最悪の形で現れてしまった。

「今は無事でいてくれるのを祈り、せめてMK-Ⅱだけでも持ち帰るしかないか……」

この任務さえ終われば、もう一度ここに戻り、ナナを探すことは可能だ。
クワトロは気持ちを切り替え、眼前を飛ぶ黒いガンダムを睨みつけた。
三機のリックディアスに追い立てられ、2号機は基地へと逃げ込んだ。

『大尉、もう一機います!』
「なんだと?」

見ると基地の中には、静かに佇むモビルスーツが一機。
それもクワトロたちが追うガンダムMK-Ⅱ、その3号機だ。

『ジェリド援護してくれっ、奴らは2号機を生け捕りにする気だ!』

3号機へと外部のスピーカーで応援を頼む2号機のパイロットに、クワトロは舌打ちした。
自分たちの目的は、あくまでガンダムを手に入れる事だ。
今までの連邦の機体は邪魔ならば撃破すればよかったが、迂闊に攻撃できない相手が二機ともなれば勝手が変わってくる。
どちらか一機に的を絞ることも出来るが、出来れば両方共手に入れたいという欲が、思いの外に足枷となる。

『おい、ジェリド!聞いてるのかっ!?』

動く様子を見せない3号機に、しびれを切らせた2号機のパイロットが声を上げた時だった。
沈黙を貫いていた3号機が、突如としてバーニアを吹かせ、2号機へと組み付いたのだ。

『なっ、ジェリド!?』
『エゥーゴ、僕は貴方たちの敵じゃあない!今、証拠を見せてやる!!」
「なんだ――?アポリー、ロベルト、手を出すな!」

混乱する2号機のパイロットが体勢を立て直す前に、3号機はコックピットへと手を掛けた。

『コックピットから出るんだ。さもないと、このまま握りつぶすぞ!!』

怒涛の展開に、2号機のパイロットは観念したようにハッチを開いた。
良い手際だ。クワトロは3号機のパイロットの操縦をそう評価した。
しかし、まだ相手の真意が掴めない。一体どんな思惑があってこちらに味方をするのかが全く不明だ。
最善の選択を選ぶ為に思案するクワトロの耳に、目の前の3号機からの先程のパイロットとは別の声が聞こえてくる。

『シャア、私だよ!』
「………!?ナナか!」

先ほどまで無事かどうかも分からなかった少女の声。クワトロは歓喜と安堵に震えた。
運がこちらに向いてきている。確かにそう確信できた瞬間だった。
そうとなれば、此処に長居する理由などない。クワトロは意を決し、MK-Ⅱへと声を飛ばした。

「MK-Ⅱのパイロット、こちらと一緒に逃げてくれるという事でいいのだな?」
『はい。ティターンズは許せませんし、帰る場所も在りませんから……』
「そうか、なら必死でついて来い。行くぞ!」

まだ年若い少年の声。
どんな理由があるにしろ、あの少女が機体を預けている人間なのだ。信じてみる価値はある。
ペダルを踏み込み、コロニー・グリーンノアから飛び立つ。
四機のモビルスーツが去ったあとに残るのは、平和の影などどこにもない戦いの爪痕の残るグリーンノア1だった。



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