それは人が春と呼ぶ季節のこと。私は私の中の彼女の提案に従い以前訪れた大陸にあるメガリスを目指すことにした。以前は特に気にしなかったが、彼の地にはクヴェルは無いが彼女の知識からメガリスがあるとしりこの不可解な状況は興味を引く物だ。師より与えられた使命を果たすためにも一度はそのメガリスを観察する必要があるだろうと感じた私は着の身着のまま船に乗った。
グリューゲルの港に到着した私は荒野を越えメガリスを目指す。確かに人間であるならば厳しいだろうが、私に取ってはアニマを確保するための狩り場に過ぎない。
3昼夜を休み無く進んでたどり着いたメガリスは、確かに異様であった。何も無い、正確には開け放たれた棺桶のような箱。アニマの気配はここにないが、ではここを作った目的は何なのだろうか。
師や高弟達は偉大な術士であり、人を超越しているが本質的には人だ。『永遠の思索にふける』という師の目指すもの、そしてその為に築かれた塔の役割も理解できるが、メガリスには作った意図がよく分からないものが多い。ハン帝国という国が東大陸を統べていた頃、人はクヴェルをエネルギー源として利用していたようだが、新しいクヴェルを造り出した物は終ぞ現れなかったという。つまり我が師も含めて人間は私達とは違う知性体が世界に存在し、高度な文明を築いていたが、ある時期を境に影も形も見えなくなった。それに関しての研究書は私もいくつか目を通したが結局何も分かっていないということだ。彼女の記憶を見る限り、人間が最初に発見したメガリスの危険度が低かったのは幸いだった。例えばアニマを暴走させることを目的としたメガリスなら凶暴化したモンスターによって文明は崩壊していただろう。
結局分かったのは、これが何の為に作られたのか分からないと言うことだけ。ならぱ彼女の意志に従って、何か知ってそうな人物を探した方が良いだろうか。
ただ、私というか私の中の彼女も彼の本拠地を知らないため、急がず、とはいってもギンガーに騎乗したくらいの速度にて移動する。集落を訪れてはケッセルと呼ばれる場所を探す日々。気がつけば季節は春を迎えていた。
木々に囲まれた屋敷から漂う芳醇なアニマの匂いと死の気配。私を維持するだけなら草木のアニマで事足りるが私に取って人間のアニマは甘露と言っていいだろう。別に殺してまで採りたいは思わないが、得ることができならそれに越したことはない。
だが、屋敷の方から私を見る視線。人に見えない我が身を確実に捉える二人の人間がいた。青年が壮年達した男と話し、私に告げる。
「申しわけありませんが母のアニマを差し上げることはできません。アニマが必要でしたら私が用意しますので明日にでもあそこの家まで起こしいただけないでしょうか」
青年が指し示したのは少し離れた家だった。
私の中のニーナな騒ぐ、なるほど彼が●●か。私達は結果として彼を見つけることに成功したようだ。
「お初にお目に掛かります。造られし方。私はジャン・ユジーヌと申します。あなたに俗世の肩書きなど不要かと存じますが、この国にて子爵の地位を頂いております。こちらは我が師であるシルマールです」
ジャンと名乗った青年は、ニーナの記憶とは違い、かなり背が伸び怜悧な面構えをしていた。
「私はあなたと話したいことは多々ありますが、まずご確認したいことは、あなたがこの地を訪れたのが偶然であるのか、あなたの中に誰がいるのかということです」
どうやらニーナの言うとおり、彼は多くを知っているようだ。
「私の中いるのはニーナという壮年の女のアニマだ。それに導かれて私は砂漠のメガリスに赴いた後、手がかりとして君を捜していた。この地で君に会えたのは偶然としか言いようがない」
「そうですか、では先に過日お約束したアニマをお渡ししましょう。あなたが生まれた場所にある物と比較してしまえばまだまだかと思いますが」
差し出された指輪を手に取り身につける。
「私と師はソウルクリスタルと呼んでおります。本来は使い切りですが、時間を置けば周囲のアニマを吸収する機構を付けました」
「いや十分だ。今蓄えられているアニマは君の物だな」
これだけ膨大なアニマなら2、3年狩りをすることなく生きていける。何よりアニマの純度が高い。
「その通りです。ようやくここまで追いつきました。しかしこれでは足りません」
おそらく彼は我が師を上回る天才だということは理解したが、彼が目指すものは真理ではないと何となく思えた。
「エッグを壊します。彼らがどういった理由で地上の王たる権利を放棄したかは知りませんが、今更出てこられても困ります。残った技術利用して現代社会あるのは理解しているんですが、我々は我々なりに対抗策を出さなければならないでしょう」
「ジャン君、エッグとは何ですか?」
「以前出会ったウィリアム・ナイツが探しているクヴェルの名前です。意志を持つクヴェルで、先住種族の復活を目論んでいます。保持者のアニマを効率良く運用するので強力な術が使えます。現在考えている討伐手段は術抵抗を0にする鋼鉄剣で切り裂くか、クヴェルを術式によって解体するかです」
「そんな存在が・・・ですがジャン君、何故君はそんなことを知っているのですか」
「これこそ以前先生とお話したかったことなのです」
彼は語りはじめた。彼がかつてこの世界を観測することができる世界で生き、病を得て死に、この世界で生を受けたこと。故にエッグと呼ばれるクヴェルがもたらす惨禍に対抗すべく動いていること。
「終末思想かぶれや誇大妄想だったら良かったのですが、ギュスターヴがファイアブランド継承に失敗し、フォーゲラングでエッグというクヴェルの足跡を確認したときからナイツの系譜とフィニー王家はアレと関わらざるを得ないのです」
「それで、君がこれほど詳しいならば私は何故ここに招かれたのか教えて欲しいのだが」
つまり彼は私のことも知っていたということとなる。
「予定がずれなければ1277年に私とウィル・ナイツはエッグに戦いを挑みます。ですが剣士が足りません。予定ではギュスターヴを使う予定ですが、万が一兄が死んでいた場合加勢を求めたい」
「君が死んでいた場合は?」
「その時は私の知識を誰かに受け継がせて舞台を整えます」
それはいかなる手段なのか。彼やニーナの言うエッグと同じではないのか。私の視線に気付いたのか彼は頷いた。瞳が燭台の火に映し出す。
「アニマを介して人を操る手段は確立しています。問題はどれだけの情報を転写できるかです」
これは言うなれば世界の命運を左右させる陰謀だ。彼の言葉に私は心をざわめつかせる。ニーナの知識から引き出すに、どうやらそれは興奮という感情らしい。
「先生、俺はこういう人間です。自分は天才だと思いますが、俺の技術は特殊過ぎて触れることはできても使う事はできないでしょう。独立をお許しください」
「既に独立しているつもりでしたが、そうですね良い区切りでしょう。君達を子どもとして扱っていたソフィー様は亡くなりました。君は母上を悲しませないためにもっとも得意な手段を使わなかったのでしょうが、ここからは時間との勝負ということですね」
「はい、どこでも構わないのですが伯爵か侯爵レベルのナに反抗的な領地をギュスターヴに乗っ取らせます。そして力を蓄えさせてフィニー王位を奪還します」
「良いでしょう、私も微力ながら力を貸しましょう」
彼らは朽ち果てる定めから逃れることができない存在だ。だからこそ全力をかけて今を生きる。私もそうだが師や高弟達は永遠を生きるが故に別に今しなくてもいいと考えている。この出会いは私に取って実りのあるものであった。彼への興味は尽きないが今はウィリアム・ナイツを優先しよう。
彼らに別れを告げ、私は再び闇夜に消えた。
了
この話を作るに当たってベエンダーを出したいと思うけど、その為にはコーディが死ななければならない。そしてコーディを生かした場合ベエンダーが登場しない。なら死してなお息子を思うニーナのアニマを取り込めば良いのではと考えた結果です。とはいいつつ実際は今後の陰謀(裏)の話。やっとチートっぽいことができる。次回はワイド侯乗っ取り事件の難易度が弟のせいで上がっているギュス様奮闘記です。
追記
うん、仕事が入りすぎて土曜投稿できるか分からなかったので連日の投稿なんだ。次回の投稿予定は来週か再来週です。