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No.30130の一覧
[0] TAKERUちゃん、SES!!(ALの並行世界モノ)[PN未定式](2011/12/26 09:53)
[1] 第二話[PN未定式](2011/10/16 18:12)
[2] 第三話[PN未定式](2011/10/25 17:35)
[3] 第四話[PN未定式](2011/10/31 07:40)
[4] 第五話[PN未定式](2011/11/15 18:31)
[5] 第六話[PN未定式](2011/11/16 07:16)
[6] 第七話[PN未定式](2011/11/23 20:20)
[7] 第八話[PN未定式](2011/12/23 10:46)
[8] 第九話[PN未定式](2011/12/16 15:39)
[9] 第十話[PN未定式](2011/12/12 09:37)
[10] 第十一話[PN未定式](2011/12/23 11:46)
[11] 第十二話[PN未定式](2011/12/27 08:57)
[12] 第十三話[PN未定式](2012/01/01 17:17)
[13] 第十四話[PN未定式](2012/01/12 19:36)
[14] 第十五話[PN未定式](2012/01/10 22:51)
[15] 第十六話[PN未定式](2012/02/11 11:42)
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[30130] 第八話
Name: PN未定式◆a56f9296 ID:70e25a94 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/12/23 10:46
 不知火の通常量産型は、書類上は甲型と称される。特に注釈をつけず不知火、といわれる場合にはこのタイプを指す。

 これに対し、乙型と呼ばれる特殊仕様機が存在する。
 基本構造などには手をつけず、装甲や関節部に用いられる素材を頑強だが量産の利かないものに代えた機体だ。
 防御力は向上したものの、他の性能は甲型とかわりなく、それでいて生産コストは二倍近くに跳ね上がったため、総生産数はわずか十機。
 生存性の高さは確かなので、戦地での貴重なデータを取り、持ち帰るために大陸派遣軍に配備されたが、1996年末の時点では役目を終えて全機が戦地損失もしくは廃棄された。
 乙型はかなりマイナーな機体であり、戦術機畑の軍人ですらその存在を知らない者も多いほどだ。

 現在、メーカーに命じて前線の意見を入れた改修に取り掛かっているのが丙型で、まだ試作機も組みあがっていない。
(不知火甲型をもってしてもなお、大陸の激戦にある衛士から見るとパワー不足であり、さらなる高出力・重武装化が要求されたのは、関係者を愕然とさせていた)

 これらとは別に、不知火の原型となった機体を再設計し、高等練習機仕様とした仮称『吹雪』が存在する。
 第三世代機に衛士を慣れさせる役目を負うが、いざというときは補助戦力として投入することも視野に入れたため、実戦機に近い性能を持たされてる。
 それゆえ、コストはこの種の機体としては割高。

 以上の『不知火ファミリー』には、拡張性や発展性と呼ばれる改修余地がほとんど無いという共通点がある。

 帝国軍は、当初から不知火の輸出は考慮していなかった。
 あくまでも日本一国で生産し運用することを前提にしていたため、生産費が高騰するのは明白。
 このため、当面の機能に寄与しない部分はなるべく削り落とし、生産及び維持費を節減した。
 ハイスペック要求と並び、機体として袋小路に陥った理由のひとつだ。

 戦術機の拡張性は、機体の基本設計の段階でほぼ確定してしまう。
 単純にパーツを入れ替えればいい、というだけで話は済まないからだ。
 アビオニクスを交換する場合ひとつをとっても、

 新型パーツを設置できるスペースがあるのか。
 アビオニクスが発する熱を冷却ないし排出できる機能が用意できるのか。
 そもそもアビオニクスに必要なだけの電力が供給可能なのか。
 システム一式の機材が、重量許容の範囲内におさまったのか。

 そういった諸条件をひとつでも満たせなければ、実用は困難なのだ。
 無理に改修しようとするのなら、かなりの費用と時間を投じて再設計もしくは新技術開発が必要であり、

『一から別の戦術機を新規開発したほうが安くつき、かつ無理に改修しても性能は到底コストに釣り合わないモノにしかならない』

 という結論になってしまう。
 狙い通り新技術開発ができなければ、当然そこで頭打ちだ。

 戦術機は基本単価が高く十年、二十年と改良しつつ使い続けなければ国家財政が到底耐えられないのだから、この問題は軽視しえない。
 BETAが、既存機能内で対処不能なほど行動や戦法を変えてきた場合にはお手上げ、という点でも常に爆弾を抱えていることになる。
 にもかかわらず、帝国軍が不知火の量産を強行し続けたのには、軍事の範囲に留まらない複雑な事情があるのだが。

 一番の理由は、目先の事だけを考えれば、不知火が素晴らしい機体だったことだろう。性能はもちろん、生産性や整備性も良好であった。
 技術畑の帝国軍人や企業の技術者は、不知火を『所詮、ほとんどがアメリカ技術の模倣品に過ぎない』と自嘲するが。
 逆に言えば、ベースとしたF-15Cの完成度の高さを継承した、ということであり。
 通常なら、新造機につきものの予期せぬ欠陥や初期トラブル発生が、最低限に抑えられた利点がある。

 外交的にも、たとえ実像は『国産モドキ』と言えるようなものだろうと、第三世代機を独自開発できる力があると示した事は、大きな意味を持つ。
 これはソ連等の他国が、悪化する条件の中でも独自開発路線を止めないのと同一の理由だ。

 ――広い視点でみれば、この人類存亡の危機にも関わらず、仮初の団結さえ怪しい人類の業の証明なのかもしれないが……。

 ともあれ、帝国陸軍は1997年度予算で不知火のさらなる量産と、吹雪の制式採用を要求していた。
 公開の場での議論より、事前の密室での根回しがものを言う日本特有の『しゃんしゃん国会』で、それは承認されるはずだった。

 だが、国連軍横田基地で行われたある模擬戦が、波乱を呼んだ。
 富士教導団という日本最高の精鋭の駆る不知火が8機でかかって、新米国連軍少尉の乗った単独のF-15Eを落とせなかった――それどころか、ほとんどが返り討ちにされたのだ。

 『模擬戦と実戦は違う』という弁解は、通じなかった。
 なにせ国産機推進の御旗が、その模擬戦(瑞鶴対F-15Cの結果)だったのだから。

 改めて不知火について念入りな調査を行えば、例の発展性の件を隠し通す事はできない。
 戦術機についての知識がある者なら、『純国産の不知火』という美名の陰にある、国防の根幹を揺るがしかねない危機を察知し、青ざめる。

 不知火は、その場凌ぎの急造兵器ではなく、帝国軍の戦力中核を担う主力戦術機だ。
 事前に情報があれば、不採用――は、さすがに無いとしても少数生産に留め、より総合バランスの取れた次を開発する選択肢もあったのだ。
 その選択肢が、恐らく関係者の保身や面子のために潰れた。

 帝国議会は連日紛糾し、軍と議員の板ばさみとなった内閣は大混乱に陥った。
 久々にヒートアップした議会の予算審議委員会では、普段は肩で風切る高級士官や国防省官僚が、ほとんど吊るし上げに近い質問攻めにあっている光景が、連日展開された。
 委員会が、国防機密を扱う場合があるゆえの秘密会でなければ、さぞニュースや新聞を賑わせたことだろう。

 陸軍内部でも、論争があちこちで勃発した。
 非常時を名目に当初要求案で押し切るか、それとも別の方策を考えるか、で一致できなかった。

 不知火の成功によって肩身の狭い思いをしていた者達が、追及の急先鋒に立ったのは当然のことだった。
 もっとも苛烈な態度をとったのは、国産派であっても開発方針に異論があった連中だ。
 彼らは帝国技術の限界をよく知悉しており、まずは警備・拠点防衛・迎撃などの比較的軽任務に当てる戦術機を作って『習作』としてから主力クラスに取り掛かるべき、という意見を持っていた。
 さらに不知火系列に見られる操縦性の悪さも、隠れた問題として指摘していた。
 不知火はもとより、吹雪ですら外国の同レベル機と比べると操作がピーキーで、熟練するのに時間と訓練費用がかかるきらいがある。
 帝国軍の衛士育成環境は、今は恵まれたものを用意できているが、将来的な消耗戦を考えると、練度の低い衛士であっても十分な性能が引き出せるような配慮が望ましい、と。
 なまじ国産という点では一致していただけに、『スペック至上の不知火推進派』の勝利によってポストを追われたり、などの実害が発生していただけに、ここぞとばかりに反攻に出たのだ。

 この混乱は、容易に収拾できそうもなかった……。





 太平洋の青い波濤を蹴立てて、一隻の大型艦が進み行く。
 強い日光を受け止めるのは、長く伸びた飛行甲板。

 HMS クイーン・エリザベス。

 イギリス海軍が持つ、大型戦術機母艦の一隻だ。
 英国海軍より国連海軍に貸し出され、普段はアフリカ・東南アジア間の戦力輸送あるいは非常時の緊急戦力投射に用いられていたが。
 現在は、イギリスに一時指揮権が返還され、日本へと舳先を向けている。

 その艦内にある貴賓室では、英国人にとっては何より大切な午後のティータイムが楽しまれていた。

「イギリスは、ちっぽけな島国だ。資源は乏しく、地勢的には常に大陸との緊張を余儀なくされてきた。
にもかかわらず、世界の覇権を長年維持していた。落ち目の現在でさえ、世界屈指の大国の地位を維持している。なぜかわかるかね?」

 テーブルの上座につく一人の老人が、世間話のようにそう口にした。身に着けているのは、黒を基調としたフロックコート。

「節操がないからです」

 答えたのは、英国陸軍の制服をまとった精悍な中佐だった。
 他国人が見たら、目を剥くような言葉だ。

 だが、老人は咎めるどころか満足げにうなずいた。

「そう。我が英国は、いくつもの顔と何枚もの舌を使い分けてきた。
第一次大戦では、かつての植民地だったアメリカに頭を下げた。
第二次大戦の折、ナチスに勝つためにはソ連とさえ手を結んだ。
1985年の対BETA本土防衛戦の際には、アメリカ軍や国連軍はもちろん、西欧各国軍、社会主義を堅持したまま亡命してきた旧東側諸国軍。
彼ら全てを戦わせ、そして途中脱落させなかった」

 老人は、一息ついてからさらに言葉を紡ぐ。

 彼の名は、サー・アーサー・ダウディング英国陸軍予備役大将。
 現在は、イギリス上院(貴族院)議員。

 欧州の対BETA戦屈指の激戦であり、また人類が勝利を収めた数少ない戦い・英本土防衛戦において、欧州連合総司令官を務めた古強者であった。
 だが、その風貌はむしろどこかの古い大学の教授、といった印象だ。
 貴族の称号たる『サー』を持つが、代々の名家の出ではない。
 人類と英国への貢献を賞賛され、個人の力量によって貴族の地位を与えられた者――いわゆる、一代貴族だ。

 イギリス議会の上院は現代の貴族で構成されるが、この中で世襲貴族の席は人数に制限がかけられている。
 そして、『もっとも上質な議論が見たければ、イギリス上院へ行け』と政治の世界では言われていた。
 個人の信条から貴族の地位を受けない者達を除けば、名実ともにイギリスの選良が一代貴族層であった。
 その代表の一人、といわれるダウディングは、居並ぶ陸海軍の士官達に、諭すように続けた。

「国家危急存亡の時に、国民に『誇りをもって理想的に、潔く死ね』というのは英国の取る道ではない。
『悪魔と手を結んででも、希望を用意するから全力を尽くせ』と示すのが、我々のやり方だ。常にそのことを心得えねばならない」

 世に、『グレートブリテン防衛の七英雄』と呼ばれる者達が存在する。
 彼らの多くが、イギリス人で無いことは酷く象徴的であった。
 つまりは、イギリス人以外がそこまで熱心に戦う――戦わざるを得ないように、環境を整えたのだ。
 名誉を得た少人数の生存者と引き換えに、どれほどの『外国人』がイギリス国民の代わりに血を流したか。
 無邪気に英雄の名声を信奉し、憧れるような人間……あるいは、自国民以外が持ち上げられる事に耐えられない狭量な者には、理解が及ぶまい。
 称号ひとつとっても、その裏には生臭い打算の匂いがあるのだ。

 無論、イギリス人が遊んでいたとか怠けていた、という話ではない。
 他国軍をそこまで使った上で、英軍もまた多大な犠牲を払い最善を尽くしたからこそ、一時はロンドンまで汚い足を伸ばしてきたBETAを英本土から叩き出す歴史的勝利をもぎ取れた。

 共産主義思想こそが絶対の聖典であり誤りは欠片もない、という妄念にとりつかれたゆえに多くの国民に犠牲を強いた挙句、地上から本国が消えうせた東欧国家群。
 アメリカや国連にイニシアティヴをとられるのが嫌だから、とその助力を半端に拒み続けるアジア諸国。
 ソ連はそろそろ『赤い夢想』から覚めてアメリカに泣きついたが……判断が遅れたゆえ、却っていいようにアメリカの盾にされている。
 いずれも、イギリス的視点から見れば笑い話にさえ値しない。

 イギリスのこの歴史的態度のせいで、現代まで尾を引く紛争の火種が世界に撒かれているのも確かであるが……。

 女王陛下を頂点とする封建時代の気配を色濃く残しながら、同時に近代民主主義の手本の一つとなった国家。
 ある時はアジアやアフリカに対する容赦ない侵略者として、ある時は自由主義を掲げ粘り強くナチズム・ファシズムと戦う正義の国として、豹変を続けてきた。

 そのイギリスが打った次なる手が、戦術機開発だ。
 元々は国際共同開発であった欧州製戦術機は、戦況や開発環境の悪化から参加国が次々と手を引きあるいは資金と人材を渋るようになった。
 だが、その中で実質的に単独開発となっても尚、イギリスは諦めなかった。
 そして、1994年にはESFP(Experimental Surface Fighter Program)実証機の試作、という形で成果が世に出た。
 これは、制式採用機並の実戦使用に十分耐える完成度を持ったものであり、全身に装備されたスーパーカーボン製ブレード(空力制御装置を兼ねる)が特徴的な、れっきとした第三世代機だ。

 名を、EF-2000 タイフーン。

 イギリスは、

『実質単独開発になったのだから、イギリスが独占する』

 などと言うことは言わず、実戦デモンストレーションの良好な結果に興味を示した欧州各国に情報を開示、数年後の本格増産体制を目指した。
 既に独自第三世代機(後のラファール)実用化の目処が立ったフランスは呼び戻せなかったが、西ドイツやイタリア等の国々とは、話がまとまりつつある。
 将来の欧州奪還作戦――イギリスから見れば、自国への脅威を遠ざける――を睨んだ戦略だ。
 雑多な機種を各国が使っているために、兵站上の無駄がある欧州連合軍の現状を改善する意味でも、タイフーンは成功させねばならない。

 だが……無視しえない情報が地球の裏側から発信された。

 日本帝国の不知火が、アメリカのF-15Eに言い訳のきかない大敗を、模擬戦で喫したというのだ。

 F-15シリーズは、欧州第三世代機にとっては、先行しかつ成功したライバルであり注意が必要な相手だ。
 不知火については日本帝国の方針もあって、欧州にはほとんど影響を持たないはずだが……

『欧州の第三世代機開発には、日本帝国からの水面下での技術提供がある』

 という『無責任な噂』の存在から、思わぬところで飛び火しかねない。
(欧州から見て、安全な開発環境がある日本の技術。
そして日本からみて、欧州の豊富な実戦証明が為された技術・データが、お互いにとって大きな価値を持つであろうことは事実だ。
戦術機開発市場における、アメリカの一強を嫌うという利害の一致も……。
これについて、イギリスの態度は『提供』については否定、『交流』についてはノーコメントという曖昧な態度を取っていた)

 F-15Eに、せっかく確保した顧客を持っていかれてはたまらない。

 イギリスは、タイフーンの実戦試験を国連軍に任せているように、国連との関係は良好でありパイプも太い。
 下手な当事者達よりも豊富な情報をキャッチし、分析した結果。
 日本帝国に人を出し、実地的な調査を行う必要有りと認めた。もちろん、表向きは別の口実をつけて。

 日本に向かうのは、人類の団結を示すセレモニーの一つであり、歴史的な友情を確かめる使節団を送り届けるため、ということになっている。

 陸軍の中佐――実は、情報部所属――は、馥郁たる紅茶の香りを楽しみながら、

「で、今回の事件の中心人物……TAKERU=SHIROGANE国連軍少尉は、さてどんな処分を受けるでしょうな?」

 と、口にした。
 『イーグル・ショック』を演出した少尉は、現在は処罰が決まるのを待って拘禁されている最中だ。

「厳格に軍法を適用するなら、重罰が下されてもおかしくはないでしょう。が、まずそれはありませんね」

 応じたのは、帝国の皇帝などを表敬訪問するために来た上院議員だった。ダウディングと同年代の女性だが、スーツをきっちりと着こなし背筋も若々しく伸びている。

「第一に、あまりに強く処罰すると、もう一方の当事者である帝国軍、監督責任を持つ米軍も身内に厳しくする必要が出ます。
国際関係上、亀裂が大きくなるのはよろしくない。
第二に、これほどの能力を示した人材を放逐できるほど、在日国連軍の駒は豊富では無いでしょう。
もっとも、除隊になったのなら、おおっぴらに英国軍入隊を誘えるのですが、ね」

 難有りであろうと、優れた衛士技能を持つ兵士は貴重なご時勢だ。
 叩かれた帝国軍を含めて、いくつもの軍がかつてのスポーツの有力選手獲得競争のような動きを見せても不思議はない。
 アメリカが、市民権付与を餌として外国人や難民から大規模に兵を募っていることは有名だが、同様の事は多かれ少なかれどの国もやっている。やらざるを得ない。

「……在日国連軍に、F-15Eがある。
この時点で、日本側からすればアメリカへの邪推をしようと思えば、いくらでもできる余地がありますからな。
そして、ボーニング社の影があるのは確かです。あるいは、そちらから事態を穏当に収めるよう動きがあるかもしれません。
さる米軍の大物が、すでに日本に到着したようですし……」

 中佐はさらりと言ったが、表面には出ない事情を把握してなければ、出ない台詞だった。

 ダウディングが、ゆっくりとカップを取り上げながら言った。

「ついでに日本帝国軍の実力も、とくと見せて貰うこととしよう」

 この場合の実力とは、単純な兵力とか兵器の性能ではない。軍組織の体質や、軍事をバックアップする政治や国民の志向等を含めた、国家としての総体的な力の事だ。
 その事を理解できない者は、この場にはいなかった。

 彼らイギリスの『親善使節』の目的は、情報収集が基本だ。だが、場合によっては事態に対して何らかのアクションを起こす準備と覚悟はしていた。
 それを示す物は、格納庫で静かに眠っている……。





 俺、白銀武への拘禁が解かれたのは、もう空気が身を切るような寒さを帯びる冬の季節に入った頃だった。
 模擬戦直後から二週間ほど、基地内の、牢屋よりはマシ程度の部屋に閉じ込められていた。

 因果情報通りなら、約二年後には日本は地獄と化す。関東以西が、壊滅するのだ。住まう人々の命も、数千万人分失われる。
 俺の故郷・横浜や家族友人達も、まず逃れられない。
 それを思えば、冷たい壁に囲まれた中でも焦燥の炎は俺の胸の中で燃え上がるのだが……。
 自業自得、いかんともしがたかった。

 いっそ、厳罰でもいいからひと思いに処分を下してくれ、と願った事は一度や二度ではない。

 最初の数日は、顔に『秩序の番人です』と大書しているようなしかめっ面の法務官がやってきて、戦術機の記録装置から抜いた情報を細かい所まで提示し、俺に事実と違いないか確認を取った。
 信頼性からいえば、人間のあやふやな記憶よりもずっと機械のほうが上のはずなのだが、これも手順というものだった。

 だが、一週間ぐらいたつと法務官は来なくなり、部屋を訪れるのは食事を配膳する係員だけになった。
 事件の処分が、国連軍以外にも絡む事なので紛糾している、ということは予想がついた。

 仕方なく俺は、焦りを紛らわす意味もあって狭い室内で体力トレーニングや、戦術機操縦のイメージトレーニングに没頭した。
 まだ受刑者と確定した立場ではないため、頼めば雑誌や新聞の類は取り寄せられた(費用を払う必要があるが)のだが、興味は全くわかなかった。
 申請すれば、面会を誰かに求める自由ぐらいはあるのだが、これにも気分が向かない。

 だから、処罰が下るとわかっていても拘禁室から出られた時には、安心を覚えたぐらいだ。

 俺がMPに付き添われて向かった先は、覚悟していた軍法会議の場ではなかった。
 入れ、と言われた時にはえっと声を上げたぐらいだ。

 その部屋――SES計画にあてがわれた事務室の扉を仕方なく開くと、ロディ=ストール中尉が出迎えてくれた。

「TAKERU!」

「中尉。このたびは、ご迷惑を……」

 恐縮して頭を下げようとする俺の肩を、ストール中尉は軽く叩いた。

「気にするな。それより、いきなりやってくれたなおい! 今、基地中……いや、在日国連軍全体が、お前の噂で持ちきりだ!
凄い奴だってな! 青っ白いエリートどころか、とんでもない暴れ馬だとさ!」

 何がそんなに楽しいのか、というほど笑顔の中尉の態度に、俺はちょっと引いた。
 これは、励ましてくれているのだろうか? 外国人のアクションは、未だによくわからんところがある。

「あの、俺への処罰は、どうなったんでしょう? それに、計画全体は……?」

 これまで俺が私的に作った人脈は、まだまだ細いモノだ。その証拠に、俺を助けようと接触してくる高官は一人もいなかった。
 だから、どれほどの影響を与えているか不明だった。

 中尉は、表情を引き締めると何枚かの書類を渡した。
 受け取って目を通すと、それは懲戒処分としての注意と半年の減俸処分を命じるものだった。

「……え。こ、これだけ!?」

 軽いか重いか、といえば新米少尉の懐を考えるとかなりきついものだ。軍歴に汚点として残り続ける。
 が、これはいわゆる軍法による処分ではなく、基地司令官の裁量に属する簡易処罰だ。
 やったことに見合うものとは思えない。

「今回の一件で下された処分は皆そんなものらしい。国連軍や米軍で懲戒・減俸はかなりの人数に下されたが、軍法会議にかけられた者は一人もいないそうだ。
……帝国軍がどう処理したか、はまだ俺は知らないが」

 ストール中尉は、処分が軽く済まされたのを普通に喜んでいる。

 俺は、腹の中に鉛を詰め込まれたような不安を覚えた。これは……どういうことだ? 誰が、何の目的でその程度に抑えた?
 身に覚えのない借金を、知らぬ間に背負わされていたような感覚に、背筋を軽く震わせた。

「で、SES計画のほうなんだが……まぁ、これはハンガーにいって自分の目で見てきたほうが早いだろうな」

 中尉の悪戯っぽい物言いに、俺は小首を傾げる。

 ……とりあえず、考えたり情報を集めたりするのは後だ。
 まずは、今回迷惑をかけた先――整備班や、ブレイザー少佐の隊――に義理は通さないといけない。
 ほかにもいろいろ気になったり考えるべきことはあるが、ひとつひとつ片付けていこう。鈍った操縦カンも戻さないといけないし……。
 そう思考を切り替えると、俺はひとつ息を整えた。





 ――『イーグル・ショック』において、もっとも得をしたのはボーニング社であった。
 貴重な……限界までF-15Eを使いこなしたデータが入り、同時に大きな商品としての宣伝材料を手に入れたのだ。
 アラスカのフランク=ハイネマンは、普段の彼からは想像もつかないような大笑いを堪えることができなかった、という。

 損をしたのは、日本帝国だ。
 不知火……ひいては戦術機開発・調達体制そのものの現状を問題視する声は大きくなり、富士教導団(彼らに教導されている帝国軍戦術機部隊全体)の面目も丸潰れ。

 ブレイザー少佐や白銀少尉に、命に関わりかねない行為を行った富士の大尉は、辞表を提出し即日受理された。
 軍エリート達の習性ともいえる、いわゆる『身内庇い』の行動をもってしても誤魔化しきれない失態であることは明白だったのだ。
 事態を収拾した者の一人が、神宮司まりもという堅物と評される士官だったことも、うやむやな扱いを難しくした。

 大尉が自ら引責したことで、国連軍や米軍とのバランスからほかの者達は比較的軽微な罰で済まされたものの……。
 周囲の冷視線に耐えかね、次々と転属願いを出しているという。

 帝国軍人の多くは、突如勃発した戦術機装備を巡る混乱に意識を奪われていたが。
 一部の衛士達は、白銀武という名を胸に刻み、密かに含む物を覚えていた――。


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