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No.30130の一覧
[0] TAKERUちゃん、SES!!(ALの並行世界モノ)[PN未定式](2011/12/26 09:53)
[1] 第二話[PN未定式](2011/10/16 18:12)
[2] 第三話[PN未定式](2011/10/25 17:35)
[3] 第四話[PN未定式](2011/10/31 07:40)
[4] 第五話[PN未定式](2011/11/15 18:31)
[5] 第六話[PN未定式](2011/11/16 07:16)
[6] 第七話[PN未定式](2011/11/23 20:20)
[7] 第八話[PN未定式](2011/12/23 10:46)
[8] 第九話[PN未定式](2011/12/16 15:39)
[9] 第十話[PN未定式](2011/12/12 09:37)
[10] 第十一話[PN未定式](2011/12/23 11:46)
[11] 第十二話[PN未定式](2011/12/27 08:57)
[12] 第十三話[PN未定式](2012/01/01 17:17)
[13] 第十四話[PN未定式](2012/01/12 19:36)
[14] 第十五話[PN未定式](2012/01/10 22:51)
[15] 第十六話[PN未定式](2012/02/11 11:42)
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[30130] 第十四話
Name: PN未定式◆a56f9296 ID:25840607 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/12 19:36
 日本帝国においては、92式多目的自律誘導弾という名称で採用された、戦術機用のミサイル。
 戦術機の肩部ハードポイントに装備するコンテナに納められている、という構造上、一発あたりのサイズは小さく必然的に射程は短い。
 それでも、突撃砲弾よりは飛翔距離が長い。
 何より、ミサイル一発一発にレーダーと誘導システムが内蔵されているため、自動的に敵を識別・追跡して飛んでいくから、命中精度は非常に高かった。
 ……その分、コストも高く製造にも高度な技術を要するがな。

 俺は、F-15Eの管制ユニットの中で呼吸を整えながら、そのミサイルの発射体制に入った僚機からの合図を待つ。

「A11、フォックス1!」

 制圧支援装備のF-15E。その両肩が、ジェット噴射の白煙を上げる。
 コンテナから飛び出した数十発のミサイルが、夕闇迫る演習場の空へと躍り上がったのだ。
 ――実際には、安価な演習用ミサイルであるのだが、JIVESの効果で実弾同様の迫力。
 まず、A11が全弾発射。数秒の時間をおいて、残り最後の制圧支援機・A12がミサイルを発射する。

「Aリーダーより全機、突撃せよ!」

 中隊長の、実戦と遜色ないほど気合の入った命令に従い、俺はフットペダルを踏み込んだ。
 これまで盾にしていた岩の陰から飛び出し、ミサイル群を追いかけるようにF-15Eがサーフェイシングに入る。
 残りの仲間……全弾撃ち尽くして不要になったコンテナを捨てた制圧支援機を含めた全機が、同様に動く。

 俺達が相談し準備を整えている間、敵の中隊は慎重に前進してきたらしく、やや距離は詰まっていた。
 その頭上に向けて、ミサイルが不規則な軌道を描きながら殺到する。

 敵の戦術機の反応は、あの神業的な遠距離砲撃をやった連中にしてはやや鈍かった。
 それでも、無様に棒立ちでミサイルを喰らう奴はいない。ジャンプユニットの炎を吹き上げながら、重装甲のF-4が後方に、あるいは左右に飛び退る。
 中には、ミサイルに向けて突撃砲弾を撒き散らす機体もあった。

 弾幕に絡め取られたミサイルが、空中で大きく爆ぜる。爆音と衝撃波が、空気を激しく震動させた。
 ミサイルの中には、あらぬ方向へ飛んでいくものもある。相手からの妨害電波を受けた奴だ。

 大盤振る舞いしたミサイルで、撃破できた相手はゼロ。
 だが、最初からそれは計算のうち――俺は、全身にのしかかるGを受け止めながら、一機のF-4に急接近した。
 網膜投影画面中の、彼我の距離を示す数字がどんどん小さくなり、1000メートルを切った。

 墜落した誘導ミサイルが上げた黒煙が流れる先にいる敵影をロックオン。
 俺は、120ミリ砲弾を武装選択すると、迷わずトリガーを引いた。
 こちらに気づいたF-4は、ジャンプユニットを吹かして横転回避に入る。その機動に、見覚えがあるような気がした。

 だが、避けられるのは予想の内だ。
 敵のジャンプユニットが残した噴射炎を空しく貫く、と見えた120ミリ砲弾が、爆ぜた。弾種は散弾弾頭だから、ばらまかれた子弾がF-4に殺到する。
 重装甲のF-4系列機に本来なら効果は薄い攻撃だが、それでもセンサーや関節部などの脆弱箇所に被害が及べば、動きは鈍る。
 回避されることを見越して打った一手だったのだが、狙いにはまったようだ。
 俺は、F-4の回避機動が一瞬停滞した隙を逃さず、ペダルを蹴りこんでさらに距離を詰め、36ミリ砲弾を乱射した。

 攻撃が外れても、とにかく距離を詰めて乱戦・混戦に持ち込む。それが、俺達の作戦だ。
 俺の視界の中心で、全身を36ミリ砲弾に乱打されたF-4が、糸が切れた人形のように倒れこむ。
 ようやく一矢報いた、撃破だ!

 よし、とつぶやく俺に別のF-4……いや、国連軍カラーの撃震が横合いから突っかかってきた。
 悪くない動きだが、一呼吸遅い。
 こちらは既に体勢を整えなおしていた。

 撃破され機能を停止したF-4の頭上を飛び越えるように、ショートジャンプ。着地直前にジャンプユニットの左側だけを吹かして、垂直軸旋回。
 急激な重圧の連続だが、俺にとっては十分許容範囲だ。
 撃震が一瞬俺のF-15Eを見失ったらしく、あらぬ方向に突撃砲を向けていた。

 そこにつけこんで、至近距離から120ミリ砲弾を叩き込む。今度は徹甲弾。
 発砲した瞬間に、確かな手ごたえを感じた一撃を喰らい、撃震が爆炎と化す。仮想空間でなければ、相手を粉々にしていたであろう、会心の攻撃だった。

 ――どうにも違和感があるな。
 俺は、心の中で呟いた。
 あの遠距離戦での砲撃に比べると、近距離戦の対応能力はさほどでもない。せいぜい、水準ってレベルだ。
 距離を詰めても、相応に苦戦する事を予期していた身としては、つい首を傾げたくなってしまう。

 そう油断したのがいけなかったのかもしれない。
 いきなり、被ロックオン警告が網膜画面の中心に表示された。
 咄嗟にF-15Eを沈み込ませる回避アクションを取れたのは、これまでの訓練と、オリジナル武からの『払い戻し』のお陰だった。

 普通なら、完全に俺の機体の頭部を撃砕していたであろう一撃が、頭上を通り過ぎていく。

 死角を取られた!
 訓練であることを完全に忘れるような衝撃が、俺の意識を駆け抜ける。

 いつの間にか、敵中隊のF-16(恐らく、今までは後衛にいたのだろう)が俺の斜め後ろ――兵器担架による後方射撃でも、射線が取れない位置――に忍び寄っていたのだ。

「なんだよこれは!?」

 俺は思わず喚いていた。
 死角あるいは体構造上、敵が反応しづらい方向から攻撃、というのは相手が人間だろうがBETAだろうが有効な、必勝戦術。
 とはいえ、不断に動きながら警戒している戦術機に対して、『ここしかない』という絶妙のポイントを取るのは、至難。
 下手をすれば、A級のアクロバチックな機動制御をするより高度な技術といえる。
 天の高みから、他人事のように戦場を俯瞰するような冷静さと状況判断能力が必要だ。

 俺はF-15Eの運動性を最大限に生かし、乱数回避を開始した。
 それにあわせてF-16が、こちらのセンサーの影にするりと入り込むように動いてくる。
 ……冷静に観察すれば、機動自体はさして鋭いとも見えないが――それでも、こちらの動きを把握しきっているように、嫌らしい位置に回り込もうとしていた。
 しかも、決して一定以上距離を詰めてこようとしない。
 近接格闘に巻き込んでやりたい俺の狙いを、読んでいるかのようだ。

 どんな手品を使っている!?

 まず俺が疑ったのは、敵の指揮車両の存在だ。
 戦域管制能力に優れた指揮車なら、こちらの動きを解析し弱点となるポジションを判別、誘導することができるはず。
 だが……俺はすぐにその可能性を捨てた。
 自衛能力が無きに等しい指揮車が、戦闘区域に入るのは自殺行為だ。
(対BETA戦においても、指揮車が本来の能力を生かす前に撃破される、というケースはしばしばあった)
 何より、俺達は敵も含めて時速数百キロの世界で移動している。車両の速力(整地でも時速百キロも出ない)では、到底ついてこられない。

 苛立った俺は、富士教導団を相手にした時のような、限界をぶっちぎる機動を決断しようとした。
 別に今までの訓練で、手を抜いていたわけじゃない。
 ただ、限界を攻める動きをさせると、機体の関節部が追随しきれず逆に危機を呼ぶ可能性があるから、ある程度はセーブしていたのだ。

 自分の中のリミッターを外すため、俺は腹の底に力を篭め……ようとした時、めまぐるしく動く視界の隅に妙な影を見つけた。

「!?」

 俺は、F-16をいなしながら、そちらに注意を向ける。

 ……激戦の渦中からやや離れた場所で、追尾してくる戦術機がいた。
 間違いない……最初にアウトレンジ砲撃を喰らった際にかろうじて見えた、俺の知識には無いシルエットを持った奴だ。
 大型の機体の各部に取り付けられた瘤状のパーツが、しきりに動いている。

「センサーポット……?」

 機体全体はともかく、『瘤』には辛うじて覚えがあった。
 『偵察戦術機』と呼ばれる、ごく少数の機体に装備されるパーツにそっくりだ。
 戦術機特有の機動性や生存性を生かし、航空機等では不可能な索敵や綿密な情報収集を担う機種。
 レーダー、センサーにペイロードを多く裂いた分、戦闘力は通常型戦術機より劣る存在が、なんでこんな場所に?

 IFFは、その大型機が敵側所属であると判断していた。

「――こいつか!?」

 相手中隊の異様な能力、動きの大元は!

 俺は思索を進める暇を惜しみ、直感に従ってレバーを操作した。
 ジャンプユニットの出力を緊急レベルに叩き込み、大型機のほうへホライゾナルブースト(水平跳躍)をかける。
 慌てたようにF-16が追随し、けん制するようにこちらに火の玉のような砲弾を放ってくるが、俺はそれをパワーに任せて引き離す。

 大型機も手に突撃砲をもっており、その砲口をこちらに向けてきた。F-15Eの装甲がみしみしと軋むほど加速した俺の機体に、ぴったりと狙いをつけてくるが――機体全体の挙動は鈍い。
 模擬戦の最初に喰らったのと同じような、恐ろしい精度の砲撃が、大型機から放たれる。
 俺のF-15Eの手に持った突撃砲が直撃を貰い、使用不能に。持っていた右腕にもダメージ。
 が、俺はかまわず突進を続けた。
 突撃砲を捨て、まだ無事な左腕にナイフを引き抜かせつつ、数秒の間に大写しになる大型機を睨みつける。

 俺のナイフが、大型機の胸部を鋭く横一文字に切り裂いた。
 同時に、攻撃の反動ではない衝撃が、俺の体を襲う。
 追撃してきたF-16の砲撃が、ついに命中したのだ。

 網膜画面に、久々に見る『致命的損害』の文字が点滅する。

 撃破判定を受けたF-15Eが、自律的に着地シークエンスに入るのを感じながら、俺は深く溜息をついた。

 ――タチの悪いペテンに引っかかった。それが、俺の偽らざる気分だった。



 模擬戦の戦況推移は、恐ろしく変則的なものだった。

 まず、俺の所属するA中隊はアウトレンジからの砲撃で半数に撃ち減らされた。
 その後に、中隊長の指示でミサイルを煙幕代わりに接近戦。それなりにいい勝負になったものの、敵が体勢を立て直すとあっという間にまた劣勢に。
 しかし、A中隊が残り三機になったところで、俺が謎の大型機を相討ちの形で撃破した。
 すると生き残っていたB中隊の連中は、まるで魔法が解けたかのように動きがばらばらになり……。
 A中隊の生き残ったF-15E二機が、残りのB中隊を全機を、それなりに梃子摺りながらも各個撃破。

 訓練が終わった後にようやく知らされたのだが、A中隊は米軍や国連軍のF-15乗り、いわゆる『イーグル・ドライバー』の中でも練度上位者が集められたエース部隊編成だった。
 そして、敵役だったB中隊の大半は――

「……ああ、やっと念願のTAKERU少尉撃破がかなったのに、結局こちらの全滅で負け、か」

 大袈裟に肩を落としたのは、ボラン=ユン少尉だ。
 その左右には、ここ二ヶ月ほど訓練を共にした『技量劣悪』の衛士達が、無念そうな顔を揃えている。
 彼らもまた、模擬戦に参加していたのだ。相手の挙動に見覚えがあるはずだよ。
 ストール中尉の言う所の、高速道路効果のお陰か、彼らの技術は長足の進歩を遂げているようだった。
 もう技量劣悪の看板は外しても大丈夫だろう。
 ブレイザー少佐は、こうなることを見越して俺にとにかく全力で訓練の相手をしてやれ、とアドバイスしてくれたのかもしれない。
 ……それはいいのだが。
 遠距離砲撃戦はじめ、いくつかの戦術行動は、彼らの向上した技量でも為せる業じゃなかった。

 ユン少尉らと対面する位置に椅子を置いて腰掛けているのは、俺を含むA中隊の衛士達。
 こちらは、最終的に勝った側ではあるが……釈然としない表情なのは全員共通。
 あまりにも不可解な模擬戦の推移、そして結果だった。

 ここは、横田基地の衛士用ブリーフィングルーム。訓練後の反省、検討、総評を行う場所だ。

「――そろそろ、種明かしをお願いできませんか?」

 A中隊全員の意志を代表して、リーダーだった米軍大尉が鋭い視線を訓練監督役の中佐に向けた。

「そう睨むな。別に、諸君らに含む所があるわけではないし、この期に及んで隠しもしないさ」

 軍人というより技術者、という風情の細面の中佐は、手元の端末を操作する。
 壁に取り付けられた大画面に、一機の戦術機が映し出される。俺が撃破した、大型機だ。

「この機体は、試作型早期警戒管制戦術機・XE-10だ。
B中隊は、この支援を受けていた」

 あまりに長い機種の肩書きに、はぁ? という声がA中隊の衛士の中から上がった。
 俺も、思わず首を捻った一人だ。

「端的にいえば、戦術機版のAWACSだな」

 AWACS――airborne warning and control systemの略称だ。
 大型の航空機に高性能のレーダーと電子戦装備、さらに指揮管制装置とそれを操る人員を乗せて運用する、空飛ぶレーダーサイト兼前線指揮所。
 1970年代に登場したこの機種は、圧倒的な索敵能力と航空機ならではの行動力で、将来の高度情報化した戦闘を左右する、といわれていた。
 敵をいち早く発見し、データリンクによって味方に通報。さらに、複数の脅威を同時処理して、味方機を有利に戦わせるように戦闘行動を管制できる。
 その支援効果は、戦闘機のみで戦う場合と比べて圧倒的に戦力価値を増大させる、と試算されているほど。

 だが、BETAの登場によって航空戦自体がまずありえない物になったため、れっきとした軍人ですらほとんど忘れ去っているものでもあった。

 確か、アメリカ空軍が南米の政情不安国家を監視するために、数機を細々と運用しているのみだ。
 高性能のレーダー類を装備するため、一機あたりにかかるコストは恐ろしく高い、等の原因に拠る。
 その早期警戒管制機は、他の電子戦機とともに『E』の任務記号が振られていたはずだ。

「諸君らも知ってのとおり、既に偵察機仕様の戦術機というものは、存在する。
偵察戦術機が、簡易ながら戦域管制を担っていた時代があることも、承知している者はいるだろう。
それを、より進めた物と思ってもらえばまず間違いは無い」

 滅多にお目にかからないだけで、概念自体は既に人類にとって当たり前の機体ということか。
 だが、機能は説明を受けるにつれて、より革新的なものだと思わされた。

 この機体は、新式の索敵システムと統合された火器管制コンピュータにより、高い遠距離戦能力を持つ。
(ちなみに純正航空機のほうのAWACSは、基本的に非武装だ)
 そしてデータリンクによって指揮下にある戦術機に、その能力を擬似的に付与できる。指揮下の戦術機は、送られてきた数字に従い、引き金を引くだけで命中率の高い遠距離砲撃が可能。
 旧式のF-4だろうと、データリンクが正常ならば、最新機並かそれ以上のアウトレンジ砲撃がやれるようになる。
 しかも、ただ一方的にデータを与えるだけじゃない。指揮下の機体のセンサーが捉えた情報もやはりデータリンクで吸い上げ、集積・分析するのだ。
 A中隊を苦しめたのは、まさにそれだった。

 俺はここで、陸海の支援砲撃部隊の事を思い出す。
 あれも、砲や支援艦にいちいち高度なレーダーや統制装置を装備させず、データリンクで射撃諸元を得ることで、個別の有効射程を超えた攻撃を可能にしていたな……。

 しかも、中距離戦においては味方を有利なポジションに誘導する機能も備える。
 指揮車と違い、戦術機戦に密着したタイムラグが短い指揮統制が可能だからだ。
 さすがに近距離格闘戦に入ると、分析と指示が追いつかずに無力化してしまうが。
 これも、敵にしたらどれほど厄介かは、先程体験した。
 ただでさえ戦闘中は視野狭窄に陥りがちで、冷静な時ならわかることもわからず、見落とさない事も見落としやすい。
 そこを突かれたら……。

 F-4主体のB中隊がXE-10を加えることで、F-15ファミリーとエースクラスという組み合わせのA中隊に善戦した。
 この結果は、瞠目に値する。

 かなりの割合で対BETA戦にも転用が利く能力だ。

 だが、メリットだけならとっくにどこかの前線で採用されているだろうな。
 恐らく、実戦化に二の足を踏むような問題があるんだろう。

 考えられるのは、やはりコストか?
 索敵装置と戦域管制機材っていうのは、ただでさえ高価だ。高性能なら、尚更に。
 いくら通常の戦術機に比べて大型とはいえ、限られた積載量しか持たない機体に組み入れられるほど小型化するのも、技術的に大変だろう。

『一機あれば、戦域にある戦術機隊の戦闘力を底上げできます・ただし、戦術機全機を新型にするよりコストがかかりますから』

 じゃあ、冗談の種にもなりはしない。

 それに、操作する人材の用意も大変だな。
 恐らく複座……もしかしたら三座型かもしれないが、衛士適性を持ちながら戦域オペレートができる技能を持った人材が必要だ。
(なぜかこの場には、XE-10の搭乗者はいなかった)
 そんな多芸なプロが、そうそういるとは思えない。

 戦った感触では、戦術機単体としての戦闘力は低そうだし。
 野戦なら、いちいち高精度狙撃するよりも、弾幕を張ったほうが確実だ。

 コストの割りに、意外と使い道がないのかもなぁ……。
 指揮車じゃ突入は自殺行為のハイヴ内で、戦術機部隊で完結した情報収集・指揮統制能力が要求されるような状況でもないと。
 あるいは、後方からの指揮が無理なほど、ひっちゃかめっちゃかな負け戦で司令部の臨時代役を務めるとか……?

 ……ここまで思考を進めて、俺はようやく気づいた。
 こいつは――それこそ、ハイヴ攻略用の戦術機なのか?
 一発一発の砲弾さえ無駄にできないような、兵站が厳しい戦いの場ならば、精度底上げにコストをかける意義が生まれる。
 戦術機と同等のスピードで動ける司令部の有用性は、言うまでもない。
 これまでは、いちいち進軍するたびに地上と繋がる有線通信網を敷かなければ、前後の連絡さえ覚束なかったのだから。
(ハイヴの構造材には、電波を遮断する物質が含まれているらしく、内側に入っての長距離無線通信は無理なのだ)

 だが、中佐のXE-10に対する説明は機能的なもののみで終わり、後はごく普通の訓練講評に入った。

 俺は、講評に意識を向けながら、頭の隅で考える。
 G弾を嫌っている者達は、戦術機によるハイヴ攻略を訴えている。
 が、具体的にどう攻略するか、についてはたいした事を言っていない。従来型の、何度も失敗した手順を頭数だけ増やして繰り返そう、とするだけだ。
 もし俺の予想が正しいのなら、そういった惰性的な話とは何か一線を画す動きがあるのかもしれない――しかも、ハイヴ攻略をG弾使用にシフトしたはずの、アメリカ軍側に。



 ――この時期の俺は、ある意味で『だれて』いた。
 かつては世界レベルの戦略について、訓練兵の身で上申までしたこともあったが。
 近頃は、一衛士に毛の生えた程度の仕事や訓練をこなすことに、すっかり慣れていた。
 国連軍の将兵としては好ましいかもしれないが、世界が……そして日本が陥る未来を(恐らく)知っている身としては、怠けていたと断じられるかもしれない。

 その事を自覚させられたのは、この模擬戦後に耳にするようになった、急激な国際社会の動きを知った時だった。





 帝都にある総理官邸の、次官級に割り当てられた事務連絡室は、厳重な盗聴対策が取られている以外はいたって質素であった。
 実用一点張りの執務机と通信設備、そして清潔なだけが取り得のソファー。
 そのソファーで、内閣の実務を担う各省庁の次官や、大臣補佐官が顔をつき合わせていた。

 城内省との連絡を担当する補佐官が、大きな息を吐く。

「……やっと、城内省は首を縦に振りました。『あの娘』はしかるべき時期を選び、在日国連軍の兵として召集されます。
その前に本人が帝国軍……まずありえないでしょうが斯衛軍に志願したとしても、名目をつけて国連軍に配属されるようにする手筈も、整っております」

 その存在や出生の秘密が表沙汰になれば、日本を数百年に渡り支配した武家の『闇』が白日の下に晒される娘。

 名を、御剣冥夜という。

 五摂家筆頭・煌武院家の直系に生まれながら、『世を分ける』として伝統的に忌まれた、双子の妹であったというだけで摂家から抹消された、悲運の娘。
 ただ古臭い伝統に従って家から追い出されただけなら、まだ『間引き』されなかっただけマシかもしれないが……。
 本家に残された姉の影武者として養育され、一生を束縛されることが確定している。
 むごい仕打ちであった。

 今の一般庶民が知れば、まず冥夜に同情したくなるような話だ。
 要するに、生まれによる差別をやめればいい。一定の確率で双子が生まれるのは当たり前の話で、呪いや凶兆などではないのだ。
 継承権の問題なら、姉妹の序列をはっきりとつければ済む。
 いくら五摂家筆頭とはいえ、昔ほどの権勢はなく、万が一家督争いが起こっても世の中を大乱に落とし込んだりはしない。
 実質的な国家統治権を持った政権の交代さえ、無血の選挙で済むのが現代の日本帝国。
 せいぜい、こんな時代でもしぶとく生き残っている三流ゴシップ誌の紙面を豊かにする程度だろう。

 が、価値観が幕藩時代で止まったままの武家達にとっては、血を流しかねないほどの大事だったのだ。

 実際に、冥夜を煌武院家から出す際に、

『迷信のために、暖かな家族の腕から目も開かぬ赤子を引き離すとは何事か』

 と考える武家は反発した。彼らと、保守的な武家の間で争いまで起こった。
 中には、冥夜の命を取れば争いの種にならぬ、と思い込み暗殺を企てる武家さえいた(さすがにこれは阻止されたが)。

 そんな、使い方次第では、時代の流れにしぶとく抗ってきた武家社会全体が吹っ飛びかねないジョーカー。
 本来なら完全に秘匿しておきたいはずの冥夜を、あろうことか国連軍に――より正確には、その中の日本発案秘密計画を担当する勢力に渡す。
 政治的効果は絶大であり、国連は日本帝国の『誠意』に疑いを挟む事はまずなくなるだろう。

 この一手のために、内閣は城内省に様々な譲歩を行った。
 元来、城内省は内閣の下部組織ではなく、名目上の帝国最高執政機関・元枢府の下で並立する存在。
 思い通りにするには、高くついた。
 冥夜の身の扱い以外にも、武家や城内省に求める工作がいくつもあり、それらにいちいち代価を払っているのだから、総計すれば凄まじい事になる。

 加えて、日本帝国の重鎮と呼べる層の娘達も、在日国連軍へ訓練兵という名目で差し出す。
 予定される『人質』の中には、内閣総理大臣の娘らも含まれていた。

 親の決断、あるいは立場のツケを何の責任もない(そして何も知らされていない)子供に回す、という意味では武家社会の悪しき慣習を笑えない態度だ。

 まさに背水の陣であった。

 オルタネイティヴ4の根幹は、乱暴にまとめてしまえば対BETA用諜報員の『製造』。
 日本案が、いわゆる軍事的パワーによるBETAへの大打撃、といった分かり易い困難打破に傾かなかったのは、『敵を知る』という要素を重大視したためだ。

 恐怖の根源は、無知である。破滅を呼ぶのもまた、無知だ。

 1973年のカシュガルへのBETA着陸ユニット落下の際、東側諸国が最初から国土を汚すのも厭わず、核飽和攻撃を仕掛けていたら?
 中国は世界中から賞賛されるどころか、国内外から『小心者』の批判と嘲笑の対象になっただろう。
 そして、着陸ユニットを早期処理しなければどうなるか、という教訓は得られず、カナダ・アサバスカにオリジナルハイヴが出現した可能性が高い。
 さらには、宇宙空間でのユニット迎撃システムの構築が遅れ、各地に次々とユニットが根を張り――人類はとっくに滅亡していた。
 カシュガルの時点で二次被害を省みない手を使っておけば……というのは、後から初めて言える事。

 未知の要素による判断ミスによるダメージを許容できるだけの力があれば、このように痛みを教訓に最悪の事態を回避できる。
 だが、今の人類には、同じレベルでの失敗をリカバーできる余地はほとんどない……。

 オルタネイティヴ4推進派の背中を、転倒寸前になるほど押しているのは、そんな危機感だった。

 強引に例えるのなら、病気の元や感染ルートを調べるようなもの。
 何もわからなければ、人はただ恐れて神仏やまじないに縋るしかない。
 が、原因がわかれば治療法は考案できるし、感染源を絶てる。
 そのようにして、人類は死病と呼ばれた多くの病を克服してきた。

 BETAとは本当は何者で、何を考え、どんな目的や行動規範をもっているのか? その背景は?
 正確なデータが確保できれば、もはやBETAは恐怖の存在ではなくなる。

 だが。
 環境を整えたとしても、オルタネイティヴ4を成功させるためにクリアしなければならないハードルは、あまりに高い。
 根幹理論自体が、まだまだ実証がされていない、オカルトじみたものである。
 野心的な試みにつきもののリスク、というにはあまりに過大な犠牲者を出さねばならない試算は、既に弾き出されていた。

 ――何の因果か、国連に対して政治的人質に差し出しす予定の者達の何割かは、オルタネイティヴ4が求める『実験体』としての資質も兼ね備えていた。
 ただの人質では済まない可能性は大きい……。

 第三者がもし全体像を把握すれば、オルタネイティヴ4推進派がそこまで思い切った事に、決断力よりも狂気を嗅ぎ取るだろう。
 特に、日本帝国あるいは世界各国を正攻法で纏め上げて効率的な体制へと刷新、人類の総力戦によってBETAに打ち勝とうと考えている者達にとっては、背信行為というべき部分さえあるのだ。
 いや……内閣や、内閣に繋がった協力者達自身が、事あるごとに、

『本当にここまでするしかないのか?』

 と自問するほどだ。

 世界を相手にする技量を備えた日本最高の政治・頭脳集団とはいえ、所詮は人間である。
 迷いもするし、過ちも犯す。徹頭徹尾、信念を持ち続けられる保証など、どこにもない。
 ここまで賭け金を張っておきながら失敗した時のリスクを想像すれば、揺らがないはずがないのだ。

 特に、思わぬ情報が飛び込んできた場合などには。

「……あれは本当かね? 地球外に、人類がそのまま移住できる可能性が高い惑星が発見された、という話は?」

 不安な面持ちを隠さず、話を変えたのは栗橋芳次郎・国防省次官だった。
 予算が成立するや否や、臨時戦力増強機候補としてEF-2000 タイフーンの試作機を『信じ難いほど迅速に』実験部隊向けに調達し、軍内で面目を施している栗橋だが、その顔色は冴えない。

 まだ人類がBETAの脅威に晒される前に実施された、ギリシア神話における神の名を冠した系外惑星探査計画『プロメテウス』。
 スタートは、1950年。
 それによって無限の宇宙の深奥に向けて放たれた、大型探査機イカロスⅠ。
 計画途上で通信が絶え、数十年前に行方知れずになったイカロスⅠから、数光年の距離を貫いて突如NASAに届いた信号。
 示されたのは、蛇遣い座バーナード星系に適合度AAの地球型系外惑星あり、というデータ。

 「帝国のCIA」といえる情報省から出向した補佐官が、厳しい表情でうなずいた。

 大東亜戦争以前、日本の情報機関は各省・各軍レベルで分割されており、めいめいが勝手な情報収集や工作を行っていた。
 結果、一部が己の都合のみで騒動を起こし、日本全体としての国際社会への外交戦略が破綻する、というような事態を何度も引き起こした。
 ある軍の情報機関が、アメリカの暗号を解読しながら、政府・他軍にまともに伝えぬ、という状況が当たり前だった。
 日本が、勝ち目の無い戦争に自ら突入した理由のひとつ。
 その反省から敗戦後の改革で、諜報関係の機能を情報省として一元化したのだ。
 これにより情報力と、国内外工作における戦略的統一性は飛躍的向上を見せており、地味ながら戦後日本帝国の大きな強みとなっていた。
(本家CIAのように、実像以上に能力を過大視され恐れられる、というおまけがついているが)

「はい。アメリカが都合よく発表の時期をずらした可能性はありますが……情報自体の信憑性はかなり高いかと。
このデータが示す物は、あまりに重大です。虚言だった場合に受けるダメージが大きすぎ、リスクに釣り合いません」

 これまで人類が必死の防戦を地球上で続けてきたのは、言うまでも無く逃げる場所などどこにも無いからだ。
 人種、イデオロギー、宗教対立……そういったものが、不十分にせよ棚上げできている理由。

 中東では、かつて何度も砲火を交わした事があるイスラエルとイスラム諸国軍が互いに背中を任せあい、スエズ運河へ決死の退却戦を戦っている最中だ。

 だが、人類移住が可能な星が他に存在する、となれば全人類レベルでの戦略が根本から変わる。
 それがデタラメであると判明したら、アメリカは袋叩きにあう。親米国家だろうと、容赦はしまい。
 アメリカ国内的にも、政権がもたない。
 あの国は、良くも悪くも民主主義国家の典型だ。
 最高権力者の大統領といえど不可侵の存在ではなく、国民の怒りには勝てない。選挙という鉄槌で、地べたに叩き落とされる。

 探査船からの信号は本物でも、発見という事自体は機材の故障だった、という可能性のほうがまだ高い。
 そして、地球型系外惑星の存在の真偽を追加調査する余力は、今の人類にはない……。

「この情報が民間レベルにまで広がれば、世界は大混乱に陥るでしょう。
今のところは、BETA情報と同等の機密レベルで情報統制がかけられておりますが」

 情報省補佐官の言葉に、列席する者達は一様に黙り込む。

 平和な時代であっても、驚天動地の出来事。
 今の世界に知られれば、大パニックに繋がるかもしれない。

 権力者や一部の富裕層だけが、BETAに侵蝕されつつあるこの星を見捨てて逃げ出すのではないか?
 そんな三文陰謀論雑誌に載る程度の疑心暗鬼ですら、笑って済ませられなくなる。

 あのイギリスですら、この情報はろくに掴んでいなかったらしく……ダウディング退役大将らが、泡を食って帰国の途についたのはつい先日だ。

 現実には、地球脱出計画を本気で考えるにしても、人間の尺度からすれば無限といっていい星の海をどう渡るのか? などの問題が厚く立ちふさがるのだが……。

「この情報を利用しようとするアクションは、必ず起こるはずだ。諸外国……特に、米国への諜報を強化しよう」

 内閣の要である官房実務を束ねる、官房副長官の一言で、この場は散開となった。

 ……実の所、その根拠や手段はともかく、精神的な境地において帝国のオルタネイティヴ4推進派と一番近しいのは、アメリカのG弾推進派だ。
 彼らは、気づいている。
 人類が練り上げてきた合理性というのは、所詮は同じ地球に生まれた身内を敵にしてきたもの。
 未曾有の危機に対処するには、やはり未曾有の手段を講じねばならない。
 良識、責任、誇り……そして大勢の命。それらを供物に捧げ、奇跡をこの現実に招喚する事が、人類生存の道である。

 既に、オルタネイティヴ3において人類は、生命の尊厳を踏みにじるに等しい行為に及んだ。
 人工的にESP発現を促した、遺伝操作された人間を生み出すという形で。
 発案と実行はソ連だが、支援や容認……最低でも黙認を与えたという面では、国連加盟国全てが共犯者だ。
 そこまでしても、BETAから勝利をもぎ取ることはできなかった。

 人類に残された余力からみて、今回のオルタネイティヴ4が、時間的に許された最後の打開策だ……。





 ――だが、オルタネイティヴ4派が、外部からは予想もつかない非情な手際で準備を整え、実施しているように。
 アメリカのG弾推進派の動きの素早さもまた、帝国側の推測を上回るものだった。

 各国首脳が、地球型系外惑星が実在する可能性に衝撃を受けている間に、G弾使用を根幹とするアメリカ発オルタネイティヴ計画案を国連に再提出。
 恒星間移民宇宙船の建造と、それによる人類の地球脱出の具体的実現性を伴ったプランを追加して、だ。

 これまで地道に研究されながらも使い道がなかった、BETAからの鹵獲技術(長距離宇宙航行分野)の利用により、現在の人類の力でも十分に恒星間移民は可能である、と。

 人類という種の生存の可能性を広げる地球脱出計画は、普遍的な説得力を持っていた。
 G弾の大量投入という、一度は却下された戦略との抱き合わせ、という点を差し引いても、だ。

 元々、現行の日本帝国案もまた、採用されたのが奇跡といえるほど極端な要素を持った計画であり……他国が出した競合案に打ち勝ったのは、国際社会の奇妙なパワーゲームの結果。
 荒唐無稽な日本案に、『他の案よりは、自国の負担が少ないであろうから』『日本帝国やその友好国についたほうが、利益が見込めるから』程度で賛同、あるいは黙認した国が大半。
 未知の爆弾であるG弾を使われるよりは、失敗時のリスクが小さいという理由のみで、日本案を支持した国も多い。
 本気で日本案に世界の命運を託したい国など――つまり、国連から割り振られた義務以上の援助を申し出る国など、ほとんどいないのだ。
 それゆえ日本帝国の内閣は、自国を弱体化させかねない手段まで使い、身を削ってオルタネイティヴ4に必要な状況を用意していた。

 ……アメリカ案を検討する国連本部の安全保障理事会、そして世界の代表が集う本会議で要した検討の時間は、事の重要性に比べて酷く短かった。

 一ヶ月強の議論の末、次期国連秘密計画・オルタネイティヴ5予備案に、アメリカ案を採用。

 名目こそ、現在進行中であるオルタネイティヴ4の顔を立てて予備とついているが、地球脱出用宇宙船建造の開始は即時ゴーサインが出た。
 事実上のオルタネイティヴ計画並立という異常事態になったのは、明白であった。


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