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No.30130の一覧
[0] TAKERUちゃん、SES!!(ALの並行世界モノ)[PN未定式](2011/12/26 09:53)
[1] 第二話[PN未定式](2011/10/16 18:12)
[2] 第三話[PN未定式](2011/10/25 17:35)
[3] 第四話[PN未定式](2011/10/31 07:40)
[4] 第五話[PN未定式](2011/11/15 18:31)
[5] 第六話[PN未定式](2011/11/16 07:16)
[6] 第七話[PN未定式](2011/11/23 20:20)
[7] 第八話[PN未定式](2011/12/23 10:46)
[8] 第九話[PN未定式](2011/12/16 15:39)
[9] 第十話[PN未定式](2011/12/12 09:37)
[10] 第十一話[PN未定式](2011/12/23 11:46)
[11] 第十二話[PN未定式](2011/12/27 08:57)
[12] 第十三話[PN未定式](2012/01/01 17:17)
[13] 第十四話[PN未定式](2012/01/12 19:36)
[14] 第十五話[PN未定式](2012/01/10 22:51)
[15] 第十六話[PN未定式](2012/02/11 11:42)
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[30130] 第二話
Name: PN未定式◆a56f9296 ID:70e25a94 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/16 18:12
 日本帝国の防空識別圏に、無数のアンノウンが進入。帝国軍のスクランブルを振り切り、第二帝都・東京に接近している。

 それが、俺に与えられた状況情報だった。
 日本帝国軍はもちろん、在日米・国連軍もその注意力のほとんどはBETAの足音迫る大陸側に向けられていたから、見事に虚を突かれた形だ。
 BETAの本土奇襲ではなかったのは、幸い――といっていいのかどうか……。

 間の悪いことに、元からいた帝国軍・在日米軍と新たに編成された在日国連軍の連絡や役割分担における調整は完了しておらず、それが混乱を呼んだ。
 仕方なく、各基地は個別レベルでの警戒を余儀なくされている。

 訓練兵も、防衛要員に組み込まれた。
 既に戦術機の実物を動かす訓練課程に入っており、かつ常に記録を塗り替えながら応用課程を終えようとしている俺は、未だ基礎動作段階の同期達とは別行動を命じられた。

 F-5 フリーダムファイターが、臨時に俺に与えられた機体だった。
 衛士教育の実機課程で使っているT-38 タロン練習機の、兄弟機だ。
 人類がBETAの侵攻を受けた初期に、それまで航空機に乗っていた空軍パイロットを新概念兵器・戦術機の衛士に転換させるために作られたT-38を、前線の戦術機不足に答えるため最低限の装備で送り出したロースペック機体。
 これだけ聞くといかにも泥縄の酷い話だが、意外な事に実際の戦場では名機として好評を得た。

 余計な装備を持たないゆえの軽量からくる運動性、経験の浅い兵にも使いやすい元練習機らしい良好な操作性、そして整備がしやすくコストも安いという実用面で優れていたからだ。
 戦術機という新たなジャンルに十分対応する暇もなくBETAとの死闘に放り込まれた前線にとっては、まさに救い主。
 基本設計にも優れていたため、多くの改良型が派生し、欧州次世代機の祖先ともなった。
 本来の用途である練習機としても多くの衛士を育てた事を考えると、人類への貢献度は最初の実用戦術機・F-4 ファントムと並ぶ双璧だ。

「兵器の優劣や価値は、スペックのみでは決まらない」

 という好例。
 どこぞのスペック至上主義……っていうかスペック信仰レベルにはいっているサムライの方々にも、しっかり学んで欲しいものだ。

 本来、特定国駐留の国連軍の装備はその誘致国(この場合はもちろん日本帝国だ)が負担するのが慣例(軍事的にも、装備を共有したほうが何かと有利)だが、過渡期ゆえに米軍保有の機体が書類上は国連軍に横滑りしているのだ。

 命令を受けた俺は、単機で横田基地管轄の、戦術機用演習場に移動した。
 戦術機が軍の主力となってから、住民に立ち退きを求めて米軍が確保した広大な敷地。帝国軍とも共有であり、在日国連軍にも開放されている。
 俺の目に、ところどころに転がされた瓦礫や大岩が見えた。それら障害物は、実践的な訓練のために外部からわざわざ運び込んだものだ。

 ――アンノウンの性質、規模が判明しないのでいざとなったら非戦闘員や基地近隣の住民を避難させる必要がある。その避難場所候補である演習場に移動し、安全確保に当たれ

 それが、俺に下された任務だ。
 訓練兵を使うのなら、適当な仕事だろう。

 俺は、演習場に到達すると手順どおりF-5のセンサーやレーダーを最大稼動にして、丹念にチェックしはじめた。
 天候は、夜明けの太陽が目に染みるほどの晴れ。風速、気温は日本の晩夏の平常値内。
 基地とのデータリンクは、正常だが。このF-5は、本来はスクラップになるか旧式機でも欲しがる国に輸出される番を倉庫で待っていたものを、急遽引っ張り出したものだ。
 出撃前に応急メンテナンスを受けて、きちんと動く事は整備兵が太鼓判を押してくれたが、やはり反応――特にアビオニクス関係の処理速度が物足りない。センサーがカバーしてくれる半径も狭い。
 因果情報内にある、最新鋭機の不知火と比べるほうが間違っているのはわかっちゃいるが……。

「ん?」

 サーチを続ける俺の網膜投影画面が、一瞬ノイズに満たされた。
 オリジナル武からの『払い戻し』に、自分で鍛えまくった動体視力を加えた目の良さがなければ、気づかなかったぐらい短いものだが……?

「気のせい……じゃないな」

 俺は、機体に自己診断プログラムを走らせようとした。

 途端に、首筋に針を突き立てられたような悪寒を感じた。
 それこそ錯覚かもしれないが、誰かに視線を向けられた気がしたのだ。
 俺は直感に従い、機体をすぐ傍にあった戦術機より大きな岩の陰に滑り込ませる。

 勘違いなら、非常に恥ずかしい行為だが……。
 次の刹那、俺の戦術機の肩があった場所を、太い火線が走り抜けた!

「っ!?」

 見慣れた戦術機の36ミリのものより、やや細い攻撃だった。
 俺の心臓が、タップダンスを踊り始める。
 いきなりかよ!?

 横田基地はじめとする、帝国軍やアメリカ軍の防衛線がこうも早くすり抜けられた、とは信じられなかったが。
 センサーが、IFF(敵味方識別装置)に反応しない存在を、今頃探知したのだ。

 岩陰からそっと頭部を出して、未確認存在を網膜投影画面に捉える。
 震動センサーにも感あり……地上あるいは地中から、ではなく。もっと上――空からだ。

「せ、戦闘ヘリ!?」

 ヒューイ・コブラ。
 アメリカ製の人類初の本格戦闘ヘリで、世界中で対BETAへの航空支援に活用されている(出撃はまず光線属種が排除されてから、だが)。対人戦でも手強い相手だ。
 こいつがさっきの攻撃をかけてきたのか? 武装を20ミリガトリング砲に換装した後期型っぽいが。
 つまり、テロリストだかなんだかに奪われたヘリってことか? それとも、日本を攻撃したいどこかの外国の?
 いずれにせよ、アメリカに日本攻撃をそそのかすような話を口にしていた俺にとっては、皮肉な展開になったな。
 とりあえずヘリを攻撃して……。

 いや、感じる視線はこいつからだけじゃねえ! 俺は、ヘリに囚われそうになる意識を、四方へ散らした。

 対人戦・対BETA戦に共通する戦闘の鉄則。目の前の敵が全てだと思うな。

「……ちっ、やっぱりか」

 ヘリが出現したのとは、方位が六十度ほど外れた場所の地上に、巨大な人型の影が二つ出現した。ファントムタイプの戦術機、それも突撃砲を両腕持ちした完全武装だ。これも、IFFに無反応。

「おいおい、まさか……」

 いつの間にか、基地とのデータリンクも切断されている。何度繋ぎなおしても、駄目だ。
 横田基地が、いくらなんでもこう短時間で壊滅するはずがない、とは思うが……。
 はずがない、という思い込みも戦いじゃ通用しない。と、いうかまともに知能がある奴が相手なら、こちらの盲点を狙ってくるものだ。

「――やるしかねえ!」

 俺は、汗ばむ手でレバーを握りなおした。非戦闘員及び民間人避難場所の、安全確保任務。なら、最低でもヘリと戦術機を無力化しないと駄目だ。
 F-5の装備は、対人用のC装備。推進剤と弾薬は、たっぷりとある。米軍装備だから、長刀はないが。

 ヘリが、機体を傾けるようにしてこちらへ曲線を描くように接近してきた。岩の裏側に回りこむつもりだ。
 高度は相手のほうがあるから、射撃戦になれば不利。かといって、ブーストジャンプで飛び上がれば、恐らくファントム二機がカモ撃ちを仕掛けてくるだろう。

「…………よし」

 この場で、あっさりと殺されるかもしれない。ろくに何もできないうちから……。
 そんな恐怖が湧き上がるが、同時に「負けてたまるか」という気持ちも出てくる。
 地獄のような修羅場をくぐってきたオリジナル武の戦いに比べたら、お遊びみたいなもんだ。

 ヘリのローター音が、急速に近づいてくる。だが、俺は機体を動かさなかった。
 風防ガラス越しにヘリパイロットのシルエットさえ伺える距離になっても、まだ俺の指先は静止したまま。

 ヘリがけん制のためか20ミリ機関砲を放ってくるが、俺は無視した。有効射程外だ。
 着弾は、かなり離れた箇所で、せいぜい跳ね上げた土が外装を汚す程度。
 こちらは36ミリ突撃砲をもっている。20ミリの必中距離より、こちらのそれのほうが長いことはヘリパイロットも承知しているはずだ。
 と、なれば次の手は。

 俺は、頭の中で敵の動きを想像し、自分の行動をイメージする。

「動き回るだけが、能じゃねえだろ……!」

 自分に言い聞かせながら、唇を舐めた。
 それこそオリジナル武が駆った吹雪や不知火ように第三世代機と最新CPU及び新型OSの組み合わせ、というのなら格別だろうが。
 ヘリに頭を抑えられ、こちらと同等かそれ以上の性能を持つファントムが最低二機はいる、となると迂闊な動きは即アウトだ。

 業を煮やしたヘリが、空中で静止状態に入る。そして、機体の左右に搭載された、四発のロケット弾を一斉に放った。
 ロケット弾は機関砲より射程が長く、威力も大きい。戦術機の比較的薄い装甲はもちろん、当たり所によっては重装甲の戦車ですら一発だ。

 だが、この攻撃こそ俺が待ち構えていたものだった。
 俺は、ロケット弾が放たれた瞬間にフットペダルを蹴り込んでF-5のジャンプユニット出力を全開にする。
 同時に、戦術機の足で背にしていた大岩を蹴りつける。
 ジャンプユニットの推力と、蹴る力の反動を合成させ、スペック以上の鋭さで宙に跳ね飛んだ。

「ぐううううううっ!」

 管制ユニットと衛士強化装備の保護機能をもってしても、全身が捻じ曲がるような重圧がかかる。鍛えぬいた俺の体でさえ、痛みという悲鳴を猛烈に上げるほどだ。
 直後、ロケット弾が炸裂した。背後で、爆風と炎が一緒くたになって吹き上がる。
 機体性能の限界を超えて逃れた俺の機体にダメージはなかったが、これで敵のセンサーは数秒は妨害されるはず。
 上昇途中で、突撃砲を発砲。36ミリをフルオートでヘリに叩き込む。
 こちらが激しく動いているため、全弾命中とはいかないが、無装甲に等しいヘリなら至近弾でも戦闘不能になる。手ごたえはあった。
 ヘリの撃破を確認する暇も惜しんで、手足の筋肉を酷使し姿勢制御操作に入る。

 今度は、ジャンプユニットの噴射口を空に向けて、全力噴射だ。
 噴射跳躍プラス、反転降下。
 戦術機機動の中では比較的ポピュラーだが、衛士や機体にかかる負担が大きいため、実戦で使う者は余り多くない。

 アメリカ軍が第二世代機開発の前提として行ったBETA研究の成果の一つに、

『光線属種のレーザー照射の、その初期照射から本格照射に入るまでのタイムラグや、一回照射を終えてからの再照射までの間隔』

 を利用することで、光速で飛んでくるレーザーも回避できる、という概念がある。
 この場合の回避というのは、破壊力ある照射を避けるという意味で、初期照射はさすがにどうやってもかわせないがな。
 これに従い数秒だけ空中に浮かび上がり、光線属種が狙いをつけた途端に地上に逃げ、空撃ちさせるのだ。
 今回俺が使った機動は、それと同じものだ。外したいのは、レーザーではなく待ち構えているファントムの狙いだが。

 ファントム二機は、俺が降下を始めた時には、左右に散開していた。
 爆炎を背にした俺の機体は、熱探知他のセンサーからは消えた状態になっているはずだが、確認できるまで待ったりする様子はない。

「ちっ!」

 俺は舌打ちした。
 馬鹿みたいに棒立ちになってくれることを期待したんだが、どうやら敵の戦術機乗りは相応に手練らしい。判断はええ!
 だが、混乱しているのは確かなようだ。特に右手側の奴は、動き自体は直線的だ。

 俺は、着地した機体の制御が戻る(この時期のOSは、余計なお世話と思えるほど自動操縦が働く割合が多い。恐らく衛士の世界的な訓練状況悪化への対策なんだろうが)のと同時に、右手側に逃げたファントムに照準を合わせた。
 網膜投影画面にインサートしたターゲットから、少し外れた場所に120ミリ砲弾を発射する。未来位置を予測した射撃だ。
 狙い通り、ファントムは自分から砲弾にぶつかるような形で、直撃を受けてくれた。
 目を一瞬、強い閃光が焼く。
 いくら重装甲のファントムでも、大型の装弾筒付翼安定徹甲弾を喰らっては耐えられない。爆発がやけに綺麗な真円を描く。

 撃破の余韻に浸る間もなく、俺はF-5を短距離跳躍で飛ばした。関節各部の駆動音が、肌に響く。
 最後の敵――ファントムが、復讐の念を現すようにセンサーを光らせてこちらへ突進してくる。

「マジか!?」

 俺は、思わず『白銀語』をわめいてしまった。
 オリジナルがループした世界では、発生しなかったか、それとも歴史の流れのなかで消えてしまったかして、『武』しか口にしなかった言葉だ。

 追跡してくるファントムは、転倒しそうなほど体全体を前傾させていた。
 直立状態からわざと極端にバランスを崩し、その位置エネルギーを前進力に転化する――第三世代機あたりなら、自動補助でOSが当たり前にやってくれる行動だが、元が重装甲のファントムだとかなり難易度が高くなる機動制御。
 少なくともOSは最新レベルにまでアップグレードしたものなのか、それとも衛士の腕か。
 単なる運動性なら相手に勝っているはずのF-5に、あっさりと追いついてくる。被ロックオン警告音が、俺の鼓膜を乱暴に叩いた。

 俺は咄嗟に、右ジャンプユニットだけを吹かして跳躍した。横ロールした機体のすぐそばを、36ミリ砲弾が走り抜ける。

 ――ただのテロリストじゃねえ……教官か、教導隊クラスか?

 回る視界の中で、俺は戦慄を覚えながら思考する。同時に、ちりちりとした違和感も湧き上がってきた。
 機体の平衡を取り戻して足から着地すると、俺は兵器担架に指示を送った。
 第三あるいは第四の腕といわれる背中の兵器担架は、搭載した突撃砲を独立・自律で扱う事が可能だ。戦術機にとって、背後をとられるチェックシックスは、必ずしも不利を意味しない。

 が、相手は当然のようにそれを承知しているらしい。深追いを避けるように手近な瓦礫の陰に飛び込んだ。
 ファントムが視界から消える際、その背中の兵器担架の装備を、辛うじて目視できた。
 俺は機体を旋回させ、瓦礫に向かって突進する。
 右あるいは左から出てくるのか、それとも陰でこちらを待ち伏せか?
 相手の行動を予測する俺の脳裏に、電流にも似た直感からの忠告が走る。それに従い、ある命令を機体に送り込んだ。
 次の瞬間、センサーが敵影を捉え直す。

 ――上だ!

 ファントムの重いはずの機体が、瓦礫を飛び越え鋭く跳躍していた。そして、背中の長刀――つまり、純正のF-4ではなく前線国家向け改修機だったのだ――を抜きながら、俺目掛けて落下してくる。
 俺は、むしろ自分から相手にぶつかっていくようにブーストジャンプをかけた。
 F-5の腕に今までもっていた突撃砲は先ほどの操作で既に排除し、両手には膝から引き抜いたばかりのナイフを持たせてある。

 長刀とナイフ。斬り合いになれば、こちらが圧倒的に不利だ……まともに遣り合えば。
 だが、長刀は意外と取り回しが難しく、銃より射程が圧倒的に短い・懐に飛び込まれれば却って威力の発揮しようがない、という武器なのだ。
 臆せず突っ込めば、むしろナイフのほうが有効な場合もある。

 さっきちらっと見えた長刀を相手が使ってくるとは限らなかったが、賭けに勝った!
 そう確信しながら、俺は空中で右のナイフを突き出して相手の長刀振り下ろしを妨害しつつ、左のナイフを胸部と胴体の装甲の隙間に叩き込んだ。



「――状況、終了。全機、支援車両到着まで、その場で待機せよ。白銀武訓練兵に対する『最終試験』は、これまでとする」

 ファントムを空中で仕留め、着地した俺は、すぐさま新手がいないか警戒に入った。それから十秒ほどたって、こんな通信が入った。

「やっぱりそうか……」

 俺は、体に溜まった緊張と疲労を吐き出すように、深呼吸した。
 網膜投影画面が、一瞬ブレる。視界に、『無傷』のファントム二機とホバリングするヘリが映る。音声情報その他も、『正常』に戻った。

 途中から機体情報が全て、リアルに仮想情報を衛士に送り込む統合仮想情報演習システム――JIVES(ジャイブス)からの偽情報を加えたもの摩り替わっていたのだ。

 敵機の爆発があまりに綺麗過ぎたことあたりが、違和感の正体だった。普通なら、弾薬の誘爆や可燃物への引火で、いびつな形になるはずだ。
 それに後から考えると、敵から俗に言う殺気みたいな、ぎらついたものが全く感じられなかった。日本帝国に侵入するほど気合の入った相手にしては、不自然だ。

 ほどなく、網膜投影画面中央に、俺の訓練教官の顔が映る。
 横浜基地のように、(恐らく機密保持の必要もあって)一人の軍曹が全部仕切る方式ではなく、米軍から国連軍に横滑りした教官らの分業型だから戦術機課程の専門教官だ。
 ちなみに、難民としてアメリカ軍に入った現場叩き上げの苦労人……の、割りに見た目は金髪碧眼と白磁のような肌、果実のようなけっこうなお胸をお持ちの二十代後半の北欧美人だ。
 俺と戦ったファントムのどちらか――恐らく手強いほうに乗っていたのだろう。衛士強化装備姿。
 禁欲モードが長いせいもあって、思わず生唾を飲み込みかける俺だが、なんとか殊勝な顔を作って見せる。

「いきなりの戦闘、しかもヘリ含みの変則的な敵を相手に、無傷で圧勝か。もう少し、苦戦してくれると思ったのだがな。可愛げのない奴だな、スーパー・エリート・ソルジャー殿?」

「はっ!」

 いろいろ言いたい事はあるが、軍隊ってのは基本的に理不尽を兵に要求する。これぐらい、可愛い部類だ。
 ……正直、見た目の結果ほど楽な戦いじゃなかったけどな。オリジナルからの払い戻しに加えて、きちんと実力をつけていなかったら、どうなっていたか……。

「詳しい講評は後だが、結論だけ先にいっておく。白銀武訓練兵」

「…………」

「もう、我々が貴様に教えることは何も無い。訓練部隊中、一人だけ前倒し、というのは異例の事だが、貴様は三日後に正式に少尉任官が認められる」

 俺は、思わず頬を緩めた。
 遠い目標への第一歩を、やっと踏み出せたのだ。
 私的なコネによる『提案』など、所詮は物好きな将軍の好意に甘えた与太話に過ぎない。
 俺自身が、れっきとした地位を築かなければ、大勢の人間など動かせないのが、世の中だ。

 思わず、目頭が熱くなる。俺なりに、相応に苦心を重ねてやってきた鍛錬が見える形で実を結んだのだから。

「貴様でも、人前で泣く事があるんだな」

 教官が、からかった。思えば、俺はいつも隙を見せないようにしていたから、軽口を向けられるのも始めてだったのかもしれない。
 ……ってか、人前「以外では」孤独と辛さに泣いていたことお見通しだったのか。

 俺は、涙を拭うと通信画面越しに教官に敬礼した。


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