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No.30271の一覧
[0] 【東方紅魔館】 悪魔のような吸血鬼[豆腐](2011/10/25 15:30)
[1] 01-1[豆腐](2011/10/26 14:01)
[2] 01-2[豆腐](2011/10/28 13:24)
[3] 01-5[豆腐](2012/03/09 11:18)
[4] 02[豆腐](2011/11/26 11:53)
[5] 02-1[豆腐](2011/11/26 11:54)
[6] 02-5[豆腐](2011/12/06 14:37)
[7] 03[豆腐](2012/01/18 11:29)
[8] 04[豆腐](2012/02/10 12:36)
[9] 04-1[豆腐](2012/02/10 12:37)
[10] 04-2[豆腐](2012/02/15 14:29)
[11] 05[豆腐](2012/03/09 11:23)
[12] 05-1[豆腐](2012/03/13 13:24)
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[30271] 04-1
Name: 豆腐◆4185b71f ID:e7b10c20 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/10 12:37
「恋符!マスタースパーク!!」

 巨大な白い光が門を包み込み、その姿を見えなくする。私はお茶を啜りながら、その光景をスキマを通じて覗いていた。どうやら私が一番危惧していた事は起きなかったようだ。紅魔館の門番はごく当たり前で有るかのようにスペルカード戦を受け入れ、試合は開始された。部下で有る門番が上の判断も仰がずに決断したという事は、今回の異変を起こした首謀者で有るレミリア・スカーレットが、つまりそうしろと言明していたという事になる。私は人知れずホッと胸を撫で下ろしていた。

 結局彼等はあの日の事を公表しなかった。私の尊厳は保たれたが、私のプライドは殺された。それはつまり私など何時でも同じ目に合わせる事が出来ると、わざわざ自慢する程の事でも無いと、暗にそう言われたのと同じ事だからだ。私は自身が使える全精力を使って彼等を調べ上げた。

 調べて行くに連れて私の顔色は悪くなった。当主が変わってからというもの、僅か百年にも満たない間で彼等は瞬く間に成長し、今や西洋に置けるパワーバランスの一端を担っている。妖怪悪魔は元より、神の僕(しもべ)である教会ですら迂闊に手出し出来ない組織、それがスカーレット家だった。しかもこれは当主が和平理論に基づいて動いているからこうなっているだけなので有って、彼が一度でも軍国主義に傾いてしまったらどうなるかは想像をするまでも無い。最早ほとんどの勢力が彼の顔色を窺い、招待では無く出向いて行くという手段を取っている。まさに絶頂期と言える物だろう。だからこそ私には理解が出来なかった。

 私が最初にこの幻想郷を作った目的は、妖怪が最後に行き着く所、安心出来る場所、笑って暮らせる故郷を目指して作られた。お陰で多数の妖怪が住み着き、妖怪の為を思って作られたシステムは彼等の好評を受けて、今でも新規参入者は数多く居る。妖怪の勢力が脅かされそうなら結界を張り、気力が無くなりそうなら新しい構想を作り出した。自分で言うのも何だが、かなりの物が出来ていると自負している。しかしたまに、ふと、思うのだ。本当にこれで良かったのだろうかと。

 確かに彼等にとってここは天国になっただろう。その噂を聞き付けて新たにやって来る者も多数居る。そして彼等は皆笑顔で暮らせている。私の望んでいた物がそこには有った。しかし多分……いや、きっともう彼等は外の世界では生きては行けないだろう。人は神を信仰しなくなり、妖怪も迷信として誰も信じなくなった。存在を否定され、困った彼等は新たな場所を探した。そして彼等はここへとやって来た。恐らく大半の者がこれに当てはまる。もっとハッキリと言ってしまえば、今や幻想郷は負け組の集まりなのだ。外では存在する事すら出来ずに慌てて逃げ出して来た者達の吹き溜り。それは隠しようも無い、幻想郷のもう一つの真実の姿だった。

 だからこそ、そんな場所へと彼等が好き好んでやって来る必要性が私には分からなかったのだ。天狗の新聞には「養生の為」と書かれていたが、とても信じられない。仮に養生の為だとしても彼等はこんな裏の世界へとやって来なくても良い。一声掛ければ西洋ならほぼ全ての者が跪き、東洋で休みたいとしても、やはり彼が一声掛ければ屋敷の一つや二つ用意する組織は幾らでも居るだろう。……彼の真意を調べなくては……。私はさっそく行動に移す事にした。

 紅魔館の上空へとスキマを移し、意識を集中して気配を探った。他の者ならまだしも、彼を直接スキマで見るのは危険過ぎる。あの後も何度か試してみたのだが、どんなに慎重に、どんなに丁寧に開けたとしても彼は直ぐにこちらに気付き振り返ってみせるので、結局私は慌ててスキマを閉じるしか無かったのだ。彼の部屋の中に人間の気配を感じる。しばらくそのまま話し込んでいるようだったが、その人間は直ぐに戦闘へと参加しに行った。残った彼の気配は少しすると、ドアの方向へと足を進めているのが分かった。きっと彼も参加する気なのだろう。私は一つ大きなスキマを開くとその中へと身を委ねた。

「そんなにお急ぎになって、何処に行こうと言うのかしら?」

 私が突然後ろから声を掛けたというのに彼は別段驚いた風も無く、ゆっくりとこちらに振り返った。

「これは管理人さん。この間の事はどうも「この間の事はどうでも良いわ」」

 私の顔を見るや否や直ぐに前回の話を蒸し返してくる彼。私の心を揺さぶろうとしているのか。それとも私の器を調べているのか……。しかし私は過去の話をしに来たのでは無い。未来の話をしに来たのだ。私は即座に彼の話を打ち切った。

「そうですか……。では一体今日は何のご用件で?」

「貴方の邪魔をしに。それと会話も出来れば嬉しいわ」

 不躾な私の対応に特に文句を言うでも無く、彼はそのまま会話を続けて来る。やはり彼としても先程の話は真意では無かったか。少し癇に障ったので皮肉を込めて答えてやった。まぁ彼に対しては無駄な事でしょうけど。

「邪魔……と言うと、私が今からレミリア達と合流しようとしている事に対してかな?」

「そうね。そう思って貰って構わないわ」

 やはり彼も参加する気だったか。止めに来て本当に良かった。彼の行動には不審な点が多過ぎる。まだ海の物とも山の物とも判断が付かないような物を、彼女と会わせる訳には行かないのだ。今会えば必ず戦闘が発生するだろう。それは博麗の巫女として仕方の無い事。しかし多分彼女ではまだ勝てない。経験が違い過ぎるのだ。

 更に言ってしまえば、私は彼と敵対する事だけは避けたかった。彼の動きには不審な点が多い。幻想郷を奪おうとしていると言われれば確かにそうなのかもしれない。しかし私にはどうしても分からないのだ。奪う為だとしても何故こんなにもまどろっこしいやり方をしているのか。西洋で一声掛けて、全力で攻め上がって来れば良いのだ。それが一番簡単だし、確実なやり方だ。少なくともわざわざ単身で乗り込んで来るよりはずっと良い。だからこそ、私は彼と話をしなければならなかった。彼をここで行かせる訳にはいかない。

「ふむ。それはつまり私と敵対するという風に受け止めて宜しいのかな?私としては管理人さんとは良き仲で居たかったし、今後もそう有りたいと思っていたのだが……」

 私の心を知ってか知らずか、彼はそんな事を言って来た。言葉通りに受け取るのだとしたら、彼は私との友好関係を望んでいるという事になるが……果たしてそんな美味い話が有るのだろうか?

「……貴方はこの異変に付いてどう思っているの?」

 私はあえて答えを言及せず、彼の資質を測る事にした。幾ら彼が私との友好関係を望んでいたとしても、彼の意向が幻想郷に害しか齎(もたら)さないので有れば私は彼を排除しなければならないからだ。

「異変?当然解決するつもりだが、それが何か?」

 一瞬の迷いも無く彼はそう断言した。本気で言っているのだろうか……。異変を解決するという事は、つまり妹達を敵に回すという事だ。確かにこれは彼女達の独断で行われた事だが、それを彼は止めると言うのか。彼の言う事が本当なら、先程彼が部屋から出て行こうとして居たのは妹達を止める為で有り、更にそれを邪魔しに来た私とも敵対する事を辞さないという事になる。身内の恥は身内で片付けるつもりか。

 勿論彼の言葉が嘘という可能性も有る。しかし多分それは無いだろう。彼は西洋を代表する当主の一人で、私はここの管理人。この二人が話すという事は外交手段にも等しいという事になる。誰にも見られていない非公式な会談だが、ここで嘘を付くというのは自分で自分の顔に泥を塗るのと同じ行為だ。そんな事をすれば二度と私の信用は得られない。嘘を付くにしても、もっと大事な場面で、ここが決まれば勝てるという局面でしか無いだろう。こんな最初の最初で付いて良い物では無い。それなのにそう断言した彼に私は驚いた。

「……なら教えておくわ。今回の異変はスペルカードルールが用いられている。けれど貴方はまだカードを持っていないでしょう?今貴方が行っても事態をややこしくするだけ。だから私が止めに来たの」

 少し迷ったが、私は彼に真実を教えてあげた。それに今回の異変でスペルカードルールが使われているのには、私としても少なからず利益が出る。恐らく今回の異変後、天狗の新聞によって大きくスペルカード戦が取り上げられる事になるだろう。今でも一部の者によって好まれているが、これによって大多数の者がその存在を知る事となる。そうなれば必ずこのスペルカード戦は大流行する自信が私には有った。

「その情報は確かか?」

「勿論」

 彼はそう私に確認を取って来ると、しばらく考え事をし始めた。彼がスペルカードを作っていない事は知っている。その理由は分からないが、確かにカードを持っていない自分が今行っても役には立たないと思っているのかもしれない。

「ふむ。貴方が私の邪魔をしに来た理由は良く分かった。出来れば会話をしたい部分に付いても聞かせて貰えれば嬉しいのだが」

「そのままの意味よ。一度貴方とはじっくり話してみたいと思っていたの。丁度今は館の機能も止まっているみたいだし、時間も余っているんじゃない?」

 彼は私の言葉に納得したのか、今度は会話をしたい理由を聞いて来た。別にそれに付いては裏も何も無いのだが……怪しまれているのかしら?まぁ胡散臭いとは良く言われるけども。仕方が無いので私は思った事をそのまま言った。

「なる程。大体の所は理解したよ。貴方の気持ちもね。……しかし私としても当主としてのメンツが有る。侵入者に門を破られているのに、「はい、そうですか」と言う訳にも行かないのだ。とは言え、私としても貴方との仲は大切にして行きたいと思っている。……どうだろう。ここは一つ共に折れて、今までの事は水に流し、無かった事にしては貰えないだろうか?そうして貰えるのならば今回は貴方の言う通り、話し合いに応じる事を約束しよう」

 その言葉は私にとって衝撃だった。前半はまだ分かる。確かに自分がスペルカードを持っていないせいとは言え、自分の館に堂々と侵入者が現れ、その者達が異変を解決しようとしているのだ。身内の恥を晒されるばかりか紅魔館としての威厳も損なわれる、まさに踏んだり蹴ったりと言った物だろう。しかし後半の意味が私には分からなかった。

 今までの事は水に流し、無かった事にして欲しい。私との仲は大切にして行きたいと思っている。彼は本気で言っているのか。更にこれを認めて貰えるのならば今回の話し合いに応じるとまで言って来た。普通に考えるのならばこれは罠だ。彼にとって何一つ得の無いこの選択肢を選ぶ筈が無いのだから、これは嘘という事になる。しかし私にはそうは思えなかった。彼が余りにもあっけらかんとした態度でこれを発言した事も有るが、異変自体も私が来なければ彼が止めるつもりだったのだ。

 もし今私が「やっぱり話し合いは良いので異変を止めて来て下さい」と言えばどうするのか。多分本当に止めてしまうのだろう。何の確証も無いがそんな気がする。そもそも暗殺されそうになっても怒らなかった人物なのだ。私の経験から彼の性格を判断しようとするのは止めた方が良いのかもしれない。そして流石の私も、ここまでお膳立てされて疑う程落ちぶれてはいない。彼は暗殺されても怒らず、身内が異変を起こせば自分で解決し、更に私が起こした行動を許すと言うのだ。

 もっと言うならば私を許すのでは無く、無かった事にしたいとまで言って来ている。これは私に対する気遣いだ。許すのでは無く、忘れる事によって私との関係を一度リセットしようとしている。つまりこれは今後も彼はそれに対して文句を言う事は絶対に無いと公言したのと同じ事だからだ。なので貴方もそれに気にする事無く、対等な関係で接して欲しいという事も含まれているのだろう。器がデカいと言うか、底が抜けている。もしこれが計算の上でやっているのだとすれば、それは最早バカの領域に入ってしまう事だろう。一生懸命私の弱みを握っておいて、その全てを捨てると言うのだから。

「……良いわ。今までの事は無かった事とし、貴方とは初対面のつもりで接する事を約束しましょう」

 私がそう答えると彼は本当に嬉しそうな顔付きで私を椅子までエスコートした。もしこれが演技だとすれば表彰状を上げたいくらいね。彼がボタンを押して紅茶とケーキを持って来て貰うように伝言すると、直ぐに妖精メイド達がやって来た。用意が済むと彼女達は一礼をして部屋から出て行った。

「それで?どのような事から話しましょうか」

 彼は紅茶を一口飲むと、そう話を振って来た。

「……貴方の目から見て幻想郷はどうかしら?」

「まだ見て回ってない方が多いので何とも言えないのですが……まぁ悪くないと思いますよ。私個人の意見としては大変気に入っている」

 悪くないというのは紅魔館としての総意。個人としては気に入っているか。

「今後幻想郷はどうなって行くと思う?」

「どうなるかは分からんが、当然良くして行きたいとは思っている。先程も言った通り、私は幻想郷が気に入っているからな」

 何故かは分からないが、彼は随分と幻想郷を御気に召しているようだ。この時点で私としては彼の言葉を疑う気は余り無くなっていた。分からない物を考えても無駄だからだ。それにここまでの度量を見せ付けられたのだ。信頼はまだ出来ないが、信用くらいはしても良いだろう。しかしそうなるとどうしても分からない事が一つだけ有った。

「貴方の妹達や部下の皆さんはカードを作っているようだけど、どうして貴方はカードを作らないの?」

 これだ。彼は最初の場ではスペルカードに興味を示していなかった。しかし結果としてはスペルカード戦を良しとし、今回の異変にも使われていた。当然これは当主で有る彼が全面的にスペルカードを押していたせいも有るが、当の本人は未だに一枚も作っていなかったのだ。これだけが私の中に残る最後の疑念だった。

「私としてもカードを作りたいのだが、何分私は魔力関係が苦手でね。まだ作れる程の実力が無いのだよ。恥ずかしい事だがね」

 彼は何の悪びれも無くそう言って来た。余りの自然さに一瞬だけだが信じてしまいそうにすらなった。そんな事が有る筈が無いのだ。吸血鬼の、西洋でも有数の当主が、妖精ですら作れるスペルカードが一枚も作れないと言って誰が信じる。私は彼の目を覗き見たが、彼は相変わらず自然体でこちらを見ている。何の後ろめたさも感じていないようだった。

 これは嘘だ。嘘だがその理由が分からない。しかし嘘を付くにしてももっとマシな理由が有るだろう。魔力の質が合わないからとか、空気が乾燥しているからとか……。彼としてもまだ私を信頼する所までは行っていないという事か。こんなにも分かり易い嘘を付いて来たのだ。本気で私と敵対するつもりならもう少しくらいは頭を捻ってくれる事だろう。あくまでも教えてくれないだけで、私に対してどうこうしようとする訳じゃないという事ね。彼がまだ教えるべきではないと判断したのなら、今回は信用して引きましょう。彼ならば何時の日かきっと教えてくれるでしょうから。

 その後も幻想郷の今後についてや、今有る駄目な所について話し合った。外の世界で有数の組織で有る当主と話す機会など滅多に無いのだ。私としては最善を尽くしているつもりで有ったが、やはり彼の目から見ると幾つかは駄目な点が有るようだった。しかも彼は短いながらも具体案を上げながら返答してくれたので、私の中でもついついヒートアップしてしまった。

 気が付くと目の前を漂っていた紅い霧は晴れていた。随分と長い間話し込んでいたようだ。彼を見ると少しソワソワして辺りを見回しているようだった。なる程。霧が晴れたという事は妹達が負けたという事になる。兄として心配するのは当然の事ね。そろそろ御暇(おいとま)するべきだろう。

「そろそろ時間のようね。今日はありがとう。お茶も美味しかったし、色々と考えさせられたわ。何時かまた私の家にも来て頂戴」

 私は椅子から立ち上がり、一礼するとそのままスキマを開いてその場を後にした。家に帰ったら先程彼と話した事を纏めよう。幾つか極論も有ったが、それでも一理くらいは有った。参考には値するだろう。幻想郷には余り運営に意見をくれる者は居ないのだ。久々に感じる知識欲を心地良く思いながら私はスキマの中を飛翔した。


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