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No.30175の一覧
[0] 人としてボトムズ(転生もの・短編)[布団](2011/10/19 10:54)
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[30175] 人としてボトムズ(転生もの・短編)
Name: 布団◆d94e23c0 ID:6fb3a67d
Date: 2011/10/19 10:54
ブリミル歴六千うん百年――トリステイン王国は西の果て、ド・グラモン伯爵領。

この日、後に全世界を震撼させる(予定)の男が領主の屋敷にて産声を上げた。

「立派な男の子ですぞ」
「おお、ついに産まれたか!」

執事の報せに喜びを現し、グラモン伯爵はいてもたってもいられないといった様子で分娩室へと飛び込んだ。

「あなた……」
「おお! これはまた、たまのような麗しい赤子ではないか! 将来はグラモンの名に恥じない人生を歩むだろう!」

この中年は今まで、正妻や妾に何人もの子供を産ませてきている。
そのたびに、大体いつも同じことばかり口走っているのだ。

「この子にはギーシュと名付けよう」
「いいお名前ですわ。……ね、ギーシュ」

己の腕の中で眠る赤子に対し、グラモン夫人がそう声をかけた瞬間――

「知らない天井だ……」

ギーシュが、突然口を開いた。
唖然となる両親を尻目に、まだ目も開いていない赤ん坊が長々と独り言を始める。

「なるほど……。ここがゼロ魔の世界か。ギーシュに転生なんて腐るほどあるからちょっと嫌だな。意地悪なナマモノだ」

わけがわからないよ。
皆の口から、どこかの白い宇宙生物のような台詞が漏れ出す。

「お、あんたらが俺のご両親か。これからよろしくお願いするわ」

なんなんだろう。なんなんだろう、これ。
グラモン夫妻は開いた口が塞がらなかった。

「……ん? どうして黙っているんだ?」

どうしても糞もあるか。
そう叫びたくなる衝動をなんとか必死に抑えつつ、グラモン伯爵は妻に向かって声をかけた。
それは酷く掠れた声だった。

「この子は……呪われている。悪魔憑きだ。残念だが……」
「え?」

このハルケギニアには一つ語り継がれているある教義があった。

『産まれてすぐ話始めたり、開かないはずのを目を開けて周囲を見回す。
 そういった不審な挙動を見せる赤子は始祖の敵である悪魔に憑かれている。
 そのようなあからさまに怪しい赤子はすぐに間引くこと。これは始祖ブリミルの教えの一つである』

生まれたばかりのギーシュの首に、助産婦の両手が添えられる。

「悪く思うなよ……」
「なんだと……」

この日、ギーシュ・ド・グラモンは生まれた瞬間に絞め殺されるのであった。










「ギーシュは死んだ。チート(笑)」

ここは例によって不思議な空間だ。

父親の命令によって絞め殺されたギーシュ(偽)は即座にこの空間へと送られ、白いナマモノに煽られていた。

「てめぇ! 俺をチート転生させるって言っただろうガァッ!」
「やれやれ……。確かにぼくはそう言った。実際、きみは生まれながらのスクウェアメイジで“幻想殺し”“一方通行”“未元物質”“超電磁砲”“心理掌握”“原子崩し”の能力の素養を持ち、それに木原神拳を習得していた。身体能力は東方不敗並みのポテンシャルだったっけ? 赤ん坊なのにいきなり喋れたし、目だって開いていただろう?」

少しはバランスを考えろ。
このギーシュに転生していた人物、相当に欲張りなようである。

「はぁぁぁ? “一方通行”の能力があるならなんで俺はあんなに簡単に殺されたんだよ!」
「それはきみの脳に“反射”に必要な演算を処理する能力がなかったからだよ。適性がないのに無理やり能力を付けた上に、まだ赤ん坊だったからね。ああ、あと能力を付けろとは言われたけど、初期状態から使えるようにしろとは言われなかったし」
「ぐぬぬ……。いや、身体能力は……」
「それはポテンシャルの話だよ。ああ、いきなり東方不敗並みの身体能力を得るって設定をすればよかったね」
「あばばば」
「ま、諦めて新しい人生を歩むんだね。ぼくが元の姿に戻れるようになるまでは、何度だって挑戦させてあげるよ」

この白いナマモノの容姿は、あの一世を風靡した魔法少女アニメのマスコットキャラクターそのもの。
ギーシュ(偽)も最初に出会ったとき、「ぼくと契約して転生者になってよ!」だなどとほざかれていた。
それをあっさり受け入れてチート片手に転生に挑む辺り、ギーシュ(偽)はよく訓練された〇じフ〇ン利用者であった。

「クソッ……。なんて時代だ……」
「そうだね。快楽を求めるあまり、首を吊りながら自慰をしてそのまま窒息死しちゃうクレイジーボーイが記憶を保ったまま転生できるなんて、とっても素晴らしい時代だよ」
「うっせぇボケ! 中学生の性欲舐めんな!」
「はぁ。わけがわからないよ。……いきり立ったイチモツをさらけ出したまま逝ってるきみを発見した妹さんには、心底同情するよ」
「……あ、妹で思い出した! そういやこっそり拝借した妹の下着をベッド下に隠したままだった!」

生前のギーシュ(偽)は色々と最低な人物のようだ。
しかし彼の生前の生きざまは本作の内容には性格程度しか関わらないため、描写はすべて割愛する。
こんなやつの前世など誰も知りたがらないはずだ。

「まぁ、それはどうでもいいんだけどね。また転生してよ」
「今度は最初から能力を使えるようにしろよ」
「いいよ。でも、その場合に付加できる能力は三つまでにしておいてね」
「はぁ? なんでだよ!」
「今のぼくでは“能力の素養”はいくらでも付加できるけど、“最初から発言した能力”は付加できる数に限界があるんだよ」
「ちっ、使えねぇヤツ」

ぺっ、とギーシュ(偽)は白いナマモノに唾を吐きかけた。
しかし、唾をかけられようとナマモノは怒ることをせず、淡々と続けた。

「……次はどんな能力にするんだい?」
「うーん、そうだなぁ。じゃあ……『ニコポ』と『江田島平八並みの身体能力』、『ゴンさんみたいに強制的に成長できる能力』にするか」
「首を“キュッ”といかれたのが相当トラウマになってるんだね」
「うるせぇ。……ま、『ニコポ』で先に洗脳しちまえば、江田島平八並みの馬鹿げた身体能力なんざ必要ないだろうが……」
「……ま、そうだね。それじゃ、またハルケギニアに送るよ」
「おう」

ギーシュ(偽)は「なんで今回もハルケギニアなんだ」と疑問を覚えないこともなかった。

またハルケギニアへ転生させられることに対し、ナマモノからの説明は特にない。
ナマモノは「元の姿に戻れるように」とかなんとか言っているが、ギーシュ(偽)は特に理由は知らないし、訊ねることもない。

彼の脳内には、

「現代知識(キリッで内政やりてぇ」
「ハーレム作りてぇ」
「原作ブレイクしてぇ」

とか、そんな極めて低俗な思考しかなかったから。


――そして、場面は再びグラモン伯爵の屋敷へと移る。


「立派な男の子ですぞ」
「おお、ついに産まれたか!」

執事の報せに喜びを現し、グラモン伯爵はいてもたってもいられないといった様子で分娩室へと飛び込んだ。

「あなた……」
「おお! これはまた、たまのような麗しい赤子ではないか! 将来はグラモンの名に恥じない人生を歩むだろう!」

余談だが、このおっさんは中年のくせに未だに自分より美しいものはないなどとまだ思っている。

「この子にはギーシュと名付けよう」
「いいお名前ですわ。……ね、ギーシュ」
「(……ここは喋らないようにするか)」

さすがのギーシュ(偽)も、雀の涙ほどの学習能力は持っていた。
今回は迂闊に話すことをしなかったのだ。
ギーシュ(偽)はニコポを使って自らの身を守るため、両親に向かって笑いかける――

「バブー」
「ああ……。なんて可愛いのかしら。この子は今までの子供のなかで一番可愛いわ……」
「本当にな……。そうだ、我が家の家督はこの子に譲ろう! ギーシュこそグラモン家を背負って立つにふさわしい!」

ぐへへ、ニコポはやっぱり最強だぜ。
天使のような笑みを赤子の顔で浮かべつつ、ゲスそのものの思考をしていると……。

「はぁはぁ……。本当に可愛いわ……。食べちゃいたい……性的な意味で」
「待て、ギーシュの尻は私のものだ」
「あら。じゃあ、前はわたしね。半分こしましょう」
「(なにさらっと恐ろしい会話をしてるんだよ、こいつらは!)」

ギーシュ(偽)は己の両親がおぞましい会話をしていることに身の毛がよだつのを感じた。

「ガァッ! なんでうまく行かないんだ!」
「あ、ギーシュちゃん!」

口の端から涎を垂らしながらグラモン夫人が股間に手を伸ばしてきたので、ギーシュ(偽)はついに逃走を決意した。

「ふんぬらば!」

瞬間、である。ギーシュは母親の懐から飛び出し、自らを『強制的に成長』させた。

「あ……ああ! ギーシュちゃんがアレも逞しそうなマッシヴナイスガイに!」
「うほ!」

ギーシュ(偽)は一瞬にして美しい筋肉を持った巨漢へと姿を変え、そのまま窓を突き破って分娩室を飛び出したのである。

「ギーシュちゃん! 帰ってきて!」
「だ、旦那様、これは一体どういう……」
「ええい黙れ! すぐにあのわが息子ながらいい男なギーシュを追うのだ!」

クソッ……!

せっかくニコポを使ったのに……、狂ってやがる!

またしても色々と失敗したギーシュ(偽)はグラモン家から出奔、魂のベストプレイスを求めて旅立つのだった。











「やぁ」
「……どういうことだ」
「今度の死因は脱水症状とかまぁ色々あるけど、要約すると“餓死”だね。いくら江田島平八でも、飲み食いはしないと死んじゃうんだよ」

三度目の死亡。

どうやら、彼はハルケギニアの東にある砂漠で迷って大往生したらしい。なんの装備も目的もなく砂漠に入ればそうなるのは当たり前だ。
ギーシュ(偽)は着々と“業”を積み重ねているようだ。

「もう赤ん坊からの転生はやめだ! ある程度育ってから転生させろ!」
「うーん。まぁ、いいけど。チート能力は一つだけになっちゃうよ?」
「ちっ、糞が。……今度はギアスだ。絶対遵守のギアスを寄越せ!」
「おk」

こうして、ギーシュ(偽)は三度目の正直を賭けてハルケギニアへと旅立つのだった。


――ギーシュ・ド・グラモン(偽) 五歳、夏。


「……ふぅ。やっぱり赤ん坊の状態で転生するより、こっちの方がいいな」
「ギーシュ? なに言ってるの?」
「ん?」

ギーシュ(偽)が声のする方向を見てみると、そこでは金髪縦ロールのロリータがじっと彼を見つめていた。
どうやら彼女はギーシュ(本物)の幼馴染、モンランシーのようだ。

「変なギーシュ。転生ってなに?」
「うん……。いや、素敵なことさ。はっはっは!」

ギーシュ(偽)はとりあえず原作のギーシュっぽい話し方をしてみた。ところが。

「どうしてそんな話し方をするの? あなた、ついさっきまでそんな口調じゃなかったじゃない」
「う、うん? そ、そうだったかな」

一瞬にして周囲の空気が剣呑になる。

「……ねぇ、“あなた”は誰? ギーシュをどこへやったの?」
「え? え?」

万事休すである。
目の前で急に人が変わってしまった幼馴染の男の子の様子に不信感を抱いたのだろう。
モンモランシーはギーシュ(偽)の腕を掴み、しばし目を閉じた。

「……やっぱり、身体の中の水の流れが違う。あなたはギーシュじゃないわ」
「は、はは……。なにを言っているんだい。ぼくはギーシュ、それ以上でもそれ以下でもないよ」

苦し紛れに後ろへ徐々に下がりながら取り繕うギーシュ(偽)に、モンモランシーは、

「 嘘 だ っ ! ! 」

「う、嘘じゃないって! モンモランシーきみはなにを言っているんだ」
「死ね。っつーか、ヤる」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!??」

ギーシュ(偽)は絶対遵守のギアスをかけて制止することも忘れ、一目散にその場から逃げ出した。

「どうなってるんだ、これは――」
「わたしのギーシュを返せ、この腐れ転生者が!!」
「お前も転生者かよ!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいっ! わたしは幼馴染のちょっと残念なイケメンの男の子と相思相愛になって結ばれる……、そんな恋愛に憧れていたんだ! 本物のギーシュの世話焼き女房的な関係で初潮と共に既成事実を作るために頑張っていたのに! それをよくもぶち壊しにしてくれたなっ!!」

マシンガンのようにモンモランシーはどうでもいい台詞を吐き出す。

と、ここで。
なにを思ったのか、ギーシュは急に立ち止まったのだ。

「いいぜ、お前が『ギーシュと結婚できる』なんて自分勝手なことを考えてるなら、その幻想をぶちころ――」
「死ね!」

半ばヤケクソ気味にそげぶポーズを取り始めるギーシュ(偽)。
しかしモンモランシーから向けられるのは一丁の黒光りする拳銃だった。

「チャカ……だと! お前メイジだろ!」
「は、転生者が魔法だけに頼るわけないでしょ!」
「なるほど、正論だ」
「わかったら死ね。あんたは殺して、わたしは時間遡行するわ。この時間軸は放棄よ」

クソッ。ここまでなのか……! ピストルを持った金髪碧眼幼女に撃ち殺されてしまうのか!

だがしかし、ここでギーシュ(偽)は閃いた!

ふと、生前の彼が愛読していた超人気ライトノベルのとある一節を唐突に思い出したのだ!

「やってやる……、俺は三度も死にたくねぇ!」
「あ、こら! 動くな!」

そこは幼女である。重いピストルの引き金を引くことにすら四苦八苦しているらしい。
これはチャンスだと、ギーシュ(偽)は近くのテーブルの上に置いてあった紅茶のポットを手に掴む。
そして、中身ごとそれをモンモランシーに向かってぶん投げた。

「きゃっ……あ、熱っ! 火傷しちゃったじゃない! ……でも、銃は撃てるわ」
「へ、そいつはどうかな。お前の銃は、今の熱湯でもう使い物にならねぇぜ?」
「……どういうことよ」

幼女モンモランシーの問いに、ギーシュ(偽)は右腕を突き出しながらキメ台詞を口にする。

「――熱膨張って、知ってるか?」

バァン。

どこか間抜けな擬音と共に。次の瞬間、ギーシュ(偽)は脳天を銃弾で貫かれていた。










「三度目の正直はならなかったね」
「もうどうすりゃいいんだよ。……つーか、他の転生者とか聞いてねえよっ!!」
「ああ、言ってなかったね。だって訊かれなかったし」
「このっ……それを言ったら……、戦争だろうが……っ!」

ギーシュ(偽)はギリギリとナマモノの首を締め上げるが、相手は人間どころか厳密には生き物ですらないので効果はない。

「はぁ。きみって、どんなチート能力を持っていても失敗する運命にありそうだよね。毎回、ドラ〇もんのオチの部分が冒頭に来るっていうかさ」
「うるせぇ。つーか、お前が俺をギーシュに転生させたのがそもそもの失敗なんだよ」
「……ふーん。じゃあ、ギーシュ以外の人に転生してみようか?」
「おう。もうギーシュはこりごりだぜ」

(中略)、こうしてギーシュはハルケギニアへの四度目の転生を迎えるのだった。


――XXXXXX・XX・XXX 十三歳、晩秋。


四度目の正直……などという言葉はない。しかし、彼はこの転生にすべてを賭けていた。

「ふふふ……。周りの光景がトリステインとは違うぜ。俺はとうとう安住の地に……」
「こんな状況で、お前はなにを言っているんだ?」
「え?」

元ギーシュ(偽)が周囲を見回すと、視界のすべてに武装した屈強な男たちが映りこんだ。
どいつもこいつも、豚のような顔にやたらと下卑た笑みを浮かべている。

「そうだ……、こういう連中はエロゲーなどで女の子を陵辱するときに使われるありがちな汎用キャラじゃないか」
「なに言ってんだこいつ?」
「さぁ? 恐怖のあまりにぶっ壊れちまったんじゃねえの?」
「まぁ、嫌でも現実に引きずり戻してやろうよ。俺たちが、な……ぐへへ……」

はぁ? なんだこいつら。
元ギーシュ(偽)は、背筋を走る嫌悪感と、どこか“噛み合わない”感覚。

「……ま、いつまでも話ていてもしょうがないさ。さっさと連れて帰ろう。それとも、ここで犯すか?」

犯す? ゲイかこいつは。元ギーシュ(偽)はそんな考えを持った。
しかし、男たちの足元にある大きな水溜りに映り込んだ自分の姿を目の当たりにして、彼は絶句することになる。

「……」
「なんだ? 今さら精神が現実に引き戻されたのか。哀れなこって」

流れるような薄い金色の髪。
処女雪をまぶしたような、白い肌。
いつか砂漠で交戦したことがある耳長の亜人が着ていた、緑色の服――

「な、な……」

そして、とうとう“彼女”は理解することになった。自分が誰なのか、そして今どんな状況下に置かれているのか。

「今度はティファニアかよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

その叫びと同時、彼女の腹に屈強な男の腕が突き刺さるのだった。










「ああー、また失敗しちゃったか。これじゃ、彼はもう駄目かもね」

不思議な空間で、ナマモノは賊に散々輪姦されるティファニアこと転生者をビデオカメラで録画しながら呟いた。

「でもまぁ……。転生者なんか他にいくらでも腐るほど用意できるし、まぁいいよね」

そう独りごちると、白いナマモノは録画を続けたまま、新たな転生者となるべき人材の検索を始めるのであった。



 おわり




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